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空蝉の春
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本丸での生活にも随分と慣れ、審神者としての仕事もだいぶ覚えてきた夢子に、いつものように朝の着替えを手伝っていた歌仙はふぁ、と一つ欠伸を漏らした主を見やると白衣の襟元を正しポン、とその胸元を軽く叩いた。
「ねぇ主、そろそろ新しい刀を顕現してみないかい?」
「けんげん……?」
そう言ってさぁ出来たよ、と着替え終わった巫女服にありがとう!と返した夢子はそう言って自分を見下ろす歌仙を不思議そうに仰ぎ見た。
傷ついた刀の手入れの仕方や、刀装用の兵の生成の仕方、その他の細かな業務を一通りこんのすけから教わった君主に、けれどもまだ一度も鍛刀をしたことのない主へとそう声を掛けた歌仙は不思議そうに自分を見やる主を見やると、難しい言葉では分かりにくいか…、と言葉を選ぶよう顎元に指をあてた。
「新しい刀剣男士を生み出す、ということさ。君にはそれができる力が備わっているからね、やり方もきっとこんのすけから聞いていると思うけど」
「なんかお札と炭とか水とかをつかってやるお仕事のことかな……?」
そう言って腕を組みうーん、とこの間こんのすけから説明を受けた“審神者の仕事”内容を思い出していた夢子は、たぶんそれだね、と頷いた歌仙に、広間へと歩き出した歌仙を追うよう歩き出した。
「いくら良い刀装を付けていたとしても流石に僕一人で江戸を攻略するのは厳しいし、それに君と僕だけで畑の手入れや馬の世話は大変だろう?だいたい、稽古場があっても手合わせする相手がいなければ意味がない、攻撃の要になる打撃や衝力がいつまでたっても上がらないじゃないか」
機動力や偵察力ばかり上げてどうするのさ、と溜息交じりで吐き出される小言に、それでも私は楽しいよ!と歌仙と畑や馬の世話をするのが楽しいのかそう声を弾ませた夢子は、そんな自分をジトリと見やった歌仙に不思議そうに目を瞬かせた。
「確かに僕も主と農作業するのは嫌いじゃないが、僕は文系だけれどこれでも刀だからね、本業は戦場で刀を振るうことなんだよ。最近は函館から鳥羽を巡回しすぎで検非違使の出現率がおかしなことになってるよ。君だって僕に折れては欲しくないだろう?」
「歌仙がいなくなるのはいやだ……」
最近では一騎打ちでも重傷を負うことがなくなってきた歌仙に、けれども検非違使相手となると状況は変わってきて痛手を負ってしまう近侍にそう言った歌仙の着物の裾をギュッと握りしめた夢子はポン、と撫でられた頭に笑みを浮かべる歌仙を仰ぎ見た。
「じゃぁ朝餉が終わったら今日は鍛刀をしようか。馬の世話は朝のうちに終わらせておいたし、畑も今日は休みにしよう」
そう言って朝食の準備を始めた歌仙はどこかその顔を綻ばせていて、鍛刀を理由にただ畑作業を休みたいだけなんじゃ、といつも着物が汚れる、と文句を垂れている近侍を思い出した夢子は、けれども機嫌のいい歌仙を見やると同じようにその顔を綻ばせたのだった。
朝食を済ませ歌仙につれられ鍛刀部屋へとやって来た夢子は、資材の積まれるそこを見やるとほぁ、と感嘆の声を漏らした。
「鍛刀する時はこの依頼札を使うんだ。今は刀剣が僕しかいないから近侍は僕で、使う資材の量は最小限にしておこうか」
多分そんなにすぐにはレア刀も来ないだろうしね、と説明しつつ資材を集めソレをその場に居た刀鍛冶の精へと渡す歌仙にれあとう…?と首を傾げていた夢子は準備が整ったのだろうはい、と渡された依頼札を手に歌仙に促されるよう上座へと腰かけた。
「さぁ、新たな刀を目利きしようか」
「う、うん」
そう言って自分の隣へと腰かけた歌仙に、手元の札へと視線を落とした夢子はこんのすけに言われた通りその札へと神力を注いだ。
淡く輝きだした室内に、部屋の中央に光が集まるのを見やった歌仙は一瞬の閃光ののちその場に姿を現した短刀を見やると上出来だな、と小さくほくそ笑んだ。
「よぉ大将。俺っち薬研藤四郎だ。兄弟ともどもよろしく頼むぜ」
「はっ、はじめまして!このほんまるのさにわです!」
よろしくおねがいします!と頭を下げた目の前の幼き君主にハタと目を瞬かせた薬研は、その隣に控える近侍へと説明を乞うよう視線を向けた。
「やぁ、よくきたね薬研藤四郎。僕は之定がひと振り、歌仙兼定だよろしく頼むよ」
「あー……、文系名刀の歌仙だな。俺は雅なことはよく分らんが、まぁこちらこそよろしく。んで、俺たちの大将はそこのお嬢さんで良いのか?」
「あぁ、すまないね。彼女はまだ審神者になって三月と経っていないんだ、だからまだまだ主としての自覚に欠けているのさ」
そう言って呆けた様に薬研を見つめる主の頭をゆるり、と撫でた歌仙に、じゃぁ俺が二振り目か、と何とはなしに理解した薬研は、戦事とは無縁のようにも思える目の前の主を見やるとそんな主の前へと片膝をついた。
「戦事なら頼りにしてくれていいぜ、これからよろしくな。大将」
そう言ってニッと笑みを浮かべた薬研に、呆けた様に薬研を見ていた夢子は年頃の近いその刀剣を見やるとパァッとその顔を輝かせた。
「うん!よろしくね、薬研!」
そう言ってお家を案内してあげる!と薬研の手を取りその場を走り出した主に、目を瞬かせそんな主に引っ張られるよう鍛冶場を後にした薬研を見やった歌仙は小さく苦笑を漏らすと茶の用意をするべくその場を後にしたのだった。
―――――
薬研が加わったことで少しだけ賑やかになった本丸に、薬研と共に夕餉の支度をしていた歌仙はそういやぁ、と思い出したように声を漏らした薬研に、手にしていたエンドウを笊へと入れると薬研へと視線を落とした。
「この本丸にゃ俺とアンタしかいないわけだが、主の近侍はアンタで固定なのか?」
「あぁ、別に是が非でも僕が主の側にいたいというわけではないけど。もともと此処には僕しかいなかったからね、自ずとずっと近侍をしていただけさ」
君もやりたいのかい?と次のエンドウを手に取りそう聞いた歌仙はまぁ、そりゃ近侍なんて大役やりたくねぇ奴いねぇだろ、とどこか気恥ずかしそうに自分から視線をそらした薬研を見やると楽しげに小さく口元に弧を描いた。
「近侍とはいうけどもっぱらやることは主の子守りだけどね」
そう言ってまぁ主にも話しておくよ、と調理へと戻っていく歌仙に子守り…?と怪訝そうに首を傾げた薬研は、けれどもこれから近侍を務めることになるかもしれない、ということにその顔を綻ばせたのだった。
「ねぇ、主。明日から近侍を薬研にしてみないかい?」
「きんじ……って、なに?」
夕食の場でそう不意に口を開いた歌仙に、顔を綻ばせながらオカズへと手を伸ばしていた夢子はそう言った歌仙にキョトリと目を瞬かせると不思議そうに歌仙を見やった。
「主の身の回りの世話をする刀のことだよ。今まではずっと僕が近侍だっただろ?他の刀にも近侍の仕事をさせるのも良い経験になると思うんだけど」
どうかな?と言って広間の一角にかけられている木札を指示した歌仙に、役割分担のところにかけられる『近侍 歌仙兼定』の札を見やった夢子は不思議そうに目を瞬かせると、どこか自分の反応を伺うようジッと自分を見つめる薬研を見やり歌仙へと視線を戻した。
「んー、よくわかんないけどいいよー!」
「ホントか大将?!悪いな、歌仙の旦那!」
そう言ってその顔を綻ばせた主と、ひどく嬉しそうにその顔を輝かせた薬研を見やった歌仙は小さく苦笑を漏らすと湯飲みへと手を伸ばした。
「あぁ、そうだ。どうせなら週替わり制にしないかい?僕も主の近侍をやりたくないわけではないからね」
それなら公平だろう?とお茶を啜った歌仙に、おう!と頷いた薬研はひどく嬉しそうで、そんな薬研を見やった歌仙はそれじゃぁ、と言うと手にしていた湯飲みを置き立ち上がった。
「早速だけど、今日の晩から頼めるかい?細かいことはまた後で教えるから、とりあえず先に主と湯浴みに行ってきてくれ」
僕は片付けを先にすませてしまうから、と近侍のところにかかっていた自分の札を外し薬研の札をそこへとかけた歌仙に、そこに掛けられた『薬研藤四郎』の名を見やった薬研はその口元を綻ばせると、食事を終えた主の手を取り湯場へと向かったのだった。
寝支度を終え審神者の部屋へと夢子の手を引きやってきた薬研は、あぁお帰り。と掛けられた声に床 の準備をする歌仙を見やると、畳に敷かれる二対の布団を見やりキョトリと目を瞬かせた。
「歌仙の旦那はいつも大将と寝てるのか?」
「あぁ、主はねまだ一人じゃ寝られないんだよ。全く困った主だよね。まぁけれど薬研が近侍になったからこれで僕は今週の間はゆっくりとできるわけだけど」
そう言って床の用意はしておいたから後はよろしく頼むよ。と部屋を後にしようとする歌仙にハタと目を瞬かせた薬研はちょっと待った!と声を上げるとそんな歌仙の着物の裾を引っ掴んだ。
「どういうことだ?歌仙の旦那。その口振りだと今日から俺っちが大将と寝るように聞こえたが……」
「そうだよ?言っただろ近侍はいわば主の子守り役だって。なに寝つきは悪いが御伽噺の一つでも聞かせればすぐに寝てくれるさ。あぁ、朝の身支度も一人ではできないから頼んだよ。厠に起きることはあまりないけれど夜に一人で行くのは怖いそうだから付き添ってやるように」
それじゃぁ頼んだよ。と一通り説明をしてそのまま部屋を出て行ってしまった歌仙に、御伽噺…、と呆けた様に小さく声を漏らした薬研は歌仙が主に御伽噺を話聞かせている様を思い浮かべると面白そうだな、と零し、引かれた手に主へと視線を落とした。
「薬研はなんのお話をしてくれるの?歌仙はねぇ、かぐや姫のお話とかしてくれたよ!」
「あー……俺は戦場育ちだからそう言うことにはあまり詳しくねぇんだが……。信長公の逸話でも良いなら話せるぜ?」
「うん!」
きっと幼子にとっては退屈になるであろう話に、それでもその顔を綻ばせた主は自分の手を引き床へと歩き出していて、薬研は歌仙がすんなり近侍を降りた理由に納得し、どこか少し困ったように眉を下げ笑みを浮かべたのだった。
それはまるで家族のような……
オマケ→
スヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てる夢子に、その体へ布団を掛けなおした薬研は自分より見た目が幼い主にふと、その口元に笑みを浮かべるとゆるり、とその頭を撫でやった。
「こうしてると、兄弟のことを思い出すな……」
そう小さく声を漏らした薬研はその脳裏に過った粟田口の刀剣達に、少しだけ寂しそうに眉を下げると床に就いたのだった。
「ねぇ主、そろそろ新しい刀を顕現してみないかい?」
「けんげん……?」
そう言ってさぁ出来たよ、と着替え終わった巫女服にありがとう!と返した夢子はそう言って自分を見下ろす歌仙を不思議そうに仰ぎ見た。
傷ついた刀の手入れの仕方や、刀装用の兵の生成の仕方、その他の細かな業務を一通りこんのすけから教わった君主に、けれどもまだ一度も鍛刀をしたことのない主へとそう声を掛けた歌仙は不思議そうに自分を見やる主を見やると、難しい言葉では分かりにくいか…、と言葉を選ぶよう顎元に指をあてた。
「新しい刀剣男士を生み出す、ということさ。君にはそれができる力が備わっているからね、やり方もきっとこんのすけから聞いていると思うけど」
「なんかお札と炭とか水とかをつかってやるお仕事のことかな……?」
そう言って腕を組みうーん、とこの間こんのすけから説明を受けた“審神者の仕事”内容を思い出していた夢子は、たぶんそれだね、と頷いた歌仙に、広間へと歩き出した歌仙を追うよう歩き出した。
「いくら良い刀装を付けていたとしても流石に僕一人で江戸を攻略するのは厳しいし、それに君と僕だけで畑の手入れや馬の世話は大変だろう?だいたい、稽古場があっても手合わせする相手がいなければ意味がない、攻撃の要になる打撃や衝力がいつまでたっても上がらないじゃないか」
機動力や偵察力ばかり上げてどうするのさ、と溜息交じりで吐き出される小言に、それでも私は楽しいよ!と歌仙と畑や馬の世話をするのが楽しいのかそう声を弾ませた夢子は、そんな自分をジトリと見やった歌仙に不思議そうに目を瞬かせた。
「確かに僕も主と農作業するのは嫌いじゃないが、僕は文系だけれどこれでも刀だからね、本業は戦場で刀を振るうことなんだよ。最近は函館から鳥羽を巡回しすぎで検非違使の出現率がおかしなことになってるよ。君だって僕に折れては欲しくないだろう?」
「歌仙がいなくなるのはいやだ……」
最近では一騎打ちでも重傷を負うことがなくなってきた歌仙に、けれども検非違使相手となると状況は変わってきて痛手を負ってしまう近侍にそう言った歌仙の着物の裾をギュッと握りしめた夢子はポン、と撫でられた頭に笑みを浮かべる歌仙を仰ぎ見た。
「じゃぁ朝餉が終わったら今日は鍛刀をしようか。馬の世話は朝のうちに終わらせておいたし、畑も今日は休みにしよう」
そう言って朝食の準備を始めた歌仙はどこかその顔を綻ばせていて、鍛刀を理由にただ畑作業を休みたいだけなんじゃ、といつも着物が汚れる、と文句を垂れている近侍を思い出した夢子は、けれども機嫌のいい歌仙を見やると同じようにその顔を綻ばせたのだった。
朝食を済ませ歌仙につれられ鍛刀部屋へとやって来た夢子は、資材の積まれるそこを見やるとほぁ、と感嘆の声を漏らした。
「鍛刀する時はこの依頼札を使うんだ。今は刀剣が僕しかいないから近侍は僕で、使う資材の量は最小限にしておこうか」
多分そんなにすぐにはレア刀も来ないだろうしね、と説明しつつ資材を集めソレをその場に居た刀鍛冶の精へと渡す歌仙にれあとう…?と首を傾げていた夢子は準備が整ったのだろうはい、と渡された依頼札を手に歌仙に促されるよう上座へと腰かけた。
「さぁ、新たな刀を目利きしようか」
「う、うん」
そう言って自分の隣へと腰かけた歌仙に、手元の札へと視線を落とした夢子はこんのすけに言われた通りその札へと神力を注いだ。
淡く輝きだした室内に、部屋の中央に光が集まるのを見やった歌仙は一瞬の閃光ののちその場に姿を現した短刀を見やると上出来だな、と小さくほくそ笑んだ。
「よぉ大将。俺っち薬研藤四郎だ。兄弟ともどもよろしく頼むぜ」
「はっ、はじめまして!このほんまるのさにわです!」
よろしくおねがいします!と頭を下げた目の前の幼き君主にハタと目を瞬かせた薬研は、その隣に控える近侍へと説明を乞うよう視線を向けた。
「やぁ、よくきたね薬研藤四郎。僕は之定がひと振り、歌仙兼定だよろしく頼むよ」
「あー……、文系名刀の歌仙だな。俺は雅なことはよく分らんが、まぁこちらこそよろしく。んで、俺たちの大将はそこのお嬢さんで良いのか?」
「あぁ、すまないね。彼女はまだ審神者になって三月と経っていないんだ、だからまだまだ主としての自覚に欠けているのさ」
そう言って呆けた様に薬研を見つめる主の頭をゆるり、と撫でた歌仙に、じゃぁ俺が二振り目か、と何とはなしに理解した薬研は、戦事とは無縁のようにも思える目の前の主を見やるとそんな主の前へと片膝をついた。
「戦事なら頼りにしてくれていいぜ、これからよろしくな。大将」
そう言ってニッと笑みを浮かべた薬研に、呆けた様に薬研を見ていた夢子は年頃の近いその刀剣を見やるとパァッとその顔を輝かせた。
「うん!よろしくね、薬研!」
そう言ってお家を案内してあげる!と薬研の手を取りその場を走り出した主に、目を瞬かせそんな主に引っ張られるよう鍛冶場を後にした薬研を見やった歌仙は小さく苦笑を漏らすと茶の用意をするべくその場を後にしたのだった。
―――――
薬研が加わったことで少しだけ賑やかになった本丸に、薬研と共に夕餉の支度をしていた歌仙はそういやぁ、と思い出したように声を漏らした薬研に、手にしていたエンドウを笊へと入れると薬研へと視線を落とした。
「この本丸にゃ俺とアンタしかいないわけだが、主の近侍はアンタで固定なのか?」
「あぁ、別に是が非でも僕が主の側にいたいというわけではないけど。もともと此処には僕しかいなかったからね、自ずとずっと近侍をしていただけさ」
君もやりたいのかい?と次のエンドウを手に取りそう聞いた歌仙はまぁ、そりゃ近侍なんて大役やりたくねぇ奴いねぇだろ、とどこか気恥ずかしそうに自分から視線をそらした薬研を見やると楽しげに小さく口元に弧を描いた。
「近侍とはいうけどもっぱらやることは主の子守りだけどね」
そう言ってまぁ主にも話しておくよ、と調理へと戻っていく歌仙に子守り…?と怪訝そうに首を傾げた薬研は、けれどもこれから近侍を務めることになるかもしれない、ということにその顔を綻ばせたのだった。
「ねぇ、主。明日から近侍を薬研にしてみないかい?」
「きんじ……って、なに?」
夕食の場でそう不意に口を開いた歌仙に、顔を綻ばせながらオカズへと手を伸ばしていた夢子はそう言った歌仙にキョトリと目を瞬かせると不思議そうに歌仙を見やった。
「主の身の回りの世話をする刀のことだよ。今まではずっと僕が近侍だっただろ?他の刀にも近侍の仕事をさせるのも良い経験になると思うんだけど」
どうかな?と言って広間の一角にかけられている木札を指示した歌仙に、役割分担のところにかけられる『近侍 歌仙兼定』の札を見やった夢子は不思議そうに目を瞬かせると、どこか自分の反応を伺うようジッと自分を見つめる薬研を見やり歌仙へと視線を戻した。
「んー、よくわかんないけどいいよー!」
「ホントか大将?!悪いな、歌仙の旦那!」
そう言ってその顔を綻ばせた主と、ひどく嬉しそうにその顔を輝かせた薬研を見やった歌仙は小さく苦笑を漏らすと湯飲みへと手を伸ばした。
「あぁ、そうだ。どうせなら週替わり制にしないかい?僕も主の近侍をやりたくないわけではないからね」
それなら公平だろう?とお茶を啜った歌仙に、おう!と頷いた薬研はひどく嬉しそうで、そんな薬研を見やった歌仙はそれじゃぁ、と言うと手にしていた湯飲みを置き立ち上がった。
「早速だけど、今日の晩から頼めるかい?細かいことはまた後で教えるから、とりあえず先に主と湯浴みに行ってきてくれ」
僕は片付けを先にすませてしまうから、と近侍のところにかかっていた自分の札を外し薬研の札をそこへとかけた歌仙に、そこに掛けられた『薬研藤四郎』の名を見やった薬研はその口元を綻ばせると、食事を終えた主の手を取り湯場へと向かったのだった。
寝支度を終え審神者の部屋へと夢子の手を引きやってきた薬研は、あぁお帰り。と掛けられた声に
「歌仙の旦那はいつも大将と寝てるのか?」
「あぁ、主はねまだ一人じゃ寝られないんだよ。全く困った主だよね。まぁけれど薬研が近侍になったからこれで僕は今週の間はゆっくりとできるわけだけど」
そう言って床の用意はしておいたから後はよろしく頼むよ。と部屋を後にしようとする歌仙にハタと目を瞬かせた薬研はちょっと待った!と声を上げるとそんな歌仙の着物の裾を引っ掴んだ。
「どういうことだ?歌仙の旦那。その口振りだと今日から俺っちが大将と寝るように聞こえたが……」
「そうだよ?言っただろ近侍はいわば主の子守り役だって。なに寝つきは悪いが御伽噺の一つでも聞かせればすぐに寝てくれるさ。あぁ、朝の身支度も一人ではできないから頼んだよ。厠に起きることはあまりないけれど夜に一人で行くのは怖いそうだから付き添ってやるように」
それじゃぁ頼んだよ。と一通り説明をしてそのまま部屋を出て行ってしまった歌仙に、御伽噺…、と呆けた様に小さく声を漏らした薬研は歌仙が主に御伽噺を話聞かせている様を思い浮かべると面白そうだな、と零し、引かれた手に主へと視線を落とした。
「薬研はなんのお話をしてくれるの?歌仙はねぇ、かぐや姫のお話とかしてくれたよ!」
「あー……俺は戦場育ちだからそう言うことにはあまり詳しくねぇんだが……。信長公の逸話でも良いなら話せるぜ?」
「うん!」
きっと幼子にとっては退屈になるであろう話に、それでもその顔を綻ばせた主は自分の手を引き床へと歩き出していて、薬研は歌仙がすんなり近侍を降りた理由に納得し、どこか少し困ったように眉を下げ笑みを浮かべたのだった。
それはまるで家族のような……
オマケ→
スヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てる夢子に、その体へ布団を掛けなおした薬研は自分より見た目が幼い主にふと、その口元に笑みを浮かべるとゆるり、とその頭を撫でやった。
「こうしてると、兄弟のことを思い出すな……」
そう小さく声を漏らした薬研はその脳裏に過った粟田口の刀剣達に、少しだけ寂しそうに眉を下げると床に就いたのだった。