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空蝉の春
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「お早うございます審神者殿!ささ、本日は出陣についてご説明いたしますぞ!」
「…………ン゛ン゛……お、はよ」
「すまないね、君はまだ就寝中だと言ったんだが聞かなくてね……」
そう元気な声を上げ自分の顔を覗き込んでくる子狐に、気持ちよく寝ていた夢子は目をシパシパと瞬かせるとゆっくりとその身を起こした。
寝癖がついて跳ねる髪の毛に、未だ眠たげに目を擦る主を見やった歌仙はまだ陽も昇らぬ早朝にやってきた政府の使いを見やると呆れた様に溜息を吐き出した。
「こうして近侍となる刀剣男士もお迎えしたことですし、歴史改変を目論む時間遡行軍の撃墜へと向かいましょう!」
「こんのすけ、少し待っていてくれないか。主は身支度も済ませていないんだ」
話は着替えが終わってからだ。とすぐにでも合戦場へと向かおうとするこんのすけにそう声を掛けた歌仙は、まだ寝間着姿のままの夢子を見やりこれは失礼いたしました!と慌てた様に頭を下げたこんのすけに、夢現な主を抱き上げると布団の上へと立たせた。
「けれど着物を着なれていないというのはこんなにも不便なものなんだね」
「今の日本は洋装が主流となっておりますからなぁ」
そう言って寝間着の紐を解いた歌仙は昨日主が来ていた服を思い出すと小さく眉を顰めさせ、スルリとその体から衣を取り払った。
「僕からしてみればあちらの服装の方がよほど難解だと思うんだけれどね」
そう言って君主の腕に小さな白衣を通した歌仙はされるがままの主に白衣の紐を結ぶと朱袴を手に取った。
ほら、足を通して。と幼児サイズの朱袴を広げた歌仙に、そんな歌仙の肩に手を置き袴へと足を通した夢子は回して縛って、と手間の掛かるその衣装を見やるときつくないかい?と掛けられた声に歌仙へと視線を落とした。
「うん、だいじょーぶ。でも私いつもの服のほうがいい」
「いけませんぞ審神者殿!審神者たるもの身だしなみはしっかりとせねばいけませぬ!洋装は学び舎に行くときに御召になられませ」
そう言って動きにくい…、とやっと着替えの終わったその衣装にヒラヒラと揺れる袖口と幅のある袴の裾を見やった夢子は、そんな自分にそう声を上げたこんのすけを見やると嫌そうに小さく眉を顰めさせた。
「ところで、主は西洋の服は自分で着れるのかい?言っておくが、僕は洋装の着付けの仕方なんて知らないよ」
「だいじょーぶだよ!いつもの服だったらひとりでおきがえできるから!」
そう不安そうにその眉を顰めさせた歌仙はそんな自分に得意げに胸を張った主を見やるとなら良いんだ。とその顔に安堵の表情を浮かべた。
「何を仰います歌仙殿!この先審神者殿に付いて現世へ渡る機会もでてきます故、刀剣男士殿には洋服にも慣れてもらわなければ困りますよ!」
「………世知辛いね」
そう言って満面の笑みを浮かべて見せたこんのすけに、ヒクリ、とその顔を引きつらせた歌仙はそう小さく声を漏らすと溜息を吐き出したのだった。
身支度を整えた夢子と歌仙は自分たちを中庭の奥にある不思議な祠へと案内したこんのすけに、稲荷狐が祀られるそこを見やると自分たちを振り返ったこんのすけへと視線を落とした。
「さて、では出陣についてご説明いたしましょう。こちらのゲートより刀剣達は時間遡行軍の現れた時代へとタイムスリップをしていただきます。そこで歴史の改変を目論む遡行軍を退治するのが貴方がた刀剣男士の使命にございます!まぁ百聞は一見に如かずといいますし、つい先ほど過去に遡行軍が現れたとの連絡がございましたから歌仙殿には1868年の函館に出陣していただきましょうか!」
そう言って機械を操作するこんのすけに、久方ぶりに刀を振るうな、と今では自分自身が佩刀することとなった『歌仙兼定』に、ソッとそれへと手を触れた歌仙は準備ができました!と声を上げたこんのすけへと視線を落とした。
「このゲートより過去へと飛べるのは刀剣男士のみ。審神者殿は本丸にて部隊の采配、装備兵の有無、結果報告の受理などをしていただきます。さて、歌仙殿準備はよろしいですか?」
「そうだねぇ、僕も文系と言えど之定だからね」
そう言ってお社の中央へと立った歌仙は、転送の始まった装置に自分をどこか心配そうに見やる主へと視線を落とすとふと、その口元に弧を描いた。
「それじゃぁ主、行ってくるよ」
「い、いって……らっしゃい」
何が起こっているのか半分も理解はしていないであろう君主に、それでも小さく自分へと手を振った夢子へと手を振り返した歌仙は瞬きの間に景色の変わったそこを見やるとゆるり、と口元に弧を描いた。
「………あぁ、懐かしい景色だ」
雅に欠ける。と土埃と硝煙の臭いがする合戦場を見やった歌仙は視界に捉えた敵陣に、腰に下げていた刀へと手を伸ばした。
「我こそは之定がひと振り、歌仙兼定なり……!!!」
「ねぇ、こんのすけ君……歌仙は悪いやつらをやっつけに行ったの?」
「そうでございますよ!初陣となりますので多少戦況は厳しくなるとは思いますが」
歌仙が合戦場へと向かったのを見届けたこんのすけは、そうポツリと声を漏らした夢子を見やるとあと数分もしないうちに戻ってくるであろう歌仙に、モニターへと視線を落とした。
帰還を知らせるランプが点滅したことに、そこに表示された『第一部隊重傷一振り』の文字を見やったこんのすけはやはり初陣では勝てませんか。と小さく零すと戻ってきた歌仙を招くためゲートを開いた。
「お疲れ様でした歌仙殿。ささ、手入れ部屋へまいりましょう」
「困ったねぇ、思ったより深手だったようだ……」
「―――っ、歌仙っ!!」
開いたゲートの向こうから現れた歌仙は体中傷だらけで、血の滴る額を押さえる歌仙を見やった夢子は顔面蒼白になるとそんな歌仙へと駆け寄った。
「歌仙っ……!!どうしようっ、歌仙が死んじゃうっ……」
「問題ございませんよ審神者殿!刀剣男士が戦で手傷を負った際は手入れ部屋でその身を手入れすれば怪我もあっという間に完治いたしますから!」
そう言ってささ、こちらへ!と自分を手入れ部屋へと案内するこんのすけは至って普通で、きっと何振りもの刀と審神者に同じ説明を幾度となくしてきたのであろう案内人を見やった歌仙は、自分の着物の裾をきつく握りしめボロボロと涙を流す主へと視線を落とすと痛む体に小さく息を吐き出した。
「さぁこちらが手入れ部屋に御座います!此方は審神者殿の神力を使い傷ついた刀剣男士殿を治療する場となります。手入れ時間は刀の種類、受けた傷の度合いによって違ってきます。またあまり戦場で刀剣を酷使いたしますと“折れて”しまいますので十分お気を付けください。さて、刀剣の手入れの仕方についてですが………」
「こんのすけ、すまないが少し席を外してくれるかい……?」
手入れ部屋につくなりその部屋の仕組みと手入れの仕方について説明を始めたこんのすけに、きっとこんのすけの言葉など聞こえていないであろう君主を見やった歌仙はこんのすけの言葉を遮ると、そんなこんのすけに退室を促すよう戸口を見やった。
「分かりました、では少々席を外させていただきます。審神者殿が落ち着かれましたらまた改めて手入れについてと刀装の生成についてご説明いたしますのでお声がけください」
不意に中断させられた説明に、小さく眉を顰める歌仙を見やったこんのすけは、先ほどから嗚咽交じりに涙を零す審神者へと視線を落とすと一つ頷きそう言って手入れ部屋を後にした。
「………酷だね」
パタリ、と閉じた戸に、否が応でも審神者としての務めをこなしてもらうつもりなのだろうそう言い残していったこんのすけに、小さくそう零した歌仙は未だ泣き続ける主へと視線を落とすとその場に腰を下ろした。
「いつまで泣いているんだい?君が手入れを始めてくれないと僕はずっとこのままだ」
「っヴ………ごめ、なさっ……がぜん、私のせいでケガしたのっ……?」
「それは違う。戦に出るのは刀である僕の定めさ。君は、そんな僕たちを鍛えて統率していくのが仕事なんだ」
戦に怪我はつきものさ、と涙と鼻水で汚れるその顔にソッと手を添えた歌仙はそんな自分を見やり、グッと眉根を寄せ自分にしがみ付いてきた主に驚きに目を瞬かせた。
「ぞんなお仕事、私じだくないっ……!!歌仙にケガさせるお仕事なんてイヤだっ……!!」
そう言ってうわーんっ!と声を上げ泣きじゃくる幼き君主に、まだ年端もいかない少女には厳しいであろう審神者という役目に、小さく眉を下げた歌仙はゆるり、とそんな夢子の頭を撫でやった。
「そうだな、君が嫌だと言えばいつでも審神者は辞められるだろうね。けれど、君がこの本丸からいなくなればきっと僕も刀解されてしまうだろう」
「っ、とーかい……?」
「消えてなくなる、ということさ。僕は存外君のことを気に入ったから、もう会えなくなってしまうのは少し寂しいんだけど、君は僕がいなくなっても平気かい?」
「っ……、いやだ……。やっとできた、家族なんだもんっ……!」
いやだっ!と声を上げ自分を見上げた君主はもう泣いてはおらず、泣きはらした顔で自分を見上げる君主を見やった歌仙は、自分のことを『家族』だと言った夢子を見やるとハタと目を瞬かせ、ひどく楽しげに破顔した。
「はははっ、そうだね、今はまだたった二人きりの家族さ。僕には君が必要で、君には僕が必要だ。だから、さぁ主。僕がまた美味しいご飯を作れるよう、しっかりと手入れをしてくれるかい?」
「………うんっ!!」
そう言って笑って着物の裾で涙をぬぐえばやっと零れた愛らしい笑みに、グシグシと少し乱暴に涙を拭いた夢子はその場から立ち上がるとこんのすけを呼ぶため襖へと歩き出した。
「こんのすけ君!歌仙のケガのなおし方をおしえて!」
「承知いたしました!」
審神者という者
オマケ→
「それじゃぁ戦支度を解いてくるよ」
「うん、ゆっくりおやすみしてね!」
包帯で巻かれた腕や足に、一通り手入れが終わり傷を癒すため床へと就いた歌仙は、ピコン、と自分の上に表示された手入れ時間を見やると、随分と陽の落ちた中庭を見やり目の前の幼き君主へと視線を向けた。
「主、本当に一人で夕餉の支度できるかい?手伝い札を使っても構わないんだよ」
「だいじょーぶ!おにぎりぐらいつくれるもん!歌仙はおにぎりなにが好き?」
「僕はいいから、君の好きなものをお入れ。火は危ないから使ってはいけないよ」
「うん、わかった!じゃぁ歌仙のおにぎりにはウメさん入れてあげるね!」
「あぁ、回廊は走らないこと。あと頭より上にあるものを取るときは必ず台座を使うんだよ」
「うん、わかった!歌仙はゆっくり寝ててね!」
ゆうに6時間は超える手入れ時間に、これじゃぁ主の床 の支度もできやしない、とひっそりと溜息を吐き出した歌仙は、一人で夕食を作ることとなった幼き君主にそんな主をひどく不安そうに見やった。
掛けられる言葉はどれも自分を心配するものばかりで、まるでお母さんみたいだ、と気恥ずかしそうに笑みを浮かべた夢子は本当に大丈夫かい?と心配そうに自分を見やる歌仙へとまかせて!と言葉を返すと手入れ部屋を後にしたのだった。
「…………ン゛ン゛……お、はよ」
「すまないね、君はまだ就寝中だと言ったんだが聞かなくてね……」
そう元気な声を上げ自分の顔を覗き込んでくる子狐に、気持ちよく寝ていた夢子は目をシパシパと瞬かせるとゆっくりとその身を起こした。
寝癖がついて跳ねる髪の毛に、未だ眠たげに目を擦る主を見やった歌仙はまだ陽も昇らぬ早朝にやってきた政府の使いを見やると呆れた様に溜息を吐き出した。
「こうして近侍となる刀剣男士もお迎えしたことですし、歴史改変を目論む時間遡行軍の撃墜へと向かいましょう!」
「こんのすけ、少し待っていてくれないか。主は身支度も済ませていないんだ」
話は着替えが終わってからだ。とすぐにでも合戦場へと向かおうとするこんのすけにそう声を掛けた歌仙は、まだ寝間着姿のままの夢子を見やりこれは失礼いたしました!と慌てた様に頭を下げたこんのすけに、夢現な主を抱き上げると布団の上へと立たせた。
「けれど着物を着なれていないというのはこんなにも不便なものなんだね」
「今の日本は洋装が主流となっておりますからなぁ」
そう言って寝間着の紐を解いた歌仙は昨日主が来ていた服を思い出すと小さく眉を顰めさせ、スルリとその体から衣を取り払った。
「僕からしてみればあちらの服装の方がよほど難解だと思うんだけれどね」
そう言って君主の腕に小さな白衣を通した歌仙はされるがままの主に白衣の紐を結ぶと朱袴を手に取った。
ほら、足を通して。と幼児サイズの朱袴を広げた歌仙に、そんな歌仙の肩に手を置き袴へと足を通した夢子は回して縛って、と手間の掛かるその衣装を見やるときつくないかい?と掛けられた声に歌仙へと視線を落とした。
「うん、だいじょーぶ。でも私いつもの服のほうがいい」
「いけませんぞ審神者殿!審神者たるもの身だしなみはしっかりとせねばいけませぬ!洋装は学び舎に行くときに御召になられませ」
そう言って動きにくい…、とやっと着替えの終わったその衣装にヒラヒラと揺れる袖口と幅のある袴の裾を見やった夢子は、そんな自分にそう声を上げたこんのすけを見やると嫌そうに小さく眉を顰めさせた。
「ところで、主は西洋の服は自分で着れるのかい?言っておくが、僕は洋装の着付けの仕方なんて知らないよ」
「だいじょーぶだよ!いつもの服だったらひとりでおきがえできるから!」
そう不安そうにその眉を顰めさせた歌仙はそんな自分に得意げに胸を張った主を見やるとなら良いんだ。とその顔に安堵の表情を浮かべた。
「何を仰います歌仙殿!この先審神者殿に付いて現世へ渡る機会もでてきます故、刀剣男士殿には洋服にも慣れてもらわなければ困りますよ!」
「………世知辛いね」
そう言って満面の笑みを浮かべて見せたこんのすけに、ヒクリ、とその顔を引きつらせた歌仙はそう小さく声を漏らすと溜息を吐き出したのだった。
身支度を整えた夢子と歌仙は自分たちを中庭の奥にある不思議な祠へと案内したこんのすけに、稲荷狐が祀られるそこを見やると自分たちを振り返ったこんのすけへと視線を落とした。
「さて、では出陣についてご説明いたしましょう。こちらのゲートより刀剣達は時間遡行軍の現れた時代へとタイムスリップをしていただきます。そこで歴史の改変を目論む遡行軍を退治するのが貴方がた刀剣男士の使命にございます!まぁ百聞は一見に如かずといいますし、つい先ほど過去に遡行軍が現れたとの連絡がございましたから歌仙殿には1868年の函館に出陣していただきましょうか!」
そう言って機械を操作するこんのすけに、久方ぶりに刀を振るうな、と今では自分自身が佩刀することとなった『歌仙兼定』に、ソッとそれへと手を触れた歌仙は準備ができました!と声を上げたこんのすけへと視線を落とした。
「このゲートより過去へと飛べるのは刀剣男士のみ。審神者殿は本丸にて部隊の采配、装備兵の有無、結果報告の受理などをしていただきます。さて、歌仙殿準備はよろしいですか?」
「そうだねぇ、僕も文系と言えど之定だからね」
そう言ってお社の中央へと立った歌仙は、転送の始まった装置に自分をどこか心配そうに見やる主へと視線を落とすとふと、その口元に弧を描いた。
「それじゃぁ主、行ってくるよ」
「い、いって……らっしゃい」
何が起こっているのか半分も理解はしていないであろう君主に、それでも小さく自分へと手を振った夢子へと手を振り返した歌仙は瞬きの間に景色の変わったそこを見やるとゆるり、と口元に弧を描いた。
「………あぁ、懐かしい景色だ」
雅に欠ける。と土埃と硝煙の臭いがする合戦場を見やった歌仙は視界に捉えた敵陣に、腰に下げていた刀へと手を伸ばした。
「我こそは之定がひと振り、歌仙兼定なり……!!!」
「ねぇ、こんのすけ君……歌仙は悪いやつらをやっつけに行ったの?」
「そうでございますよ!初陣となりますので多少戦況は厳しくなるとは思いますが」
歌仙が合戦場へと向かったのを見届けたこんのすけは、そうポツリと声を漏らした夢子を見やるとあと数分もしないうちに戻ってくるであろう歌仙に、モニターへと視線を落とした。
帰還を知らせるランプが点滅したことに、そこに表示された『第一部隊重傷一振り』の文字を見やったこんのすけはやはり初陣では勝てませんか。と小さく零すと戻ってきた歌仙を招くためゲートを開いた。
「お疲れ様でした歌仙殿。ささ、手入れ部屋へまいりましょう」
「困ったねぇ、思ったより深手だったようだ……」
「―――っ、歌仙っ!!」
開いたゲートの向こうから現れた歌仙は体中傷だらけで、血の滴る額を押さえる歌仙を見やった夢子は顔面蒼白になるとそんな歌仙へと駆け寄った。
「歌仙っ……!!どうしようっ、歌仙が死んじゃうっ……」
「問題ございませんよ審神者殿!刀剣男士が戦で手傷を負った際は手入れ部屋でその身を手入れすれば怪我もあっという間に完治いたしますから!」
そう言ってささ、こちらへ!と自分を手入れ部屋へと案内するこんのすけは至って普通で、きっと何振りもの刀と審神者に同じ説明を幾度となくしてきたのであろう案内人を見やった歌仙は、自分の着物の裾をきつく握りしめボロボロと涙を流す主へと視線を落とすと痛む体に小さく息を吐き出した。
「さぁこちらが手入れ部屋に御座います!此方は審神者殿の神力を使い傷ついた刀剣男士殿を治療する場となります。手入れ時間は刀の種類、受けた傷の度合いによって違ってきます。またあまり戦場で刀剣を酷使いたしますと“折れて”しまいますので十分お気を付けください。さて、刀剣の手入れの仕方についてですが………」
「こんのすけ、すまないが少し席を外してくれるかい……?」
手入れ部屋につくなりその部屋の仕組みと手入れの仕方について説明を始めたこんのすけに、きっとこんのすけの言葉など聞こえていないであろう君主を見やった歌仙はこんのすけの言葉を遮ると、そんなこんのすけに退室を促すよう戸口を見やった。
「分かりました、では少々席を外させていただきます。審神者殿が落ち着かれましたらまた改めて手入れについてと刀装の生成についてご説明いたしますのでお声がけください」
不意に中断させられた説明に、小さく眉を顰める歌仙を見やったこんのすけは、先ほどから嗚咽交じりに涙を零す審神者へと視線を落とすと一つ頷きそう言って手入れ部屋を後にした。
「………酷だね」
パタリ、と閉じた戸に、否が応でも審神者としての務めをこなしてもらうつもりなのだろうそう言い残していったこんのすけに、小さくそう零した歌仙は未だ泣き続ける主へと視線を落とすとその場に腰を下ろした。
「いつまで泣いているんだい?君が手入れを始めてくれないと僕はずっとこのままだ」
「っヴ………ごめ、なさっ……がぜん、私のせいでケガしたのっ……?」
「それは違う。戦に出るのは刀である僕の定めさ。君は、そんな僕たちを鍛えて統率していくのが仕事なんだ」
戦に怪我はつきものさ、と涙と鼻水で汚れるその顔にソッと手を添えた歌仙はそんな自分を見やり、グッと眉根を寄せ自分にしがみ付いてきた主に驚きに目を瞬かせた。
「ぞんなお仕事、私じだくないっ……!!歌仙にケガさせるお仕事なんてイヤだっ……!!」
そう言ってうわーんっ!と声を上げ泣きじゃくる幼き君主に、まだ年端もいかない少女には厳しいであろう審神者という役目に、小さく眉を下げた歌仙はゆるり、とそんな夢子の頭を撫でやった。
「そうだな、君が嫌だと言えばいつでも審神者は辞められるだろうね。けれど、君がこの本丸からいなくなればきっと僕も刀解されてしまうだろう」
「っ、とーかい……?」
「消えてなくなる、ということさ。僕は存外君のことを気に入ったから、もう会えなくなってしまうのは少し寂しいんだけど、君は僕がいなくなっても平気かい?」
「っ……、いやだ……。やっとできた、家族なんだもんっ……!」
いやだっ!と声を上げ自分を見上げた君主はもう泣いてはおらず、泣きはらした顔で自分を見上げる君主を見やった歌仙は、自分のことを『家族』だと言った夢子を見やるとハタと目を瞬かせ、ひどく楽しげに破顔した。
「はははっ、そうだね、今はまだたった二人きりの家族さ。僕には君が必要で、君には僕が必要だ。だから、さぁ主。僕がまた美味しいご飯を作れるよう、しっかりと手入れをしてくれるかい?」
「………うんっ!!」
そう言って笑って着物の裾で涙をぬぐえばやっと零れた愛らしい笑みに、グシグシと少し乱暴に涙を拭いた夢子はその場から立ち上がるとこんのすけを呼ぶため襖へと歩き出した。
「こんのすけ君!歌仙のケガのなおし方をおしえて!」
「承知いたしました!」
審神者という者
オマケ→
「それじゃぁ戦支度を解いてくるよ」
「うん、ゆっくりおやすみしてね!」
包帯で巻かれた腕や足に、一通り手入れが終わり傷を癒すため床へと就いた歌仙は、ピコン、と自分の上に表示された手入れ時間を見やると、随分と陽の落ちた中庭を見やり目の前の幼き君主へと視線を向けた。
「主、本当に一人で夕餉の支度できるかい?手伝い札を使っても構わないんだよ」
「だいじょーぶ!おにぎりぐらいつくれるもん!歌仙はおにぎりなにが好き?」
「僕はいいから、君の好きなものをお入れ。火は危ないから使ってはいけないよ」
「うん、わかった!じゃぁ歌仙のおにぎりにはウメさん入れてあげるね!」
「あぁ、回廊は走らないこと。あと頭より上にあるものを取るときは必ず台座を使うんだよ」
「うん、わかった!歌仙はゆっくり寝ててね!」
ゆうに6時間は超える手入れ時間に、これじゃぁ主の
掛けられる言葉はどれも自分を心配するものばかりで、まるでお母さんみたいだ、と気恥ずかしそうに笑みを浮かべた夢子は本当に大丈夫かい?と心配そうに自分を見やる歌仙へとまかせて!と言葉を返すと手入れ部屋を後にしたのだった。