寒中見舞い 2020年


君と繋がる五秒前

 タイトル提供 芹沢紅葉さん



 駅を出て直ぐ。
 神社まで続く参道を埋め尽くす人の波を視界に入れて、思わず舌打ちをしてしまった。眉間に皺も寄っていることだろう。
 そんな高校生男子の気持ちなどいざ知らず、昨年専門学生になったという幼馴染みの女はスタスタと歩いて行ってしまう。
 日が昇る瞬間に初詣に行きたいと前日に誘われ(その誘いに直ぐ乗れるほど暇してた俺もどうかしている)、早朝の冷え込む寒さに負けないように厚着をして家を出た。
 さすが新年初日。参拝者の数が一つの凶器に見える。
 これを全て相手する神職さんは大変だなと同情しながら、スタスタと先に歩く彼女を追いかけて、人の波の中、なんとか隣を歩く。
 流されるように歩いて、拝殿の前に着いたら二礼二拍一礼。
「ああー、やっと参拝できたね!」
 参拝者の列から抜けて、幼馴染みが人目も憚らず伸びをした。
 拝殿と本殿から離れているとはいえ、神様の前だぞ。
 ころころと気分が変わり、それに合わせて表情も変わる幼馴染みだが、少々……否。かなりがさつな面もあるので、これを伴侶に迎える者は大変だなと思う。もちろん、俺はお断りだ。
 じっとりとした視線を彼女に送っていると、くるりと綺麗な動作で俺に顔を向けた。
「さあ、おみくじ引いて帰ろ」
 再びすたこらと歩き出して、おみくじが置いてある社務所へと移動する。
 普段は物静かな社務所も、今日ばかりは人でごった返していた。
 お守りを買う人の固まりにアタックして、なんとかおみくじを引く。
 隣にいる彼女は「大吉」だと言って大騒ぎ。
 馬鹿め。年の始めに運を絶好調にしてどうする。あとは下がるだけだぞ。
 今引くおみくじは、大吉よりも小吉、中吉くらいの方がいいのだ。上がるか下がるかは、細かい内容次第。
 幼馴染みの結果を鼻で笑ってから、自分のおみくじを開く。
 結果は中吉。うむ、順調な滑り出しだ。でも、厳しい感じの言葉が続いている。
 これはもしかして、運気下がっていく兆候か。
 ひやひやとしながら読み進めていくと、【待ち人】の箇所だけがやけに優しかった
【待ち人 直ぐ来る】
「直ぐ……⁉」
「どうしたの?」
 おみくじと俺の顔の間に、ひょっこりと顔を割り込ませて来る。
「どれどれ。……ぱっとしないわねえ。あ、待ち人が直ぐ来るってなってる」
「か、勝手に見んなよ!」
「いいじゃん、いいじゃん。でも奇遇ね! 私も【待ち人 来る】ってなってたから!」
「おそろいね」と無邪気に笑う幼馴染みに、ひくりと頬をひきつらせる俺。
「この場所で変な縁を増やすな!」
 朝日に照らされる早朝の境内に、俺の叫びが木霊した。
 ああ、神よ。そこにいるのはわかっている。
 この女だけはやめてくれ。
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