【新しいつぼみ】3話
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「あ、おはようございます」
「ん?ああ、妹か、おはよう、早いな」
リビングにつくとそこにはコーヒーを飲みながら朝食を食べている左京がいた。
「古市さん、新聞読まれますか?」
「ああ、すまんな」
(まるでお父さんと娘・・・)
「おはようー」
「おはようございます!」
いづみと咲也が二人そろってリビングに降りてきたことを筆頭に比較的朝が早い人たちがぞろぞろと降りてきた。ちなみに学生たちは春休み中のためほぼいない。
「ごめん、ひなみちゃん、ここ頼んでもいい?そろそろ至さん起こしてこないと」
「え・・・あ、はい、わかりました」
今日は平日で会社があるにもかかわらずいまだに起きてこない至を綴が起こしに行くのもこのMANKAI寮の恒例となっていて、あれ?至さんって社会人だったよね?と戸惑うひなみ以外は誰も驚かない。
(大人っていろいろだな・・・)
ひなみはそんなことを思いながら、綴から任された洗い物に取り掛かった。
少しして至とともに降りてきた綴はげっそりとしていて、戦いの壮絶さを物語っていた。
「あ、そうだ、ひなみ」
朝食を食べ終わって食器を片付けに来たいづみがふと思い出したように声をかけた。
「今日は私、ほかの劇団の手伝いがあって朝から出かけるんだけど、寮の案内とかどうする?」
「あ、それなら大丈夫、小さいころ来たときのままだし、ある程度はわかるから」
「そっか、じゃあ大丈夫だね」
その会話に隣でひなみと一緒に洗い物をしていた綴が反応した。
「え!ひなみちゃんってここに来たことあるんすか?」
そんな反応にいづみは笑って答える。
「はは、そりゃあ来たことあるよ!もともとMANKAIカンパニーはお父さんの劇団だしね」
「ああ、確かにそうっすね」
「それにひなみは小さいころからヴァイオリンのコンクールに出てたから、それのためにここに泊まることも多かったし、もしかしたら私の子どものころよりも来てたんじゃないかな」
思いがけずに出た「コンクール」という言葉に、ひなみは暗い顔をしたがそれも一瞬で誰もその姿に気づかなかった。
「ええ!すご!さすが音楽学校に行くだけあるわ」
「いや、全然、そんなすごくなんて・・・」
「いやいや、正直、俺からしたら楽器できるだけでもすごいって、もし機会があればひなみちゃんのヴァイオリン聴いてみたいな」
「あ、えっと、機会が、あれば・・・」
ひなみは目を泳がせながらそう言った。そんな様子にいづみと綴は少し疑問を持ったが、恥ずかしがっているのだろうとあまり気に留めなかった。
(天音にいたときみたいに、落ちこぼれって思われたくない)
実際、ひなみの演奏は落ちこぼれなどではないが、今までの環境がひなみ自身にそう思わせてしまう。
卒業コンサートのあの日、星川に前向きな言葉をかけられてもそれを実感できていない時点で、どん底に落ちた自信はそう簡単に戻ってこない。
「あ、そろそろ準備しなきゃ」
そう言っていづみは慌ただしく外出の準備を始めた。ほかにも朝からアルバイトがある人や仕事がある人も次々に準備を終えて出かけて行った。
「行ってきます」
「「いってらっしゃい」」
今日何度目かのあいさつを交わす。出かける人は、みんなもれなく「行ってきます」を言うし、ほかの人もちゃんと「いってらっしゃい」を返す。
ひなみもみんなに倣って一緒に「いってらっしゃい」と言って見送った。
「じゃあひなみ、そろそろ私も出るけど、大丈夫?」
「うん、今日は私も出かけようと思ってるから」
手伝いを一度中断してひなみは玄関までいづみを見送りに来た。いづみは仕方ないにしても引っ込み思案な妹を残して出かけるのは少し気が引けていたが、ひなみが出かけると聞いて違う方でまた心配になった。
「そうなの?一人で大丈夫?」
「ここから学校まで実際に行ってみようと思ってるだけだから大丈夫だよ、お姉ちゃんこそ気を付けてね」
「そっか、わかった、何かあったら出れるかわからないけど連絡して、じゃあ行ってきます!」
「「いってらっしゃい」」
見送りを終えてリビングに戻ると机には二人分の朝食が準備されていた。しかし、席にはだれもついていない。疑問に思っているとひなみが戻ってきたことに気づいた綴が声をかける。
「今日は朝から手伝いありがとな、ごはん一緒に食べよう」
やさしくひなみの頭をなでながら綴は微笑みかける。
「はい」
返事をしながらひなみはなぜかわからないが少し泣きそうなった。
それは今までの一人ぼっちだった環境と全く違うことに安心したからなのか、自分の頭をなでる綴の手にもう何年も会っていない父の手を感じたからなのか、それとも―――。