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金色猫とタンゴ
貴女のお名前は?
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バタバタと慌ただしいオフィスに、午前の仕事を終わらせたマルコはどこか疲れたように一つ溜息を吐きだすと深くイスへと凭れかかった。
午後から始まる定例会議に、その資料の最終チェックをするべく鞄をデスクへと置いたマルコは、その中に入っているはずのファイルが見当たらない事にはた、と目を瞬かせた。
隅から隅まで探しても見つからないファイルに、最終的には鞄をひっくり返したマルコは結局カバンの何処にもなかったファイルに額に手を当てると苛立たしげに舌打ちを零していた。
「マジかよぃ……」
連日徹夜で仕上げていた会議の資料に、凡ミスだ…と苦々しく声を漏らしたマルコは壁にかけてある時計へと視線を向けると、昼食を取るべくオフィスを後にする部下達を盗み見た。
今から家まで車を飛ばしたとして往復1時間はかかる道のりに、ギリギリ会議に間に合うかどうか、と小さくその眉根を寄せたマルコは鞄の中から車のキーを取り出すと、ふと、視界に入った携帯電話に脳裏に浮かんだ少女の顔に悩ましげにその眉を顰めさせるとその携帯を手に取ったのだった。
~~~
ブルブルと上着のポケットの中で震える携帯に、ゲームセンターへと来ていた夢子はポロリ、とアームから零れ落ちた青い鳥の人形に小さく舌打ちを零すと面倒くさげにポケットから携帯を取り出した。
きっとエースかルフィ辺りだろう、と携帯へと視線を落した夢子は、ソコに表示される人物の名前を見やるとパチクリ、と目を瞬かせた。
今までLINEでやり取りはするものの、一度も互いの携帯に電話などかけたことのなかった夢子は、ディスプレイに表示されるマルコの名前に12時10分を表示する携帯画面を見やるとあぁ、今昼休憩か、と納得し、未だコール音が鳴り続ける携帯電話を見やると少しだけ緊張気味に通話ボタンへと指を伸ばしたのだった。
~~~
プルプルと呼び出し音が鳴る携帯に、なかなか電話に出ない相手に駐車場まで足早に歩いていたマルコは、ふと止んだコール音にピタリ、と歩みを止めると受話器へと耳を押し当てた。
『もしもし?マルコ……?』
どうしたの?と受話器の向こうから聞こえてきた少女のその声に、ホッと一息ついたマルコは電話に出た夢子に突然悪いねぃ、と言葉を返すと駐車場の柱へと凭れかかった。
「あー……、急で悪いんだけどよぃ、夢子今から……………ってぇ、お前ぇ、今どこにいんだぃ……?」
俺の家に向かってくれ、と続くはずだった言葉は受話器の向こう側から聞こえてきた喧騒に発せられることはなく、ピコピコガンガン、と学校では決して聞かないであろう機械音にそう声に多大な批難の色を含ませそう言ったマルコは、ゲーセンですが?とそんな自分へと平然と言葉を返した夢子に深々と溜息を吐きだしていた。
「お前ぇなぁ……授業はどうしたんだぃ?学校行けってぇのぃ、不良娘が……」
『今テスト期間中だからガッコは午前までなの。っていうか、どうしたのマルコ?』
今昼休みでしょ?と不思議そうにかけられた言葉に、本来の目的を思い出したマルコはあぁ、と声を漏らすと腕時計へと視線を落した。
「悪いが夢子、今から俺ン家に行ってくれねぇかぃ。テーブルの上の青いファイルを持ってきてもらいてぇんだが……」
『ン。じゃぁ鍵をください』
そう言って二つ返事で了承した夢子に、そう続いた言葉に苦渋の声を漏らしたマルコは悩ましげに天を仰ぐと頭をかいた。
「悪いがコッチに鍵取りに来てる暇もねぇんだよぃ。お前ぇの細腕ならポストん中に手ぇぐらい入るだろぃ?そんナカに合鍵入ってるからソレ使え」
そう言って小さく溜息を吐きだしたマルコは受話器の向こうから聞こえてきたマジで…?の声にガシガシと頭をかきむしった。
「午後からの会議に必要なファイルなんだよぃ……」
そう言葉を続けたマルコの声はどこか焦っているようで、ソレにう~ん…と悩ましげに声を漏らしていた夢子は小さく分かった、と言葉を返すとその場を歩きだした。
『じゃぁマルコはちゃんとお昼食べて待ってて。ちゃんと1時までにはソッチに届けるから』
そう言ってじゃぁ、と切られた通話に耳元から携帯を離したマルコは暫し悩ましげに手元の携帯電話を眺めると、小さく息をつき昼食を食べるべく社内へと戻ったのだった。
~~~
ゲームセンターを後にし、マルコの家までやってきた夢子は『305』と書かれる扉を見やるとその横の壁に埋め込まれているポストの口を覗きこんだ。
少し奥の方に見える鍵らしきものに、靴箱の上に置かれるソレを見やった夢子はよいしょ、と小さく声かけをするとポストの口へと手を突っ込んだ。
見た限りでは手の届きそうな位置にあったその合鍵にけれどもなかなか手に触れないソレにペシペシ、と靴箱の上を手探りで探していた夢子は、チラチラと御近所の方から向けられる好奇の視線に小さく舌打ちを零していた。
傍から見れば怪しさ極まりない自分のその行動に、全っ然届かないんですけどっ…!と小さく悪態をついていた夢子はやっとその手に触れた固い感触に、それを指の先で摘まむとポストから腕を引き抜いた。
なんとか取ることの出来たマルコの部屋の鍵に、ふぅ、と一つ息を吐きだした夢子は擦れて少し赤くなってしまった腕をさすると手にしていた合い鍵をドアノブへと差し込んだ。
「いくら細いったって限度があるっつーの……」
クソ、と未だ周囲から向けられる好奇の視線に小さく悪態をついた夢子はガチャリ、と開いた扉にマルコの部屋へと上がると、家主の居ない部屋をグルリと見渡しテーブルの上に置いてあった青いファイルへと視線を落した。
「青いファイルって……コレ、だよね……?」
テーブルに置かれる3冊の分厚いファイルに、その全てが青色であるのを見やった夢子はその眉間に悩ましげな皺を寄せると背負っていたショルダーバックの口を開け中身を床へとぶちまけた。
「大事な資料ならもっとしっかり保管しとけっての……!!」
きっと必要なのはこの中の一冊なんであろうファイルに、けれどもソレを確認するためにマルコへと連絡する暇も惜しいのかその3冊をすべてショルダーへと詰め込んだ夢子は重さの増したソレを再び背負うと足早に玄関へと歩き出した。
マルコの家をあとにして、白ひげカンパニーへと足早に歩いていた夢子は携帯の時刻を確認するとその端整な眉を小さく顰めさせた。
今から走ってもギリギリ間に合うかどうかの時間に、マズイな…、と小さく舌打ちを零した夢子は、ふと脳裏に過った某幼馴染の顔にピタリ、と歩みを止めると踵を返し来た道を逆走し始めた。
10分とかからず到着したモンキー家に、上がる息もそのまま庭先へと回った夢子は縁側に腰掛け日向でまどろむガープの姿を見つけるとホッと小さく息を吐きだした。
「ガープさん!!私の単車まだある?!」
「んぉ?おー、夢子か………お前さんのバイクならソコで埃被っとるじゃろ」
不意にかけられた声にパチリ、と目を覚ましたガープは庭先へと現れた夢子の姿に、そう言葉を返すと物置小屋の片隅に置かれていたアメリカンを指差した。
そんな自分にアリガト!と言葉を返しそのアメリカンへと駆けよった夢子に、元気そうでなによりじゃ、とウンウンと頷いていたガープはバイクにキーを挿し込みエンジンをふかした夢子を見やるとはた、と目を瞬かせた。
「ってコラ待たんかコノ悪ガキ!!学校はどーしたんじゃ?!!」
「ガッコは午前まで!!緊急なの、見逃して!!」
そう言って無事かかったエンジンにバイクへと跨った夢子はおもいきりグリップを握りこむとブオォォォン!!と唸り声を上げたバイクに小さく安堵の息を吐き出し、そんな自分を捕えようと手を伸ばしたガープを一瞥しその手から逃れるようにバイクを急発進させたのだった。
グングンと上がるメーターに、猛スピードで公道を走っていた夢子は点滅する信号を見やるとクラッチを3段階上げ一気に信号を突っ切った。
ノーヘルに加え速度オーバーなその運転に、これで運良くパトカーに捕まりさえしなければ1時には白ひげカンパニーに着けるな、と安堵の息を漏らしていた夢子は、パッパー!!と後方から聞こえたクラクションの音にサイドミラー越しに後ろを見やった。
自分のバイクを追いかけるよう後続する数台のバイクの群れに、なんだ白バイじゃないのか、とホッと胸を撫で下ろした夢子は、自分の隣に並んだバイクへと面倒くさげに視線を向けた。
「オネーさん、可愛いね!どう?俺達とドライブしない?」
「………悪いけど、急いでんの」
どっか行って、とそんな自分へと声をかけてきたドライバーに、自分同様ノーヘルで二人乗りをするグループを一瞥した夢子はそう言葉を返した自分の周りを取り囲むよう間隔を狭めてきた男達に苛立たしげに眉を顰めさせた。
「つれないなぁ!良いじゃん、少しぐらい!」
「…………分かった。じゃぁ私について来られたら相手してあげる」
そう言って一気に速度を上げた夢子に、瞬く間に遠ざかっていくそのバイクを見やった男達は慌てたようにアクセルをふかすとそんな夢子の後を追いかけたのだった。
顔に吹き付ける風圧に、小さく目を細め国道から旧道へと道を乗り換えた夢子は、車さえ通らないであろうその道に、後方を確認するともう随分と前に自分に追い付けなくなっていた男達の姿に小さく情けない、と零し正面へと顔を戻した。
暫くして見えてきた大きなビルに、再び国道へと進路を変えた夢子はあと少し、と小さく声を漏らすと一気にアクセルをふかした。
ものの20分足らずで到着した白ひげ本社のビルに、キキィ!と急ブレーキをかけた夢子はビルの目の前にバイクを止めると風で乱れた髪をかき上げ白ひげカンパニーの入り口へと向かった。
ウィン、と開いた自動扉に、ホールまでやってきた夢子は少し離れた場所にある受付を見やると、キョロリ、と辺りを見回した。
だだっ広いホールに、さてどうしたものか、と到着した事をマルコへと伝えるべきか、と上着のポケットから携帯を取り出そうとしていた夢子は、アレ?と聞こえたその聞き慣れた声にふと、携帯から視線を上げると正面を見やりパチクリ、と目を瞬かせた。
「やっぱ夢子ちゃんだ……。こんなとこで何してんの??」
「幸男こそ………え?こんなとこで何してんの……?」
そう声をかけてきた人物に、よく見知ったその顔を見やった夢子はそうひどく呆けたように目を瞬かせた。
ソレにそんな夢子を見やり同じように目を瞬かせていたサッチは何その格好…、と自分のスーツ姿を見て怪訝そうにその眉を顰めた夢子に、キョトン?と小首を傾げた。
「え?なにって………だって俺ココの社員だぜ……?」
「………え?しゃ、いん……?」
そう言ってホラ、と首から下げていた社員証をヒラリ、と振って見せたサッチに、ポカン…と呆けたようにそんなサッチを見やった夢子は、いつものリーゼントを下ろしオールバックにしているサッチに似合わない…と小さく声を漏らすとはた、と目を瞬かせた。
「ぇ?ってか、仕事かけ持ちなんかして良いの……?こういう会社って労働基準法とか厳しいんじゃない……?」
「かけ持ちじゃねぇってんだよ……。アレ?言ってなかった?お店の方は忙しいときだけ臨時で頼まれてるだけなんだぜ?俺の本職は白ひげカンパニーの4課の課長なんだぜー!」
「幸男が課長とか………世も末だね」
どう?凄ぇだろ!とどこか自慢げにその背広を広げてみせたサッチに、プロ顔負けの料理の腕を持つサッチを見やった夢子は宝の持ち腐れだ、と小さく零した自分に、酷ぇっ!!と声を上げたサッチを一瞥するとあぁ!!と本来の目的を思い出し慌てたようにそんなサッチへと駆けよっていた。
「そんなことより幸男!不二野って人知らない?!」
「ねぇ?!もうちょっとサッちゃんのことに興味持って?!!ってか、え?不二野って………不二野マルコ?夢子ちゃん知り合いなの?」
自分のことをそんな事、と言ってスル―した夢子にたいしてそう抗議の声を上げたサッチは、夢子の口から出てきた腐れ縁の同僚の名前にはた、と目を瞬かせると不思議そうに目の前の少女を見下ろした。
「急いでるんだって!知ってんなら早く………
「夢子、こっちだよぃ!どうやら間に合ったみてぇだな」
連れてきて!と言葉を続けようとした夢子は、不意に呼ばれた名前にピタリ、と言葉を止めるとこちらへと歩いてくるマルコの姿を見やり、その顔に小さく安堵の表情を浮かべた。
「マルコ、良かった!今連絡しようとしてたところで……」
「悪いねぃ、パシリみたいなことさせちまって」
そう言って自分の元までやってきたマルコに、ショルダーから分厚いファイルを取り出した夢子はダイジョウブ、と言葉を返すとソレをマルコへと差し出した。
「ゴメン、どれか分からなくてテーブルに置いてあったやつ全部持ってきちゃった……」
「あー………いや、逆にすまねぇな。重かっただろぃ?」
そう言ってハイ、と渡された3冊の分厚いファイルに、ソレを背負ってきた夢子を見やったマルコは申し訳なさそうに頭をかくと小さく首を振った夢子にふと、その口元に笑みを浮かべるとゆるり、と夢子の頭を撫でやった。
「んで?なんでテメェがココにいるんだよぃ?」
「あ、やっと俺のことに触れてくれますか?つか、え?何、二人とも知り合いだったの?」
一通りのやり取り終え、やっと自分へと声をかけてくれたマルコにそう言葉を返したサッチは、面倒くさげに自分を見やるマルコと夢子を交互に見やるとキョトリ、と目を瞬かせた。
「あー、まぁ……ちぃとねぃ。色々あんだよぃ」
「サッチとマルコは同僚かなにかなの……?」
そう言葉を濁らせどこかバツが悪そうにサッチから視線を逸らしたマルコは、そう言って不思議そうに自分達を見上げる夢子へと視線を落とすとサッチの名を口にした夢子にキョトリ、と目を瞬かせた。
「お前ぇ……コイツのこと知ってんのかぃ?」
「バイト先のチーフ」
そう言って後ろ指でサッチを差したマルコは、そう簡潔に言葉を返した夢子にパチクリ、と目を瞬かせると隣に立つサッチを見やり、目の前の夢子へと視線を戻しその眉間に皺を寄せた。
「確か……コイツが手伝いしてる店ってぇのは………居酒屋じゃぁなかったかぃ?」
「ぁ…………」
未成年は禁止じゃねぇのかぃ?と訝しげな視線を自分へと寄越したマルコに、しまった…と咄嗟にその口元に手を当てた夢子はグワシ、と掴まれた頭に小さく肩を震わせた。
「『あ…』じゃねぇよぃ。『あ…』じゃっ……!!ホントにお前ぇは悪ガキだねぃっ!!」
此処まで何で来たっ?!!と異様に到着の早かった自分に、一つ二つとバレていく悪事に目を釣り上げるマルコからソッと視線を逸らした夢子はふと、視界に入った時計に目くじらを立てるマルコへと視線を戻した。
「ホ、ホラそんなことより時間良いの?!会議始まっちゃうよ?!」
「あ?あぁ、そうだったよぃ。今回ばかりは御咎めなしにしといてやるよぃ」
そう言ってホールの壁に設置してあった時計を見やったマルコはグシャグシャ!!とそんな夢子の頭を撫でつけるとあと10分で始まる会議に、抗議の声を上げる夢子を見下ろすとあぁ、と思い出したように声を漏らした。
「夢子、昼飯は食ったのかぃ?」
「ぇ?まだだよ。マルコにファイル渡したらどっかで適当に食べるつもりだったし」
そう言って空腹を訴えるお腹へと手を当てた夢子に、だったら、と首から下げていた社員証を外したマルコはソレを夢子へと差し出した。
「ホール抜けた先に食堂があるからソコで食え。社員証提示すりゃぁ金もかからねぇからねぃ」
そう言ってその手に握らされた『不二野マルコ』の社員証に、えっ?!と声を上げた夢子は戸惑うようにそんなマルコを仰ぎ見た。
「い、良いよわざわざ!!それに社員食堂なんて私が行ったら浮くじゃん……!」
「一般の人間も普通に食いに来れるようになってるから問題ねぇよぃ。食い終わったら社員証はそこの受付のヤツにでも渡しときゃぁ良いからねぃ」
そう言ってポンポン、と撫でられた頭に、自分とマルコのやり取りをどこか楽しげに見ていたサッチを連れその場を足早に歩きだしてしまったマルコに、その背を見やった夢子は困惑したように手元の社員証に視線を落とすとあぁそれと、と何かを思い出したように自分を振り返ったマルコにビクリ、と肩を震わせた。
「バイクに乗るのは別にかまわねぇが、ノーヘルだけはすんじゃねぇよぃ!!あと、制限速度は守れよぃ!」
そう声を上げエレベーターへと乗り込んだマルコに、ヒラヒラと楽しげに自分に手を振るサッチを見やった夢子は閉まった扉に、登っていくエレベーターを呆けたように見やると周囲から向けられる好奇の視線に気づき足早にその食堂へと向かったのだった。
~~~
「しっかし、マルコが夢子ちゃんと知り合いだったなんてなぁ」
サッちゃんビックリ!とどこか楽しげにニヤニヤとその顔に笑みを浮かべ自分を見やるサッチに、そんなサッチを横目に見やったマルコは嫌そうにその眉根を寄せると手元のファイルへと視線を落した。
「お前ぇさんこそ、夢子と知り合いだったんだねぃ。店のバイトの金髪美女ってぇのは、アイツのことだったのかぃ?」
「まね!どーよ、可愛いだろー?夢子ちゃん!」
そう言ってだらしなくその顔を緩めたサッチに、そんなサッチを一瞥したマルコは呆れたように溜息を吐きだすとエレベーターの文字盤を仰ぎ見た。
「居酒屋でバイトさせてるってぇ時点でアウトだがねぃ」
「ヴッ……、さ、最初は俺だって辞めろって言ったんだぜ?!けどよぉ……家出たい、とか……言われちまったらさぁ………」
そう言って批難の視線を自分へと向けたマルコに、言葉を詰まらせたサッチはそうしどろもどろに言葉を返すとあぁ、とどこかそんな自分に賛同するよう声を漏らしたマルコを不思議そうに見やった。
「一人暮らししてぇらしぃな、夢子のヤツ」
「へ……?マルコそんなことまで知ってんのか?」
そう言って小さく溜息を吐きだしたマルコは、キョトリと目を瞬かせたサッチにまぁねぃ、と言葉を返すとチン、と辿りついたエレベーターに、エレベーターから降りるとさっさと歩きだす。
「なぁんか結構親密な関係じゃね?お前と夢子ちゃん。つーかよ……この前は拾った野良ネコは『男』だとか言ってませんでしたぁ?」
「テメェに女だっつったら根掘り葉掘り聞くだろぃ」
メンド臭ぇと、自分をジトリと見やったサッチにそう言葉を返したマルコは酷ぇ!と声を上げるサッチを無視するとそのまま一課のオフィスへと入っていったのだった。
~~~
広い食堂に、若い女性や子供連れで賑わうソコを見やった夢子は、社員食堂ってこんなんだっけ…?とまるでオシャレなカフェを思わせる食堂にそう零すとカウンターへと歩き出す。
ボードに書かれる『本日のおススメ』に、ローストビーフやタンドリーチキンが書かれているソレを見やった夢子は凄い…と小さく感嘆の声を漏らすと頭上にあるメニュー表を仰ぎ見た。
バラエティ豊富なメニューに、麺類からご飯類までさまざまな種類があるソレを悩ましげに見ていた夢子は、自分の横を通り過ぎカウンターの前に立った小柄な男の人を見やるとキョトリと目を瞬かせた。
「いつものお願い」
「ハイヨー!」
そう言って首から下げていた社員証をかざした男の人に、紺色のスーツに身を包むどう見繕っても中学生かそこらの外見の男の人を見やった夢子は若々しいその男性に、新卒かな…?と小首を傾げると差し出された社員証のバーコードを読み取りロコモコ一つー!と厨房に声をかけるスタッフを見やりなるほど、と一人声を漏らしていた。
注文だけ済ませテーブルへと向かうその社員であろう男の人の背を見送った夢子は、カウンターの前に立つとHello!と自分を見やり、英語でそう声をかけてきた強面のスタッフに手にしていた社員証を差し出した。
「前に食べたものと同じものを………」
「お!なんだちゃんと日本語喋れんのか!へぇ……、君マルコ部長の妹なのか」
そう言って差し出された社員証に、普通に日本語を話した目の前の英国女子を見やった男の人はこりゃ失敬!と笑うと差し出されたソレを受け取り、ソコに表記される名前を見やると目の前に立つ夢子へと視線を落としそうどこか感嘆の声を漏らしていた。
「ぁ~……いや、そうでは、ないんですけど……」
きっと髪色でそう判断したんだろう男性に、そう気まずそうに言葉を濁らせそんなスタッフから視線を逸らした夢子は、そんな自分を見やりふ~ん…とどこか考えるよう声を漏らし二カッと笑みを浮かべた男の人に、バーコードを読み取りソレを差し出した男性をチラリ、と見やると手渡されたソレに小さく息を吐きだした。
「Aランチ定食一つー!あ!飲みモンなんにするー?サービスするぜ!」
そう言って茶目っ気たっぷりにウィンクをして見せたスタッフに、戸惑うように視線を彷徨わせた夢子はじゃぁ紅茶を、と小さく声を漏らすと了解!と快活な笑みを浮かべた男性に、会釈をしそそくさとその場を後にした。
暫くして運ばれてきたAランチ定食に、焼鮭と卵焼きに味噌汁とご飯の付くソレを見やった夢子はお昼なのに朝食のようなチョイスのソレに小さく苦笑を漏らしていた。
(きっと朝ご飯抜いたんだろうな……)
いただきます、と箸を手に両手を合わせた夢子は、朝はギリギリまで寝ていたい、と言っていたマルコを思い出すとまったく…と小さく呆れたように溜息を吐き出し、出来たてほやほやの鮭へと手を伸ばしたのだった。
ご飯も食べ終わりロビーまでやってきた夢子は手元の社員証へと視線を落すと、正面の受付へと視線を向け小さく息を吐きだすと意気込むようにソコへと歩き出した。
「あ、あの……!コレ、不二野さんに返しておいてください………」
艶やかな女性が二人並ぶ受付に、バロックワークスとはまた違った華やかさがあるな…、とそんな受付嬢へと手にしていたマルコの社員証を差し出した夢子は、そんな自分を見下ろしその口元に小さく弧をかいた彼女達からソッと視線を逸らしていた。
「えぇ、確かにお預かりしました」
そう言ってその社員証を受け取った受付嬢に、小さく安堵の息を吐きだした夢子はコレでもう用はない、とその場を立ち去ろうとして不意にあ、ねぇ!とその背にかけられた声に不思議そうに受付を振り返った。
「なんですか……?」
「貴女って、マルコ部長の恋人なのかしら?」
「はっ……?!!ち、ちがっ……!!!」
そう言ってどこか楽しげに口元に笑みを浮かべ小首を傾げてみせた受付の彼女に、その口から発せられた言葉に顔を真っ赤に染めた夢子はブンブンと大きく首を振っていた。
「アラ、違うの?」
残念…。と小さく声を漏らした彼女は本当に残念そうに頬に手を当て自分を見下ろしていて、そんな彼女達からの視線から逃げるよう再び受付へと背を向けた夢子は再び上がったあぁ、の声にビクリ、と肩を震わせると恐る恐るそんな彼女達を振り返った。
「夢子ちゃん、だったかしら?今度お姉さん達とご飯でもどうかしら?」
マルコ部長のお話、聞きたくない?とその顔に綺麗な笑みを浮かべた彼女に、ピクリ、と肩を震わせた夢子はパッとその顔を輝かせていた。
「聞きたい!!………ぁっ」
彼女達のお誘いに二つ返事でそう言葉を返していた夢子は、その笑みをより一層深めた彼女達を見やると咄嗟に口へと手を当て、バツが悪そうにそんな彼女達から視線を逸らした。
「じゃぁ決まりね!私、アンリエッタ。この子はアイリス。それで、コレ!私達の連絡先よ、また暇な時に連絡頂戴な!」
そう言って差し出された連絡先に、彼女達の名刺の裏に書かれたソレを見やった夢子は、楽しげに笑みを浮かべるアンリエッタ達へと視線を戻すとどこか戸惑うようにその眉根に皺を寄せた。
「あの………なんで、私に声かけたの……?」
「アラ、バイクであんな格好良い登場の仕方した子が気にならないわけないでしょう?それに、その子が『アノ』マルコ部長の知り合いだなんて、ますます気になるじゃない!」
こう言って声を弾ませねぇ!と顔を見合わせ笑みを浮かべるアンリエッタ達に、見られてたのか…と表に置いたままのバイクをチラリ、と見やった夢子は苦々しく笑みを浮かべるとありがとうございます。と渡された名刺を無くさないように、とポケットへとしまった。
「あの、それでは……」
「えぇ、またね。気を付けて帰るのよ?」
「連絡、楽しみにしてるわね夢子ちゃん♪」
軽く会釈をした自分に、ひどくにこやかに手を振るアンリエッタ達へと遠慮気味にヒラリ、と手を振り返した夢子はそんなアンリエッタ達を一瞥すると白ひげカンパニーを出るべく正面玄関へと向かったのだった。
白ひげカンパニーの人々
SSオマケ→
「今日はすまなかったねぃ、おかげで助かったよぃ」
「んー?良いよ、美味しいご飯食べれたし」
そう言ってほらよ、と差し出されたホットココアに、最近では飲み物のレパートリーが増えつつあるマルコ宅の冷蔵庫にソレを受け取った夢子は、正面へと腰掛けたマルコを一瞥すると手元のココアへと視線を落した。
「帰りはちゃんとヘルメット被ったかぃ?」
「被りましたぁー」
珈琲片手にそう聞いてきたマルコに、ヴッ…と言葉を詰まらせた夢子はそう少し不貞腐れたように言葉を返すとカップへと口を付けた。
それにそれなら良いよぃ、とどこか楽しげに笑ったマルコも珈琲を一口飲むと正面に腰掛ける夢子を見やり、そういやぁ、と思い出したように声を漏らした。
「受付のヤツ等がやたら楽しそうに社員証返しにきたが……アイツ等お前ぇに何か変なこと吹き込んでねぇよねぃ?」
「変なことってなに……。特には何も?白ひげの受付のお姉さん達、美人だった」
そう言ってどこか窺うように自分を見やったマルコに、小さく苦笑を洩らした夢子は今日連絡先を交換したアンリエッタ達に、その顔を思い出すとどこか嬉しそうに顔を綻ばせた。
それにそうかぃ…?と首を傾げたマルコはそんな事今まで気にも留めていなかったんだろう本当に不思議そうで、そんなマルコを見やった夢子はそうだよ、と呆れたように言葉を返すとひっそりと溜息を吐きだしココアへと口を付けたのだった。
後書→
マルコさんは高校時分から結構モテてたと思います!今でも女性社員からは絶大な人気があるのできっと誰が美人とかそういうのはたいして気にしなさそうだなぁ、と。
自分がモテる分周りの人間には無頓着というか興味がないというか……
ちなみに社員食堂に居た社員さんはハルタ課長ですよー(笑)
午後から始まる定例会議に、その資料の最終チェックをするべく鞄をデスクへと置いたマルコは、その中に入っているはずのファイルが見当たらない事にはた、と目を瞬かせた。
隅から隅まで探しても見つからないファイルに、最終的には鞄をひっくり返したマルコは結局カバンの何処にもなかったファイルに額に手を当てると苛立たしげに舌打ちを零していた。
「マジかよぃ……」
連日徹夜で仕上げていた会議の資料に、凡ミスだ…と苦々しく声を漏らしたマルコは壁にかけてある時計へと視線を向けると、昼食を取るべくオフィスを後にする部下達を盗み見た。
今から家まで車を飛ばしたとして往復1時間はかかる道のりに、ギリギリ会議に間に合うかどうか、と小さくその眉根を寄せたマルコは鞄の中から車のキーを取り出すと、ふと、視界に入った携帯電話に脳裏に浮かんだ少女の顔に悩ましげにその眉を顰めさせるとその携帯を手に取ったのだった。
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ブルブルと上着のポケットの中で震える携帯に、ゲームセンターへと来ていた夢子はポロリ、とアームから零れ落ちた青い鳥の人形に小さく舌打ちを零すと面倒くさげにポケットから携帯を取り出した。
きっとエースかルフィ辺りだろう、と携帯へと視線を落した夢子は、ソコに表示される人物の名前を見やるとパチクリ、と目を瞬かせた。
今までLINEでやり取りはするものの、一度も互いの携帯に電話などかけたことのなかった夢子は、ディスプレイに表示されるマルコの名前に12時10分を表示する携帯画面を見やるとあぁ、今昼休憩か、と納得し、未だコール音が鳴り続ける携帯電話を見やると少しだけ緊張気味に通話ボタンへと指を伸ばしたのだった。
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プルプルと呼び出し音が鳴る携帯に、なかなか電話に出ない相手に駐車場まで足早に歩いていたマルコは、ふと止んだコール音にピタリ、と歩みを止めると受話器へと耳を押し当てた。
『もしもし?マルコ……?』
どうしたの?と受話器の向こうから聞こえてきた少女のその声に、ホッと一息ついたマルコは電話に出た夢子に突然悪いねぃ、と言葉を返すと駐車場の柱へと凭れかかった。
「あー……、急で悪いんだけどよぃ、夢子今から……………ってぇ、お前ぇ、今どこにいんだぃ……?」
俺の家に向かってくれ、と続くはずだった言葉は受話器の向こう側から聞こえてきた喧騒に発せられることはなく、ピコピコガンガン、と学校では決して聞かないであろう機械音にそう声に多大な批難の色を含ませそう言ったマルコは、ゲーセンですが?とそんな自分へと平然と言葉を返した夢子に深々と溜息を吐きだしていた。
「お前ぇなぁ……授業はどうしたんだぃ?学校行けってぇのぃ、不良娘が……」
『今テスト期間中だからガッコは午前までなの。っていうか、どうしたのマルコ?』
今昼休みでしょ?と不思議そうにかけられた言葉に、本来の目的を思い出したマルコはあぁ、と声を漏らすと腕時計へと視線を落した。
「悪いが夢子、今から俺ン家に行ってくれねぇかぃ。テーブルの上の青いファイルを持ってきてもらいてぇんだが……」
『ン。じゃぁ鍵をください』
そう言って二つ返事で了承した夢子に、そう続いた言葉に苦渋の声を漏らしたマルコは悩ましげに天を仰ぐと頭をかいた。
「悪いがコッチに鍵取りに来てる暇もねぇんだよぃ。お前ぇの細腕ならポストん中に手ぇぐらい入るだろぃ?そんナカに合鍵入ってるからソレ使え」
そう言って小さく溜息を吐きだしたマルコは受話器の向こうから聞こえてきたマジで…?の声にガシガシと頭をかきむしった。
「午後からの会議に必要なファイルなんだよぃ……」
そう言葉を続けたマルコの声はどこか焦っているようで、ソレにう~ん…と悩ましげに声を漏らしていた夢子は小さく分かった、と言葉を返すとその場を歩きだした。
『じゃぁマルコはちゃんとお昼食べて待ってて。ちゃんと1時までにはソッチに届けるから』
そう言ってじゃぁ、と切られた通話に耳元から携帯を離したマルコは暫し悩ましげに手元の携帯電話を眺めると、小さく息をつき昼食を食べるべく社内へと戻ったのだった。
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ゲームセンターを後にし、マルコの家までやってきた夢子は『305』と書かれる扉を見やるとその横の壁に埋め込まれているポストの口を覗きこんだ。
少し奥の方に見える鍵らしきものに、靴箱の上に置かれるソレを見やった夢子はよいしょ、と小さく声かけをするとポストの口へと手を突っ込んだ。
見た限りでは手の届きそうな位置にあったその合鍵にけれどもなかなか手に触れないソレにペシペシ、と靴箱の上を手探りで探していた夢子は、チラチラと御近所の方から向けられる好奇の視線に小さく舌打ちを零していた。
傍から見れば怪しさ極まりない自分のその行動に、全っ然届かないんですけどっ…!と小さく悪態をついていた夢子はやっとその手に触れた固い感触に、それを指の先で摘まむとポストから腕を引き抜いた。
なんとか取ることの出来たマルコの部屋の鍵に、ふぅ、と一つ息を吐きだした夢子は擦れて少し赤くなってしまった腕をさすると手にしていた合い鍵をドアノブへと差し込んだ。
「いくら細いったって限度があるっつーの……」
クソ、と未だ周囲から向けられる好奇の視線に小さく悪態をついた夢子はガチャリ、と開いた扉にマルコの部屋へと上がると、家主の居ない部屋をグルリと見渡しテーブルの上に置いてあった青いファイルへと視線を落した。
「青いファイルって……コレ、だよね……?」
テーブルに置かれる3冊の分厚いファイルに、その全てが青色であるのを見やった夢子はその眉間に悩ましげな皺を寄せると背負っていたショルダーバックの口を開け中身を床へとぶちまけた。
「大事な資料ならもっとしっかり保管しとけっての……!!」
きっと必要なのはこの中の一冊なんであろうファイルに、けれどもソレを確認するためにマルコへと連絡する暇も惜しいのかその3冊をすべてショルダーへと詰め込んだ夢子は重さの増したソレを再び背負うと足早に玄関へと歩き出した。
マルコの家をあとにして、白ひげカンパニーへと足早に歩いていた夢子は携帯の時刻を確認するとその端整な眉を小さく顰めさせた。
今から走ってもギリギリ間に合うかどうかの時間に、マズイな…、と小さく舌打ちを零した夢子は、ふと脳裏に過った某幼馴染の顔にピタリ、と歩みを止めると踵を返し来た道を逆走し始めた。
10分とかからず到着したモンキー家に、上がる息もそのまま庭先へと回った夢子は縁側に腰掛け日向でまどろむガープの姿を見つけるとホッと小さく息を吐きだした。
「ガープさん!!私の単車まだある?!」
「んぉ?おー、夢子か………お前さんのバイクならソコで埃被っとるじゃろ」
不意にかけられた声にパチリ、と目を覚ましたガープは庭先へと現れた夢子の姿に、そう言葉を返すと物置小屋の片隅に置かれていたアメリカンを指差した。
そんな自分にアリガト!と言葉を返しそのアメリカンへと駆けよった夢子に、元気そうでなによりじゃ、とウンウンと頷いていたガープはバイクにキーを挿し込みエンジンをふかした夢子を見やるとはた、と目を瞬かせた。
「ってコラ待たんかコノ悪ガキ!!学校はどーしたんじゃ?!!」
「ガッコは午前まで!!緊急なの、見逃して!!」
そう言って無事かかったエンジンにバイクへと跨った夢子はおもいきりグリップを握りこむとブオォォォン!!と唸り声を上げたバイクに小さく安堵の息を吐き出し、そんな自分を捕えようと手を伸ばしたガープを一瞥しその手から逃れるようにバイクを急発進させたのだった。
グングンと上がるメーターに、猛スピードで公道を走っていた夢子は点滅する信号を見やるとクラッチを3段階上げ一気に信号を突っ切った。
ノーヘルに加え速度オーバーなその運転に、これで運良くパトカーに捕まりさえしなければ1時には白ひげカンパニーに着けるな、と安堵の息を漏らしていた夢子は、パッパー!!と後方から聞こえたクラクションの音にサイドミラー越しに後ろを見やった。
自分のバイクを追いかけるよう後続する数台のバイクの群れに、なんだ白バイじゃないのか、とホッと胸を撫で下ろした夢子は、自分の隣に並んだバイクへと面倒くさげに視線を向けた。
「オネーさん、可愛いね!どう?俺達とドライブしない?」
「………悪いけど、急いでんの」
どっか行って、とそんな自分へと声をかけてきたドライバーに、自分同様ノーヘルで二人乗りをするグループを一瞥した夢子はそう言葉を返した自分の周りを取り囲むよう間隔を狭めてきた男達に苛立たしげに眉を顰めさせた。
「つれないなぁ!良いじゃん、少しぐらい!」
「…………分かった。じゃぁ私について来られたら相手してあげる」
そう言って一気に速度を上げた夢子に、瞬く間に遠ざかっていくそのバイクを見やった男達は慌てたようにアクセルをふかすとそんな夢子の後を追いかけたのだった。
顔に吹き付ける風圧に、小さく目を細め国道から旧道へと道を乗り換えた夢子は、車さえ通らないであろうその道に、後方を確認するともう随分と前に自分に追い付けなくなっていた男達の姿に小さく情けない、と零し正面へと顔を戻した。
暫くして見えてきた大きなビルに、再び国道へと進路を変えた夢子はあと少し、と小さく声を漏らすと一気にアクセルをふかした。
ものの20分足らずで到着した白ひげ本社のビルに、キキィ!と急ブレーキをかけた夢子はビルの目の前にバイクを止めると風で乱れた髪をかき上げ白ひげカンパニーの入り口へと向かった。
ウィン、と開いた自動扉に、ホールまでやってきた夢子は少し離れた場所にある受付を見やると、キョロリ、と辺りを見回した。
だだっ広いホールに、さてどうしたものか、と到着した事をマルコへと伝えるべきか、と上着のポケットから携帯を取り出そうとしていた夢子は、アレ?と聞こえたその聞き慣れた声にふと、携帯から視線を上げると正面を見やりパチクリ、と目を瞬かせた。
「やっぱ夢子ちゃんだ……。こんなとこで何してんの??」
「幸男こそ………え?こんなとこで何してんの……?」
そう声をかけてきた人物に、よく見知ったその顔を見やった夢子はそうひどく呆けたように目を瞬かせた。
ソレにそんな夢子を見やり同じように目を瞬かせていたサッチは何その格好…、と自分のスーツ姿を見て怪訝そうにその眉を顰めた夢子に、キョトン?と小首を傾げた。
「え?なにって………だって俺ココの社員だぜ……?」
「………え?しゃ、いん……?」
そう言ってホラ、と首から下げていた社員証をヒラリ、と振って見せたサッチに、ポカン…と呆けたようにそんなサッチを見やった夢子は、いつものリーゼントを下ろしオールバックにしているサッチに似合わない…と小さく声を漏らすとはた、と目を瞬かせた。
「ぇ?ってか、仕事かけ持ちなんかして良いの……?こういう会社って労働基準法とか厳しいんじゃない……?」
「かけ持ちじゃねぇってんだよ……。アレ?言ってなかった?お店の方は忙しいときだけ臨時で頼まれてるだけなんだぜ?俺の本職は白ひげカンパニーの4課の課長なんだぜー!」
「幸男が課長とか………世も末だね」
どう?凄ぇだろ!とどこか自慢げにその背広を広げてみせたサッチに、プロ顔負けの料理の腕を持つサッチを見やった夢子は宝の持ち腐れだ、と小さく零した自分に、酷ぇっ!!と声を上げたサッチを一瞥するとあぁ!!と本来の目的を思い出し慌てたようにそんなサッチへと駆けよっていた。
「そんなことより幸男!不二野って人知らない?!」
「ねぇ?!もうちょっとサッちゃんのことに興味持って?!!ってか、え?不二野って………不二野マルコ?夢子ちゃん知り合いなの?」
自分のことをそんな事、と言ってスル―した夢子にたいしてそう抗議の声を上げたサッチは、夢子の口から出てきた腐れ縁の同僚の名前にはた、と目を瞬かせると不思議そうに目の前の少女を見下ろした。
「急いでるんだって!知ってんなら早く………
「夢子、こっちだよぃ!どうやら間に合ったみてぇだな」
連れてきて!と言葉を続けようとした夢子は、不意に呼ばれた名前にピタリ、と言葉を止めるとこちらへと歩いてくるマルコの姿を見やり、その顔に小さく安堵の表情を浮かべた。
「マルコ、良かった!今連絡しようとしてたところで……」
「悪いねぃ、パシリみたいなことさせちまって」
そう言って自分の元までやってきたマルコに、ショルダーから分厚いファイルを取り出した夢子はダイジョウブ、と言葉を返すとソレをマルコへと差し出した。
「ゴメン、どれか分からなくてテーブルに置いてあったやつ全部持ってきちゃった……」
「あー………いや、逆にすまねぇな。重かっただろぃ?」
そう言ってハイ、と渡された3冊の分厚いファイルに、ソレを背負ってきた夢子を見やったマルコは申し訳なさそうに頭をかくと小さく首を振った夢子にふと、その口元に笑みを浮かべるとゆるり、と夢子の頭を撫でやった。
「んで?なんでテメェがココにいるんだよぃ?」
「あ、やっと俺のことに触れてくれますか?つか、え?何、二人とも知り合いだったの?」
一通りのやり取り終え、やっと自分へと声をかけてくれたマルコにそう言葉を返したサッチは、面倒くさげに自分を見やるマルコと夢子を交互に見やるとキョトリ、と目を瞬かせた。
「あー、まぁ……ちぃとねぃ。色々あんだよぃ」
「サッチとマルコは同僚かなにかなの……?」
そう言葉を濁らせどこかバツが悪そうにサッチから視線を逸らしたマルコは、そう言って不思議そうに自分達を見上げる夢子へと視線を落とすとサッチの名を口にした夢子にキョトリ、と目を瞬かせた。
「お前ぇ……コイツのこと知ってんのかぃ?」
「バイト先のチーフ」
そう言って後ろ指でサッチを差したマルコは、そう簡潔に言葉を返した夢子にパチクリ、と目を瞬かせると隣に立つサッチを見やり、目の前の夢子へと視線を戻しその眉間に皺を寄せた。
「確か……コイツが手伝いしてる店ってぇのは………居酒屋じゃぁなかったかぃ?」
「ぁ…………」
未成年は禁止じゃねぇのかぃ?と訝しげな視線を自分へと寄越したマルコに、しまった…と咄嗟にその口元に手を当てた夢子はグワシ、と掴まれた頭に小さく肩を震わせた。
「『あ…』じゃねぇよぃ。『あ…』じゃっ……!!ホントにお前ぇは悪ガキだねぃっ!!」
此処まで何で来たっ?!!と異様に到着の早かった自分に、一つ二つとバレていく悪事に目を釣り上げるマルコからソッと視線を逸らした夢子はふと、視界に入った時計に目くじらを立てるマルコへと視線を戻した。
「ホ、ホラそんなことより時間良いの?!会議始まっちゃうよ?!」
「あ?あぁ、そうだったよぃ。今回ばかりは御咎めなしにしといてやるよぃ」
そう言ってホールの壁に設置してあった時計を見やったマルコはグシャグシャ!!とそんな夢子の頭を撫でつけるとあと10分で始まる会議に、抗議の声を上げる夢子を見下ろすとあぁ、と思い出したように声を漏らした。
「夢子、昼飯は食ったのかぃ?」
「ぇ?まだだよ。マルコにファイル渡したらどっかで適当に食べるつもりだったし」
そう言って空腹を訴えるお腹へと手を当てた夢子に、だったら、と首から下げていた社員証を外したマルコはソレを夢子へと差し出した。
「ホール抜けた先に食堂があるからソコで食え。社員証提示すりゃぁ金もかからねぇからねぃ」
そう言ってその手に握らされた『不二野マルコ』の社員証に、えっ?!と声を上げた夢子は戸惑うようにそんなマルコを仰ぎ見た。
「い、良いよわざわざ!!それに社員食堂なんて私が行ったら浮くじゃん……!」
「一般の人間も普通に食いに来れるようになってるから問題ねぇよぃ。食い終わったら社員証はそこの受付のヤツにでも渡しときゃぁ良いからねぃ」
そう言ってポンポン、と撫でられた頭に、自分とマルコのやり取りをどこか楽しげに見ていたサッチを連れその場を足早に歩きだしてしまったマルコに、その背を見やった夢子は困惑したように手元の社員証に視線を落とすとあぁそれと、と何かを思い出したように自分を振り返ったマルコにビクリ、と肩を震わせた。
「バイクに乗るのは別にかまわねぇが、ノーヘルだけはすんじゃねぇよぃ!!あと、制限速度は守れよぃ!」
そう声を上げエレベーターへと乗り込んだマルコに、ヒラヒラと楽しげに自分に手を振るサッチを見やった夢子は閉まった扉に、登っていくエレベーターを呆けたように見やると周囲から向けられる好奇の視線に気づき足早にその食堂へと向かったのだった。
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「しっかし、マルコが夢子ちゃんと知り合いだったなんてなぁ」
サッちゃんビックリ!とどこか楽しげにニヤニヤとその顔に笑みを浮かべ自分を見やるサッチに、そんなサッチを横目に見やったマルコは嫌そうにその眉根を寄せると手元のファイルへと視線を落した。
「お前ぇさんこそ、夢子と知り合いだったんだねぃ。店のバイトの金髪美女ってぇのは、アイツのことだったのかぃ?」
「まね!どーよ、可愛いだろー?夢子ちゃん!」
そう言ってだらしなくその顔を緩めたサッチに、そんなサッチを一瞥したマルコは呆れたように溜息を吐きだすとエレベーターの文字盤を仰ぎ見た。
「居酒屋でバイトさせてるってぇ時点でアウトだがねぃ」
「ヴッ……、さ、最初は俺だって辞めろって言ったんだぜ?!けどよぉ……家出たい、とか……言われちまったらさぁ………」
そう言って批難の視線を自分へと向けたマルコに、言葉を詰まらせたサッチはそうしどろもどろに言葉を返すとあぁ、とどこかそんな自分に賛同するよう声を漏らしたマルコを不思議そうに見やった。
「一人暮らししてぇらしぃな、夢子のヤツ」
「へ……?マルコそんなことまで知ってんのか?」
そう言って小さく溜息を吐きだしたマルコは、キョトリと目を瞬かせたサッチにまぁねぃ、と言葉を返すとチン、と辿りついたエレベーターに、エレベーターから降りるとさっさと歩きだす。
「なぁんか結構親密な関係じゃね?お前と夢子ちゃん。つーかよ……この前は拾った野良ネコは『男』だとか言ってませんでしたぁ?」
「テメェに女だっつったら根掘り葉掘り聞くだろぃ」
メンド臭ぇと、自分をジトリと見やったサッチにそう言葉を返したマルコは酷ぇ!と声を上げるサッチを無視するとそのまま一課のオフィスへと入っていったのだった。
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広い食堂に、若い女性や子供連れで賑わうソコを見やった夢子は、社員食堂ってこんなんだっけ…?とまるでオシャレなカフェを思わせる食堂にそう零すとカウンターへと歩き出す。
ボードに書かれる『本日のおススメ』に、ローストビーフやタンドリーチキンが書かれているソレを見やった夢子は凄い…と小さく感嘆の声を漏らすと頭上にあるメニュー表を仰ぎ見た。
バラエティ豊富なメニューに、麺類からご飯類までさまざまな種類があるソレを悩ましげに見ていた夢子は、自分の横を通り過ぎカウンターの前に立った小柄な男の人を見やるとキョトリと目を瞬かせた。
「いつものお願い」
「ハイヨー!」
そう言って首から下げていた社員証をかざした男の人に、紺色のスーツに身を包むどう見繕っても中学生かそこらの外見の男の人を見やった夢子は若々しいその男性に、新卒かな…?と小首を傾げると差し出された社員証のバーコードを読み取りロコモコ一つー!と厨房に声をかけるスタッフを見やりなるほど、と一人声を漏らしていた。
注文だけ済ませテーブルへと向かうその社員であろう男の人の背を見送った夢子は、カウンターの前に立つとHello!と自分を見やり、英語でそう声をかけてきた強面のスタッフに手にしていた社員証を差し出した。
「前に食べたものと同じものを………」
「お!なんだちゃんと日本語喋れんのか!へぇ……、君マルコ部長の妹なのか」
そう言って差し出された社員証に、普通に日本語を話した目の前の英国女子を見やった男の人はこりゃ失敬!と笑うと差し出されたソレを受け取り、ソコに表記される名前を見やると目の前に立つ夢子へと視線を落としそうどこか感嘆の声を漏らしていた。
「ぁ~……いや、そうでは、ないんですけど……」
きっと髪色でそう判断したんだろう男性に、そう気まずそうに言葉を濁らせそんなスタッフから視線を逸らした夢子は、そんな自分を見やりふ~ん…とどこか考えるよう声を漏らし二カッと笑みを浮かべた男の人に、バーコードを読み取りソレを差し出した男性をチラリ、と見やると手渡されたソレに小さく息を吐きだした。
「Aランチ定食一つー!あ!飲みモンなんにするー?サービスするぜ!」
そう言って茶目っ気たっぷりにウィンクをして見せたスタッフに、戸惑うように視線を彷徨わせた夢子はじゃぁ紅茶を、と小さく声を漏らすと了解!と快活な笑みを浮かべた男性に、会釈をしそそくさとその場を後にした。
暫くして運ばれてきたAランチ定食に、焼鮭と卵焼きに味噌汁とご飯の付くソレを見やった夢子はお昼なのに朝食のようなチョイスのソレに小さく苦笑を漏らしていた。
(きっと朝ご飯抜いたんだろうな……)
いただきます、と箸を手に両手を合わせた夢子は、朝はギリギリまで寝ていたい、と言っていたマルコを思い出すとまったく…と小さく呆れたように溜息を吐き出し、出来たてほやほやの鮭へと手を伸ばしたのだった。
ご飯も食べ終わりロビーまでやってきた夢子は手元の社員証へと視線を落すと、正面の受付へと視線を向け小さく息を吐きだすと意気込むようにソコへと歩き出した。
「あ、あの……!コレ、不二野さんに返しておいてください………」
艶やかな女性が二人並ぶ受付に、バロックワークスとはまた違った華やかさがあるな…、とそんな受付嬢へと手にしていたマルコの社員証を差し出した夢子は、そんな自分を見下ろしその口元に小さく弧をかいた彼女達からソッと視線を逸らしていた。
「えぇ、確かにお預かりしました」
そう言ってその社員証を受け取った受付嬢に、小さく安堵の息を吐きだした夢子はコレでもう用はない、とその場を立ち去ろうとして不意にあ、ねぇ!とその背にかけられた声に不思議そうに受付を振り返った。
「なんですか……?」
「貴女って、マルコ部長の恋人なのかしら?」
「はっ……?!!ち、ちがっ……!!!」
そう言ってどこか楽しげに口元に笑みを浮かべ小首を傾げてみせた受付の彼女に、その口から発せられた言葉に顔を真っ赤に染めた夢子はブンブンと大きく首を振っていた。
「アラ、違うの?」
残念…。と小さく声を漏らした彼女は本当に残念そうに頬に手を当て自分を見下ろしていて、そんな彼女達からの視線から逃げるよう再び受付へと背を向けた夢子は再び上がったあぁ、の声にビクリ、と肩を震わせると恐る恐るそんな彼女達を振り返った。
「夢子ちゃん、だったかしら?今度お姉さん達とご飯でもどうかしら?」
マルコ部長のお話、聞きたくない?とその顔に綺麗な笑みを浮かべた彼女に、ピクリ、と肩を震わせた夢子はパッとその顔を輝かせていた。
「聞きたい!!………ぁっ」
彼女達のお誘いに二つ返事でそう言葉を返していた夢子は、その笑みをより一層深めた彼女達を見やると咄嗟に口へと手を当て、バツが悪そうにそんな彼女達から視線を逸らした。
「じゃぁ決まりね!私、アンリエッタ。この子はアイリス。それで、コレ!私達の連絡先よ、また暇な時に連絡頂戴な!」
そう言って差し出された連絡先に、彼女達の名刺の裏に書かれたソレを見やった夢子は、楽しげに笑みを浮かべるアンリエッタ達へと視線を戻すとどこか戸惑うようにその眉根に皺を寄せた。
「あの………なんで、私に声かけたの……?」
「アラ、バイクであんな格好良い登場の仕方した子が気にならないわけないでしょう?それに、その子が『アノ』マルコ部長の知り合いだなんて、ますます気になるじゃない!」
こう言って声を弾ませねぇ!と顔を見合わせ笑みを浮かべるアンリエッタ達に、見られてたのか…と表に置いたままのバイクをチラリ、と見やった夢子は苦々しく笑みを浮かべるとありがとうございます。と渡された名刺を無くさないように、とポケットへとしまった。
「あの、それでは……」
「えぇ、またね。気を付けて帰るのよ?」
「連絡、楽しみにしてるわね夢子ちゃん♪」
軽く会釈をした自分に、ひどくにこやかに手を振るアンリエッタ達へと遠慮気味にヒラリ、と手を振り返した夢子はそんなアンリエッタ達を一瞥すると白ひげカンパニーを出るべく正面玄関へと向かったのだった。
白ひげカンパニーの人々
SSオマケ→
「今日はすまなかったねぃ、おかげで助かったよぃ」
「んー?良いよ、美味しいご飯食べれたし」
そう言ってほらよ、と差し出されたホットココアに、最近では飲み物のレパートリーが増えつつあるマルコ宅の冷蔵庫にソレを受け取った夢子は、正面へと腰掛けたマルコを一瞥すると手元のココアへと視線を落した。
「帰りはちゃんとヘルメット被ったかぃ?」
「被りましたぁー」
珈琲片手にそう聞いてきたマルコに、ヴッ…と言葉を詰まらせた夢子はそう少し不貞腐れたように言葉を返すとカップへと口を付けた。
それにそれなら良いよぃ、とどこか楽しげに笑ったマルコも珈琲を一口飲むと正面に腰掛ける夢子を見やり、そういやぁ、と思い出したように声を漏らした。
「受付のヤツ等がやたら楽しそうに社員証返しにきたが……アイツ等お前ぇに何か変なこと吹き込んでねぇよねぃ?」
「変なことってなに……。特には何も?白ひげの受付のお姉さん達、美人だった」
そう言ってどこか窺うように自分を見やったマルコに、小さく苦笑を洩らした夢子は今日連絡先を交換したアンリエッタ達に、その顔を思い出すとどこか嬉しそうに顔を綻ばせた。
それにそうかぃ…?と首を傾げたマルコはそんな事今まで気にも留めていなかったんだろう本当に不思議そうで、そんなマルコを見やった夢子はそうだよ、と呆れたように言葉を返すとひっそりと溜息を吐きだしココアへと口を付けたのだった。
後書→
マルコさんは高校時分から結構モテてたと思います!今でも女性社員からは絶大な人気があるのできっと誰が美人とかそういうのはたいして気にしなさそうだなぁ、と。
自分がモテる分周りの人間には無頓着というか興味がないというか……
ちなみに社員食堂に居た社員さんはハルタ課長ですよー(笑)
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