【諦めない】
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翌日、約束通り私たち三人は旭さんのもとに訪れていた。
「えっと、気持ちはうれしいんだけど、なんで一緒に練習したこともない俺が気になるの?」
旭さんは困ったように頭をかきながらそう投げかける。そして、日向君が当たり前のように答えた。
「あ!旭さんが戻ってこないと、二、三年生が元気ないからです‼」
(ちょっと声、大きいかなー)
そう思っていると影山君の強烈なチョップが日向君の脇腹にクリーンヒットした。痛そう。
「声でけえよ」
一応私も日向君の肩に手を置いてなだめる。すると旭さんが笑っていた。
「はは!面白いなお前ら!…けど、悪い」
「え?」
「俺はね、高いブロックを目の前にして、それを打ち抜くイメージみたいなのが…全然、できなくなっちゃったんだよ。必ずシャットアウトされるか、ビビッて自滅する自分が、頭の中をよぎるんだ」
旭さんのもとに来る道中に日向君たちから旭さんがバレーを嫌いになってしまったかもしれない理由を聞いた。私には到底理解できない、選手の視点。なんと声をかければいいのかわからない。その中、やはりと言うべきか口火を切ったのは日向君だった。
「…一年のちびにこんなこと言われたら、生意気って思うかも、ですけど…」
「思わないよ?なに?」
「俺、それよくわかります。俺、背が低くて技術もないから、ブロックに捕まってばっかりで…。でも今は、こいつのトスがあるから、どんな高いブロックでもかわせます!」
日向君は力強く隣の影山君を指さして宣言した。本当にそう、二人はお互いがいれば最強で…。
「ブロックが目の前からいなくなって、ネットの向こう側がバーって見えるんです!」
(あ…)
日向君の言葉を聞いて、旭さんが懐かしむような顔をした。
「そんで、一番高いところで、ボールが手に当たって、ボールの重さが手にこう…ズシってくる感じ!大好きです!」
旭さんはさっきと比べたら少しだけど上を向いていた。日向君の言葉に引っ張られるように…。
(この人はまだ、上を向ける…まだ、飛べる)
「俺、旭さんが羨ましいです。今の俺には、一人でブロックをぶち抜くタッパも、パワーもないけれど、旭さんにはそれがある。今までたくさんブロックされてかもしれないけれど、それよりももっとたくさんのスパイク、決めてきたんですよね?だからみんな、旭さんをエースって呼ぶんだ!」
「衝撃」日向君の言葉を受けた旭さんの顔はまさにそれだった。旭さん本人もきっとわかってる。
その時、また予鈴が鳴って一年生の教室に帰ろうとするけれど日向君は動かずじっと旭さんを見ていた。
「アホ、遅刻する」
影山君に頭をたたかれてやっと日向君は動き出した。しかし今度は影山君が旭さんに声をかける。
「あの、一人で勝てないの、当たり前です。コートには六人いるんだから。俺もそれ分かったの、つい最近なので」
そう言い残して影山君もさっさと帰ってしまう。私は急いで文字を打ち込んで旭さんに向けた。
『…私、あとでまた来ます』
「え?あとでって?え?それより携帯?」
戸惑っている旭さんを残して私は二人を追いかけた。
(どうしても伝えたい、私なりの伝え方で…)
お昼休みの後は英語の授業だったけれど、ノートを取らずに永遠と書いては消してを繰り返した。旭さんにどうかこの言葉が届きますようにと。
授業終わりと同時に教室を飛び出した。次の授業の準備は申し訳ないけれど山口君に頼んだ。
「…っ…っ…」
学校内をこれほど全力で走るのはきっとこれが最初で最後だろう。三年生の階に着くとなんと旭さんが階段の近くで待っていてくれた。全力疾走してきた私を見てちょっと引いていたかもしれない。
「学校内はそんなに全力で走ったらだめだよ」
そう言いながら旭さんは少し苦笑いしていた。私も同じように苦笑いを返して、握りしめていたノートの端切れを旭さんに差し出した。
「?これ…」
『…私は、私なりの方法で伝えたい言葉を詰め込みました…失礼します』
「え?これを渡しに来ただけ?」
戸惑っている旭さんに対してお辞儀を一つして、また走って教室に戻った。この言葉で戻ってくる決心がつけばいいとかそんな大層なことを考えているわけではないけれど、それでも少しでも上を向く支えになればいいと、旭さんを待つ、ほかの先輩の存在を見つけるきっかけになればいいとそう思った。
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〈先輩たちがまだ旭さんを待っています。一緒にバレーをしたいと言っています。私は少ししか旭さんのことを見ていないけれど、それでも旭さんがまだ飛びたいと思っていることはわかりました。旭さん自身がまだ飛びたいと思う限り、あなたの羽は折れない。旭さんはまた、絶対にスパイクを決めることができます。〉
東峰旭は自分の席に戻って、先ほど後輩の女の子から受け取った手紙を読む。ノートの切れ端だし三年の階に来るときに握りしめたのか若干しわが寄っていて、手紙というには不格好だが、中の言葉はまっすぐでそれでいて…。
(ああ、そうか、俺はまだ……バレーが好きなんだな…)
東峰の気持ちを自覚させるのに十分だった。