学園の沙汰は委員(おに)次第
目の前にいる男は見たこともないほど大柄で、面の奥から放たれる視線も鋭く、威圧感で地面に沈められそうである。
ひんやりと冷えた汗が、背中を、頬を流れ出したとき、高貴がゆっくりと立ち上がった。
「誰だァ? てめぇらは」
普段の喋りよりも低い声が、高貴の喉の奥から出る。
彼の目を見れば、今にも瞳孔が縦に切り裂かれそうだった。
怒っている。
普段、飄々としてる事が多い高貴が、怒りを剥き出している。
面を被った男の視線が彼に向けられる。
高貴は動揺する素振りも、怯む素振りも見せず、足をしっかりと真っ直ぐ地面につけて、男の視線を受けた。
「お前が……」
面の奥から、男は言葉を発する。
「お前が【鬼神】か?」
出された単語に、剛は目を開く。
何故、今その名前を。
そう問いたかったが、男の威圧感は抑えられておらず、剛は言葉はおろか呼吸もままならない。
高貴は、なんと返すのだろうか。
ただ静かに見守っていると、ようやく高貴が口を開いた。
「だから?」
是か否か。どっちともとれない返答である。
こんな返答で、この鬼みたいな(冥府にいるので鬼なのだろうが)、男が満足するはずがない。
案の定、男は持っていた金棒の切っ先を高貴の目鼻に突きつけた。
「正直に申せ。お前が鬼神か?」
「ちゃんと答えねえと、お頭にクビチョンパされっぞ、小僧!」
「舐めた態度取るんじゃねえぞ!」
控えていた男たちが次々に高貴を煽る。
ひくりと、高貴のこめかみに青筋が浮かんだ。
「外野がぎゃーぎゃーとうっせえな! 出禁にすっぞ!」
答えを出さず、高貴は控えている男たちに啖呵を切る。
すでに出禁をする状況だと思うが、相手はこれでもお客様。
鬼同士の喧嘩は日常茶飯事だし、高貴も下手な動きを取れないのだろう。
少なくとも、先に手は出せない。
「とりあえず、さっさと店を出ていってくれませんかねえ。他のお客様のご迷惑ですので。あ、入店料はきちんと支払ってくださいね」
「んだと、このクソ餓鬼!」
「何様のつもりじゃい!」
額に青筋を浮かべて、ギャンギャンと舎弟達が吼える。
高貴が言葉を返そうとしたところで、面の男が割って入った。
「やめろ、話が長引く。……小僧、今一度問おう。【鬼神】は、お前か?」
高貴と男の視線が交わり、火花を散らす。
静かな問い。渦巻く狂気。
張り詰めた空気の中、高貴が口を開いた。
「さてね。でも一つだけ、とっておきの情報知ってるぜ」
ゆっくりと。けれど、堂々とした素振りで、高貴は動き出す。
ただ、皆が固唾を呑んで見守る中で、高貴は別の席に移動し、テーブルの下から護身用の金棒を手に取る。
腕に馴染むやつか、振り心地はどうか。
ぶんぶんと一、二度振り、肩に担いでみる。
「初代鬼神は、男を去勢した。何でかって? 決まってるじゃねぇか。自分(てめぇ)の妹分に手出されたからさ。……こんな風にな!」
先に手を出せないと思っていたのは剛だけのようだった。