second stage 疾風炎嵐


#バズリンアイドル
#豪華炎乱
#ヴァンド
#バズリン_ジュノフェス


 会場に灯されていた照明とモニターが、非常灯だけを残してふつりと落とされる。
 訪れるのは静寂と、息を押し殺す気配。薄闇の中で、唐紅のペンライトが、ゆらゆらちらちらと揺れている。
 ナゴヤ公演で用意されたステージは二つ。メインモニターの前に置かれた二段式のメインステージと、会場のど真ん中に置かれた円形状のセンターステージ。メインステージには一段目と二段目が自由に行き来できるように大階段が設置されている。メインとセンターを結ぶ形で作られた通路も、楽曲によってはステージ扱いとなる。
 照明が消えてからしばらくして、黒いままのモニターにちらちらと星粒に似た映像が現れた。タランタッタ、タランタッタと軽快なピアノの音に合わせて、ひょっこりと白くて大きな毛玉のアニメーションが現れる。つぶらな黒い瞳とくちばし、もふもふとした白い羽根と長い尾羽。ヴァンドがグリーティングやグッズで出している、シマエナガ。愛称エナガちゃんだ。
 アニメーションバージョンのエナガちゃんは、画面越しから観客の火種たちをじっと見つめたあと、首を傾げる動作をしてから横を向き、モニターの端へと歩いて消えていった。かと思えば、消えた方とは反対側の端っこから顔だけにょきっと現したり、上からぶら下がる形で現れたりと四方八方から好き勝手出てくる。
 時々、【携帯電話、各種電子機器の電源はお切りください】【扇子を振るときは周囲の人にぶつけないよう気をつけてください】【ペンライトは胸の位置でお願いします】【全席禁煙です】【会場内での飲酒はおやめください】【毎年五月十日から五月十六日は愛鳥週間です】と書かれた立て札を持って火種に見せていた。
 そして、また暗い画面に戻った時、スポットライトがメインステージの二段目に当てられた。
 白くて大きな姿が、光に照らされている。
 着ぐるみサイズのエナガちゃんが、二段目の端っこから火種たちを見ていた。
 キョロキョロと何かをさがす素振りを見せたエナガちゃんは、ひょこひょことステージの中央へ向かって歩き出す。

「〈アヌビス……? おーい! アヌビスやーい! 菩薩様ー! 係長ー! どこーー⁉〉」

 中央でぴたりと立ち止まり、うーんと首を傾げる。

「〈おかしいなあー、待ち合わせ場所間違えたー? ここ、ナゴヤだよねえー?〉」

 エナガちゃんが問いかけると、火種の中から肯定するようにペンライトが振られる。

「〈だよねえ、ナゴヤだよねえ。さっき、シャチ見たもーん。金色のシャチ。あ! まさかとは思うけど、みんなジュノフェスの方に行ってるんじゃないでしょうね⁉ ずるいんだーーーー! ボクだってジュノフェス行きたかったのにーーーーーーーーーー!〉」

 エナガちゃんは、ステージの中央でばんばんと跳び跳ねた後、よよよと泣き崩れるようにして足を折った。

「〈【俺】の推しが………………!〉」

「〈こらーーーーーーーー!〉」

 エナガちゃんが泣き崩れ、恨み言を吐いた時であった。
 暑苦しい声が、センターステージから会場に広がっていく。
 火種がそちらに視線を向けると、アヌビスがそこにいた。

「〈中の人の事情を言うんじゃありません!〉」

「〈アヌビスーーーー! あれー? なんでセンターにいるのー?〉」

「〈センター集合って言ったでしょう!〉」

「〈センターだけじゃ、シブヤにも行っちゃうじゃん! あ! センターストリートコーヒーハウスもあるよ!〉」

「〈それは、マイハマじゃああああああ! いいからこっちに来なさい! みんなお待ちですよ!〉」

「〈はいはーい〉」

 気の抜けた返事をしたところで、エナガがぴたりと動きを止める。

「〈ああああ! アヌビスどうしよう! ボク、一人で立ち上がれないんだったー!〉」

「〈ああもう! だから【予定に無い行動をするなよ!】っていつも言ってるのーーーー! しょうがねえ大福だなあー。ちょっと待ってろよー、今行くから〉」

「〈うん、待ってるー〉」

「〈絶対動くなよー〉」

「〈了解、ようかーい〉」

 一羽と一人(一匹)を照らしていたライトが消える。
 ステージの上には静寂が戻り、暗い画面に再び白い毛玉が現れた。
 ちょこんとお座りした毛玉の傍らに、四角い葛籠(つづら)が置かれている。
 舌切りすずめで有名な、あの葛籠だ。

「〈ねえ、アヌビスー〉」

「〈なーにー?〉」

「〈この箱なーに? 開けていいー?〉」

「〈不審物に手を出すんじゃありません!〉」

 アヌビスの注意を無視して、エナガちゃんは「いいよねえ?」という表情を火種たちに向けた後、えいっと葛籠の箱を開けた。
 葛籠の中から、白い煙がぼわっと溢れだし、モニターを埋め尽くす。
 メインステージとセンターステージも、白いスモークに包まれた。
 モニターの中では、エナガちゃんが悲鳴をあげる様子が映り、スピーカーからはケラケラと嘲笑う亡者たちの歓喜に満ちた声が響いてる。
 亡者の歓声が頂点に達すると、ステージ上のスモークの中から焼け焦げた白装束を着た亡者たちが躍り出る。亡者はステージだけでなく、一階席の通路にも現れたらしく、火種の中から悲鳴と歓声が上がった。

「〈アヌビスたいへーん! 地獄に居る亡者が逃げ出してるー!〉」

「〈お前、なにしてくれてんのーーーー⁉ 係長に殺されるぞ、バカ! 見つかる前に食え!〉」

「〈もう遅い〉」

 ひやりとした声音が、会場の空気を震えさせる。
 モニターの中のエナガちゃんと、声だけ聞こえるアヌビスが「ひぃ!」と息を呑む。
 センターステージに立つ獄卒姿の少年に、アヌビスを照らしてたライトが灯される。
 ダリアの花と花弁を散らした華やかな柄の黒い着物を着こなしているのは、ヴァンドのエースであり、ヴァンドの鬼、鬼直哉だ。

「〈騒がしいと思って様子を見に来てみれば…………なんですかこの様は。地獄の者でありながら情けないですよ、エナガさんアヌビスさん〉」

「〈ごめんなさーい〉」

「〈オレは関係ないです!〉」

 直哉は、帯に差し込んでいた扇子を抜き取り、ふらふらと近くに寄ってきた亡者の頬を叩いた。

「〈まあ、起こってしまった事は仕方ありませんね。地獄へ戻すだけです。……いいですよね、菩薩様〉」

「〈地獄のことは、地獄の者たちに任せるよ〉」

 センターステージに樹が姿を見せる。直哉と対になる出で立ちで、ダリアの花と花弁を散らした白い着物を身に着けていた。
 スポットライトが二つに増え、ステージの縁ギリギリに立つ少年二人をそれぞれ照らす。
 火種の中から、ステージに立つ少年二人に向けて声援と歓声が送られた。
 通路やステージに在る亡者たちが、行き場を見失ったようにうろうろと歩き回る。

「〈亡者の人数が少し多いようだけど、大丈夫?〉」

「〈問題無し。地獄の者は、獄卒だけとは限らない。──地獄から逃げ出した亡者共。その身を焦がし、その魂(こころ)を燃やし、灰になるといい。身軽になったところで、俺の風で地獄に落としてやりましょう〉」

 直哉は、開いていた扇子を火種たちに向けて差し出す。

「〈──この場にいる現世のみなさんは気をつけて。地獄の業火は、容赦がないから。亡者だと思われて火をつけられないように〉」

 樹も直哉に倣って、帯から扇子を引き抜き、火種たちに差し出した。

「〈火種のみなさん、お待たせしました〉」

「〈扇子を振る準備はよろしいですか?〉」

 非常灯を残して、モニターと照明が消える。
 それから瞬く間もなく、メインステージとセンターステージを包む形で、火花が噴き上がった。

《幾千の刻過ぎて 朽ちること知らぬ》
《この身は 未だ穢れに》
《縛られて 苛まれ》

 重厚がありつつも曲調の早い音楽が流れ、その音に男の低音が丁寧にのせられていく。ライブでは必ず歌われる曲のサビ部分。男の力の低音を、別の音が重くなりすぎないように柔らかく包んでいく。
 火花に包まれたメインステージの二段目に、長身の影が二つ現れていた。片方は、西洋の伯爵貴族の装いで、片方はナポレオン時代の騎士の装いだ。
 薄闇だった会場は、今は赤い色の照明を中心に、豪華炎乱のカラーで用意されたライトやレーザーが火種たちが集まる客席やステージの上を駆け回る。
 暗かった大きなモニターにはステージの様子が映されて、ツアーの主役が華麗に踊る姿が流れている。
 闇から一転して、目に痛いほどの光に包まれた中で、大人二人は扇子を片手に前を見据えて、一糸乱れぬ振りつけを見せた。
 二つ目のサビに入ったところで、二人が大階段を降り、メインステージへと足をつける。
 二段目のステージには、先程までセンターステージに居た少年三人が現れ、大人の歌声と音楽に合わせ、大人に負けないとばかりに扇子を振るい、ステップを踏む。
 着物の上に羽織った羽織が、動く度にひらひらと揺れる。
 火種の歓声が音楽に被さり、会場の空気がびりびりと震えた。

《何時までも果てないで この地に留まる》
《愚かな 罪人たちの》
《終わらぬ 啼泣》
《明日は我が身と 嘲笑う》

 最後のサビも歌い上げた業火の化身に、火種が惜しみ無く扇子とペンライトを振る。唐紅が揺れる様は、灯籠に灯された火のようだ。
「もう一曲行くぞーーーーーー!」
 一度決めたポーズを解き、豪華炎乱のリーダー榊雅臣が声を張り上げ、扇子を持つ手で天を衝く。
 火種が弾け、びりびりと会場が震える中、前奏が無い二曲目が流れた。

《月夜の下で咲く 可憐な花》
《見つめるのは 虎狼な男》
《斬り捨てよう 私の剣で》

 激しいダンスナンバーから、クラシック調の音楽に春高が言霊を一音一音丁寧に乗せていく。
 演出も、地獄の業火から一転して静寂に包まれた夜の演出へと変化した。
 ファントム×ナイトで披露した、豪華炎乱の怪盗騎士。雅臣が怪盗で、春高が騎士。その配役にしたのかという理由は特にない。
 イベント時は対戦することもなく、披露したものも対戦形式に合わせたものだった。せっかく作った曲と衣装だからと言って、歌劇風にアレンジしてツアーで完全版を披露しているのだ。
 お互いに惹かれている姫と騎士。そこに割り込む、姫を拐うよう貴族から依頼を受けた怪盗。
 伯爵貴族に化けた怪盗は、姫を城の外へ興味を惹かせ耳に心地よい言葉を繰り返し、外への警戒心を緩くさせる。一方、騎士は姫が城の外へ行かないように、時には厳しく、時には縋る物言いで、姫の心を守ろうとする。城の中で育った姫は好奇心に負けて、月夜の晩に外へ誘いに来た怪盗の手を取りそうになったところで、騎士が止めに来る。怪盗と騎士の戦いは熾烈を極め、結末を迎える前に歌は終わる。二人の結末は、聴くものに委ねた形だ。
 ステージに立つ二人は、腰にある自分の剣を引き抜き、歌いながらも剣を舞わせる。派手に動いても音がぶれることはない。
 怪盗と騎士の歌が後半に進むにつれて、演出もライトとモニターを総動員して盛り上げていく。
 それにつられて、火種たちもその身を弾けさせ、ぶんぶんとペンライトと扇子を振っていた。

 ◆  ◆  ◆

 ぱらぱらと、ダリアの花弁を模した銀テープが会場に降り注ぐ。本物の花弁よりも大きめに作られたそれは、赤と橙色に明滅する照明に照らされながら、ステージに立つ演者の姿もちらちらと写しながら床へと落ちた。唐紅のペンライトが、波打つように振られている。
 たった今、ジュノーフェスに合わせて作られた豪華炎乱の新曲を披露したところだった。
「銀テは責任持って、みんなで持って帰ってねえ!」という雅臣(ボス)の緩い言葉を聞きながら、樹はセンターステージとメインステージを繋ぐ細い通路(ステージ)で立ち止まったままの直哉に声をかける。

「直ちゃん、どうしたの?」

 ぴくりと反応した鬼は、花弁を模した銀テを摘まんだまま「なんでもない」と笑みを見せた。

「ジュノフェス、今何やってるかなあって思ってただけ」

「グリーティングとかしてるんじゃない? なんでもないなら、籠のダリア早くばら蒔いてあげなよ。火種さんたち待ってるよ」

「はいはい」

 豪華炎乱が本日扇子部隊に与えた仕事の一つが、新曲披露の後ダリアの花弁を模した銀テをばら蒔くことだった。

「一部が終わったら俺たちのMCだよ。準備できてる?」

「できてますー」

 直哉はそう言い返すと、ステージから近い火種たちに向けて籠のダリアをばら蒔きながら、メインステージへ向けて歩き出した。


「さあさあ、火種の諸君! 一部ももう終わりの時間だけど、公演楽しんでくれてるかなー⁉」

 雅臣が、メインステージの一段目に立ち、公演に訪れた観客に向けて言葉を投げた。
 怪盗騎士のあと、一度短いMCを挟んでから、昨年出したアルバムのリード曲やファンからのリクエスト曲等を三曲フルで歌って躍り、それでもなお疲れた様子は見せていない。春高も同じでにこやかに笑いながら、手をひらひらと振っていた。

「今年度からの扇子部隊はどうかな? なかなか才能ある子たちでしょう?」

「昨年から唾つけといて正解だったね!」

 いい歳した大人たちが、きゃっきゃと会話を交わす。
 豪華炎乱の後方で控える少年三人は、公演もまだ半分残っているというのに少しだけ疲れた様子を見せていた。
 大人の会話に樹が口を挟む。

「アイドルが唾つけたとか言わないでください」

「元気だね、ジジイ。休みくれ」

 直哉の素直な感想が、マイクを通して会場に伝わる。
「舞台(ここで)ジジイって言わない」と、隣にいた大が直哉の脇腹を小突いた。

「まあ、ぶっちゃけ、そろそろ給水タイム欲しいのは確かだな、うん!」

「オープニングから、怪盗騎士以外出っぱなしだもんね」

「適度な休憩くれないと、うちのマネに怒ってもらいますからね」

 ミーティングの時と同じノリで、三者三様の言葉が会場に響いていく。
「いつでもどこでも好き勝手言う子たちだなあ」と、雅臣は呆れ顔を見せつつも、楽しそうに言葉を返す。
 その間に、春高がステージの縁へ移動し、下にいるスタッフから風呂敷で包まれた大きな荷物を受け取っていた。

「ぶーぶー言ってると、素敵なプレゼントあげないよー!」

「自分で【素敵】って言うんだ」

「なんかこえーな」

「物によっては、クーリングオフしていいですか?」

「残念でしたー! 物じゃないんですー! ハルー!」

「はーい」

 春高は大きな包みを抱えて戻ってくると、ヴァンドのリーダーに押しつけた。

「なんですか、これ! 軽重い……!」

 包みの大きさは両腕で抱えないと持てないくらいだが、大きさに反してやけに軽い。けれど、そこそこの重みは感じると樹は説明する。
 リーダーの煮えきらない答えに、大が「どっちだよ!」と突っ込みを入れた。

「貸してー。俺が開けるー」

「ここで開けんの⁉ いいの⁉」

「いいよー」

「開けてごらん?」

 大人に促され、直哉がいそいそと風呂敷の結び目を解く。
 中から出てきたのは、テレビのトーク番組で見たことがあるカラフルな色で塗られたサイコロだ。サイコロ一面につき、一個ずつ曲のタイトルと持ち主の名前が書かれている。
「え?」「何これ?」と戸惑う少年たちの姿が大きなモニターに映されているのを見て、火種からステージ周辺にいるスタッフからクスクスと笑う声が漏れた。

「はい、じゃあ種明かしの時間でーす!」

「豪華炎乱十八周年の春ツアーは、七月十九日が千秋楽です。さて、大ちゃん。その日は何の日でしょうか?」

 前触れもなく春高に問われ、大は「えー」と首を捻る。

「海の日になるはずだった日」

 毎年、七月の第三月曜日は海の日で祝日なのだが、今年は二十二日に制定されていて、祝日になるはずだった十九日は平日なのである。
「当たりといえば当たりだけど、プレゼント的には外れだね」と春高が苦笑を見せた。

「正解は、君たちの正式結成日です」

「この子達、来月で一周年迎えるんだよ! おめでたいねえ! ということで、僕たちからサプライズ!」

 千秋楽である七月十九日。ライブの中である扇子部隊のMCの時間、一曲フルで歌っていいよ。
 雅臣が朗らかな笑みを見せながら、プレゼントの内容を告げる。
 扇子部隊は、豪華炎乱の専属バックダンサー。MCを任されることはあっても、主役となって前に出て歌って踊ることはない。
 初めて参加した全国ツアーで、一人も倒れることなく公演についてきた三人を大人二人は誉めちぎる。
 子どもたちはプレゼントの中身を理解するまで、まばたきを繰り返した。

「そういうわけだからクーリングオフはさせないし、さっそくサイコロ使って当日披露する曲を決めようねえ!」

「ああ、だから曲のタイトルが書かれてるのか」

「書かれてるのはいいんだけど、やった事ない曲名があるんだけど……」

 納得する直哉の隣で、樹と大はほほをひきつらせる。

「ごうえんの【業火の華】と【さくらひらひら】と、鬼頭さんの【海原】はやったことあるからいいとして、【籠目の星】はまだ未完成……」

「ていうか、一回くらししか練習したことねえべ! 残り二面を埋める要員で、ハヤラスとキャガレイの名前ガムテに書いて貼り付けてあるのどういうチョイスだ! 火種さんたちの前でよその曲やる勇気ねえぞ!」

「籠目って鬼頭さんのファーストシングルじゃん。許可貰ってるの?」

 直哉の問いに、雅臣が胸を張って答える。

「既に貰ってるから安心していいよ!」

「つまり…………この場に居る大人全員グルってことか」

 直哉のひややかな視線が舞台袖に向けられた。

「ほらほら、さっさとふらないと、給水タイム無くなっちゃうよ」

「誰か代表でふりなさい」と春高が手を叩いてうながす。
 獣三人は顔を見合わせた。
「俺でいい?」と、直哉が立候補する。
「まあいいんじゃない?」「ちょっと心配だけどな」と、二人は一周年当日の運命を直哉に任せた。

「なにがでぇーるかなーーーー?」

 メインステージの舞台袖に向けて、キャッチボールでもしてるかのように力一杯投げる。
 カメラが慌ててついていく。
「砲丸投げみたいに投げなくてもよくない⁉」という声を背にしつつ、直哉が投げたサイコロはあっという間に舞台袖に侵入し、スタッフを退けさせ、あやうく高価な機材にぶつかりそうになったところを豪華炎乱のマネージャーが身体をはって弾き、弾かれたサイコロは給水タイム用に並べられていたペットボトルの列をなぎ倒して、二度、三度と床をバウンドしたところでようやく大人しくなった。
 会場のモニターに、サイコロの結果が映された。
 天に向いた目は【籠目の星】である。
「わーい、籠目だー」と、淡々と喜ぶ直哉の頭に、春高が軽く手刀を落とした。
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