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空蝉の春
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「主殿、文をお持ち致しました」
審神者部屋で刀帳に目を通していた夢子はそう掛けられた声に、失礼いたします。と一声かけ部屋へと入ってきた一期一振を見やるとニコッとその顔に笑みを浮かべた。
「ありがとう、いち兄!」
「それは……刀帳ですか。また、どうされたのです?」
どうぞお目通しを、と言って主へと文を渡した一期はその手に持たれる刀帳を見やるとハタと目を瞬かせた。
普段は棚の上に仕舞われ滅多に取り出されないソレに、自分や弟たちの銘が載るソレを見やりソレを手にする主君へと視線を向けた一期は同じように刀帳へと視線を落とした主に、もう一度彼女の手にあるソレへと視線を落とした。
「んー、歌仙に言われてたまに目を通してるんだけどね。ほら、いち兄とかみっちゃんとかの刀派とか伝来とか、これには詳しいことが書いてあるでしょ?」
覚えなきゃなぁ、と思って、とパラパラと刀帳を捲る主はどこか少し面倒臭げで、いつだったか自分達のことを“刀に取り憑いた武将の霊”だと言っていた主の言葉を思い出した一期は、それに憤怒していた歌仙にあぁ、と納得したように声を漏らした。
「精が出ますな」
「この刀帳読んで今剣や石切丸が同じ三条だってことをつい最近知ったよ。あとこの登録番号の3番とか5番とか、空白の所がどんな刀なのかもちょっと気にはなるかな?」
そう言って刀帳の最初のページへと戻った主に、空白のその部分を見やった一期はまだこの本丸には来ていない『三日月宗近』や『小狐丸』の顔を思い浮かべるとパタン、と刀帳を閉じた主へと視線を向けた。
「まぁこればっかりは“ご縁”だからね!太郎さんや石切丸もココに新しい子が来るのは御縁があるからだって言ってたし!」
今ココに居る人たちだけでも十分な戦力だし!とカラリと笑う主君に、彼女が審神者になり4年が経った今、この本丸にも随分と刀が増えてきたことにそうですな、と同じように笑みを返した一期は、けれどそれでは上は納得しないであろうことは明白で、今回も政府から新しい刀を顕現するように、との通達があった文に、テーブルの上へと置かれた刀帳を見やった一期は悩ましげに眉を寄せるとあの、と文に目を通す主へと声をかけた。
「いち兄が鍛刀したいなんて珍しいね」
「まぁたまにはこういうのも良いかと」
資材はいくつにする?と木炭や玉鋼を手にする自分に、お持ち致しますよ。とソレを受け取った一期はどこか少し困ったように眉を下げていて、そんな一期を一瞥した夢子はそっか、と返すとAll900という数字を打ち込む一期の背を見やりふとその口元に弧を描いた。
「歌仙殿も資材は好きなように使って良いと仰っておりましたので、これで参りましょうか」
「ありがとう、いち兄」
そう言ってどうぞ、と渡された依頼札に、自分の隣へと腰かけた一期一振を見やりそう言った夢子は何がです?と不思議そうに自分を見下ろした一期から、鍛刀準備の整った刀鍛冶の精へと視線を向けた。
「政府からの手紙、見たんでしょ?御上は珍しい刀を顕現することに拘ってるみたいだから、成果を出さない私が気に入らないんだと思う」
「貴女には、笑っていてほしいのですよ」
最近新しい刀を顕現してなかったから余計かな、と苦笑を漏らした夢子は、そんな自分へとそう言葉を返し差し出がましかったですかな?と困ったように笑みを浮かべ自分を見やった一期に、キョトリと目を瞬かせそんな一期を見上げるとふとその口元に弧を描いた。
「うぅん、いち兄のそういうところ、すごく好きだよ」
何時だって私たちのことを想ってくれてる、と笑った主はひどく優しげな笑みを浮かべていて、そう言うと目の前の札に神力を注ぎ始めた主にふわり、と温かくなった胸に不思議そうに胸元へと手を置いていた一期は突然あっ!と上がった声に小さく肩を震わせた。
「ど、どうされました?!」
「見ていち兄!3時間20分!いち兄や鶯丸が来たときと同じ時間だ!」
そう声を弾ませ時計を指差す主に、鍛刀時間が表示されるソコを呆けた様に見ていた一期は、その時間枠で顕現する刀を思い出すといや、そんなまさか…、と小さく声を漏らしていた。
自分と同じ太刀である鶯丸や江雪左文字はもう既にこの本丸に顕現しており、あとその時間枠で顕現する刀は限られていることに呆然と表示時間を眺めていた一期は、手伝い札使っちゃおう!と声を弾ませる主へと視線を落とした。
「いち兄、準備は良い?」
「え、えぇ……」
そう言って自分の返事を聞く間もなく手伝い札に神力を込め始めた主に、ジワリ、と滲んできた汗に手をグッと握りしめた一期は、自分が近侍でレア枠が来ることへのプレッシャーにあぁ、五虎退が尻込みするのも頷ける…、とひっそりと苦笑を漏らすと閃光を放った刀に小さく目を細めさせた。
「よっ。鶴丸国永だ。俺みたいのが突然来て驚いたか?」
そう、桜の花びらを舞わせながらその場に顕現した上から下まで真っ白な刀剣男士にハタと目を瞬かせた夢子は、お!君が近代の主か!と自分を見下ろしニカッと笑みを浮かべた鶴丸にもう一度目を瞬かせた。
「あっははは!驚きすぎて声もでないか?」
「あぁ、いや……うん。驚きの白さだね鶴丸さん」
そう言って初めまして、と自分へと頭を下げる主にそこに驚いたか、と自分のレアリティよりも格好に驚く主に苦笑を漏らしよろしくな、と言葉を返した鶴丸はそんな主の隣で呆けた顔をする一期を見やるとお!と声を上げた。
「よぉ、一期一振!久しぶりだな!」
「えっ?あぁ、はい、久しぶりですな。鶴丸殿」
そう気さくに自分へと声を掛けてくる鶴丸に、慌てた様に言葉を返した一期はこれが“御縁”というものなんだろうか…、と自分と同じく皇室御物である鶴丸国永を呆けた様に見やると、クイ、と引かれた手に自分の隣に立つ主へと視線を落とした。
「いち兄と鶴丸さんは知り合いなの?」
「え、えぇ。私と鶴丸殿は時代は違いますが天皇家に献上された刀なのですよ」
「皇室御物と言うやつだな。他にも鶯丸や平野藤四郎なんかも献上刀だぜ」
そう言ってどこか楽しげに声を弾ませる鶴丸に、鶯丸や一期の弟である平野の顔を思い浮かべていた夢子はへぇ、と声を漏らすと鶴丸の隣に立つ一期を見やりニコッとその顔に笑みを浮かべた。
「ほらいち兄、太郎さんたちが言った通り“ご縁”があったでしょ?」
そう言って流石いち兄!と顔を綻ばせる主はひどく楽しげで、それにハタと目を瞬かせた一期もえぇ、と頷くと優しげな笑みを浮かべたのだった。
―――――
この本丸にも随分と慣れ、日々を面白おかしく過ごすことに余念のない鶴丸は今日も今日とて誰かを驚かせるため本丸の中庭にせっせと落とし穴を掘っていた。
「ヨシ!仕込みは上々!」
あとはターゲットが来るのを待つのみだな!と落とし穴だとバレないよう巧妙に土を被せ穴を塞いだ鶴丸は内番服が汚れるのも気にしていないのか泥だらけで、精巧に仕上がった落とし穴に一仕事を終えた後のようにフー、と一息を付いた鶴丸はおーい!と聞こえてきた声に地面から顔を上げた。
「鶴丸さーん、午後からの予定なんだけどー」
「おひぃ危ないっ……!!」
「へっ……?!!」
そう言ってこちらへと駆けてくる主に、落とし穴の上に足を踏み入れた主を見やった鶴丸は手にしていたスコップを投げ捨てると、抜けた穴へと落ちていく主の腕を咄嗟に掴み主もろとも落とし穴へと吸い込まれていった。
―――ドスンッ!!!
「~~~っ、イテテッ……おひぃ、怪我はないかい?」
「とりあえず……鶴丸さんが下敷きになってくれたから……」
大丈夫…、とひどく呆けたように自分を見やる主に、打ち付けたお尻と頭を押さえた鶴丸はどうやら怪我はない様子の主を見やるとホッと安堵の息を吐き出した。
「いやぁ、驚いた。まさかおひぃが真っ先にかかるとはなぁ」
「この落とし穴、鶴丸さんが掘ったの……?」
怪我を負わせることもなく事なきを得た落とし穴作戦にそう言ってあはは!と笑った鶴丸はそうポツリと零した主を見やるとひどく気まずそうにソッとそんな主から視線を逸らした。
「いや~……まさか、おひぃが落ちるとは思っていなくてな……伽羅坊か光坊を引っかけるつもりだったんだが……」
悪い事をしたなぁ、と申し訳なさそうに頬をかいた鶴丸は、そんな自分を見やりほぁ…、と声を漏らした主を不思議そうに見やった。
「凄いね鶴丸さん、私も前に秋田や今剣と落とし穴掘ったけどこんなに大きな穴は掘れなかったよ!」
しかも全然気づかなかった!と声を弾ませる主はひどくキラキラと目を輝かせていて、それに虚を突かれたように目を瞬かせた鶴丸はビックリした!と笑った主を見やるとふと、その口元に弧を描いた。
「そうかそうか!おひぃも落とし穴経験者か!じゃぁこの鶴さんが上手い落とし穴の作り方を伝授してやろう!」
そう言ってヒョイと自分を抱き上げあっという間に落とし穴から抜け出した鶴丸に、ストンと自分を地面に降ろした鶴丸を見やった夢子は泥や草で随分と汚れてしまっている鶴丸を見やると苦笑を漏らした。
「取り合えず、落とし穴はまた今度ね。出陣をお願いしたいんだけど今から着替えてきてくれる?」
「あぁ、任せとけ!驚きの結果を君にもたらそう」
そう言ってまたあとでな!と頭を撫でその場を去っていく鶴丸に、そんな鶴丸の背を見送った夢子は中庭にポッカリと空いた穴を見やると小さく苦笑を漏らした。
「鶴丸さんってなんだか子供みたいだな」
常に誰かを驚かせようとしている鶴丸に、基本その被害者は同じ伊達家に居た燭台切や大倶利伽羅なのだが、笑顔の絶えない鶴丸にそう小さく零した夢子はおーい!と呼ばれた声に自分へと手を振る歌仙を見やるとその場を後にしたのだった。
――――
「ヨシっと、こんなもんでいいだろ」
後は枝を敷いて、と立派な落とし穴に満足げに頷く鶴丸に、どこか浮き浮きとした表情で穴の上に枝を敷いていく鶴丸を見やった夢子はその藁取ってくれ!と差された藁を抱えると鶴丸に言われるがまま敷き詰められた枝の上に藁を被せた。
「あとはこの上に土を被せれば完成だ!」
「鶴丸さんって、いつも誰かを驚かせようとしてるよね。イタズラが好きなの?」
驚くほど巧妙だろう?とひどく楽しげにその顔を綻ばせる鶴丸に、地面を慣らすようスコップでポンポン、と地面を叩いていた夢子はそう言った自分にキョトリ、と目を瞬かせた鶴丸を見やると、先ほども大倶利伽羅のお茶に山葵を仕込んで怒られていた鶴丸を思い出し小さく苦笑を漏らすと出来上がった落とし穴にウン!と頷き立ち上がった。
「鶴丸さんはなんでそんなに皆を驚かせたいの?」
そう言って自分を見上げる主に、音も何も聞こえない暗い土の中や、薄暗い境内のことを思い出した鶴丸は、不思議そうに自分を見上げる主を見やるとふと、その口元に弧を描いて晴天の空を仰ぎ見た。
「そうだなぁ……、俺はなぁ主。人生には驚きが必要だと思うんだ。予想し得る出来事だけじゃぁ、心が先に死んでいく」
「生きてるのに、心が死ぬの……?」
そう言って小さく目を細めた鶴丸に、キョトリと目を瞬かせた夢子はそんな自分を見下ろしニカッと笑みを浮かべた鶴丸に三度目を瞬かせた。
「毎日何が起こるか分からないから人生ってのは面白いのさ!俺がこうして人の体を得た様に、この世界にはまだまだ沢山俺の知らない驚きが満ちてるのさ!」
ソレを俺と探してみるのも一興だろう?と自分をヒョイと持ち上げた鶴丸に小さく驚きの声を上げた夢子は、そのまま自分を肩に乗せた鶴丸を見下ろすと、呼んでくれて感謝してるぜ、とひどく楽しげな笑みを浮かべた鶴丸を見やり同じようにその顔に笑みを浮かべた。
「これからも、よろしくね!鶴さん!」
「あぁ、任せとけ!」
皇室御物 鶴丸国永
SSオマケ→
「おぉーい、鶴さん主夕飯出来たから手を洗っておいでー!」
そう言って自分達へと手を振る燭台切に、あぁもうそんな時間か、と随分と陽の落ちた空を見やった夢子はそんな燭台切を見やり小さくオッ、と声を漏らした鶴丸へと視線を落とした。
「おーい、光坊!面白いものを見つけたんだ!ちょっと来てくれ!」
「なに鶴さん?そんなこと言ってまた何か僕を驚かせようとしてるんじゃないだろうね?」
「はははっ!おひぃが居る手前、そんなことするわけないだろう?」
そう言ってチョイチョイ、と燭台切を手招きする鶴丸に、そんな鶴丸をどこか警戒しつつもこちらへとやってくる燭台切を見やった夢子は、もうあと少しで落とし穴に足を踏み入れる燭台切に小さく肩を震わせる鶴丸の頭をキュッと抱き込んだ。
「なんてね!そう何度も同じ手には引っかからない、よっ………え?」
「えっ?」
あと一歩、と言うところで足元の落とし穴を飛び越えた燭台切に、あぁ残念、と声を漏らした夢子は次の瞬間ズボッと着地した地面に吸い込まれていった燭台切を見やるとハタと目を瞬かせた。
「どーだ予想外だろ?こんなこともあろうかと昨日のうちにもう一個落とし穴を掘っておいたのさ!」
『つーるーさーん!!!今日という今日は許さないからね!!』
そう言ってカラカラと笑う鶴丸に、穴の中から聞こえてくる燭台切の声は相当怒っているようで、あのみっちゃんが…、と声を漏らしていた夢子は、どうだ、驚いたか!と自分を見上げた鶴丸を見下ろすと、ひどく楽しげな鶴丸を見やりハハッ!と破顔したのだった。
※良い子は絶対に真似しないでね
審神者部屋で刀帳に目を通していた夢子はそう掛けられた声に、失礼いたします。と一声かけ部屋へと入ってきた一期一振を見やるとニコッとその顔に笑みを浮かべた。
「ありがとう、いち兄!」
「それは……刀帳ですか。また、どうされたのです?」
どうぞお目通しを、と言って主へと文を渡した一期はその手に持たれる刀帳を見やるとハタと目を瞬かせた。
普段は棚の上に仕舞われ滅多に取り出されないソレに、自分や弟たちの銘が載るソレを見やりソレを手にする主君へと視線を向けた一期は同じように刀帳へと視線を落とした主に、もう一度彼女の手にあるソレへと視線を落とした。
「んー、歌仙に言われてたまに目を通してるんだけどね。ほら、いち兄とかみっちゃんとかの刀派とか伝来とか、これには詳しいことが書いてあるでしょ?」
覚えなきゃなぁ、と思って、とパラパラと刀帳を捲る主はどこか少し面倒臭げで、いつだったか自分達のことを“刀に取り憑いた武将の霊”だと言っていた主の言葉を思い出した一期は、それに憤怒していた歌仙にあぁ、と納得したように声を漏らした。
「精が出ますな」
「この刀帳読んで今剣や石切丸が同じ三条だってことをつい最近知ったよ。あとこの登録番号の3番とか5番とか、空白の所がどんな刀なのかもちょっと気にはなるかな?」
そう言って刀帳の最初のページへと戻った主に、空白のその部分を見やった一期はまだこの本丸には来ていない『三日月宗近』や『小狐丸』の顔を思い浮かべるとパタン、と刀帳を閉じた主へと視線を向けた。
「まぁこればっかりは“ご縁”だからね!太郎さんや石切丸もココに新しい子が来るのは御縁があるからだって言ってたし!」
今ココに居る人たちだけでも十分な戦力だし!とカラリと笑う主君に、彼女が審神者になり4年が経った今、この本丸にも随分と刀が増えてきたことにそうですな、と同じように笑みを返した一期は、けれどそれでは上は納得しないであろうことは明白で、今回も政府から新しい刀を顕現するように、との通達があった文に、テーブルの上へと置かれた刀帳を見やった一期は悩ましげに眉を寄せるとあの、と文に目を通す主へと声をかけた。
「いち兄が鍛刀したいなんて珍しいね」
「まぁたまにはこういうのも良いかと」
資材はいくつにする?と木炭や玉鋼を手にする自分に、お持ち致しますよ。とソレを受け取った一期はどこか少し困ったように眉を下げていて、そんな一期を一瞥した夢子はそっか、と返すとAll900という数字を打ち込む一期の背を見やりふとその口元に弧を描いた。
「歌仙殿も資材は好きなように使って良いと仰っておりましたので、これで参りましょうか」
「ありがとう、いち兄」
そう言ってどうぞ、と渡された依頼札に、自分の隣へと腰かけた一期一振を見やりそう言った夢子は何がです?と不思議そうに自分を見下ろした一期から、鍛刀準備の整った刀鍛冶の精へと視線を向けた。
「政府からの手紙、見たんでしょ?御上は珍しい刀を顕現することに拘ってるみたいだから、成果を出さない私が気に入らないんだと思う」
「貴女には、笑っていてほしいのですよ」
最近新しい刀を顕現してなかったから余計かな、と苦笑を漏らした夢子は、そんな自分へとそう言葉を返し差し出がましかったですかな?と困ったように笑みを浮かべ自分を見やった一期に、キョトリと目を瞬かせそんな一期を見上げるとふとその口元に弧を描いた。
「うぅん、いち兄のそういうところ、すごく好きだよ」
何時だって私たちのことを想ってくれてる、と笑った主はひどく優しげな笑みを浮かべていて、そう言うと目の前の札に神力を注ぎ始めた主にふわり、と温かくなった胸に不思議そうに胸元へと手を置いていた一期は突然あっ!と上がった声に小さく肩を震わせた。
「ど、どうされました?!」
「見ていち兄!3時間20分!いち兄や鶯丸が来たときと同じ時間だ!」
そう声を弾ませ時計を指差す主に、鍛刀時間が表示されるソコを呆けた様に見ていた一期は、その時間枠で顕現する刀を思い出すといや、そんなまさか…、と小さく声を漏らしていた。
自分と同じ太刀である鶯丸や江雪左文字はもう既にこの本丸に顕現しており、あとその時間枠で顕現する刀は限られていることに呆然と表示時間を眺めていた一期は、手伝い札使っちゃおう!と声を弾ませる主へと視線を落とした。
「いち兄、準備は良い?」
「え、えぇ……」
そう言って自分の返事を聞く間もなく手伝い札に神力を込め始めた主に、ジワリ、と滲んできた汗に手をグッと握りしめた一期は、自分が近侍でレア枠が来ることへのプレッシャーにあぁ、五虎退が尻込みするのも頷ける…、とひっそりと苦笑を漏らすと閃光を放った刀に小さく目を細めさせた。
「よっ。鶴丸国永だ。俺みたいのが突然来て驚いたか?」
そう、桜の花びらを舞わせながらその場に顕現した上から下まで真っ白な刀剣男士にハタと目を瞬かせた夢子は、お!君が近代の主か!と自分を見下ろしニカッと笑みを浮かべた鶴丸にもう一度目を瞬かせた。
「あっははは!驚きすぎて声もでないか?」
「あぁ、いや……うん。驚きの白さだね鶴丸さん」
そう言って初めまして、と自分へと頭を下げる主にそこに驚いたか、と自分のレアリティよりも格好に驚く主に苦笑を漏らしよろしくな、と言葉を返した鶴丸はそんな主の隣で呆けた顔をする一期を見やるとお!と声を上げた。
「よぉ、一期一振!久しぶりだな!」
「えっ?あぁ、はい、久しぶりですな。鶴丸殿」
そう気さくに自分へと声を掛けてくる鶴丸に、慌てた様に言葉を返した一期はこれが“御縁”というものなんだろうか…、と自分と同じく皇室御物である鶴丸国永を呆けた様に見やると、クイ、と引かれた手に自分の隣に立つ主へと視線を落とした。
「いち兄と鶴丸さんは知り合いなの?」
「え、えぇ。私と鶴丸殿は時代は違いますが天皇家に献上された刀なのですよ」
「皇室御物と言うやつだな。他にも鶯丸や平野藤四郎なんかも献上刀だぜ」
そう言ってどこか楽しげに声を弾ませる鶴丸に、鶯丸や一期の弟である平野の顔を思い浮かべていた夢子はへぇ、と声を漏らすと鶴丸の隣に立つ一期を見やりニコッとその顔に笑みを浮かべた。
「ほらいち兄、太郎さんたちが言った通り“ご縁”があったでしょ?」
そう言って流石いち兄!と顔を綻ばせる主はひどく楽しげで、それにハタと目を瞬かせた一期もえぇ、と頷くと優しげな笑みを浮かべたのだった。
―――――
この本丸にも随分と慣れ、日々を面白おかしく過ごすことに余念のない鶴丸は今日も今日とて誰かを驚かせるため本丸の中庭にせっせと落とし穴を掘っていた。
「ヨシ!仕込みは上々!」
あとはターゲットが来るのを待つのみだな!と落とし穴だとバレないよう巧妙に土を被せ穴を塞いだ鶴丸は内番服が汚れるのも気にしていないのか泥だらけで、精巧に仕上がった落とし穴に一仕事を終えた後のようにフー、と一息を付いた鶴丸はおーい!と聞こえてきた声に地面から顔を上げた。
「鶴丸さーん、午後からの予定なんだけどー」
「おひぃ危ないっ……!!」
「へっ……?!!」
そう言ってこちらへと駆けてくる主に、落とし穴の上に足を踏み入れた主を見やった鶴丸は手にしていたスコップを投げ捨てると、抜けた穴へと落ちていく主の腕を咄嗟に掴み主もろとも落とし穴へと吸い込まれていった。
―――ドスンッ!!!
「~~~っ、イテテッ……おひぃ、怪我はないかい?」
「とりあえず……鶴丸さんが下敷きになってくれたから……」
大丈夫…、とひどく呆けたように自分を見やる主に、打ち付けたお尻と頭を押さえた鶴丸はどうやら怪我はない様子の主を見やるとホッと安堵の息を吐き出した。
「いやぁ、驚いた。まさかおひぃが真っ先にかかるとはなぁ」
「この落とし穴、鶴丸さんが掘ったの……?」
怪我を負わせることもなく事なきを得た落とし穴作戦にそう言ってあはは!と笑った鶴丸はそうポツリと零した主を見やるとひどく気まずそうにソッとそんな主から視線を逸らした。
「いや~……まさか、おひぃが落ちるとは思っていなくてな……伽羅坊か光坊を引っかけるつもりだったんだが……」
悪い事をしたなぁ、と申し訳なさそうに頬をかいた鶴丸は、そんな自分を見やりほぁ…、と声を漏らした主を不思議そうに見やった。
「凄いね鶴丸さん、私も前に秋田や今剣と落とし穴掘ったけどこんなに大きな穴は掘れなかったよ!」
しかも全然気づかなかった!と声を弾ませる主はひどくキラキラと目を輝かせていて、それに虚を突かれたように目を瞬かせた鶴丸はビックリした!と笑った主を見やるとふと、その口元に弧を描いた。
「そうかそうか!おひぃも落とし穴経験者か!じゃぁこの鶴さんが上手い落とし穴の作り方を伝授してやろう!」
そう言ってヒョイと自分を抱き上げあっという間に落とし穴から抜け出した鶴丸に、ストンと自分を地面に降ろした鶴丸を見やった夢子は泥や草で随分と汚れてしまっている鶴丸を見やると苦笑を漏らした。
「取り合えず、落とし穴はまた今度ね。出陣をお願いしたいんだけど今から着替えてきてくれる?」
「あぁ、任せとけ!驚きの結果を君にもたらそう」
そう言ってまたあとでな!と頭を撫でその場を去っていく鶴丸に、そんな鶴丸の背を見送った夢子は中庭にポッカリと空いた穴を見やると小さく苦笑を漏らした。
「鶴丸さんってなんだか子供みたいだな」
常に誰かを驚かせようとしている鶴丸に、基本その被害者は同じ伊達家に居た燭台切や大倶利伽羅なのだが、笑顔の絶えない鶴丸にそう小さく零した夢子はおーい!と呼ばれた声に自分へと手を振る歌仙を見やるとその場を後にしたのだった。
――――
「ヨシっと、こんなもんでいいだろ」
後は枝を敷いて、と立派な落とし穴に満足げに頷く鶴丸に、どこか浮き浮きとした表情で穴の上に枝を敷いていく鶴丸を見やった夢子はその藁取ってくれ!と差された藁を抱えると鶴丸に言われるがまま敷き詰められた枝の上に藁を被せた。
「あとはこの上に土を被せれば完成だ!」
「鶴丸さんって、いつも誰かを驚かせようとしてるよね。イタズラが好きなの?」
驚くほど巧妙だろう?とひどく楽しげにその顔を綻ばせる鶴丸に、地面を慣らすようスコップでポンポン、と地面を叩いていた夢子はそう言った自分にキョトリ、と目を瞬かせた鶴丸を見やると、先ほども大倶利伽羅のお茶に山葵を仕込んで怒られていた鶴丸を思い出し小さく苦笑を漏らすと出来上がった落とし穴にウン!と頷き立ち上がった。
「鶴丸さんはなんでそんなに皆を驚かせたいの?」
そう言って自分を見上げる主に、音も何も聞こえない暗い土の中や、薄暗い境内のことを思い出した鶴丸は、不思議そうに自分を見上げる主を見やるとふと、その口元に弧を描いて晴天の空を仰ぎ見た。
「そうだなぁ……、俺はなぁ主。人生には驚きが必要だと思うんだ。予想し得る出来事だけじゃぁ、心が先に死んでいく」
「生きてるのに、心が死ぬの……?」
そう言って小さく目を細めた鶴丸に、キョトリと目を瞬かせた夢子はそんな自分を見下ろしニカッと笑みを浮かべた鶴丸に三度目を瞬かせた。
「毎日何が起こるか分からないから人生ってのは面白いのさ!俺がこうして人の体を得た様に、この世界にはまだまだ沢山俺の知らない驚きが満ちてるのさ!」
ソレを俺と探してみるのも一興だろう?と自分をヒョイと持ち上げた鶴丸に小さく驚きの声を上げた夢子は、そのまま自分を肩に乗せた鶴丸を見下ろすと、呼んでくれて感謝してるぜ、とひどく楽しげな笑みを浮かべた鶴丸を見やり同じようにその顔に笑みを浮かべた。
「これからも、よろしくね!鶴さん!」
「あぁ、任せとけ!」
皇室御物 鶴丸国永
SSオマケ→
「おぉーい、鶴さん主夕飯出来たから手を洗っておいでー!」
そう言って自分達へと手を振る燭台切に、あぁもうそんな時間か、と随分と陽の落ちた空を見やった夢子はそんな燭台切を見やり小さくオッ、と声を漏らした鶴丸へと視線を落とした。
「おーい、光坊!面白いものを見つけたんだ!ちょっと来てくれ!」
「なに鶴さん?そんなこと言ってまた何か僕を驚かせようとしてるんじゃないだろうね?」
「はははっ!おひぃが居る手前、そんなことするわけないだろう?」
そう言ってチョイチョイ、と燭台切を手招きする鶴丸に、そんな鶴丸をどこか警戒しつつもこちらへとやってくる燭台切を見やった夢子は、もうあと少しで落とし穴に足を踏み入れる燭台切に小さく肩を震わせる鶴丸の頭をキュッと抱き込んだ。
「なんてね!そう何度も同じ手には引っかからない、よっ………え?」
「えっ?」
あと一歩、と言うところで足元の落とし穴を飛び越えた燭台切に、あぁ残念、と声を漏らした夢子は次の瞬間ズボッと着地した地面に吸い込まれていった燭台切を見やるとハタと目を瞬かせた。
「どーだ予想外だろ?こんなこともあろうかと昨日のうちにもう一個落とし穴を掘っておいたのさ!」
『つーるーさーん!!!今日という今日は許さないからね!!』
そう言ってカラカラと笑う鶴丸に、穴の中から聞こえてくる燭台切の声は相当怒っているようで、あのみっちゃんが…、と声を漏らしていた夢子は、どうだ、驚いたか!と自分を見上げた鶴丸を見下ろすと、ひどく楽しげな鶴丸を見やりハハッ!と破顔したのだった。
※良い子は絶対に真似しないでね