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空蝉の春
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歌仙がまとめた報告書に目を通す目の前の役人に、そんな御役人の様子を伺うように見ていた夢子ははぁ、と深く吐き出された溜息に小さく肩を震わせた。
「お前が審神者になってもう半年以上経つ。それだというのになんなんだこの報告は」
そう言ってテーブルの上に放り投げられた紙の束に、この半年ちょっとで本丸に顕現した刀剣達の名前が載るソレを見やった夢子は、ひどく不服そうな顔をする御役人を見やるとグッと口を引き結んだ。
「まったく……お前の力を見込んで上部にお前を審神者にしてもらうよう頼んだというのになんだこのザマは。この本丸で使える刀など大太刀ぐらいじゃないか」
あとは大した価値のないヤツらばかりで…、と零された小言に、小隊が組めるぐらいには増えたであろう刀剣達に小さく手を握りしめた夢子はでも…と声を漏らすとそんな自分を見据えた御役人に視線を彷徨わせた。
「み……みんなガンバってくれてます………」
そう小さく声を漏らし結局また顔を俯けさせてしまった夢子に、苛立たし気にその眉根を寄せた御役人はテーブルに広げられた報告書へと視線を落とすと失笑するように鼻息を吐き出した。
「『頑張ってる』……?打刀一振、大太刀一振、あとは短刀が5振りの本丸の何処が頑張っているというんだっ?!いいか、2020番。また施設に戻されたくなければ結果を出せ!!希少価値のある1振りぐらい顕現してみせろ!!このままだとお前は審神者の任を解かれるぞ」
そう苛立ったように声を荒げテーブルを叩いた御役人に、小さく肩を震わせた夢子はジワリ、と滲んできた涙を堪えはい…。と消え入りそうな返事を返すとそのままその場を後にした。
~~~~~
ワイワイと短刀達の楽し気な声がする広間に、今日の出陣は良い結果が出せた、や馬小屋の当番が大変だった、と話す弟たちを見やり同じように夕餉を食べていた薬研は、どこか浮かない顔をする主を見やると怪訝そうに眉を顰めさせた。
「なぁ……なんか大将、御役所から帰ってきてから元気がないように思えるが」
どうしたんだ?と掛けられた声と差し出された空の茶碗に、それを受け取った歌仙も、どこか無理にその顔に笑みを浮かべる主を見やると小さく眉を顰めさせた。
月に一度程度行われる政府への報告に、こんのすけ付き添いの元政府へと向かった主は本丸へと戻ってくる頃にはどこか元気をなくしていて、御上から何か言われたであろう主に、茶碗へとご飯をよそった歌仙はひっそりと息を吐き出した。
「……あの子は隠し事が下手なんだから、無理に笑わなければいいのにね」
余計周りが心配するじゃないか。と小さく零した歌仙に、自分以外の短刀達は気づいてないだろうが、どこか心配そうに主を伺う太郎太刀を見やった薬研はほら、と渡された茶碗を受け取ると歌仙へと視線を戻した。
「常日頃から大将に『主として君はもっと確りするべきだ』って言ってんのは歌仙の旦那だぜ?」
「ヴッ…………誰も、甘えるなとは言っていないだろう……」
だから大将も甘えにくいんじゃねぇか?と歌仙を一瞥し食事の手を再開した薬研は、そんな自分に言葉を詰まらせ悩ましげにその眉を寄せた歌仙を横目に見やると小さく苦笑を漏らし湯飲みへと手を伸ばした。
「ま、大将が一番に甘えられる所は決まってんだ。頼むぜ!初期刀様」
そう言って楽しげに叩かれた背に、分かっているさ、と言葉を返した歌仙はもう一度主君を見やると小さく息を吐き出したのだった。
夕餉も終え自室で学校の宿題をしていた夢子はトントン、と叩かれた襖にノートから顔を上げると不思議そうに戸を振り返った。
「主、少しいいかい?」
「歌仙、どうしたの?」
そう声を掛け襖を開けたのは歌仙で、茶盆を手に部屋へとやって来た歌仙を見やった夢子は不思議そうにそんな歌仙を仰ぎ見た。
「短刀達が団子を作ってくれてね、休憩ついでにお茶にしようか」
「うん、ありがとう」
そう言ってテーブルに盆を置いた歌仙はそんな自分を見やり何処か無理やりその顔に笑みを浮かべた主に、湯飲みに茶を注ぐとその隣へと静かに腰を下ろした。
今日の遠征の成果や演練の感想を話す主に小さく相槌を返していた歌仙は、時折その表情を曇らせる主を見やると手にしていた湯飲みを置き、そんな主へと向き直った。
「ねぇ、主。今日の報告会で何かあったんだろう?御役人に何を言われたんだい?」
「っ………!!」
そう言って静かに自分を見下ろす歌仙に小さく肩を震わせた夢子は視線を彷徨わせるとそのまま手元の湯飲みへと視線を落としてしまい、どこか耐えるようその口を引き結ぶ主を見やった歌仙は小さく眉を下げるとゆるり、とそんな主の頭を撫でやった。
「ねぇ、主……。君は………幼いながらに一生懸命審神者としての仕事を務めているよ。御上に何を言われたかは知らないが、僕らの主は君なんだ」
だからそんなに思い詰めないでおくれ。と優しく頭を撫でる歌仙に、そんな歌仙を仰ぎ見た夢子は合った視線に柔和な笑みを浮かべる歌仙を見やると、今日御役人から言われた言葉を思い出しクシャリ、とその顔を悲痛に歪めさせた。
「ッ………わだしねっ、がぜんっ、ここに来てくれるなら、小さな子でも大きな子でも、どんな子でもいいのっ………!!なんでっ、おうえの人はダメって言うのっ……?!わたしはっ、珍しい刀が欲しいんじゃないっ………!!」
そうポロポロと涙を零し声を震わせ自分にしがみ付いた主に、そんな主を抱き止めた歌仙はそう言った主の言葉に小さくその眉を顰めさせるとゆるり、とそんな夢子の背を撫でやった。
「御上に、希少価値のある刀を顕現しろと言われたのか………」
「っ、短刀の子達だって……みんな、ガンバってるのに………なんでそれじゃダメなのっ………」
きっと幼い君主には分からないであろう自分達の“刀”としての価値に、嗚咽を漏らす主の背をゆるりと撫でやった歌仙は“それ”をこの子に求めるのはお門違いだろう、と眉を顰めるとひっそりと溜息を吐き出した。
「主には……少し難しい事だろうけれど、人というのはねとても欲深い生き物なんだ。きっと君が成果を上げれば御上はもっと上を求めてくるだろう。だから今は焦らなくていい、ゆっくり………君が今できることを全力でやればいいのさ」
そう、自分を諭すよう優しい声色で言葉を紡ぐ歌仙に、小さくしゃくりを上げた夢子は伏せていた顔をソッと上げると微笑を浮かべる歌仙を見やりまたその眉にきつく皺を寄せた。
「あ……新しい子をケンゲンできないなら、私はクビだってっ………。施設には戻りたくないよっ、これからも……歌仙たちと一緒にいたいっ……」
あそこは楽しくない、と悲痛交じりに声を漏らした主に、またその瞳に涙を浮かべた主を見やった歌仙は困ったようにその眉を下げるとゆるり、とそんな主の頬を撫でやった。
「ならば少し出陣する時代の範囲を広げようか。厚樫山はまだ行っていないだろう?もしかしたら新しい刀剣男士が見つかるかもしれないしね」
「でも……あそこのソコーグンは強いって、薬研が……。みんながケガするぐらいなら………新しい子なんていらない……」
そう言って安心させるよう柔和な笑みを浮かべればまた曇るその表情に、久方ぶりの主の駄々に苦笑を漏らした歌仙は頬を伝うその涙を拭うとそんな主の顔を覗き込んだ。
「心配はいらないさ、無茶はしないしさせないさ。それに僕や薬研、太郎太刀もいるから問題はないだろう?刀装も遠戦重視の物を装備すれば短刀の秋田や五虎退達でも十分戦力になる。僕達は『刀』なんだ、対象がなんであれ『主』を護るのが僕らの役目だ。君は……ただ僕らに護られてくれていればそれでいい」
そう言って分ったかい?と自分の顔を覗き込む歌仙に、真摯に向けられるその瞳を見やった夢子は言葉を詰まらせるとそんな歌仙から視線を逸らすよう顔を俯けさせだって…、と小さく声を漏らした。
手の甲を伝って膝元に落ちた涙の雫に、そのまま口を閉じてしまった主を見やった歌仙は困ったように笑みを浮かべるとソッとそんな主を胸へと引き寄せた。
「ねぇ、主。僕は主が僕らのことを家族のように思ってくれていることをちゃんと知っている。それは刀剣男士として顕現された僕達にとってもとても嬉しいことだ。だから、君が悲しむ顔なんて見たくはないし、君にそんな顔をさせたくはない。心配せずとも皆必ず帰ってくるさ。君がいる場所が……僕達の帰る場所なんだから」
だからもう泣かないでおくれ。とどこか少し困ったように降ってきた言葉と、優しく背を撫でるその手の温かさに小さく頷いた夢子を見やった歌仙は安堵したように息を吐き出すとまたゆるり、とその背を撫でやった。
「歌仙……わたし、もっと……もっと、ガンバルね……」
「……主は、今でもよくやっているさ」
そう小さく零された言葉と握りしめられた着物に、目の前の小さな主君を見やった歌仙はそう言葉を返すとその眉根を顰めさせたのだった。
暫くして聞こえてきた寝息に、泣き疲れたのだろう自分の膝の上で眠る主を見やった歌仙はその頬に残る涙の跡を拭うとソッとそんな主を床へと寝かしつけた。
「歌仙殿……主は……」
「あぁ、太郎太刀か。今ちょうど寝たところさ。僕らも広間へ行こうか」
静かに審神者部屋を出た歌仙は不意にかけられた声に、渡り廊下に佇む2つの影を見やると表情を暗くさせる太郎太刀を見やり、気難しい顔をする薬研へと視線を落としそのまま廊下を歩き出した。
きっと自分達の会話を聞いていたんだろう二振りに、広間へと戻ってきた歌仙はそのまま自分の正面へと腰かけた太郎太刀と薬研を見やるとテーブルに置いてあった急須へと手を伸ばした。
「御上も随分と酷なことを言うものだね。まったく政府の者には雅さの欠片も感じられないな」
そう苦言を漏らしつつ3人分の湯飲みにお茶を注ぐ歌仙に、それまで気難しい表情を浮かべていた薬研はその顔に苦笑いを浮かべると差し出された湯飲みを受け取った。
「審神者不足のこの御時世によくもまぁあんなことが言えたもんだな」
「すみません………。近侍の私が不慣れなばかりに主に辛い思いをさせてしまっていたのですね………」
そう呆れた様に溜息を吐き出した薬研は、どこか思い悩むようテーブルにジッと視線を落とす太郎太刀を見やると小さくその眉を顰め、湯飲みへと口を付けた。
「なぁに、別に誰が悪い訳でもないさ」
「ですが貴方や歌仙殿が近侍ならばもっと刀剣が来ていたやもしれません………」
「それは違うぜ太郎さん」
自責の念を感じているのだろうそう言ってその眉根を顰めさせた太郎太刀に、そう言葉を返した薬研はやっと顔を上げた太郎太刀を見やると手にしていた湯飲みを置いてそんな太郎太刀に向き直った。
「俺っちが近侍の時鍛刀で顕現出来たのはアンタだけだ。弟達も近侍の時に鍛刀をしてみたが一振も来なかった。まぁ歌仙の旦那は最近鍛刀してねぇから分からんが。兎に角、今の所アンタが近侍の時が1番顕現の成功率が高いんだよ」
大将もだからアンタが近侍の時に鍛刀したがる。と歌仙を一瞥しどこか少し不貞腐れた表情を浮かべそう言った薬研に、そんな薬研を見やり小さく苦笑を漏らした歌仙もそういうことさ、と言葉を返すと太郎太刀を見やった。
「今此処に居る刀剣達の中では君が1番成功率が高いんだ。だから君がそんなに気に病むことは無い」
「大将も御上の言うことなんざ気にすることねぇのにな」
そう言って笑みを浮かべる歌仙と、悩ましげに溜息を吐き出しテーブルへと頬杖をついた薬研を見やった太郎太刀はありがとうございます。と言葉を返すと少し冷めた湯飲みへと手を伸ばした。
やっとその表情から陰りが消えた太郎太刀に、小さく安堵の笑みを浮かべた歌仙は先ほどの薬研の言葉を思い出すとまたその眉間に皺を寄せた。
「けれど……何故顕現するのが短刀ばかりなんだろうね………。主の神力なら大太刀をもう一振ぐらい顕現出来てもいい気はするが……」
「やはり、私が未熟だからなのでしょうか………」
「ははっ、そんな事ねぇさ。俺っちや歌仙の旦那は練度が上限いってて鍛刀失敗してんだぜ?」
そう言ってカラリ、と笑う薬研に耳が痛いな…、とそんな薬研の言葉を複雑そうに聞いていた歌仙はそういえば、と思い出したように太郎太刀を見やった。
「太郎太刀、きみ主と鍛刀をする時に資材は幾つで割り振っているんだい?」
「資材の割合、ですか……?主が資材は節約しなければと仰っていたので最小限の資材しか使っていませんが」
「「…………それだ」」
そう言ってそれがどうしたんです?と不思議そうに目を瞬かせた太郎太刀に、ALL50でしか鍛刀していなかった事実にそう声を漏らした歌仙と薬研は額を抑えるとひどく呆れた様に項垂れたのだった。
「あぁ、まったくっ………!!資材なんか納屋に収まりきらないほどあるだろう?!なんでそんな所で節約するんだろうね、ウチの主はっ?!」
「練度上げに羽島から鎌倉を何度も周回してるからなぁ………依頼札にも資材にも困ることはねぇよ………」
そう言ってはぁぁ、と溜息を吐き出した歌仙と薬研にそんな二人を太郎太刀はただただ不思議そうに見やったのだった。
―――――
「主っ!!さぁ起きて!鍛刀をしに行くよ!!」
「ふぇっ?!!な、なに歌仙……?!」
いつもならば数度声を掛けてから入室してくる初期刀が物凄い勢いで部屋へと訪れたことに、スパーン!!と開け放たれた襖と、自分に詰め寄ってきた歌仙に目を瞬かせていた夢子は呆けた様にそんな歌仙を仰ぎ見た。
「ほらっ、着替えるよ!!今日は出陣もあるんだから朝餉の前に鍛刀を終わらせなければ!!」
「か、歌仙?!え、ちょ……なんで怒ってるの……?!」
そう言ってあれよあれよという間に自分を着替えさせていく歌仙に、どこか苛立っている風な歌仙を見やった夢子は、昨日の優しい歌仙はどこ行った⁈と少しだけきつく締められた帯にヴッ、と声を漏らすと、自分の手を引き早々に鍛刀部屋へと歩き出した歌仙の背を仰ぎ見た。
「あの……え?歌仙……?急にタントウするなんて言いだしてどーしたの?」
「君ねっ、資材なんて納屋に収まりきらないほどあるだろう?!!なんで最小限の資材しか使っていなかったんだい?!」
そう言ってジトリ、と自分を見下ろした歌仙に小さく肩を震わせた夢子は何故怒られているんだろう?と小首を傾げるとソッとそんな歌仙から視線を逸らした。
「え……?だって家族が増えたから手入れのためにとっておかなきゃって……」
「最近重傷者も滅多に出ていないのにかい?!出たとしても有り余るくらい資材はあるんだよ」
そう言ってまったくもう!!と声を荒げた歌仙は鍛刀部屋につくなり積まれていた資源をポイポイと刀鍛冶の精に渡していて、これで頼む。と富士札を刀鍛冶に押し付けた歌仙を見やった夢子はその素行ぶりに雅じゃない…、と小さく零すと自分を振り返った歌仙に肩をビクつかせた。
「もういっそのこと上限まで資材を溶かして鍛刀するからね、ほら主座ってっ……!!」
「は、はいっ」
そう言ってパンッ!と叩かれた御座に、慌てた様にそこへと腰かけた夢子はその手の平に乗せられた依頼札を見やると隣に腰かけた歌仙をチラリ、と見やりその依頼札へと神力を注いだ。
暫くして始まった鍛刀作業に、手元から消えた依頼札を一瞥した夢子は鍛刀部屋の上部に表示された『3:19:59』の数字を見やるとハタと目を瞬かせた。
最近では20の数字しか表示されていなかった時間に、急になんで?と小首を傾げていた夢子は隣から聞こえてきた大きな溜息にビクリと肩を震わせた。
「良いかい主?今後のために一つ、ためになる話をしてあげよう。鍛刀で来る刀はね溶かした資材の量で決まるんだよ。最小限の資材ならば来るのは短刀のみだ」
分ったかい?と自分を見下ろす歌仙に、今まで太郎太刀と行っていた鍛刀を思い出した夢子はあ…、と声を漏らすとその顔に苦笑いを浮かべた。
「も、もしかして短刀君たちばかりだったのって……」
「君が資材を節約していたせいだねっ……?」
そう言ってアハハハ、とから笑いを浮かべる主に、よく覚えておくんだよ!?と呆れた様にそんな主の頭をクシャクシャと撫でやった歌仙は朝餉には間に合わないであろう鍛刀時間に仕方ない、と棚に置いてあった手伝い札を手に取るとソレを主へと手渡した。
「『ご飯は皆で』だっただろう?さぁ、新たな刀を目利きしようか」
「うん!」
そう言ってどこか呆れた様にその顔に笑みを浮かべた歌仙に、大きく頷いた夢子はその手伝い札へと神力を注ぐと、瞬間その目の前に現れた刀剣男士を見やりハタと目を瞬かせた。
「私は、一期一振。粟田口吉光の手による唯一の太刀。藤四郎は私の弟達ですな」
桜の花弁と共にその場に顕現した刀剣男士に、ひどく物腰の柔らかい男性を呆けように見ていた夢子は自分を見下ろし、微笑を浮かべた一期一振に我に返ったように歌仙を振り返った。
「か、歌仙っ!!大人の人が来たっ!!」
「………しかも、彼は一期一振だ……太刀で……レア刀」
まさか本当に来るなんて…、とこちらもまさか一度でレア刀が顕現するなんて思っていなかったんだろう呆ける歌仙に、さすが歌仙だねっ!と声を弾ませた夢子は柔和な笑みを浮かべる一期一振へと駆け寄った。
「はじめまして、いちごひとふりさん!私がここのさにわです!」
「これはまた……随分と可愛らしい御仁が主ですな。私は一期一振どうぞこれからよろしくお願い申し上げる」
そう言って自分の目線に合わせるように腰を折り手を取った一期一振に、また優しげな笑みを浮かべた一期一振を見やった夢子はパッと顔を輝かせると未だ御座に腰かける歌仙を興奮したように振り返った。
「歌仙っ!一期さん王子様みたいっ!!」
「オージサマ、って……君がよく読んでいる書物に出てくる、彼の事かい?」
そう言ってカッコイイ!!と声を弾ませピョンピョン飛び跳ねる主は年相応で、彼女のお気に入りの絵本に出てくるその『王子様』とやらを思い出した歌仙は、目の前の同胞を見やると確かに。と苦笑を漏らし、やっと御座から腰を上げたのだった。
「ねぇ主?君はちゃんと彼の自己紹介を聞いていたかい?彼はどんな刀だったかな?」
「え?あ、あわたぐち何とかさんの刀でトーシローは弟?」
そう言って落ち着きがないな、と頭に乗せられた手にキョトリと目を瞬かせた夢子は先ほどの一期一振の言葉を思い出すとソレが?と不思議そうに小首を傾げた。
「あぁ、それで?その『藤四郎』銘がつく男士がこの本丸には何振りいるかな?」
「え……?薬研に、秋田に平野、に……………え?一期さん薬研たちのお兄さん?!!」
「えぇ、粟田口の刀は皆私の弟と言っても差し支えありません」
そう問いかけられた言葉に指折り名前を上げていた夢子はハタと目を瞬かせるとひどく驚いたように一期一振を仰ぎ見た。
向けられる驚きの視線に、そんな主を見下ろした一期一振はもう既にこの本丸に顕現している弟たちの名前を聞くとどこか嬉しそうにその顔を顔を綻ばせていて、そんな一期一振を見やった夢子はパッとその顔を輝かせると一期一振の手を取り歌仙を振り返った。
「わ、私薬研たちにホーコクしてくるねっ!!!」
「あ、主殿?!そ、それでは失礼いたしますっ!!」
「朝餉までには広間に戻ってくるんだよー!」
「はぁい!」
「しょ、承知しました!」
そう言うなり一期一振を引っ張り鍛刀部屋を出て行ってしまった主に、慌てた様に自分へと一礼しそんな主に連れられていく一期一振の背を見やった歌仙はそんな彼らの背にそう声を掛けると小さく苦笑を漏らしたのだった。
粟田口の一期一振
補足
『鍛刀を失敗している』発言がありますがこれは同じ刀が来たら顕現する前に自動的に連結されていると思ってくだされば……
まぁ……なんでもありな設定だと思ってください<(_ _)>
「お前が審神者になってもう半年以上経つ。それだというのになんなんだこの報告は」
そう言ってテーブルの上に放り投げられた紙の束に、この半年ちょっとで本丸に顕現した刀剣達の名前が載るソレを見やった夢子は、ひどく不服そうな顔をする御役人を見やるとグッと口を引き結んだ。
「まったく……お前の力を見込んで上部にお前を審神者にしてもらうよう頼んだというのになんだこのザマは。この本丸で使える刀など大太刀ぐらいじゃないか」
あとは大した価値のないヤツらばかりで…、と零された小言に、小隊が組めるぐらいには増えたであろう刀剣達に小さく手を握りしめた夢子はでも…と声を漏らすとそんな自分を見据えた御役人に視線を彷徨わせた。
「み……みんなガンバってくれてます………」
そう小さく声を漏らし結局また顔を俯けさせてしまった夢子に、苛立たし気にその眉根を寄せた御役人はテーブルに広げられた報告書へと視線を落とすと失笑するように鼻息を吐き出した。
「『頑張ってる』……?打刀一振、大太刀一振、あとは短刀が5振りの本丸の何処が頑張っているというんだっ?!いいか、2020番。また施設に戻されたくなければ結果を出せ!!希少価値のある1振りぐらい顕現してみせろ!!このままだとお前は審神者の任を解かれるぞ」
そう苛立ったように声を荒げテーブルを叩いた御役人に、小さく肩を震わせた夢子はジワリ、と滲んできた涙を堪えはい…。と消え入りそうな返事を返すとそのままその場を後にした。
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ワイワイと短刀達の楽し気な声がする広間に、今日の出陣は良い結果が出せた、や馬小屋の当番が大変だった、と話す弟たちを見やり同じように夕餉を食べていた薬研は、どこか浮かない顔をする主を見やると怪訝そうに眉を顰めさせた。
「なぁ……なんか大将、御役所から帰ってきてから元気がないように思えるが」
どうしたんだ?と掛けられた声と差し出された空の茶碗に、それを受け取った歌仙も、どこか無理にその顔に笑みを浮かべる主を見やると小さく眉を顰めさせた。
月に一度程度行われる政府への報告に、こんのすけ付き添いの元政府へと向かった主は本丸へと戻ってくる頃にはどこか元気をなくしていて、御上から何か言われたであろう主に、茶碗へとご飯をよそった歌仙はひっそりと息を吐き出した。
「……あの子は隠し事が下手なんだから、無理に笑わなければいいのにね」
余計周りが心配するじゃないか。と小さく零した歌仙に、自分以外の短刀達は気づいてないだろうが、どこか心配そうに主を伺う太郎太刀を見やった薬研はほら、と渡された茶碗を受け取ると歌仙へと視線を戻した。
「常日頃から大将に『主として君はもっと確りするべきだ』って言ってんのは歌仙の旦那だぜ?」
「ヴッ…………誰も、甘えるなとは言っていないだろう……」
だから大将も甘えにくいんじゃねぇか?と歌仙を一瞥し食事の手を再開した薬研は、そんな自分に言葉を詰まらせ悩ましげにその眉を寄せた歌仙を横目に見やると小さく苦笑を漏らし湯飲みへと手を伸ばした。
「ま、大将が一番に甘えられる所は決まってんだ。頼むぜ!初期刀様」
そう言って楽しげに叩かれた背に、分かっているさ、と言葉を返した歌仙はもう一度主君を見やると小さく息を吐き出したのだった。
夕餉も終え自室で学校の宿題をしていた夢子はトントン、と叩かれた襖にノートから顔を上げると不思議そうに戸を振り返った。
「主、少しいいかい?」
「歌仙、どうしたの?」
そう声を掛け襖を開けたのは歌仙で、茶盆を手に部屋へとやって来た歌仙を見やった夢子は不思議そうにそんな歌仙を仰ぎ見た。
「短刀達が団子を作ってくれてね、休憩ついでにお茶にしようか」
「うん、ありがとう」
そう言ってテーブルに盆を置いた歌仙はそんな自分を見やり何処か無理やりその顔に笑みを浮かべた主に、湯飲みに茶を注ぐとその隣へと静かに腰を下ろした。
今日の遠征の成果や演練の感想を話す主に小さく相槌を返していた歌仙は、時折その表情を曇らせる主を見やると手にしていた湯飲みを置き、そんな主へと向き直った。
「ねぇ、主。今日の報告会で何かあったんだろう?御役人に何を言われたんだい?」
「っ………!!」
そう言って静かに自分を見下ろす歌仙に小さく肩を震わせた夢子は視線を彷徨わせるとそのまま手元の湯飲みへと視線を落としてしまい、どこか耐えるようその口を引き結ぶ主を見やった歌仙は小さく眉を下げるとゆるり、とそんな主の頭を撫でやった。
「ねぇ、主……。君は………幼いながらに一生懸命審神者としての仕事を務めているよ。御上に何を言われたかは知らないが、僕らの主は君なんだ」
だからそんなに思い詰めないでおくれ。と優しく頭を撫でる歌仙に、そんな歌仙を仰ぎ見た夢子は合った視線に柔和な笑みを浮かべる歌仙を見やると、今日御役人から言われた言葉を思い出しクシャリ、とその顔を悲痛に歪めさせた。
「ッ………わだしねっ、がぜんっ、ここに来てくれるなら、小さな子でも大きな子でも、どんな子でもいいのっ………!!なんでっ、おうえの人はダメって言うのっ……?!わたしはっ、珍しい刀が欲しいんじゃないっ………!!」
そうポロポロと涙を零し声を震わせ自分にしがみ付いた主に、そんな主を抱き止めた歌仙はそう言った主の言葉に小さくその眉を顰めさせるとゆるり、とそんな夢子の背を撫でやった。
「御上に、希少価値のある刀を顕現しろと言われたのか………」
「っ、短刀の子達だって……みんな、ガンバってるのに………なんでそれじゃダメなのっ………」
きっと幼い君主には分からないであろう自分達の“刀”としての価値に、嗚咽を漏らす主の背をゆるりと撫でやった歌仙は“それ”をこの子に求めるのはお門違いだろう、と眉を顰めるとひっそりと溜息を吐き出した。
「主には……少し難しい事だろうけれど、人というのはねとても欲深い生き物なんだ。きっと君が成果を上げれば御上はもっと上を求めてくるだろう。だから今は焦らなくていい、ゆっくり………君が今できることを全力でやればいいのさ」
そう、自分を諭すよう優しい声色で言葉を紡ぐ歌仙に、小さくしゃくりを上げた夢子は伏せていた顔をソッと上げると微笑を浮かべる歌仙を見やりまたその眉にきつく皺を寄せた。
「あ……新しい子をケンゲンできないなら、私はクビだってっ………。施設には戻りたくないよっ、これからも……歌仙たちと一緒にいたいっ……」
あそこは楽しくない、と悲痛交じりに声を漏らした主に、またその瞳に涙を浮かべた主を見やった歌仙は困ったようにその眉を下げるとゆるり、とそんな主の頬を撫でやった。
「ならば少し出陣する時代の範囲を広げようか。厚樫山はまだ行っていないだろう?もしかしたら新しい刀剣男士が見つかるかもしれないしね」
「でも……あそこのソコーグンは強いって、薬研が……。みんながケガするぐらいなら………新しい子なんていらない……」
そう言って安心させるよう柔和な笑みを浮かべればまた曇るその表情に、久方ぶりの主の駄々に苦笑を漏らした歌仙は頬を伝うその涙を拭うとそんな主の顔を覗き込んだ。
「心配はいらないさ、無茶はしないしさせないさ。それに僕や薬研、太郎太刀もいるから問題はないだろう?刀装も遠戦重視の物を装備すれば短刀の秋田や五虎退達でも十分戦力になる。僕達は『刀』なんだ、対象がなんであれ『主』を護るのが僕らの役目だ。君は……ただ僕らに護られてくれていればそれでいい」
そう言って分ったかい?と自分の顔を覗き込む歌仙に、真摯に向けられるその瞳を見やった夢子は言葉を詰まらせるとそんな歌仙から視線を逸らすよう顔を俯けさせだって…、と小さく声を漏らした。
手の甲を伝って膝元に落ちた涙の雫に、そのまま口を閉じてしまった主を見やった歌仙は困ったように笑みを浮かべるとソッとそんな主を胸へと引き寄せた。
「ねぇ、主。僕は主が僕らのことを家族のように思ってくれていることをちゃんと知っている。それは刀剣男士として顕現された僕達にとってもとても嬉しいことだ。だから、君が悲しむ顔なんて見たくはないし、君にそんな顔をさせたくはない。心配せずとも皆必ず帰ってくるさ。君がいる場所が……僕達の帰る場所なんだから」
だからもう泣かないでおくれ。とどこか少し困ったように降ってきた言葉と、優しく背を撫でるその手の温かさに小さく頷いた夢子を見やった歌仙は安堵したように息を吐き出すとまたゆるり、とその背を撫でやった。
「歌仙……わたし、もっと……もっと、ガンバルね……」
「……主は、今でもよくやっているさ」
そう小さく零された言葉と握りしめられた着物に、目の前の小さな主君を見やった歌仙はそう言葉を返すとその眉根を顰めさせたのだった。
暫くして聞こえてきた寝息に、泣き疲れたのだろう自分の膝の上で眠る主を見やった歌仙はその頬に残る涙の跡を拭うとソッとそんな主を床へと寝かしつけた。
「歌仙殿……主は……」
「あぁ、太郎太刀か。今ちょうど寝たところさ。僕らも広間へ行こうか」
静かに審神者部屋を出た歌仙は不意にかけられた声に、渡り廊下に佇む2つの影を見やると表情を暗くさせる太郎太刀を見やり、気難しい顔をする薬研へと視線を落としそのまま廊下を歩き出した。
きっと自分達の会話を聞いていたんだろう二振りに、広間へと戻ってきた歌仙はそのまま自分の正面へと腰かけた太郎太刀と薬研を見やるとテーブルに置いてあった急須へと手を伸ばした。
「御上も随分と酷なことを言うものだね。まったく政府の者には雅さの欠片も感じられないな」
そう苦言を漏らしつつ3人分の湯飲みにお茶を注ぐ歌仙に、それまで気難しい表情を浮かべていた薬研はその顔に苦笑いを浮かべると差し出された湯飲みを受け取った。
「審神者不足のこの御時世によくもまぁあんなことが言えたもんだな」
「すみません………。近侍の私が不慣れなばかりに主に辛い思いをさせてしまっていたのですね………」
そう呆れた様に溜息を吐き出した薬研は、どこか思い悩むようテーブルにジッと視線を落とす太郎太刀を見やると小さくその眉を顰め、湯飲みへと口を付けた。
「なぁに、別に誰が悪い訳でもないさ」
「ですが貴方や歌仙殿が近侍ならばもっと刀剣が来ていたやもしれません………」
「それは違うぜ太郎さん」
自責の念を感じているのだろうそう言ってその眉根を顰めさせた太郎太刀に、そう言葉を返した薬研はやっと顔を上げた太郎太刀を見やると手にしていた湯飲みを置いてそんな太郎太刀に向き直った。
「俺っちが近侍の時鍛刀で顕現出来たのはアンタだけだ。弟達も近侍の時に鍛刀をしてみたが一振も来なかった。まぁ歌仙の旦那は最近鍛刀してねぇから分からんが。兎に角、今の所アンタが近侍の時が1番顕現の成功率が高いんだよ」
大将もだからアンタが近侍の時に鍛刀したがる。と歌仙を一瞥しどこか少し不貞腐れた表情を浮かべそう言った薬研に、そんな薬研を見やり小さく苦笑を漏らした歌仙もそういうことさ、と言葉を返すと太郎太刀を見やった。
「今此処に居る刀剣達の中では君が1番成功率が高いんだ。だから君がそんなに気に病むことは無い」
「大将も御上の言うことなんざ気にすることねぇのにな」
そう言って笑みを浮かべる歌仙と、悩ましげに溜息を吐き出しテーブルへと頬杖をついた薬研を見やった太郎太刀はありがとうございます。と言葉を返すと少し冷めた湯飲みへと手を伸ばした。
やっとその表情から陰りが消えた太郎太刀に、小さく安堵の笑みを浮かべた歌仙は先ほどの薬研の言葉を思い出すとまたその眉間に皺を寄せた。
「けれど……何故顕現するのが短刀ばかりなんだろうね………。主の神力なら大太刀をもう一振ぐらい顕現出来てもいい気はするが……」
「やはり、私が未熟だからなのでしょうか………」
「ははっ、そんな事ねぇさ。俺っちや歌仙の旦那は練度が上限いってて鍛刀失敗してんだぜ?」
そう言ってカラリ、と笑う薬研に耳が痛いな…、とそんな薬研の言葉を複雑そうに聞いていた歌仙はそういえば、と思い出したように太郎太刀を見やった。
「太郎太刀、きみ主と鍛刀をする時に資材は幾つで割り振っているんだい?」
「資材の割合、ですか……?主が資材は節約しなければと仰っていたので最小限の資材しか使っていませんが」
「「…………それだ」」
そう言ってそれがどうしたんです?と不思議そうに目を瞬かせた太郎太刀に、ALL50でしか鍛刀していなかった事実にそう声を漏らした歌仙と薬研は額を抑えるとひどく呆れた様に項垂れたのだった。
「あぁ、まったくっ………!!資材なんか納屋に収まりきらないほどあるだろう?!なんでそんな所で節約するんだろうね、ウチの主はっ?!」
「練度上げに羽島から鎌倉を何度も周回してるからなぁ………依頼札にも資材にも困ることはねぇよ………」
そう言ってはぁぁ、と溜息を吐き出した歌仙と薬研にそんな二人を太郎太刀はただただ不思議そうに見やったのだった。
―――――
「主っ!!さぁ起きて!鍛刀をしに行くよ!!」
「ふぇっ?!!な、なに歌仙……?!」
いつもならば数度声を掛けてから入室してくる初期刀が物凄い勢いで部屋へと訪れたことに、スパーン!!と開け放たれた襖と、自分に詰め寄ってきた歌仙に目を瞬かせていた夢子は呆けた様にそんな歌仙を仰ぎ見た。
「ほらっ、着替えるよ!!今日は出陣もあるんだから朝餉の前に鍛刀を終わらせなければ!!」
「か、歌仙?!え、ちょ……なんで怒ってるの……?!」
そう言ってあれよあれよという間に自分を着替えさせていく歌仙に、どこか苛立っている風な歌仙を見やった夢子は、昨日の優しい歌仙はどこ行った⁈と少しだけきつく締められた帯にヴッ、と声を漏らすと、自分の手を引き早々に鍛刀部屋へと歩き出した歌仙の背を仰ぎ見た。
「あの……え?歌仙……?急にタントウするなんて言いだしてどーしたの?」
「君ねっ、資材なんて納屋に収まりきらないほどあるだろう?!!なんで最小限の資材しか使っていなかったんだい?!」
そう言ってジトリ、と自分を見下ろした歌仙に小さく肩を震わせた夢子は何故怒られているんだろう?と小首を傾げるとソッとそんな歌仙から視線を逸らした。
「え……?だって家族が増えたから手入れのためにとっておかなきゃって……」
「最近重傷者も滅多に出ていないのにかい?!出たとしても有り余るくらい資材はあるんだよ」
そう言ってまったくもう!!と声を荒げた歌仙は鍛刀部屋につくなり積まれていた資源をポイポイと刀鍛冶の精に渡していて、これで頼む。と富士札を刀鍛冶に押し付けた歌仙を見やった夢子はその素行ぶりに雅じゃない…、と小さく零すと自分を振り返った歌仙に肩をビクつかせた。
「もういっそのこと上限まで資材を溶かして鍛刀するからね、ほら主座ってっ……!!」
「は、はいっ」
そう言ってパンッ!と叩かれた御座に、慌てた様にそこへと腰かけた夢子はその手の平に乗せられた依頼札を見やると隣に腰かけた歌仙をチラリ、と見やりその依頼札へと神力を注いだ。
暫くして始まった鍛刀作業に、手元から消えた依頼札を一瞥した夢子は鍛刀部屋の上部に表示された『3:19:59』の数字を見やるとハタと目を瞬かせた。
最近では20の数字しか表示されていなかった時間に、急になんで?と小首を傾げていた夢子は隣から聞こえてきた大きな溜息にビクリと肩を震わせた。
「良いかい主?今後のために一つ、ためになる話をしてあげよう。鍛刀で来る刀はね溶かした資材の量で決まるんだよ。最小限の資材ならば来るのは短刀のみだ」
分ったかい?と自分を見下ろす歌仙に、今まで太郎太刀と行っていた鍛刀を思い出した夢子はあ…、と声を漏らすとその顔に苦笑いを浮かべた。
「も、もしかして短刀君たちばかりだったのって……」
「君が資材を節約していたせいだねっ……?」
そう言ってアハハハ、とから笑いを浮かべる主に、よく覚えておくんだよ!?と呆れた様にそんな主の頭をクシャクシャと撫でやった歌仙は朝餉には間に合わないであろう鍛刀時間に仕方ない、と棚に置いてあった手伝い札を手に取るとソレを主へと手渡した。
「『ご飯は皆で』だっただろう?さぁ、新たな刀を目利きしようか」
「うん!」
そう言ってどこか呆れた様にその顔に笑みを浮かべた歌仙に、大きく頷いた夢子はその手伝い札へと神力を注ぐと、瞬間その目の前に現れた刀剣男士を見やりハタと目を瞬かせた。
「私は、一期一振。粟田口吉光の手による唯一の太刀。藤四郎は私の弟達ですな」
桜の花弁と共にその場に顕現した刀剣男士に、ひどく物腰の柔らかい男性を呆けように見ていた夢子は自分を見下ろし、微笑を浮かべた一期一振に我に返ったように歌仙を振り返った。
「か、歌仙っ!!大人の人が来たっ!!」
「………しかも、彼は一期一振だ……太刀で……レア刀」
まさか本当に来るなんて…、とこちらもまさか一度でレア刀が顕現するなんて思っていなかったんだろう呆ける歌仙に、さすが歌仙だねっ!と声を弾ませた夢子は柔和な笑みを浮かべる一期一振へと駆け寄った。
「はじめまして、いちごひとふりさん!私がここのさにわです!」
「これはまた……随分と可愛らしい御仁が主ですな。私は一期一振どうぞこれからよろしくお願い申し上げる」
そう言って自分の目線に合わせるように腰を折り手を取った一期一振に、また優しげな笑みを浮かべた一期一振を見やった夢子はパッと顔を輝かせると未だ御座に腰かける歌仙を興奮したように振り返った。
「歌仙っ!一期さん王子様みたいっ!!」
「オージサマ、って……君がよく読んでいる書物に出てくる、彼の事かい?」
そう言ってカッコイイ!!と声を弾ませピョンピョン飛び跳ねる主は年相応で、彼女のお気に入りの絵本に出てくるその『王子様』とやらを思い出した歌仙は、目の前の同胞を見やると確かに。と苦笑を漏らし、やっと御座から腰を上げたのだった。
「ねぇ主?君はちゃんと彼の自己紹介を聞いていたかい?彼はどんな刀だったかな?」
「え?あ、あわたぐち何とかさんの刀でトーシローは弟?」
そう言って落ち着きがないな、と頭に乗せられた手にキョトリと目を瞬かせた夢子は先ほどの一期一振の言葉を思い出すとソレが?と不思議そうに小首を傾げた。
「あぁ、それで?その『藤四郎』銘がつく男士がこの本丸には何振りいるかな?」
「え……?薬研に、秋田に平野、に……………え?一期さん薬研たちのお兄さん?!!」
「えぇ、粟田口の刀は皆私の弟と言っても差し支えありません」
そう問いかけられた言葉に指折り名前を上げていた夢子はハタと目を瞬かせるとひどく驚いたように一期一振を仰ぎ見た。
向けられる驚きの視線に、そんな主を見下ろした一期一振はもう既にこの本丸に顕現している弟たちの名前を聞くとどこか嬉しそうにその顔を顔を綻ばせていて、そんな一期一振を見やった夢子はパッとその顔を輝かせると一期一振の手を取り歌仙を振り返った。
「わ、私薬研たちにホーコクしてくるねっ!!!」
「あ、主殿?!そ、それでは失礼いたしますっ!!」
「朝餉までには広間に戻ってくるんだよー!」
「はぁい!」
「しょ、承知しました!」
そう言うなり一期一振を引っ張り鍛刀部屋を出て行ってしまった主に、慌てた様に自分へと一礼しそんな主に連れられていく一期一振の背を見やった歌仙はそんな彼らの背にそう声を掛けると小さく苦笑を漏らしたのだった。
粟田口の一期一振
補足
『鍛刀を失敗している』発言がありますがこれは同じ刀が来たら顕現する前に自動的に連結されていると思ってくだされば……
まぁ……なんでもありな設定だと思ってください<(_ _)>