【始めの一歩】
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「なあ、マネージャーからなんかないか?」
澤村先輩が清水先輩に声をかける。主将でさえ頭を抱えてしまうほどの緊張とはなかなかである。清水先輩は少し考えて日向君の肩にポンと手をかけた。
「・・・期待してる」
ボンッ
清水先輩が声をかけた途端に日向君が真っ赤になってパンクした。あんな美人に「期待してる」なんて言われたらそりゃあ緊張しちゃうよね。
(というか渡すタイミング逃してしまった・・・)
あれほどしっかり決意したのに私の手には行き場を失った天然水のペットボトルと二つ折りのメモ用紙が握られていた。マネージャーでもない私が励まそうとすること自体おこがましかったのだと気持ちがどんどん後ろ向きになる。
誰かにばれる前に片づけてしまおうと荷物の方を振り返ると丁度こちらを見ていた二年生の縁下先輩と目が合った。
(・・・え、なんで目が合うの?てか、え?こっち来る)
「えっと・・・それ日向に、だよね?渡したらきっと喜ぶと思うから・・・」
(ばれてる⁉)
(気づかれてないと思ってたんだこの子・・・)
ちなみに雛森が日向のためにいろいろと用意していたことは日向以外の全員気付いていた。
縁下先輩のほかに菅原先輩までもが「日向に渡してやってくれ」と言いに来る有様で、この状況で渡さないという選択肢はなくなった。
「俺らも一緒に行くからさ」
そう言った菅原先輩たちの後に続いて日向君のもとへ行くと相変わらず真っ青な顔をしてお腹を抱えていた。
「日向」
「ハ、ハイ!おおおおれ頑張ります‼」
(これは重症だ・・・)
日向君はもう誰が何と言おうとプレッシャーになってしまうのではないかと思うほど人の話を聞かなくなってしまっている。今だって菅原先輩が名前を呼んだだけなのにガチガチになって決意表明をした。
「違う違う、雛森さんが日向にこれを用意してくれたんだ」
ほらと菅原先輩に背中を押され、そっと差し出すと日向君はすぐに受け取り、ペットボトルを脇に抱えてメモを開いて読んだ。
「・・・雛森さん!ありがとう!俺頑張る‼」
日向君は満面の笑みで私の手を取り上下にぶんぶん振る。さっきより心なしか顔色がよくなった気がする。ここまで喜んでくれると勇気出して渡してよかったと頬が緩んだ。
(雛森さんナイス!)
(ありがとう雛森さん‼)
一連の流れを見ていた澤村、菅原は心の中で雛森に感謝した。これで少しは良くなるだろうと安心したが烏野には余計な一言を言ってしまう人がいることを忘れてはいけない。
「おお!日向のバレー楽しみにしてるってよ!こりゃあミスしたらかっこ悪いな‼」
田中先輩の言葉ですべてか崩れ去った。日向君の顔がどんどん青ざめていく。
「田中!お前、バカ‼雛森さんが勇気出していい感じにしてくれたのに!」
「日向にも雛森さんにも謝れ‼」
私に協力してくれた菅原先輩と縁下先輩がものすごい剣幕で田中先輩を怒鳴りつけた。その勢いに押されて田中先輩はすごい勢いで私に頭を下げている。
いや、ほんと一瞬は何やってくれたんだと思ったけど、ほかの先輩方のあまりの剣幕に逆に申し訳なくなった。
そして日向君の緊張がほぐれないまま試合が始まってしまった。