夢小説内でのお名前の変更設定
金色猫とタンゴ
貴女のお名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――ピロン
カタカタとキーボードの音だけが響いていた部屋に、PCに向かい明日の商談の資料を作成していたマルコは不意に部屋に響いた着信音に傍らに置いていた携帯を手に取った。
『今家にいる?』と送られてきた夢子からの簡潔なメールに、ここ最近では良く家に顔を出すようになった少女の顔を思い出したマルコは、何か用事だろうか?とそのメールに『居る』とだけ返すと、すぐに既読の付いたトークにピンポーンと鳴ったチャイムの音にパチリ、と目を瞬かせた。
人が訪問してくるには随分と遅い時間に、まさかねぃ…と小さく声を漏らしたマルコは書きかけだった資料を保存するとイスから立ち上がり玄関へと向かった。
「コンバンワー」
「………お前ぇな……、連絡寄越すタイミングがおかしいだろぅよぃ……」
ガチャリ、と開けた扉の向こうにはやはり予想通りの人物が立っていて、ヤ!と楽しげに片手を上げた夢子を見やったマルコはそうひどく呆れたように声を漏らすとそんな夢子を家へと上げたのだった。
「これでもし俺が居なかったらどうしてたんだぃ……」
「ンー?そんときはそんときで帰り待ってた」
そう言って溜息を吐き出したマルコはリビングへと向かい温かーい!と声を上げる夢子を見やると呆れたように額に手を当て三度溜息を吐きだしたのだった。
「お前ぇ……何のためにLINE交換したと思ってんだよぃ」
「ほら、でもちゃんと確認はしたし」
そう言ってクシャリ、とそんな夢子の頭を撫でやったマルコは、寒さで赤くなるその耳へとソッと手を触れると自分を仰ぎ見た夢子からパッと視線を逸らしキッチンへと歩き出した。
「で?今日はどうした?この前中間テストがどうとか言ってなかったかぃ?」
「んー?息抜きしにきた」
そう言ってキッチンへと向かったマルコに、マルコが触れた耳へと手を当てた夢子は微かに心拍数の上がった心臓に気づかぬふりをして、そんなマルコの後を追うようにキッチンへと歩き出した。
「ヘェ……ちゃんと勉強してんのかぃ」
「まぁ、一応……?あ、知り合いからチーズケーキ貰ったから食べよー」
飯は?と自分を振り返ったマルコにまだ、と返した夢子はなんか食うかぃ?と夕飯の用意を始めたマルコを見やるとアリガトウ、と言葉を返し手にしていた紙袋をキッチンテーブルへと置いた。
「LeTAOのチーズケーキじゃねぇかぃ……。そんな良いモン、貰ったのかぃ?」
紙袋に書かれる有名店の名前に、ソレを見やり怪訝そうに夢子へと視線を向けたマルコに、その紙袋からチーズケーキの箱を取り出した夢子はんー?と不思議そうにそんなマルコを見やるとパカリ、と開けた箱に中を覗きこみその顔を綻ばせた。
「その人職業柄出張多いから。どっか行くたびにお土産くれるんだ」
この前はベルギーのチョコだった、と何かにつけてはドッチャリとお土産を買い込んでくる某知り合いに、ソレを皿へと乗せた夢子を見やったマルコはその言葉に怪訝そうに眉を顰めさせた。
「出張ってぇこたぁ………ソイツァ、社会人、なのかぃ……?」
「え?うん、そうだよ?」
そう訝しげに自分を見下ろしたマルコに、フォークは?と収納ラックを漁っていた夢子はそんなマルコを振り返るとそう言葉を返し不思議そうに小首を傾げた。
それがなんだ?とでも言いたげな夢子の視線に、小さく溜息を吐きだしたマルコは冷蔵庫へと向き直ると野菜室に入っていたもやしとキャベツを手に取った。
「お前ぇ………そんな奴と何処で知り合うんだぃ……?」
「何処でって……まぁ、大抵は友達の知り合いだったり、知り合いの知り合いと知り合ったり、あと……まぁ、色々?」
知らないうちに仲良くなってる、と小首を傾げた夢子に、その口ぶりからしてあと何人か『そういった類』の大人と知り合いなんであろう夢子を見やったマルコは、小さくその眉根を寄せると呆れたように溜息を吐きだしていた。
「不用意に変な輩と知り合うんじゃねぇよぃ……」
「大丈夫。皆ちゃんと真面目に社会人やってる人達だから」
そう言ってあ、フォークあった!とラックの中からフォークを取り出しチーズケーキを手にリビングへと歩き出してしまった夢子に、そういうこっちゃねぇよぃ…、とどうにも危機感の薄い夢子を横目に見やったマルコは諦めたように溜息を吐きだすとフライパンをコンロへと置いたのだった。
(うん、安定の不味さだ……)
落ち着く、とマルコの手料理を黙々と咀嚼していた夢子は、随分と慣れたマルコ特製の焦げた野菜炒めの味に、それを口へと運ぶと正面のマルコへと視線を向けた。
自分も夕飯がまだだったのか食事を取りつつ資料らしきものに目を通すマルコを見やった夢子は、向かい側から身を乗り出すとマルコの手にある資料を興味深げに覗きこんだ。
「………『バロックワークス』……?」
「ん?あぁ……今度ソコとちょっとした取引があってねぃ……」
資料の見出しの『貴社、バロックワークス社との商談について』と書かれる文字を見やりそう声を漏らした夢子は、資料から顔を上げそんな自分を見やり溜息を吐きだしたマルコを見やるとキョトリと目を瞬かせた。
「大変な商談なの……?」
「大変ってぇより………面倒臭ぇんだよぃ。何かにつけちゃぁ難癖つけやがって……」
そう言って三度溜息を吐きだしたマルコに、その『バロックワークス』の社長の顔を思い出した夢子はふ~ん…、と小さく相槌を返すとテーブルへと乗りだしていた上半身を戻しパクリ、と野菜炒めを口へと運んだ。
チラリ、と伺い見たマルコはやはり気難しい顔をしていて、ジッと資料を睨みつけるマルコを見やった夢子は手元の野菜炒めへと視線を落とすとねぇ、とそんなマルコへと声をかけていた。
「ん?なんだぃ?」
「あー………マルコ、ってさ……。確か、バナナワニブランドの万年筆持ってたよね……?」
「万年筆……?あぁ、アレかぃ」
そう言って自分をチラリ、と見やった夢子にパチリ、と目を瞬かせたマルコは箱から出すこともせず作業机に無造作に置いていたソレを指差すと不思議そうに夢子へと視線を戻した。
「確かに持っちゃぁいるが………会社の奴からの貰いモンでな。俺の趣味じゃぁねぇよぃ」
欲しいのかぃ?と不思議そうに自分を見やったマルコに、小さく首を振った夢子は埃さえ被りつつあるその万年筆を思いだすと、6万はするのに…と小さく零し残りの野菜炒めを口へと詰め込んだ。
「今度そのバロックワークスとの商談の時にソレスーツのポケット入れてってみれば……?」
「は………?」
そう言って御馳走さま、と食べ終わった野菜炒めに食後のデザートへと手を伸ばした夢子を見やったマルコはキョトリ、と目を瞬かせると訝しげにその眉頭に皺を寄せた。
「万年筆なんざ使わねぇぞ……」
「まぁ、願掛けだよ、願掛け」
そう言って艶めくチーズケーキへとフォークを差した夢子に、願掛けねぃ…と小さく声を零したマルコは作業机の上にあるソレを一瞥すると、美味しそうにケーキを頬張る夢子へと視線を戻した。
「そういやぁ……お前ぇのあのカバンもバナナワニのだろぃ?ありゃぁ………自分で買ったのかぃ?」
確か60万はするぞ、とソファー横に置かれている夢子の鞄を指差したマルコは、学生ではなかなかに手の届かないそのブランドを思い出すと怪訝そうに眉を顰め夢子へと視線を戻した。
「あー………。アレね、誕プレだって………押し付けられた」
それに同じように自分の鞄を横目に見やった夢子は、ソレを押し付けてきた某知り合いの顔を思い出すと深々と溜息を吐きだし、あのブランドは女が持つものじゃない……、と強面の男性が良く好んで愛用するそのブランドに、少し嫌そうにそう声を漏らしていた。
「趣味に合わねぇなら無理して持つこたねぇだろぃ」
「……………使わないと煩いから、あの人」
「?」
そう言って呆れたように自分を見やったマルコに、そう小さく声を漏らした夢子は小首を傾げ不思議そうな視線を自分へと向けたマルコに、何でもない、と言葉を返すと御馳走様でした!と食べ終わったケーキに満足げに手を合わせたのだった。
――――
いつ来ても威圧感の溢れるその建物に、この先にいる商談相手の顔を思い出し気疲れしたように小さく溜息を吐きだしたマルコは、バロックワークスのシンボルマークを横目に見やるとスーツの胸ポケットに入れていたその万年筆をポン、と軽く叩き昨日の夢子との会話を思い出しふと、その口元に小さく笑みを浮かべた。
「願掛け、ねぃ……」
これで上手くいきゃ誰も苦労はしてねぇよぃ…、とどこか苦笑気味に小さく零したマルコはバロックワークスの門をくぐると受付へと向かったのだった。
「………まぁ、今回の案件はこんなところですよぃ」
悪い提案じゃぁねぇだろぃ?と目の前のバロックワークスの社長へとそう言葉を投げかけたマルコは、同じように手元の資料に視線を落としその眉根を寄せるクロコダイルを伺い見やるとひっそりと鼻息を漏らした。
(この様子じゃ今回も駄目だろうねぃ……)
毎度毎度試行錯誤を重ね持ち寄る商談に、ソレを一蹴して終わる目の前のクロコダイルを見やったマルコは、眉根を寄せ、愛用の葉巻を吹かすクロコダイルに再び手元の資料へと視線を落とした。
「質疑があるなら一応聞くが……」
「いや、ねぇな」
そう言って手にしていた資料をテーブルの上へと滑らせたクロコダイルに、自分へと視線を戻し葉巻を吹かしたクロコダイルを見やったマルコはそうかぃ、と簡潔に言葉を返すと手にしていた資料を鞄へと戻した。
「返事はまた後日伺いに来ますので、今日はこれで」
「悪くねぇ商談だ。白ひげのジジイにもそう伝えておけ」
「…………は?」
そう言って早々に帰る支度を始めていたマルコは、近くに立っていたダズへと一声かけその承諾書へと判を押させたクロコダイルに、自分へと視線を戻したクロコダイルを見やるとパチクリ、と目を瞬かせた。
「ぁー……、今回の商談は、成立ってぇことで、良いんだねぃ?」
「あぁ、構わねぇ。たまにゃぁ白ひげのジジイに恩を売っとくのも悪かねぇ」
そう言ってどこか楽しげに口元に弧をかいたクロコダイルに、どうぞ、と受理印の押された承諾書を手渡してきたダズを一瞥したマルコは、ソレを受け取ると向かいに座るバロックワークス社長を呆けたように見つめた。
普段ならば決して首を縦に振らない男がどういう風の吹き回しだ?と口から出掛けた疑問を寸でのところで呑み込んだマルコは、受け取った承諾書を鞄へと詰めるとソレを手に再びクロコダイルへと視線を戻した。
「この後の取引は部下に引き継がせますので。じゃぁ、俺はこれで」
「ダズ、マルコ部長殿を下まで送って差し上げろ」
「はい」
そう言ってクロコダイルへと一礼をしたマルコは、そうダズへと一声かけ社長室へと歩き出してしまったクロコダイルに、滅多に聞くことのないその言葉を耳にするとギョッと目を見開き、自分を扉へと案内したダズを呆けたように見やったのだった。
お疲れさまでした。と深々と頭を下げ自分を見送った強面の社長秘書に、バロックワーク社を後にしたマルコはいったいなんだったんだ…?と呆けたように声を漏らすとそびえ立つバロックワークス社を振り返った。
不思議なぐらいすんなりと決まってしまった商談に、本当にコレのおかげか…?と胸ポケットへと入れていた万年筆を取り出したマルコは、頭にバナナを乗せる鰐のシルエットが描かれるソレを見やると、まさかねぃ、と小さく苦笑を洩らし自社へと帰るべくその場を後にしたのだった。
――――
学校も終わりバイトまでまだ時間もあるしどこかで暇を潰そう、と人で賑わう繁華街へとやってきていた夢子は突然グィ、と引かれた襟首に小さく驚きの声を漏らすと数歩たたらを踏んだ。
「よぉ……夢子。テメェ今暇だろ?」
ちょっとこい、と少々乱暴に自分を呼びとめた男性に、その自慢の左手の鉤爪で自分の襟首を捉えるクロコダイルを振り返った夢子は絞まった首元に喉をさすった。
「もー、なにすんのさシャチョー……」
ビックリした…、と自分を呼びとめたクロコダイルに批難の目を向けた夢子は、どこか楽しげにその口元に笑みを浮かべるクロコダイルを見やるとキョトリ、と目を瞬かせた。
「シャチョー……なんだか楽しそうだね」
なにか良い事あった?と珍しく機嫌の良いクロコダイルに、そう小首を傾げた夢子はまぁな、とことさらその口端を釣り上げたクロコダイルを見やるとどうしたの?そんなクロコダイルへと言葉を返した。
「ちょっとな。久しぶりに趣味の合いそうなヤツを見つけてな」
そうどこか上機嫌に声を漏らしたクロコダイルに、ふとマルコの顔を思い浮かべた夢子はきっと今回の商談にアノ万年筆を持っていったんであろうマルコに、へーそうなんだ。と相槌を返すとソッとそんなクロコダイルから視線を逸らし良かったね、とその顔に笑みを浮かべてみせた。
「シャチョーの周り、誰もバナナワニ持ってる人いないもんね」
「アレの良さを分かるヤツァそうそういねぇさ」
ある一定の層の人間に絶大な人気を誇るそのブランドに、とてもじゃないが趣味じゃない、などとマルコが言っていたなんて言えないな、とその『ある一定の層』に属する目の前のクロコダイルを見やった夢子は、もう一度良かったねぇ、とそんなクロコダイルへと言葉を返した。
「そういやぁ夢子。お前俺のやったブツはちゃんと使ってんのか……?」
「ん?あぁ………バナナワニの鞄?バイトの時とか、よく使ってる」
使い勝手良い、とやや大きめのその鞄を思い出しそう言った夢子に、なら良い。とどこか満足げに頷いたクロコダイルはこちらへとやってきた秘書へと視線を向けた。
「社長、会議の時間になります」
そう自分へと声をかけたダズに、そうか。と簡潔に言葉を返したクロコダイルは目の前の少女へと視線を落とすとその痛みのない綺麗な金髪へとポン、と手を置いた。
「今度暇な時にウチに顔を出せ。最近新入りが入ってな」
お前にも紹介してやろう、とその口端を楽しげに釣り上げたクロコダイルに、壁一面水槽張りの社長室を思い出した夢子はそこに居る動物のバナナワニを思い浮かべるとあぁ、また新しい子飼ったんだ…、と時価ウン百万とするソレを何匹も飼いならしている目の前のバロックワークス社長を呆れたように見上げた。
「あのさ、シャチョー?バロックワークスの門くぐるの結構勇気いるって分かってる……?」
「ハッ、テメェはそんな小心者じゃねぇだろ。面倒臭ぇってんならダズにでも迎え寄越させてやるぜ?」
メッチャ怖いんだよ、アソコ。と威圧感のある建物を思い出しそう声を漏らした夢子は、そんな自分を鼻で笑ったクロコダイルに、傍らに待機する秘書を顎で指したクロコダイルを見やるといや、自分で行くよ…。と何かにつけてはダズをパシリ扱いするクロコダイルに小さく息をついた。
「じゃーまた近々オールサンデーさんにシャチョーのスケジュール聞いておく」
「あぁ、来るときゃ連絡しろ。最高級の菓子でもてなしてやる」
そう言ってグシグシと少々乱暴に頭を撫でたクロコダイルに、別に良いって、と苦笑を洩らした夢子はじゃぁな、とそんな自分へと後ろ手を振りダズを連れその場を去って行ったクロコダイルを見送るとふふ、とその口元に笑みを浮かべた。
「バナナワニの万年筆、ちょっとは役に立ったのかな?」
どこか上機嫌だったクロコダイルに、きっと良い方向へと進んだのであろう商談を思い出しそう小さく声を漏らしていた夢子は不意に震えた携帯に、それをポケットから取り出すとロック画面に表示された名前を見やりパチリ、と目を瞬かせた。
つい今しがた話題に上がったその人物の名前に、LINEに届いたマルコからのメールを見やった夢子は『商談成立した』というマルコからの報告を見やるとその顔を楽しげに綻ばせたのだった。
『クロコダイル』と言う名の友達
SSオマケ→
直ぐに既読の付いた夢子とのトーク画面に、いつも暇してんのか…?と休憩の合間を縫って夢子へと今回の商談の結果を報告していたマルコはポッ、と新たにトークへと表示されたメールを見やると小さく苦笑を洩らした。
『おめでとう!今度お祝いにご飯連れてって~♪』
そう、夢子にしては珍しく感嘆符の付いているメールに普通逆だろぃ、と小さく零したマルコはさて、なんと返そうか、とキーボードの上で指を彷徨わせた。
『夢子の願掛けのおかげもあるかもな。なに食いたい?』
『マルコの実力!じゃぁこの前言ってたエッグベネディクトのお店行きたい!』
そう返した返信に、直ぐに返ってきた夢子からのメールを見やったマルコは、あぁ、そう言えばそんな話を随分と前にしたな。といつだったか話題に上がったそのお店に、了解。と返信をするとポッとトーク画面に表示された可愛らしい『喜び』を露わす夢子からのスタンプを見やるとふと、その表情を緩めた。
「可愛いヤツだねぃ……」
少しずつ喜怒哀楽を表に出し始めた夢子に、そう小さく零したマルコはキンコーン、とその場に鳴り響いた休憩終了を知らせるチャイムに、携帯をポケットへとしまうと喫煙室を後にしたのだった。
カタカタとキーボードの音だけが響いていた部屋に、PCに向かい明日の商談の資料を作成していたマルコは不意に部屋に響いた着信音に傍らに置いていた携帯を手に取った。
『今家にいる?』と送られてきた夢子からの簡潔なメールに、ここ最近では良く家に顔を出すようになった少女の顔を思い出したマルコは、何か用事だろうか?とそのメールに『居る』とだけ返すと、すぐに既読の付いたトークにピンポーンと鳴ったチャイムの音にパチリ、と目を瞬かせた。
人が訪問してくるには随分と遅い時間に、まさかねぃ…と小さく声を漏らしたマルコは書きかけだった資料を保存するとイスから立ち上がり玄関へと向かった。
「コンバンワー」
「………お前ぇな……、連絡寄越すタイミングがおかしいだろぅよぃ……」
ガチャリ、と開けた扉の向こうにはやはり予想通りの人物が立っていて、ヤ!と楽しげに片手を上げた夢子を見やったマルコはそうひどく呆れたように声を漏らすとそんな夢子を家へと上げたのだった。
「これでもし俺が居なかったらどうしてたんだぃ……」
「ンー?そんときはそんときで帰り待ってた」
そう言って溜息を吐き出したマルコはリビングへと向かい温かーい!と声を上げる夢子を見やると呆れたように額に手を当て三度溜息を吐きだしたのだった。
「お前ぇ……何のためにLINE交換したと思ってんだよぃ」
「ほら、でもちゃんと確認はしたし」
そう言ってクシャリ、とそんな夢子の頭を撫でやったマルコは、寒さで赤くなるその耳へとソッと手を触れると自分を仰ぎ見た夢子からパッと視線を逸らしキッチンへと歩き出した。
「で?今日はどうした?この前中間テストがどうとか言ってなかったかぃ?」
「んー?息抜きしにきた」
そう言ってキッチンへと向かったマルコに、マルコが触れた耳へと手を当てた夢子は微かに心拍数の上がった心臓に気づかぬふりをして、そんなマルコの後を追うようにキッチンへと歩き出した。
「ヘェ……ちゃんと勉強してんのかぃ」
「まぁ、一応……?あ、知り合いからチーズケーキ貰ったから食べよー」
飯は?と自分を振り返ったマルコにまだ、と返した夢子はなんか食うかぃ?と夕飯の用意を始めたマルコを見やるとアリガトウ、と言葉を返し手にしていた紙袋をキッチンテーブルへと置いた。
「LeTAOのチーズケーキじゃねぇかぃ……。そんな良いモン、貰ったのかぃ?」
紙袋に書かれる有名店の名前に、ソレを見やり怪訝そうに夢子へと視線を向けたマルコに、その紙袋からチーズケーキの箱を取り出した夢子はんー?と不思議そうにそんなマルコを見やるとパカリ、と開けた箱に中を覗きこみその顔を綻ばせた。
「その人職業柄出張多いから。どっか行くたびにお土産くれるんだ」
この前はベルギーのチョコだった、と何かにつけてはドッチャリとお土産を買い込んでくる某知り合いに、ソレを皿へと乗せた夢子を見やったマルコはその言葉に怪訝そうに眉を顰めさせた。
「出張ってぇこたぁ………ソイツァ、社会人、なのかぃ……?」
「え?うん、そうだよ?」
そう訝しげに自分を見下ろしたマルコに、フォークは?と収納ラックを漁っていた夢子はそんなマルコを振り返るとそう言葉を返し不思議そうに小首を傾げた。
それがなんだ?とでも言いたげな夢子の視線に、小さく溜息を吐きだしたマルコは冷蔵庫へと向き直ると野菜室に入っていたもやしとキャベツを手に取った。
「お前ぇ………そんな奴と何処で知り合うんだぃ……?」
「何処でって……まぁ、大抵は友達の知り合いだったり、知り合いの知り合いと知り合ったり、あと……まぁ、色々?」
知らないうちに仲良くなってる、と小首を傾げた夢子に、その口ぶりからしてあと何人か『そういった類』の大人と知り合いなんであろう夢子を見やったマルコは、小さくその眉根を寄せると呆れたように溜息を吐きだしていた。
「不用意に変な輩と知り合うんじゃねぇよぃ……」
「大丈夫。皆ちゃんと真面目に社会人やってる人達だから」
そう言ってあ、フォークあった!とラックの中からフォークを取り出しチーズケーキを手にリビングへと歩き出してしまった夢子に、そういうこっちゃねぇよぃ…、とどうにも危機感の薄い夢子を横目に見やったマルコは諦めたように溜息を吐きだすとフライパンをコンロへと置いたのだった。
(うん、安定の不味さだ……)
落ち着く、とマルコの手料理を黙々と咀嚼していた夢子は、随分と慣れたマルコ特製の焦げた野菜炒めの味に、それを口へと運ぶと正面のマルコへと視線を向けた。
自分も夕飯がまだだったのか食事を取りつつ資料らしきものに目を通すマルコを見やった夢子は、向かい側から身を乗り出すとマルコの手にある資料を興味深げに覗きこんだ。
「………『バロックワークス』……?」
「ん?あぁ……今度ソコとちょっとした取引があってねぃ……」
資料の見出しの『貴社、バロックワークス社との商談について』と書かれる文字を見やりそう声を漏らした夢子は、資料から顔を上げそんな自分を見やり溜息を吐きだしたマルコを見やるとキョトリと目を瞬かせた。
「大変な商談なの……?」
「大変ってぇより………面倒臭ぇんだよぃ。何かにつけちゃぁ難癖つけやがって……」
そう言って三度溜息を吐きだしたマルコに、その『バロックワークス』の社長の顔を思い出した夢子はふ~ん…、と小さく相槌を返すとテーブルへと乗りだしていた上半身を戻しパクリ、と野菜炒めを口へと運んだ。
チラリ、と伺い見たマルコはやはり気難しい顔をしていて、ジッと資料を睨みつけるマルコを見やった夢子は手元の野菜炒めへと視線を落とすとねぇ、とそんなマルコへと声をかけていた。
「ん?なんだぃ?」
「あー………マルコ、ってさ……。確か、バナナワニブランドの万年筆持ってたよね……?」
「万年筆……?あぁ、アレかぃ」
そう言って自分をチラリ、と見やった夢子にパチリ、と目を瞬かせたマルコは箱から出すこともせず作業机に無造作に置いていたソレを指差すと不思議そうに夢子へと視線を戻した。
「確かに持っちゃぁいるが………会社の奴からの貰いモンでな。俺の趣味じゃぁねぇよぃ」
欲しいのかぃ?と不思議そうに自分を見やったマルコに、小さく首を振った夢子は埃さえ被りつつあるその万年筆を思いだすと、6万はするのに…と小さく零し残りの野菜炒めを口へと詰め込んだ。
「今度そのバロックワークスとの商談の時にソレスーツのポケット入れてってみれば……?」
「は………?」
そう言って御馳走さま、と食べ終わった野菜炒めに食後のデザートへと手を伸ばした夢子を見やったマルコはキョトリ、と目を瞬かせると訝しげにその眉頭に皺を寄せた。
「万年筆なんざ使わねぇぞ……」
「まぁ、願掛けだよ、願掛け」
そう言って艶めくチーズケーキへとフォークを差した夢子に、願掛けねぃ…と小さく声を零したマルコは作業机の上にあるソレを一瞥すると、美味しそうにケーキを頬張る夢子へと視線を戻した。
「そういやぁ……お前ぇのあのカバンもバナナワニのだろぃ?ありゃぁ………自分で買ったのかぃ?」
確か60万はするぞ、とソファー横に置かれている夢子の鞄を指差したマルコは、学生ではなかなかに手の届かないそのブランドを思い出すと怪訝そうに眉を顰め夢子へと視線を戻した。
「あー………。アレね、誕プレだって………押し付けられた」
それに同じように自分の鞄を横目に見やった夢子は、ソレを押し付けてきた某知り合いの顔を思い出すと深々と溜息を吐きだし、あのブランドは女が持つものじゃない……、と強面の男性が良く好んで愛用するそのブランドに、少し嫌そうにそう声を漏らしていた。
「趣味に合わねぇなら無理して持つこたねぇだろぃ」
「……………使わないと煩いから、あの人」
「?」
そう言って呆れたように自分を見やったマルコに、そう小さく声を漏らした夢子は小首を傾げ不思議そうな視線を自分へと向けたマルコに、何でもない、と言葉を返すと御馳走様でした!と食べ終わったケーキに満足げに手を合わせたのだった。
――――
いつ来ても威圧感の溢れるその建物に、この先にいる商談相手の顔を思い出し気疲れしたように小さく溜息を吐きだしたマルコは、バロックワークスのシンボルマークを横目に見やるとスーツの胸ポケットに入れていたその万年筆をポン、と軽く叩き昨日の夢子との会話を思い出しふと、その口元に小さく笑みを浮かべた。
「願掛け、ねぃ……」
これで上手くいきゃ誰も苦労はしてねぇよぃ…、とどこか苦笑気味に小さく零したマルコはバロックワークスの門をくぐると受付へと向かったのだった。
「………まぁ、今回の案件はこんなところですよぃ」
悪い提案じゃぁねぇだろぃ?と目の前のバロックワークスの社長へとそう言葉を投げかけたマルコは、同じように手元の資料に視線を落としその眉根を寄せるクロコダイルを伺い見やるとひっそりと鼻息を漏らした。
(この様子じゃ今回も駄目だろうねぃ……)
毎度毎度試行錯誤を重ね持ち寄る商談に、ソレを一蹴して終わる目の前のクロコダイルを見やったマルコは、眉根を寄せ、愛用の葉巻を吹かすクロコダイルに再び手元の資料へと視線を落とした。
「質疑があるなら一応聞くが……」
「いや、ねぇな」
そう言って手にしていた資料をテーブルの上へと滑らせたクロコダイルに、自分へと視線を戻し葉巻を吹かしたクロコダイルを見やったマルコはそうかぃ、と簡潔に言葉を返すと手にしていた資料を鞄へと戻した。
「返事はまた後日伺いに来ますので、今日はこれで」
「悪くねぇ商談だ。白ひげのジジイにもそう伝えておけ」
「…………は?」
そう言って早々に帰る支度を始めていたマルコは、近くに立っていたダズへと一声かけその承諾書へと判を押させたクロコダイルに、自分へと視線を戻したクロコダイルを見やるとパチクリ、と目を瞬かせた。
「ぁー……、今回の商談は、成立ってぇことで、良いんだねぃ?」
「あぁ、構わねぇ。たまにゃぁ白ひげのジジイに恩を売っとくのも悪かねぇ」
そう言ってどこか楽しげに口元に弧をかいたクロコダイルに、どうぞ、と受理印の押された承諾書を手渡してきたダズを一瞥したマルコは、ソレを受け取ると向かいに座るバロックワークス社長を呆けたように見つめた。
普段ならば決して首を縦に振らない男がどういう風の吹き回しだ?と口から出掛けた疑問を寸でのところで呑み込んだマルコは、受け取った承諾書を鞄へと詰めるとソレを手に再びクロコダイルへと視線を戻した。
「この後の取引は部下に引き継がせますので。じゃぁ、俺はこれで」
「ダズ、マルコ部長殿を下まで送って差し上げろ」
「はい」
そう言ってクロコダイルへと一礼をしたマルコは、そうダズへと一声かけ社長室へと歩き出してしまったクロコダイルに、滅多に聞くことのないその言葉を耳にするとギョッと目を見開き、自分を扉へと案内したダズを呆けたように見やったのだった。
お疲れさまでした。と深々と頭を下げ自分を見送った強面の社長秘書に、バロックワーク社を後にしたマルコはいったいなんだったんだ…?と呆けたように声を漏らすとそびえ立つバロックワークス社を振り返った。
不思議なぐらいすんなりと決まってしまった商談に、本当にコレのおかげか…?と胸ポケットへと入れていた万年筆を取り出したマルコは、頭にバナナを乗せる鰐のシルエットが描かれるソレを見やると、まさかねぃ、と小さく苦笑を洩らし自社へと帰るべくその場を後にしたのだった。
――――
学校も終わりバイトまでまだ時間もあるしどこかで暇を潰そう、と人で賑わう繁華街へとやってきていた夢子は突然グィ、と引かれた襟首に小さく驚きの声を漏らすと数歩たたらを踏んだ。
「よぉ……夢子。テメェ今暇だろ?」
ちょっとこい、と少々乱暴に自分を呼びとめた男性に、その自慢の左手の鉤爪で自分の襟首を捉えるクロコダイルを振り返った夢子は絞まった首元に喉をさすった。
「もー、なにすんのさシャチョー……」
ビックリした…、と自分を呼びとめたクロコダイルに批難の目を向けた夢子は、どこか楽しげにその口元に笑みを浮かべるクロコダイルを見やるとキョトリ、と目を瞬かせた。
「シャチョー……なんだか楽しそうだね」
なにか良い事あった?と珍しく機嫌の良いクロコダイルに、そう小首を傾げた夢子はまぁな、とことさらその口端を釣り上げたクロコダイルを見やるとどうしたの?そんなクロコダイルへと言葉を返した。
「ちょっとな。久しぶりに趣味の合いそうなヤツを見つけてな」
そうどこか上機嫌に声を漏らしたクロコダイルに、ふとマルコの顔を思い浮かべた夢子はきっと今回の商談にアノ万年筆を持っていったんであろうマルコに、へーそうなんだ。と相槌を返すとソッとそんなクロコダイルから視線を逸らし良かったね、とその顔に笑みを浮かべてみせた。
「シャチョーの周り、誰もバナナワニ持ってる人いないもんね」
「アレの良さを分かるヤツァそうそういねぇさ」
ある一定の層の人間に絶大な人気を誇るそのブランドに、とてもじゃないが趣味じゃない、などとマルコが言っていたなんて言えないな、とその『ある一定の層』に属する目の前のクロコダイルを見やった夢子は、もう一度良かったねぇ、とそんなクロコダイルへと言葉を返した。
「そういやぁ夢子。お前俺のやったブツはちゃんと使ってんのか……?」
「ん?あぁ………バナナワニの鞄?バイトの時とか、よく使ってる」
使い勝手良い、とやや大きめのその鞄を思い出しそう言った夢子に、なら良い。とどこか満足げに頷いたクロコダイルはこちらへとやってきた秘書へと視線を向けた。
「社長、会議の時間になります」
そう自分へと声をかけたダズに、そうか。と簡潔に言葉を返したクロコダイルは目の前の少女へと視線を落とすとその痛みのない綺麗な金髪へとポン、と手を置いた。
「今度暇な時にウチに顔を出せ。最近新入りが入ってな」
お前にも紹介してやろう、とその口端を楽しげに釣り上げたクロコダイルに、壁一面水槽張りの社長室を思い出した夢子はそこに居る動物のバナナワニを思い浮かべるとあぁ、また新しい子飼ったんだ…、と時価ウン百万とするソレを何匹も飼いならしている目の前のバロックワークス社長を呆れたように見上げた。
「あのさ、シャチョー?バロックワークスの門くぐるの結構勇気いるって分かってる……?」
「ハッ、テメェはそんな小心者じゃねぇだろ。面倒臭ぇってんならダズにでも迎え寄越させてやるぜ?」
メッチャ怖いんだよ、アソコ。と威圧感のある建物を思い出しそう声を漏らした夢子は、そんな自分を鼻で笑ったクロコダイルに、傍らに待機する秘書を顎で指したクロコダイルを見やるといや、自分で行くよ…。と何かにつけてはダズをパシリ扱いするクロコダイルに小さく息をついた。
「じゃーまた近々オールサンデーさんにシャチョーのスケジュール聞いておく」
「あぁ、来るときゃ連絡しろ。最高級の菓子でもてなしてやる」
そう言ってグシグシと少々乱暴に頭を撫でたクロコダイルに、別に良いって、と苦笑を洩らした夢子はじゃぁな、とそんな自分へと後ろ手を振りダズを連れその場を去って行ったクロコダイルを見送るとふふ、とその口元に笑みを浮かべた。
「バナナワニの万年筆、ちょっとは役に立ったのかな?」
どこか上機嫌だったクロコダイルに、きっと良い方向へと進んだのであろう商談を思い出しそう小さく声を漏らしていた夢子は不意に震えた携帯に、それをポケットから取り出すとロック画面に表示された名前を見やりパチリ、と目を瞬かせた。
つい今しがた話題に上がったその人物の名前に、LINEに届いたマルコからのメールを見やった夢子は『商談成立した』というマルコからの報告を見やるとその顔を楽しげに綻ばせたのだった。
『クロコダイル』と言う名の友達
SSオマケ→
直ぐに既読の付いた夢子とのトーク画面に、いつも暇してんのか…?と休憩の合間を縫って夢子へと今回の商談の結果を報告していたマルコはポッ、と新たにトークへと表示されたメールを見やると小さく苦笑を洩らした。
『おめでとう!今度お祝いにご飯連れてって~♪』
そう、夢子にしては珍しく感嘆符の付いているメールに普通逆だろぃ、と小さく零したマルコはさて、なんと返そうか、とキーボードの上で指を彷徨わせた。
『夢子の願掛けのおかげもあるかもな。なに食いたい?』
『マルコの実力!じゃぁこの前言ってたエッグベネディクトのお店行きたい!』
そう返した返信に、直ぐに返ってきた夢子からのメールを見やったマルコは、あぁ、そう言えばそんな話を随分と前にしたな。といつだったか話題に上がったそのお店に、了解。と返信をするとポッとトーク画面に表示された可愛らしい『喜び』を露わす夢子からのスタンプを見やるとふと、その表情を緩めた。
「可愛いヤツだねぃ……」
少しずつ喜怒哀楽を表に出し始めた夢子に、そう小さく零したマルコはキンコーン、とその場に鳴り響いた休憩終了を知らせるチャイムに、携帯をポケットへとしまうと喫煙室を後にしたのだった。