寒中見舞い 2020年
木枯らしを追い抜いて
タイトル提供 尚さん
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「雪が溶けたら何になる?」なんて聞く人がいるけれど、そんなの答えは一つでしょう?
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頭に乗せているのは、シロツメクサで出来た花冠。
着ている服は、真っ白なワンピースと同じ色のサンダル。
風と一緒に運んで来るのは、桜と梅の花びら。
ほっぺたも桜色、ゆるやかに伸びた髪の毛は萌葱色。おめめの色は、春の青い空の色。
びゅんびゅんと風と一緒に駆け抜けて、赤く染まった木々の中、くるくると花びらたちと踊るのは、春を連れる女の子。
きゃらきゃらと笑いながら花びらたちと笑っていると、ぶっきらぼうな声がびゅんと吹いてきた風の中で響いた。
「おい、おまえ!」
ぴたりと踊るのをやめて、風の中にいる男の子を見る。
着ている服は、落ち葉を繋ぎ合わせて作った生地の袴と羽織。
風と一緒に運んでいるのは、赤い葉っぱと黄色の葉っぱ。
ほっぺたも赤い色。くるくると毛先が跳ねた短い髪は秋の色になった銀杏の色。おめめの色は、栗の色。
びゅうびゅうと秋の中を吹き付けて、踊る女の子を吹き飛ばそうとする。
女の子は吹き付ける風を難なく受け流し、男の子を見た。
「あぶないなあ、おはながとんじゃう」
「『あぶないなあ』じゃない! いまはおれのきせつ、こがらしがふくきせつだぞ! あたまおはなばたけは、ままのところにかえんな!」
女の子は目をつり上げる男の子を見た後、にっこりと笑って言葉を返した。
「やだ」
「はい……⁉ おまえ、きせつをめちゃくちゃにするきか!」
「そうじゃないよ。でも、たまにはすこしだけはやくおどってもいいとおもわない?」
そう言って、女の子は再び花びらを連れて秋の中を駆け抜けていく。
連れているのは、春の風だ。あたたかくて、こころがぽかぽかとしてくる、凍ったものを溶かし、眠るものを起こす。
今、その季節が自由に吹いていたら、動物たちは眠るの忘れ、花の芽吹きがごちゃごちゃになってしまう。
女の子を追いかける為、男の子もびゅうびゅうと風と共に駆け出した。
「とまれ、はる!」
「とめたかったら、もっとはやくはしってごらんよ!」
木枯らしを追い抜いた春が無邪気に笑う。
男の子は顔を真っ赤にして、秋の色に染まり冬の気配が近づいた赤と茶色の中を駆け抜ける。
季節の鬼ごっこは止まる事を無視して、木々の枝から葉っぱを散らした。
♢ ♢ ♢
「雪が溶けたら何になる?」なんて聞く人がいるけれど、そんなの答えは一つでしょう?
雪が溶けたら春になる。
いいえ、雪が溶ける頃にはもう暖かくなっているでしょう。春にはもうなっているよ。
雪が溶けたら、生きる【もの】たちの恵みになるのだ。
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