【新しいつぼみ】5話
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あの話し合いの次の日、早速春組の稽古の後に使わせてもらうことになったひなみは、稽古場の真ん中でヴァイオリンケースと楽譜を広げていた。しかし、一向に練習を始めない。
その理由は、稽古が終わったにも関わらず、ずっとこちらを見つめている春組メンバーといづみだった。
「あの・・・なにかありましたか?」
「せっかくだしひなみちゃんの演奏聴いてみたいなって思って」
嘘偽りのないキラキラした笑顔でそう言われてしまったら断ることができない。その笑顔が咲也の笑顔だったらなおさら…。
「私も久しぶりに聴きたいな~」
「お姉ちゃんまで…」
「あんたが聴きたいなら一緒に聴く」
(逃げられない…)
「じゃ、じゃあちょっとだけ…」
結局、押しに負けてしぶしぶヴァイオリンを構えた。
ひなみが演奏を始めた途端に稽古場の空気が変わる。ヴァイオリンの音がのびやかに広がって色づいていく。
(すごい…今までの稽古場が全然違うように見える…)
(暖かい光に包まれてるみたい…)
聴いている人はみんな手を止めてひなみの演奏に聴き入った。
天音では誰として演奏をじっくり聴いてくれる人はいなかった。発表会でも学内コンクールでさえ誰も聴いてくれなかった。
演奏が終わるとぱちぱちとたくさんの拍手がひなみに降り注いだ。
「ひなみちゃんすごい‼とっても素敵だった‼」
「ヒナミ、ヴァイオリンとても上手ネ!感動したヨ‼」
ひなみを取り囲んでみんなが次々に賞賛を送る。
「いえ、私はまだまだ全然です、もっと練習しなきゃ…」
みんなが本気で心の底から賞賛を送っているのに、ひなみは今までにないほどの暗い顔をする。その時、急に稽古場の扉が開いて大きな声が響いた。
「いやいや、ひなみクンの演奏は本当に素晴らしいものだね、天音学園にいたことも納得だよ」
「ちょ、誉さん!」
「え?え?」
声の犯人は有栖川誉だった。悠々と歩いてきてひなみの目の前に止まる。それに続いてぞろぞろと劇団員が中に入ってくる。
「なんで、誉さんたちがそこに…」
「実は…」
いづみの疑問に答えたのは紬だった。
春組だけでなくカンパニーのみんな、声に出さずとも心の中ではひなみの演奏が気になって仕方がなかった。そのため、稽古場の前でこっそりと聴きに行こうと画策したところ、考えることは皆同じだったようで、来た頃にはもう稽古場の扉前にみんな大集合していたというわけである。
「にしたって集まりすぎだろ…」
「でもでも!それじゃあ春組だけずるいっスよ!俺っちだって演奏聴きたいっス!」
「普通に聞きに来るんじゃだめだったんですか…」
「ひなみちゃん、引っ込み思案だからあんまり大勢で行ったらかわいそうだと思って」
「東さんまで…」
「そんなことより、さっきからひなみ固まってるけど大丈夫?」
幸の言葉でみんなが一斉に目を向けると、先ほどから一ミリも動かずに固まってるひなみがいた。
「ああ‼ひなみ‼息して‼息‼」
「まさかの呼吸停止⁉」
「はっ!ご、ごめんなさい、びっくりしちゃって…」
「驚きすぎだろ…」
「そりゃ、驚くだろ、全員集合じゃねえか」
まさかの全員集合にひなみは動揺しまくりだった。しかし、その動揺は人数の多さにではない。今までこんなに自分の演奏に注目してくれた人が家族以外にいただろうか、どうして私なんかの演奏がそんなに気になっているのかそんな動揺だった。