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金色猫とタンゴ
貴女のお名前は?
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キーンコーンカーンコーンと校舎に鳴り響く授業終了のチャイムの音に、教室を出て行くシーザーを見やった夢子は要所だけを拾い適当に書いていたノートを閉じると、教室を移動し始めたクラスメート達へと視線を向けた。
次の授業は確か体育だったか、と教員ジャージが一番似合わない体育教師のミホークの顔を思い浮かべた夢子は11時を差した時計に、席から立ち上がると鞄を手に教室を後にした。
「おい、サボり魔。どこ行くんだよ……」
次体育だろ、とその背にかけられた声に1組の教室から顔を覗かせたサボを見やった夢子は、ひどく呆れたように自分を見やるサボに歩みを止めるとその隣に立つコアラへとおはよ、と声をかけていた。
「おはよー、夢子ちゃん!今日も一限から来てたね!」
「ん、まぁ暇だったし」
「学生の本分は勉強だ、馬鹿……」
そう言って偉いねー!と笑みを浮かべるコアラにハハ、と笑う夢子を見やり痛む頭を押さえたサボはそう小さく声を漏らすと鞄を手にする夢子へと視線を戻した。
「んで、昼になったら帰る。と……。お前なぁ、俺達もう3年だぞ?進路は決まってんのか?ってか……卒業できんのか……?」
「単位落とさない程度には授業出てるから問題ない。職だってテキトーに探すよ」
やりたいことないし、と言ってヒラリ、と手を振った夢子に、そのまま廊下を歩きだしてしまった夢子の背を見やったサボは不安だ…と小さく零すと深々と溜息を吐きだした。
「そんなに心配しなくても、きっと夢子ちゃんなら大丈夫だよ。サボ君。最近学校にもよく来るようになったし、喧嘩だってあまりしてないでしょ?」
なにかあったのかな?と遠ざかる夢子の背を見やり小首を傾げたコアラに、いつだったか夢子が話していた『白ひげカンパニー』の部長の事を思い出したサボは、不思議そうな顔をするコアラを見やるとふと、その口元に弧を描いてさぁな、と言葉を返した。
遠くの方で聞こえる授業開始のチャイムの音に、鞄を片手に通学路を歩いていた夢子はふと、視界の端に映った金属物に、パチリ、と目を瞬かせるとその歩みを止めた。
「オイ、暇人。ちょっと飯付き合え」
「ゥグッ……?!ちょっと、シャチョー!!義手首に引っ掛けんのやめてって言ってるじゃん!」
そのまま首に引っかけられた鉤爪に、何故ワザワザ義手をソレにしたのかは定かではないが、そう自分へと声をかけ首根っこを引っ張ったクロコダイルに、後ろへとよろめいた夢子はそんな自分の体を支えたクロコダイルを恨めしげに仰ぎ見た。
「メシ行くぞ、夢子」
「謝罪はないんだね……」
そう言って自分の首からその鉤爪を外しさっさと歩き出してしまったクロコダイルに、絞まった首元をさすり小さく溜息を吐きだした夢子は、クロコダイルにいつも付き添っている社長秘書兼ボディーガードのダズの姿がないことにキョトリ、と目を瞬かせるとそんなクロコダイルの元へと駆けよった。
「シャチョー、ダズさんは?」
「会議に遅れるだなんだといちいち五月蠅ぇんだよ」
やってられるか、とその眉を苛立たしげに寄せたクロコダイルに、強面の顔をより一層渋らせたクロコダイルを見やった夢子は、逃げてきたのか…、と秘書の隙をついては何かとそんな秘書からバックレるバロックワークスの社長に、ダズさん大変だな…と小さく零すとそんなクロコダイルの隣を歩きだした。
「そういやぁ、テメェのほうこそこんな時間にほっつき歩いて何してんだ?」
「んー?授業ツマンナイからフけてきた」
暫く無言で自分の隣を歩いていた夢子に、ふと思い出したようにそう夢子へと声をかけたクロコダイルは、そんな自分を見上げそう言葉を返した夢子を見下ろすとクハハハハ!と楽しげに喉を震わせた。
「テメェも相変わらずだな。授業に出ようが出まいが、卒業できりゃ良いんだよ、んなもんは」
そう言ってグシャリ、と乱暴に撫でられた頭に小さく批難の声を上げた夢子はどこか楽しげに口元に弧をかくクロコダイルを見やると、そういえば、と声を漏らし見えてきた建物へと視線を向けた。
「シャチョーって、最終学歴は高校?」
「ア?大学だ」
つい先日マルコとやってきたそのカフェに、ホント好きだな、と此処のグラタンとアメリカンがお気に入りのクロコダイルへと視線を戻した夢子は、そう問うた自分に言葉を返したクロコダイルを見やりギョッと目を見開いた。
「シャチョー、その見た目で大学行ってたの?!!」
「もとからテメェで会社造る気だったからな。2年で経済学を全部その頭に詰め込んで今の会社立ちあげたんだよ」
驚きにそう声を上げた夢子に、自分を驚愕の眼差しで見やる夢子へと視線を落したクロコダイルは、その眉を微かに顰めさせると口の減らねぇ餓鬼だ、と相変わらずな物言いの夢子の頭をグシャリ、と押さえつけカフェの扉へと手を伸ばした。
いらっしゃいませ、という店員の控えめな挨拶に、いつもの席へと腰掛けたクロコダイルを見やり、その正面へと腰掛けた夢子は注文を聞きにやってきた店員にいつものだ。と注文をするクロコダイルに、小さく苦笑を洩らすとメニュー表を開きグラタンとエッグベネディクトを指差した。
「コレとコレを、あとアメリカンとホットミルクティーを一つずつ」
「かしこまりました」
そう注文をしてその場を去っていく店員の姿を見送った夢子は、早速その口に葉巻を咥えジッポを取り出したクロコダイルへと視線を戻すとテーブル脇に置いてあった灰皿をクロコダイルの前へと差し出した。
「シャチョーってさ、ヤクザとかじゃなかったの?」
「………ア?なんだ、唐突に」
チリチリと音を立てて火の付いた葉巻に、紫煙を吐きだしたクロコダイルはそんな自分へとそう声をかけてきた夢子を見やると怪訝そうにその眉を顰めさせた。
随分と不躾な質問に、それでも悪気はないんだろう不思議そうに自分を見やる目の前の少女を見やったクロコダイルは深く煙を吐きだすとそんな夢子の顔に紫煙を拭きかけた。
「グッ……、なに、ちょ……煙たいっ」
「どうにもテメェの目にゃぁ、俺が堅気の人間にゃぁ見えてねぇようだな」
吹きかけられた煙に、その端整な顔をしかめ咳き込む夢子を見やったクロコダイルはそう声を漏らすと心外だ、とでも言うようにフン、とそんな夢子から顔を背けた。
「だってシャチョーの格好オールバックに葉巻にファーコートだよ?どう見たってヤのつく職業の人じゃん」
「金髪サングラスのどっかのクソミンゴよりゃマシだ」
そう言って自分を半眼で睨みつけたクロコダイルに、某玩具会社の社長の顔を思い出した夢子もあー、まぁ…そうだね、と苦笑を洩らすと運ばれてきた料理へと視線を向けたのだった。
ベネディクトを口に運びながらどこか御満悦気味の夢子に、既に食べ終わったグラタンに食後の珈琲を飲んでいたクロコダイルはふと、正面へと腰掛ける夢子へと視線を向けるとそういやぁ、と思い出したように声を漏らした。
「お前、来年どうすんだ?」
「どうするって……?」
不意にかけられたその言葉に、パクリ、とマフィンを口へと運んだ夢子はキョトリ、と目を瞬かせるとそんな自分を呆れたように見やったクロコダイルに小首を傾げてみせた。
「テメェも来年にはアソコ出るんだろうが。就職すんのか?進学すんのか?」
「あぁ、進路のことか……。まぁ、一応は就職かな」
そう言って呆れたように紫煙を吐きだしたクロコダイルに、似たような事を聞いてきたサボの顔を思い出した夢子はそう言葉を返すと最後の一口をパクリ!と口へと運び御馳走さまでした!と声を弾ませた。
「候補は決めてんのか……?」
「んー?全然?あ、デザート頼んで良い?」
そう言ってヘラリ、と笑った夢子に、メニュー表へと手を伸ばした夢子を見やったクロコダイルは好きにしろ、とどうにも緊張感のない夢子を見やると呆れたように鼻息を漏らし、カラになった珈琲にこちらへとやってきた店員を呼びとめた。
「アメリカン、とコイツを一つ」
「かしこまりました」
そう言ってン!とミルフィーユを指差した夢子に、そう店員へと声をかけたクロコダイルはミルクティへと手を伸ばした夢子へと視線を戻すと葉巻を口へと咥える。
「やりてぇもんが決まってねぇんなら好都合だ。俺のところへ来い」
優遇してやる、と楽しげにその口元を釣り上げたクロコダイルに、カップへと口を付けていた夢子はキョトリ、と目を瞬かせるとそんなクロコダイルを見やりひっそりと苦笑を洩らした。
「大手企業の社長が『優遇する』とか言っちゃダメだと思うけど……」
「会社なんてそんなもんだ。優れたヤツは優遇され、劣るヤツは捨てられる」
弱肉強食だ、と喉を震わせたクロコダイルに、そんなクロコダイルを見やりんー…と悩ましげな声を漏らした夢子はコクリ、と一口ミルクティを飲むとそーいえば、と正面へと腰掛けるバロックワークスの社長を見やった。
「バロックワークスって具体的に何してる会社なの?」
「貿易会社だ」
「ザックリだね!!」
TVでもあまり紹介されていない会社に、有名な会社のはずなのに…、と小首を傾げた夢子はそう端的に言葉を返したクロコダイルにまったく分かんない!と苦笑を洩らした。
「でもなぁ、私自分が何が出来るかとか分かんないし」
「安心しろ、テメェにゃ俺の秘書をやらせてやる」
営業苦手だしデスクワークもなぁ、と声を漏らしていた夢子は、そう言って楽しげに笑みを浮かべ運ばれてきた珈琲とミルフィーユを受け取ったクロコダイルに、手渡されたソレを受け取るといやぁ…、と苦笑いを浮かべそんなクロコダイルからソッと視線を逸らした。
「シャチョーの秘書とか……メンタル面強くないと出来ないって……。ってか、え?3人も秘書必要?」
「お前が来りゃダズはクビだ」
自由奔放な目の前の社長に、そのクロコダイルをサポートする優秀な秘書二人の顔を思い出しそう小首を傾げた夢子は、そう言って珈琲を優雅に飲むクロコダイルにソレはマズイって…、と苦笑を洩らした。
「ダズさん可哀想だから!あの人シャチョーのことものすごく敬愛してんだから!」
もっと優しくしてあげてよ、と苦笑を浮かべる夢子に、十分優しくしてやってんだろ、と言葉を返したクロコダイルはふと、ウィンドウ越しにこちらを見やる影に気が付くと外へと視線を向けた。
『見つけましたよ、社長!!』
「ッチ、思ったより早かったな……」
そう顔に焦燥の色を浮かべるダズに、そう小さく零しその眉を嫌そうに顰めたクロコダイルは、店内へと入ってきたダズへと視線を向けるとこれ見よがしに溜息を吐きだした。
「何をしてるんですか!会議の時間が迫ってるんですよ、帰りましょう!」
「ったく、いちいち五月蠅ぇ野郎だな」
ギャーギャー喚くな、と額に汗を浮かべながら自分の前へと立ったダズに、そう面倒くさげに言葉を返したクロコダイルは苦笑を洩らす夢子を一瞥すると、テーブルに置かれていた伝票をダズへと押しつけ席から立ち上がった。
「じゃぁな、夢子。今の話、考えとけよ」
そう言ってコートを翻し颯爽とその場を歩き出したクロコダイルに、ヒラヒラとそんなクロコダイルへと手を振っていた夢子はえ…?と声を漏らすとはた、と目を瞬かせお店を出て行くクロコダイルとダズの背を呆けたように見やった。
「マジもんだったの……?今の話……」
てっきりただのクロコダイルの冗談だと思っていた夢子は、そんなクロコダイルの背を見やると呆けたようにそう小さく声を漏らしたのだった。
『~~♪~♪』
バイトも終わりコンビニで夕飯を買っていた夢子は、通りから聞こえてきた軽快な音にふと外を見やると、ビルのモニターから流れる玩具会社のCMにキョトリ、と目を瞬かせた。
使用用途が良く分からない人形に、来春発売!と大きなテロップが表示されるモニターを見やった夢子は、お釣りを受け取りコンビニ袋を手にお店を出るとパッと切り替わった画面にワァ…と小さく声を漏らしていた。
『良いかお前等今の時代はスマイルだ!』
笑ってなんぼの世の中だ!と高笑いをするトイファクトリーの若社長に、若様自ら宣伝か…とドピンクのファーコートをなびかせ高らかに笑うドフラミンゴを見やりそう小さく声を漏らした夢子は、モニターの下に小さく書かれる『従業員募集!!』の文字を見やると先程のクロコダイルの言葉を思い出し悩ましげにその眉を寄せた。
「やりたいことなんて……ないもんな」
高校を卒業してどこか適当に就職さえ出来ればソレで良いと思っていた自分に、クロコダイルからの勧誘の言葉を思い出しそう小さく声を漏らした夢子は、再び流れ始めたトイファクトリーのCMにビルのモニターを仰ぎ見た。
様々なアイディアで生み出されるトイファクトリーのオモチャ達に、ソコで働く従業員達の顔を思い出した夢子は、アソコもクセが強い人達の集まりだからな、と一瞬頭の中に浮かんだ候補に、ソコの我儘社長を思い出し無理だなぁ…と小さく零すとコンビニ袋を手にその場を後にした。
ピンポーン、と部屋に鳴り響いたチャイムの音に冷蔵庫から缶ビールを取り出していたマルコはふと、壁にかけてあった時計へと視線を向けると11時を回った針に、小さく溜息を吐きだし玄関へと歩き出した。
「こんばんわ」
「ったく……今何時だと思ってんだぃ」
ガチャリと開けた扉の向こうにはやはり夢子が立っていて、そう言って自分の家へと訪れた夢子を中へと招き入れたマルコはそう呆れたように声を漏らすとクシャリ、とそんな夢子の頭を撫でやった。
「バイト帰りかぃ……?」
「まぁ。ちょっとさ、マルコに相談したい事があって」
夜遅くに入れているバイトに、危ねぇな…と小さく零したマルコはそんな自分へとそう言葉を返しリビングへと歩き出した夢子に、キョトリと目を瞬かせると相談したいこと?と不思議そうに小首を傾げた。
「まぁ……マルコが一番、適任だと…思ってさ」
そう言ってどこか気恥ずかしげに自分から視線を逸らしおつまみいる?とコンビニ袋を掲げた夢子に、もう一度目を瞬かせたマルコは、掲げられたコンビニ袋に悪いねぃ、とその顔を綻ばせると夢子の為に、と最近常備するようになったミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出しそんな夢子へと投げてよこした。
投げたペットボトルを上手いことキャッチしてソファーへと腰掛けた夢子に、そんな夢子の正面へと腰掛けたマルコは、テーブルへと広げられるおつまみを見やると、サキイカを手に取り正面の夢子へと視線を向けた。
「それで?相談してぇことってぇのは、なんだぃ?」
「んー……?進路のこと……とか」
早速入った『相談事』に、良い酒の肴ができた。とソレをパクリと口へと咥えたマルコは、そう言って自分から視線を逸らし同じようにテーブルの上のつまみへと手を伸ばした夢子を見やるとはた、と目を瞬かせた。
「あぁ……、そういやぁお前ぇも来年には高校卒業するんだったねぃ」
単位は大丈夫かよぃ、不良娘。と誰かと同じことを聞いてくるマルコに問題ない、と少し膨れたように言葉を返した夢子は、そりゃぁ良かった。と楽しげに笑うマルコをチラリ、と見やると手の中のカシューナッツへと視線を落した。
「進路とかさ……漠然としすぎてて、どうしたら良いのか分かんない……」
「お前ぇは進学すんのかぃ?それとも就職すんのかぃ?」
そうポツリと零された言葉に、小さく眉を顰め顔を俯かせる夢子を見やったマルコは缶ビールのプルタブを開けるとソレへと口を付けた。
そう言って自分を見やるマルコに、ふと、正面へと視線を戻した夢子は一応就職するつもり、と言葉を返すと深々とソファーへと凭れかかった。
「たださ……やりたいこととか、全然なくて……。どうしようかな、って……」
「…………まぁ、大半の人間は自分が本当になにがやりてぇのかなんて分かってねぇもんだよぃ。
お前ぇ、今やってるバイト先に就職する気はねぇのかぃ?」
ひどく悩ましげな声を漏らす夢子に、学生だった頃の自分を思い出しそんな頃もあったな、とひっそりと苦笑を洩らしたマルコはそう夢子へと声をかけると同じようにカシューナッツへと手を伸ばした。
そう言って自分を見やったマルコに、宙をぼんやりと見ていた夢子はそんなマルコへと視線を戻すと小さくその眉を顰め、フルリ、と首を横へと振った。
「シューショクするんだったら朝8時から夕方5時までのちゃんとしたとこが良い。確かにアソコは時給良いけど就職するってなると別もんだよ」
朝から晩まで他人に愛想振り撒きたくない、と溜息を吐きだした夢子に、接客業なのか…、と感情の希薄が著しい眼の前の少女に似合わねぇな、と小さく喉を震わせたマルコは、そう言ってポイ、と口へとカシューナッツを放り込んだ夢子を見て缶へと口を付けた。
「体動かす仕事の方が性にあってそうだけどねぃ、お前は」
「確かに机に向かってジッとしてるのとか、苦手だけど………接客業とかさ、OLやってる自分が全然想像できないんだよね……」
そう言って再び悩ましげに天を仰いだ夢子に、それでもしっかりと将来のことを考えている少女を見やったマルコは良いことだ、とひっそりと口元に弧をかくとつまみへと手を伸ばした。
「今焦って決めることでもねぇだろぅよぃ。まだ卒業まで時間はあんだ、これからいろんな方面に目を向けて、自分が少しでも興味持ったモンに手を出していきゃぁ良い。それでもし行き詰ったら、またこうやって相談しに来いよぃ」
話しならいくらでも聞いてやるからよぃ、と笑ったマルコに、ふと、そんなマルコへと視線を戻した夢子は優しい眼差しで自分を見やるマルコに、一つ目を瞬かせるとその口元に笑みを浮かべウン、と頷いた。
「そーする。今焦って考えても良い答えなんて出ないだろうし!ありがと、マルコに相談して良かった!」
ちょっとスッキリした!と笑ってソファーに預けていた背を起こした夢子に、どういたしましてだよぃ、と楽しげに言葉を返したマルコは悩みごとも解決したのか、この前野良がさー、と世間話を始めた夢子を見やるとふと、その口元に笑みを浮かべた。
「腹減ってんだろぃ?なんか食うか?」
「じゃーマルコさんお手製のもやし炒めで!あ、プリン買ってきたから食べる?」
そう言ってソファーから立ちあがったマルコに、キッチンへと歩き出したマルコの背にそう声をかけた夢子はコンビニ袋の中に残っていたプリンを二つ取り出すとソレをどこか誇らしげに掲げてみせた。
「お前ぇ……そんなもんこんな時間に食うと太るよぃ」
「毎晩晩酌する人に言われたくないなぁ」
そうどこか呆れたように自分を振り返ったマルコに、いらないの?と少しだけ残念そうに眉を下げた夢子は、いや食うよぃ。と言葉を返したマルコを見やると、その顔に満面の笑みを浮かべスプーンを探すべくソファーから立ちあがった。
「コレ今ハマっててさー、昼は必ずコレ食べてんの!」
「主食もちゃんと食ってんだろうねぃ?」
「えー、食べてる食べてる。購買でクリームパンとか」
「阿呆、そりゃ『主食』じゃねぇだろ。ちゃんとまともな飯を食えってぇのぃ」
「冷蔵庫が常にカラの人に説教されてもなぁ。食べてるだけマシでしょ?」
「最近はどっかの野良の為に食材買い置きしてんだよぃ」
ホレ見ろ、キャベツにニンジンもあんだよぃ。と野菜室からソレ等を取り出し自慢げに自分を見やったマルコに、基本『野菜炒め』しか作れないマルコを見やった夢子は小さく苦笑を洩らすとアリガト!とそれでも自分の為に料理を作ってくれるマルコにそう嬉しそうに言葉を返したのだった。
少女よ、大志を抱け!
後書→
何気に色んな人と知り合いだったりする主さん。
5話で話に出てきた『知り合いのオッサン』は言わずもがなバロックワークス社長のクロコダイルさんです。
呼び名は『シャチョー』で随分と前から主さんと知り合いだったりもします!
これからちょくちょく色んな人が出てきます!ドンキホーテの若頭とか、赤髪のお兄さんとかとか……
あと体育教師は誰にしようか…、と悩みに悩んだあげく、一番体操着の似合わなさそうな鷹の目さんにしました!
次の授業は確か体育だったか、と教員ジャージが一番似合わない体育教師のミホークの顔を思い浮かべた夢子は11時を差した時計に、席から立ち上がると鞄を手に教室を後にした。
「おい、サボり魔。どこ行くんだよ……」
次体育だろ、とその背にかけられた声に1組の教室から顔を覗かせたサボを見やった夢子は、ひどく呆れたように自分を見やるサボに歩みを止めるとその隣に立つコアラへとおはよ、と声をかけていた。
「おはよー、夢子ちゃん!今日も一限から来てたね!」
「ん、まぁ暇だったし」
「学生の本分は勉強だ、馬鹿……」
そう言って偉いねー!と笑みを浮かべるコアラにハハ、と笑う夢子を見やり痛む頭を押さえたサボはそう小さく声を漏らすと鞄を手にする夢子へと視線を戻した。
「んで、昼になったら帰る。と……。お前なぁ、俺達もう3年だぞ?進路は決まってんのか?ってか……卒業できんのか……?」
「単位落とさない程度には授業出てるから問題ない。職だってテキトーに探すよ」
やりたいことないし、と言ってヒラリ、と手を振った夢子に、そのまま廊下を歩きだしてしまった夢子の背を見やったサボは不安だ…と小さく零すと深々と溜息を吐きだした。
「そんなに心配しなくても、きっと夢子ちゃんなら大丈夫だよ。サボ君。最近学校にもよく来るようになったし、喧嘩だってあまりしてないでしょ?」
なにかあったのかな?と遠ざかる夢子の背を見やり小首を傾げたコアラに、いつだったか夢子が話していた『白ひげカンパニー』の部長の事を思い出したサボは、不思議そうな顔をするコアラを見やるとふと、その口元に弧を描いてさぁな、と言葉を返した。
遠くの方で聞こえる授業開始のチャイムの音に、鞄を片手に通学路を歩いていた夢子はふと、視界の端に映った金属物に、パチリ、と目を瞬かせるとその歩みを止めた。
「オイ、暇人。ちょっと飯付き合え」
「ゥグッ……?!ちょっと、シャチョー!!義手首に引っ掛けんのやめてって言ってるじゃん!」
そのまま首に引っかけられた鉤爪に、何故ワザワザ義手をソレにしたのかは定かではないが、そう自分へと声をかけ首根っこを引っ張ったクロコダイルに、後ろへとよろめいた夢子はそんな自分の体を支えたクロコダイルを恨めしげに仰ぎ見た。
「メシ行くぞ、夢子」
「謝罪はないんだね……」
そう言って自分の首からその鉤爪を外しさっさと歩き出してしまったクロコダイルに、絞まった首元をさすり小さく溜息を吐きだした夢子は、クロコダイルにいつも付き添っている社長秘書兼ボディーガードのダズの姿がないことにキョトリ、と目を瞬かせるとそんなクロコダイルの元へと駆けよった。
「シャチョー、ダズさんは?」
「会議に遅れるだなんだといちいち五月蠅ぇんだよ」
やってられるか、とその眉を苛立たしげに寄せたクロコダイルに、強面の顔をより一層渋らせたクロコダイルを見やった夢子は、逃げてきたのか…、と秘書の隙をついては何かとそんな秘書からバックレるバロックワークスの社長に、ダズさん大変だな…と小さく零すとそんなクロコダイルの隣を歩きだした。
「そういやぁ、テメェのほうこそこんな時間にほっつき歩いて何してんだ?」
「んー?授業ツマンナイからフけてきた」
暫く無言で自分の隣を歩いていた夢子に、ふと思い出したようにそう夢子へと声をかけたクロコダイルは、そんな自分を見上げそう言葉を返した夢子を見下ろすとクハハハハ!と楽しげに喉を震わせた。
「テメェも相変わらずだな。授業に出ようが出まいが、卒業できりゃ良いんだよ、んなもんは」
そう言ってグシャリ、と乱暴に撫でられた頭に小さく批難の声を上げた夢子はどこか楽しげに口元に弧をかくクロコダイルを見やると、そういえば、と声を漏らし見えてきた建物へと視線を向けた。
「シャチョーって、最終学歴は高校?」
「ア?大学だ」
つい先日マルコとやってきたそのカフェに、ホント好きだな、と此処のグラタンとアメリカンがお気に入りのクロコダイルへと視線を戻した夢子は、そう問うた自分に言葉を返したクロコダイルを見やりギョッと目を見開いた。
「シャチョー、その見た目で大学行ってたの?!!」
「もとからテメェで会社造る気だったからな。2年で経済学を全部その頭に詰め込んで今の会社立ちあげたんだよ」
驚きにそう声を上げた夢子に、自分を驚愕の眼差しで見やる夢子へと視線を落したクロコダイルは、その眉を微かに顰めさせると口の減らねぇ餓鬼だ、と相変わらずな物言いの夢子の頭をグシャリ、と押さえつけカフェの扉へと手を伸ばした。
いらっしゃいませ、という店員の控えめな挨拶に、いつもの席へと腰掛けたクロコダイルを見やり、その正面へと腰掛けた夢子は注文を聞きにやってきた店員にいつものだ。と注文をするクロコダイルに、小さく苦笑を洩らすとメニュー表を開きグラタンとエッグベネディクトを指差した。
「コレとコレを、あとアメリカンとホットミルクティーを一つずつ」
「かしこまりました」
そう注文をしてその場を去っていく店員の姿を見送った夢子は、早速その口に葉巻を咥えジッポを取り出したクロコダイルへと視線を戻すとテーブル脇に置いてあった灰皿をクロコダイルの前へと差し出した。
「シャチョーってさ、ヤクザとかじゃなかったの?」
「………ア?なんだ、唐突に」
チリチリと音を立てて火の付いた葉巻に、紫煙を吐きだしたクロコダイルはそんな自分へとそう声をかけてきた夢子を見やると怪訝そうにその眉を顰めさせた。
随分と不躾な質問に、それでも悪気はないんだろう不思議そうに自分を見やる目の前の少女を見やったクロコダイルは深く煙を吐きだすとそんな夢子の顔に紫煙を拭きかけた。
「グッ……、なに、ちょ……煙たいっ」
「どうにもテメェの目にゃぁ、俺が堅気の人間にゃぁ見えてねぇようだな」
吹きかけられた煙に、その端整な顔をしかめ咳き込む夢子を見やったクロコダイルはそう声を漏らすと心外だ、とでも言うようにフン、とそんな夢子から顔を背けた。
「だってシャチョーの格好オールバックに葉巻にファーコートだよ?どう見たってヤのつく職業の人じゃん」
「金髪サングラスのどっかのクソミンゴよりゃマシだ」
そう言って自分を半眼で睨みつけたクロコダイルに、某玩具会社の社長の顔を思い出した夢子もあー、まぁ…そうだね、と苦笑を洩らすと運ばれてきた料理へと視線を向けたのだった。
ベネディクトを口に運びながらどこか御満悦気味の夢子に、既に食べ終わったグラタンに食後の珈琲を飲んでいたクロコダイルはふと、正面へと腰掛ける夢子へと視線を向けるとそういやぁ、と思い出したように声を漏らした。
「お前、来年どうすんだ?」
「どうするって……?」
不意にかけられたその言葉に、パクリ、とマフィンを口へと運んだ夢子はキョトリ、と目を瞬かせるとそんな自分を呆れたように見やったクロコダイルに小首を傾げてみせた。
「テメェも来年にはアソコ出るんだろうが。就職すんのか?進学すんのか?」
「あぁ、進路のことか……。まぁ、一応は就職かな」
そう言って呆れたように紫煙を吐きだしたクロコダイルに、似たような事を聞いてきたサボの顔を思い出した夢子はそう言葉を返すと最後の一口をパクリ!と口へと運び御馳走さまでした!と声を弾ませた。
「候補は決めてんのか……?」
「んー?全然?あ、デザート頼んで良い?」
そう言ってヘラリ、と笑った夢子に、メニュー表へと手を伸ばした夢子を見やったクロコダイルは好きにしろ、とどうにも緊張感のない夢子を見やると呆れたように鼻息を漏らし、カラになった珈琲にこちらへとやってきた店員を呼びとめた。
「アメリカン、とコイツを一つ」
「かしこまりました」
そう言ってン!とミルフィーユを指差した夢子に、そう店員へと声をかけたクロコダイルはミルクティへと手を伸ばした夢子へと視線を戻すと葉巻を口へと咥える。
「やりてぇもんが決まってねぇんなら好都合だ。俺のところへ来い」
優遇してやる、と楽しげにその口元を釣り上げたクロコダイルに、カップへと口を付けていた夢子はキョトリ、と目を瞬かせるとそんなクロコダイルを見やりひっそりと苦笑を洩らした。
「大手企業の社長が『優遇する』とか言っちゃダメだと思うけど……」
「会社なんてそんなもんだ。優れたヤツは優遇され、劣るヤツは捨てられる」
弱肉強食だ、と喉を震わせたクロコダイルに、そんなクロコダイルを見やりんー…と悩ましげな声を漏らした夢子はコクリ、と一口ミルクティを飲むとそーいえば、と正面へと腰掛けるバロックワークスの社長を見やった。
「バロックワークスって具体的に何してる会社なの?」
「貿易会社だ」
「ザックリだね!!」
TVでもあまり紹介されていない会社に、有名な会社のはずなのに…、と小首を傾げた夢子はそう端的に言葉を返したクロコダイルにまったく分かんない!と苦笑を洩らした。
「でもなぁ、私自分が何が出来るかとか分かんないし」
「安心しろ、テメェにゃ俺の秘書をやらせてやる」
営業苦手だしデスクワークもなぁ、と声を漏らしていた夢子は、そう言って楽しげに笑みを浮かべ運ばれてきた珈琲とミルフィーユを受け取ったクロコダイルに、手渡されたソレを受け取るといやぁ…、と苦笑いを浮かべそんなクロコダイルからソッと視線を逸らした。
「シャチョーの秘書とか……メンタル面強くないと出来ないって……。ってか、え?3人も秘書必要?」
「お前が来りゃダズはクビだ」
自由奔放な目の前の社長に、そのクロコダイルをサポートする優秀な秘書二人の顔を思い出しそう小首を傾げた夢子は、そう言って珈琲を優雅に飲むクロコダイルにソレはマズイって…、と苦笑を洩らした。
「ダズさん可哀想だから!あの人シャチョーのことものすごく敬愛してんだから!」
もっと優しくしてあげてよ、と苦笑を浮かべる夢子に、十分優しくしてやってんだろ、と言葉を返したクロコダイルはふと、ウィンドウ越しにこちらを見やる影に気が付くと外へと視線を向けた。
『見つけましたよ、社長!!』
「ッチ、思ったより早かったな……」
そう顔に焦燥の色を浮かべるダズに、そう小さく零しその眉を嫌そうに顰めたクロコダイルは、店内へと入ってきたダズへと視線を向けるとこれ見よがしに溜息を吐きだした。
「何をしてるんですか!会議の時間が迫ってるんですよ、帰りましょう!」
「ったく、いちいち五月蠅ぇ野郎だな」
ギャーギャー喚くな、と額に汗を浮かべながら自分の前へと立ったダズに、そう面倒くさげに言葉を返したクロコダイルは苦笑を洩らす夢子を一瞥すると、テーブルに置かれていた伝票をダズへと押しつけ席から立ち上がった。
「じゃぁな、夢子。今の話、考えとけよ」
そう言ってコートを翻し颯爽とその場を歩き出したクロコダイルに、ヒラヒラとそんなクロコダイルへと手を振っていた夢子はえ…?と声を漏らすとはた、と目を瞬かせお店を出て行くクロコダイルとダズの背を呆けたように見やった。
「マジもんだったの……?今の話……」
てっきりただのクロコダイルの冗談だと思っていた夢子は、そんなクロコダイルの背を見やると呆けたようにそう小さく声を漏らしたのだった。
『~~♪~♪』
バイトも終わりコンビニで夕飯を買っていた夢子は、通りから聞こえてきた軽快な音にふと外を見やると、ビルのモニターから流れる玩具会社のCMにキョトリ、と目を瞬かせた。
使用用途が良く分からない人形に、来春発売!と大きなテロップが表示されるモニターを見やった夢子は、お釣りを受け取りコンビニ袋を手にお店を出るとパッと切り替わった画面にワァ…と小さく声を漏らしていた。
『良いかお前等今の時代はスマイルだ!』
笑ってなんぼの世の中だ!と高笑いをするトイファクトリーの若社長に、若様自ら宣伝か…とドピンクのファーコートをなびかせ高らかに笑うドフラミンゴを見やりそう小さく声を漏らした夢子は、モニターの下に小さく書かれる『従業員募集!!』の文字を見やると先程のクロコダイルの言葉を思い出し悩ましげにその眉を寄せた。
「やりたいことなんて……ないもんな」
高校を卒業してどこか適当に就職さえ出来ればソレで良いと思っていた自分に、クロコダイルからの勧誘の言葉を思い出しそう小さく声を漏らした夢子は、再び流れ始めたトイファクトリーのCMにビルのモニターを仰ぎ見た。
様々なアイディアで生み出されるトイファクトリーのオモチャ達に、ソコで働く従業員達の顔を思い出した夢子は、アソコもクセが強い人達の集まりだからな、と一瞬頭の中に浮かんだ候補に、ソコの我儘社長を思い出し無理だなぁ…と小さく零すとコンビニ袋を手にその場を後にした。
ピンポーン、と部屋に鳴り響いたチャイムの音に冷蔵庫から缶ビールを取り出していたマルコはふと、壁にかけてあった時計へと視線を向けると11時を回った針に、小さく溜息を吐きだし玄関へと歩き出した。
「こんばんわ」
「ったく……今何時だと思ってんだぃ」
ガチャリと開けた扉の向こうにはやはり夢子が立っていて、そう言って自分の家へと訪れた夢子を中へと招き入れたマルコはそう呆れたように声を漏らすとクシャリ、とそんな夢子の頭を撫でやった。
「バイト帰りかぃ……?」
「まぁ。ちょっとさ、マルコに相談したい事があって」
夜遅くに入れているバイトに、危ねぇな…と小さく零したマルコはそんな自分へとそう言葉を返しリビングへと歩き出した夢子に、キョトリと目を瞬かせると相談したいこと?と不思議そうに小首を傾げた。
「まぁ……マルコが一番、適任だと…思ってさ」
そう言ってどこか気恥ずかしげに自分から視線を逸らしおつまみいる?とコンビニ袋を掲げた夢子に、もう一度目を瞬かせたマルコは、掲げられたコンビニ袋に悪いねぃ、とその顔を綻ばせると夢子の為に、と最近常備するようになったミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出しそんな夢子へと投げてよこした。
投げたペットボトルを上手いことキャッチしてソファーへと腰掛けた夢子に、そんな夢子の正面へと腰掛けたマルコは、テーブルへと広げられるおつまみを見やると、サキイカを手に取り正面の夢子へと視線を向けた。
「それで?相談してぇことってぇのは、なんだぃ?」
「んー……?進路のこと……とか」
早速入った『相談事』に、良い酒の肴ができた。とソレをパクリと口へと咥えたマルコは、そう言って自分から視線を逸らし同じようにテーブルの上のつまみへと手を伸ばした夢子を見やるとはた、と目を瞬かせた。
「あぁ……、そういやぁお前ぇも来年には高校卒業するんだったねぃ」
単位は大丈夫かよぃ、不良娘。と誰かと同じことを聞いてくるマルコに問題ない、と少し膨れたように言葉を返した夢子は、そりゃぁ良かった。と楽しげに笑うマルコをチラリ、と見やると手の中のカシューナッツへと視線を落した。
「進路とかさ……漠然としすぎてて、どうしたら良いのか分かんない……」
「お前ぇは進学すんのかぃ?それとも就職すんのかぃ?」
そうポツリと零された言葉に、小さく眉を顰め顔を俯かせる夢子を見やったマルコは缶ビールのプルタブを開けるとソレへと口を付けた。
そう言って自分を見やるマルコに、ふと、正面へと視線を戻した夢子は一応就職するつもり、と言葉を返すと深々とソファーへと凭れかかった。
「たださ……やりたいこととか、全然なくて……。どうしようかな、って……」
「…………まぁ、大半の人間は自分が本当になにがやりてぇのかなんて分かってねぇもんだよぃ。
お前ぇ、今やってるバイト先に就職する気はねぇのかぃ?」
ひどく悩ましげな声を漏らす夢子に、学生だった頃の自分を思い出しそんな頃もあったな、とひっそりと苦笑を洩らしたマルコはそう夢子へと声をかけると同じようにカシューナッツへと手を伸ばした。
そう言って自分を見やったマルコに、宙をぼんやりと見ていた夢子はそんなマルコへと視線を戻すと小さくその眉を顰め、フルリ、と首を横へと振った。
「シューショクするんだったら朝8時から夕方5時までのちゃんとしたとこが良い。確かにアソコは時給良いけど就職するってなると別もんだよ」
朝から晩まで他人に愛想振り撒きたくない、と溜息を吐きだした夢子に、接客業なのか…、と感情の希薄が著しい眼の前の少女に似合わねぇな、と小さく喉を震わせたマルコは、そう言ってポイ、と口へとカシューナッツを放り込んだ夢子を見て缶へと口を付けた。
「体動かす仕事の方が性にあってそうだけどねぃ、お前は」
「確かに机に向かってジッとしてるのとか、苦手だけど………接客業とかさ、OLやってる自分が全然想像できないんだよね……」
そう言って再び悩ましげに天を仰いだ夢子に、それでもしっかりと将来のことを考えている少女を見やったマルコは良いことだ、とひっそりと口元に弧をかくとつまみへと手を伸ばした。
「今焦って決めることでもねぇだろぅよぃ。まだ卒業まで時間はあんだ、これからいろんな方面に目を向けて、自分が少しでも興味持ったモンに手を出していきゃぁ良い。それでもし行き詰ったら、またこうやって相談しに来いよぃ」
話しならいくらでも聞いてやるからよぃ、と笑ったマルコに、ふと、そんなマルコへと視線を戻した夢子は優しい眼差しで自分を見やるマルコに、一つ目を瞬かせるとその口元に笑みを浮かべウン、と頷いた。
「そーする。今焦って考えても良い答えなんて出ないだろうし!ありがと、マルコに相談して良かった!」
ちょっとスッキリした!と笑ってソファーに預けていた背を起こした夢子に、どういたしましてだよぃ、と楽しげに言葉を返したマルコは悩みごとも解決したのか、この前野良がさー、と世間話を始めた夢子を見やるとふと、その口元に笑みを浮かべた。
「腹減ってんだろぃ?なんか食うか?」
「じゃーマルコさんお手製のもやし炒めで!あ、プリン買ってきたから食べる?」
そう言ってソファーから立ちあがったマルコに、キッチンへと歩き出したマルコの背にそう声をかけた夢子はコンビニ袋の中に残っていたプリンを二つ取り出すとソレをどこか誇らしげに掲げてみせた。
「お前ぇ……そんなもんこんな時間に食うと太るよぃ」
「毎晩晩酌する人に言われたくないなぁ」
そうどこか呆れたように自分を振り返ったマルコに、いらないの?と少しだけ残念そうに眉を下げた夢子は、いや食うよぃ。と言葉を返したマルコを見やると、その顔に満面の笑みを浮かべスプーンを探すべくソファーから立ちあがった。
「コレ今ハマっててさー、昼は必ずコレ食べてんの!」
「主食もちゃんと食ってんだろうねぃ?」
「えー、食べてる食べてる。購買でクリームパンとか」
「阿呆、そりゃ『主食』じゃねぇだろ。ちゃんとまともな飯を食えってぇのぃ」
「冷蔵庫が常にカラの人に説教されてもなぁ。食べてるだけマシでしょ?」
「最近はどっかの野良の為に食材買い置きしてんだよぃ」
ホレ見ろ、キャベツにニンジンもあんだよぃ。と野菜室からソレ等を取り出し自慢げに自分を見やったマルコに、基本『野菜炒め』しか作れないマルコを見やった夢子は小さく苦笑を洩らすとアリガト!とそれでも自分の為に料理を作ってくれるマルコにそう嬉しそうに言葉を返したのだった。
少女よ、大志を抱け!
後書→
何気に色んな人と知り合いだったりする主さん。
5話で話に出てきた『知り合いのオッサン』は言わずもがなバロックワークス社長のクロコダイルさんです。
呼び名は『シャチョー』で随分と前から主さんと知り合いだったりもします!
これからちょくちょく色んな人が出てきます!ドンキホーテの若頭とか、赤髪のお兄さんとかとか……
あと体育教師は誰にしようか…、と悩みに悩んだあげく、一番体操着の似合わなさそうな鷹の目さんにしました!