【守護神】
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「だからよ、スッと行って、サッとやって、ポンだよ」
部活が終わって片付け中の男子バレー部は、烏野の守護神こと西谷先輩のレシーブ講座が開かれていた。しかし、西谷先輩の天才感覚的指導はどうにも日向君たちには伝わらないらしい。正直、私もわからない。
「はは、すっごいポカン顔」
一緒にモップがけをしていた縁下先輩が私の顔を見ながら笑う。
「あの説明で分かる人の方が少ないよな」
木下先輩もそう言って笑っていた。やっぱり天才には天才の感覚があるらしい。きっと影山君なら理解できただろうと思う。
「あの、西谷先輩」
「んー?」
その時日向君がふと西谷先輩に質問した。
「さっき言ってた“旭さん”って誰ですか?」
(旭さん?)
今まで聞いたことなない人物名が出て首を傾げた。丁度、縁下先輩たちもいるから聞いてみようと思ったけれど、なぜか暗い顔をしていて聞けなかった。田中先輩なんか「不用意にその名を出すな」って怒っている。
「・・・烏野のエースだ、一応な」
そんな中、西谷先輩がすごく悔しそうな表情をしながら答えた。
(エースの話なのにどうして先輩たちは暗い顔をしてしまうんだろう)
下を向いてしまうのだろう・・・。
「雛森さん」
縁下先輩に名前を呼ばれてはっとする。少しボーっとしてしまった。
「雛森さんは旭さんについて知らないよね、旭さんは三年生で、今は練習を休んでいるけど、みんなから信頼されてるエースだよ」
なんで休んでいるのかとかどうして三年生たちが苦しそうな表情をしているのかとかは教えてもらわなかったけれど、それでもみんなが旭さんと一緒にバレーをしたいって思っていることだけは先輩の説明で理解できた。
私は大きくうなずいて感謝の気持ちを込めて勢いよくお辞儀した。
「雛森さん?それはどういうお辞儀・・・」
勢い良すぎて先輩たちは少し戸惑っていた。申し訳ない。その時、西谷先輩の力強い言葉が聞こえて振り返った。
「スパイクが打てなくても、ブロックができなくても、ボールが床に落ちさえしなければ、バレーボールは負けない!それを一番できるのは・・・リベロだ‼」
(か・・・かっこいいいいい!)
自分のポジションであるリベロを堂々と語るその姿に思わず拍手してしまった。西谷先輩の言葉ももちろんだけど、それ以上に本当に誇らしそうに語るその姿が何よりかっこよかった。
「かっこいいいい!」
日向君も私と同じような反応していて、それを見た西谷先輩が少し照れ臭そうにしていた。
「バ・・・バカヤロー!日向もことりちゃんもそんなはっきり言うんじゃねーよ!」
(清水先輩以外に初めて名前呼ばれた!)
私が名前呼びに感動しているとまた、日向君と西谷先輩が話を始めた。日向君の「最強の囮」について。
西谷先輩の言葉は田中先輩と同じくらい裏表がなくまっすぐで、自分だけではなく周りを鼓舞する言葉を紡ぐ。
「お前の囮のおかげで誰かのスパイクが決まるなら、お前のポジションだって重要さは変わらねえ」
日向君の胸にこぶしを当てながらまっすぐにそう口にした先輩は本当にかっこよくて、まるで烏野の光のようだと思った。
二人の姿を見てほっこりしていると、田中先輩に手招きされ、疑問に思いながらそちらに向かうと、日向君の目の前に立たされて日向君と私、二人してぽかんとしてしまった。
「雛森ちゃん!日向に一言お願いします!」
(急に⁉)
田中先輩の顔を見るとなんだか満足げだし、日向君はなんか期待に満ちたまなざしだし、何かしなければととりあえず携帯を取り出して文字を打ち込む。
『・・・日向君のプレーは迫力満点で、誰にも真似できない唯一無二のものだと思う・・・自信もって』
読み上げが終わってから大きくうなずくと、日向君はすごくキラキラした顔で笑った。
「雛森さん、ありがとう‼」
どうにか乗り越えたとほっとしていると、視界の端で田中先輩がサムズアップしていた。一応返しておいたけれど、今度からはこんな急に言わないでいただけるとありがたい・・・。
「入ったばっかのマネージャーに迷惑かけてんじゃないよ!」
すごい形相で飛んできた縁下先輩が田中先輩の頭をぶっていたけど、いったん視界から外した。もう何も言うまい・・・。
(モップ片付けに行こうかな・・・)
「雛森さんって」
(まだ何か⁉)
日向君に声をかけられて少し怒りを覚えながら振り返る。
「最初は渋ってたのに、どうしてマネージャーやってくれたの?」
その質問にはいつでも答えることができる。流れるように指が文字を打った。
『烏野のバレーが世界一かっこよくて、きれいで、もっと見たいって思ったから』
カタン
読み上げが終わると体育館は静まり返った。唯一、田中先輩の持っていたモップが倒れた音だけが響く。
先輩が落としたモップも拾って、私はようやく片付けを再開した。
その後の体育館は阿鼻叫喚だった。
「なあ大地、世界一かっこいいって・・・何語?」
「一応、日本語だ」
「・・・・っ・・・・」
「おい田中!息をしろ!」
「なんだあのかわいい生き物は⁉人間か⁉」
「西谷落ち着け‼縁下動いて‼」
「日向も王様も固まってないで早く片付けてよね、ほら山口も行くよ」
「ツッキー、そっち出口だよ・・・」
この出来事をきっかけに雛森の発言を受ける前に心の準備をすることがバレー部の暗黙の了解となったことを雛森は知らない。