second stage 疾風炎嵐
#バズリンアイドル
#豪華炎乱
#ヴァンド
#バズリン_ジュノフェス
「霹靂神、その辺にいるやんちゃな兄ちゃんみたいだったな。もうちょい、怖ぇ人たちだと思ってた」
「菊司先輩は、エナガグリの時もあんな感じだったよ。輝恭先輩の方は機嫌良かったみたいだね」
「直ちゃんがなつくのも、なんとなくわかる気がするわ」
てくてくと、住宅街の細い歩道を縦一列に並んで歩きつつ、樹と大が言葉を交わす。
今は、霹靂神のリーダー磯沢輝恭の実家である寺からの帰り道だ。
日付は、霹靂神主催イベントジュノーフェスの一週間前。六月二十日だ。ジュノーフェスは六月二十七日に行われる。その日は豪華炎乱がナゴヤでライブを行うので、彼ら専属のバックダンサーであるヴァンドも必然的にナゴヤの方に振り分けられた。
当日行けないからということで、子ども三人は豪華炎乱の二人にお土産を持たされて、仲良く輝恭の実家に向かったのである。今日は寺で紫陽花観賞会があると直哉が情報を仕入れていたので、挨拶に伺うきっかけには丁度良かったかもしれない。
イベントには、Bsの事務所からはハヤラスやキャガレイ、ノーサスが出ると聞いている。ライブが被ってなければヴァンドも豪華炎乱も出ていて、他事務所のイベントなのに野獣大集合となっていたかもしれない。
「それはそれで見てみたかった気もする」と樹が想像してる間、大が言葉を続けた。
「それにしても、初雪さんまじで霹靂神やるんだな」
「菊司先輩、とても嬉しそうだったもんね。大人たちの間じゃ、霹靂神とカレンデュラの間で賭けでもして、霹靂神が勝ったんじゃないかって噂が流れてたし」
「その賭けは噂じゃなく事実で、初雪さんを返す返さないみたいな事してたってわけだ」
霹靂神の周年記念の年でもないのに、以前居たメンバーの急な復帰。
怪盗騎士の最中、カレンデュラの谷萩玲央は霹靂神の嵯峨菊司を指名したいとそれとなく言っていたという。これは、騎士として参加していた春高の証言だ。
そして、霹靂神を推してるはずの直哉が玲央に肩入れするという謎行動。
「その事をイベント前から知ってたんだろうよ。…………うちの鬼(おに)は」
直哉が推している霹靂神は、幼馴染み二人で組んでいる霹靂神だ。それに、カレンデュラの丹和初雪は、光希の推しである。
母親の事は心底嫌いな直哉だが、幼い妹二人のことは大事に思っている。
光希は、三人でいるカレンデュラが好きなのだ。お兄ちゃんなりに、初雪の復帰を阻止したかったのかもしれない。
まあ。自分の為でもありそうだけど。
二人の視線が、最後尾をのんびりと歩く直哉に向けられる。
向けられた方は「なんのことだか」と、おとぼけた表情を見せた。
「よそのユニット事情に首突っ込んで、ストレスためて」
「そのあげく微熱出すなんて」
「アホだよなあ」
「アホだよなあ」
樹と大が、嘲る口調で続けて言い、最後の言葉が重なる。
鬼の眉間にシワが寄るが、本当の事なのでなにも言い返せない。ぐぬぬと、内から溢れる言葉を喉に押し込んでいる姿は、尊大な態度を見せる獄卒ではなく、高校生のそれだ。
「黙って聞いていれば……!」
樹は、直哉の視線が鋭くなったのを察して、手を合わせた。
「ごめんごめん、機嫌直して。ディズニー寄ったら、アイス買ってあげるから」
「七夕イベント楽しみだね」「人力車のオッチャン元気かな」と無理矢理話題を変えるが、直哉の機嫌は降下するばかりだ。
「甘いものお供えすれば、俺の機嫌が直ると思ってない?」
ご機嫌斜めな獄卒の反応に目を見開いたのは大だった。
「ちげぇの?」
短く問われて、直哉が首を捻る。
「……………………間違いではない………………かも………………………………」
ヴァンドの鬼は過去の行動を思い返してから、ぽつりとこぼした。
◆ ◆ ◆
「ジュノーフェス盛り上がってるねえ」
雅臣がSNSに流れるイベントの情報を眺めながらぼやく。
今日は、豪華炎乱の十八周年春ツアー、ナゴヤ公演最終日である。五月から始まった全国ツアーも折り返しを迎え、残すは七月のオオサカ公演とマクハリ公演のみとなった。
ナゴヤ公演の方は、観客の入場がもうそろそろ始まるという時間。
雅臣は、一番最初に披露する怪盗騎士の怪盗の衣装を上着以外身につけ、始まるのを待っていた。化粧も発声も既に終えている。後の準備は上着を着るだけだ。西洋の伯爵貴族を模した怪盗の衣装はごてごてとしていて、常時着るような作りにはなっていない。そもそも、暑くて着れない。
イベントの方はアイドルのライブはもちろん、出店やアイドルによるグリーティングも盛況のようで、出店で販売されているクレープや団子、配られている甘酒の写真もSNSに載せられている。
ライブの様子を写したものはないが、現地にいる火種の感想を見る限りでは、楽しいイベントになっているようだ。
開演直前だというのに控え室でぐーたらと過ごしていると、相方の聖春高が控え室へ戻ってきた。
春高も、まだ上着は着ていない。ナポレオン時代の軍服を参考に作られた騎士の衣装もまた、常時着るには暑苦しいからだ。
雅臣が見ている物に気づいて、朗らかに口を開いた。
「ライブのトップは、うちのキャガレイ君たちだったみたいですよ。ヴァンド(にゃんこ)君たちが話してました」
「ああ……漫才をする鮫の子たちだっけ」
「特攻服とリーゼントって懐かしい姿だよねえ」と続けながら、雅臣は自分のスマートフォンをトートバッグに投げ入れた。
「俺たちの時代でも、絶滅危惧種でしたけどね。特攻服とリーゼント」
「改造学ランと腰パンしてる奴は多かったけどね。あとなんだっけなー。キティちゃんのスリッパ履いて来てる奴とか」
「腰パンは居たけど、キティちゃんはさすがに居ませんでした」
「まじで? 中学の時、キティちゃんのスリッパ履いて高校の学校説明会行った奴が門前払いされたって、夏休み明け早々全校集会で聞かされたんだけど」
「マサさんたちの学校、ヤンキー多かったでしょう」
「多くはないよ? 失礼だなーー。一部がちょっと修羅だっただけ」
「多くはないが質が悪い奴が数人居たせいで、学校の評判ががた落ちだ」
雅臣の言葉に、もう一人現れた大人が言葉を続ける。
ヴァンドのマネージャー、鬼頭昴だ。雅臣とは中学校一年生からの付き合いである。
「真面目にやってる奴と後輩たちが可哀想だった」
「少し上の世代では自殺者も出てるし、バイクで校内走るやつも居たしね。学校の名前書いただけで推薦入試落とされるって噂も流れるしさー。災難だったよー、もう」
「部活やってなかったら、俺らも推薦危なかったな」
「部活だけじゃ心許なかったから生徒会もやったよ、僕は」
「中学の頃は、超真面目に過ごしてたなあ」と、同級生二人が懐かしんでいるところに、少年三人分の声が扉の方から響いた。
「その結果がアイドル(これ)か、ジジイ」
「今じゃ、ヤンチャなオッチャン」
「世も末だねえ」
ひょっこりと顔を覗かせている獣が、直哉を皮切りに大、樹と言葉を続いていく。
「うるさいよ! ゆとりっ子!」
「俺らもギリゆとり世代だぞ、マサ」
「むしろ、にゃんこ君たちの方が詰め込み教育されてるのでは?」
「座長(ジジイ)、最後のミーティングの時間来てますよー。早く通路来てー」
「呼びに来た鬼頭(パパ)も一緒になって喋ってどうするのー」と、直哉が憤慨した様子を見せた。
「〈というわけでー〉」
雅臣は、手近にあったパイプ椅子に立ち、拡声器片手にスタッフへ開演前最後のミーティングを開く。
「どういうわけで?」という運営スタッフの突っ込みを無視して、雅臣は言葉を続けた。
「〈午前中から伝えている通り、ナゴヤ公演最終日です。急患、機材トラブルは発見次第、必ず連絡を入れること。各々の役割を果たしつつ、責任を持って仕事するようお願いします!〉」
言葉を区切り、スタッフを見渡す。
通路に集まったスタッフは、ライブの進行に関わる者たちが多い。警備や機材スタッフの一部は既に動き始めていて、最後のミーティングには参加していなかった。
雅臣の右手側では、春高が腕を組んで言葉を聞いている。左手側では、獣三人とそのマネージャーが立ち、獣は真剣な表情で、マネージャーは雅臣を見張るような目で見ている。
「〈関東の方では、霹靂神主催のジュノーフェスが行われているね。本来であれば、うちからも扇子部隊を派遣して、向こうのゲストを燃やしてる所なんだけどー〉」
ここで、一部のスタッフがにやりと笑い、子ども三人が顔を見合わせる。
「〈まあ、被っちゃったものはしょうがないからねえ。今日来てくれてる火種の中にはジュノフェスに行きたかった子もいるだろうし、何もせずに粛々とライブを進めてるのも豪華炎乱(うち)らしくない。な、の、で! 今日だけちょっと構成を変えて進める部分もあるけど、落ち着いてついてきてねえ!〉」
「ただの新曲披露だから身構えなくていいですよ」
雅臣の言葉に春高が付け加え、スタッフから笑いがこぼれる。
雅臣の視線が、扇子部隊に向けられる。
「〈扇子部隊もやってもらうことあるけど、慌てずにお願いね!〉」
「振りつけ忘れても今日は怒らないから、安心して」
春高の付け加えに、子どもは目を丸くした後、三者三様の反応を見せた。
「それ、帰ったあと怒られるってことじゃん!」
「自分たちは『歌詞忘れたー!』ってフクオカでやってたのにー」
「また歌詞忘れたら、ライブ乗っ取っていいですか? いいよー」
「ミーティング中に騒ぐんじゃない」と、鬼頭が拳で獣たちの頭を小突く。
「〈うん。そんだけ元気なら、大丈夫だね〉」
「すっかりライブ慣れしちゃってー」
「〈以上で、開演前のミーティング終わりますー! ジュノフェスに負けずナゴヤの方も盛り上げていこうねえ! よろしくーーーー!〉」
各チームのスタッフが、ちりぢりになりながら持ち場に戻ったところで、豪華炎乱が鬼頭を引きとめ、ひそひそと口を開く。
「扇子部隊のMCで使う小道具準備してくれた?」
雅臣に問われ、鬼頭は眉根を寄せる。
「用意はしてあるが…………本当にやらせる気か?」
「もちろんですよ。いい機会だし、日程的にも丁度良いでしょう?」
「楽しみだねえ、今日のMC」
「どんな表情を見せてくれるかなあ?」と笑う雅臣を視界に入れながら、鬼頭は「これ以上は止めても無駄だな」と諦めた様子で息を吐いた。
#豪華炎乱
#ヴァンド
#バズリン_ジュノフェス
「霹靂神、その辺にいるやんちゃな兄ちゃんみたいだったな。もうちょい、怖ぇ人たちだと思ってた」
「菊司先輩は、エナガグリの時もあんな感じだったよ。輝恭先輩の方は機嫌良かったみたいだね」
「直ちゃんがなつくのも、なんとなくわかる気がするわ」
てくてくと、住宅街の細い歩道を縦一列に並んで歩きつつ、樹と大が言葉を交わす。
今は、霹靂神のリーダー磯沢輝恭の実家である寺からの帰り道だ。
日付は、霹靂神主催イベントジュノーフェスの一週間前。六月二十日だ。ジュノーフェスは六月二十七日に行われる。その日は豪華炎乱がナゴヤでライブを行うので、彼ら専属のバックダンサーであるヴァンドも必然的にナゴヤの方に振り分けられた。
当日行けないからということで、子ども三人は豪華炎乱の二人にお土産を持たされて、仲良く輝恭の実家に向かったのである。今日は寺で紫陽花観賞会があると直哉が情報を仕入れていたので、挨拶に伺うきっかけには丁度良かったかもしれない。
イベントには、Bsの事務所からはハヤラスやキャガレイ、ノーサスが出ると聞いている。ライブが被ってなければヴァンドも豪華炎乱も出ていて、他事務所のイベントなのに野獣大集合となっていたかもしれない。
「それはそれで見てみたかった気もする」と樹が想像してる間、大が言葉を続けた。
「それにしても、初雪さんまじで霹靂神やるんだな」
「菊司先輩、とても嬉しそうだったもんね。大人たちの間じゃ、霹靂神とカレンデュラの間で賭けでもして、霹靂神が勝ったんじゃないかって噂が流れてたし」
「その賭けは噂じゃなく事実で、初雪さんを返す返さないみたいな事してたってわけだ」
霹靂神の周年記念の年でもないのに、以前居たメンバーの急な復帰。
怪盗騎士の最中、カレンデュラの谷萩玲央は霹靂神の嵯峨菊司を指名したいとそれとなく言っていたという。これは、騎士として参加していた春高の証言だ。
そして、霹靂神を推してるはずの直哉が玲央に肩入れするという謎行動。
「その事をイベント前から知ってたんだろうよ。…………うちの鬼(おに)は」
直哉が推している霹靂神は、幼馴染み二人で組んでいる霹靂神だ。それに、カレンデュラの丹和初雪は、光希の推しである。
母親の事は心底嫌いな直哉だが、幼い妹二人のことは大事に思っている。
光希は、三人でいるカレンデュラが好きなのだ。お兄ちゃんなりに、初雪の復帰を阻止したかったのかもしれない。
まあ。自分の為でもありそうだけど。
二人の視線が、最後尾をのんびりと歩く直哉に向けられる。
向けられた方は「なんのことだか」と、おとぼけた表情を見せた。
「よそのユニット事情に首突っ込んで、ストレスためて」
「そのあげく微熱出すなんて」
「アホだよなあ」
「アホだよなあ」
樹と大が、嘲る口調で続けて言い、最後の言葉が重なる。
鬼の眉間にシワが寄るが、本当の事なのでなにも言い返せない。ぐぬぬと、内から溢れる言葉を喉に押し込んでいる姿は、尊大な態度を見せる獄卒ではなく、高校生のそれだ。
「黙って聞いていれば……!」
樹は、直哉の視線が鋭くなったのを察して、手を合わせた。
「ごめんごめん、機嫌直して。ディズニー寄ったら、アイス買ってあげるから」
「七夕イベント楽しみだね」「人力車のオッチャン元気かな」と無理矢理話題を変えるが、直哉の機嫌は降下するばかりだ。
「甘いものお供えすれば、俺の機嫌が直ると思ってない?」
ご機嫌斜めな獄卒の反応に目を見開いたのは大だった。
「ちげぇの?」
短く問われて、直哉が首を捻る。
「……………………間違いではない………………かも………………………………」
ヴァンドの鬼は過去の行動を思い返してから、ぽつりとこぼした。
◆ ◆ ◆
「ジュノーフェス盛り上がってるねえ」
雅臣がSNSに流れるイベントの情報を眺めながらぼやく。
今日は、豪華炎乱の十八周年春ツアー、ナゴヤ公演最終日である。五月から始まった全国ツアーも折り返しを迎え、残すは七月のオオサカ公演とマクハリ公演のみとなった。
ナゴヤ公演の方は、観客の入場がもうそろそろ始まるという時間。
雅臣は、一番最初に披露する怪盗騎士の怪盗の衣装を上着以外身につけ、始まるのを待っていた。化粧も発声も既に終えている。後の準備は上着を着るだけだ。西洋の伯爵貴族を模した怪盗の衣装はごてごてとしていて、常時着るような作りにはなっていない。そもそも、暑くて着れない。
イベントの方はアイドルのライブはもちろん、出店やアイドルによるグリーティングも盛況のようで、出店で販売されているクレープや団子、配られている甘酒の写真もSNSに載せられている。
ライブの様子を写したものはないが、現地にいる火種の感想を見る限りでは、楽しいイベントになっているようだ。
開演直前だというのに控え室でぐーたらと過ごしていると、相方の聖春高が控え室へ戻ってきた。
春高も、まだ上着は着ていない。ナポレオン時代の軍服を参考に作られた騎士の衣装もまた、常時着るには暑苦しいからだ。
雅臣が見ている物に気づいて、朗らかに口を開いた。
「ライブのトップは、うちのキャガレイ君たちだったみたいですよ。ヴァンド(にゃんこ)君たちが話してました」
「ああ……漫才をする鮫の子たちだっけ」
「特攻服とリーゼントって懐かしい姿だよねえ」と続けながら、雅臣は自分のスマートフォンをトートバッグに投げ入れた。
「俺たちの時代でも、絶滅危惧種でしたけどね。特攻服とリーゼント」
「改造学ランと腰パンしてる奴は多かったけどね。あとなんだっけなー。キティちゃんのスリッパ履いて来てる奴とか」
「腰パンは居たけど、キティちゃんはさすがに居ませんでした」
「まじで? 中学の時、キティちゃんのスリッパ履いて高校の学校説明会行った奴が門前払いされたって、夏休み明け早々全校集会で聞かされたんだけど」
「マサさんたちの学校、ヤンキー多かったでしょう」
「多くはないよ? 失礼だなーー。一部がちょっと修羅だっただけ」
「多くはないが質が悪い奴が数人居たせいで、学校の評判ががた落ちだ」
雅臣の言葉に、もう一人現れた大人が言葉を続ける。
ヴァンドのマネージャー、鬼頭昴だ。雅臣とは中学校一年生からの付き合いである。
「真面目にやってる奴と後輩たちが可哀想だった」
「少し上の世代では自殺者も出てるし、バイクで校内走るやつも居たしね。学校の名前書いただけで推薦入試落とされるって噂も流れるしさー。災難だったよー、もう」
「部活やってなかったら、俺らも推薦危なかったな」
「部活だけじゃ心許なかったから生徒会もやったよ、僕は」
「中学の頃は、超真面目に過ごしてたなあ」と、同級生二人が懐かしんでいるところに、少年三人分の声が扉の方から響いた。
「その結果がアイドル(これ)か、ジジイ」
「今じゃ、ヤンチャなオッチャン」
「世も末だねえ」
ひょっこりと顔を覗かせている獣が、直哉を皮切りに大、樹と言葉を続いていく。
「うるさいよ! ゆとりっ子!」
「俺らもギリゆとり世代だぞ、マサ」
「むしろ、にゃんこ君たちの方が詰め込み教育されてるのでは?」
「座長(ジジイ)、最後のミーティングの時間来てますよー。早く通路来てー」
「呼びに来た鬼頭(パパ)も一緒になって喋ってどうするのー」と、直哉が憤慨した様子を見せた。
「〈というわけでー〉」
雅臣は、手近にあったパイプ椅子に立ち、拡声器片手にスタッフへ開演前最後のミーティングを開く。
「どういうわけで?」という運営スタッフの突っ込みを無視して、雅臣は言葉を続けた。
「〈午前中から伝えている通り、ナゴヤ公演最終日です。急患、機材トラブルは発見次第、必ず連絡を入れること。各々の役割を果たしつつ、責任を持って仕事するようお願いします!〉」
言葉を区切り、スタッフを見渡す。
通路に集まったスタッフは、ライブの進行に関わる者たちが多い。警備や機材スタッフの一部は既に動き始めていて、最後のミーティングには参加していなかった。
雅臣の右手側では、春高が腕を組んで言葉を聞いている。左手側では、獣三人とそのマネージャーが立ち、獣は真剣な表情で、マネージャーは雅臣を見張るような目で見ている。
「〈関東の方では、霹靂神主催のジュノーフェスが行われているね。本来であれば、うちからも扇子部隊を派遣して、向こうのゲストを燃やしてる所なんだけどー〉」
ここで、一部のスタッフがにやりと笑い、子ども三人が顔を見合わせる。
「〈まあ、被っちゃったものはしょうがないからねえ。今日来てくれてる火種の中にはジュノフェスに行きたかった子もいるだろうし、何もせずに粛々とライブを進めてるのも豪華炎乱(うち)らしくない。な、の、で! 今日だけちょっと構成を変えて進める部分もあるけど、落ち着いてついてきてねえ!〉」
「ただの新曲披露だから身構えなくていいですよ」
雅臣の言葉に春高が付け加え、スタッフから笑いがこぼれる。
雅臣の視線が、扇子部隊に向けられる。
「〈扇子部隊もやってもらうことあるけど、慌てずにお願いね!〉」
「振りつけ忘れても今日は怒らないから、安心して」
春高の付け加えに、子どもは目を丸くした後、三者三様の反応を見せた。
「それ、帰ったあと怒られるってことじゃん!」
「自分たちは『歌詞忘れたー!』ってフクオカでやってたのにー」
「また歌詞忘れたら、ライブ乗っ取っていいですか? いいよー」
「ミーティング中に騒ぐんじゃない」と、鬼頭が拳で獣たちの頭を小突く。
「〈うん。そんだけ元気なら、大丈夫だね〉」
「すっかりライブ慣れしちゃってー」
「〈以上で、開演前のミーティング終わりますー! ジュノフェスに負けずナゴヤの方も盛り上げていこうねえ! よろしくーーーー!〉」
各チームのスタッフが、ちりぢりになりながら持ち場に戻ったところで、豪華炎乱が鬼頭を引きとめ、ひそひそと口を開く。
「扇子部隊のMCで使う小道具準備してくれた?」
雅臣に問われ、鬼頭は眉根を寄せる。
「用意はしてあるが…………本当にやらせる気か?」
「もちろんですよ。いい機会だし、日程的にも丁度良いでしょう?」
「楽しみだねえ、今日のMC」
「どんな表情を見せてくれるかなあ?」と笑う雅臣を視界に入れながら、鬼頭は「これ以上は止めても無駄だな」と諦めた様子で息を吐いた。