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初めて、スポーツを美しいと思った。
今まで授業で何度か見たこともやったこともあったけど、本気でやるとこんなにも熱くなるものなのかと感動した。
「あの日」からずっとふさぎ込んで全く家から出なかった私を祖父が気晴らしにと連れてきてくれた近くの体育館。そこで行われていた高校生たちのバレーボールの試合。それが、私「雛森ことり」とバレーボールの出会いだった。
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この春晴れて高校生になることができた私は、家から近い烏野高校に入学した。
(桜、きれいだな)
「おはよう!雛森さん!」
校門のすぐ近くできれいに咲いた桜の木を見上げているとクラスメイトの子が挨拶をしてくれた。私はにこりと笑ってスマホから音声を流す。
『・・・おはよう、原田さん』
私は声が出ない。それは私が小さいころ経験した不幸が原因だった。その出来事から何年もたつけど全く改善する様子が見られない。しかし、このごろは技術の発達がすごいから筆談にもスマホを使えば特に困らないし、だから私自身も治っても治らなくてもいいかなって思っている。高校生にもなれば周りも大人になって、少し説明すればみんなわかってくれるから苦労することも少なくていい。
「雛森さん、数学の宿題やった?最後の方の問題難しくなかった?」
『・・・・・・少し、難しかったよね・・・・・・私も不安だから、教室で見せ合いっこしよう』
「うん!」
私の場合、スマホのアプリに文字を打ち込んでそれを読み上げ機能で読み上げてもらうというもの。打ち込みにも慣れたもので相手をあまり待たせずに会話できるのは私のひそかな自慢である。
そのまま私は、校門で会ったクラスメイトと宿題や今日の授業の話をしながら教室に向かった。
私のクラスは一年四組。進学クラスに合格したと分かったときはうれしすぎてすぐに祖父母に報告したのを覚えている。入学式からもう一週間。大体の子たちは部活を決めて実際に活動し始める時期。外からも野球部やテニス部の元気な声が聞こえてきてふと外に視線を向ける。
(部活・・・部活か・・・)
中学の頃は無難に美術部に入って三年間、有意義な時間を過ごした。でも、高校は・・・。
(あの、バレーが忘れられない・・・)
小さいとき、私が衝撃を受けたスポーツ。私の大好きなバレーを、近くで見ることができたら・・・。
「おはよう、雛森さん」
隣から急に声がして、驚いて椅子から落ちそうになる。どうにか体制を整えて声の主に目を向けるとそこには、私の隣の席である山口君が顔を真っ青にして立っていた。
「ごめん!大丈夫⁉どっかぶつけてない⁉」
あまりの慌てぶりに笑ってしまう。大丈夫と言うように手を振ってスマホに文字を打ち込む。
『・・・おはよう、山口君・・・大丈夫だから、そんなに慌てないで』
「ごめんね、驚かすつもりはなかったんだけど・・・」
『・・・本当に大丈夫だよ・・・気にしないで』
そう言って笑えば山口君は安心したようにほっと胸をなでおろしていた。
山口君はいつも仲良しの月島君と行動している。今日も一緒に登校してきたようだった。
『・・・月島君も、おはよう』
「・・・おはよう」
挨拶だけして月島君は自分の席に戻ってしまった。
月島君は同い年の人たちの中ではすごく落ち着いた人だと思う。大人っぽいというかクールというか・・・。そんな雰囲気がやっぱり女の子たちにとっては素敵に感じるようで、モテるらしい。
「ことり!おはよう!」
そう言って元気よく女の子が教室に入ってきた。
『・・・おはよう、由佳ちゃん』
「今日も元気?」
私は大きくうなずいて笑う。そうすると由佳ちゃんは満足そうにうなずいて私の後ろの席に腰を下ろした。
この子は藤原由佳ちゃん。私の後ろの席でとっても元気のよい女の子で、高校に入って初めてできたお友達だ。
お友達にもクラスメイトにも恵まれて高校生活のいいスタートをきれたと思っている。
「おーい、席つけ、SHR始めるぞ」
担任の先生が入ってきて今日も一日が始まった。