second stage 疾風炎嵐

#バズリンアイドル
#ヴァンド
#豪華炎乱

 ◇  ◇  ◇

 もしも、願いが叶うのなら────。


『今日、僕の友達に会わせてあげるよ!』

 とある三月の終わり。
 春高は、相方からの突然の提案にきょとんと首を傾げた。
 相方は二歳上。黒髪を赤毛に染めた髪が特徴的で、常に堂々とした振る舞いをし、尊大な言動と態度で、春高を引っ張っている。
 お互い、事務所のオーディション出身。
 相方の方が先に受けていて、春高と組む前に別のアイドルと組んでいたみたいだけど、上手くいかなかったらしく、春高が入所した頃に解散したらしい。
 オーディションに受かったばかりで、まだ右も左もわからない春高を拾ったのが相方だった。

『彼。彼で良いよ! 組む相手が見つかっていないならちょうど良いじゃないか! はぐれ者同士、仲良くしよう!』

『またこいつは勝手に……』と頭を抱えるマネージャー(名前は花房と言っただろうか?)の前で、相方が手を差し出す。
 有無を言わさぬ物言いと態度に気圧されて、春高はその手を取った。
 あれから一年。
 そろそろCDでも出そうかという打ち合わせの後で『友達に会わせてあげる』と言われた。
 相方曰く、『事務所(うち)で働かないか?』と誘ったらしい。
 事務所は、設立してからまだ片手の指で数えられる程度しか経っていない。この先、事業を大きくしていくのなら、スタッフでも演者でも人の手が欲しいだろう。
 相方は、そういった大人たちの懐に入り、友人を事務所へ誘うことを快諾してもらったそうだ。
 また尊大な態度で押し切ったの間違いではないかと思いつつ、春高は相方について行って、その友達とやらがいるファミリーレストランへと向かう。
 春高たちが到着した頃。レストランの店先には、人待ちをしている様子の男が二人いた。
 どちらも春高よりも背が高く、目つきも鋭い。そして、人の目を惹くほど顔立ちが良く、背筋もぴんと伸びており、身体を鍛えている様子だった。
 相方が、普段からそうしているような軽い口調で『お待たせー』と言ってずかずかと二人に歩み寄る。
 間。
 人待ちをしていた二人のうち、灰色がかった髪をした男が、大きな手で相方の頭をがっしりとわし掴み、無理矢理腰を折らせる。
 放たれた言葉は一言。『遅い!』であった。
 後で聞いた話だが、この時一時間半近く待っていたそうだ。
 きゃんきゃんと、言い訳と説教が飛び交う様子を、春高は止めることも加勢することも出来ず、呆けた様子で眺めてしまう。
 そんな春高に、黒い影が寄り添うように立った。

『あんな男に引っ掛かって……お前も大変だな』

 切れ長の目から放たれる視線が、春高の顔に注がれる。
 遠目からでもそうだが、近くで見るとやはり背が高く、目鼻立ちも良い。黒い髪は、烏の羽根を思い出させる。相方が、この世界に誘いたくなった気持ちがわかった気がした。
 この人は、演者向きだ。
 この日から、春高は相方と相方の友達だという二人と一緒に四人で行動するようになった。
 仕事はもちろん、プライベートでも。
 特に、烏の羽根と同じ色の髪をもった友達とは、お互い一人っ子ということもあって、相方以上になついた気がする。
 どこに行くにもついて行きたくて、お喋りがしたくて、手助けがしたくて。
 春高の方が先にデビューしたにも関わらず、兄のように友達を慕って、とことことついて行った。
 どこまでも、とことことついて行くのだと思っていた。
 ついて行けなくなったのは、いつからだろうか。
『マサと鬼頭はお前に任せる』と言い置かれて、『あとは頼んだぞ、ハル』と静かに告げられて、ステージを降りていく兄のような友達を。引き留めることもできず、呆然としたまま見送って、何年の時が過ぎただろうか。
 あの海原に、二羽の鳥を沈めたのは、誰だろうか。


 もしも、願いが叶うのなら。
 今一度(いまひとたび)、願いが叶うのなら。
 もう一度、あの四人で────。

 ◇  ◇  ◇

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