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金色猫とタンゴ
貴女のお名前は?
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バイトを終えいつものようにマルコの家にやってきていた夢子は、家に帰ってもただひたすらにPCと向き合うマルコを見やると、何か飲み物を、と冷蔵庫へと手を伸ばした。
(あれ?珍しー、卵がある……)
あ、挽肉もある、と普段ならばお酒ぐらいしか入っていない冷蔵庫に他の食材が入っているのを見やった夢子はそう小さく声を漏らすと、ドアポケットから烏龍茶を取り出しパタリ、と冷蔵庫の扉を閉めた。
「マルコー、ホットかアイスか」
「そのまんまで良いよぃ」
ホットは眠くなる、とかけた声に視線はPCへと向けたまま言葉を返したマルコに、もういいとこ夜の12時を回りつつある時計を見やった夢子は、ワーカホリックめ、とその端整な眉を顰めさせると、仕事に心血を注ぐマルコを見やりコップに烏龍茶を注ぐとリビングへと向かった。
「そのうち過労死しそうだね」
「今進めてるプロジェクトがひと段落すりゃぁ落ち着くよぃ」
ハイ、とデスク脇に置かれたグラスに、一旦PCから視線を上げたマルコはそんな自分を呆れたように見下ろす夢子を見やると、一つ大きく息を吐き出しイスの背もたれへと深く凭れかかった。
バキリ、と鳴った背骨に、苦笑を洩らす夢子を横目に見やったマルコは壁にかけてある時計へと視線を向けると12時を差す短針に小さく眉を顰め傍らに立つ夢子へと視線を戻した。
「夢子、そろそろ帰れよぃ」
「あぁ、そうだね。あんま遅くまでいてもマルコに迷惑だし」
そうかけた声に、ほどほどにね、と言葉を返しトレンチコートを羽織った夢子に、そうじゃねぇよぃ…と星の瞬く外を見やったマルコは危機感の薄い目の前の『女の子』へと視線を戻すと、帰り支度を整えた夢子にそんな彼女を見送るべくイスから立ち上がった。
「送っていかねぇで本当に大丈夫かぃ?」
「ダイジョーブだって……。もしなんかあっても腕には自信あるし」
そう言って苦笑を洩らしながら靴を履く夢子に、時折顔や体に怪我を作って家へとやってくる夢子を思い出したマルコは、そう言う問題でもねぇ…と、その眉根を複雑そうに寄せると、グシャリ、とそんな夢子の頭を撫でつけた。
「家ぇ着いたら連絡しろぃ」
「ンー、リョーカイ」
最近では当たり前のようになってきたそのやり取りに、それでもどこか気恥ずかしげに言葉を返す夢子を見やったマルコは、鞄を手に立ちあがった夢子を見やるとあぁ、そうだ。と思い出したように家を後にしようとする夢子へとストップの声をかけていた。
「夢子。明日なんだけどねぃ、朝ちぃとコッチに寄っちゃくれねぇかぃ?」
「マルコの家に……?別に良いけど?」
唐突にかけられたその言葉に、キョトリ、と目を瞬かせてマルコを振り返った夢子は、じゃぁ明日は7時までにウチに来いよぃ、とその顔に笑みを浮かべたマルコを見やると不思議そうに頷いたのだった。
――――
次の日の朝、高校の制服に身を包んだ夢子はマルコに言われた通り7時前にマルコの家へとやって来るとソッとインターフォンへと手を伸ばした。
ピンポーン、と室内に鳴り響いたチャイムの音に、肩から下げていた通学鞄を持ち直した夢子は応答のない家主に、まだ寝ているのだろうか…?と小首を傾げるとふと、ソコから見える街並みを見下ろした。
何度見ても眺めの良いその景色に、住む世界が違うよな…、と小さく声を漏らした夢子はカチャカチャ、と聞こえた鍵を解錠する音に305と書かれた扉へと視線を戻した。
「おはよぃ。へぇ、ちゃんと制服着てんじゃねぇかぃ」
「お、はよ……。ガッコ行く日も行かない日も制服は着てますー」
ガチャリ、と開いた扉に、そこから顔を覗かせたマルコを見やった夢子は、家へと訪れた自分を見て偉いねぃ、とどこか楽しげに自分の頭を撫でてきたマルコからフン、と視線を逸らすとそう言葉を返した。
それに学校はちゃんと行けよぃ…、と呆れたように溜息を吐きだしていたマルコは、ふと、夢子の足元に視線を落とすとその短いスカート丈に、ソコから覗く細く白い足を見やり目のやり場に困るな、とソッとそんな夢子から視線を逸らすように夢子の顔へと視線を戻した。
「よくもまぁこんだけ寒ぃってのにそんなカッコしてられんな」
「慣れてるもん。ソレで?どうしたの?こんな朝早く」
12月に入り本格的に冬になった季節に、それでもその生足を惜しげもなくさらけ出す夢子を見て小さく身震いをしたマルコは、そう言って自分を仰ぎ見た夢子にあぁそうだった、と本来の目的を思い出すと手にしていた包みを夢子へと差し出した。
「ほれ、コレ持ってけ」
「………なに?コレ」
そう言って差し出された藍色の巾着袋に、キョトリ、と目を瞬かせた夢子は長方形の何かが入っているソレを受け取るとひどく不思議そうに巾着袋へと視線を落した。
「なにって、弁当だよぃ。お前ぇ、昼飯は菓子パンで済ませてるってぇ言ってたからねぃ。ちぃと心配になったんだよぃ」
ちゃんと食え、と自分に批難の視線を向けたマルコに、お弁当…?と小さく零し手の中の巾着を見やった夢子は、まだ微かに温かいソレにパチリ、と目を瞬かせると呆けたようにマルコを見上げた。
「マルコが、作った…の?」
「適当だけどねぃ。菓子パンよりゃマシだろぃ」
そう言ってひどく気恥ずかしげに自分から視線を逸らし頬をかいたマルコに、もう一度手元の巾着へと視線を落した夢子はふと、その口元に笑みを浮かべると再びマルコへと視線を戻した。
「ありがと」
「あー…、まぁ……んじゃま、ちゃんと学校いけよぃ!」
そう、どこか嬉しそうにその顔に笑みを浮かべた夢子に、そんな夢子をチラリ、と見やりその頭をグシャグシャ!と撫でつけたマルコは小さく頷いて家を後にする夢子の背を見送ると、自分も会社へと行くべく鞄を手に取ったのだった。
キーンコーンカーンコーンと校舎に鳴り響く4限終了のチャイムに、開いていた現国の教科書を閉じた夢子はガララ!!と勢いよく開いた教室の扉にソコへと顔を覗かせた人物へと視線を向けた。
「夢子~!!一緒にメシ食おうぜ―!!」
そう声を上げ堂々と3年の教室へと入ってきた1年生に、重箱を手に自分の元へとやってきたルフィを見やった夢子は、その後に続くよう教室へと入ってくる後輩達と同級生を見やると小さく苦笑を洩らした。
「珍しいな、アンタが1限から4限までいんの」
「ルフィが『今日は夢子が居るから夢子と食べるんだ』って聞かなくて」
大変だったのよ、と勝手に机を寄せ集め輪を作り始めたサンジやナミに、そう言ってどこか楽しげに自分を見やったゾロに煩い、とバツが悪そうに言葉を返した夢子は自分の隣を陣取ったルフィを見やると、各々好きな場所に腰を下ろしたメンツに自由人ばっかだな、と小さく苦笑を洩らし机の横にかけてあった鞄から藍色の巾着を取り出した。
「アレ?今日は菓子パンじゃねぇんだな」
「まぁ、ね……」
珍しい、と机に置かれた巾着袋を見てそう声を漏らしたエースに、そんなエースをチラリと見やり巾着の中からお弁当箱を取り出した夢子は、可愛らしい花柄がデザインされた弁当箱を見やるとクッ、と漏れそうになった笑いを寸でのところで呑み込んだ。
(わざわざ、買ったのかっ……!)
男の人が使うにしては随分と小さいその弁当箱に、未使用感がたっぷりなソレを見やった夢子はホント世話焼きだなぁ、と小さく肩を震わせると向かい側からそんな弁当箱を覗きこんできたナミへと視線を向けた。
「へぇ、お弁当作って来たんだ」
「『作った』わけじゃないけどね」
そう言ってめっずらしー、と興味津々に手元のお弁当箱を見やるナミに、そう言った自分を不思議そうに見やったナミから手元のお弁当へと視線を落した夢子は、周囲から向けられる好奇の視線を受けながらソッと弁当箱の蓋を取り去った。
「「「「「「「……………」」」」」」」
開いた蓋の奥から現れたオカズに、ソレを見て一同に言葉を発しなくなったナミ達に、お弁当の中身を見やった夢子は黒い物体が詰め込まれるソレ等にあぁ、やっぱりか。と基本焦げているのが当たり前なマルコの料理を見やるとねぇ…とやっと口を開いたナミへと視線を向けた。
「アンタってさ………たしか料理得意だったわよね……?」
「あー………作ったの、私じゃない」
どうしたの?とでも言いたげに自分を見やったナミに、あまりにも衝撃的なそのお弁当の中身に言葉を無くす面々を見やった夢子は、そんなナミへと言葉を返すと備え付けの箸を手に取りいただきます、と手を合せていた。
「ちょっ、まっ……?!!アンタそんなもの食べるつもり?!!」
「………まぁ、折角作ってもらったし」
「そーだぜ夢子さん!!それは食いモンじゃねぇよ!!」
当たり前のようにその黒い物体を箸で摘まんだ夢子に、ソレを口へと運ぼうとする夢子を見て堪らずストップの声を上げたのはナミだけではなく同じように机を囲んでいたサンジだった。
「そんな得体の知れねぇもん食って腹でも壊したらどーすんの?!」
「変なもんは入ってないよ、慣れた」
そう言って静止の声を上げるナミやサンジを一瞥し、ポイ、とその口へと黒い塊を放り込んだ夢子は微かに感じた卵の風味に、あぁ、卵焼きか…と納得すると、そんな自分を呆然と見つめるナミ達へと視線を戻しその眉を怪訝そうに顰めさせた。
「なに……?」
「作ってもらったって言ってたけど……父親と上手くいってんの?」
先程の夢子の言葉を思い出し、そう声を漏らしたナミにその眉間に不快そうに皺を寄せた夢子はそんなわけないでしょ、と言葉を返すとかろうじて原形をとどめている肉団子を口へと放り込む。
「ちょっとね……知り合いが、作ってくれて……」
「サッチか?」
そう言って気恥ずかしそうにお弁当へと視線を落した夢子に、バクバクとご飯を口へと詰め込んでいたエースがそんな夢子を見やると不思議そうに小首を傾げた。
「違う。サッチの料理はプロ並みだから」
「へぇ、じゃぁ最近知り合ったっていうあの白ひげカンパニーの人か」
エースの言葉にコレはない、といささかマルコに失礼な発言をして唯一そのまま弁当に入っていたプチトマトを口へと放り込んだ夢子は、どこかしたり顔でニヤニヤと自分を見やるサボにグッと言葉を詰まらせると、周囲から上がった驚きの声に気まずそうに弁当箱へと視線を落した。
「『白ひげカンパニー』っていったら大企業じゃない?!!アンタいつそんな奴と知り合ったのよ?!」
「………煩いな。成り行きで関わり持つようになっただけだって……」
そう声を上げ、イスから立ち上がったナミに、驚きに目を丸くさせるビビ達を見やった夢子は小さく溜息を吐きだすとふぃ、とそんなビビ達から視線を逸らした。
「でもその人一課の部長なんだろ?凄いじゃないか、そんなヤツと知り合いなんて」
「「「「「部長~~~~?!!」」」」」
どこか気まずそうに自分達から視線を逸らす夢子を見て、そうハハハ、と笑ったサボに、事情を知っているエースやルフィ以外の面々のその驚きように耳を塞いだ夢子は面倒くさげに眉を顰めると笑うサボへと批難の目を向けた。
まるで余計な事を言うな、とでも言いたげな夢子の視線にサボは小さく苦笑を洩らすと肩をすくめ自分のお弁当へと手を伸ばす。
「それで?どんな奴なのよ、アンタを手懐けるその部長さんって」
そう、ひどく楽しげに顔に笑みを浮かべたナミに、批難の目をナミへと向けた夢子は好奇の視線を自分へと送るサンジ達を見やると観念したように溜息を吐きだした。
「どんな、っていわれても………いたってフツーのサラリーマンだよ。不二野マルコって人」
そう言ってフリカケのかかっているご飯を口へと運ぶ夢子に、ご飯も食べ終わり一人暇そうに夢子達の会話を聞いていたエースがキョトリ、と目を瞬かせるとマルコ…?と声を漏らし不思議そうに夢子へと視線を向けた。
「マルコって、あの『不死鳥マルコ』か?」
「『不死鳥』……?いや、不二野だって」
そう言って会話へと加わってきたエースに、怪訝そうにその眉を顰めた夢子はそんな自分を見て違ぇよ、と同じようにその眉を顰めたエースにパチクリと目を瞬かせた。
「お前知らねぇのかよ?不死鳥マルコ!不良の間ではかなり有名な男だぜ?」
「そーなの?」
そう言ってヤレヤレ、と肩をすくめてみせたエースに、小さく小首を傾げた夢子は自分を取り囲む不良集団へと視線を向けると、あー!と何かを思い出したように声を上げたサボへと視線を向けた。
「『不死鳥マルコ』って、あの『喧嘩100人斬り』のマルコか!」
「そーそー!あと一人で他校の不良全滅させたとか!」
凄ぇよな!と目を爛々とさせながら語るエース達に、へぇ…、と声を漏らした夢子は初めて聞くその『不死鳥マルコ』の存在に、そんな自分を呆れたように肩をすくめ見やるゾロやウソップを見やると心外だ、とでも言いたげに眉を顰め、遅れてやってきたローへと視線を向けた。
「ねー、トラ男は『不死鳥マルコ』って知ってる?」
「ふしちょう……?あぁ、あのナイフで刺されながら20人相手したっつーあの『不死鳥マルコ』か」
そう言ってサンジの隣に腰かけたローに、ソイツがどうした?と不思議そうに自分を見やったローへとフーン…、と相槌を返した夢子は、次から次へと出てくるマルコの武勇伝に悩ましげに眉を顰めるとその『マルコ』が作ったお弁当へと視線を落したのだった。
~~~~
キーンコーン、と社内に鳴り響いた昼休憩を知らせるチャイムの音に、一つ伸びをしたマルコはバキリ、と鳴った背中に小さく息をつくと鞄の中から藍色の巾着袋を取り出した。
夢子の弁当箱を買うついでに、と購入した自分用の青色の弁当箱にソレをデスクの上へと広げたマルコは、ふと、自分のデスクの隣に立った人物を見やると怪訝そうに眉を顰めさせた。
「めっずらし~!マルコが弁当持ってきてんの!」
「相変わらず目敏いヤツだねぃ……。拾った野良に餌やるついでに作ったんだよぃ」
なになに?彼女?とひどく楽しげに一課へとやってきたサッチは、マルコのデスクに置かれる弁当を見やりそう声を弾ませると、そんな自分を一瞥し弁当箱の蓋を開けたマルコにへ…?と声を漏らすと姿を現したまる焦げの物体を見やり、相変わらず悲惨だな、とその顔を悲愴に歪めた。
「つか……作ったって……え?マルコが……?」
「そうだよぃ」
そう言ってデスクの上の弁当を指差したサッチは、そう言葉を返し当たり前のようにその黒焦げの卵焼きを頬張るマルコを見やると再び弁当へと視線を落とし悩むようにポリリ、と額の古傷を引っ掻いた。
「あー……、その野良ちゃんにもあげたのか?コレ……」
「………?そうだよぃ?」
そう言ってもう一度デスクの上の弁当を指差したサッチは、そんな自分をひどく不思議そうに見上げたマルコに、ブハッ!!と堪らず噴き出すと腹を抱え身を折った。
「お、おまっ……!!高校の時の家庭科の評価オール1だったの忘れたのかよっ?!」
「………ちったぁマシになったほうだよぃ」
そうゲラゲラと声をあげ、あまつさえ目尻に涙まで浮かべ笑うサッチに、そんなサッチをジロリ、と睨みつけたマルコは笑うんじゃねぇ、と小さく舌打ちを零すと自作の弁当へと視線を戻した。
「おっ前なぁー!こんなん『料理』って言わねぇってんだよ!」
なにこの消し炭、と真っ黒い物体を摘まみ上げ口へと放り込んだサッチは、微かに感じた肉の味に肉団子か…、と納得すると不貞腐れた様な表情を浮かべるマルコを見やり再びハハッ!と笑いを零した。
「つーか、コレ渡された野良ちゃん嫌がらせだと思ってんじゃね?」
流石にコリャないぜー、と茶色と黒で埋め尽くされるマルコの弁当箱を指差したサッチに、そう言ったサッチの言葉にピクリ、と肩を震わせたマルコは手元の弁当を見やると、どこか顔色を青くさせそんなサッチを仰ぎ見た。
「けど、よぃ……いつも何も言わずに食ってたよぃ……」
「そんなん言えなかったに決まってんだろー?折角作ってくれてんのにー、って!それかソイツも末期の味音痴とか?」
そう言ってハハハッ!と笑ったサッチに、無理やり食ってたのか…?と再び手元の弁当へと視線を落したマルコは、いつも何も言わずに自分の作った野菜炒めを食べる夢子を思い出すと、コトリ…と手にしていた箸を静かにデスクへと置いた。
「まっ!お前のソレは今に始まったことじゃねぇから気にすんなって!早ぇとこ料理の上手い彼女でも見つけろってんだよ!」
あ、俺が立候補しようかー?とどこか落ち込んだふうなマルコの背を無遠慮にバシバシと叩きひどく楽しげに笑っていたサッチは、次の瞬間顔面に飛んできたマルコの裏拳に小さく呻き声を上げるとオフィスの床へと沈みこんでいた。
「大きなお世話だぃっ、フランスパンッ!!!」
そう声を荒げ席から立ったマルコに、そのまま一課を出て行ってしまったマルコを見やったサッチは、メキッと音を立てた首を押さえ体を起こすと、肩を怒らせ一課を出て行くマルコの背を見やり小さく苦笑を洩らした。
「あのマルコが他人の為に料理を作るとはなぁ……」
そう小さく零してクツクツと喉を震わせたサッチは、料理ベタがこうじていつの間にか包丁すら握らなくなったマルコに、デスクに取り残されたマルコ作の弁当を見やると変わったなぁ、とどこか楽しげに声を漏らした。
「しっかし………相変わらず良い拳だこと……」
「今のは自業自得だって……」
「お前ぇはマルコを怒らせたら世界一だねぇ……。どうにもワザとやってるようにしか見えねぇな」
マゾか、と自分の独り言に返ってきた言葉に、いつの間にか一課へとやってきていた課長2名を振り返ったサッチは、ひどく呆れたように自分を見やるハルタとイゾウに違ぇよ…、と嫌そうにその眉を寄せると痛む首元を押さえあー、痛ぇ…と溜息を吐きだしたのだった。
熱燗片手に会議の資料を捲るマルコに、その正面に腰掛け手持無沙汰のように雑誌を読んでいた夢子はバサリ、とテーブルの上に投げ捨てられた資料を見やると、ひと段落ついたのだろうソファーに深く凭れかかりお猪口へと酒を注ぎ足すマルコへと視線を向けた。
「会議、上手く行きそう……?」
「まぁ、ねぃ。3ヶ月かけて練り上げた企画だ、上手く行くことを祈ってるよぃ」
そう言ってあー、眠ぃ…と天を仰いだマルコに、きっと徹夜をしているんだろう目の下に薄らとクマを作るマルコを見やった夢子はお猪口に口を付けたマルコにお疲れ様、と言葉を返すとそういえば、と思い出したように手にしていた雑誌をパタリと閉じた。
「マルコってさ、『不死鳥』って呼ばれてたの?」
「ブッ……?!!な、なんでお前ぇがソレを知ってんだよぃっ?!!」
そう不意に問いかけた言葉に、盛大にお酒を噴き出したマルコを見やった夢子は咄嗟に手にしていた雑誌で飛んできた飛沫をガードするとそんなマルコへと批難の目を向けた。
「ちょ、汚い……。ってか、ホントなんだね『不死鳥マルコ』って」
「あ゛ー………若気の至りってぇやつだよぃ……。俺も若ぇ頃は随分と馬鹿やってたからねぃ……」
トモダチの大半は知ってるよ、とどこか呆れたように自分を見やった夢子に、袖元で口に垂れたお酒を拭ったマルコはそう言葉を濁らせるとバツが悪そうにそんな夢子からソッと視線を逸らした。
逸らされた視線に、フーン、と相槌を返した夢子は手にしていた雑誌をテーブルへと置くと昼間のエース達との会話を思い出しじゃぁさ、と言葉を続けるように口を開いた。
「喧嘩で100人相手にしたとか言う噂は……?」
「したっちゃしたが………別に俺一人ってぇわけでもなかったよぃ。他にも仲間がいたしねぃ」
「他校の不良全滅させたとか……」
「尾びれ背びれが付いてるだけだぃ……。あんときゃ街で他のグループに絡まれたのを伸しただけだってぇのぃ」
「じゃーナイフで刺されてんのに20人ボコッたってのは……?」
「…………よくもまぁアレコレと出てくるもんだねぃ……」
次から次へと出てくる自分の過去に、人の黒歴史を…と小さく零したマルコはどうなの?と自分を真っ直ぐに見つめる夢子をチラリと見やると、観念したように溜息を吐き出し減ったお猪口へとお酒を注ぎ足した。
「あんときゃぁ他校のヤツ等と抗争があってねぃ……、俺や他の奴らでソイツらとやり合ってたんだよぃ。
まぁ、ちぃと油断してたってぇのもあるが、後ろから刺されちまってねぃ……喧嘩が終わった後は即入院だったよぃ」
流石の俺でもアレは死ぬ、と苦笑を洩らしお猪口に口を付けたマルコに、それでもナイフで刺された状態で喧嘩を続行していた、と言うマルコを見やった夢子は信じらんない…と小さく零すと呆れたように目の前の中年男性へと視線を向けた。
「ツレから話し聞いた時はビックリした。まさかマルコが私と同じ不良だったなんて」
「あの頃は何かと荒れてたからねぃ。まぁ、今じゃ良い思い出だぃ」
そう言って服をたくし上げたマルコに、その脇腹に薄らと残る傷跡を見やった夢子はなかなかに大きいその縫い跡に、生ける伝説だねと苦笑を漏らしたのだった。
あの時はこうだった、この時はこうだった、と自分の昔話をどこか楽しげに聞く夢子に、成績はさほど悪くはなかったよぃ、と高校時分の全教科の成績を思い出していたマルコは、ふと、昼間サッチとかわしたやり取りを思い出すとバツが悪そうに口元に手を当て、ソッと目の前の少女から視線を逸らした。
「あー………ところで、夢子……」
「んー?何?」
そうどこか気まずそうにかけられた声に、マルコの話に耳を傾けながらホットミルクを飲んでいた夢子は自分から視線を逸らすマルコを見やるとキョトリ、と不思議そうに目を瞬かせた。
「どうしたの?」
「その………弁当、なんだけどよぃ……」
なかなか次の言葉を発しようとしないマルコに、そう声をかけた夢子はどこか言葉を濁らせるマルコに、弁当…?と声を漏らすとあぁ、と思い出したようにソファーから立ちあがり床に置いていた鞄の中から藍色の巾着袋を取り出した。
「忙しいのにありがと、誰かに弁当作ってもらうなんて久しぶりだったから、嬉しかった」
そう言って照れ臭そうに弁当箱を自分へと差し出した夢子に、ポカン、と差し出されたソレへと視線を落したマルコは、受け取ったソレに、軽い巾着袋を見やると呆けたように夢子の顔を仰ぎ見た。
「食…った、のかぃ……?」
「え?うん、残さずちゃんと食べたよ?」
そうひどく呆けたように声を漏らしたマルコに、なにを当たり前なことを、と小首を傾げた夢子は小さくその眉間に皺を寄せたマルコを見やるとキョトリ、と目を瞬かせた。
「腹ぁ……壊してねぇかぃ?」
「ぇ?ぁ、あー……まぁ、ホラ半生よりは全然マシだし」
そう言って巾着袋から弁当箱を取り出したマルコに、憮然とした表情でソレへと視線を落とすマルコを見やった夢子は、マルコが何を言わんとしているのかを理解するとハハハ、と苦笑を洩らした。
「不味いなら不味いで残しゃぁ良いだろぃ……」
「でも、折角マルコが作ってくれたんだし」
勿体無い、と笑った夢子に、言葉を詰まらせたマルコは手にしていた弁当箱をテーブルへと置くとバツが悪そうに頭をかいた。
「自分でも……料理が下手ってぇことぐらい……分かってんだよぃ……」
そう、ポツリと洩らされた言葉に、変なもん食わせて悪かったねぃ…、どこか申し訳なさそうに自分を見上げたマルコを見下ろした夢子はパチクリ、と目を瞬かせるとふと、その口元に弧をかいた。
「私の為に、作ってくれたんでしょ……?だったら、『ソレ』が一番嬉しいから」
そう言ってアリガト、と少し気恥ずかしげに笑みを浮かべた夢子に、複雑そうにその眉を寄せたマルコは小さく溜息を吐きだすと気を逸らすように頭をかいた。
「腹……壊しても知らねぇよぃ……」
「ハハッ!そんな柔なお腹じゃないよ」
そう言ってふぃ、と背けられた顔に、微かに紅くなるマルコの頬を見やった夢子はそう楽しげに笑うと御馳走様でした!とそんなマルコへと声をかけたのだった。
『君の為』が嬉しくて
SSオマケ→
「ね、マルコ。今度はさ、お礼に私がお弁当作ろうか?」
「良いのかぃ?」
「ウン!私も久しぶりにお弁当作ってみたくなった!なに入れてほしい?」
「そうだねぃ……肉巻きなんかがあると嬉しいねぃ」
「りょーかい!」
「お?!マルコちゃんどったのソノお弁当?!!」
今日も今日とて一課へと顔を出しに来た四課の課長に、デスクの上に広げられる彩り鮮やかなお弁当を見やりそう声を上げたサッチに、そんなサッチを一瞥したマルコは小さく鼻息を漏らすと手元の弁当へと視線を戻した。
「作ってもらったんだよぃ」
「作ってもらったって……え?前に拾ったって言ってた野良の子にか?」
そう言ってリクエストの肉巻きゴボウを口へと運んだマルコは、あぁ、と小さく頷くとひどく呆けたように目を瞬かせるサッチを横目に見やった。
パチパチと目を瞬かせ自分と弁当を交互に見比べるサッチに、そんなに意外か…、と小さく鼻息をついたマルコは綺麗な焼き目の付く卵焼きをポイ、と口へと放り込むと少々甘めのソレにひっそりと苦笑を洩らした。
「なにコレすんげぇ美味そう!!な!俺っちにも一口ちょうだい!」
「誰がテメェなんかにやるかよぃ」
そう言って伸びてきた手を叩き落としたマルコは不貞腐れるサッチをシッシ、と手で追い払うとポテトサラダへと手を伸ばした。
「つか……料理男子ってヤツ?今時珍しいなぁ」
「……………まぁ、ねぃ」
すんげぇ手ぇ込んでんなぁ、と感心したように声を漏らすサッチに、きっと相手が女だと言えばさらに深く追求してくるだろう同僚に、そんなサッチをチラリ、と横目に見やったマルコは、男じゃねぇよぃ、と口から出掛けた言葉を呑み込むとそう言葉を返し弁当箱へと視線を落したのだった。
(あれ?珍しー、卵がある……)
あ、挽肉もある、と普段ならばお酒ぐらいしか入っていない冷蔵庫に他の食材が入っているのを見やった夢子はそう小さく声を漏らすと、ドアポケットから烏龍茶を取り出しパタリ、と冷蔵庫の扉を閉めた。
「マルコー、ホットかアイスか」
「そのまんまで良いよぃ」
ホットは眠くなる、とかけた声に視線はPCへと向けたまま言葉を返したマルコに、もういいとこ夜の12時を回りつつある時計を見やった夢子は、ワーカホリックめ、とその端整な眉を顰めさせると、仕事に心血を注ぐマルコを見やりコップに烏龍茶を注ぐとリビングへと向かった。
「そのうち過労死しそうだね」
「今進めてるプロジェクトがひと段落すりゃぁ落ち着くよぃ」
ハイ、とデスク脇に置かれたグラスに、一旦PCから視線を上げたマルコはそんな自分を呆れたように見下ろす夢子を見やると、一つ大きく息を吐き出しイスの背もたれへと深く凭れかかった。
バキリ、と鳴った背骨に、苦笑を洩らす夢子を横目に見やったマルコは壁にかけてある時計へと視線を向けると12時を差す短針に小さく眉を顰め傍らに立つ夢子へと視線を戻した。
「夢子、そろそろ帰れよぃ」
「あぁ、そうだね。あんま遅くまでいてもマルコに迷惑だし」
そうかけた声に、ほどほどにね、と言葉を返しトレンチコートを羽織った夢子に、そうじゃねぇよぃ…と星の瞬く外を見やったマルコは危機感の薄い目の前の『女の子』へと視線を戻すと、帰り支度を整えた夢子にそんな彼女を見送るべくイスから立ち上がった。
「送っていかねぇで本当に大丈夫かぃ?」
「ダイジョーブだって……。もしなんかあっても腕には自信あるし」
そう言って苦笑を洩らしながら靴を履く夢子に、時折顔や体に怪我を作って家へとやってくる夢子を思い出したマルコは、そう言う問題でもねぇ…と、その眉根を複雑そうに寄せると、グシャリ、とそんな夢子の頭を撫でつけた。
「家ぇ着いたら連絡しろぃ」
「ンー、リョーカイ」
最近では当たり前のようになってきたそのやり取りに、それでもどこか気恥ずかしげに言葉を返す夢子を見やったマルコは、鞄を手に立ちあがった夢子を見やるとあぁ、そうだ。と思い出したように家を後にしようとする夢子へとストップの声をかけていた。
「夢子。明日なんだけどねぃ、朝ちぃとコッチに寄っちゃくれねぇかぃ?」
「マルコの家に……?別に良いけど?」
唐突にかけられたその言葉に、キョトリ、と目を瞬かせてマルコを振り返った夢子は、じゃぁ明日は7時までにウチに来いよぃ、とその顔に笑みを浮かべたマルコを見やると不思議そうに頷いたのだった。
――――
次の日の朝、高校の制服に身を包んだ夢子はマルコに言われた通り7時前にマルコの家へとやって来るとソッとインターフォンへと手を伸ばした。
ピンポーン、と室内に鳴り響いたチャイムの音に、肩から下げていた通学鞄を持ち直した夢子は応答のない家主に、まだ寝ているのだろうか…?と小首を傾げるとふと、ソコから見える街並みを見下ろした。
何度見ても眺めの良いその景色に、住む世界が違うよな…、と小さく声を漏らした夢子はカチャカチャ、と聞こえた鍵を解錠する音に305と書かれた扉へと視線を戻した。
「おはよぃ。へぇ、ちゃんと制服着てんじゃねぇかぃ」
「お、はよ……。ガッコ行く日も行かない日も制服は着てますー」
ガチャリ、と開いた扉に、そこから顔を覗かせたマルコを見やった夢子は、家へと訪れた自分を見て偉いねぃ、とどこか楽しげに自分の頭を撫でてきたマルコからフン、と視線を逸らすとそう言葉を返した。
それに学校はちゃんと行けよぃ…、と呆れたように溜息を吐きだしていたマルコは、ふと、夢子の足元に視線を落とすとその短いスカート丈に、ソコから覗く細く白い足を見やり目のやり場に困るな、とソッとそんな夢子から視線を逸らすように夢子の顔へと視線を戻した。
「よくもまぁこんだけ寒ぃってのにそんなカッコしてられんな」
「慣れてるもん。ソレで?どうしたの?こんな朝早く」
12月に入り本格的に冬になった季節に、それでもその生足を惜しげもなくさらけ出す夢子を見て小さく身震いをしたマルコは、そう言って自分を仰ぎ見た夢子にあぁそうだった、と本来の目的を思い出すと手にしていた包みを夢子へと差し出した。
「ほれ、コレ持ってけ」
「………なに?コレ」
そう言って差し出された藍色の巾着袋に、キョトリ、と目を瞬かせた夢子は長方形の何かが入っているソレを受け取るとひどく不思議そうに巾着袋へと視線を落した。
「なにって、弁当だよぃ。お前ぇ、昼飯は菓子パンで済ませてるってぇ言ってたからねぃ。ちぃと心配になったんだよぃ」
ちゃんと食え、と自分に批難の視線を向けたマルコに、お弁当…?と小さく零し手の中の巾着を見やった夢子は、まだ微かに温かいソレにパチリ、と目を瞬かせると呆けたようにマルコを見上げた。
「マルコが、作った…の?」
「適当だけどねぃ。菓子パンよりゃマシだろぃ」
そう言ってひどく気恥ずかしげに自分から視線を逸らし頬をかいたマルコに、もう一度手元の巾着へと視線を落した夢子はふと、その口元に笑みを浮かべると再びマルコへと視線を戻した。
「ありがと」
「あー…、まぁ……んじゃま、ちゃんと学校いけよぃ!」
そう、どこか嬉しそうにその顔に笑みを浮かべた夢子に、そんな夢子をチラリ、と見やりその頭をグシャグシャ!と撫でつけたマルコは小さく頷いて家を後にする夢子の背を見送ると、自分も会社へと行くべく鞄を手に取ったのだった。
キーンコーンカーンコーンと校舎に鳴り響く4限終了のチャイムに、開いていた現国の教科書を閉じた夢子はガララ!!と勢いよく開いた教室の扉にソコへと顔を覗かせた人物へと視線を向けた。
「夢子~!!一緒にメシ食おうぜ―!!」
そう声を上げ堂々と3年の教室へと入ってきた1年生に、重箱を手に自分の元へとやってきたルフィを見やった夢子は、その後に続くよう教室へと入ってくる後輩達と同級生を見やると小さく苦笑を洩らした。
「珍しいな、アンタが1限から4限までいんの」
「ルフィが『今日は夢子が居るから夢子と食べるんだ』って聞かなくて」
大変だったのよ、と勝手に机を寄せ集め輪を作り始めたサンジやナミに、そう言ってどこか楽しげに自分を見やったゾロに煩い、とバツが悪そうに言葉を返した夢子は自分の隣を陣取ったルフィを見やると、各々好きな場所に腰を下ろしたメンツに自由人ばっかだな、と小さく苦笑を洩らし机の横にかけてあった鞄から藍色の巾着を取り出した。
「アレ?今日は菓子パンじゃねぇんだな」
「まぁ、ね……」
珍しい、と机に置かれた巾着袋を見てそう声を漏らしたエースに、そんなエースをチラリと見やり巾着の中からお弁当箱を取り出した夢子は、可愛らしい花柄がデザインされた弁当箱を見やるとクッ、と漏れそうになった笑いを寸でのところで呑み込んだ。
(わざわざ、買ったのかっ……!)
男の人が使うにしては随分と小さいその弁当箱に、未使用感がたっぷりなソレを見やった夢子はホント世話焼きだなぁ、と小さく肩を震わせると向かい側からそんな弁当箱を覗きこんできたナミへと視線を向けた。
「へぇ、お弁当作って来たんだ」
「『作った』わけじゃないけどね」
そう言ってめっずらしー、と興味津々に手元のお弁当箱を見やるナミに、そう言った自分を不思議そうに見やったナミから手元のお弁当へと視線を落した夢子は、周囲から向けられる好奇の視線を受けながらソッと弁当箱の蓋を取り去った。
「「「「「「「……………」」」」」」」
開いた蓋の奥から現れたオカズに、ソレを見て一同に言葉を発しなくなったナミ達に、お弁当の中身を見やった夢子は黒い物体が詰め込まれるソレ等にあぁ、やっぱりか。と基本焦げているのが当たり前なマルコの料理を見やるとねぇ…とやっと口を開いたナミへと視線を向けた。
「アンタってさ………たしか料理得意だったわよね……?」
「あー………作ったの、私じゃない」
どうしたの?とでも言いたげに自分を見やったナミに、あまりにも衝撃的なそのお弁当の中身に言葉を無くす面々を見やった夢子は、そんなナミへと言葉を返すと備え付けの箸を手に取りいただきます、と手を合せていた。
「ちょっ、まっ……?!!アンタそんなもの食べるつもり?!!」
「………まぁ、折角作ってもらったし」
「そーだぜ夢子さん!!それは食いモンじゃねぇよ!!」
当たり前のようにその黒い物体を箸で摘まんだ夢子に、ソレを口へと運ぼうとする夢子を見て堪らずストップの声を上げたのはナミだけではなく同じように机を囲んでいたサンジだった。
「そんな得体の知れねぇもん食って腹でも壊したらどーすんの?!」
「変なもんは入ってないよ、慣れた」
そう言って静止の声を上げるナミやサンジを一瞥し、ポイ、とその口へと黒い塊を放り込んだ夢子は微かに感じた卵の風味に、あぁ、卵焼きか…と納得すると、そんな自分を呆然と見つめるナミ達へと視線を戻しその眉を怪訝そうに顰めさせた。
「なに……?」
「作ってもらったって言ってたけど……父親と上手くいってんの?」
先程の夢子の言葉を思い出し、そう声を漏らしたナミにその眉間に不快そうに皺を寄せた夢子はそんなわけないでしょ、と言葉を返すとかろうじて原形をとどめている肉団子を口へと放り込む。
「ちょっとね……知り合いが、作ってくれて……」
「サッチか?」
そう言って気恥ずかしそうにお弁当へと視線を落した夢子に、バクバクとご飯を口へと詰め込んでいたエースがそんな夢子を見やると不思議そうに小首を傾げた。
「違う。サッチの料理はプロ並みだから」
「へぇ、じゃぁ最近知り合ったっていうあの白ひげカンパニーの人か」
エースの言葉にコレはない、といささかマルコに失礼な発言をして唯一そのまま弁当に入っていたプチトマトを口へと放り込んだ夢子は、どこかしたり顔でニヤニヤと自分を見やるサボにグッと言葉を詰まらせると、周囲から上がった驚きの声に気まずそうに弁当箱へと視線を落した。
「『白ひげカンパニー』っていったら大企業じゃない?!!アンタいつそんな奴と知り合ったのよ?!」
「………煩いな。成り行きで関わり持つようになっただけだって……」
そう声を上げ、イスから立ち上がったナミに、驚きに目を丸くさせるビビ達を見やった夢子は小さく溜息を吐きだすとふぃ、とそんなビビ達から視線を逸らした。
「でもその人一課の部長なんだろ?凄いじゃないか、そんなヤツと知り合いなんて」
「「「「「部長~~~~?!!」」」」」
どこか気まずそうに自分達から視線を逸らす夢子を見て、そうハハハ、と笑ったサボに、事情を知っているエースやルフィ以外の面々のその驚きように耳を塞いだ夢子は面倒くさげに眉を顰めると笑うサボへと批難の目を向けた。
まるで余計な事を言うな、とでも言いたげな夢子の視線にサボは小さく苦笑を洩らすと肩をすくめ自分のお弁当へと手を伸ばす。
「それで?どんな奴なのよ、アンタを手懐けるその部長さんって」
そう、ひどく楽しげに顔に笑みを浮かべたナミに、批難の目をナミへと向けた夢子は好奇の視線を自分へと送るサンジ達を見やると観念したように溜息を吐きだした。
「どんな、っていわれても………いたってフツーのサラリーマンだよ。不二野マルコって人」
そう言ってフリカケのかかっているご飯を口へと運ぶ夢子に、ご飯も食べ終わり一人暇そうに夢子達の会話を聞いていたエースがキョトリ、と目を瞬かせるとマルコ…?と声を漏らし不思議そうに夢子へと視線を向けた。
「マルコって、あの『不死鳥マルコ』か?」
「『不死鳥』……?いや、不二野だって」
そう言って会話へと加わってきたエースに、怪訝そうにその眉を顰めた夢子はそんな自分を見て違ぇよ、と同じようにその眉を顰めたエースにパチクリと目を瞬かせた。
「お前知らねぇのかよ?不死鳥マルコ!不良の間ではかなり有名な男だぜ?」
「そーなの?」
そう言ってヤレヤレ、と肩をすくめてみせたエースに、小さく小首を傾げた夢子は自分を取り囲む不良集団へと視線を向けると、あー!と何かを思い出したように声を上げたサボへと視線を向けた。
「『不死鳥マルコ』って、あの『喧嘩100人斬り』のマルコか!」
「そーそー!あと一人で他校の不良全滅させたとか!」
凄ぇよな!と目を爛々とさせながら語るエース達に、へぇ…、と声を漏らした夢子は初めて聞くその『不死鳥マルコ』の存在に、そんな自分を呆れたように肩をすくめ見やるゾロやウソップを見やると心外だ、とでも言いたげに眉を顰め、遅れてやってきたローへと視線を向けた。
「ねー、トラ男は『不死鳥マルコ』って知ってる?」
「ふしちょう……?あぁ、あのナイフで刺されながら20人相手したっつーあの『不死鳥マルコ』か」
そう言ってサンジの隣に腰かけたローに、ソイツがどうした?と不思議そうに自分を見やったローへとフーン…、と相槌を返した夢子は、次から次へと出てくるマルコの武勇伝に悩ましげに眉を顰めるとその『マルコ』が作ったお弁当へと視線を落したのだった。
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キーンコーン、と社内に鳴り響いた昼休憩を知らせるチャイムの音に、一つ伸びをしたマルコはバキリ、と鳴った背中に小さく息をつくと鞄の中から藍色の巾着袋を取り出した。
夢子の弁当箱を買うついでに、と購入した自分用の青色の弁当箱にソレをデスクの上へと広げたマルコは、ふと、自分のデスクの隣に立った人物を見やると怪訝そうに眉を顰めさせた。
「めっずらし~!マルコが弁当持ってきてんの!」
「相変わらず目敏いヤツだねぃ……。拾った野良に餌やるついでに作ったんだよぃ」
なになに?彼女?とひどく楽しげに一課へとやってきたサッチは、マルコのデスクに置かれる弁当を見やりそう声を弾ませると、そんな自分を一瞥し弁当箱の蓋を開けたマルコにへ…?と声を漏らすと姿を現したまる焦げの物体を見やり、相変わらず悲惨だな、とその顔を悲愴に歪めた。
「つか……作ったって……え?マルコが……?」
「そうだよぃ」
そう言ってデスクの上の弁当を指差したサッチは、そう言葉を返し当たり前のようにその黒焦げの卵焼きを頬張るマルコを見やると再び弁当へと視線を落とし悩むようにポリリ、と額の古傷を引っ掻いた。
「あー……、その野良ちゃんにもあげたのか?コレ……」
「………?そうだよぃ?」
そう言ってもう一度デスクの上の弁当を指差したサッチは、そんな自分をひどく不思議そうに見上げたマルコに、ブハッ!!と堪らず噴き出すと腹を抱え身を折った。
「お、おまっ……!!高校の時の家庭科の評価オール1だったの忘れたのかよっ?!」
「………ちったぁマシになったほうだよぃ」
そうゲラゲラと声をあげ、あまつさえ目尻に涙まで浮かべ笑うサッチに、そんなサッチをジロリ、と睨みつけたマルコは笑うんじゃねぇ、と小さく舌打ちを零すと自作の弁当へと視線を戻した。
「おっ前なぁー!こんなん『料理』って言わねぇってんだよ!」
なにこの消し炭、と真っ黒い物体を摘まみ上げ口へと放り込んだサッチは、微かに感じた肉の味に肉団子か…、と納得すると不貞腐れた様な表情を浮かべるマルコを見やり再びハハッ!と笑いを零した。
「つーか、コレ渡された野良ちゃん嫌がらせだと思ってんじゃね?」
流石にコリャないぜー、と茶色と黒で埋め尽くされるマルコの弁当箱を指差したサッチに、そう言ったサッチの言葉にピクリ、と肩を震わせたマルコは手元の弁当を見やると、どこか顔色を青くさせそんなサッチを仰ぎ見た。
「けど、よぃ……いつも何も言わずに食ってたよぃ……」
「そんなん言えなかったに決まってんだろー?折角作ってくれてんのにー、って!それかソイツも末期の味音痴とか?」
そう言ってハハハッ!と笑ったサッチに、無理やり食ってたのか…?と再び手元の弁当へと視線を落したマルコは、いつも何も言わずに自分の作った野菜炒めを食べる夢子を思い出すと、コトリ…と手にしていた箸を静かにデスクへと置いた。
「まっ!お前のソレは今に始まったことじゃねぇから気にすんなって!早ぇとこ料理の上手い彼女でも見つけろってんだよ!」
あ、俺が立候補しようかー?とどこか落ち込んだふうなマルコの背を無遠慮にバシバシと叩きひどく楽しげに笑っていたサッチは、次の瞬間顔面に飛んできたマルコの裏拳に小さく呻き声を上げるとオフィスの床へと沈みこんでいた。
「大きなお世話だぃっ、フランスパンッ!!!」
そう声を荒げ席から立ったマルコに、そのまま一課を出て行ってしまったマルコを見やったサッチは、メキッと音を立てた首を押さえ体を起こすと、肩を怒らせ一課を出て行くマルコの背を見やり小さく苦笑を洩らした。
「あのマルコが他人の為に料理を作るとはなぁ……」
そう小さく零してクツクツと喉を震わせたサッチは、料理ベタがこうじていつの間にか包丁すら握らなくなったマルコに、デスクに取り残されたマルコ作の弁当を見やると変わったなぁ、とどこか楽しげに声を漏らした。
「しっかし………相変わらず良い拳だこと……」
「今のは自業自得だって……」
「お前ぇはマルコを怒らせたら世界一だねぇ……。どうにもワザとやってるようにしか見えねぇな」
マゾか、と自分の独り言に返ってきた言葉に、いつの間にか一課へとやってきていた課長2名を振り返ったサッチは、ひどく呆れたように自分を見やるハルタとイゾウに違ぇよ…、と嫌そうにその眉を寄せると痛む首元を押さえあー、痛ぇ…と溜息を吐きだしたのだった。
熱燗片手に会議の資料を捲るマルコに、その正面に腰掛け手持無沙汰のように雑誌を読んでいた夢子はバサリ、とテーブルの上に投げ捨てられた資料を見やると、ひと段落ついたのだろうソファーに深く凭れかかりお猪口へと酒を注ぎ足すマルコへと視線を向けた。
「会議、上手く行きそう……?」
「まぁ、ねぃ。3ヶ月かけて練り上げた企画だ、上手く行くことを祈ってるよぃ」
そう言ってあー、眠ぃ…と天を仰いだマルコに、きっと徹夜をしているんだろう目の下に薄らとクマを作るマルコを見やった夢子はお猪口に口を付けたマルコにお疲れ様、と言葉を返すとそういえば、と思い出したように手にしていた雑誌をパタリと閉じた。
「マルコってさ、『不死鳥』って呼ばれてたの?」
「ブッ……?!!な、なんでお前ぇがソレを知ってんだよぃっ?!!」
そう不意に問いかけた言葉に、盛大にお酒を噴き出したマルコを見やった夢子は咄嗟に手にしていた雑誌で飛んできた飛沫をガードするとそんなマルコへと批難の目を向けた。
「ちょ、汚い……。ってか、ホントなんだね『不死鳥マルコ』って」
「あ゛ー………若気の至りってぇやつだよぃ……。俺も若ぇ頃は随分と馬鹿やってたからねぃ……」
トモダチの大半は知ってるよ、とどこか呆れたように自分を見やった夢子に、袖元で口に垂れたお酒を拭ったマルコはそう言葉を濁らせるとバツが悪そうにそんな夢子からソッと視線を逸らした。
逸らされた視線に、フーン、と相槌を返した夢子は手にしていた雑誌をテーブルへと置くと昼間のエース達との会話を思い出しじゃぁさ、と言葉を続けるように口を開いた。
「喧嘩で100人相手にしたとか言う噂は……?」
「したっちゃしたが………別に俺一人ってぇわけでもなかったよぃ。他にも仲間がいたしねぃ」
「他校の不良全滅させたとか……」
「尾びれ背びれが付いてるだけだぃ……。あんときゃ街で他のグループに絡まれたのを伸しただけだってぇのぃ」
「じゃーナイフで刺されてんのに20人ボコッたってのは……?」
「…………よくもまぁアレコレと出てくるもんだねぃ……」
次から次へと出てくる自分の過去に、人の黒歴史を…と小さく零したマルコはどうなの?と自分を真っ直ぐに見つめる夢子をチラリと見やると、観念したように溜息を吐き出し減ったお猪口へとお酒を注ぎ足した。
「あんときゃぁ他校のヤツ等と抗争があってねぃ……、俺や他の奴らでソイツらとやり合ってたんだよぃ。
まぁ、ちぃと油断してたってぇのもあるが、後ろから刺されちまってねぃ……喧嘩が終わった後は即入院だったよぃ」
流石の俺でもアレは死ぬ、と苦笑を洩らしお猪口に口を付けたマルコに、それでもナイフで刺された状態で喧嘩を続行していた、と言うマルコを見やった夢子は信じらんない…と小さく零すと呆れたように目の前の中年男性へと視線を向けた。
「ツレから話し聞いた時はビックリした。まさかマルコが私と同じ不良だったなんて」
「あの頃は何かと荒れてたからねぃ。まぁ、今じゃ良い思い出だぃ」
そう言って服をたくし上げたマルコに、その脇腹に薄らと残る傷跡を見やった夢子はなかなかに大きいその縫い跡に、生ける伝説だねと苦笑を漏らしたのだった。
あの時はこうだった、この時はこうだった、と自分の昔話をどこか楽しげに聞く夢子に、成績はさほど悪くはなかったよぃ、と高校時分の全教科の成績を思い出していたマルコは、ふと、昼間サッチとかわしたやり取りを思い出すとバツが悪そうに口元に手を当て、ソッと目の前の少女から視線を逸らした。
「あー………ところで、夢子……」
「んー?何?」
そうどこか気まずそうにかけられた声に、マルコの話に耳を傾けながらホットミルクを飲んでいた夢子は自分から視線を逸らすマルコを見やるとキョトリ、と不思議そうに目を瞬かせた。
「どうしたの?」
「その………弁当、なんだけどよぃ……」
なかなか次の言葉を発しようとしないマルコに、そう声をかけた夢子はどこか言葉を濁らせるマルコに、弁当…?と声を漏らすとあぁ、と思い出したようにソファーから立ちあがり床に置いていた鞄の中から藍色の巾着袋を取り出した。
「忙しいのにありがと、誰かに弁当作ってもらうなんて久しぶりだったから、嬉しかった」
そう言って照れ臭そうに弁当箱を自分へと差し出した夢子に、ポカン、と差し出されたソレへと視線を落したマルコは、受け取ったソレに、軽い巾着袋を見やると呆けたように夢子の顔を仰ぎ見た。
「食…った、のかぃ……?」
「え?うん、残さずちゃんと食べたよ?」
そうひどく呆けたように声を漏らしたマルコに、なにを当たり前なことを、と小首を傾げた夢子は小さくその眉間に皺を寄せたマルコを見やるとキョトリ、と目を瞬かせた。
「腹ぁ……壊してねぇかぃ?」
「ぇ?ぁ、あー……まぁ、ホラ半生よりは全然マシだし」
そう言って巾着袋から弁当箱を取り出したマルコに、憮然とした表情でソレへと視線を落とすマルコを見やった夢子は、マルコが何を言わんとしているのかを理解するとハハハ、と苦笑を洩らした。
「不味いなら不味いで残しゃぁ良いだろぃ……」
「でも、折角マルコが作ってくれたんだし」
勿体無い、と笑った夢子に、言葉を詰まらせたマルコは手にしていた弁当箱をテーブルへと置くとバツが悪そうに頭をかいた。
「自分でも……料理が下手ってぇことぐらい……分かってんだよぃ……」
そう、ポツリと洩らされた言葉に、変なもん食わせて悪かったねぃ…、どこか申し訳なさそうに自分を見上げたマルコを見下ろした夢子はパチクリ、と目を瞬かせるとふと、その口元に弧をかいた。
「私の為に、作ってくれたんでしょ……?だったら、『ソレ』が一番嬉しいから」
そう言ってアリガト、と少し気恥ずかしげに笑みを浮かべた夢子に、複雑そうにその眉を寄せたマルコは小さく溜息を吐きだすと気を逸らすように頭をかいた。
「腹……壊しても知らねぇよぃ……」
「ハハッ!そんな柔なお腹じゃないよ」
そう言ってふぃ、と背けられた顔に、微かに紅くなるマルコの頬を見やった夢子はそう楽しげに笑うと御馳走様でした!とそんなマルコへと声をかけたのだった。
『君の為』が嬉しくて
SSオマケ→
「ね、マルコ。今度はさ、お礼に私がお弁当作ろうか?」
「良いのかぃ?」
「ウン!私も久しぶりにお弁当作ってみたくなった!なに入れてほしい?」
「そうだねぃ……肉巻きなんかがあると嬉しいねぃ」
「りょーかい!」
「お?!マルコちゃんどったのソノお弁当?!!」
今日も今日とて一課へと顔を出しに来た四課の課長に、デスクの上に広げられる彩り鮮やかなお弁当を見やりそう声を上げたサッチに、そんなサッチを一瞥したマルコは小さく鼻息を漏らすと手元の弁当へと視線を戻した。
「作ってもらったんだよぃ」
「作ってもらったって……え?前に拾ったって言ってた野良の子にか?」
そう言ってリクエストの肉巻きゴボウを口へと運んだマルコは、あぁ、と小さく頷くとひどく呆けたように目を瞬かせるサッチを横目に見やった。
パチパチと目を瞬かせ自分と弁当を交互に見比べるサッチに、そんなに意外か…、と小さく鼻息をついたマルコは綺麗な焼き目の付く卵焼きをポイ、と口へと放り込むと少々甘めのソレにひっそりと苦笑を洩らした。
「なにコレすんげぇ美味そう!!な!俺っちにも一口ちょうだい!」
「誰がテメェなんかにやるかよぃ」
そう言って伸びてきた手を叩き落としたマルコは不貞腐れるサッチをシッシ、と手で追い払うとポテトサラダへと手を伸ばした。
「つか……料理男子ってヤツ?今時珍しいなぁ」
「……………まぁ、ねぃ」
すんげぇ手ぇ込んでんなぁ、と感心したように声を漏らすサッチに、きっと相手が女だと言えばさらに深く追求してくるだろう同僚に、そんなサッチをチラリ、と横目に見やったマルコは、男じゃねぇよぃ、と口から出掛けた言葉を呑み込むとそう言葉を返し弁当箱へと視線を落したのだった。