寒中見舞い 2020年


君の音

   タイトル提供 大熊猫さん



 ぽろん……ぽろん……。
 音の粒が、耳に触れては鼓膜を震わせ、消えていく。
 同じ音を響かせているはずなのに、その日その日によって飛んだり跳ねたり、気が抜けてたり刺があったり。同じ粒は一つもない。
 彼女の気分で、生まれる粒が変わるからだ。
 白と黒の鍵盤の上で指を踊らせる彼女は、雪の中を駆け回る子犬のようだ。
 ピンク色の首輪をつけた、雪まみれの白い柴犬。
 今日はご機嫌だな。昨日の音は、ぼーっと空を眺めているような音だった。
 ピアノの音色を聴きながら、窓辺でヴァイオリンの楽譜を捲る。
 彼女の音を聴いているうちにやりたくなって、手を出した。
 彼女のいる世界に、立ってみたくなった。
 この音に自分の音を合わせられるようになるのが、今の目標だ。
 いつまでも、素人だと思うなよ。
「何か言った?」
 幼さが残る顔で急に振り向かれ、少しどきりとしつつ、「なんでもない」と雪がちらつく外に視線を流した。
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