学園の沙汰は委員(おに)次第
「高貴は、自分で孤児院の子供達を弄るのは好きだったが、他人が子供達を虐めるのは許さなかった。昔も、成長した今もだ」
施設育ちと言うだけで、意地悪な子達はからかってきた。
親が居るのに親と暮らさないなんて変だと、親の居る子達は言われた。
施設育ちはお小遣いに困っているだろうと、ホスト風の男達が沢山言い寄ってきた。
「バカにしてくる子どもや大人達を撃退しているうちに、高貴は『鬼神』と呼ばれ有名になっていったんだ。だから、昨日の自称鬼神に襲われたんだろうな」
伊織があっさりとした口調で言葉にすると、剛は目を丸くした。
「え!? やっぱり高貴さんなんですか!?」
その様子では、剛も一度は疑ったのだろう。
伊織はこくりと頷いて見せた。
「本人は否定してるがな。尻尾を掴んでやろうとこいつの部屋を探ったが、鬼の面も鉄パイプも、返り血を浴びた服も無かった。そのかわりに、ベッドの下から成人男性が見る絵本がわんさかと出てきたが……その辺は男の子なんだなと思って、戻しておいた」
「そっとしておいてあげて下さい」
高貴が、伊織が証拠集めをしていた事に気づいていたかどうかはわからない。気づいてないなら、そのまま気づかない方がいいかもしれない。
世の中には、知らない方が幸せなこともあるのだ。
そんな彼は今、キャバクラに無断で行った罪でレンと共にトイレ掃除の罰を受けている。
親の店とはいえ、校則では入店禁止の文字がしっかりと刻まれている。ここで許しては一般生徒に示しがつかないからという顧問からの命令であった。剛もこの見回りが終わればトイレ掃除の罰を受けにいく。伊織は始末書の作成だ。
ただ、親の手伝いを完全にさせないのも高貴には酷な事だ。校則に項目を追加して、親の仕事を手伝う時は書類を提出し、学校側から許可を得るように進言してみよう。
「これで、高貴のサボり癖が直るといいんだがな」
「なんだかんだで、高貴さんは真面目だと思いますよ。お母さんのお店を手伝ったり…………手伝ったり…………手伝ったり………………」
あれ。彼は他にどんな事をしていたっけ。
委員会の仕事をせず、寝てばかりいる姿ばかり浮かぶ。
剛が言葉を詰まらせている間に伊織も探してみるが、やはりあの男は寝てばかりいる気がする。
孤児院で子ども相手に遊ぶ姿はたまに見るが、週に一回もしくは二回だ。
「そろそろ戻って、様子を見に行ってみよう」
「はい」
踵を返し、校舎にある昇降口へと歩み始めた時だった。
殺気と共に無数の距離が眼前に突きつけられる。
武器を持つ顔触れは、見たこともない男たち。
歌舞鬼高等学校の生徒ではないと、その場にいた二人は悟る。
じり、じりと、距離を詰められ、伊織の背中が剛の腹に触れる。
「伊織さん、こいつらは……」
「誰だ、貴様らは」
伊織が質問するのと同時に、男たちを掻き分けて鬼の面を被った男が現れる。
大きな図体に、胴体と同じ長さの金棒。地面に押さえつけられるような圧迫感は鬼神と名乗るのに相応しい。
「執行委員会委員長……伊織さん」
鬼の面を外し、彼女に顔を見せる。
その顔を見た伊織は、目を見開いた。
「お前は……!?」
「覚えてくれていたんですね。嬉しいです。私もあなたを忘れたことがありません。ここ最近は、特にね」
優しい物言いだが、血走った目から放たれる眼光は身体を貫かんとする鋭いものだ。
伊織を真っ直ぐに射抜いたまま、男は言葉を続ける。
男の顔を、伊織も忘れたことがない。
なぜならこの男は、伊織に付きまとっていた男だからだ。
そしてこの男は、ある日突然姿を消した。