夢小説内でのお名前の変更設定
金色猫とタンゴ
貴女のお名前は?
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随分と寒くなった夜の空気にバイトを終え家まで帰ってきた夢子は、灯りの灯っていない窓を見やると一つ息を吐きだし玄関の扉へと手を伸ばした。
すんなりと開いた扉に鍵もかかっていない扉に不用心だ、と小さく舌打ちを零した夢子は今日はどこかに飲みに出掛けたのか物音一つしない家の中を見やると靴を脱ぎリビングへと歩き出した。
パチリ、と付けた部屋の灯りに、ソコに広がるのは無数の酒瓶と空き缶の山で、飲んだまま放置されているソレ等を見やった夢子はその端整な眉を顰めさせ汚い…、と小さく零すとリビングをそのままに自室へと続く階段を上った。
上着に仕舞っていた部屋の鍵に、ソレをドアノブへと差し込み部屋の戸を開けた夢子は家を出る時と何ら変わっていない部屋の中を見やると手にしていた鞄をベッドへと放り投げた。
まるで自分の部屋だけが別空間のような家に、荒らしたら荒らしたままになっている各部屋を思い出した夢子はまた一つ溜息を吐きだすとガチャリ、と聞こえた玄関の扉の音に自室の扉を閉めると再び戸に施錠をし、階下を見下ろした。
酒の買い出しに行っていたのかコンビニ袋を引っ提げリビングへと向かう父親の背に、まだ飲むつもりか…と僅かにその眉を顰めさせた夢子は手にしていた鍵をポケットへと戻すと階段を降りはじめた。
リビングへと顔を覗かせた自分に、そんな自分を一瞥しコンビニ袋から缶ビールを取り出した父親を見やった夢子も、そんな父親から視線を外すと足元に転がっていた空き缶をコン、とつま先で蹴り上げた。
「そうやって……ジイちゃん達の金全部酒につぎ込む気かよ……」
「自分の親の金をどう使おうと、俺の勝手だろぉが……」
もう何年も前に亡くなった祖父母達に、その手元に残った遺産を使い酒を飲み続ける父親を見やった夢子は、そんな自分を一瞥し、ひどく煩わしげに舌打ちを零した父親に眉を顰めると呆れたように溜息を吐きだしていた。
「そんなだから、母さんにも逃げられんだよ」
「ア゛……?なんだとテメェ……もういっぺん言ってみろ」
そうひどく呆れたように言葉を漏らした夢子に、ピクリ、とその肩を震わせた父親は手にしていた缶をテーブルへと置くと苛立たしげにそんな夢子を見やり、その場からゆっくりと立ち上がった。
「酒飲んで暴力振るって、女に愛想尽かされても当然だっつってんだよ」
「テメェッ……!!親に向かってその口の利き方はなんだっ?!!誰のおかげで高校通えてると思ってんだっ!!あぁ?!俺が金出してやってるからだろぉがよぉっ!!!」
そう言って自分をあざ笑うかのようにその口端を釣り上げた夢子に、怒りに顔を真っ赤にさせた父親はそう声を荒げるとそんな夢子へと拳を振り上げていた。
大きく振りあげられた拳に、それを軽くサイドへと避けた夢子は苛立ったように自分を睨みつける父親にハッ、と失笑を浮かべると足元の缶をグシャリ、と踏み潰した。
「『俺が金出してやってる』……?その金も全部、ジイちゃん達が残してくれた金だろうがっ!!!アンタはこれっぽっちも金なんか出してやしないのに、なに偉そうなこと言ってんだよ!!」
そう声を荒げ自分を睨みつけた夢子に、その額に青筋を浮かべた父親は徐にそんな夢子の胸倉を掴み上げると力任せにその頬を殴りつけていた。
「グッ……!!!」
「ああ言えばこう言う……ホント可愛げのねぇ餓鬼だなっ!!テメェみてぇなクソガキ、俺ぁいらなかったんだよ!!どうせテメェもあの女が他の男とヤって出来た餓鬼だろっ?!!」
そう言って倒れ込んだ夢子の腹部を蹴りあげた父親に、小さく息を詰め咳き込んだ夢子は再び飛んできた父親の足を捉えるとそのまま横へと父親の体を押し倒した。
「ウグッ……この、クソガキっ……親になにしやがるっ……!!」
「私だってなっ……、できることならお前みたいなクソ親父のところになんか産まれたくなかったんだよっ!!!」
酔いも相まってか上手く立ち上がれない父親に、自分を睨み上げる父親を見下ろした夢子はそう声を荒げると近くに落ちていた缶を父親へと投げつそのまま家を飛び出していた。
シトシトと雨が降る夜の街に、傘を片手に帰路についていたマルコは小さく溜息を吐きだすと降り止まない雨に煩わしげに空を仰ぎ見た。
夕方に突然降りだした雨に、スーツが濡れる…と小さくゴチたマルコは早い事家に帰ろう、と正面へと視線を戻し、ふと、視界に入った路地裏へと視線を向けた。
小さな黒い塊が通路の隅に蹲っていることに気が付いたマルコは怪訝そうにその眉を寄せると、見たことのあるそのシルエットへと歩み寄った。
一歩二歩、と近づくにつれハッキリとしてくる影に、傘も差さず雨に打たれる少女の背を見やったマルコは水を含み重々しい印象を受けるその金色の髪へと視線を落とすと手にしていた傘をソッと夢子へと傾けた。
「傘も差さねぇで………こんなところでなにしてんだぃ、夢子」
「…………話しかけないで。今は、誰の顔も見たくないの」
かけた声に、小さく肩を震わせそう言葉を返した夢子を見やったマルコは、所々に赤い血の痕の浮かぶ夢子の腕を見やると小さく溜息を吐きだしそんな夢子の側へと腰を折った。
「………酷ぇ怪我じゃねぇかぃ。手当てしてやるから、ウチに来い」
「っ、話しかけんなっつったのが聞こえなかったのかよっ?!!」
触んじゃねぇ!!と自分へと伸ばされたマルコの手を払いのけ、そんなマルコを睨みつけた夢子に、立ち上がりざま振り抜かれた足を寸でのところで避けたマルコはその拍子に手から零れ落ちた傘を見やると、自分を睨みつける夢子へと視線を戻した。
「なにがあったか知らねぇが、誰かれ構わず当たり散らしてんじゃねぇよぃ」
餓鬼か…、と呆れたように声を漏らしたマルコはその眉根を苛立たしげに歪めた夢子を見やると振り上げられた拳を難なく受け止め、僅かにその眉を顰めさせた。
赤く腫れ上がった右頬に、血の滲む口元を見やったマルコはもう片方の手も自分へと振りあげた夢子に、小さく溜息を吐きだすと掴んでいた手をソッと離した。
「あぁそうだよっ!!餓鬼だよ、悪いかよっ?!!アンタに、私のなにが分かるってんだよっ!!!」
「わからねぇな、俺ぁお前じゃねぇからねぃ」
そう声を荒げ手を振り降ろした夢子に、そう言ってその拳を避けることなくその体で受け止めたマルコはドンッ!!と力一杯自分の胸を叩いた夢子の手を見やるとソッとそんな夢子へと手を伸ばした。
「溜め込むぐらいなら、全部吐け。お前がずっと抱えてたもん、吐いちまえ。ソレを受け止めきれねぇほど俺ぁ弱くねぇよぃ」
大丈夫だ、と優しく頭を撫でたマルコに、柔和な笑みを浮かべ自分を見下ろすマルコを見やった夢子は堪えていた涙を溢れさせるとその唇をいびつに歪めきつく唇を噛みしめた。
「私はっ、ただ………あ、愛してるって………言って欲しかった、だけ…なのにっ……」
要らないってなんだよっ!!と声を上げその場に泣き崩れてしまった夢子に、その体を抱きとめたマルコは声を上げ涙を流す夢子を見やるとその顔を悲痛に歪め、小さく震える夢子の体をゆるりと抱き締めた。
コポコポとサイフォンから上がる湯気に、珈琲カップをその側へと置いたマルコは自分のベッドで寝息を立てる夢子へと視線を落とすとソッとベッドサイドへと腰掛けた。
体力を消耗したのか泣き疲れたのか、あのあとすぐに眠りについてしまった夢子を背負って家へと帰ってきたマルコは、雨に濡れた髪の毛をタオルで拭くと夢子の顔に貼りつく金糸の髪の毛を避けソッとその頬を撫でやった。
体が冷えぬように、と粗方の雨水を拭いたその髪の毛に、真新しいガーゼが貼られる夢子の顔を見やったマルコは少し冷たい夢子の頬に、風邪を引きかねないな…と小さく眉根を寄せると自分の手の体温で温めるよう夢子の頬をソッと手の平で覆った。
じんわりと暖かくなっていく夢子の頬に、ただ静かに夢子の寝顔を見ていたマルコはピー、と部屋に鳴り響いた機械音に小さく肩を震わせると抽出の終わった珈琲へと視線を向けベッドサイドから立ち上がった。
珈琲を二つのカップに注ぎ、砂糖はどうしようか、と自分の家にあるかも定かではないソレにキッチンのラックをガサゴソと漁っていたマルコは小さく身じろいだ夢子の体にふと、視線をそちらへと向けると目を覚ました夢子を見やり、傍らに置いていたカップを手に夢子の元へと歩み寄った。
「目ぇ覚めたかぃ?」
「マルコ………私……っ!!ゴ、ゴメン私っ、マルコに迷惑かけっ………!!」
まだ意識がはっきりしていないのか、ぼんやりと宙を見つめる夢子にそう声をかけたマルコは、自分を見てそれまでの事を思い出したのかバッとベッドから起き上がった夢子を見やると小さく苦笑を洩らした。
「迷惑だなんて思っちゃいねぇよぃ。珈琲飲むかぃ?」
ブラックだが大丈夫かぃ?と差し出された珈琲カップに、湯気の上がるソレを見やった夢子は小さく笑みを浮かべるマルコを見やり、おずおずとソレを受け取った。
「あ、ありが…とう」
そうひどく申し訳なさそうに声を漏らした夢子に、また一つ笑みを浮かべたマルコは再びベッドサイドへと腰を下ろすと出来あがったばかりの珈琲を口へと運んだ。
カチコチ、と時計の秒針の音だけが静かに響く室内に、居心地が悪そうに珈琲カップに口を付ける夢子を横目に見やったマルコは、随分と減った自分のカップへと視線を落とすともう一度隣に腰掛ける夢子へと視線を向けた。
「どうだぃ、泣いて少しはスッキリしたかぃ?」
「っ~~~!!!ア、アレは忘れてっ!!ホント、あの時は頭ん中グチャグチャでっ………!!」
そう言って自分を見やったマルコに、冷めつつある珈琲をチビチビと飲んでいた夢子はグッと珈琲を喉へと詰まらせるとその顔を真っ赤にさせ慌てた様にそんなマルコから顔を背けていた。
ソレにクツクツと喉を震わせたマルコはそんな夢子の頭をクシャリ、と撫でやると手にしていた珈琲カップをテーブルへと置いた。
「別に構わねぇよぃ。夢子が思ってることを聞いてやれて、ホントは少し嬉しいんだよぃ」
お前ぇは家に来るだけで、愚痴もなにも言いやしねぇからねぃ。と笑ったマルコに、そんなマルコへと顔を向けた夢子は、柔和な笑みを浮かべるマルコを見やると、手にしていた珈琲カップに視線を落とし小さく口を引き結んだ。
「ゴメン……八つ当たりして……」
「ハハッ!言っとくがな、女の柔な拳で倒れる程俺ぁ弱かねぇよぃ」
確かに良いパンチだったが、と小さく零した謝罪の言葉も笑って流したマルコに、そこらの不良よりガタイの良い眼の前のサラリーマンを見やった夢子は、体育会系だったのだろうか…と不思議そうに小首を傾げると再び手元の珈琲カップへと視線を落した。
「…………昔はさ、あんな父親でも好かれようって、頑張って良い子になろうとしたんだよ」
そうポツリと零された言葉に、カップへと視線を落とす夢子を横目に見やったマルコは小さく相槌を返すとゆるり、とそんな夢子の頭を撫でやった。
「勉強も、運動も必死になってさ………ただ親父に『凄いな』って、褒めて……もらいたかったんだ」
そう震える声を抑え言葉を紡ぐ夢子に、その瞳から零れ落ちた涙を見やったマルコは撫でていた頭をソッと自分へと引き寄せると肩口へと夢子の頭をゆっくりと寄りかからせた。
「っ、それが駄目だって分かったのは………小6になってからで……、背も伸びて、顔もちょっと大人になって………そしたらさ、アイツ…私の顔見て『年々あの女に似てきやがって、胸糞悪い』って………。
どんなに好かれようと頑張ったって、親父からしてみれば私の『存在』自体がもう嫌だったんだなって……思ったら………もう、なにかもがどうでも良くなって……気が、ついたらっ、悪さばっかりしてたっ………」
そう言って、なんでこうなっちゃったのかなぁ、と泣き笑いを浮かべた夢子に、とめどなく溢れるその涙を見やったマルコはゆるり、とそんな夢子の頭を撫でると優しい手つきで夢子の背をポン、ポン、とたたいた。
「互いが互いに、向く方向を間違えちまっただけなんだよぃ。お前ぇは父親に愛してもらいたくて必死で、父親は……きっとそんなお前ぇのことをどう愛してやったら良いかわからなくなってたんだろうねぃ………」
そう言ってゆるりゆるり、と背中を撫でるマルコに、一つ大きく息を吐きだした夢子はそんなマルコの声に耳を傾けるとソッと目を閉じ小さく口元に弧を描いた。
「うん………そう、だね……。アイツにだって、私に優しかった時もあったんだ…………名前を呼んで、笑ってくれて………。もう一度だけ、親父に…………愛情をもらいたかっただけなんだ」
今では朧げにしか覚えていない父親との楽しい記憶に、そう小さく声を漏らした夢子はもう無理だけど!と自分の背を撫でるマルコを見上げるとその顔に笑みを浮かべてみせた。
まだ少しだけ涙の痕が残る夢子の顔に、困ったように笑みを浮かべたマルコはそんな夢子の肩を抱き寄せるとその胸に夢子を抱き締めていた。
「もう、一人で抱え込まなくて良い。俺がちゃんと、お前ぇの傍にいてお前ぇの抱えてる不安も、ちゃんと聞いてやるからよぃ」
「………っ、ヴン」
大丈夫だ。と耳元に囁かれた声はどこまでも優しく響き、その背を撫でるマルコの手の暖かさと、体を包み込むその大きな存在に夢子は小さく頷くとまた、涙を零したのだった。
優しい笑顔と、暖かい手に恋をした
何処までも優しいマルコと、そんなマルコに少しずつ惹かれていく主とか
すんなりと開いた扉に鍵もかかっていない扉に不用心だ、と小さく舌打ちを零した夢子は今日はどこかに飲みに出掛けたのか物音一つしない家の中を見やると靴を脱ぎリビングへと歩き出した。
パチリ、と付けた部屋の灯りに、ソコに広がるのは無数の酒瓶と空き缶の山で、飲んだまま放置されているソレ等を見やった夢子はその端整な眉を顰めさせ汚い…、と小さく零すとリビングをそのままに自室へと続く階段を上った。
上着に仕舞っていた部屋の鍵に、ソレをドアノブへと差し込み部屋の戸を開けた夢子は家を出る時と何ら変わっていない部屋の中を見やると手にしていた鞄をベッドへと放り投げた。
まるで自分の部屋だけが別空間のような家に、荒らしたら荒らしたままになっている各部屋を思い出した夢子はまた一つ溜息を吐きだすとガチャリ、と聞こえた玄関の扉の音に自室の扉を閉めると再び戸に施錠をし、階下を見下ろした。
酒の買い出しに行っていたのかコンビニ袋を引っ提げリビングへと向かう父親の背に、まだ飲むつもりか…と僅かにその眉を顰めさせた夢子は手にしていた鍵をポケットへと戻すと階段を降りはじめた。
リビングへと顔を覗かせた自分に、そんな自分を一瞥しコンビニ袋から缶ビールを取り出した父親を見やった夢子も、そんな父親から視線を外すと足元に転がっていた空き缶をコン、とつま先で蹴り上げた。
「そうやって……ジイちゃん達の金全部酒につぎ込む気かよ……」
「自分の親の金をどう使おうと、俺の勝手だろぉが……」
もう何年も前に亡くなった祖父母達に、その手元に残った遺産を使い酒を飲み続ける父親を見やった夢子は、そんな自分を一瞥し、ひどく煩わしげに舌打ちを零した父親に眉を顰めると呆れたように溜息を吐きだしていた。
「そんなだから、母さんにも逃げられんだよ」
「ア゛……?なんだとテメェ……もういっぺん言ってみろ」
そうひどく呆れたように言葉を漏らした夢子に、ピクリ、とその肩を震わせた父親は手にしていた缶をテーブルへと置くと苛立たしげにそんな夢子を見やり、その場からゆっくりと立ち上がった。
「酒飲んで暴力振るって、女に愛想尽かされても当然だっつってんだよ」
「テメェッ……!!親に向かってその口の利き方はなんだっ?!!誰のおかげで高校通えてると思ってんだっ!!あぁ?!俺が金出してやってるからだろぉがよぉっ!!!」
そう言って自分をあざ笑うかのようにその口端を釣り上げた夢子に、怒りに顔を真っ赤にさせた父親はそう声を荒げるとそんな夢子へと拳を振り上げていた。
大きく振りあげられた拳に、それを軽くサイドへと避けた夢子は苛立ったように自分を睨みつける父親にハッ、と失笑を浮かべると足元の缶をグシャリ、と踏み潰した。
「『俺が金出してやってる』……?その金も全部、ジイちゃん達が残してくれた金だろうがっ!!!アンタはこれっぽっちも金なんか出してやしないのに、なに偉そうなこと言ってんだよ!!」
そう声を荒げ自分を睨みつけた夢子に、その額に青筋を浮かべた父親は徐にそんな夢子の胸倉を掴み上げると力任せにその頬を殴りつけていた。
「グッ……!!!」
「ああ言えばこう言う……ホント可愛げのねぇ餓鬼だなっ!!テメェみてぇなクソガキ、俺ぁいらなかったんだよ!!どうせテメェもあの女が他の男とヤって出来た餓鬼だろっ?!!」
そう言って倒れ込んだ夢子の腹部を蹴りあげた父親に、小さく息を詰め咳き込んだ夢子は再び飛んできた父親の足を捉えるとそのまま横へと父親の体を押し倒した。
「ウグッ……この、クソガキっ……親になにしやがるっ……!!」
「私だってなっ……、できることならお前みたいなクソ親父のところになんか産まれたくなかったんだよっ!!!」
酔いも相まってか上手く立ち上がれない父親に、自分を睨み上げる父親を見下ろした夢子はそう声を荒げると近くに落ちていた缶を父親へと投げつそのまま家を飛び出していた。
シトシトと雨が降る夜の街に、傘を片手に帰路についていたマルコは小さく溜息を吐きだすと降り止まない雨に煩わしげに空を仰ぎ見た。
夕方に突然降りだした雨に、スーツが濡れる…と小さくゴチたマルコは早い事家に帰ろう、と正面へと視線を戻し、ふと、視界に入った路地裏へと視線を向けた。
小さな黒い塊が通路の隅に蹲っていることに気が付いたマルコは怪訝そうにその眉を寄せると、見たことのあるそのシルエットへと歩み寄った。
一歩二歩、と近づくにつれハッキリとしてくる影に、傘も差さず雨に打たれる少女の背を見やったマルコは水を含み重々しい印象を受けるその金色の髪へと視線を落とすと手にしていた傘をソッと夢子へと傾けた。
「傘も差さねぇで………こんなところでなにしてんだぃ、夢子」
「…………話しかけないで。今は、誰の顔も見たくないの」
かけた声に、小さく肩を震わせそう言葉を返した夢子を見やったマルコは、所々に赤い血の痕の浮かぶ夢子の腕を見やると小さく溜息を吐きだしそんな夢子の側へと腰を折った。
「………酷ぇ怪我じゃねぇかぃ。手当てしてやるから、ウチに来い」
「っ、話しかけんなっつったのが聞こえなかったのかよっ?!!」
触んじゃねぇ!!と自分へと伸ばされたマルコの手を払いのけ、そんなマルコを睨みつけた夢子に、立ち上がりざま振り抜かれた足を寸でのところで避けたマルコはその拍子に手から零れ落ちた傘を見やると、自分を睨みつける夢子へと視線を戻した。
「なにがあったか知らねぇが、誰かれ構わず当たり散らしてんじゃねぇよぃ」
餓鬼か…、と呆れたように声を漏らしたマルコはその眉根を苛立たしげに歪めた夢子を見やると振り上げられた拳を難なく受け止め、僅かにその眉を顰めさせた。
赤く腫れ上がった右頬に、血の滲む口元を見やったマルコはもう片方の手も自分へと振りあげた夢子に、小さく溜息を吐きだすと掴んでいた手をソッと離した。
「あぁそうだよっ!!餓鬼だよ、悪いかよっ?!!アンタに、私のなにが分かるってんだよっ!!!」
「わからねぇな、俺ぁお前じゃねぇからねぃ」
そう声を荒げ手を振り降ろした夢子に、そう言ってその拳を避けることなくその体で受け止めたマルコはドンッ!!と力一杯自分の胸を叩いた夢子の手を見やるとソッとそんな夢子へと手を伸ばした。
「溜め込むぐらいなら、全部吐け。お前がずっと抱えてたもん、吐いちまえ。ソレを受け止めきれねぇほど俺ぁ弱くねぇよぃ」
大丈夫だ、と優しく頭を撫でたマルコに、柔和な笑みを浮かべ自分を見下ろすマルコを見やった夢子は堪えていた涙を溢れさせるとその唇をいびつに歪めきつく唇を噛みしめた。
「私はっ、ただ………あ、愛してるって………言って欲しかった、だけ…なのにっ……」
要らないってなんだよっ!!と声を上げその場に泣き崩れてしまった夢子に、その体を抱きとめたマルコは声を上げ涙を流す夢子を見やるとその顔を悲痛に歪め、小さく震える夢子の体をゆるりと抱き締めた。
コポコポとサイフォンから上がる湯気に、珈琲カップをその側へと置いたマルコは自分のベッドで寝息を立てる夢子へと視線を落とすとソッとベッドサイドへと腰掛けた。
体力を消耗したのか泣き疲れたのか、あのあとすぐに眠りについてしまった夢子を背負って家へと帰ってきたマルコは、雨に濡れた髪の毛をタオルで拭くと夢子の顔に貼りつく金糸の髪の毛を避けソッとその頬を撫でやった。
体が冷えぬように、と粗方の雨水を拭いたその髪の毛に、真新しいガーゼが貼られる夢子の顔を見やったマルコは少し冷たい夢子の頬に、風邪を引きかねないな…と小さく眉根を寄せると自分の手の体温で温めるよう夢子の頬をソッと手の平で覆った。
じんわりと暖かくなっていく夢子の頬に、ただ静かに夢子の寝顔を見ていたマルコはピー、と部屋に鳴り響いた機械音に小さく肩を震わせると抽出の終わった珈琲へと視線を向けベッドサイドから立ち上がった。
珈琲を二つのカップに注ぎ、砂糖はどうしようか、と自分の家にあるかも定かではないソレにキッチンのラックをガサゴソと漁っていたマルコは小さく身じろいだ夢子の体にふと、視線をそちらへと向けると目を覚ました夢子を見やり、傍らに置いていたカップを手に夢子の元へと歩み寄った。
「目ぇ覚めたかぃ?」
「マルコ………私……っ!!ゴ、ゴメン私っ、マルコに迷惑かけっ………!!」
まだ意識がはっきりしていないのか、ぼんやりと宙を見つめる夢子にそう声をかけたマルコは、自分を見てそれまでの事を思い出したのかバッとベッドから起き上がった夢子を見やると小さく苦笑を洩らした。
「迷惑だなんて思っちゃいねぇよぃ。珈琲飲むかぃ?」
ブラックだが大丈夫かぃ?と差し出された珈琲カップに、湯気の上がるソレを見やった夢子は小さく笑みを浮かべるマルコを見やり、おずおずとソレを受け取った。
「あ、ありが…とう」
そうひどく申し訳なさそうに声を漏らした夢子に、また一つ笑みを浮かべたマルコは再びベッドサイドへと腰を下ろすと出来あがったばかりの珈琲を口へと運んだ。
カチコチ、と時計の秒針の音だけが静かに響く室内に、居心地が悪そうに珈琲カップに口を付ける夢子を横目に見やったマルコは、随分と減った自分のカップへと視線を落とすともう一度隣に腰掛ける夢子へと視線を向けた。
「どうだぃ、泣いて少しはスッキリしたかぃ?」
「っ~~~!!!ア、アレは忘れてっ!!ホント、あの時は頭ん中グチャグチャでっ………!!」
そう言って自分を見やったマルコに、冷めつつある珈琲をチビチビと飲んでいた夢子はグッと珈琲を喉へと詰まらせるとその顔を真っ赤にさせ慌てた様にそんなマルコから顔を背けていた。
ソレにクツクツと喉を震わせたマルコはそんな夢子の頭をクシャリ、と撫でやると手にしていた珈琲カップをテーブルへと置いた。
「別に構わねぇよぃ。夢子が思ってることを聞いてやれて、ホントは少し嬉しいんだよぃ」
お前ぇは家に来るだけで、愚痴もなにも言いやしねぇからねぃ。と笑ったマルコに、そんなマルコへと顔を向けた夢子は、柔和な笑みを浮かべるマルコを見やると、手にしていた珈琲カップに視線を落とし小さく口を引き結んだ。
「ゴメン……八つ当たりして……」
「ハハッ!言っとくがな、女の柔な拳で倒れる程俺ぁ弱かねぇよぃ」
確かに良いパンチだったが、と小さく零した謝罪の言葉も笑って流したマルコに、そこらの不良よりガタイの良い眼の前のサラリーマンを見やった夢子は、体育会系だったのだろうか…と不思議そうに小首を傾げると再び手元の珈琲カップへと視線を落した。
「…………昔はさ、あんな父親でも好かれようって、頑張って良い子になろうとしたんだよ」
そうポツリと零された言葉に、カップへと視線を落とす夢子を横目に見やったマルコは小さく相槌を返すとゆるり、とそんな夢子の頭を撫でやった。
「勉強も、運動も必死になってさ………ただ親父に『凄いな』って、褒めて……もらいたかったんだ」
そう震える声を抑え言葉を紡ぐ夢子に、その瞳から零れ落ちた涙を見やったマルコは撫でていた頭をソッと自分へと引き寄せると肩口へと夢子の頭をゆっくりと寄りかからせた。
「っ、それが駄目だって分かったのは………小6になってからで……、背も伸びて、顔もちょっと大人になって………そしたらさ、アイツ…私の顔見て『年々あの女に似てきやがって、胸糞悪い』って………。
どんなに好かれようと頑張ったって、親父からしてみれば私の『存在』自体がもう嫌だったんだなって……思ったら………もう、なにかもがどうでも良くなって……気が、ついたらっ、悪さばっかりしてたっ………」
そう言って、なんでこうなっちゃったのかなぁ、と泣き笑いを浮かべた夢子に、とめどなく溢れるその涙を見やったマルコはゆるり、とそんな夢子の頭を撫でると優しい手つきで夢子の背をポン、ポン、とたたいた。
「互いが互いに、向く方向を間違えちまっただけなんだよぃ。お前ぇは父親に愛してもらいたくて必死で、父親は……きっとそんなお前ぇのことをどう愛してやったら良いかわからなくなってたんだろうねぃ………」
そう言ってゆるりゆるり、と背中を撫でるマルコに、一つ大きく息を吐きだした夢子はそんなマルコの声に耳を傾けるとソッと目を閉じ小さく口元に弧を描いた。
「うん………そう、だね……。アイツにだって、私に優しかった時もあったんだ…………名前を呼んで、笑ってくれて………。もう一度だけ、親父に…………愛情をもらいたかっただけなんだ」
今では朧げにしか覚えていない父親との楽しい記憶に、そう小さく声を漏らした夢子はもう無理だけど!と自分の背を撫でるマルコを見上げるとその顔に笑みを浮かべてみせた。
まだ少しだけ涙の痕が残る夢子の顔に、困ったように笑みを浮かべたマルコはそんな夢子の肩を抱き寄せるとその胸に夢子を抱き締めていた。
「もう、一人で抱え込まなくて良い。俺がちゃんと、お前ぇの傍にいてお前ぇの抱えてる不安も、ちゃんと聞いてやるからよぃ」
「………っ、ヴン」
大丈夫だ。と耳元に囁かれた声はどこまでも優しく響き、その背を撫でるマルコの手の暖かさと、体を包み込むその大きな存在に夢子は小さく頷くとまた、涙を零したのだった。
優しい笑顔と、暖かい手に恋をした
何処までも優しいマルコと、そんなマルコに少しずつ惹かれていく主とか