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金色猫とタンゴ
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珍しくも午前中から授業に出席していた夢子は、不意に震えた携帯に、ぼんやりと眺めていた空から制服のポケットへと視線を落とすとキョトリ、と目を瞬かせた。
エースやルフィであれば何かあれば即電話をかけてくるはず、と一度だけ震えた携帯電話に、誰だろう?とソレをポケットから取り出した夢子は、教壇に立ち現代国語を教えるスモーカーをチラリ、と盗み見ると机の影に携帯を隠すように新着メールへと視線を落した。
『今週の土曜、暇か?』
(……マルコだ)
LINEに送られてきたマルコからのメールに、きっと向こうは小休憩中なのだろうソレを見やった夢子はゆるり、とその口元に嬉しそうに笑みを浮かべると、土曜日の予定を頭の中で思い出していた。
バイトは日曜だけだし特にエース達とも約束はないし、と何の予定も入っていなかった土曜日に、暇だよー、とLINEを返そうとしていた夢子は、ふと影の落ちた机にはた、と目を瞬かせると携帯から顔を上げヒクリと口元を引きつらせた。
「珍しく真面目に授業受けてると思やぁ………なに堂々と携帯構ってんだこのクソガキがっ!!!!」
「ちょっ!!返せよっ!!!」
そう、額に青筋を浮かべ持っていた携帯を引っ手繰ったスモーカーに、慌てたようにそんなスモーカーから携帯を取り返そうと手を伸ばした夢子は、次の瞬間飛んできた拳骨にグッと息を詰まらせた。
「っ~~~!!!体罰で訴えるぞクソ教師!!!」
「俺ぁ携帯を構うなと何度お前に注意した?教育的指導だ」
没収、とソレを自分のポケットに仕舞ってしまったスモーカーにゲッ?!!と声を漏らした夢子はそのまま教壇に戻っていくスモーカーの背を苛立たしげに睨みつけると、自分の机を蹴り飛ばしそのまま教室を出て行ってしまった。
ガンッ!ガランッ!!と前の生徒のイスにぶつかり転げた机に、騒然とする教室を見やったスモーカーは力任せに開け放たれた教室の扉に、小さく溜息を吐きだすと黒板へと向き直った。
「テメェら授業を続けるぞ」
そう言って何事もなかったように文法の続きを黒板へと書き始めたスモーカーに、徐々に静まり始めた生徒達は転げた夢子の机を一瞥すると授業を再開すべくノートへと視線を落としたのだった。
カツカツと苛立たしげに授業中の廊下を一人歩いていた夢子は、オイ、とかけられた声に歩みを止めると声をかけてきた人物を訝しげに振り返った。
「なに堂々と廊下歩いてんだよ………授業はどうした、授業は……」
そう声をかけてきたサボに、きっと歴史のオリエンテーション中なのだろう輪を作り各々好きに行動する1組の生徒に、教室の扉から顔を覗かせ自分を見やるサボを見やった夢子はその眉を顰めさせるとフィ、とそんなサボから視線を逸らした。
「やる気失せたから帰んの」
「やる気失せた、ってお前な………。さっき2組からスゲェ音がしたが、あれお前か……」
1組まで聞こえてきたその騒音に、ひどく機嫌が悪そうな夢子の顔を見やったサボはサボくーん!と呼ばれた名前にすぐ行く、とそんな女子生徒へと言葉を返すと夢子へと視線を戻し小さく苦笑を洩らした。
「なにがあった?確か2組の2限はスモーカー先生だっただろ?」
「……………ケータイ没収された」
そう言って小さく舌打ちを零した夢子にあー……、と声を漏らしたサボはソレはお前が悪い、と口から出掛けた言葉を呑み込むとハハ…と苦笑を洩らした。
きっと授業中に携帯を構っていたんであろう夢子に、相手が悪かったな…、と生徒の行動には常に目を光らせている生徒指導の先生の顔を思い浮かべたサボはヒョコリ、と自分の隣に姿を現したコアラへと視線を向けた。
「ささっと謝っちゃって携帯返してもらいなよ!」
「………人の頭殴ったヤツに頭下げたくない」
そう言ってニコッと可愛らしい笑みを浮かべたコアラに、いつから聞いてたんだ…と苦笑いを浮かべたサボは、そう言ってそんなコアラからも顔を背けた夢子に、呆れたように溜息を吐きだした。
「んー、確かにそれはスモーカー先生も悪いと思うけど、ホラ!携帯ないとルフィ君やエース君とも連絡取れないでしょ?」
不便じゃない?と小首を傾げたコアラに、真っ当な意見を述べるコアラをチラリ、と見やった夢子はチラチラと自分へと向けられる1組の生徒達の視線に気づくと居心地が悪そうに視線を床へと落としてしまった。
「ちょっと………頭冷やしてくる……」
今スモヤンのところ行っても今度は殴り合いしそうだし、と口よりも先に手が出る自分の性格に、そうコアラへと言葉を返した夢子は、ウン!そうしなよ!と笑みを浮かべ頷いてくれたコアラを一瞥すると、その隣で苦笑を洩らすサボへと後ろ手を振りそのまま1組の教室を後にしたのだった。
「悪いなコアラ。アイツ怒ると周りの言うことなんか聞きゃしねぇから……」
「うぅん、良いよー。だって夢子ちゃんホントは凄く優しい子だもん」
私知ってるよ、と苦笑を洩らすサボを見上げフフッ、と笑みを浮かべたコアラはあぁ、とその表情を緩めたサボを見やると、此方へとやってきたクラスメイトを不思議そうに振り返った。
「お前等……あんまアイツと関わらねぇほうが良いぜ………。ヤクザと知り合いだとか変な連中と関わってるとか、あんま良い噂聞かねぇからな」
「………なぁ。ソレ、どういう意味だ?」
そう言って遠ざかる夢子の背を見てその顔に嫌悪感を現したクラスメイトに、そんなクラスメイトを見て作り笑いを浮かべていたコアラはふと、その雰囲気を一変させそう男子生徒へと言葉を返したサボを横目に見やると小さく冷や汗を流した。
「だいたい不良のくせにアイツが2組ってのも納得いかねぇよ、裏でセコイ事して成績あげて「あーっ!ホラ、そろそろオリエンテーションに戻らないと私達まで先生に怒られちゃうよ!」」
口は笑っていても目が笑っていないサボに、明らかに怒っているサボを見やったコアラはそう言葉を続けようとした男子生徒の口を慌てたように押さえるとそう声を上げ、アハハ!と笑ってサボを振り返った。
お願いだから落ち着いて、と言いたげなコアラのその視線に、男子生徒を一瞥し小さく鼻息を漏らしたサボはそんな男子生徒から顔を背けるとそうだな、とコアラへと言葉を返し自分のグループの元へと戻って行った。
去り際小さく舌打ちを零していったサボに、危なかった…と小さく安堵の息を吐きだしたコアラは、状況が掴めていないんであろう不思議そうに目を瞬かせる男子生徒を見やると微かにその眉を顰めさせた。
「あまり不用意なことは口にしない方が良いよ。サボ君、アレで結構キレやすいんだから。あと、今度もしまた夢子ちゃんのこと悪く言うんだったら…………私も許さないからね」
「ヒッ………!!」
そう言ってニッコリ、とその顔に笑みを浮かべたコアラはガンッ!!と近くの机を殴りつけると、真っ二つに割れた机に顔を青ざめさせる男子を一瞥し何事もなかったように自分のグループへと戻って行ったのだった。
~~~
既読が付いてもう何時間も返信のない夢子とのLINEに、流石に急過ぎたか…、と未だ返事の返って来ないトーク画面を見やったマルコは、暗くなった空を一瞥すると見えてきたマンションに手にしていた携帯をポケットへとねじ込んだ。
随分と冷えた夜の空気に、今日は熱燗にでもするか…、と白くなって消える息を見やったマルコはチン、と到着した35階にエレベーターから降りると通路へと視線を向け、ギョッと驚愕に目を見開いた。
自分の部屋の扉の前で座り込む見慣れたその少女の姿に、携帯には何の連絡もなかったぞ?!と足早に夢子の元へと歩み寄ったマルコは、自分の足音に視線を上げた夢子を見やるとガスン!とその頭に鞄を落していた。
「お前ぇっ……!!来るときゃ連絡しろって言ってんだろぃっ!!」
「ッ!!したかったけど携帯取られたのっ!!!」
お帰り、と言う暇も与えず頭へと落とされた鞄に、そう声を荒げたマルコに同じように声を大きくさせそんなマルコを睨みつけた夢子はは…?と呆けたように声を漏らしたマルコからソッと視線を逸らした。
「生活指導の先公に携帯とられた………」
「お前ぇ………授業中に携帯でも構ってたんだろぃ」
そう言ってひどく不貞腐れたように声を漏らした夢子に、LINEを送って1分も経たぬうちに既読の付いたソレを思い出していたマルコはそう呆れたように溜息を吐きだすと、批難の視線を向けた自分に、ますますそんな自分から顔を背けてしまった夢子を見やり、ポスポス、とそんな夢子の頭を撫でやった。
「ったく、いつから待ってたんだぃ?」
「………少し前」
そう言ってやっと立ち上がった夢子に、寒さで赤くなっている鼻頭を見やったマルコは小さく苦笑を洩らすとソッとそんな夢子の頬へと手を触れた。
「随分と冷えちまったねぃ……茶ぁ淹れてやるから上がってけ」
「………アリガト」
そう言ってゆるゆると撫でられた頬に、扉を開け自分を中へと促したマルコを見やった夢子はそんなマルコへとそう言葉を返すと自分用になりつつあるスリッパを履き中へと入って行った。
ホカホカと湯気を上げる珈琲カップを手に、ソコに注がれた緑色のお茶を見やった夢子は湯呑ないのかな…、とこの前はコーンスープを珈琲カップに入れ出してきたマルコを思い出すとコクリ、と温かいお茶を一口飲んだ。
じんわりと喉元を通り過ぎて行く温かいお茶に、正面のソファーに腰掛け熱燗を仰ぐマルコを見やった夢子は、随分と温まった部屋の空気にほぅ、と小さく息を吐き出した。
いつ帰宅してくるか分からないマルコに、5時過ぎぐらいから玄関の扉の前で待ちぼうけをしていた夢子は、先程マルコに渡されたタオルケットに身を包むとそういえば、と思い出したように目の前のマルコへと視線を向けた。
「今週の土曜日、暇」
「ん?あぁ……昼前に送ったメールの事かぃ……」
そう唐突に声をかけてきた夢子に、なんとわなしにTVを見ていたマルコは10時休憩に夢子へと送ったLINEを思い出すとワザワザソレを伝えに来たのか、とどこか呆れたように目の前の少女へと視線を向けた。
「じゃぁその日俺とデートでもどうだぃ?」
「…………は?」
そう言ってお猪口にお酒を注ぎ足したマルコに、その口から出てきた単語を聞いた夢子は呆けたようにパチクリ、と目を瞬かせると、どこか楽しげに口元に笑みを浮かべるマルコから、戸惑うようにソッと視線を逸らした。
「デ、デートってっ………」
「この間の商談の成功祝いに飯行くってぇ話してたろぃ」
赤くなった顔を見られまい、と珈琲カップへと視線を落した夢子は、そう言って忘れたのかぃ?と小首を傾げたマルコへと視線を戻すと、いつだったかLINEでやり取りをしたその会話に、あぁ…と声を漏らすとそういうことか、とひっそりと溜息を吐き出した。
「あー、えっと……じゃぁ、何時にする?」
「そうだねぃ、昼食どきぐらいが良いだろうから11時に俺の家に集合ってぇのはどうだぃ?」
そう言って宙へと視線を投げやったマルコに、良いよ、と頷いた夢子は鞄に入れていたスケジュール帳を取り出すと土曜日の欄に『11時マルコん家!』と可愛らしい字で予定を書きくわえた。
それになんとはなしにそのスケジュール帳へと視線を落したマルコは、殆どの土日がバイトで埋め尽くされているそのスケジュール帳に、微かにその眉を顰めさせると正面に座る夢子へと視線を向けた。
「お前ぇ、なにをそんなに稼ぐ必要があんだぃ?」
「んー?携帯代とかお小遣いとか……?」
欲しい服とかいっぱいある、と女子高生らしい回答をした夢子に、もう一度そのスケジュール帳へと視線を落したマルコは、平日の深夜にもバイトの予定を入れている夢子に呆れたように溜息を吐きだした。
「携帯代や小遣い稼ぎの為のバイトならんな時間帯に入れなくても夕方までで十分事足りんだろうよぃ」
「時給良いし、今のバイト先。それにさ、金貯まったらあの家出て一人暮らしするつもりなんだ」
その為の軍資金!と楽しげに声を弾ませた夢子に、パチリ、と目を瞬かせたマルコはどこか楽しそうにその顔を綻ばせる夢子を見やるとそうかぃ、と同じようにその口元に笑みを浮かべた。
「んで?今いくらぐらい貯まってんだぃ?」
「この前通帳確認したら50万あった!もう少し貯めないと、引っ越し代とか色々必要だし今はまだちょっと無理かなぁ、とは思ってる」
敷金礼金とか結構かかるし、と一喜一憂する夢子に、それでも学生の身でそれだけ貯めていることに小さく感嘆の声を漏らしたマルコは頑張れよぃ、とそんな夢子の頭を撫でやった。
「早ぇとこ貯まると良いねぃ」
「うん!一人暮らし始めたらマルコも家に招待してあげるから!」
そう言った自分に、その顔を綻ばせそう声を弾ませた夢子に、そう軽々しく男を家に上げるもんじゃねぇ、と口から出掛けた言葉を呑み込んだマルコは、スケジュール帳を鞄へと仕舞う夢子の横顔を見やるとふと、その顔に笑みを浮かべた。
「そんときゃぁ引越祝いに何か贈ってやるよぃ」
「アリガト!楽しみにしてる!」
そう言ってカラになった熱燗を手にソファーから立ち上がったマルコに、何かおつまみ作るよ、とその背へと声をかけた夢子はありがてぇ、と楽しげに自分を振り返ったマルコを見やると同じようにキッチンへと向かったのだった。
「そういやぁ、早ぇとこその教師に謝って携帯返してもらえよぃ」
出汁巻き卵と枝豆が並ぶテーブルに、自分の隣へと移動した夢子を横目に見やったマルコはパクリ、と一口出汁巻き卵を口へと運ぶと思い出したようにそう夢子へと声をかけた。
それに同じように出汁巻き卵を頬張っていた夢子はキョトリ、と不思議そうに隣に腰掛けるマルコを見やると、その眉を微かに顰めさせそんなマルコからふぃ、と視線を逸らしていた。
「アイツに謝るのなんて嫌……。人の頭力一杯殴りやがって……」
暴力教師、と生活指導の先生の顔を思い出しそう小さく声を漏らした夢子の横顔はひどく不貞腐れていて、それにクツクツと喉を震わせたマルコは殴られたであろう夢子の頭をポンポン、と撫でやるとお猪口へと手を伸ばした。
「俺達の時代じゃぁソレが当たり前だったんだけどねぃ。悪さしたら遠慮なく顔なり頭なり殴られてたよぃ」
「今そんな事したら体罰でPTAに訴えられる……」
時代が違う、と小さく声を漏らした夢子にTVで何かと取りあげられる学校社会の現状を思い出したマルコは面倒臭ぇ世の中になったねぇ、としみじみと声を漏らすとゆるり、と夢子の頭を撫でやった。
「その教師がお前を叱るってぇのは、お前にまだ更生の見込みがあるからだろぅよぃ。今は確かに腹も立つだろうが、その教師もお前の為を想って叱ってんだよぃ」
怒られてるうちが花ってな、と笑って頭をグシャグシャ!と撫でまわしたマルコに、小さく批難の声を上げた夢子は乱れた髪を手櫛で直すと、笑うマルコを見やり、手元の出汁巻き卵へと視線を落した。
「…………謝り、づらい……」
散々バカにしてきた、と小さく零された言葉に、手元へと視線を落とす夢子の横顔を見やったマルコはどこか悩ましげな顔をする夢子に、ひっそりと苦笑を洩らすと少し冷めてしまったお酒を喉へと流し込んだ。
「一度頭を下げちまやぁ案外どうってことねぇもんだよぃ。ただ素直に『ゴメンなさい』って言やぁ良い」
俺には言えただろぃ?と俯く夢子の顔を覗きこんだマルコに、そんなマルコを横目に見やった夢子は微笑を浮かべるマルコに、グッと口を引き結ぶと小さく頷いた。
「………明日……、謝って、みる……」
「あぁ、頑張れよぃ」
そう言ってどこか気恥ずかしそうに自分から顔を逸らした夢子に、クツリと喉を震わせたマルコはそんな夢子の頭を撫でやると枝豆へと手を伸ばしたのだった。
――――
キンコンカンコン、と校舎に鳴り響くチャイムの音に、人数の減った職員室をソッと伺い見た夢子はその中に姿の見えないスモーカーに小さく溜息を吐きだすと地面へと視線を落した。
謝るならば早いうちに謝ってしまおう、と朝一で職員室へとやってきていた夢子は出端を挫かれたことにもう教室に帰ってしまおうか、と溜息を吐きだすと職員室から背を向けた。
「おい、夢野!」
「っ!!」
今度は昼休み、と小さく零して歩き出していた夢子は不意にその背にかけられた声に、よく聞き慣れたその生活指導の先生の声に大きく肩を震わせるとこちらへとやってきたスモーカーを慌てたように振り返った。
「な、なに……?」
「サボから聞いたぞ。ジイさんが危篤ならそうだと先に言やぁ俺だって怒鳴ったりしねぇんだよ」
そう言ってホレ、と差し出された自分の携帯に、……は?と声を漏らした夢子はどこかバツが悪そうに自分を見下ろすスモーカーを見上げると、パチクリ、と目を瞬かせた。
『ジイさん』と言ったスモーカーの言葉に、脳裏にパッと浮かんだのはモンキー家の大黒柱の顔で、殺しても死にそうにないガープに、いや違うけど、と口を出掛けた言葉を呑み込んだ夢子は何かと気を利かせてくれるサボの顔を思い出すと、アリガトウ…と返された携帯を受け取りそんなスモーカーへと視線を戻した。
「で?ジイさんの容体は良くなったのか?」
「あ、あぁ………まぁ、うん」
一応、と心配そうに自分を見下ろすスモーカーからソッと視線を逸らした夢子は、とんでもない出まかせをスモーカーにしたサボに、ガープさんの耳に入らなきゃ良いけど、と小さく零して手元の携帯へと視線を落した。
「あとコアラに礼言っとけ。昨日、テメェの代わりに謝りにきたぞ」
もうそろそろ許してやれ、とよ。と小さく鼻息を漏らしたスモーカーに、ふと、そんなスモーカーへと視線を戻した夢子は周りに心配かけんじゃねぇ、と呆れたように額を小突いたスモーカーに数歩たたらを踏むと小さく口を引き結び、そんなスモーカーから視線を逸らした。
「あー………のさ、スモーカー…センセイ」
「ァんだ、気色の悪ぃ……」
珍しくも自分を『スモーカー先生』と呼んだ目の前の生徒に、盛大にその眉をしかめたスモーカーは視線を彷徨わせる夢子を見やると、もう一度なんだよ、とそんな夢子へと声をかけた。
「これ、からは……気をつける」
そう小さく零された言葉にキョトリ、と呆けたように目を瞬かせたスモーカーは、そう言ってスイマセンデシタ。と自分へと頭を下げ逃げるようにその場を立ち去る夢子の背を見やると、ポカン…と口を開け咥えていた葉巻をポロリと取り落とした。
「あの夢子が……謝った……?」
なにを言っても反抗的な態度しか返って来なかった生徒が自分へと頭を下げたことに、そう小さく声を漏らしたスモーカーは、昨日の酒が残ってんのか…?と今起こった出来事が信じられずそう小さく声を漏らすと額へと手を当てた。
「なにをしているの?スモーカー君」
「………ヒナ………ありゃぁ、夢子・夢野…だよな……」
未だ状況が呑み込めず小さくなる夢子の背をただ呆けたように見ていたスモーカーはその背に声をかけた同僚を振り返ると、夢子を指差しそう確かめるようにヒナへと視線を向けた。
「………スモーカー君、とうとう目が悪くなったの?ヒナ心配」
あんな派手な金髪、夢子しかいないわよ。と言葉を返したヒナに、やっぱりこれは夢じゃないのか…、と通路の奥へと消えて行く夢子の後ろ姿へと視線を戻したスモーカーは、落ちた葉巻を拾い上げると不可解そうに眉を寄せると頭をかいたのだった。
貴方の言葉なら、素直に聞けそう
SSオマケ→
「サボ!コアラ!今度何か奢る!」
ありがと!と教室の入り口からかけられた声に、生徒会の打ち合わせをしていた二人は自分達へと手を振り笑みを浮かべる夢子に、その手に持たれる携帯を見やると同じように笑みを浮かべそんな夢子へと手を振り返した。
「あ、あとサボ!勝手にガープさん殺さない方が良いよ」
あとが怖いよ!と言い残し自分の教室へと戻って行った夢子に、ヒクリ…とその笑みを引きつらせたサボは上げていた手を下ろすとその顔に小さく冷や汗を浮かべた。
「サボ君………スモーカー先生になんて説明したの?」
「いや………ジイさんが危篤って連絡が携帯に入ってアイツ動揺してたんです。許してやってください、って……」
「………この前君達のお爺さんにあったけど、ピンピンしてたよ?」
ヤベェ、ジーさんの耳に入んなきゃいいけど…、と机へと項垂れたサボに、アハハ、と笑ったコアラはきっと巡り巡って本人の耳に届くであろうその噂に、慰めるようそんなサボの背をポンポン!とたたいたのだった。
エースやルフィであれば何かあれば即電話をかけてくるはず、と一度だけ震えた携帯電話に、誰だろう?とソレをポケットから取り出した夢子は、教壇に立ち現代国語を教えるスモーカーをチラリ、と盗み見ると机の影に携帯を隠すように新着メールへと視線を落した。
『今週の土曜、暇か?』
(……マルコだ)
LINEに送られてきたマルコからのメールに、きっと向こうは小休憩中なのだろうソレを見やった夢子はゆるり、とその口元に嬉しそうに笑みを浮かべると、土曜日の予定を頭の中で思い出していた。
バイトは日曜だけだし特にエース達とも約束はないし、と何の予定も入っていなかった土曜日に、暇だよー、とLINEを返そうとしていた夢子は、ふと影の落ちた机にはた、と目を瞬かせると携帯から顔を上げヒクリと口元を引きつらせた。
「珍しく真面目に授業受けてると思やぁ………なに堂々と携帯構ってんだこのクソガキがっ!!!!」
「ちょっ!!返せよっ!!!」
そう、額に青筋を浮かべ持っていた携帯を引っ手繰ったスモーカーに、慌てたようにそんなスモーカーから携帯を取り返そうと手を伸ばした夢子は、次の瞬間飛んできた拳骨にグッと息を詰まらせた。
「っ~~~!!!体罰で訴えるぞクソ教師!!!」
「俺ぁ携帯を構うなと何度お前に注意した?教育的指導だ」
没収、とソレを自分のポケットに仕舞ってしまったスモーカーにゲッ?!!と声を漏らした夢子はそのまま教壇に戻っていくスモーカーの背を苛立たしげに睨みつけると、自分の机を蹴り飛ばしそのまま教室を出て行ってしまった。
ガンッ!ガランッ!!と前の生徒のイスにぶつかり転げた机に、騒然とする教室を見やったスモーカーは力任せに開け放たれた教室の扉に、小さく溜息を吐きだすと黒板へと向き直った。
「テメェら授業を続けるぞ」
そう言って何事もなかったように文法の続きを黒板へと書き始めたスモーカーに、徐々に静まり始めた生徒達は転げた夢子の机を一瞥すると授業を再開すべくノートへと視線を落としたのだった。
カツカツと苛立たしげに授業中の廊下を一人歩いていた夢子は、オイ、とかけられた声に歩みを止めると声をかけてきた人物を訝しげに振り返った。
「なに堂々と廊下歩いてんだよ………授業はどうした、授業は……」
そう声をかけてきたサボに、きっと歴史のオリエンテーション中なのだろう輪を作り各々好きに行動する1組の生徒に、教室の扉から顔を覗かせ自分を見やるサボを見やった夢子はその眉を顰めさせるとフィ、とそんなサボから視線を逸らした。
「やる気失せたから帰んの」
「やる気失せた、ってお前な………。さっき2組からスゲェ音がしたが、あれお前か……」
1組まで聞こえてきたその騒音に、ひどく機嫌が悪そうな夢子の顔を見やったサボはサボくーん!と呼ばれた名前にすぐ行く、とそんな女子生徒へと言葉を返すと夢子へと視線を戻し小さく苦笑を洩らした。
「なにがあった?確か2組の2限はスモーカー先生だっただろ?」
「……………ケータイ没収された」
そう言って小さく舌打ちを零した夢子にあー……、と声を漏らしたサボはソレはお前が悪い、と口から出掛けた言葉を呑み込むとハハ…と苦笑を洩らした。
きっと授業中に携帯を構っていたんであろう夢子に、相手が悪かったな…、と生徒の行動には常に目を光らせている生徒指導の先生の顔を思い浮かべたサボはヒョコリ、と自分の隣に姿を現したコアラへと視線を向けた。
「ささっと謝っちゃって携帯返してもらいなよ!」
「………人の頭殴ったヤツに頭下げたくない」
そう言ってニコッと可愛らしい笑みを浮かべたコアラに、いつから聞いてたんだ…と苦笑いを浮かべたサボは、そう言ってそんなコアラからも顔を背けた夢子に、呆れたように溜息を吐きだした。
「んー、確かにそれはスモーカー先生も悪いと思うけど、ホラ!携帯ないとルフィ君やエース君とも連絡取れないでしょ?」
不便じゃない?と小首を傾げたコアラに、真っ当な意見を述べるコアラをチラリ、と見やった夢子はチラチラと自分へと向けられる1組の生徒達の視線に気づくと居心地が悪そうに視線を床へと落としてしまった。
「ちょっと………頭冷やしてくる……」
今スモヤンのところ行っても今度は殴り合いしそうだし、と口よりも先に手が出る自分の性格に、そうコアラへと言葉を返した夢子は、ウン!そうしなよ!と笑みを浮かべ頷いてくれたコアラを一瞥すると、その隣で苦笑を洩らすサボへと後ろ手を振りそのまま1組の教室を後にしたのだった。
「悪いなコアラ。アイツ怒ると周りの言うことなんか聞きゃしねぇから……」
「うぅん、良いよー。だって夢子ちゃんホントは凄く優しい子だもん」
私知ってるよ、と苦笑を洩らすサボを見上げフフッ、と笑みを浮かべたコアラはあぁ、とその表情を緩めたサボを見やると、此方へとやってきたクラスメイトを不思議そうに振り返った。
「お前等……あんまアイツと関わらねぇほうが良いぜ………。ヤクザと知り合いだとか変な連中と関わってるとか、あんま良い噂聞かねぇからな」
「………なぁ。ソレ、どういう意味だ?」
そう言って遠ざかる夢子の背を見てその顔に嫌悪感を現したクラスメイトに、そんなクラスメイトを見て作り笑いを浮かべていたコアラはふと、その雰囲気を一変させそう男子生徒へと言葉を返したサボを横目に見やると小さく冷や汗を流した。
「だいたい不良のくせにアイツが2組ってのも納得いかねぇよ、裏でセコイ事して成績あげて「あーっ!ホラ、そろそろオリエンテーションに戻らないと私達まで先生に怒られちゃうよ!」」
口は笑っていても目が笑っていないサボに、明らかに怒っているサボを見やったコアラはそう言葉を続けようとした男子生徒の口を慌てたように押さえるとそう声を上げ、アハハ!と笑ってサボを振り返った。
お願いだから落ち着いて、と言いたげなコアラのその視線に、男子生徒を一瞥し小さく鼻息を漏らしたサボはそんな男子生徒から顔を背けるとそうだな、とコアラへと言葉を返し自分のグループの元へと戻って行った。
去り際小さく舌打ちを零していったサボに、危なかった…と小さく安堵の息を吐きだしたコアラは、状況が掴めていないんであろう不思議そうに目を瞬かせる男子生徒を見やると微かにその眉を顰めさせた。
「あまり不用意なことは口にしない方が良いよ。サボ君、アレで結構キレやすいんだから。あと、今度もしまた夢子ちゃんのこと悪く言うんだったら…………私も許さないからね」
「ヒッ………!!」
そう言ってニッコリ、とその顔に笑みを浮かべたコアラはガンッ!!と近くの机を殴りつけると、真っ二つに割れた机に顔を青ざめさせる男子を一瞥し何事もなかったように自分のグループへと戻って行ったのだった。
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既読が付いてもう何時間も返信のない夢子とのLINEに、流石に急過ぎたか…、と未だ返事の返って来ないトーク画面を見やったマルコは、暗くなった空を一瞥すると見えてきたマンションに手にしていた携帯をポケットへとねじ込んだ。
随分と冷えた夜の空気に、今日は熱燗にでもするか…、と白くなって消える息を見やったマルコはチン、と到着した35階にエレベーターから降りると通路へと視線を向け、ギョッと驚愕に目を見開いた。
自分の部屋の扉の前で座り込む見慣れたその少女の姿に、携帯には何の連絡もなかったぞ?!と足早に夢子の元へと歩み寄ったマルコは、自分の足音に視線を上げた夢子を見やるとガスン!とその頭に鞄を落していた。
「お前ぇっ……!!来るときゃ連絡しろって言ってんだろぃっ!!」
「ッ!!したかったけど携帯取られたのっ!!!」
お帰り、と言う暇も与えず頭へと落とされた鞄に、そう声を荒げたマルコに同じように声を大きくさせそんなマルコを睨みつけた夢子はは…?と呆けたように声を漏らしたマルコからソッと視線を逸らした。
「生活指導の先公に携帯とられた………」
「お前ぇ………授業中に携帯でも構ってたんだろぃ」
そう言ってひどく不貞腐れたように声を漏らした夢子に、LINEを送って1分も経たぬうちに既読の付いたソレを思い出していたマルコはそう呆れたように溜息を吐きだすと、批難の視線を向けた自分に、ますますそんな自分から顔を背けてしまった夢子を見やり、ポスポス、とそんな夢子の頭を撫でやった。
「ったく、いつから待ってたんだぃ?」
「………少し前」
そう言ってやっと立ち上がった夢子に、寒さで赤くなっている鼻頭を見やったマルコは小さく苦笑を洩らすとソッとそんな夢子の頬へと手を触れた。
「随分と冷えちまったねぃ……茶ぁ淹れてやるから上がってけ」
「………アリガト」
そう言ってゆるゆると撫でられた頬に、扉を開け自分を中へと促したマルコを見やった夢子はそんなマルコへとそう言葉を返すと自分用になりつつあるスリッパを履き中へと入って行った。
ホカホカと湯気を上げる珈琲カップを手に、ソコに注がれた緑色のお茶を見やった夢子は湯呑ないのかな…、とこの前はコーンスープを珈琲カップに入れ出してきたマルコを思い出すとコクリ、と温かいお茶を一口飲んだ。
じんわりと喉元を通り過ぎて行く温かいお茶に、正面のソファーに腰掛け熱燗を仰ぐマルコを見やった夢子は、随分と温まった部屋の空気にほぅ、と小さく息を吐き出した。
いつ帰宅してくるか分からないマルコに、5時過ぎぐらいから玄関の扉の前で待ちぼうけをしていた夢子は、先程マルコに渡されたタオルケットに身を包むとそういえば、と思い出したように目の前のマルコへと視線を向けた。
「今週の土曜日、暇」
「ん?あぁ……昼前に送ったメールの事かぃ……」
そう唐突に声をかけてきた夢子に、なんとわなしにTVを見ていたマルコは10時休憩に夢子へと送ったLINEを思い出すとワザワザソレを伝えに来たのか、とどこか呆れたように目の前の少女へと視線を向けた。
「じゃぁその日俺とデートでもどうだぃ?」
「…………は?」
そう言ってお猪口にお酒を注ぎ足したマルコに、その口から出てきた単語を聞いた夢子は呆けたようにパチクリ、と目を瞬かせると、どこか楽しげに口元に笑みを浮かべるマルコから、戸惑うようにソッと視線を逸らした。
「デ、デートってっ………」
「この間の商談の成功祝いに飯行くってぇ話してたろぃ」
赤くなった顔を見られまい、と珈琲カップへと視線を落した夢子は、そう言って忘れたのかぃ?と小首を傾げたマルコへと視線を戻すと、いつだったかLINEでやり取りをしたその会話に、あぁ…と声を漏らすとそういうことか、とひっそりと溜息を吐き出した。
「あー、えっと……じゃぁ、何時にする?」
「そうだねぃ、昼食どきぐらいが良いだろうから11時に俺の家に集合ってぇのはどうだぃ?」
そう言って宙へと視線を投げやったマルコに、良いよ、と頷いた夢子は鞄に入れていたスケジュール帳を取り出すと土曜日の欄に『11時マルコん家!』と可愛らしい字で予定を書きくわえた。
それになんとはなしにそのスケジュール帳へと視線を落したマルコは、殆どの土日がバイトで埋め尽くされているそのスケジュール帳に、微かにその眉を顰めさせると正面に座る夢子へと視線を向けた。
「お前ぇ、なにをそんなに稼ぐ必要があんだぃ?」
「んー?携帯代とかお小遣いとか……?」
欲しい服とかいっぱいある、と女子高生らしい回答をした夢子に、もう一度そのスケジュール帳へと視線を落したマルコは、平日の深夜にもバイトの予定を入れている夢子に呆れたように溜息を吐きだした。
「携帯代や小遣い稼ぎの為のバイトならんな時間帯に入れなくても夕方までで十分事足りんだろうよぃ」
「時給良いし、今のバイト先。それにさ、金貯まったらあの家出て一人暮らしするつもりなんだ」
その為の軍資金!と楽しげに声を弾ませた夢子に、パチリ、と目を瞬かせたマルコはどこか楽しそうにその顔を綻ばせる夢子を見やるとそうかぃ、と同じようにその口元に笑みを浮かべた。
「んで?今いくらぐらい貯まってんだぃ?」
「この前通帳確認したら50万あった!もう少し貯めないと、引っ越し代とか色々必要だし今はまだちょっと無理かなぁ、とは思ってる」
敷金礼金とか結構かかるし、と一喜一憂する夢子に、それでも学生の身でそれだけ貯めていることに小さく感嘆の声を漏らしたマルコは頑張れよぃ、とそんな夢子の頭を撫でやった。
「早ぇとこ貯まると良いねぃ」
「うん!一人暮らし始めたらマルコも家に招待してあげるから!」
そう言った自分に、その顔を綻ばせそう声を弾ませた夢子に、そう軽々しく男を家に上げるもんじゃねぇ、と口から出掛けた言葉を呑み込んだマルコは、スケジュール帳を鞄へと仕舞う夢子の横顔を見やるとふと、その顔に笑みを浮かべた。
「そんときゃぁ引越祝いに何か贈ってやるよぃ」
「アリガト!楽しみにしてる!」
そう言ってカラになった熱燗を手にソファーから立ち上がったマルコに、何かおつまみ作るよ、とその背へと声をかけた夢子はありがてぇ、と楽しげに自分を振り返ったマルコを見やると同じようにキッチンへと向かったのだった。
「そういやぁ、早ぇとこその教師に謝って携帯返してもらえよぃ」
出汁巻き卵と枝豆が並ぶテーブルに、自分の隣へと移動した夢子を横目に見やったマルコはパクリ、と一口出汁巻き卵を口へと運ぶと思い出したようにそう夢子へと声をかけた。
それに同じように出汁巻き卵を頬張っていた夢子はキョトリ、と不思議そうに隣に腰掛けるマルコを見やると、その眉を微かに顰めさせそんなマルコからふぃ、と視線を逸らしていた。
「アイツに謝るのなんて嫌……。人の頭力一杯殴りやがって……」
暴力教師、と生活指導の先生の顔を思い出しそう小さく声を漏らした夢子の横顔はひどく不貞腐れていて、それにクツクツと喉を震わせたマルコは殴られたであろう夢子の頭をポンポン、と撫でやるとお猪口へと手を伸ばした。
「俺達の時代じゃぁソレが当たり前だったんだけどねぃ。悪さしたら遠慮なく顔なり頭なり殴られてたよぃ」
「今そんな事したら体罰でPTAに訴えられる……」
時代が違う、と小さく声を漏らした夢子にTVで何かと取りあげられる学校社会の現状を思い出したマルコは面倒臭ぇ世の中になったねぇ、としみじみと声を漏らすとゆるり、と夢子の頭を撫でやった。
「その教師がお前を叱るってぇのは、お前にまだ更生の見込みがあるからだろぅよぃ。今は確かに腹も立つだろうが、その教師もお前の為を想って叱ってんだよぃ」
怒られてるうちが花ってな、と笑って頭をグシャグシャ!と撫でまわしたマルコに、小さく批難の声を上げた夢子は乱れた髪を手櫛で直すと、笑うマルコを見やり、手元の出汁巻き卵へと視線を落した。
「…………謝り、づらい……」
散々バカにしてきた、と小さく零された言葉に、手元へと視線を落とす夢子の横顔を見やったマルコはどこか悩ましげな顔をする夢子に、ひっそりと苦笑を洩らすと少し冷めてしまったお酒を喉へと流し込んだ。
「一度頭を下げちまやぁ案外どうってことねぇもんだよぃ。ただ素直に『ゴメンなさい』って言やぁ良い」
俺には言えただろぃ?と俯く夢子の顔を覗きこんだマルコに、そんなマルコを横目に見やった夢子は微笑を浮かべるマルコに、グッと口を引き結ぶと小さく頷いた。
「………明日……、謝って、みる……」
「あぁ、頑張れよぃ」
そう言ってどこか気恥ずかしそうに自分から顔を逸らした夢子に、クツリと喉を震わせたマルコはそんな夢子の頭を撫でやると枝豆へと手を伸ばしたのだった。
――――
キンコンカンコン、と校舎に鳴り響くチャイムの音に、人数の減った職員室をソッと伺い見た夢子はその中に姿の見えないスモーカーに小さく溜息を吐きだすと地面へと視線を落した。
謝るならば早いうちに謝ってしまおう、と朝一で職員室へとやってきていた夢子は出端を挫かれたことにもう教室に帰ってしまおうか、と溜息を吐きだすと職員室から背を向けた。
「おい、夢野!」
「っ!!」
今度は昼休み、と小さく零して歩き出していた夢子は不意にその背にかけられた声に、よく聞き慣れたその生活指導の先生の声に大きく肩を震わせるとこちらへとやってきたスモーカーを慌てたように振り返った。
「な、なに……?」
「サボから聞いたぞ。ジイさんが危篤ならそうだと先に言やぁ俺だって怒鳴ったりしねぇんだよ」
そう言ってホレ、と差し出された自分の携帯に、……は?と声を漏らした夢子はどこかバツが悪そうに自分を見下ろすスモーカーを見上げると、パチクリ、と目を瞬かせた。
『ジイさん』と言ったスモーカーの言葉に、脳裏にパッと浮かんだのはモンキー家の大黒柱の顔で、殺しても死にそうにないガープに、いや違うけど、と口を出掛けた言葉を呑み込んだ夢子は何かと気を利かせてくれるサボの顔を思い出すと、アリガトウ…と返された携帯を受け取りそんなスモーカーへと視線を戻した。
「で?ジイさんの容体は良くなったのか?」
「あ、あぁ………まぁ、うん」
一応、と心配そうに自分を見下ろすスモーカーからソッと視線を逸らした夢子は、とんでもない出まかせをスモーカーにしたサボに、ガープさんの耳に入らなきゃ良いけど、と小さく零して手元の携帯へと視線を落した。
「あとコアラに礼言っとけ。昨日、テメェの代わりに謝りにきたぞ」
もうそろそろ許してやれ、とよ。と小さく鼻息を漏らしたスモーカーに、ふと、そんなスモーカーへと視線を戻した夢子は周りに心配かけんじゃねぇ、と呆れたように額を小突いたスモーカーに数歩たたらを踏むと小さく口を引き結び、そんなスモーカーから視線を逸らした。
「あー………のさ、スモーカー…センセイ」
「ァんだ、気色の悪ぃ……」
珍しくも自分を『スモーカー先生』と呼んだ目の前の生徒に、盛大にその眉をしかめたスモーカーは視線を彷徨わせる夢子を見やると、もう一度なんだよ、とそんな夢子へと声をかけた。
「これ、からは……気をつける」
そう小さく零された言葉にキョトリ、と呆けたように目を瞬かせたスモーカーは、そう言ってスイマセンデシタ。と自分へと頭を下げ逃げるようにその場を立ち去る夢子の背を見やると、ポカン…と口を開け咥えていた葉巻をポロリと取り落とした。
「あの夢子が……謝った……?」
なにを言っても反抗的な態度しか返って来なかった生徒が自分へと頭を下げたことに、そう小さく声を漏らしたスモーカーは、昨日の酒が残ってんのか…?と今起こった出来事が信じられずそう小さく声を漏らすと額へと手を当てた。
「なにをしているの?スモーカー君」
「………ヒナ………ありゃぁ、夢子・夢野…だよな……」
未だ状況が呑み込めず小さくなる夢子の背をただ呆けたように見ていたスモーカーはその背に声をかけた同僚を振り返ると、夢子を指差しそう確かめるようにヒナへと視線を向けた。
「………スモーカー君、とうとう目が悪くなったの?ヒナ心配」
あんな派手な金髪、夢子しかいないわよ。と言葉を返したヒナに、やっぱりこれは夢じゃないのか…、と通路の奥へと消えて行く夢子の後ろ姿へと視線を戻したスモーカーは、落ちた葉巻を拾い上げると不可解そうに眉を寄せると頭をかいたのだった。
貴方の言葉なら、素直に聞けそう
SSオマケ→
「サボ!コアラ!今度何か奢る!」
ありがと!と教室の入り口からかけられた声に、生徒会の打ち合わせをしていた二人は自分達へと手を振り笑みを浮かべる夢子に、その手に持たれる携帯を見やると同じように笑みを浮かべそんな夢子へと手を振り返した。
「あ、あとサボ!勝手にガープさん殺さない方が良いよ」
あとが怖いよ!と言い残し自分の教室へと戻って行った夢子に、ヒクリ…とその笑みを引きつらせたサボは上げていた手を下ろすとその顔に小さく冷や汗を浮かべた。
「サボ君………スモーカー先生になんて説明したの?」
「いや………ジイさんが危篤って連絡が携帯に入ってアイツ動揺してたんです。許してやってください、って……」
「………この前君達のお爺さんにあったけど、ピンピンしてたよ?」
ヤベェ、ジーさんの耳に入んなきゃいいけど…、と机へと項垂れたサボに、アハハ、と笑ったコアラはきっと巡り巡って本人の耳に届くであろうその噂に、慰めるようそんなサボの背をポンポン!とたたいたのだった。