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空蝉の春
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夢子が審神者となり早1年が過ぎ、本丸にも大分刀剣達が増えていた。
『本日の近侍』の欄に歌仙の札をかけた夢子はワイワイガヤガヤと賑やかな広間を見やると、ランドセルを背負い厨へと向かった。
「それじゃぁみっちゃん歌仙、行ってくるねー」
「いってらっしゃい、主!忘れ物はないかい?」
「うん大丈夫!」
「昼から発つ遠征部隊は申の刻には帰ってくるだろうから、君もあまり遅くならないようにするんだよ?」
「………さる、さる……4時ぐらい……?」
そう声をかけながら厨へと顔を覗かせれば返される言葉に、朝餉の片付けの手を一旦止めこちらを振り返った燭台切と歌仙に、首を捻りながらそう言葉を返した夢子はまぁだいたいそれぐらいだね。と苦笑を浮かべる燭台切にオッケー!と返すとそんな二人へと行ってきます!と声をかけ厨をあとにした。
~~~
「歌仙君も人が悪いなぁ、もう少し分かりやすく伝えてあげればいいのに」
厨を後にする主の背に気を付けて行ってくるんだよ、と声を掛けた歌仙はそう言って片付けの手を再開させた燭台切を振り返るとあぁ、と声を漏らし洗い終わった食器を格納棚へと置いた。
「あれであの子もだいぶ覚えてきた方さ。主が生きる時代は何かと先進しているからね、此処にいる時ぐらい僕らの時代の風潮をその身に感じてもらわなければ。
だいたい、最近主は君に感化されすぎだ。訳の分からない横文字を使うし茶菓子は洋菓子が良いと言いだすし………」
茶菓子にくっきーなんて風流じゃないだろっ、とその眉間に皺を寄せた歌仙に、先ほども自分達へと『オッケー!』と返していた主を思い出した燭台切はハハハ、と苦笑を漏らすと手元の皿へと視線を落とした。
「まぁ、歌仙君の気持ちも分からなくはないけど、僕は主が僕達の時代に馴染んでくれるのと同じように、あの子の生きる時代にもちゃんと馴染んでほしいかな。
あの子が生きているのは戦国の世じゃなく、戦のない平和な時代なんだから」
大変だと思うよ、あの幼さで僕らの主なんて。と静かに言葉にする燭台切はその口元に小さく笑みを浮かべていて、自分の幼い君主の顔を思い浮かべた歌仙もそうだね。と言葉を返すと手元の食器へと視線を落とした。
「本当ならばあの子も普通の人の子として平和な世界で……幸せに過ごしていただろうにね」
そうポツリと零し口を閉じてしまった歌仙に、静かに落ちた沈黙にそんな歌仙を横目に見やった燭台切は何かを思うようその眉根を小さく寄せる歌仙に、毎日楽しそうに過ごしている主を思い浮かべると僕らとの生活も審神者の仕事も嫌ではないんだろうな。とひっそりと笑みを浮かべると洗い終えた食器にタオルを手に取った。
「きっとあの子は今でも幸せなんじゃないかな?僕は主が泣いてるところって見たことないし、いつも笑ってて幸せそうだよ。よし!じゃぁ、僕は戦支度をしてくるから、歌仙君は近侍頑張ってね!」
そう言ってつけていたエプロンを外した燭台切に、そう言えば第二部隊はこれから出陣だったな、と自分へと後ろ手を振った燭台切の背を見送った歌仙も洗い終えた皿を棚へと戻すとタオルを手に取り、先ほどの燭台切の言葉を思い出すとフッとその口元に弧を描いた。
(主はね、燭台切。泣かないんじゃない、泣かないようにしてるんだ。刀が増えたから、“主”として他の者たちに無様な姿を見せるわけにはいかないから……)
「………僕の前ではね、ちゃんと泣いているんだよ、あの子……」
何かあれば自分の元へとやってきてひっそりと泣いている主に、弱音を吐ける場所があるというのは良いことなんだろうな、と自分以外の前では務めて明るく振舞っている主に困ったように眉を下げた歌仙は外から聞こえてきた『開門―!!』の声を聞くと外へと視線を投げやった。
内番組に見送られ合戦場へと出陣する第二部隊に、自分へと手を振る薬研や太郎太刀を見やった歌仙も同じように手を振り返すとフッとその口元に笑みを浮かべた。
「『ひとしれず そでにかくしたかんばせの われぞしれぬそのおもひよ』……か」
第二部隊を見送るよう閉じた正門に、そうポツリと零した歌仙はあぁ、なかなかいいじゃないか。とまるで皮肉るようにそう零すと厨を後にしたのだった。
近侍の仕事の1つとしてある主の部屋の整理に、夕餉の支度を終え主の部屋へとやって来た歌仙はテーブルに散乱する紙の束を見やると呆れたように溜息を吐き出した。
「………あの娘は、政府からの御触れがあったらどうするんだい、まったく……」
きっと目を通してそのままにしているのだろう机に広げられた用紙に、学校の物と政府からの物が混じるソレらに目を通していた歌仙は、審神者宛への通達を見やるとハタと目を瞬かせた。
『重要機密書類』と書かれたそれは自分達刀剣の目には決して触れてはならないもので、そこに書かれる彼女の真名と“検査結果”という文字を見やった歌仙はその背に走った言い様のない寒気に、手にしていた紙を折り畳むと荒々しくソレを机へと叩きつけた。
「………っ!!あのっ、馬鹿娘っ………!!あれ程政府からの密書は出しておくなとっ………」
(マズイっ………主の真名を暴いてしまった………忘れなければっ、今すぐにっ………)
意図せず知る事となった主の真名に、バクバクと音を立てる心臓と吐き気の込み上げてくる体内に口元へと手を当てた歌仙は、気を落ち着かせるよう呼吸を繰り返すと机に置かれるその密書をそっと引き出しへと仕舞い、覚束ない足取りで審神者部屋を後にした。
~~~~
ガヤガヤと賑やかな広間に、各々が好きな場所に腰かけ食事をする風景を見やった夢子は珍しくも空いていた一期一振の隣へと腰かけた。
「今日の夕飯はハンバーグなんだね!」
「えぇ、弟たちが食べてみたいと。主殿もお好きですかな?はんばーぐ」
「うん!大好き!あ、もちろん歌仙やみっちゃんが作ってくれる和食も好きだよ!」
食卓に並べられるハンバーグを見て顔を綻ばせる主に、そう言葉を返した一期一振はそれは良かったですな!と同じように笑みを浮かべていて、そんな一期一振を見やり正面に腰かける歌仙へと視線を向けた夢子は、茶碗を手にジッとテーブルに視線を落とす歌仙を見やるとキョトリと目を瞬かせた。
「歌仙?どうしたの?顔色よくないね」
「御気分でも悪いのでしょうか?」
そう不思議そうに向けられる二人からの視線に、テーブルに落としていた視線を上げた歌仙はどこか心配そうに自分を見つめる主君と目が合うと小さく口を引き結び、ソッとそんな主から視線を逸らした。
「いや………なんでもないよ。気にしないでくれ」
そう言ってご飯の手を再開させた歌仙はやはりどこかぼんやりとしていて、そんな歌仙を見やった夢子と一期一振は顔を見合わせると不思議そうに小首を傾げたのだった。
――――
それから暫く経ってもどこか心此処に有らず、といった様子の歌仙に何かあったのかな…?とそんな歌仙の後姿を横目に遡行軍を切り伏せた燭台切は、顔に飛び散った返り血を拭うと後方から聞こえた苦悶の声に歌仙を振り返りハタと目を瞬かせた。
ポタポタと頬から流れる赤い血は歌仙本人のもので、練度が上限まで達し今では後方支援役として戦場に出てきている歌仙のその負傷姿に、相手が槍じゃぁ流石の彼も手傷も負うか、とそれでも軽傷で済んだその攻撃に最後の一振りを切り捨てた燭台切は小さく息を吐き出すとそんな歌仙へと向き直った。
「いくら相手が弱いからって油断は禁物だよ、歌仙君。さ、次の敵地に向かおうか」
「………って、くれ……」
そう苦笑交じりに歌仙の背へと声を掛け次の賽を振ろうとしていた燭台切はそうポツリと声を漏らした歌仙に目を瞬かせると不思議そうに歌仙を振り返った。
「え?なに?」
「………すまないが……、いったん帰城してくれないか……」
そう血の流れる頬を押さえ、どこか青ざめた表情で地を見つめる歌仙に、毒でも仕込まれていたんだろうか……?とその眉根を顰めさせた燭台切はどうかしたのか?と掛けられた声にこちらへとやって来た薬研を振り返った。
「うん……ちょっとね」
歌仙君が、と言って歌仙を振り返った燭台切に、同じように歌仙を見やった薬研は小さな手傷を負う歌仙を見やると怪訝そうに眉を顰めさせた。
今までならば軽傷程度であればそのまま軍を進行していた歌仙に、酷く青褪めた表情をする歌仙を見やった薬研は一旦帰城しようか、と小さく掛けられた声に隣に立った燭台切を仰ぎ見て、歌仙へと視線を戻した。
彼の挙動がここ最近不自然なのは薬研も気付いており、それにジッと歌仙を見つめていた薬研は小さく息を吐き出すと手にしていた刀を鞘へと納めた。
『今の旦那をこのまま戦場に連れて行くのはちと不安だしな』
『僕らが聞いたとして、きっと何も答えてはくれないだろうしね』
言えることならきっともう言ってるだろうし。と小さく肩を竦めた燭台切は違ぇねぇ、と苦笑いを浮かべた薬研を一瞥すると懐から帰城用の鈴を取り出した。
「みんなー!今日はここで帰ろうか!遠征部隊も帰ってくる頃だろうし!」
「「「はぁい!」」」
そう声を掛ければ不思議がることもなく返事を返す秋田達に、もう一度だけ歌仙を見やった燭台切は困ったように眉を下げると鈴を鳴らしたのだった。
リンリン、と聞こえてきた鈴の音に宗三と共に畑作業をしていた夢子は顔を上げると不思議そうに正門を見やった。
「おやおや、随分と早いご帰還ですね」
「っ、わたし、ちょっと行ってくるね……!!」
何かあったんですかね?と第一部隊が出陣してそう経っていない時間に、最悪の状況が脳裏を過った夢子ははめていた軍手を宗三へと渡すと慌てた様に正門へと駆けだした。
「光忠っ!!」
「ただいま、主。あ、掘り出し物を見つけてきたよ」
帰城を知らせる鈴の音と共に開いた正門に、出迎えた自分を見下ろす燭台切は至って普通でそう言ってはい。と渡された依頼札を受け取った夢子はハタと目を瞬かせると不思議そうに燭台切を仰ぎ見た。
「み、みんな大丈夫……なの……?」
「うん?みんな無事だよ。しいていうなら軽傷者が一振りかな」
ひどく不思議そうに自分を見上げる主に、まぁ不思議がるよね。と内心で苦笑を漏らした燭台切はその顔に笑みを浮かべるとそう言って後方へと視線を向けた。
それに秋田か前田だろうか?と同じように隊の後ろを見やった夢子は手傷を負う歌仙を見やるとハタと目を瞬かせ珍しい…と小さく声を漏らしていた。
「僕は夕飯の準備をするから、主は歌仙君の手入れをお願いできるかな」
「あ、うん!」
そう言って頼んだよ、と自分の頭をひと撫でしそのまま中へと入って行く燭台切に、ただいま帰りました!と掛けられる声におかえり、と秋田達へと返した夢子は『頼むぜ大将』と自分へと耳打ちをし屋内へと入って行った薬研を不思議そうに見やると、自分の元へとやってきた歌仙を仰ぎ見た。
「すまない、主……」
「うぅん、気にしないで!それじゃぁ手入れ部屋に行こっか!」
そう言って自分を見下ろす歌仙はどこか浮かない顔をしていて、それに軽傷で良かった!と笑みを返した夢子はそんな歌仙の手を引くと手入れ部屋へと向かった。
頬に残る斬り傷に、そこへと絆創膏を貼った夢子は終始無言な歌仙を見やると傍らに置いてあった歌仙の刀を手に取った。
少し汚れが付いているだけの刀に、ポンポンするだけで良いかな?と打ち粉を手に取った夢子は未だ顔を俯かせる歌仙を見やるとんー、と困ったように声を漏らした。
久方振りの負傷がよほどショックだったのかジッと布団を見つめる歌仙に、ポン、と刀に打ち粉を付けた夢子は刃毀れ一つないソレを見やると歌仙へと視線を向けた。
「まぁたまにはこういうときもあるよ!元気出して!」
「………君、僕が軽傷を負って落ち込んでると思ってるのかい?」
そう言ってドンマイドンマイ!と軽快に刀身に打ち粉を打ち付けていく主に、どんまい?と怪訝そうに眉を顰めさせた歌仙は違うの?と不思議そうに自分を見やった夢子にグッと口を引き結ぶとまた手元へと視線を落とした。
どうやら自分が思っていた理由とは違うことで悩んでいる様子の歌仙に、また口を閉ざしてしまった歌仙を不思議そうに見やった夢子は手入れの終わった刀を鞘へと戻すとそんな歌仙の顔を覗き込んだ。
「どうしたの?歌仙。最近ずっとおかしいよ……?」
そう言ってどこか悪いの?と自分の顔を覗き込む主はひどく心配そうで、あと少しで終わるであろう手入れ時間に痛みの引いた頬へと手を触れた歌仙は目の前の主の顔を見やるとその端正な顔を歪めさせた。
「………ねぇ、主………僕を……刀解して、くれないか………?」
「…………え、なん、で……ど、したの?急に」
そう静かに零された言葉は刀剣の破壊を意味するもので、ひどく苦しげなその表情にただただ茫然とそんな歌仙の顔を見つめていた夢子はすまないっ…、と小さく零された言葉に、ギュッとそんな歌仙の手を握りしめた。
「嫌だよ。ぜったい、そんなことしない……なんで……そんなこと、いうの……」
そう声を震わせた主に、見る見るその目に溜まっていく涙を見やった歌仙は大粒の涙を流し始めた主を見やるとグッと唇を噛み締めその手を握り返した。
「君のっ……君の、真名をっ……暴いてしまったんだっ……。僕と君は、神気で繋がった………僕が、折れれば………君まで道連れにしてしまうっ……」
そう言って本当にすまないっ、と額に押し当てられた手に、酷く苦しげに吐き出されたその言葉を聞いた夢子はマナ…、と小さく零すといつだったか歌仙本人が言っていた言葉を思い出し、パチリ、と目を瞬かせた。
真名を明かすということは命を差し出すということだ、と言っていた歌仙に、それを知ってしまったと謝る歌仙を見やった夢子は痛いくらいに手を握りしめる歌仙へと視線を落とすとまた一つ瞬きを零した。
「だから……折れる前に刀解してほしいの……?」
「あぁ………僕のせいで君を、危険な目に合わせるわけにはいかないだろう……」
「歌仙は、折れるような無茶はしないでしょ……?」
「だがっ、万が一ということもあるだろうっ?!!」
そう言って心配しすぎだよ、と苦笑を漏らせばやっと顔を上げた歌仙に、ひどく憔悴した表情で自分を睨みつける歌仙を見やった夢子はどこか可笑しそうに笑うとそんな歌仙の体をソッと抱きしめた。
「たしかに、“絶対ない”なんて言いきれないよ。でもね私歌仙とだったら死んでもいいよ」
「真面目に人の話をっ「それに……」」
そう言った夢子は事の重大さを分かっていないのかどこか楽しげに笑っていて、それに小さく眉を顰め言葉を返そうとした歌仙は自分の言葉を遮った夢子に、自分を見上げ笑みを浮かべる主を見やるとグッと言葉を詰まらせた。
「歌仙が私の本当の名前を知らなくても、歌仙が死ぬときはきっと私も死ぬときだから。審神者のお仕事がどういうものか、私ちゃんと分かってるよ。楽しい事ばっかじゃないって、教えてくれたのは歌仙でしょ?」
だからそんなに怖がらないで、と自分の胸に顔を埋めた主はやはり楽しげで、まさか目の前の小さな少女がそこまで考えているとは思っていなかったのか呆けた様に目を瞬かせていた歌仙はふと、その口元に弧を描くとゆるり、とそんな主の頭を撫でやった。
「万が一にも、そんな状況が来ないに越したことはないけれどね。
ありがとう、君にそう言ってもらえただけで随分と楽になったよ………夢子」
「………っ!!歌仙っ、もう一回!もう一回呼んで!!」
そう小さく紡がれた自分の真名に、顔を上げた夢子はひどく嬉しそうで、目をキラキラと輝かせる主を見やった歌仙はグッと言葉を詰まらせると自分に詰め寄る主を引き剥がしたじろいだ様にそんな主から顔を背けた。
「もう絶対に呼ばないからなっ!!」
「えー!!いいじゃん一回も二回もかわんないよー!」
「だいたいっ、何処で誰が聞いているかも分からないんだぞっ、そんな危ないことぜっっったいにしないからなっ!!いいから君は燭台切の手伝いに行ってこいっ!!」
そう言って僕も戦装束を解いてくるからっ!!と自分の背を押し手入れ部屋を出た歌仙に、そのまま大股で自室へと向かう歌仙の背を見やった夢子はどこか気恥ずかしそうだった歌仙を思い出すと雅じゃないなぁ、と笑みを零しそのまま厨へと向かったのだった。
真名と本音
オマケ→
「と、ゆーわけで!みんなにお守り用意したよー!」
はいシュウゴー!と掛けられた声に朝食を済ませ各自の分担を確認していた刀剣達は箱を抱える主を見やるとキョトリと目を瞬かせそんな主の元へと向かった。
「主、どうしたんだいこれ?確か政府から配布された御守は3つだったよね?」
「んー?ま、そんな細かい事気にしちゃダメだよ!はい、これみっちゃんのね!」
そう言って渡された『御守』に、政府から報酬として配布された御守を思い浮かべていた燭台切は、練度も半分を上回り次の刀剣へと引き継がれたソレと全く同じ、真新しい御守を見やると不思議そうに目を瞬かせ、ふと聞こえてきた会話に歌仙と言葉を交わす主を振り返った。
『君、まさか万屋で全員分の御守を買ってきたんじゃないだろうね……?!』
『家族も増えたしお守り3つじゃ不安だもん』
『お、御守は甲州金でしか買えないはずだろう?!一体どこからそんなお金……っ、まさか主っ、御年玉を崩したんじゃないだろうね……?!!』
『もー、うるさいなぁ。私がもらったお年玉なんだから好きに使っていいじゃんー。はい、これ歌仙の分ね!』
『あれは御上が君のためにと……』
『だから自分のために使ってるんだよ?それに、コレがあれば必ずココに帰ってきてくれるでしょ?私の一番大切なものはここの本丸の皆なんだから!あ!薬研ー、お守りー!』
そう言ってひどく楽しげに笑う主に言葉を詰まらせる歌仙を見やった燭台切はヒラヒラと彼の足元に落ちる桜の花びらを見やると、自分の手の中の御守へと視線を落としふと、その口元に弧を描いた。
「親の心子知らず、子の心親知らず。かな」
「その場合親は歌仙の旦那で子が大将か?」
まぁアレを見る限りじゃ立場が逆転してるけどな、とポツリと零した言葉に返ってきた返事に、いつの間にか自分の隣に立っていた薬研を見下ろした燭台切はひどく大事そうに御守りを握りしめる歌仙を見やるとそうだね、と楽しげに笑みを浮かべた。
「なにがあったか知らねぇが、歌仙の旦那も全く素直じゃねぇな」
「そう言う薬研君もさっきから誉桜が散ってるよ」
「ははっ、俺っちはちゃぁんと大将に礼を言ったぜ?それに、燭台切の旦那だって足元、花弁まみれだぜ」
そう言ってカラリ、と笑う薬研は他の短刀達と比べると随分と大人びて見えて、その言葉に自分の足元に積もる誉桜を見やった燭台切もハハ、と笑うと短刀達と談笑をする主君を見やった。
「『僕達が一番大切だ』なんて主君に言われて、嬉しくないわけないだろう?」
「そりゃそうだ!俺っちたちにとっては一番の誉だな」
「彼の憂いも少しは晴れたかな」
「それこそ本人のみぞ知る、ってとこだろ。さ、燭台切の旦那今日は俺っちと手合わせだ、頼むぜ!」
「OK、任せてよ!」
色々試したいことがあるんだ、と受け取った御守を大切にしまった燭台切もどこかすっきりとした顔をする歌仙を一瞥すると稽古場へと向かったのだった。
補足
一気に就任1年が経ちましたね!
今この本丸に顕現している刀剣をざっと上げますと
歌仙兼定(初期刀)
薬研藤四郎(初鍛刀)
太郎太刀
前田藤四郎
五虎退
乱藤四郎
秋田藤四郎
小夜左文字
平野藤四郎
一期一振
今剣
燭台切光忠
にっかり青江
宗三左文字
です!名前が登場しなくてもひっそりと本丸に顕現してる子達もいますよー。
あ、ちなみに順番は顕現した順で載せてあります
ちなみに審神者が燭台切のことを『みっちゃん/光忠』呼びするのはただ単に『燭台切』の名前が長くて呼びづらいから、という理由ですー!
『本日の近侍』の欄に歌仙の札をかけた夢子はワイワイガヤガヤと賑やかな広間を見やると、ランドセルを背負い厨へと向かった。
「それじゃぁみっちゃん歌仙、行ってくるねー」
「いってらっしゃい、主!忘れ物はないかい?」
「うん大丈夫!」
「昼から発つ遠征部隊は申の刻には帰ってくるだろうから、君もあまり遅くならないようにするんだよ?」
「………さる、さる……4時ぐらい……?」
そう声をかけながら厨へと顔を覗かせれば返される言葉に、朝餉の片付けの手を一旦止めこちらを振り返った燭台切と歌仙に、首を捻りながらそう言葉を返した夢子はまぁだいたいそれぐらいだね。と苦笑を浮かべる燭台切にオッケー!と返すとそんな二人へと行ってきます!と声をかけ厨をあとにした。
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「歌仙君も人が悪いなぁ、もう少し分かりやすく伝えてあげればいいのに」
厨を後にする主の背に気を付けて行ってくるんだよ、と声を掛けた歌仙はそう言って片付けの手を再開させた燭台切を振り返るとあぁ、と声を漏らし洗い終わった食器を格納棚へと置いた。
「あれであの子もだいぶ覚えてきた方さ。主が生きる時代は何かと先進しているからね、此処にいる時ぐらい僕らの時代の風潮をその身に感じてもらわなければ。
だいたい、最近主は君に感化されすぎだ。訳の分からない横文字を使うし茶菓子は洋菓子が良いと言いだすし………」
茶菓子にくっきーなんて風流じゃないだろっ、とその眉間に皺を寄せた歌仙に、先ほども自分達へと『オッケー!』と返していた主を思い出した燭台切はハハハ、と苦笑を漏らすと手元の皿へと視線を落とした。
「まぁ、歌仙君の気持ちも分からなくはないけど、僕は主が僕達の時代に馴染んでくれるのと同じように、あの子の生きる時代にもちゃんと馴染んでほしいかな。
あの子が生きているのは戦国の世じゃなく、戦のない平和な時代なんだから」
大変だと思うよ、あの幼さで僕らの主なんて。と静かに言葉にする燭台切はその口元に小さく笑みを浮かべていて、自分の幼い君主の顔を思い浮かべた歌仙もそうだね。と言葉を返すと手元の食器へと視線を落とした。
「本当ならばあの子も普通の人の子として平和な世界で……幸せに過ごしていただろうにね」
そうポツリと零し口を閉じてしまった歌仙に、静かに落ちた沈黙にそんな歌仙を横目に見やった燭台切は何かを思うようその眉根を小さく寄せる歌仙に、毎日楽しそうに過ごしている主を思い浮かべると僕らとの生活も審神者の仕事も嫌ではないんだろうな。とひっそりと笑みを浮かべると洗い終えた食器にタオルを手に取った。
「きっとあの子は今でも幸せなんじゃないかな?僕は主が泣いてるところって見たことないし、いつも笑ってて幸せそうだよ。よし!じゃぁ、僕は戦支度をしてくるから、歌仙君は近侍頑張ってね!」
そう言ってつけていたエプロンを外した燭台切に、そう言えば第二部隊はこれから出陣だったな、と自分へと後ろ手を振った燭台切の背を見送った歌仙も洗い終えた皿を棚へと戻すとタオルを手に取り、先ほどの燭台切の言葉を思い出すとフッとその口元に弧を描いた。
(主はね、燭台切。泣かないんじゃない、泣かないようにしてるんだ。刀が増えたから、“主”として他の者たちに無様な姿を見せるわけにはいかないから……)
「………僕の前ではね、ちゃんと泣いているんだよ、あの子……」
何かあれば自分の元へとやってきてひっそりと泣いている主に、弱音を吐ける場所があるというのは良いことなんだろうな、と自分以外の前では務めて明るく振舞っている主に困ったように眉を下げた歌仙は外から聞こえてきた『開門―!!』の声を聞くと外へと視線を投げやった。
内番組に見送られ合戦場へと出陣する第二部隊に、自分へと手を振る薬研や太郎太刀を見やった歌仙も同じように手を振り返すとフッとその口元に笑みを浮かべた。
「『ひとしれず そでにかくしたかんばせの われぞしれぬそのおもひよ』……か」
第二部隊を見送るよう閉じた正門に、そうポツリと零した歌仙はあぁ、なかなかいいじゃないか。とまるで皮肉るようにそう零すと厨を後にしたのだった。
近侍の仕事の1つとしてある主の部屋の整理に、夕餉の支度を終え主の部屋へとやって来た歌仙はテーブルに散乱する紙の束を見やると呆れたように溜息を吐き出した。
「………あの娘は、政府からの御触れがあったらどうするんだい、まったく……」
きっと目を通してそのままにしているのだろう机に広げられた用紙に、学校の物と政府からの物が混じるソレらに目を通していた歌仙は、審神者宛への通達を見やるとハタと目を瞬かせた。
『重要機密書類』と書かれたそれは自分達刀剣の目には決して触れてはならないもので、そこに書かれる彼女の真名と“検査結果”という文字を見やった歌仙はその背に走った言い様のない寒気に、手にしていた紙を折り畳むと荒々しくソレを机へと叩きつけた。
「………っ!!あのっ、馬鹿娘っ………!!あれ程政府からの密書は出しておくなとっ………」
(マズイっ………主の真名を暴いてしまった………忘れなければっ、今すぐにっ………)
意図せず知る事となった主の真名に、バクバクと音を立てる心臓と吐き気の込み上げてくる体内に口元へと手を当てた歌仙は、気を落ち着かせるよう呼吸を繰り返すと机に置かれるその密書をそっと引き出しへと仕舞い、覚束ない足取りで審神者部屋を後にした。
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ガヤガヤと賑やかな広間に、各々が好きな場所に腰かけ食事をする風景を見やった夢子は珍しくも空いていた一期一振の隣へと腰かけた。
「今日の夕飯はハンバーグなんだね!」
「えぇ、弟たちが食べてみたいと。主殿もお好きですかな?はんばーぐ」
「うん!大好き!あ、もちろん歌仙やみっちゃんが作ってくれる和食も好きだよ!」
食卓に並べられるハンバーグを見て顔を綻ばせる主に、そう言葉を返した一期一振はそれは良かったですな!と同じように笑みを浮かべていて、そんな一期一振を見やり正面に腰かける歌仙へと視線を向けた夢子は、茶碗を手にジッとテーブルに視線を落とす歌仙を見やるとキョトリと目を瞬かせた。
「歌仙?どうしたの?顔色よくないね」
「御気分でも悪いのでしょうか?」
そう不思議そうに向けられる二人からの視線に、テーブルに落としていた視線を上げた歌仙はどこか心配そうに自分を見つめる主君と目が合うと小さく口を引き結び、ソッとそんな主から視線を逸らした。
「いや………なんでもないよ。気にしないでくれ」
そう言ってご飯の手を再開させた歌仙はやはりどこかぼんやりとしていて、そんな歌仙を見やった夢子と一期一振は顔を見合わせると不思議そうに小首を傾げたのだった。
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それから暫く経ってもどこか心此処に有らず、といった様子の歌仙に何かあったのかな…?とそんな歌仙の後姿を横目に遡行軍を切り伏せた燭台切は、顔に飛び散った返り血を拭うと後方から聞こえた苦悶の声に歌仙を振り返りハタと目を瞬かせた。
ポタポタと頬から流れる赤い血は歌仙本人のもので、練度が上限まで達し今では後方支援役として戦場に出てきている歌仙のその負傷姿に、相手が槍じゃぁ流石の彼も手傷も負うか、とそれでも軽傷で済んだその攻撃に最後の一振りを切り捨てた燭台切は小さく息を吐き出すとそんな歌仙へと向き直った。
「いくら相手が弱いからって油断は禁物だよ、歌仙君。さ、次の敵地に向かおうか」
「………って、くれ……」
そう苦笑交じりに歌仙の背へと声を掛け次の賽を振ろうとしていた燭台切はそうポツリと声を漏らした歌仙に目を瞬かせると不思議そうに歌仙を振り返った。
「え?なに?」
「………すまないが……、いったん帰城してくれないか……」
そう血の流れる頬を押さえ、どこか青ざめた表情で地を見つめる歌仙に、毒でも仕込まれていたんだろうか……?とその眉根を顰めさせた燭台切はどうかしたのか?と掛けられた声にこちらへとやって来た薬研を振り返った。
「うん……ちょっとね」
歌仙君が、と言って歌仙を振り返った燭台切に、同じように歌仙を見やった薬研は小さな手傷を負う歌仙を見やると怪訝そうに眉を顰めさせた。
今までならば軽傷程度であればそのまま軍を進行していた歌仙に、酷く青褪めた表情をする歌仙を見やった薬研は一旦帰城しようか、と小さく掛けられた声に隣に立った燭台切を仰ぎ見て、歌仙へと視線を戻した。
彼の挙動がここ最近不自然なのは薬研も気付いており、それにジッと歌仙を見つめていた薬研は小さく息を吐き出すと手にしていた刀を鞘へと納めた。
『今の旦那をこのまま戦場に連れて行くのはちと不安だしな』
『僕らが聞いたとして、きっと何も答えてはくれないだろうしね』
言えることならきっともう言ってるだろうし。と小さく肩を竦めた燭台切は違ぇねぇ、と苦笑いを浮かべた薬研を一瞥すると懐から帰城用の鈴を取り出した。
「みんなー!今日はここで帰ろうか!遠征部隊も帰ってくる頃だろうし!」
「「「はぁい!」」」
そう声を掛ければ不思議がることもなく返事を返す秋田達に、もう一度だけ歌仙を見やった燭台切は困ったように眉を下げると鈴を鳴らしたのだった。
リンリン、と聞こえてきた鈴の音に宗三と共に畑作業をしていた夢子は顔を上げると不思議そうに正門を見やった。
「おやおや、随分と早いご帰還ですね」
「っ、わたし、ちょっと行ってくるね……!!」
何かあったんですかね?と第一部隊が出陣してそう経っていない時間に、最悪の状況が脳裏を過った夢子ははめていた軍手を宗三へと渡すと慌てた様に正門へと駆けだした。
「光忠っ!!」
「ただいま、主。あ、掘り出し物を見つけてきたよ」
帰城を知らせる鈴の音と共に開いた正門に、出迎えた自分を見下ろす燭台切は至って普通でそう言ってはい。と渡された依頼札を受け取った夢子はハタと目を瞬かせると不思議そうに燭台切を仰ぎ見た。
「み、みんな大丈夫……なの……?」
「うん?みんな無事だよ。しいていうなら軽傷者が一振りかな」
ひどく不思議そうに自分を見上げる主に、まぁ不思議がるよね。と内心で苦笑を漏らした燭台切はその顔に笑みを浮かべるとそう言って後方へと視線を向けた。
それに秋田か前田だろうか?と同じように隊の後ろを見やった夢子は手傷を負う歌仙を見やるとハタと目を瞬かせ珍しい…と小さく声を漏らしていた。
「僕は夕飯の準備をするから、主は歌仙君の手入れをお願いできるかな」
「あ、うん!」
そう言って頼んだよ、と自分の頭をひと撫でしそのまま中へと入って行く燭台切に、ただいま帰りました!と掛けられる声におかえり、と秋田達へと返した夢子は『頼むぜ大将』と自分へと耳打ちをし屋内へと入って行った薬研を不思議そうに見やると、自分の元へとやってきた歌仙を仰ぎ見た。
「すまない、主……」
「うぅん、気にしないで!それじゃぁ手入れ部屋に行こっか!」
そう言って自分を見下ろす歌仙はどこか浮かない顔をしていて、それに軽傷で良かった!と笑みを返した夢子はそんな歌仙の手を引くと手入れ部屋へと向かった。
頬に残る斬り傷に、そこへと絆創膏を貼った夢子は終始無言な歌仙を見やると傍らに置いてあった歌仙の刀を手に取った。
少し汚れが付いているだけの刀に、ポンポンするだけで良いかな?と打ち粉を手に取った夢子は未だ顔を俯かせる歌仙を見やるとんー、と困ったように声を漏らした。
久方振りの負傷がよほどショックだったのかジッと布団を見つめる歌仙に、ポン、と刀に打ち粉を付けた夢子は刃毀れ一つないソレを見やると歌仙へと視線を向けた。
「まぁたまにはこういうときもあるよ!元気出して!」
「………君、僕が軽傷を負って落ち込んでると思ってるのかい?」
そう言ってドンマイドンマイ!と軽快に刀身に打ち粉を打ち付けていく主に、どんまい?と怪訝そうに眉を顰めさせた歌仙は違うの?と不思議そうに自分を見やった夢子にグッと口を引き結ぶとまた手元へと視線を落とした。
どうやら自分が思っていた理由とは違うことで悩んでいる様子の歌仙に、また口を閉ざしてしまった歌仙を不思議そうに見やった夢子は手入れの終わった刀を鞘へと戻すとそんな歌仙の顔を覗き込んだ。
「どうしたの?歌仙。最近ずっとおかしいよ……?」
そう言ってどこか悪いの?と自分の顔を覗き込む主はひどく心配そうで、あと少しで終わるであろう手入れ時間に痛みの引いた頬へと手を触れた歌仙は目の前の主の顔を見やるとその端正な顔を歪めさせた。
「………ねぇ、主………僕を……刀解して、くれないか………?」
「…………え、なん、で……ど、したの?急に」
そう静かに零された言葉は刀剣の破壊を意味するもので、ひどく苦しげなその表情にただただ茫然とそんな歌仙の顔を見つめていた夢子はすまないっ…、と小さく零された言葉に、ギュッとそんな歌仙の手を握りしめた。
「嫌だよ。ぜったい、そんなことしない……なんで……そんなこと、いうの……」
そう声を震わせた主に、見る見るその目に溜まっていく涙を見やった歌仙は大粒の涙を流し始めた主を見やるとグッと唇を噛み締めその手を握り返した。
「君のっ……君の、真名をっ……暴いてしまったんだっ……。僕と君は、神気で繋がった………僕が、折れれば………君まで道連れにしてしまうっ……」
そう言って本当にすまないっ、と額に押し当てられた手に、酷く苦しげに吐き出されたその言葉を聞いた夢子はマナ…、と小さく零すといつだったか歌仙本人が言っていた言葉を思い出し、パチリ、と目を瞬かせた。
真名を明かすということは命を差し出すということだ、と言っていた歌仙に、それを知ってしまったと謝る歌仙を見やった夢子は痛いくらいに手を握りしめる歌仙へと視線を落とすとまた一つ瞬きを零した。
「だから……折れる前に刀解してほしいの……?」
「あぁ………僕のせいで君を、危険な目に合わせるわけにはいかないだろう……」
「歌仙は、折れるような無茶はしないでしょ……?」
「だがっ、万が一ということもあるだろうっ?!!」
そう言って心配しすぎだよ、と苦笑を漏らせばやっと顔を上げた歌仙に、ひどく憔悴した表情で自分を睨みつける歌仙を見やった夢子はどこか可笑しそうに笑うとそんな歌仙の体をソッと抱きしめた。
「たしかに、“絶対ない”なんて言いきれないよ。でもね私歌仙とだったら死んでもいいよ」
「真面目に人の話をっ「それに……」」
そう言った夢子は事の重大さを分かっていないのかどこか楽しげに笑っていて、それに小さく眉を顰め言葉を返そうとした歌仙は自分の言葉を遮った夢子に、自分を見上げ笑みを浮かべる主を見やるとグッと言葉を詰まらせた。
「歌仙が私の本当の名前を知らなくても、歌仙が死ぬときはきっと私も死ぬときだから。審神者のお仕事がどういうものか、私ちゃんと分かってるよ。楽しい事ばっかじゃないって、教えてくれたのは歌仙でしょ?」
だからそんなに怖がらないで、と自分の胸に顔を埋めた主はやはり楽しげで、まさか目の前の小さな少女がそこまで考えているとは思っていなかったのか呆けた様に目を瞬かせていた歌仙はふと、その口元に弧を描くとゆるり、とそんな主の頭を撫でやった。
「万が一にも、そんな状況が来ないに越したことはないけれどね。
ありがとう、君にそう言ってもらえただけで随分と楽になったよ………夢子」
「………っ!!歌仙っ、もう一回!もう一回呼んで!!」
そう小さく紡がれた自分の真名に、顔を上げた夢子はひどく嬉しそうで、目をキラキラと輝かせる主を見やった歌仙はグッと言葉を詰まらせると自分に詰め寄る主を引き剥がしたじろいだ様にそんな主から顔を背けた。
「もう絶対に呼ばないからなっ!!」
「えー!!いいじゃん一回も二回もかわんないよー!」
「だいたいっ、何処で誰が聞いているかも分からないんだぞっ、そんな危ないことぜっっったいにしないからなっ!!いいから君は燭台切の手伝いに行ってこいっ!!」
そう言って僕も戦装束を解いてくるからっ!!と自分の背を押し手入れ部屋を出た歌仙に、そのまま大股で自室へと向かう歌仙の背を見やった夢子はどこか気恥ずかしそうだった歌仙を思い出すと雅じゃないなぁ、と笑みを零しそのまま厨へと向かったのだった。
真名と本音
オマケ→
「と、ゆーわけで!みんなにお守り用意したよー!」
はいシュウゴー!と掛けられた声に朝食を済ませ各自の分担を確認していた刀剣達は箱を抱える主を見やるとキョトリと目を瞬かせそんな主の元へと向かった。
「主、どうしたんだいこれ?確か政府から配布された御守は3つだったよね?」
「んー?ま、そんな細かい事気にしちゃダメだよ!はい、これみっちゃんのね!」
そう言って渡された『御守』に、政府から報酬として配布された御守を思い浮かべていた燭台切は、練度も半分を上回り次の刀剣へと引き継がれたソレと全く同じ、真新しい御守を見やると不思議そうに目を瞬かせ、ふと聞こえてきた会話に歌仙と言葉を交わす主を振り返った。
『君、まさか万屋で全員分の御守を買ってきたんじゃないだろうね……?!』
『家族も増えたしお守り3つじゃ不安だもん』
『お、御守は甲州金でしか買えないはずだろう?!一体どこからそんなお金……っ、まさか主っ、御年玉を崩したんじゃないだろうね……?!!』
『もー、うるさいなぁ。私がもらったお年玉なんだから好きに使っていいじゃんー。はい、これ歌仙の分ね!』
『あれは御上が君のためにと……』
『だから自分のために使ってるんだよ?それに、コレがあれば必ずココに帰ってきてくれるでしょ?私の一番大切なものはここの本丸の皆なんだから!あ!薬研ー、お守りー!』
そう言ってひどく楽しげに笑う主に言葉を詰まらせる歌仙を見やった燭台切はヒラヒラと彼の足元に落ちる桜の花びらを見やると、自分の手の中の御守へと視線を落としふと、その口元に弧を描いた。
「親の心子知らず、子の心親知らず。かな」
「その場合親は歌仙の旦那で子が大将か?」
まぁアレを見る限りじゃ立場が逆転してるけどな、とポツリと零した言葉に返ってきた返事に、いつの間にか自分の隣に立っていた薬研を見下ろした燭台切はひどく大事そうに御守りを握りしめる歌仙を見やるとそうだね、と楽しげに笑みを浮かべた。
「なにがあったか知らねぇが、歌仙の旦那も全く素直じゃねぇな」
「そう言う薬研君もさっきから誉桜が散ってるよ」
「ははっ、俺っちはちゃぁんと大将に礼を言ったぜ?それに、燭台切の旦那だって足元、花弁まみれだぜ」
そう言ってカラリ、と笑う薬研は他の短刀達と比べると随分と大人びて見えて、その言葉に自分の足元に積もる誉桜を見やった燭台切もハハ、と笑うと短刀達と談笑をする主君を見やった。
「『僕達が一番大切だ』なんて主君に言われて、嬉しくないわけないだろう?」
「そりゃそうだ!俺っちたちにとっては一番の誉だな」
「彼の憂いも少しは晴れたかな」
「それこそ本人のみぞ知る、ってとこだろ。さ、燭台切の旦那今日は俺っちと手合わせだ、頼むぜ!」
「OK、任せてよ!」
色々試したいことがあるんだ、と受け取った御守を大切にしまった燭台切もどこかすっきりとした顔をする歌仙を一瞥すると稽古場へと向かったのだった。
補足
一気に就任1年が経ちましたね!
今この本丸に顕現している刀剣をざっと上げますと
歌仙兼定(初期刀)
薬研藤四郎(初鍛刀)
太郎太刀
前田藤四郎
五虎退
乱藤四郎
秋田藤四郎
小夜左文字
平野藤四郎
一期一振
今剣
燭台切光忠
にっかり青江
宗三左文字
です!名前が登場しなくてもひっそりと本丸に顕現してる子達もいますよー。
あ、ちなみに順番は顕現した順で載せてあります
ちなみに審神者が燭台切のことを『みっちゃん/光忠』呼びするのはただ単に『燭台切』の名前が長くて呼びづらいから、という理由ですー!