夢小説内でのお名前の変更設定
空蝉の春
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ザワザワと少しだけ騒がしい教室内に、あ、お母さんだ!え?どこどこ?と声を潜め言葉を交わすクラスメイトを横目に見やった夢子は、教室の後ろに集まるクラスメイトの父親や母親の姿を見やると手元の作文へと視線を落とした。
年に一度行われるその『授業参観日』に、原稿用紙の最初の一行に自分の文字で書かれている『私の家族』と言う文字を見やった夢子は小さく溜息を吐き出すと、教室内に響いた拍手の音に現へと思考を戻した。
「はい、ありがとうございました。じゃぁ次は夢野さんね」
そう言って自分へとにこやかな笑みを向けた担任にはい。と返事を返した夢子はもう一度手元の作文へと視線を落とすと静かに椅子から立ち上がった。
「『私の家族』5年2組夢野夢子……………」
~~~~
朝の一通りの作業を終え、スミレの花が活けてある一輪挿しを手に審神者部屋へとやってきた歌仙は、数度襖を叩くと失礼するよ、と一言断りを入れ主の居ない部屋へと足を踏み入れた。
今朝も元気よく学校へと向かった主君に、手にしていた一輪挿しを主の机へと飾った歌仙は、それだけでも少し部屋が華やかになったことに満足げにウンウン、と頷くと、机に乱雑に広げられるプリントへと視線を落とし小さく眉を顰めさせた。
「まったくあの子は……書類の管理は相変わらず疎かだな」
今後の予定が書かれる政府からの知らせや、学校からの定期連絡が混じるソレに呆れた様に溜息を吐き出しこれは学び舎、こっちは政府、と通達を二組に分けていた歌仙は、机の側にあるゴミ箱を見やると、そこに一つだけ捨てられている紙屑にハタと目を瞬かせた。
普段であれば資源の有効活用として現世の『資源ゴミ』として出している紙類に、あの子がソレを疎かにするなんて珍しいな、とその中からクシャクシャに丸められた紙屑を拾い上げた歌仙はソレを広げるとそこに書かれる文字を見て怪訝そうに眉を顰めさせた。
「『授業参観』………?なんだろう、政府からの御触れではないようだけど………」
見出しに大きく書かれる『授業参観のお知らせ』という文字に、ソレへと目を通した歌仙は『是非ともお子様の成長を見に来てください!』と最後に書かれていた一文と日付を見やると壁に掛けてあった暦へと視線を向けた。
今日の日付が書かれるきっと学校からなのであろうその通達に、参観と言うことは何かを見学する催しなのだろうか?と小首を傾げた歌仙はその紙を手にこんのすけの元へと向かったのだった。
「あぁ、“授業参観”ですか」
「あぁ、主の部屋にコレがあってね。日付が今日らしいんだが、これはどういった催し物なんだい?」
自分の元へとやってきた歌仙に、差し出された授業参観の紙を見やったこんのすけはそう納得したように声を漏らすと、そう言った歌仙を仰ぎ見てニッコリとその顔に笑みを浮かべて見せた。
「この催し物は基本的に親御様が参加されるもの、審神者殿は元より孤児 、授業を見学に行く御両親も居られませんので何の問題もございませんよ」
だから審神者様もこれをお捨てになられたのでしょう。と言葉にしたこんのすけに、『両親』という言葉を聞いた歌仙は、呆然としたように手元のその紙へと視線を落とした。
いつもであればほんの些細な知らせでも自分達に連絡をする主が、まるで自分達に知られまい、とソレをゴミ箱へと捨てていたことに、あぁ、くそっ、と小さく零した歌仙はきつく奥歯を噛み締めるとそのプリントをグシャリ、と握りしめていた。
「………そういう、問題ではないだろうっ………!!」
参加しようがしまいが差し支えはありませんよ、とカラリと笑うこんのすけにそう声を荒げた歌仙はあの馬鹿娘っ……!!と小さく声を漏らすともう一度そのプリントを見やり、壁に掛けてある時計を見やると慌てた様に自室へと向かったのだった。
立派に育った野菜たちに、それをどこか上機嫌で調理していた燭台切はドタドタドタッ!と廊下から聞こえてきた足音に包丁の手を止めると不思議そうに厨の入口を振り返った。
「燭台切っ……!!燭台切は居るかい?!」
「僕なら此処に居るよ。そんなに慌ててどうしたんだい?歌仙君」
どこかひどく慌てた様に厨へとやって来た歌仙に、息を荒げる歌仙を見やった燭台切は珍しくもスーツに身を包む歌仙にキョトリと目を瞬かせた。
「へぇ、君がスーツなんて珍しいね。よく似合ってるよ!」
「ありがとうっ、だが今はそれどころじゃないんだっ!すまないがこの紐の結び方を教えてくれないか?!」
いつの間に仕立てたのかは分からないが歌仙の体格にピッタリのそのスーツに、ニッコリと笑ってそんな歌仙を絶賛した燭台切は、そんな自分の言葉を一蹴し、ネクタイを自分へと押し付けてきた歌仙を見やるとあぁ、ネクタイって慣れてないと難しいよね、と笑うと包丁を置き、ソレを受け取ると歌仙の首へと回した。
「自分のを結ぶのは慣れてるんだけど人のを結ぶのは少しコツがいるね。コレを此処に通して、輪っかを作って………」
長さはこれくらいかな、と自分がスーツを着ていることがよほど嬉しいのかどこか鼻歌交じりにネクタイを結ぶ燭台切に、腕時計へと視線を落とした歌仙は時間が差し迫っている時計に、あ、少し曲がってるかな?と一度結べたソレをほどこうとする燭台切にすまないがっ、と思わず声を上げていた。
「急いでるんだっ、早くしてくれ!」
「スーツを着るなら格好良く決めなきゃ。はい、出来たよ」
そう言ってうん、いい感じ!とどこか満足げに笑みを浮かべる燭台切に、手にしていたジャケットを羽織った歌仙はありがとうっ…!!と口早に礼を告げるとそのまま厨を出て行こうとして、何かを思い出したようにもう一度燭台切を振り返った。
「あぁ、あとすまないが今日の夕餉だけど少し豪勢にしておいてくれないか?!よろしく頼むよ……!!」
そう言うと戸口へと駆け出した歌仙に、オーケー任せておいて!とハンズアップした燭台切はあぁ、そうだと声を漏らすとヒョコリ、と厨から顔を覗かせ歌仙の背へと声を掛けた。
「歌仙君!履物は僕のを履いていくといいよ!」
「恩に着る……!!」
そう声を掛ければ返ってきた返事に、じゃぁ行ってくる!!と本丸を出て行った歌仙へと行ってらっしゃい。と手を振った燭台切はやはり何処か慌てた様子だった歌仙を見やると、何かあったんだろうか?と不思議そうに小首を傾げ夕餉の支度へと戻ったのだった。
~~~~~~
無数の扉が連なる廊下に、『5-2』と書かれたクラスの番号を仰ぎ見た歌仙は此処かっ、と小さく声を漏らすと引き戸へと手を伸ばした。
「すまないっ、遅れたっ……!!」
そう声を上げ教室へと入ってきた若い男性に、少しざわついた教室に席を立っていた夢子はその場に現れた見知ったその顔を見やるとギョッと目を見開いた。
「?!!!かせっ………」
スーツに身を包みその場に現れた近侍に、息を荒らげる歌仙を見やった夢子は思わず漏れそうになった声をグッと、堪えると、自分へと非難の視線を向けた歌仙に慌てた様に歌仙から視線を逸らすと手元の作文へと視線を落とした。
何度も書いては消してを繰り返しやっと昨日完成したその発表文に、開きかけた口を一度閉じた夢子は他の父母に交じりその場に立つ歌仙をチラリ、と見やると一つ息を吐き出し小さく背筋を伸ばした。
「『私の家族』…………私には、物心着いた頃から両親がいません…………」
そう言って言葉を切った夢子に、シン、と静まり返った教室を見やった歌仙はただ真っすぐに前だけを見つめる主の背を見やるとその眉間にきつく皺を寄せた。
(…………やはり、僕達のことなど話せる訳が無い)
『授業参観のお知らせ』に書かれてあった授業の内容に、少し騒めき出した教室を横目に見やり小さく手を握りしめた歌仙は、けれど、と言葉を続けた夢子に、小さな主の背へと視線を戻した。
「両親がいない代わりに私には、沢山の兄弟が居ます。料理がとても上手い光忠お兄ちゃんはいつも美味しいご飯を皆に作ってくれます。太郎兄さんはとても背が大きくて、少し無口だけどとても優しい人です。
よく縁側でお茶をしてる鶯兄さんはまぁ、ときどきその日の当番をサボったりもするけれどとても家族想いなお兄さんです。
人の事を驚かせたりするのが好きで少し子供っぽい鶴丸兄さんや、皆のまとめ役のような石切兄さん。
私と歳の近い薬研君は、とても面倒見が良くて他の小さな兄弟達からも頼りにされています。
長谷部兄さんは心配性なのか高学年になった今でも授業が終わるとよく学校まで迎えに来てくれたり………」
そう挙げられていく本丸にいる刀剣達の名前に、どこか少し呆けたようにそんな主の発表を聞いていた歌仙は、そこで言葉を切り、一度自分を振り返った主を見やるとキョトリと目を瞬かせた。
歌仙を見やり少しだけ困ったように笑みを浮かべた夢子は不思議そうに自分を見やる歌仙から前へと向き直ると、もう一度その作文へと視線を落とし、ふとその口元に弧を描いた。
「………そんな施設に沢山いる兄達の中でも、一番に私の事を気にかけてくれるのは、今日此処に来てくれた歌仙お兄ちゃんです。歌仙お兄ちゃんは少し口煩くて世話焼きで、……でもとても料理が上手で、優しい兄です。小さな頃からずっと私の傍にいてくれた、私にとっては……父親であり、母親でもある歌仙お兄ちゃんは、他の兄弟よりちょっとだけ特別な存在です。
………私には父親や母親は居ないけれど、その代わりに沢山の兄弟がいてくれます。血の繋がりはないけれど、そこにいてくれる皆が私にとってはかけがえのない大切な家族です。
まだまだ沢山紹介をしたい兄弟はいるけれどこれで終わります」
そう言って小さく頭を下げて席に着いた夢子に、そんな主へと贈られる拍手を耳にした歌仙はどこか気恥ずかしそうに顔を俯かせる主の背を見やるとその眉を下げ、ふと口元に弧を描いた。
(………あぁ、他の者達にも聞かせてあげたかったな………)
授業終了のチャイムが鳴り響く校内に、手早く教科書をカバンへと詰めた夢子は自分や歌仙の周りに集まりだしたクラスメイトへとバイバイッ!と声を掛けると、歌仙の手を引き逃げるように教室を後にした。
「それで、主……?僕に何か言うことがあるんじゃないかい?」
「…………来るなんて思わなかった………」
教室を出てすぐに掛けられた声にビクリ、と肩を震わせた夢子は咎めるような視線を自分へと向ける近侍を見やると、ソッとそんな歌仙から視線を逸らした。
「それはそうだろうね。君は学舎からの御触れを屑篭に捨てていたしね」
「だって、まさか歌仙がゴミ箱漁るなんて思わなかったんだもん………」
そう溜息を吐き出せば不貞腐れた様に返された言葉に、小さく眉を顰めさせた歌仙は前を歩く主の腕を掴むとそんな主の前へと歩み出た。
「聞こえの悪い言い方をしないでくれ。だいたい、何故こんな大事なことを言わなかったんだい……?」
そう少しだけ咎めるように言葉にすれば逸らされる視線に、僕の目を見ろ、と言葉を続けようとした歌仙はだって…、と小さく零された言葉に口を閉じると、小さく手を握りしめた主を見やりソッとその身を折った。
顔を俯かせる主と目線を合わせるよう膝を折った歌仙は、なんだい?と声を掛けた自分に、チラリ、と自分を見やりひどくバツが悪そうに視線を逸らした主を見やると、あやすようにそんな主の頭を撫でやった。
「……歌仙や光忠は内番で忙しいだろうし、石切丸や太郎さんは短刀の子達と遠征に出てもらってるから………」
そう小さく零された言葉は自分達のことを気に掛けるもので、それに小さく溜息を吐き出した歌仙は非番の者に頼めば良かっただろう、と言った自分に再び零されただって…、という声を聞くと不思議そうに主を見やった。
「………いち兄や長谷部だって、久しぶりの非番だったから頼み辛くて……」
「一期一振や長谷部でなくても、君の頼みなら皆喜んで来てくれるさ」
そう言ってまったく困った主だね。と苦笑を漏らす歌仙はもう怒っていないようで、ポンポン、とあやすように頭を撫でる歌仙を見やった夢子はグッと口を引き結ぶとそんな歌仙の手をソッと握りしめた。
「…………黙っててごめんなさい………来てくれて、ありがとう。凄く嬉しかった………」
そう言葉にすれば溢れてきた涙に、ソレを堪えるようきつく口を閉じた夢子はそんな自分を見やり苦笑を漏らした歌仙に、ほら、泣かないでくれ。と笑いながら涙を拭う歌仙を見やると一つ息を吐き出し、うん。とその顔に笑みを浮かべて見せた。
「とても良い文だったね。本丸の皆にも聞かせてあげたかったよ」
「は、恥ずかしいから絶対に嫌………」
直ぐに収まった涙に、そう言って自分の手を取り立ち上がった歌仙を見やった夢子は楽しげに笑みを浮かべる歌仙を見やるとグッと言葉を詰まらせ、クスクスと笑う歌仙に気恥ずかしそうにその眉を寄せるとそんな歌仙の手を引き帰ろ。と廊下を歩き出した。
「豊前国の君」
「っ、はい!って、え………?」
不意にその背に掛けられた声に、咄嗟に返事を返していた夢子は現世では決して呼ばれることのないその呼び名に、ハタと目を瞬かせると声のした方を振り返った。
「せ、先生……?」
「ふふっ、やっぱり貴女豊前国の審神者なのね。話に聞いてたけどまさか自分の教え子だなんて思わなかったわ」
そう言って楽しげにその顔を綻ばせこちらにやって来たのは自分の担任で、自分の前に立つ教師を呆けたように仰ぎ見ていた夢子は、スッと自分の前に立った歌仙を見やるとハタと目を瞬かせた。
「君は……、確か越前国の審神者だったよね?」
「あら、よく知ってたわね。改めまして、豊前の審神者さん。私は越前国の審神者で3295よ」
そう言ってどこか警戒するように自分を見下ろす歌仙兼定にふふ、と笑みを浮かべそう名乗った教師は呆ける教え子を見やるとことさらその笑みを深めさせた。
「せ、先生も審神者だったんですか……?」
「就任したのは1年前ぐらいだけれどね。直接演練で当たったことはないけれど、何度か貴女の事見かけてたから何となくそんな気はしてたわ」
私と貴女じゃ刀剣達の練度も審神者レベルも違いすぎて手合わせできないもの、と苦笑を漏らした担任に、そうなの?と歌仙を仰ぎ見た夢子はあぁ、顔だけは見たことあるよ。と頷いた歌仙に、目の前の担任を見やるとはぁ、と感嘆の声を漏らしていた。
「まさかこんなに身近に同じ審神者がいるなんて思わなかった……」
「ふふっ、同じ審神者同士仲良くしましょうね!あと、審神者歴で言えば貴女の方が先輩だから、色々教えてくれると助かるわ!」
そう声を弾ませ自分の手を取った担任はとても楽しげで、また一つ増えた審神者の繋がりにはいっ、と緊張したように言葉を返した夢子は、そんな自分に笑みを浮かべ、隣りに立つ近侍へと視線を向けた教師に歌仙を仰ぎ見た。
「でもまさか刀剣男士が授業参観に来るなんてビックリしたわ。貴方、スーツ良く似合うじゃない」
私の歌仙にも着させようかしら、と自分のことを上から下まで見やりそう零した目の前の女に、ひどく嫌そうに眉を顰めさせた歌仙はフン、と鼻息を漏らすとそんな彼女から顔を背けた。
「冗談じゃないね。こんな機動性に欠ける服、この子の為でなければ一生着るつもりもなかったさ」
「私からしてみれば着物の方が動きづらいと思うんだけどなぁ………」
特に歌仙や兼さん、と“スーツ姿の歌仙”を奇跡的に見ることが出来た今回の出来事に、普段から内番服や戦装束でも着物を愛用する歌仙や和泉守のことを思い出し歌仙へとそう言葉を返した夢子は、そんな自分達を見やりふふ、と笑った担任を不思議そうに見やった。
「主が大切で仕方ないって感じねぇ」
「え?」
「………で?わざわざ僕らを呼び止めたんだ、何か他に聞きたいことがあるんだろう?」
そう言って私の歌仙もこれぐらいだったら良いのに、とどこか楽しげに笑った担任は、そんな自分を見やり嫌そうに眉を顰めさせた歌仙に、用件を伺おうか。と言葉を続けた歌仙に小さく肩をすくませた。
「あらヤダそんなに睨まないでちょうだい。別に貴方の主に何かしようなんて思ってないわ」
そう言ってふふ、と笑った教師に、怪訝そうに眉を顰めさせた歌仙はそんな自分から夢子へと視線を落とした教師を見やると同じように隣に立つ主君を横目に見やった。
「ね!豊前の審神者さん!貴女鶴丸国永や鶯丸を持っているんでしょ?!その時の近侍と鍛刀レシピを教えて欲しいの!!」
そう言ってギュッと握りしめられた手に、目を輝かせ自分を見つめる担任を見やった夢子はポカン、と呆けた様に口を開けるとパチパチと目を瞬かせた。
「え………?れ、れしぴ………??」
「そう!私の所どれだけ資材溶かしても鶴丸国永も鶯丸も来てくれなくてっ!!あぁ、良ければ太郎太刀のレシピも教えてくれないかしら?!」
岩融はいる?!三日月は?!と矢継ぎ早に言葉を投げかける担任に小さくたじろいだ夢子は、岩融は今遠征に行ってます…、と言葉を返した自分にことさらその目を輝かせた教師を見やると困ったように苦笑いを浮かべ、不意に引かれた腕に小さく驚きの声を漏らすとたたらを踏んだ。
「か、歌仙……?」
「別に他所の審神者がやる事をとやかくいうつもりはないけれどね、僕の主にまで迷惑をかけないでくれないかい?それに、そんなにレア刀が欲しいのならば君の所の石切丸にでも祈祷してもらったらどうだい……?」
そう言って担任をどこか睨み付けるように見やった歌仙に、行くよ!と腕を引き歩き出してしまった歌仙に引きずられるように歩き出した夢子は、石切丸も居ないのよ!とそう声を上げ地団駄を踏んむ担任を見やると、遠ざかる自分へとお願いねー!と手を振った教師を一瞥し、どこか苛立たし気に前を歩く歌仙を仰ぎ見た。
「歌仙………?何怒ってるの……?」
「僕達のれしぴだと?巫山戯るなっ……!!だいたいあの女はただ単に珍しい刀が欲しいだけじゃないかっ」
ズンズンと大股で歩く歌仙に、小走りになりながらそんな歌仙の背へと声を掛けた夢子は、そう言って苛立たしげに声を漏らした歌仙を見やると、いつだったか良くもまぁこれだけレア刀ばかり鍛刀出来るものだ。と自分を皮肉っていた上層部の言葉を思い出し、先程の教師の言葉に手を引く歌仙を仰ぎ見た。
「ねぇ、歌仙。もしかしたら先生の所、大太刀とかが居ないのかも」
「………だったらなんだって言うんだ」
石切丸も居ないって言ってたし、と自分の隣に並んだ主に、やっとその歩調を緩めた歌仙はそんな自分を見やり、ふと笑みを浮かべた主君を見やると怪訝そうに眉を顰めさせた。
「私もね、初めて太郎さんが来てくれた時凄く心強かったよ。今まで行けなかった大阪とかも太郎さんが居たから行けれるようになったし。歌仙だって助かるって言ってたじゃない」
「…………大太刀は攻撃範囲が広いからね。確かに太郎太刀が来てくれてかなり僕や薬研への負担は減ったしね………」
「………そ、その節は本当に申し訳なかったと………」
誰かさんが頑なに鍛刀したがらなかったせいで、と自分へと非難めいた視線を寄越した歌仙に墓穴を掘ったか…、とバツが悪そうにそんな歌仙からソッと視線を逸らした夢子は自分の反応を見てどこか可笑し気に笑う歌仙を見やると不貞腐れた様に頬を膨らませた。
「まぁ、だからさっ、多分先生の所にも大太刀が一振りでも居てくれれば心強いと思うんだ!」
「…………まぁ、君がいいなら良いけれど………」
そう話を戻すように声を上げた主に、確かに大太刀が居ないのは勢力としても厳しいか、と本丸が出来た当初のことを思い出していた歌仙も、ただ純粋にその教師のことを心配しているのだろう主君を見やるとそう言って小さく苦笑を漏らした。
「ふふっ、ありがとう歌仙!あ、スーツ姿良く似合ってるよ!私の為にありがとうね」
そう言って、至極嬉しそうに顔を綻ばせた主に、ふとその口元に弧を描いた歌仙もあぁ、と言葉を返すとゆるり、とそんな主の頭を撫でやった。
私の家族
SSオマケ→
「先生、これ鶴丸や鶯丸達の資材配分です」
「あ、ありがとうっ!!夢野さん!!ホント助かるわっ……!!」
翌日には渡すことの出来た担任御所望の“鍛刀レシピ”に、そう言って数枚の和紙を差し出した夢子はそんな自分を見やり、ギュッと手を握りしめた担任を見やるとその目に涙を浮かべる彼女にハハハ…、と苦笑いを浮かべた。
きっとよほど困っていたのだろう彼女に、これで先生の本丸も安泰かな、とその顔を綻ばせていた夢子は、鍛刀レシピに目を通し、え…?と声を漏らした担任にキョトリと目を瞬かせた。
「先生、どうしたんです?」
「えーと………え?貴女、近侍が薬研で太郎太刀出してるの………?」
「え?はい、そうですよ?その時は富士札にも余裕があったのでそれも使ったんですけど」
それがどうしたんですか?と小首を傾げた夢子はそんな自分を見やりんー……、と悩ましげに声を漏らした担任に、レシピへと視線を落とした彼女を見やると同じように自作のそのレシピを覗き込んだ。
「私の本丸今札が枯渇してるのよねー………。しかたない、太郎太刀また今度にしましょ。えーと、鶴丸国永は……近侍が……一期一振……?ちょ、待った待った……私一期一振居ないんだけど……じゃ、じゃぁ鶯丸からかしら………」
「あ………鶯丸は、近侍が江雪左文字だったんですけど、先生の所は顕現してますか?」
「………居ないわ。ことごとく負の連鎖ね………まぁ、いいわ兎に角このレシピで資材溶かしてみるわ!ありがとう!」
「いえ、良縁があると良いですね!あ!これウチの石切丸から良縁祈願のお守りです!」
良い御縁に恵まれると良いね、って言ってました!とポケットから神気を帯びた御守を取り出した教え子に、屈託のない笑みを浮かべる目の前の審神者を見やった担任は、多少なりとも邪な気持ちを持っていることへの罪悪感にヴッ…、とそんな夢子から視線を逸らすと申し訳なさそうにその御守を受け取った。
「あ、ありがとう………大切にするわね……」
(多分……この子みたいな無欲な審神者の所だからレア刀が来るんだろうな………)
後書
サラッと岩融顕現してたりする弊本丸
ちなみにその時の近侍は今剣だったりする(/・ω・)/
年に一度行われるその『授業参観日』に、原稿用紙の最初の一行に自分の文字で書かれている『私の家族』と言う文字を見やった夢子は小さく溜息を吐き出すと、教室内に響いた拍手の音に現へと思考を戻した。
「はい、ありがとうございました。じゃぁ次は夢野さんね」
そう言って自分へとにこやかな笑みを向けた担任にはい。と返事を返した夢子はもう一度手元の作文へと視線を落とすと静かに椅子から立ち上がった。
「『私の家族』5年2組夢野夢子……………」
~~~~
朝の一通りの作業を終え、スミレの花が活けてある一輪挿しを手に審神者部屋へとやってきた歌仙は、数度襖を叩くと失礼するよ、と一言断りを入れ主の居ない部屋へと足を踏み入れた。
今朝も元気よく学校へと向かった主君に、手にしていた一輪挿しを主の机へと飾った歌仙は、それだけでも少し部屋が華やかになったことに満足げにウンウン、と頷くと、机に乱雑に広げられるプリントへと視線を落とし小さく眉を顰めさせた。
「まったくあの子は……書類の管理は相変わらず疎かだな」
今後の予定が書かれる政府からの知らせや、学校からの定期連絡が混じるソレに呆れた様に溜息を吐き出しこれは学び舎、こっちは政府、と通達を二組に分けていた歌仙は、机の側にあるゴミ箱を見やると、そこに一つだけ捨てられている紙屑にハタと目を瞬かせた。
普段であれば資源の有効活用として現世の『資源ゴミ』として出している紙類に、あの子がソレを疎かにするなんて珍しいな、とその中からクシャクシャに丸められた紙屑を拾い上げた歌仙はソレを広げるとそこに書かれる文字を見て怪訝そうに眉を顰めさせた。
「『授業参観』………?なんだろう、政府からの御触れではないようだけど………」
見出しに大きく書かれる『授業参観のお知らせ』という文字に、ソレへと目を通した歌仙は『是非ともお子様の成長を見に来てください!』と最後に書かれていた一文と日付を見やると壁に掛けてあった暦へと視線を向けた。
今日の日付が書かれるきっと学校からなのであろうその通達に、参観と言うことは何かを見学する催しなのだろうか?と小首を傾げた歌仙はその紙を手にこんのすけの元へと向かったのだった。
「あぁ、“授業参観”ですか」
「あぁ、主の部屋にコレがあってね。日付が今日らしいんだが、これはどういった催し物なんだい?」
自分の元へとやってきた歌仙に、差し出された授業参観の紙を見やったこんのすけはそう納得したように声を漏らすと、そう言った歌仙を仰ぎ見てニッコリとその顔に笑みを浮かべて見せた。
「この催し物は基本的に親御様が参加されるもの、審神者殿は元より
だから審神者様もこれをお捨てになられたのでしょう。と言葉にしたこんのすけに、『両親』という言葉を聞いた歌仙は、呆然としたように手元のその紙へと視線を落とした。
いつもであればほんの些細な知らせでも自分達に連絡をする主が、まるで自分達に知られまい、とソレをゴミ箱へと捨てていたことに、あぁ、くそっ、と小さく零した歌仙はきつく奥歯を噛み締めるとそのプリントをグシャリ、と握りしめていた。
「………そういう、問題ではないだろうっ………!!」
参加しようがしまいが差し支えはありませんよ、とカラリと笑うこんのすけにそう声を荒げた歌仙はあの馬鹿娘っ……!!と小さく声を漏らすともう一度そのプリントを見やり、壁に掛けてある時計を見やると慌てた様に自室へと向かったのだった。
立派に育った野菜たちに、それをどこか上機嫌で調理していた燭台切はドタドタドタッ!と廊下から聞こえてきた足音に包丁の手を止めると不思議そうに厨の入口を振り返った。
「燭台切っ……!!燭台切は居るかい?!」
「僕なら此処に居るよ。そんなに慌ててどうしたんだい?歌仙君」
どこかひどく慌てた様に厨へとやって来た歌仙に、息を荒げる歌仙を見やった燭台切は珍しくもスーツに身を包む歌仙にキョトリと目を瞬かせた。
「へぇ、君がスーツなんて珍しいね。よく似合ってるよ!」
「ありがとうっ、だが今はそれどころじゃないんだっ!すまないがこの紐の結び方を教えてくれないか?!」
いつの間に仕立てたのかは分からないが歌仙の体格にピッタリのそのスーツに、ニッコリと笑ってそんな歌仙を絶賛した燭台切は、そんな自分の言葉を一蹴し、ネクタイを自分へと押し付けてきた歌仙を見やるとあぁ、ネクタイって慣れてないと難しいよね、と笑うと包丁を置き、ソレを受け取ると歌仙の首へと回した。
「自分のを結ぶのは慣れてるんだけど人のを結ぶのは少しコツがいるね。コレを此処に通して、輪っかを作って………」
長さはこれくらいかな、と自分がスーツを着ていることがよほど嬉しいのかどこか鼻歌交じりにネクタイを結ぶ燭台切に、腕時計へと視線を落とした歌仙は時間が差し迫っている時計に、あ、少し曲がってるかな?と一度結べたソレをほどこうとする燭台切にすまないがっ、と思わず声を上げていた。
「急いでるんだっ、早くしてくれ!」
「スーツを着るなら格好良く決めなきゃ。はい、出来たよ」
そう言ってうん、いい感じ!とどこか満足げに笑みを浮かべる燭台切に、手にしていたジャケットを羽織った歌仙はありがとうっ…!!と口早に礼を告げるとそのまま厨を出て行こうとして、何かを思い出したようにもう一度燭台切を振り返った。
「あぁ、あとすまないが今日の夕餉だけど少し豪勢にしておいてくれないか?!よろしく頼むよ……!!」
そう言うと戸口へと駆け出した歌仙に、オーケー任せておいて!とハンズアップした燭台切はあぁ、そうだと声を漏らすとヒョコリ、と厨から顔を覗かせ歌仙の背へと声を掛けた。
「歌仙君!履物は僕のを履いていくといいよ!」
「恩に着る……!!」
そう声を掛ければ返ってきた返事に、じゃぁ行ってくる!!と本丸を出て行った歌仙へと行ってらっしゃい。と手を振った燭台切はやはり何処か慌てた様子だった歌仙を見やると、何かあったんだろうか?と不思議そうに小首を傾げ夕餉の支度へと戻ったのだった。
~~~~~~
無数の扉が連なる廊下に、『5-2』と書かれたクラスの番号を仰ぎ見た歌仙は此処かっ、と小さく声を漏らすと引き戸へと手を伸ばした。
「すまないっ、遅れたっ……!!」
そう声を上げ教室へと入ってきた若い男性に、少しざわついた教室に席を立っていた夢子はその場に現れた見知ったその顔を見やるとギョッと目を見開いた。
「?!!!かせっ………」
スーツに身を包みその場に現れた近侍に、息を荒らげる歌仙を見やった夢子は思わず漏れそうになった声をグッと、堪えると、自分へと非難の視線を向けた歌仙に慌てた様に歌仙から視線を逸らすと手元の作文へと視線を落とした。
何度も書いては消してを繰り返しやっと昨日完成したその発表文に、開きかけた口を一度閉じた夢子は他の父母に交じりその場に立つ歌仙をチラリ、と見やると一つ息を吐き出し小さく背筋を伸ばした。
「『私の家族』…………私には、物心着いた頃から両親がいません…………」
そう言って言葉を切った夢子に、シン、と静まり返った教室を見やった歌仙はただ真っすぐに前だけを見つめる主の背を見やるとその眉間にきつく皺を寄せた。
(…………やはり、僕達のことなど話せる訳が無い)
『授業参観のお知らせ』に書かれてあった授業の内容に、少し騒めき出した教室を横目に見やり小さく手を握りしめた歌仙は、けれど、と言葉を続けた夢子に、小さな主の背へと視線を戻した。
「両親がいない代わりに私には、沢山の兄弟が居ます。料理がとても上手い光忠お兄ちゃんはいつも美味しいご飯を皆に作ってくれます。太郎兄さんはとても背が大きくて、少し無口だけどとても優しい人です。
よく縁側でお茶をしてる鶯兄さんはまぁ、ときどきその日の当番をサボったりもするけれどとても家族想いなお兄さんです。
人の事を驚かせたりするのが好きで少し子供っぽい鶴丸兄さんや、皆のまとめ役のような石切兄さん。
私と歳の近い薬研君は、とても面倒見が良くて他の小さな兄弟達からも頼りにされています。
長谷部兄さんは心配性なのか高学年になった今でも授業が終わるとよく学校まで迎えに来てくれたり………」
そう挙げられていく本丸にいる刀剣達の名前に、どこか少し呆けたようにそんな主の発表を聞いていた歌仙は、そこで言葉を切り、一度自分を振り返った主を見やるとキョトリと目を瞬かせた。
歌仙を見やり少しだけ困ったように笑みを浮かべた夢子は不思議そうに自分を見やる歌仙から前へと向き直ると、もう一度その作文へと視線を落とし、ふとその口元に弧を描いた。
「………そんな施設に沢山いる兄達の中でも、一番に私の事を気にかけてくれるのは、今日此処に来てくれた歌仙お兄ちゃんです。歌仙お兄ちゃんは少し口煩くて世話焼きで、……でもとても料理が上手で、優しい兄です。小さな頃からずっと私の傍にいてくれた、私にとっては……父親であり、母親でもある歌仙お兄ちゃんは、他の兄弟よりちょっとだけ特別な存在です。
………私には父親や母親は居ないけれど、その代わりに沢山の兄弟がいてくれます。血の繋がりはないけれど、そこにいてくれる皆が私にとってはかけがえのない大切な家族です。
まだまだ沢山紹介をしたい兄弟はいるけれどこれで終わります」
そう言って小さく頭を下げて席に着いた夢子に、そんな主へと贈られる拍手を耳にした歌仙はどこか気恥ずかしそうに顔を俯かせる主の背を見やるとその眉を下げ、ふと口元に弧を描いた。
(………あぁ、他の者達にも聞かせてあげたかったな………)
授業終了のチャイムが鳴り響く校内に、手早く教科書をカバンへと詰めた夢子は自分や歌仙の周りに集まりだしたクラスメイトへとバイバイッ!と声を掛けると、歌仙の手を引き逃げるように教室を後にした。
「それで、主……?僕に何か言うことがあるんじゃないかい?」
「…………来るなんて思わなかった………」
教室を出てすぐに掛けられた声にビクリ、と肩を震わせた夢子は咎めるような視線を自分へと向ける近侍を見やると、ソッとそんな歌仙から視線を逸らした。
「それはそうだろうね。君は学舎からの御触れを屑篭に捨てていたしね」
「だって、まさか歌仙がゴミ箱漁るなんて思わなかったんだもん………」
そう溜息を吐き出せば不貞腐れた様に返された言葉に、小さく眉を顰めさせた歌仙は前を歩く主の腕を掴むとそんな主の前へと歩み出た。
「聞こえの悪い言い方をしないでくれ。だいたい、何故こんな大事なことを言わなかったんだい……?」
そう少しだけ咎めるように言葉にすれば逸らされる視線に、僕の目を見ろ、と言葉を続けようとした歌仙はだって…、と小さく零された言葉に口を閉じると、小さく手を握りしめた主を見やりソッとその身を折った。
顔を俯かせる主と目線を合わせるよう膝を折った歌仙は、なんだい?と声を掛けた自分に、チラリ、と自分を見やりひどくバツが悪そうに視線を逸らした主を見やると、あやすようにそんな主の頭を撫でやった。
「……歌仙や光忠は内番で忙しいだろうし、石切丸や太郎さんは短刀の子達と遠征に出てもらってるから………」
そう小さく零された言葉は自分達のことを気に掛けるもので、それに小さく溜息を吐き出した歌仙は非番の者に頼めば良かっただろう、と言った自分に再び零されただって…、という声を聞くと不思議そうに主を見やった。
「………いち兄や長谷部だって、久しぶりの非番だったから頼み辛くて……」
「一期一振や長谷部でなくても、君の頼みなら皆喜んで来てくれるさ」
そう言ってまったく困った主だね。と苦笑を漏らす歌仙はもう怒っていないようで、ポンポン、とあやすように頭を撫でる歌仙を見やった夢子はグッと口を引き結ぶとそんな歌仙の手をソッと握りしめた。
「…………黙っててごめんなさい………来てくれて、ありがとう。凄く嬉しかった………」
そう言葉にすれば溢れてきた涙に、ソレを堪えるようきつく口を閉じた夢子はそんな自分を見やり苦笑を漏らした歌仙に、ほら、泣かないでくれ。と笑いながら涙を拭う歌仙を見やると一つ息を吐き出し、うん。とその顔に笑みを浮かべて見せた。
「とても良い文だったね。本丸の皆にも聞かせてあげたかったよ」
「は、恥ずかしいから絶対に嫌………」
直ぐに収まった涙に、そう言って自分の手を取り立ち上がった歌仙を見やった夢子は楽しげに笑みを浮かべる歌仙を見やるとグッと言葉を詰まらせ、クスクスと笑う歌仙に気恥ずかしそうにその眉を寄せるとそんな歌仙の手を引き帰ろ。と廊下を歩き出した。
「豊前国の君」
「っ、はい!って、え………?」
不意にその背に掛けられた声に、咄嗟に返事を返していた夢子は現世では決して呼ばれることのないその呼び名に、ハタと目を瞬かせると声のした方を振り返った。
「せ、先生……?」
「ふふっ、やっぱり貴女豊前国の審神者なのね。話に聞いてたけどまさか自分の教え子だなんて思わなかったわ」
そう言って楽しげにその顔を綻ばせこちらにやって来たのは自分の担任で、自分の前に立つ教師を呆けたように仰ぎ見ていた夢子は、スッと自分の前に立った歌仙を見やるとハタと目を瞬かせた。
「君は……、確か越前国の審神者だったよね?」
「あら、よく知ってたわね。改めまして、豊前の審神者さん。私は越前国の審神者で3295よ」
そう言ってどこか警戒するように自分を見下ろす歌仙兼定にふふ、と笑みを浮かべそう名乗った教師は呆ける教え子を見やるとことさらその笑みを深めさせた。
「せ、先生も審神者だったんですか……?」
「就任したのは1年前ぐらいだけれどね。直接演練で当たったことはないけれど、何度か貴女の事見かけてたから何となくそんな気はしてたわ」
私と貴女じゃ刀剣達の練度も審神者レベルも違いすぎて手合わせできないもの、と苦笑を漏らした担任に、そうなの?と歌仙を仰ぎ見た夢子はあぁ、顔だけは見たことあるよ。と頷いた歌仙に、目の前の担任を見やるとはぁ、と感嘆の声を漏らしていた。
「まさかこんなに身近に同じ審神者がいるなんて思わなかった……」
「ふふっ、同じ審神者同士仲良くしましょうね!あと、審神者歴で言えば貴女の方が先輩だから、色々教えてくれると助かるわ!」
そう声を弾ませ自分の手を取った担任はとても楽しげで、また一つ増えた審神者の繋がりにはいっ、と緊張したように言葉を返した夢子は、そんな自分に笑みを浮かべ、隣りに立つ近侍へと視線を向けた教師に歌仙を仰ぎ見た。
「でもまさか刀剣男士が授業参観に来るなんてビックリしたわ。貴方、スーツ良く似合うじゃない」
私の歌仙にも着させようかしら、と自分のことを上から下まで見やりそう零した目の前の女に、ひどく嫌そうに眉を顰めさせた歌仙はフン、と鼻息を漏らすとそんな彼女から顔を背けた。
「冗談じゃないね。こんな機動性に欠ける服、この子の為でなければ一生着るつもりもなかったさ」
「私からしてみれば着物の方が動きづらいと思うんだけどなぁ………」
特に歌仙や兼さん、と“スーツ姿の歌仙”を奇跡的に見ることが出来た今回の出来事に、普段から内番服や戦装束でも着物を愛用する歌仙や和泉守のことを思い出し歌仙へとそう言葉を返した夢子は、そんな自分達を見やりふふ、と笑った担任を不思議そうに見やった。
「主が大切で仕方ないって感じねぇ」
「え?」
「………で?わざわざ僕らを呼び止めたんだ、何か他に聞きたいことがあるんだろう?」
そう言って私の歌仙もこれぐらいだったら良いのに、とどこか楽しげに笑った担任は、そんな自分を見やり嫌そうに眉を顰めさせた歌仙に、用件を伺おうか。と言葉を続けた歌仙に小さく肩をすくませた。
「あらヤダそんなに睨まないでちょうだい。別に貴方の主に何かしようなんて思ってないわ」
そう言ってふふ、と笑った教師に、怪訝そうに眉を顰めさせた歌仙はそんな自分から夢子へと視線を落とした教師を見やると同じように隣に立つ主君を横目に見やった。
「ね!豊前の審神者さん!貴女鶴丸国永や鶯丸を持っているんでしょ?!その時の近侍と鍛刀レシピを教えて欲しいの!!」
そう言ってギュッと握りしめられた手に、目を輝かせ自分を見つめる担任を見やった夢子はポカン、と呆けた様に口を開けるとパチパチと目を瞬かせた。
「え………?れ、れしぴ………??」
「そう!私の所どれだけ資材溶かしても鶴丸国永も鶯丸も来てくれなくてっ!!あぁ、良ければ太郎太刀のレシピも教えてくれないかしら?!」
岩融はいる?!三日月は?!と矢継ぎ早に言葉を投げかける担任に小さくたじろいだ夢子は、岩融は今遠征に行ってます…、と言葉を返した自分にことさらその目を輝かせた教師を見やると困ったように苦笑いを浮かべ、不意に引かれた腕に小さく驚きの声を漏らすとたたらを踏んだ。
「か、歌仙……?」
「別に他所の審神者がやる事をとやかくいうつもりはないけれどね、僕の主にまで迷惑をかけないでくれないかい?それに、そんなにレア刀が欲しいのならば君の所の石切丸にでも祈祷してもらったらどうだい……?」
そう言って担任をどこか睨み付けるように見やった歌仙に、行くよ!と腕を引き歩き出してしまった歌仙に引きずられるように歩き出した夢子は、石切丸も居ないのよ!とそう声を上げ地団駄を踏んむ担任を見やると、遠ざかる自分へとお願いねー!と手を振った教師を一瞥し、どこか苛立たし気に前を歩く歌仙を仰ぎ見た。
「歌仙………?何怒ってるの……?」
「僕達のれしぴだと?巫山戯るなっ……!!だいたいあの女はただ単に珍しい刀が欲しいだけじゃないかっ」
ズンズンと大股で歩く歌仙に、小走りになりながらそんな歌仙の背へと声を掛けた夢子は、そう言って苛立たしげに声を漏らした歌仙を見やると、いつだったか良くもまぁこれだけレア刀ばかり鍛刀出来るものだ。と自分を皮肉っていた上層部の言葉を思い出し、先程の教師の言葉に手を引く歌仙を仰ぎ見た。
「ねぇ、歌仙。もしかしたら先生の所、大太刀とかが居ないのかも」
「………だったらなんだって言うんだ」
石切丸も居ないって言ってたし、と自分の隣に並んだ主に、やっとその歩調を緩めた歌仙はそんな自分を見やり、ふと笑みを浮かべた主君を見やると怪訝そうに眉を顰めさせた。
「私もね、初めて太郎さんが来てくれた時凄く心強かったよ。今まで行けなかった大阪とかも太郎さんが居たから行けれるようになったし。歌仙だって助かるって言ってたじゃない」
「…………大太刀は攻撃範囲が広いからね。確かに太郎太刀が来てくれてかなり僕や薬研への負担は減ったしね………」
「………そ、その節は本当に申し訳なかったと………」
誰かさんが頑なに鍛刀したがらなかったせいで、と自分へと非難めいた視線を寄越した歌仙に墓穴を掘ったか…、とバツが悪そうにそんな歌仙からソッと視線を逸らした夢子は自分の反応を見てどこか可笑し気に笑う歌仙を見やると不貞腐れた様に頬を膨らませた。
「まぁ、だからさっ、多分先生の所にも大太刀が一振りでも居てくれれば心強いと思うんだ!」
「…………まぁ、君がいいなら良いけれど………」
そう話を戻すように声を上げた主に、確かに大太刀が居ないのは勢力としても厳しいか、と本丸が出来た当初のことを思い出していた歌仙も、ただ純粋にその教師のことを心配しているのだろう主君を見やるとそう言って小さく苦笑を漏らした。
「ふふっ、ありがとう歌仙!あ、スーツ姿良く似合ってるよ!私の為にありがとうね」
そう言って、至極嬉しそうに顔を綻ばせた主に、ふとその口元に弧を描いた歌仙もあぁ、と言葉を返すとゆるり、とそんな主の頭を撫でやった。
私の家族
SSオマケ→
「先生、これ鶴丸や鶯丸達の資材配分です」
「あ、ありがとうっ!!夢野さん!!ホント助かるわっ……!!」
翌日には渡すことの出来た担任御所望の“鍛刀レシピ”に、そう言って数枚の和紙を差し出した夢子はそんな自分を見やり、ギュッと手を握りしめた担任を見やるとその目に涙を浮かべる彼女にハハハ…、と苦笑いを浮かべた。
きっとよほど困っていたのだろう彼女に、これで先生の本丸も安泰かな、とその顔を綻ばせていた夢子は、鍛刀レシピに目を通し、え…?と声を漏らした担任にキョトリと目を瞬かせた。
「先生、どうしたんです?」
「えーと………え?貴女、近侍が薬研で太郎太刀出してるの………?」
「え?はい、そうですよ?その時は富士札にも余裕があったのでそれも使ったんですけど」
それがどうしたんですか?と小首を傾げた夢子はそんな自分を見やりんー……、と悩ましげに声を漏らした担任に、レシピへと視線を落とした彼女を見やると同じように自作のそのレシピを覗き込んだ。
「私の本丸今札が枯渇してるのよねー………。しかたない、太郎太刀また今度にしましょ。えーと、鶴丸国永は……近侍が……一期一振……?ちょ、待った待った……私一期一振居ないんだけど……じゃ、じゃぁ鶯丸からかしら………」
「あ………鶯丸は、近侍が江雪左文字だったんですけど、先生の所は顕現してますか?」
「………居ないわ。ことごとく負の連鎖ね………まぁ、いいわ兎に角このレシピで資材溶かしてみるわ!ありがとう!」
「いえ、良縁があると良いですね!あ!これウチの石切丸から良縁祈願のお守りです!」
良い御縁に恵まれると良いね、って言ってました!とポケットから神気を帯びた御守を取り出した教え子に、屈託のない笑みを浮かべる目の前の審神者を見やった担任は、多少なりとも邪な気持ちを持っていることへの罪悪感にヴッ…、とそんな夢子から視線を逸らすと申し訳なさそうにその御守を受け取った。
「あ、ありがとう………大切にするわね……」
(多分……この子みたいな無欲な審神者の所だからレア刀が来るんだろうな………)
後書
サラッと岩融顕現してたりする弊本丸
ちなみにその時の近侍は今剣だったりする(/・ω・)/