夢小説内でのお名前の変更設定
金色猫とタンゴ
貴女のお名前は?
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「ックシ……!」
張り詰めていた緊張が解けたからなのか雨に濡れ続けたからなのか漏れたくしゃみに、小さく身を震わせた夢子はまだ少し湿り気を帯びる髪の毛を見やると小さく溜息を吐きだした。
今日はもう帰ろうか、と未だゆるゆるとその背を撫でてくれているマルコに、抱き締められた状態からどうその腕を解いてもらおうかと言葉を悩ませていた夢子は不意に解かれたその腕に小さく安堵の息を漏らすとポスリ、と頭に被せられたバスタオルにパチリと目を瞬かせた。
「随分体が冷えちまったねぃ。風呂入ってるから湯に浸かってゆっくり体温めろよぃ」
そう言ってベッドサイドから立ち上がったマルコに、頭に被せられたタオルを退けクローゼットを漁るマルコを不思議そうに見やった夢子は、ぇ…?と小さく声を漏らすと遠慮がちにそんなマルコの背へと声をかけていた。
「あ、の……マルコ……?」
「ちとデケェがこれ着て寝ろよぃ」
そうかけた声に、振り向きざまに投げられたグレーのスウェットを受け取った夢子はは…?と声を漏らすと手元のスウェットと自分を見やるマルコを見て、再び目を瞬かせた。
「マ、マルコ……?私もう帰るから……大丈夫、だよ……?」
「帰るったってお前ぇ……家にゃ帰るつもりはねぇんだろぃ?こんな時間帯に外ほっつき歩いてて変な輩にからまれたらどうすんだぃ?」
良いから泊ってけ、と返そうとしたスウェットを無理やり押しつけてきたマルコに、どこか呆れたように自分を見下ろすマルコを見やった夢子はパチパチと目を瞬かせると手元のスウェットへと視線を落とし呆けたように再び目の前のマルコを仰ぎ見た。
「あ、りが……とう?」
さも当然の如く泊っていけ、と言った目の前の『男性』に、彼の中に友人の家に泊る、と言う選択はなかったんだろうか…?と小首を傾げた夢子は風呂入れよぃ、と押された背中にベッドから立ち上がるとバスルームへと向かったのだった。
案の定浴室に置かれているシャンプーやリンスは男物で、それでもソレ等を遠慮なく使え、と説明していったマルコを思い出した夢子は青いボトルのソレを見やるとぬるま湯が出ていたシャワーのコックを捻りシャンプーを適量手の平に落とした。
「女慣れ…してんのかな……」
そりゃ良い歳だしなぁ、と良く泡立つシャンプーに、ワシャワシャと頭を洗っていた夢子は有名企業に勤めるマルコにそう小さく声を漏らすと知らず知らずのうちに溜息を吐きだしていた。
まるで本当に自分のことなどなんとも思っていないふうなマルコの態度に、一応女なんだけどな…と零した夢子は洗い終わった髪をタオルで包みトプリ、と湯船へと浸かった。
じんわりと体に広がる温かい熱に、相当体が冷えてたな、と首元まで浸かった夢子は浴室の天井を見上げると一つ息を吐きだし広い浴槽に足をウン、と伸ばすと目を閉じた。
モンキー家とはまた少し違う浴室に、一人暮らしなのに贅沢だな、と余裕で二人は入れるであろうそのバスルームに閉じていた目を開けた夢子は此処の家主の顔を思い出すと僅かにその頬を緩めた。
ひょんなことから知り合ったマルコに、今時ではさほど珍しくもない非行少女に構う彼にモノ好きだな…と小さく零した夢子は随分と温まった体に、ぼんやりとしてきた意識をはっきりさせるべく浴槽から立ち上がった。
「お風呂……ありがと」
「おー、ちゃんと温まったかぃ?」
PCに向かい何か作業をするマルコに、自分を振り返りそう声をかけたマルコを見やった夢子は眼鏡をかけるマルコにパチリ、と目を瞬かせるとそんなマルコへと歩み寄った。
「メガネ……。目、悪いの………?」
「あー……ちぃとな、遠視なんだよぃ」
そう物珍しげに自分を見下ろす夢子に、かけていた眼鏡を外したマルコは書きかけだったファイルを保存するとPCの電源を落した。
「あぁ、老が「少し遠視が混じってきただけだぃ」」
なるほど、と納得したように声を漏らした夢子はそんな自分の声を遮りジロリ、と自分を睨みつけたマルコを見やるとフフ、と楽しげに破顔しその手から眼鏡をサッと取りあげた。
「うっわ……なにコレ、視界がぼやける……」
「目ぇ良いヤツがかけると視力が落ちるよぃ」
自分から掠め取った眼鏡をかけうわぁ…、と声を漏らす夢子に、呆れたようにそう言って溜息を吐きだしたマルコは夢子の顔には少しサイズの大きいソレに、返せ、とそんな夢子の顔からヒョイ、と眼鏡を抜き取った。
PCを扱う時しか使わないのであろうその眼鏡に、大事そうにソレを眼鏡ケースへと仕舞うマルコを見やった夢子は、そのケースに描かれるレイバンのロゴに流石一流企業の部長…と小さく声を漏らすと不意に自分へと伸びてきた手にパチリと目を瞬かせた。
「早く髪乾かさねぇと風邪引くよぃ」
「う、わっ……?!」
そう言ってグシャグシャ!と無遠慮にタオルで撫でつけられた頭に、小さくたたらを踏んだ夢子はそんなマルコから逃げるよう後ろへと後退すると乱れた髪の毛へと手を触れた。
「乱暴!髪の毛はもっと労わんないと駄目なんだからね!」
「髪は女の命ってかぃ」
悪いねぃ、と抗議の声を上げた自分にそう楽しげに言葉を返したマルコはもう一度その頭をグシャグシャ!と撫でつけるとテーブルに置いてあったドライヤーを夢子へと投げ渡した。
「その辺のコンセント適当に使え。俺ぁ風呂に入ってくるからねぃ」
「洗いやすそうな髪で羨ましいね!!」
乱暴!!と声を上げ投げたドライヤーをキャッチした夢子に、部屋着を手にバスルームへと向かおうとしていたマルコはピタリ、とその歩みを止めるとにこやかにそんな夢子を振り返った。
「御蔭さまでねぃ、髪の手入れには困らねぇよぃっ!!」
「ふぐっ……?!!」
そう言ってムギュッ、と夢子の鼻を摘まんだマルコは情けない声を漏らしペシペシと自分の腕を叩く夢子に、そんな夢子を見やると呆れたように小さく苦笑を洩らしパッとその手を離してやった。
「まったく……減らず口がたたけるってぇのは元気な証拠だな」
「お、御蔭さまで……っ!!」
そう言ってどこか優しい笑みを浮かべたマルコに、言葉を詰まらせた夢子は痛む鼻を押さえるとそんなマルコからふぃ、と顔を背けた。
ソレに小さく喉を震わせたマルコは髪乾かせよぃ、とそんな夢子の頭を撫でつけるとそのままバスルームへと消えていったのだった。
綺麗に乾いた髪の毛に、丁度乾かし終わった髪を手櫛で整えていた夢子はガチャリ、と開いたリビングの扉にバスルームから帰ってきたマルコを振り返った。
「………萎れたバナ「今度ぁ拳骨にするが、良いかぃ?」……ナンデモナイデス」
肩にバスタオルをかけリビングへと戻ってきたマルコに、濡れてへたるそのマルコの髪の毛を見やった夢子は、ひどく爽やかな笑みを浮かべ拳を握りしめたマルコを見やるとサッとその頭を手でガードした。
ソレに小さく舌打ちを零したマルコは肩にかけていたタオルで雑に髪を拭くとそのままキッチンへと歩き出す。
開いた冷蔵庫に、ソコから缶ビールとペットボトルを取り出すマルコを見やった夢子はもうすぐ日付の変わりそうな時計を見やると、これから飲むの…?と缶ビール片手に隣に腰かけたマルコへと視線を向けた。
「いっつもこんぐれぇの時間に飲んでるから問題ねぇよぃ」
そう言ってホレ、と渡されたペットボトルの水に、ありがと…とソレを受け取った夢子はどこか楽しげにプルタブを開けるマルコを見やると手元のペットボトルへと視線を落した。
「あー…のさ、マルコって……私のこと女として見てる……?」
「っ、は………?」
ゴクゴクと美味しそうにビールを仰ぐマルコに、そう小さく声を漏らした夢子はそう言った自分にゴフッ、と咳き込み呆けたように自分を見やったマルコから視線を逸らすと言葉を濁らせた。
「や…、だって何の躊躇いもなく泊ってけ、とか言うし………。そりゃマルコからしてみれば18なんてガキなんだろうけど、一応私、女…なん、だけど……」
そう言ってますます顔を俯けさせた夢子に、微かに紅く染まるその耳を見やったマルコはあー、と声を漏らすとグビリ、とビールを一口飲みそんな夢子へと視線を向けた。
「なんだぃ?襲ってもらいてぇのか?」
「っ~~~!!!ちっがう、バカっ!!!変態っ!!」
そう言って自分の後ろに腕を回し上から顔を覗きこんできたマルコに、どこか殊勝な笑みを浮かべるマルコを見やった夢子はその顔を真っ赤に染めるとグイッ、とそんなマルコの顔を押しのけた。
「ハハッ!冗談だよぃ。別にお前ぇを女として見てねぇわけじゃぁねぇが……頼りにしてくれてる相手の信頼を裏切るほど、俺ぁ馬鹿な男じゃねぇよぃ」
そう言って安心しろ、とその頭を撫でたマルコにグッと言葉を詰まらせた夢子はそんなマルコから顔を背けると手にしていたペットボトルのキャップを少々乱暴に捻ったのだった。
「さて、体が冷える前に寝ちまえよぃ。俺ぁまだもう少し仕上げなきゃいけねぇ仕事が残ってるからねぃ」
先に寝ろ、と暫くマルコと他愛ない話をしていた夢子は、そう言ってソファーから立ち上がったマルコにキョトリ、と目を瞬かせるとグルリとリビングを見回した。
「寝るって、ソファーで良い?」
タオルケットがあると助かる、と広いリビングに人一人は余裕で寝ころべそうなソファーを見やりそう言った夢子に、は…?と呆けたように声を漏らしたマルコはそんな夢子を見下ろすと呆れたようにその眉根に皺を寄せた。
「さっき寝てたベッドがあるだろぉよぃ、ソコで寝ろ」
「は……?だってアレマルコの部屋でしょ?」
そう言って寝室を指差したマルコは、なに言ってんの?とでも言いたげに自分を見上げる夢子を見下ろすと私はココで寝る、と言いだした夢子のおでこをペシリと叩いた。
「っ??な、んで……叩くのさ……!」
「お前ぇは阿呆か、女をこんな狭ぇソファーに寝かせるわきゃねぇだろぃ」
良いからベッドで寝ろ、と額を叩いたことに抗議の声を上げた夢子の腕を掴みソファーから立ち上がらせたマルコは、大丈夫だって!!と何故か意固地になる夢子に困ったように眉を下げると小さく溜息を吐きだした。
「風邪でも引いたらどうすんだぃ」
「そんな柔じゃない!だいたい泊めてもらってんのに家主のベッドまで占領するわけにいかないじゃん!!」
良いからココで寝る!と自分を睨み上げた夢子に、意地っ張りが…、とどうにも変なところで気を遣う目の前の少女を見やったマルコは一つ息を吐きだすとそんな夢子の体をヒョイ、と担ぎあげた。
「っ?!!!ちょっ、なに?!離して……!!」
「五月蠅ぇよぃ。俺ぁ今日無駄な体力使って疲れてんだよぃ、大人しく言うこと聞きやがれ」
この不良娘、とガチャリと開けた寝室の扉に、肩に担いでいた夢子を少々乱暴にボスリ、とベッドへと降ろしたマルコはそう言った自分に、ヴッ…と言葉を詰まらせ自分から視線を逸らした夢子を見下ろすとハァ、と小さく溜息を吐きだした。
「つ、疲れてるなら余計にベッドで寝た方が良いじゃん………」
私は疲れてない…、と小さく零しどこか不貞腐れたような表情を浮かべた夢子に、三度溜息を吐きだしたマルコはグシャリ、とそんな夢子の頭を撫でつけると徐に夢子へと顔を近づけた。
「それともなにかぃ……?一緒のベッドで寝て欲しいのかぃ……?」
「っ~~~?!!だ、誰もそんな事言ってないっ!!変態っ!!パイナップルッ!!!」
そう言ってクツリ、と喉を震わせ口元に弧を描いたマルコに、その顔を真っ赤に茹で上がらせた夢子は近くに置いてあった枕を引っ掴むとボフン!とそんなマルコの顔面に投げつけていた。
「~~~っ、お、前ぇは……!!だったら大人しく寝やがれクソガキ!!」
「うぐっ……?!!」
顔面に直撃した自分の枕に、数歩たたらを踏んだマルコはその枕を夢子の顔へと押し付けるとそう声を上げ寝室を出ていってしまった。
バタン!!と閉まった扉に、去り際お休みよぃ!!と捨て台詞のように言葉を投げてきたマルコを見やった夢子は、シン…と静まった寝室に小さく息を吐きだすとオズオズとマルコのベッドへと横たわった。
(っ……、慣れない……)
肩まで被った厚めの掛け布団に、ソコから微かに漂う男物の香水の匂いと煙草の臭いに、タバコ吸うのか…と小さく零した夢子は時折見せるマルコの挑発的な笑みを思い出すとグッと口を引き結んだ。
自分の周りに居るどの大人とも違うマルコのその態度に、調子狂うな…と声を漏らした夢子はそれでもどこか嬉しそうにその口元に小さく笑みを浮かべると目を閉じたのだった。
――――
トントントン、とキッチンから聞こえてきた包丁の音と、鼻をくすぐった味噌の良い匂いに目を覚ましたマルコは、体を横たえていたソファーから身を起こすと寝ぼけ眼でキッチンへと視線を向けた。
黄色いエプロンを身に着けキッチンに立つ女の後ろ姿に、まだ寝ぼけてんのか…?とその眉根を小さく寄せたマルコはあ、と声を上げ自分を振り返ったその女性にキョトリと目を瞬かせた。
「おはよ。ご飯、あと少しで出来るから」
そう言って自分へと声をかけてきたのはよく知った少女で、長い金髪をポニーテールに綺麗にまとめ再びまな板へと向き直った夢子に、あ、ぁ…と呆けたように声を漏らしたマルコは昨晩の出来事を思い出すとあぁ…、と再び声を漏らし小さく頭をかいた。
(そういやぁ……泊めたんだったな……)
すっかり忘れていたその事に、手際良くキッチンを行き来する夢子を見やったマルコは、普段サッチが愛用しているエプロンを身に着け料理をする夢子の後ろ姿を見やると、複雑そうに頭をかき顔を洗うべくソファーから立ち上がった。
「冷蔵庫の中のモノ勝手に使ったけど良かった……?」
「あぁ、別に構わねぇよぃ」
そう言ってテーブルへと朝食を並べた夢子に、卵焼きに鮭の塩焼きに味噌汁に、とバリエーションの豊富な朝食を見やったマルコはそう言葉を返すと小さく感嘆の声を漏らしていた。
綺麗な焼き目の付く卵焼きに、大根おろし付きの焼き鮭を見やったマルコは良くこれだけ作れるな…、とまだ18かそこらの目の前の子供を見やると、ハイ、と渡された箸を受け取った。
「あ、あと卵賞味期限ギリギリだった。早めに使った方が良いよ」
「お前ぇは主婦かよぃ……」
そう言っていただきます。と正面のイスに腰掛け手を合わせた夢子に、そう言葉を返したマルコはどこか呆れたように苦笑を洩らすと同じように手を合わせ目の前の卵焼きへと箸を伸ばした。
「………美味ぇ」
「ちょっと………卵焼きくらいフツーに作れますー」
マジか…、と出汁巻き卵だったソレに思わずそう声を漏らした自分に、心外だ、とでも言いたげに自分を見やった夢子へと視線を向けたマルコはハハ、と笑うと味噌汁へと手を伸ばした。
「冷蔵庫、なにも入ってなかったろぃ」
「あー……、うん。ネギさえなかった冷蔵庫になにを具材に味噌汁作ろうかと……」
乾燥麩があったらから助かった、と味噌汁に浮かぶソレを箸で摘まみ上げた夢子に、だろうねぃ、と楽しげに言葉を返したマルコは程良い塩気の味噌汁に再び美味い、と声を漏らしていた。
「料理は、よく作んのかぃ?」
「あー、まぁ……。幼馴染の家親いないから、近所のオバちゃんと作ったり、あと、まぁ………父親が『あんなん』だから自分のご飯は自分で作れるようにならなきゃ生きていけなかったし」
自然と出来るようになってた、とどこか言いづらそうにそう声を漏らした夢子に、そうかぃ、と言葉を返したマルコは沈黙の落ちた食卓に、視線をテーブルへと落とす夢子をチラリと見やり味噌汁へと口を付けた。
「良い嫁さんになるねぃ」
「ブッ……?!!はっ……?!」
そうポツリと零した言葉に飲みかけていた味噌汁を小さく噴き出した夢子に、慌てた様に口元を拭った夢子を見やったマルコはクツクツと肩を震わせるとそんな夢子へとティッシュを差し出した。
「動揺しすぎだ。昔から言うだろぃ?『男は胃袋で掴め』ってよぃ」
そう言って美味ぇよぃ、と自分の手料理を褒めるマルコに、言葉を詰まらせた夢子はふぃ、とそんなマルコから顔を背けるとひどく気恥ずかしそうにありがと、と言葉を返した。
「でもその肝心の料理を男に教えてもらってんだけどね………」
「なんだ、彼氏がいんのかぃ?」
へぇ、そりゃ凄ぇな。とどちらにたいしての『凄い』なのかそう言ったマルコに、そんなわけないじゃん、と言葉を返した夢子はいつの間にか綺麗にたいらげられているマルコの食器を見やると食事を再開させた。
「ガッコの後輩。料理の上手い男子が居て、教えてもらったりしてる。あとバイト先のチーフ」
見た目によらず料理が激ウマ、とバイト先で働いているサッチの顔を思い浮かべた夢子は男のくせに、と小さく悪態をつくと最後の一口を口へと放り込んだ。
「まぁそうやって周りに何かを教えてくれるヤツがいるってぇのは良い事だよぃ」
良いダチを持ったねぃ、とその口元に笑みを浮かべるマルコに、小さく頷いた夢子は御馳走さん、と手を合わせたマルコを見やると、同じように手を合わせ御馳走様でした、と声を漏らした。
「服は乾いてるかぃ?」
「ん、問題ない」
「ちゃんと学校行けよぃ」
「…………。まぁ、……ウン」
「………今の間はなんだよぃ」
「い、行くっ!ちゃんと行くから……!!」
かけられる声にどこか気恥ずかしそうにそう言葉を返していた夢子は、最後にかけられたその言葉に、返事を鈍らせた自分の頬を摘まみ上げたマルコに小さく批難の声を上げていた。
ソレにパッと夢子の頬から手を離したマルコは、もうすっかり腫れも引いた夢子の右頬を見やると不貞腐れた様に靴を履く夢子の頭をポンポン、と撫でやった。
「忘れもんはねぇかぃ?」
「手ぶらで家飛び出してきたからダイジョブ」
そう言って皮靴を履き玄関口に置いていた鞄を手に取ったマルコに、玄関の扉を開いて自分を振り返ったマルコを見やった夢子はどこかバツが悪そうに言葉を返すと、小さく苦笑を洩らしたマルコを見やり、そんなマルコと共に家を後にした。
「気ぃつけて行ってこいよぃ」
「う、ん……。マルコも、会社……ガンバッテ」
そう言ってクシャリ、と自分の頭を撫で柔和な笑みを浮かべたマルコに、ガレージへと歩き出したマルコの背へとそう声をかけた夢子はそんな自分へと後ろ手を振ったマルコを見やると、小さく笑みを零し学校へと向かうべくマルコの家を後にしたのだった。
例えば意識したとして
SSオマケ→
仕事を終え夜遅くに家へと帰宅したマルコは、気だるい体に一つ溜息を吐き出すとキッチンへと向かった。
一杯飲んで早々に寝てしまうか、と冷蔵庫を開けたマルコは、缶ビール以外何も入っていなかった冷蔵庫の中央にチョコン、と鎮座するおにぎりを見やるとキョトリと目を瞬かせた。
丁寧にもラップに包まれ置かれるそのおにぎりに、夢子か…?と小さく声を漏らしたマルコはソレを冷蔵庫から取り出すとそのラップに貼り付けられているメモ用紙を見てふと、その口元に笑みを浮かべた。
『不摂生はダメ!!』と可愛らしい字で書かれたメモ用紙のその言葉に、男の一人暮らしなんてこんなもんだよぃ、と誰に言うでもなく言葉を漏らしたマルコはソレと缶ビールを手にリビングへと歩き出す。
「あぁ……美味ぇな……」
ドカリ、と腰掛けたソファーに、早速そのおにぎりを口へと頬張ったマルコは、冷えて少し固くなったお米に、それでも程良く塩気の利いたそのおにぎりにそう小さく零すとゆるり、と笑みを零した。
きっと冷蔵庫に何も入っていなかったことに自分の食生活が心配になったんであろう少女のその気遣いに、白米の中から出てきた一口サイズの鮭を見やったマルコは抜かりねぇな…、と小さく感嘆の声を漏らすと静かなリビングへと視線を向けた。
「女として、ねぃ………」
今朝までソコに居た少女の影に、昨日の夢子とのやり取りを思い出しそう小さく零したマルコは、キッチンへと視線を向けると、そこで料理をする夢子の姿を思い出し小さく声を詰まらせるとその口元にソッと手を当てた。
「あー………、ちぃと、マズイな……」
今まで世話の焼ける少女としてしか見ていなかった夢子の存在に、不意に頭にチラついた『女』としての夢子の姿にそう小さく声を漏らしたマルコは、その邪な考えを振り払うよう小さくかぶりを振ると残りのおにぎりを口へと詰め込みソファーから立ち上がった。
「疲れてんのかねぃ……」
さっさと寝ちまうか…、と『ソレ』を否定するよう小さく声を漏らしたマルコはプルタブさえ開けていない缶ビールを再び冷蔵庫へと仕舞うと足早にバスルームへと向かったのだった。
張り詰めていた緊張が解けたからなのか雨に濡れ続けたからなのか漏れたくしゃみに、小さく身を震わせた夢子はまだ少し湿り気を帯びる髪の毛を見やると小さく溜息を吐きだした。
今日はもう帰ろうか、と未だゆるゆるとその背を撫でてくれているマルコに、抱き締められた状態からどうその腕を解いてもらおうかと言葉を悩ませていた夢子は不意に解かれたその腕に小さく安堵の息を漏らすとポスリ、と頭に被せられたバスタオルにパチリと目を瞬かせた。
「随分体が冷えちまったねぃ。風呂入ってるから湯に浸かってゆっくり体温めろよぃ」
そう言ってベッドサイドから立ち上がったマルコに、頭に被せられたタオルを退けクローゼットを漁るマルコを不思議そうに見やった夢子は、ぇ…?と小さく声を漏らすと遠慮がちにそんなマルコの背へと声をかけていた。
「あ、の……マルコ……?」
「ちとデケェがこれ着て寝ろよぃ」
そうかけた声に、振り向きざまに投げられたグレーのスウェットを受け取った夢子はは…?と声を漏らすと手元のスウェットと自分を見やるマルコを見て、再び目を瞬かせた。
「マ、マルコ……?私もう帰るから……大丈夫、だよ……?」
「帰るったってお前ぇ……家にゃ帰るつもりはねぇんだろぃ?こんな時間帯に外ほっつき歩いてて変な輩にからまれたらどうすんだぃ?」
良いから泊ってけ、と返そうとしたスウェットを無理やり押しつけてきたマルコに、どこか呆れたように自分を見下ろすマルコを見やった夢子はパチパチと目を瞬かせると手元のスウェットへと視線を落とし呆けたように再び目の前のマルコを仰ぎ見た。
「あ、りが……とう?」
さも当然の如く泊っていけ、と言った目の前の『男性』に、彼の中に友人の家に泊る、と言う選択はなかったんだろうか…?と小首を傾げた夢子は風呂入れよぃ、と押された背中にベッドから立ち上がるとバスルームへと向かったのだった。
案の定浴室に置かれているシャンプーやリンスは男物で、それでもソレ等を遠慮なく使え、と説明していったマルコを思い出した夢子は青いボトルのソレを見やるとぬるま湯が出ていたシャワーのコックを捻りシャンプーを適量手の平に落とした。
「女慣れ…してんのかな……」
そりゃ良い歳だしなぁ、と良く泡立つシャンプーに、ワシャワシャと頭を洗っていた夢子は有名企業に勤めるマルコにそう小さく声を漏らすと知らず知らずのうちに溜息を吐きだしていた。
まるで本当に自分のことなどなんとも思っていないふうなマルコの態度に、一応女なんだけどな…と零した夢子は洗い終わった髪をタオルで包みトプリ、と湯船へと浸かった。
じんわりと体に広がる温かい熱に、相当体が冷えてたな、と首元まで浸かった夢子は浴室の天井を見上げると一つ息を吐きだし広い浴槽に足をウン、と伸ばすと目を閉じた。
モンキー家とはまた少し違う浴室に、一人暮らしなのに贅沢だな、と余裕で二人は入れるであろうそのバスルームに閉じていた目を開けた夢子は此処の家主の顔を思い出すと僅かにその頬を緩めた。
ひょんなことから知り合ったマルコに、今時ではさほど珍しくもない非行少女に構う彼にモノ好きだな…と小さく零した夢子は随分と温まった体に、ぼんやりとしてきた意識をはっきりさせるべく浴槽から立ち上がった。
「お風呂……ありがと」
「おー、ちゃんと温まったかぃ?」
PCに向かい何か作業をするマルコに、自分を振り返りそう声をかけたマルコを見やった夢子は眼鏡をかけるマルコにパチリ、と目を瞬かせるとそんなマルコへと歩み寄った。
「メガネ……。目、悪いの………?」
「あー……ちぃとな、遠視なんだよぃ」
そう物珍しげに自分を見下ろす夢子に、かけていた眼鏡を外したマルコは書きかけだったファイルを保存するとPCの電源を落した。
「あぁ、老が「少し遠視が混じってきただけだぃ」」
なるほど、と納得したように声を漏らした夢子はそんな自分の声を遮りジロリ、と自分を睨みつけたマルコを見やるとフフ、と楽しげに破顔しその手から眼鏡をサッと取りあげた。
「うっわ……なにコレ、視界がぼやける……」
「目ぇ良いヤツがかけると視力が落ちるよぃ」
自分から掠め取った眼鏡をかけうわぁ…、と声を漏らす夢子に、呆れたようにそう言って溜息を吐きだしたマルコは夢子の顔には少しサイズの大きいソレに、返せ、とそんな夢子の顔からヒョイ、と眼鏡を抜き取った。
PCを扱う時しか使わないのであろうその眼鏡に、大事そうにソレを眼鏡ケースへと仕舞うマルコを見やった夢子は、そのケースに描かれるレイバンのロゴに流石一流企業の部長…と小さく声を漏らすと不意に自分へと伸びてきた手にパチリと目を瞬かせた。
「早く髪乾かさねぇと風邪引くよぃ」
「う、わっ……?!」
そう言ってグシャグシャ!と無遠慮にタオルで撫でつけられた頭に、小さくたたらを踏んだ夢子はそんなマルコから逃げるよう後ろへと後退すると乱れた髪の毛へと手を触れた。
「乱暴!髪の毛はもっと労わんないと駄目なんだからね!」
「髪は女の命ってかぃ」
悪いねぃ、と抗議の声を上げた自分にそう楽しげに言葉を返したマルコはもう一度その頭をグシャグシャ!と撫でつけるとテーブルに置いてあったドライヤーを夢子へと投げ渡した。
「その辺のコンセント適当に使え。俺ぁ風呂に入ってくるからねぃ」
「洗いやすそうな髪で羨ましいね!!」
乱暴!!と声を上げ投げたドライヤーをキャッチした夢子に、部屋着を手にバスルームへと向かおうとしていたマルコはピタリ、とその歩みを止めるとにこやかにそんな夢子を振り返った。
「御蔭さまでねぃ、髪の手入れには困らねぇよぃっ!!」
「ふぐっ……?!!」
そう言ってムギュッ、と夢子の鼻を摘まんだマルコは情けない声を漏らしペシペシと自分の腕を叩く夢子に、そんな夢子を見やると呆れたように小さく苦笑を洩らしパッとその手を離してやった。
「まったく……減らず口がたたけるってぇのは元気な証拠だな」
「お、御蔭さまで……っ!!」
そう言ってどこか優しい笑みを浮かべたマルコに、言葉を詰まらせた夢子は痛む鼻を押さえるとそんなマルコからふぃ、と顔を背けた。
ソレに小さく喉を震わせたマルコは髪乾かせよぃ、とそんな夢子の頭を撫でつけるとそのままバスルームへと消えていったのだった。
綺麗に乾いた髪の毛に、丁度乾かし終わった髪を手櫛で整えていた夢子はガチャリ、と開いたリビングの扉にバスルームから帰ってきたマルコを振り返った。
「………萎れたバナ「今度ぁ拳骨にするが、良いかぃ?」……ナンデモナイデス」
肩にバスタオルをかけリビングへと戻ってきたマルコに、濡れてへたるそのマルコの髪の毛を見やった夢子は、ひどく爽やかな笑みを浮かべ拳を握りしめたマルコを見やるとサッとその頭を手でガードした。
ソレに小さく舌打ちを零したマルコは肩にかけていたタオルで雑に髪を拭くとそのままキッチンへと歩き出す。
開いた冷蔵庫に、ソコから缶ビールとペットボトルを取り出すマルコを見やった夢子はもうすぐ日付の変わりそうな時計を見やると、これから飲むの…?と缶ビール片手に隣に腰かけたマルコへと視線を向けた。
「いっつもこんぐれぇの時間に飲んでるから問題ねぇよぃ」
そう言ってホレ、と渡されたペットボトルの水に、ありがと…とソレを受け取った夢子はどこか楽しげにプルタブを開けるマルコを見やると手元のペットボトルへと視線を落した。
「あー…のさ、マルコって……私のこと女として見てる……?」
「っ、は………?」
ゴクゴクと美味しそうにビールを仰ぐマルコに、そう小さく声を漏らした夢子はそう言った自分にゴフッ、と咳き込み呆けたように自分を見やったマルコから視線を逸らすと言葉を濁らせた。
「や…、だって何の躊躇いもなく泊ってけ、とか言うし………。そりゃマルコからしてみれば18なんてガキなんだろうけど、一応私、女…なん、だけど……」
そう言ってますます顔を俯けさせた夢子に、微かに紅く染まるその耳を見やったマルコはあー、と声を漏らすとグビリ、とビールを一口飲みそんな夢子へと視線を向けた。
「なんだぃ?襲ってもらいてぇのか?」
「っ~~~!!!ちっがう、バカっ!!!変態っ!!」
そう言って自分の後ろに腕を回し上から顔を覗きこんできたマルコに、どこか殊勝な笑みを浮かべるマルコを見やった夢子はその顔を真っ赤に染めるとグイッ、とそんなマルコの顔を押しのけた。
「ハハッ!冗談だよぃ。別にお前ぇを女として見てねぇわけじゃぁねぇが……頼りにしてくれてる相手の信頼を裏切るほど、俺ぁ馬鹿な男じゃねぇよぃ」
そう言って安心しろ、とその頭を撫でたマルコにグッと言葉を詰まらせた夢子はそんなマルコから顔を背けると手にしていたペットボトルのキャップを少々乱暴に捻ったのだった。
「さて、体が冷える前に寝ちまえよぃ。俺ぁまだもう少し仕上げなきゃいけねぇ仕事が残ってるからねぃ」
先に寝ろ、と暫くマルコと他愛ない話をしていた夢子は、そう言ってソファーから立ち上がったマルコにキョトリ、と目を瞬かせるとグルリとリビングを見回した。
「寝るって、ソファーで良い?」
タオルケットがあると助かる、と広いリビングに人一人は余裕で寝ころべそうなソファーを見やりそう言った夢子に、は…?と呆けたように声を漏らしたマルコはそんな夢子を見下ろすと呆れたようにその眉根に皺を寄せた。
「さっき寝てたベッドがあるだろぉよぃ、ソコで寝ろ」
「は……?だってアレマルコの部屋でしょ?」
そう言って寝室を指差したマルコは、なに言ってんの?とでも言いたげに自分を見上げる夢子を見下ろすと私はココで寝る、と言いだした夢子のおでこをペシリと叩いた。
「っ??な、んで……叩くのさ……!」
「お前ぇは阿呆か、女をこんな狭ぇソファーに寝かせるわきゃねぇだろぃ」
良いからベッドで寝ろ、と額を叩いたことに抗議の声を上げた夢子の腕を掴みソファーから立ち上がらせたマルコは、大丈夫だって!!と何故か意固地になる夢子に困ったように眉を下げると小さく溜息を吐きだした。
「風邪でも引いたらどうすんだぃ」
「そんな柔じゃない!だいたい泊めてもらってんのに家主のベッドまで占領するわけにいかないじゃん!!」
良いからココで寝る!と自分を睨み上げた夢子に、意地っ張りが…、とどうにも変なところで気を遣う目の前の少女を見やったマルコは一つ息を吐きだすとそんな夢子の体をヒョイ、と担ぎあげた。
「っ?!!!ちょっ、なに?!離して……!!」
「五月蠅ぇよぃ。俺ぁ今日無駄な体力使って疲れてんだよぃ、大人しく言うこと聞きやがれ」
この不良娘、とガチャリと開けた寝室の扉に、肩に担いでいた夢子を少々乱暴にボスリ、とベッドへと降ろしたマルコはそう言った自分に、ヴッ…と言葉を詰まらせ自分から視線を逸らした夢子を見下ろすとハァ、と小さく溜息を吐きだした。
「つ、疲れてるなら余計にベッドで寝た方が良いじゃん………」
私は疲れてない…、と小さく零しどこか不貞腐れたような表情を浮かべた夢子に、三度溜息を吐きだしたマルコはグシャリ、とそんな夢子の頭を撫でつけると徐に夢子へと顔を近づけた。
「それともなにかぃ……?一緒のベッドで寝て欲しいのかぃ……?」
「っ~~~?!!だ、誰もそんな事言ってないっ!!変態っ!!パイナップルッ!!!」
そう言ってクツリ、と喉を震わせ口元に弧を描いたマルコに、その顔を真っ赤に茹で上がらせた夢子は近くに置いてあった枕を引っ掴むとボフン!とそんなマルコの顔面に投げつけていた。
「~~~っ、お、前ぇは……!!だったら大人しく寝やがれクソガキ!!」
「うぐっ……?!!」
顔面に直撃した自分の枕に、数歩たたらを踏んだマルコはその枕を夢子の顔へと押し付けるとそう声を上げ寝室を出ていってしまった。
バタン!!と閉まった扉に、去り際お休みよぃ!!と捨て台詞のように言葉を投げてきたマルコを見やった夢子は、シン…と静まった寝室に小さく息を吐きだすとオズオズとマルコのベッドへと横たわった。
(っ……、慣れない……)
肩まで被った厚めの掛け布団に、ソコから微かに漂う男物の香水の匂いと煙草の臭いに、タバコ吸うのか…と小さく零した夢子は時折見せるマルコの挑発的な笑みを思い出すとグッと口を引き結んだ。
自分の周りに居るどの大人とも違うマルコのその態度に、調子狂うな…と声を漏らした夢子はそれでもどこか嬉しそうにその口元に小さく笑みを浮かべると目を閉じたのだった。
――――
トントントン、とキッチンから聞こえてきた包丁の音と、鼻をくすぐった味噌の良い匂いに目を覚ましたマルコは、体を横たえていたソファーから身を起こすと寝ぼけ眼でキッチンへと視線を向けた。
黄色いエプロンを身に着けキッチンに立つ女の後ろ姿に、まだ寝ぼけてんのか…?とその眉根を小さく寄せたマルコはあ、と声を上げ自分を振り返ったその女性にキョトリと目を瞬かせた。
「おはよ。ご飯、あと少しで出来るから」
そう言って自分へと声をかけてきたのはよく知った少女で、長い金髪をポニーテールに綺麗にまとめ再びまな板へと向き直った夢子に、あ、ぁ…と呆けたように声を漏らしたマルコは昨晩の出来事を思い出すとあぁ…、と再び声を漏らし小さく頭をかいた。
(そういやぁ……泊めたんだったな……)
すっかり忘れていたその事に、手際良くキッチンを行き来する夢子を見やったマルコは、普段サッチが愛用しているエプロンを身に着け料理をする夢子の後ろ姿を見やると、複雑そうに頭をかき顔を洗うべくソファーから立ち上がった。
「冷蔵庫の中のモノ勝手に使ったけど良かった……?」
「あぁ、別に構わねぇよぃ」
そう言ってテーブルへと朝食を並べた夢子に、卵焼きに鮭の塩焼きに味噌汁に、とバリエーションの豊富な朝食を見やったマルコはそう言葉を返すと小さく感嘆の声を漏らしていた。
綺麗な焼き目の付く卵焼きに、大根おろし付きの焼き鮭を見やったマルコは良くこれだけ作れるな…、とまだ18かそこらの目の前の子供を見やると、ハイ、と渡された箸を受け取った。
「あ、あと卵賞味期限ギリギリだった。早めに使った方が良いよ」
「お前ぇは主婦かよぃ……」
そう言っていただきます。と正面のイスに腰掛け手を合わせた夢子に、そう言葉を返したマルコはどこか呆れたように苦笑を洩らすと同じように手を合わせ目の前の卵焼きへと箸を伸ばした。
「………美味ぇ」
「ちょっと………卵焼きくらいフツーに作れますー」
マジか…、と出汁巻き卵だったソレに思わずそう声を漏らした自分に、心外だ、とでも言いたげに自分を見やった夢子へと視線を向けたマルコはハハ、と笑うと味噌汁へと手を伸ばした。
「冷蔵庫、なにも入ってなかったろぃ」
「あー……、うん。ネギさえなかった冷蔵庫になにを具材に味噌汁作ろうかと……」
乾燥麩があったらから助かった、と味噌汁に浮かぶソレを箸で摘まみ上げた夢子に、だろうねぃ、と楽しげに言葉を返したマルコは程良い塩気の味噌汁に再び美味い、と声を漏らしていた。
「料理は、よく作んのかぃ?」
「あー、まぁ……。幼馴染の家親いないから、近所のオバちゃんと作ったり、あと、まぁ………父親が『あんなん』だから自分のご飯は自分で作れるようにならなきゃ生きていけなかったし」
自然と出来るようになってた、とどこか言いづらそうにそう声を漏らした夢子に、そうかぃ、と言葉を返したマルコは沈黙の落ちた食卓に、視線をテーブルへと落とす夢子をチラリと見やり味噌汁へと口を付けた。
「良い嫁さんになるねぃ」
「ブッ……?!!はっ……?!」
そうポツリと零した言葉に飲みかけていた味噌汁を小さく噴き出した夢子に、慌てた様に口元を拭った夢子を見やったマルコはクツクツと肩を震わせるとそんな夢子へとティッシュを差し出した。
「動揺しすぎだ。昔から言うだろぃ?『男は胃袋で掴め』ってよぃ」
そう言って美味ぇよぃ、と自分の手料理を褒めるマルコに、言葉を詰まらせた夢子はふぃ、とそんなマルコから顔を背けるとひどく気恥ずかしそうにありがと、と言葉を返した。
「でもその肝心の料理を男に教えてもらってんだけどね………」
「なんだ、彼氏がいんのかぃ?」
へぇ、そりゃ凄ぇな。とどちらにたいしての『凄い』なのかそう言ったマルコに、そんなわけないじゃん、と言葉を返した夢子はいつの間にか綺麗にたいらげられているマルコの食器を見やると食事を再開させた。
「ガッコの後輩。料理の上手い男子が居て、教えてもらったりしてる。あとバイト先のチーフ」
見た目によらず料理が激ウマ、とバイト先で働いているサッチの顔を思い浮かべた夢子は男のくせに、と小さく悪態をつくと最後の一口を口へと放り込んだ。
「まぁそうやって周りに何かを教えてくれるヤツがいるってぇのは良い事だよぃ」
良いダチを持ったねぃ、とその口元に笑みを浮かべるマルコに、小さく頷いた夢子は御馳走さん、と手を合わせたマルコを見やると、同じように手を合わせ御馳走様でした、と声を漏らした。
「服は乾いてるかぃ?」
「ん、問題ない」
「ちゃんと学校行けよぃ」
「…………。まぁ、……ウン」
「………今の間はなんだよぃ」
「い、行くっ!ちゃんと行くから……!!」
かけられる声にどこか気恥ずかしそうにそう言葉を返していた夢子は、最後にかけられたその言葉に、返事を鈍らせた自分の頬を摘まみ上げたマルコに小さく批難の声を上げていた。
ソレにパッと夢子の頬から手を離したマルコは、もうすっかり腫れも引いた夢子の右頬を見やると不貞腐れた様に靴を履く夢子の頭をポンポン、と撫でやった。
「忘れもんはねぇかぃ?」
「手ぶらで家飛び出してきたからダイジョブ」
そう言って皮靴を履き玄関口に置いていた鞄を手に取ったマルコに、玄関の扉を開いて自分を振り返ったマルコを見やった夢子はどこかバツが悪そうに言葉を返すと、小さく苦笑を洩らしたマルコを見やり、そんなマルコと共に家を後にした。
「気ぃつけて行ってこいよぃ」
「う、ん……。マルコも、会社……ガンバッテ」
そう言ってクシャリ、と自分の頭を撫で柔和な笑みを浮かべたマルコに、ガレージへと歩き出したマルコの背へとそう声をかけた夢子はそんな自分へと後ろ手を振ったマルコを見やると、小さく笑みを零し学校へと向かうべくマルコの家を後にしたのだった。
例えば意識したとして
SSオマケ→
仕事を終え夜遅くに家へと帰宅したマルコは、気だるい体に一つ溜息を吐き出すとキッチンへと向かった。
一杯飲んで早々に寝てしまうか、と冷蔵庫を開けたマルコは、缶ビール以外何も入っていなかった冷蔵庫の中央にチョコン、と鎮座するおにぎりを見やるとキョトリと目を瞬かせた。
丁寧にもラップに包まれ置かれるそのおにぎりに、夢子か…?と小さく声を漏らしたマルコはソレを冷蔵庫から取り出すとそのラップに貼り付けられているメモ用紙を見てふと、その口元に笑みを浮かべた。
『不摂生はダメ!!』と可愛らしい字で書かれたメモ用紙のその言葉に、男の一人暮らしなんてこんなもんだよぃ、と誰に言うでもなく言葉を漏らしたマルコはソレと缶ビールを手にリビングへと歩き出す。
「あぁ……美味ぇな……」
ドカリ、と腰掛けたソファーに、早速そのおにぎりを口へと頬張ったマルコは、冷えて少し固くなったお米に、それでも程良く塩気の利いたそのおにぎりにそう小さく零すとゆるり、と笑みを零した。
きっと冷蔵庫に何も入っていなかったことに自分の食生活が心配になったんであろう少女のその気遣いに、白米の中から出てきた一口サイズの鮭を見やったマルコは抜かりねぇな…、と小さく感嘆の声を漏らすと静かなリビングへと視線を向けた。
「女として、ねぃ………」
今朝までソコに居た少女の影に、昨日の夢子とのやり取りを思い出しそう小さく零したマルコは、キッチンへと視線を向けると、そこで料理をする夢子の姿を思い出し小さく声を詰まらせるとその口元にソッと手を当てた。
「あー………、ちぃと、マズイな……」
今まで世話の焼ける少女としてしか見ていなかった夢子の存在に、不意に頭にチラついた『女』としての夢子の姿にそう小さく声を漏らしたマルコは、その邪な考えを振り払うよう小さくかぶりを振ると残りのおにぎりを口へと詰め込みソファーから立ち上がった。
「疲れてんのかねぃ……」
さっさと寝ちまうか…、と『ソレ』を否定するよう小さく声を漏らしたマルコはプルタブさえ開けていない缶ビールを再び冷蔵庫へと仕舞うと足早にバスルームへと向かったのだった。