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空蝉の春
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夢子が審神者となり早半年が過ぎた本丸に、中庭で洗濯物を干していた歌仙はおーい、と呼ばれた声に屋内を振り返った。
「歌仙せんたく物終わったー?」
「もう少しで終わるけれど、どうしたんだい?」
そう言って中庭へと顔を覗かせた主に、執務着を着る夢子を見やった歌仙は今日は出陣予定はなかったはずだが、と訝しげに眉を顰めさせた。
「なんかね、こんのすけ君がどーきのさにわの人とエンレンしてほしいって」
げんじょーを確認したいって。ときっとよく分かっていないんだろうそう言って縁側に置かれていた草履を履き自分の元へとやって来た主に、同期の審神者なんているんだな。とこの数か月の間で何度も行ってきた演練に、分かったよ。と言葉を返した歌仙は最後の一つを手に取った。
「薬研にはそのことは伝えたのかい?」
「うん!今イクサじたくしてるとこ」
「じゃぁ僕も支度をしてくるから、君は薬研と一緒に先に祠へ行っていてくれないか?」
「はーい!」
そう言って手ぬぐいを竿へと掛けた歌仙は元気に返事を返し、ゲートのある祠へと向かった夢子の背を見送ると準備をすべく自室へと向かった。
暫くしてやってきた歌仙は普段通りの格好をしており、その腰に刀を下げる歌仙を見やった夢子はそんな歌仙へと手を振ると合流した歌仙に、一緒に祠で待機をしていた薬研を振り返った。
「えっと、では今日はエンレンなのでリラックスしていきましょう!」
「今回はどちらが部隊長なんだい?」
そう声を上げた夢子はどこか楽しげで、怪我を負うリスクのない演練に、いつだったか自分達の戦う姿を見るのが楽しいのだと言っていた主の言葉を思い出した歌仙は呆れた様に苦笑を漏らすとそんな夢子へと視線を落とした。
「この前は薬研だったから今日のたいちょーは歌仙ね!あ、とーそーちゃんと持った?馬忘れてない?お守りは?」
「そんなに心配しなくても良いぜ、大将。演練じゃ折れるなんてことはねぇから御守は必要ないだろ」
馬も刀装もちゃぁんと持ってるぜ。と腰に下げている金の玉と馬札を叩いてみせた薬研に、なら大丈夫だね!と顔を綻ばせた夢子はでは!と声を上げると手にしていた和紙を広げた。
「ヘンセーをはっぴょーします!第一ぶたいたいちょー歌仙兼定、以下薬研藤四郎一振りこれよりエンレンへと出陣いたします!」
「恐悦至極」
「組討ちなら任せとけ」
そう言って不敵に笑った歌仙と腰に下げていた刀へと手を添えた薬研に、夢子もニッと楽しげに笑みを浮かべたのだった。
――――
ガヤガヤと賑やかな演練場に、相変わらず異様な光景だな。と他の本丸の審神者や刀剣達が集まるそこをなんとわなしに見ていた薬研はどうも。と不意に掛けられた声にこちらへとやって来た男の審神者を振り返った。
「アンタが豊前の所の審神者か?まだ年端もいかねぇ子供じゃねぇか」
オイオイ本当にこんなのが審神者なのかよ?と夢子を見やりその目を瞬かせる男審神者に、不躾にも自分の君主を見下ろすその審神者を見やった薬研は小さく眉を顰めるとそんな男に口を開きかけ、自分たちの前に立った歌仙にハタと目を瞬かせた。
「どうもお初に御目にかかります備前国の審神者殿、僭越ながら主に代わり挨拶をさせていただきたく。此度の演練、良いものにいたしましょう」
「初期刀の歌仙兼定か。打刀と短刀の二振りしか顕現出来ていないとは……。其方の審神者殿の実力も底が知れますなぁ」
こりゃぁ楽勝だ。と夢子の傍に控える歌仙と薬研を見やり声を上げ笑った審神者はそう言うとその場を去っていき、そんな主に付き従うようゾロゾロと列を成す刀剣達を見やった薬研はその額に青筋を浮かべると刀の柄へと手を掛けた。
「………なぁ大将。アイツ柄まで通しても構わないよなぁ……」
自分の君主を蔑んだ男審神者に、そう声に怒気を滲ませ鍔を引いた薬研を見やった歌仙は、どこか威圧的にも見えた男審神者に終始そんな彼に怯えるよう自分の背へと隠れていた夢子へと視線を落とすと今にも抜刀しそうな薬研の刀の柄へとソッと手を添えた。
「よすんだ、薬研。僕達の実力ならば実戦で分からせてやれば良いだけのことさ」
「………あぁ、それもそうだな」
そう言って鞘へと刀を押し戻した歌仙に、苛立たしげにそんな歌仙を見やった薬研は男審神者を見据える歌仙に、その目に苛立ちを浮かばせる歌仙からソッと視線を逸らすとそう言葉を返し未だ怯える主の頭をポン、と撫でやった。
そうして始まった演練に、ズラリと編成を組む相手側の刀剣達に不安そうに歌仙と薬研を見やった夢子は、先制攻撃をしかけた薬研の弓兵ににグッと拳を握りしめた。
先制攻撃で相手の刀装を剥がした薬研の装備兵に、太刀の攻撃を交わし反撃する薬研に、軽騎兵と共に相手の陣へと特攻する歌仙を見やった夢子は、ひと振り倒してはまたひと振り相手の刀剣を地に伏せる歌仙と薬研にホッと安堵の息を吐き出した。
時間にしておよそ10分弱で決着のついた演練に、A判定を受けた歌仙と薬研を出迎えた夢子は誉を掲げる薬研へと抱き着いた。
「勝ったぜ、大将」
「お疲れさま、薬研!歌仙もすごかったよ!」
「すまないね、やっぱり四振り相手に無傷で勝利は少し厳しかったかな。刀装を一つ剥がしてしまったよ」
顔を綻ばせる主に、そんな主を抱き止めた薬研はそう言って小さく溜息を吐き出した歌仙にそういや俺っちも剥がされてたな、と今は手元に戻ってきている刀装に苦笑を漏らした。
完全勝利が出来れば相手側もぐぅの音も出なかっただろうに、とやはり二振りだけでは少し厳しかった演練にけれども無事勝利を収めることが出来たことに幾分かすっきりとした胸の内に帰ろうぜ、と主の頭を撫でやった薬研はこちらに近づいてくる足音にふと後ろを振り返った。
「オイっお前!!どんな卑怯な手を使ってこいつらを勝たせたっ?!!」
「………えっ……?」
そう自分達へと声を掛けてきたのは先ほどの演練相手の審神者で、よほど自分達に負けたことが納得いかないのかひどく苛立つ男審神者を見やった薬研は、困惑する主をその男から遠ざけるようその背へと隠した歌仙に、目の前の審神者へと視線を戻した。
「卑怯も何も俺たちは正々堂々と勝負したつもりだぜ?なにがそんなに気に食わねぇんだ、アンタ」
「こんな勝負、いかさまをしたに決まっているだろっ!!たった二振りで四振りいる俺の部隊に勝てるわけがないだろうっ……!!」
此奴がいかさましたに決まってる!とそう声を荒げあまつさえ君主を指さし怒鳴り散らすその審神者に小さく眉を顰めさせた薬研は、薬研。と密やかに自分をたしなめた歌仙に、夢子を自分の元へとやりそんな審神者の前へと歩み出た歌仙を見やり、一歩身を引いた。
「君は、顔合わせの時から随分と好き勝手を言ってくれているな。僕の主がいかさまをしたという証拠はあるのかい?第一、剥がしやすい並の軽歩兵しか装備していない刀剣に、僕達が負けるわけがないだろう」
そう言って肩を竦めてみせた歌仙に、小さく言葉を詰まらせたじろいだ男審神者を見やった薬研は、騒ぎを聞きつけたのかこちらへとやってくる男の刀剣達を見やると目の前の審神者へと視線を戻した。
「良いかオッサン。刀装を極めるのも、馬を駆使するのも戦略の一つだぜ」
そう言って数や見た目だけで判断しないことだな。とその審神者にも分かるよう自分たちのステータスを上部に表示させた薬研に、知らない間に御守までもが装備されている自分たちを見やった歌仙は小さく苦笑を漏らすと、自分達のステータスを見やりその顔を引きつらせた男審神者へと視線を戻した。
「僕達の主は困ったことにひどく心配性でね。練度を満たした僕や薬研が万が一にでも折れぬよう、こうして御守まで持たせてるのさ」
「刀ってのは集めりゃ良いってもんじゃないぜ、オッサン。極めりゃ短刀でも太刀に勝てるんだからな」
そう言ってなぁ?とその場にやって来た彼の刀剣達へと声を掛けた薬研に、自分を見やり不敵に笑う薬研を見やった燭台切は小さく苦笑を漏らすと肩を竦めて見せた。
いつの間にか自分の元へとやってきていた刀剣達に、自分の刀剣と目の前の刀剣を見比べたその審神者は既にレベルを満たしているその二振りに、特上の刀装と馬、そして御守をその懐に忍ばせる薬研と歌仙を見やるとグッと言葉を詰まらせ苦々し気に薬研の背に隠れる幼い審神者を睨み付けた。
同じ時期に審神者になり、刀剣の所持数もはるかに自分の方が上であろうはずなのにまざまざと見せつけられた力の差に、やはり納得がいかないのだろう声を上げようとした男はスッと自分を制するよう前に立った近侍に開きかけた口を閉じた。
「主、今日は我々の完敗と致しましょう。だが我々も日々精進している、次こそはその刀装、剥がさせてもらうぞ」
「あぁ、楽しみにしているよ」
そう言って自分の主を止めに入ったへし切に、彼の所持する刀剣は皆納得のいった顔をしているのを見やった歌仙はそう言葉を返すと、悔しげに顔を俯かせる男審神者を一瞥し、未だ怯える君主の背を押し薬研とその場を後にしたのだった。
~~~~
「演練場ではあぁ言ったが、流石に俺と歌仙の旦那の二振りだけじゃこの先の戦場を生き抜くのはちとキツイと思うぜ、大将」
演練場から帰還し夕餉の支度をしていた薬研は今日の演練場で見た他の本丸の刀剣達を思い出すと、同じように食器を用意する君主へとそう声を掛けていた。
既に大太刀や薙刀を所持しているところもあった他の審神者に、あれらと当たったら勝ち目はねぇな、と小さく眉を顰めさせた薬研は、でも…と小さく声を漏らした主に、顔を俯かせる夢子を見やった。
「今でもたまに歌仙や薬研もケガするでしょ……。わたし、もう誰にもケガしてほしくない……」
そう言ってグッと何かに耐えるよう服の裾を握りしめる主に、まだ自分が弱く、よく深手を負っていた時のことを思い出した薬研は、その目にいっぱいの涙をため泣きながら自分の手入れをしていた主を思い出すと、今でも合戦場に自分達を向かわせることを渋る主に困ったように眉を下げ、一人我関せず、というように煮物を作る歌仙を見やるとひっそりと溜息を吐き出した。
きっと再三歌仙も言い聞かせてきたんだろうそのことに、主に新しい刀を鍛刀させることを既に諦めているふうな歌仙に、気持ちも分からなくはないがな、と顔を俯かせる目の前の幼い君主を見やった薬研はどうしたもんか、とひっそりと溜息を吐き出すと、俯く夢子の顔を覗き込むよう腰を折った。
「なぁ大将。アンタが俺たちの心配をしてくれるのは勿論嬉しいが、刀装や馬だけじゃ俺たちだって限界があるんだよ。新しい刀剣が増えればそれだけ俺や歌仙の旦那の負担が減るんだぜ?」
「………そうなの?」
そう言って諭すように声を掛ければチラリと向けられた視線に、眉を下げる主を見やった薬研はあぁ、と頷くとゆるり、とその口元に弧を描いた。
「そりゃぁ最初はそいつ等も怪我もするだろうが、経験を積んでいけば俺や旦那みたいに相手の攻撃を防ぐようにもなる。御守も、新しく来る奴らに使ってやってくれ、俺達はもうそう簡単にゃ折れる心配はねぇんだからさ」
「………歌仙も?新しい子が来たら、うれしい?」
「………主が僕ら二振りだけで良いと言うなら僕はそれでも構わないさ。けれどこれから先戦況はもっと厳しくなるだろうからね、どんなに強くとも僕ら二振りだけじゃ君を護れない」
もしかしたら折れてしまうかもしれないね、と掛けられた声に料理の手を止めそう言葉を返した歌仙に、アンタが必要以上に大将怖がらせてんだろ…、と呆れた様に眉を下げた薬研は歌仙の言葉にその顔を曇らせた主を見やるとだからさ、とそんな主の頭にポン、と手を置いた。
「せめて第一部隊と遠征部隊が組めるぐらいには俺達の本丸も賑やかにしようぜ!」
大将も賑やかな方が嬉しいだろ?と笑った薬研に、畑をやってくれる子が増えると嬉しいなぁ、と小さく零した歌仙を見やった夢子は、自分を見下ろし笑みを浮かべる歌仙と、な?とその顔を綻ばせる薬研を見やるとその顔に笑みを浮かべたのだった。
「……うん!私も家族はおおい方がうれしい!」
そう言ってガンバるね!と声を弾ませた君主に、自分達のことを『家族』だと言う目の前の少女を見やった歌仙と薬研は顔を見合わせるとふと、その顔に笑みを浮かべたのだった。
今はまだ二振りで
「歌仙せんたく物終わったー?」
「もう少しで終わるけれど、どうしたんだい?」
そう言って中庭へと顔を覗かせた主に、執務着を着る夢子を見やった歌仙は今日は出陣予定はなかったはずだが、と訝しげに眉を顰めさせた。
「なんかね、こんのすけ君がどーきのさにわの人とエンレンしてほしいって」
げんじょーを確認したいって。ときっとよく分かっていないんだろうそう言って縁側に置かれていた草履を履き自分の元へとやって来た主に、同期の審神者なんているんだな。とこの数か月の間で何度も行ってきた演練に、分かったよ。と言葉を返した歌仙は最後の一つを手に取った。
「薬研にはそのことは伝えたのかい?」
「うん!今イクサじたくしてるとこ」
「じゃぁ僕も支度をしてくるから、君は薬研と一緒に先に祠へ行っていてくれないか?」
「はーい!」
そう言って手ぬぐいを竿へと掛けた歌仙は元気に返事を返し、ゲートのある祠へと向かった夢子の背を見送ると準備をすべく自室へと向かった。
暫くしてやってきた歌仙は普段通りの格好をしており、その腰に刀を下げる歌仙を見やった夢子はそんな歌仙へと手を振ると合流した歌仙に、一緒に祠で待機をしていた薬研を振り返った。
「えっと、では今日はエンレンなのでリラックスしていきましょう!」
「今回はどちらが部隊長なんだい?」
そう声を上げた夢子はどこか楽しげで、怪我を負うリスクのない演練に、いつだったか自分達の戦う姿を見るのが楽しいのだと言っていた主の言葉を思い出した歌仙は呆れた様に苦笑を漏らすとそんな夢子へと視線を落とした。
「この前は薬研だったから今日のたいちょーは歌仙ね!あ、とーそーちゃんと持った?馬忘れてない?お守りは?」
「そんなに心配しなくても良いぜ、大将。演練じゃ折れるなんてことはねぇから御守は必要ないだろ」
馬も刀装もちゃぁんと持ってるぜ。と腰に下げている金の玉と馬札を叩いてみせた薬研に、なら大丈夫だね!と顔を綻ばせた夢子はでは!と声を上げると手にしていた和紙を広げた。
「ヘンセーをはっぴょーします!第一ぶたいたいちょー歌仙兼定、以下薬研藤四郎一振りこれよりエンレンへと出陣いたします!」
「恐悦至極」
「組討ちなら任せとけ」
そう言って不敵に笑った歌仙と腰に下げていた刀へと手を添えた薬研に、夢子もニッと楽しげに笑みを浮かべたのだった。
――――
ガヤガヤと賑やかな演練場に、相変わらず異様な光景だな。と他の本丸の審神者や刀剣達が集まるそこをなんとわなしに見ていた薬研はどうも。と不意に掛けられた声にこちらへとやって来た男の審神者を振り返った。
「アンタが豊前の所の審神者か?まだ年端もいかねぇ子供じゃねぇか」
オイオイ本当にこんなのが審神者なのかよ?と夢子を見やりその目を瞬かせる男審神者に、不躾にも自分の君主を見下ろすその審神者を見やった薬研は小さく眉を顰めるとそんな男に口を開きかけ、自分たちの前に立った歌仙にハタと目を瞬かせた。
「どうもお初に御目にかかります備前国の審神者殿、僭越ながら主に代わり挨拶をさせていただきたく。此度の演練、良いものにいたしましょう」
「初期刀の歌仙兼定か。打刀と短刀の二振りしか顕現出来ていないとは……。其方の審神者殿の実力も底が知れますなぁ」
こりゃぁ楽勝だ。と夢子の傍に控える歌仙と薬研を見やり声を上げ笑った審神者はそう言うとその場を去っていき、そんな主に付き従うようゾロゾロと列を成す刀剣達を見やった薬研はその額に青筋を浮かべると刀の柄へと手を掛けた。
「………なぁ大将。アイツ柄まで通しても構わないよなぁ……」
自分の君主を蔑んだ男審神者に、そう声に怒気を滲ませ鍔を引いた薬研を見やった歌仙は、どこか威圧的にも見えた男審神者に終始そんな彼に怯えるよう自分の背へと隠れていた夢子へと視線を落とすと今にも抜刀しそうな薬研の刀の柄へとソッと手を添えた。
「よすんだ、薬研。僕達の実力ならば実戦で分からせてやれば良いだけのことさ」
「………あぁ、それもそうだな」
そう言って鞘へと刀を押し戻した歌仙に、苛立たしげにそんな歌仙を見やった薬研は男審神者を見据える歌仙に、その目に苛立ちを浮かばせる歌仙からソッと視線を逸らすとそう言葉を返し未だ怯える主の頭をポン、と撫でやった。
そうして始まった演練に、ズラリと編成を組む相手側の刀剣達に不安そうに歌仙と薬研を見やった夢子は、先制攻撃をしかけた薬研の弓兵ににグッと拳を握りしめた。
先制攻撃で相手の刀装を剥がした薬研の装備兵に、太刀の攻撃を交わし反撃する薬研に、軽騎兵と共に相手の陣へと特攻する歌仙を見やった夢子は、ひと振り倒してはまたひと振り相手の刀剣を地に伏せる歌仙と薬研にホッと安堵の息を吐き出した。
時間にしておよそ10分弱で決着のついた演練に、A判定を受けた歌仙と薬研を出迎えた夢子は誉を掲げる薬研へと抱き着いた。
「勝ったぜ、大将」
「お疲れさま、薬研!歌仙もすごかったよ!」
「すまないね、やっぱり四振り相手に無傷で勝利は少し厳しかったかな。刀装を一つ剥がしてしまったよ」
顔を綻ばせる主に、そんな主を抱き止めた薬研はそう言って小さく溜息を吐き出した歌仙にそういや俺っちも剥がされてたな、と今は手元に戻ってきている刀装に苦笑を漏らした。
完全勝利が出来れば相手側もぐぅの音も出なかっただろうに、とやはり二振りだけでは少し厳しかった演練にけれども無事勝利を収めることが出来たことに幾分かすっきりとした胸の内に帰ろうぜ、と主の頭を撫でやった薬研はこちらに近づいてくる足音にふと後ろを振り返った。
「オイっお前!!どんな卑怯な手を使ってこいつらを勝たせたっ?!!」
「………えっ……?」
そう自分達へと声を掛けてきたのは先ほどの演練相手の審神者で、よほど自分達に負けたことが納得いかないのかひどく苛立つ男審神者を見やった薬研は、困惑する主をその男から遠ざけるようその背へと隠した歌仙に、目の前の審神者へと視線を戻した。
「卑怯も何も俺たちは正々堂々と勝負したつもりだぜ?なにがそんなに気に食わねぇんだ、アンタ」
「こんな勝負、いかさまをしたに決まっているだろっ!!たった二振りで四振りいる俺の部隊に勝てるわけがないだろうっ……!!」
此奴がいかさましたに決まってる!とそう声を荒げあまつさえ君主を指さし怒鳴り散らすその審神者に小さく眉を顰めさせた薬研は、薬研。と密やかに自分をたしなめた歌仙に、夢子を自分の元へとやりそんな審神者の前へと歩み出た歌仙を見やり、一歩身を引いた。
「君は、顔合わせの時から随分と好き勝手を言ってくれているな。僕の主がいかさまをしたという証拠はあるのかい?第一、剥がしやすい並の軽歩兵しか装備していない刀剣に、僕達が負けるわけがないだろう」
そう言って肩を竦めてみせた歌仙に、小さく言葉を詰まらせたじろいだ男審神者を見やった薬研は、騒ぎを聞きつけたのかこちらへとやってくる男の刀剣達を見やると目の前の審神者へと視線を戻した。
「良いかオッサン。刀装を極めるのも、馬を駆使するのも戦略の一つだぜ」
そう言って数や見た目だけで判断しないことだな。とその審神者にも分かるよう自分たちのステータスを上部に表示させた薬研に、知らない間に御守までもが装備されている自分たちを見やった歌仙は小さく苦笑を漏らすと、自分達のステータスを見やりその顔を引きつらせた男審神者へと視線を戻した。
「僕達の主は困ったことにひどく心配性でね。練度を満たした僕や薬研が万が一にでも折れぬよう、こうして御守まで持たせてるのさ」
「刀ってのは集めりゃ良いってもんじゃないぜ、オッサン。極めりゃ短刀でも太刀に勝てるんだからな」
そう言ってなぁ?とその場にやって来た彼の刀剣達へと声を掛けた薬研に、自分を見やり不敵に笑う薬研を見やった燭台切は小さく苦笑を漏らすと肩を竦めて見せた。
いつの間にか自分の元へとやってきていた刀剣達に、自分の刀剣と目の前の刀剣を見比べたその審神者は既にレベルを満たしているその二振りに、特上の刀装と馬、そして御守をその懐に忍ばせる薬研と歌仙を見やるとグッと言葉を詰まらせ苦々し気に薬研の背に隠れる幼い審神者を睨み付けた。
同じ時期に審神者になり、刀剣の所持数もはるかに自分の方が上であろうはずなのにまざまざと見せつけられた力の差に、やはり納得がいかないのだろう声を上げようとした男はスッと自分を制するよう前に立った近侍に開きかけた口を閉じた。
「主、今日は我々の完敗と致しましょう。だが我々も日々精進している、次こそはその刀装、剥がさせてもらうぞ」
「あぁ、楽しみにしているよ」
そう言って自分の主を止めに入ったへし切に、彼の所持する刀剣は皆納得のいった顔をしているのを見やった歌仙はそう言葉を返すと、悔しげに顔を俯かせる男審神者を一瞥し、未だ怯える君主の背を押し薬研とその場を後にしたのだった。
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「演練場ではあぁ言ったが、流石に俺と歌仙の旦那の二振りだけじゃこの先の戦場を生き抜くのはちとキツイと思うぜ、大将」
演練場から帰還し夕餉の支度をしていた薬研は今日の演練場で見た他の本丸の刀剣達を思い出すと、同じように食器を用意する君主へとそう声を掛けていた。
既に大太刀や薙刀を所持しているところもあった他の審神者に、あれらと当たったら勝ち目はねぇな、と小さく眉を顰めさせた薬研は、でも…と小さく声を漏らした主に、顔を俯かせる夢子を見やった。
「今でもたまに歌仙や薬研もケガするでしょ……。わたし、もう誰にもケガしてほしくない……」
そう言ってグッと何かに耐えるよう服の裾を握りしめる主に、まだ自分が弱く、よく深手を負っていた時のことを思い出した薬研は、その目にいっぱいの涙をため泣きながら自分の手入れをしていた主を思い出すと、今でも合戦場に自分達を向かわせることを渋る主に困ったように眉を下げ、一人我関せず、というように煮物を作る歌仙を見やるとひっそりと溜息を吐き出した。
きっと再三歌仙も言い聞かせてきたんだろうそのことに、主に新しい刀を鍛刀させることを既に諦めているふうな歌仙に、気持ちも分からなくはないがな、と顔を俯かせる目の前の幼い君主を見やった薬研はどうしたもんか、とひっそりと溜息を吐き出すと、俯く夢子の顔を覗き込むよう腰を折った。
「なぁ大将。アンタが俺たちの心配をしてくれるのは勿論嬉しいが、刀装や馬だけじゃ俺たちだって限界があるんだよ。新しい刀剣が増えればそれだけ俺や歌仙の旦那の負担が減るんだぜ?」
「………そうなの?」
そう言って諭すように声を掛ければチラリと向けられた視線に、眉を下げる主を見やった薬研はあぁ、と頷くとゆるり、とその口元に弧を描いた。
「そりゃぁ最初はそいつ等も怪我もするだろうが、経験を積んでいけば俺や旦那みたいに相手の攻撃を防ぐようにもなる。御守も、新しく来る奴らに使ってやってくれ、俺達はもうそう簡単にゃ折れる心配はねぇんだからさ」
「………歌仙も?新しい子が来たら、うれしい?」
「………主が僕ら二振りだけで良いと言うなら僕はそれでも構わないさ。けれどこれから先戦況はもっと厳しくなるだろうからね、どんなに強くとも僕ら二振りだけじゃ君を護れない」
もしかしたら折れてしまうかもしれないね、と掛けられた声に料理の手を止めそう言葉を返した歌仙に、アンタが必要以上に大将怖がらせてんだろ…、と呆れた様に眉を下げた薬研は歌仙の言葉にその顔を曇らせた主を見やるとだからさ、とそんな主の頭にポン、と手を置いた。
「せめて第一部隊と遠征部隊が組めるぐらいには俺達の本丸も賑やかにしようぜ!」
大将も賑やかな方が嬉しいだろ?と笑った薬研に、畑をやってくれる子が増えると嬉しいなぁ、と小さく零した歌仙を見やった夢子は、自分を見下ろし笑みを浮かべる歌仙と、な?とその顔を綻ばせる薬研を見やるとその顔に笑みを浮かべたのだった。
「……うん!私も家族はおおい方がうれしい!」
そう言ってガンバるね!と声を弾ませた君主に、自分達のことを『家族』だと言う目の前の少女を見やった歌仙と薬研は顔を見合わせるとふと、その顔に笑みを浮かべたのだった。
今はまだ二振りで