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空蝉の春
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「え……?刀の回収……?」
審神者部屋で編成部隊を組んでいた夢子は久方ぶりに本丸へとやってきたこんのすけに、お願いしたいことがありまして、と自分へと声を掛けたこんのすけを見やるとパチクリと目を瞬かせた。
「えぇ。とある本丸に居る刀剣男士なのですが、どうやら審神者が御手杵と駆け落ちをしたそうで」
一振りだけその場に残されているのですよ、とその眉を下げたこんのすけに、駆け落ち…、と小さく声を漏らした夢子は審神者の世界ではよくあることです、と肩を竦めて見せたこんのすけを見やるとはぁ…、と呆けたように息を吐き出した。
「けど、何で私が……?」
「その本丸に取り残されているのは『同田貫正国』と言う刀でして、ほら貴女様はまだ同田貫正国殿をお持ちでないでしょう?」
これを機に彼を仲間にするのも良いかと、とニッコリと笑みを浮かべたこんのすけに、確かに家族が増えるのは嬉しいけど…、と声を漏らした夢子は、そんな自分達の会話を聞いていたんだろう、ちょっと待て、と声を掛け審神者部屋へとやってきた歌仙に、茶盆を手に自分達の元へとやってきた歌仙を仰ぎ見た。
「随分と虫が良すぎる話だな。何か裏があるんじゃないか?」
「こらこら歌仙……」
「ハハハ、そんなことはございませんよぉ」
そう言って主の前にちょこんと座る政府の管狐を見下ろした歌仙は、そんな自分を窘める主君を一瞥すると、自分の視線から逃れるようソッと視線を逸らしたこんのすけを見やり徐にそんなこんのすけへと手を伸ばした。
「変に隠し立てをしないことだ、信頼関係があってこその我々だろう……?」
「わ、わかりましたよぅ!!お話いたしますからこの手を離してくださいませ……!!」
そう言ってキュッと絞められた首にあたふたと手足をばたつかせたこんのすけはようやく解放された体に、小さく安堵の息を吐き出すとソッとそんな歌仙から身を引きその場へと座り直した。
「そ、それが今までにも何度か他の審神者様にも同田貫殿の回収をお願いしたのですが……とても手に負える相手ではない、と皆回収を断念してしまって……」
「オイ君……その武骨者を僕の主に回収させようとしてたのか……?」
そう言ってほとほと困ったようにその眉を下げたこんのすけに、ピクリと肩を震わせそんなこんのすけを睨みつけた歌仙は他に頼る手立てがないのですよぉ!と声を上げたこんのすけに、まぁまぁ、と苦笑を洩らした主君を見やると小さく鼻息を漏らした。
「良いじゃない歌仙、刀が増えれば皆も喜ぶし政府にも借りを作れるし!」
「まったく……君と言う娘 は本当にお人好しだな。主一人に行かせるわけにはいかないし、僕も付き添おう」
そう言ってカラリ、と笑った主君に呆れたようにそう溜息を吐き出した歌仙はありがとう、と笑みを浮かべた主を見やると準備をすべく審神者部屋を後にしたのだった。
~~~~
「うわぁ……ボロボロだね……」
「審神者が失踪してから随分と経っているそうだからね」
こんのすけの指示された地点へとやってきた夢子は目の前に佇む廃屋を見やると思わずそう声を漏らしていて、それに同じように古びた本丸を見ていた歌仙はお邪魔しまーす、と一声かけ中へと入った主君を見やるとその後に続くよう錆びて落ちる正門の扉を一瞥し中へと足を踏み入れた。
「ん~……なんだかちょっと……空気が悪いね」
どこか淀んでいる本丸の空気に、審神者が居ないからかな…?と小さく声を漏らす主を見やった歌仙は、負の念が漂うその場にぐるり、と中庭を見渡すと隣を歩く主君へと視線を落とした。
「先ほど渡された報告書を見ていたんだが、この本丸は謂わば『ぶらっく本丸』というものだったらしい」
「ブラック本丸……?」
そう言って小さくその眉を顰めさせた歌仙に、そんな歌仙を見上げキョトリ、と目を瞬かせた夢子はあぁ、と頷き障子が破け襖が外れる室内へと視線を向けた歌仙に、同じように室内を見やった。
「ろくに手入れもされず、食事も与えられず、寝る暇でさえ与えられない……。此処の刀剣達は本当にただの“道具”としてだけ審神者に使役されていたんだよ。不当に扱われ挙句刀解された者達の無念が此処一体には渦巻いている……」
空気が淀んでいるのはそのせいだろう、と言ってその眉を顰めさせた歌仙に一つ瞬きを零した夢子は空気が淀む中庭を見渡すと、きっと付喪神 にしか分からないのであろうその負の念にそうだったんだ…、と小さく零すとそんな歌仙へと視線を戻した。
「同田貫を回収し終えたら、石切丸を連れてこようか。この本丸の子達もいつまでもこんな所に縛られていたくはないだろうし」
そう言うとニコ、とその顔に笑みを浮かべた主に、そうと決まれば同田貫を早く見つけなきゃね!と声を弾ませる主君を見やった歌仙も、ふと、その口元に弧を描くとあぁ、と頷き荒れる屋内を歩き出したのだった。
一通り敷地内を見て回った夢子と歌仙は、何処を探しても見当たらない同田貫に、せめて場所ぐらい言っておけ…、と本丸の地点だけを述べ姿を消したこんのすけに、そう小さく悪態をついた歌仙はねぇ、と引かれた袖に一点を見つめる主君へと視線を落とした。
「なんだい?」
「あそこ、あの雑木林の中に蔵みたいなのがある」
そう言ってほらアレ、と一処を指さした主にそちらを見やった歌仙は木々に隠されるようにして建てられる蔵に、そこから感じる同胞の気配に小さく眉根を寄せると主君へと視線を落とした。
「同田貫はきっとあそこだね。行こうか」
「うん!」
そう言って自分の前を歩き出した歌仙に、そんな歌仙の後を追うよう蔵へと向かった夢子は錠の外れている蔵を見やると、薄暗い室内を覗き込み微かに捉えた人影にあ、と声を漏らしていた。
「居た!どうだぬ……っ!!?」
――――キィィィンッ!!!!
「何だ、テメェ……?」
「貴殿こそ、随分な挨拶じゃないか……」
蔵の隅に蹲るようにして座り込んでいた同田貫に、そんな彼へと声を掛けようとしていた夢子は、目が合った瞬間自分へと間合いを詰めた同田貫に、攻撃を仕掛けてきた同田貫の刀をその刃で受け止めた歌仙を見やると小さく安堵の息を吐き出した。
「何処の誰だか知らねぇが、何度来ても答えは同じだ。俺ぁ素直に刀解されるつもりはねぇぞ……!!」
「何を言っている、僕達は君を迎えに来たんだっ……話を……っ、聞けっ!!!」
そう声を上げると再び自分達へと襲い掛かってきた同田貫に、自分を庇うようそんな同田貫と刃を交える歌仙を見やりあたふたとしていた夢子は、片腕を欠損し、あまつ血だらけの状態で歌仙とやり合う同田貫を見やるとグッと口を引き結びパンッ!!と手を打ち鳴らした。
「『審神者の名においてこの者の姿を解かんっ!!!』」
「っ?!!!く、そ……」
そう言の葉を放った夢子に、ブワリ、と自分の足元に浮かび上がった桜文様に小さく目を見張った同田貫は次の瞬間その姿を元の刀の姿へと変えていて、カンッカラカン…、と地面に転がった『同田貫正国』を見やった夢子は小さく息を吐き出すと刀をしまった歌仙を見やった。
「君が審神者権限を行使するなんて珍しいな」
「だってあのままやり合ってたら同田貫が折れてたわ」
そう言ってどこか苦笑を洩らし自分を振り返った歌仙に折角見つけたのに、と零し床に転がる『同田貫正国』を拾い上げた夢子は所々錆びているその刀身を見やると小さく眉を顰め、帰ろうか、と歌仙へと声を掛け蔵を出た。
「重いだろう?僕が持つよ」
「良いよ、自分の物は自分で持つから」
抱えるようにして同田貫正国を持つ主に、そう声を掛けた歌仙はそんな自分を見やり苦笑を洩らした主君に、その手にある刀を見やるとまだ君の物と決まったわけじゃないだろ…と小さく零し呆れたように溜息を吐き出した。
「別に良いのよ、同田貫が私の所が嫌って言うならそれはそれで。ただこんなに傷だらけなのを放っておけないじゃない」
「再顕した途端また襲ってくるかもしれない相手だぞ」
そう言ってカラリ、と笑った主に三度溜息を吐き出した歌仙は、そう言った自分にその時はまた歌仙が守ってくれるんでしょ?と笑みを浮かべ自分を仰ぎ見た主君にグッと言葉を詰まらせると当たり前だろう、と言葉を返し主の腕の中にある刀を一瞥するとふと、その口元に弧を描いたのだった。
――――――
カチコチと静かに進む時計の針に、錆びついていた刀身を綺麗にし柄へと刀身をはめ込んだ夢子は一通り綺麗になった『同田貫正国』に、うん!と満足げに頷くとカシャン、と鞘へと刀身を収めた。
刀台へと手入れのし終わった刀をそっと置いた夢子はさて、と声を漏らすとその姿を顕現させるべく再びパンッ!と手を打ち鳴らした。
「『審神者の名においてこの者の姿を示さん』」
そう静かに言の葉に力を込めた夢子は、次いでその場に舞った桜吹雪に、床に敷いていた布団の上へと胡坐をかいた状態で顕現した同田貫を見やると、ふと、その口元に弧を描いた。
「気分はどう?」
「……………悪かねぇ」
綺麗に治っている左腕に、きっと元来あるものなのだろう顔の斬り傷を見やりそう同田貫へと声を掛けた夢子は、そんな自分を一瞥し、どこか不貞腐れるよう頬杖を付き自分から顔を背けてしまった同田貫を見やると苦笑を洩らした。
先程とは打って変わって落ち着いている様子の同田貫に、それならよかった。と言葉を返した夢子はまだ少しかかるであろう手入れに同田貫の頭上に表示される手入時間を見やるとヨイショ、とその場から立ち上がった。
「色々話したいことはあるけど、今はゆっくり体を休めてね」
「……………刀解する刀 を手入れしてなんの意味があんだ……」
そう同田貫へと声を掛け部屋を後にしようとしていた夢子は、そう声を漏らした同田貫に、ひどく怪訝そうに自分へと視線を向ける同田貫を振り返った夢子はキョトリ、と目を瞬かせるとそんな同田貫の側へと再び腰を下ろした。
「刀解なんてしないよ?あぁ、私に手を挙げた事気にしてるの?」
「………っ、ちっげぇよっ!!!アンタだって知ってんだろ?!!あの本丸は異常だった……!!あの本丸に留まってた俺ン中には不浄のモンが蓄積されてんだよ!!!」
だから政府の奴らは俺を刀解したがってた!!と声を荒げた同田貫に、手入れをしてもなかなか消えなかったその不浄の気に、一つ瞬きを零した夢子はそう言うとまた自分から顔を背けてしまった同田貫に、ふと、その口元に弧を描いた。
「“ソレ”は、私が貴方を刀解して良い理由にはならないよ。その不浄の事については石切丸とも相談してみるし、今はゆっくり休んでよ。ひどい怪我だったのよ、貴方」
「――――っ」
そう言ってじゃぁまた後でね、と声を掛け手入れ部屋を出て行った審神者に、グッと奥歯を噛み締めた同田貫は久方ぶりに感じる左手の感触に、綺麗に手入れをされた自分の本体を見やると、先ほどの審神者の言葉を思い出していた。
突然襲い掛かってきた自分の事をもう既に“自分の物”だと言っていた彼女に、自分の所が嫌ならばそれはそれでいい、と笑っていた審神者にきつく手を握り締めた同田貫は体内を取り巻く不浄に、小さく息を吐き出すと布団へと寝転がったのだった。
―――――
「と、言うわけで!今日から第二部隊に編入する同田貫正国さんです!」
「……………」
皆よろしくね!と声を弾ませる主君とは対照的にひどく嫌そうにその眉を顰め自分達から顔を背ける同田貫に、そんな同田貫を見やった燭台切は苦笑いを浮かべるとじゃぁ、と言って隊長バッジを同田貫に手渡す主を見やった。
「同田貫さん、隊長よろしくね!他の子達は強いから大丈夫だと思うけど貴方はまだそこまで練度が高くないから危なくなったらすぐ帰還すること!」
そう言ってはいこれ御守り!これは刀装ね!と次から次へと自分へと装備品を押し付けてくる目の前の審神者に、特上の刀装兵と真新しい御守りを見やった同田貫はアノ本丸とは雲泥の差だな…、と小さく眉を顰めると行こうか!と掛けられた声に歩き出した燭台切達を見やると行ってらっしゃーい!と手を振る審神者を一瞥し本丸を後にしたのだった。
「同田貫さん無理は良くないよ……!!」
「うるっせぇな……!!俺に指図すんじゃねぇ、よっ!!」
そう掛けられた声に目の前の敵を薙ぎ払った同田貫は中傷を負う自分に小さく舌打ちを零すと、頭上に表示された『勝利C』の文字を見やり三度舌打ちを零した。
練度の低い自分が足を引っ張っているであろう部隊に、傷ひとつ負っていない燭台切や一期一振を見やった同田貫はチリンチリン、とその場に鳴り響いた鈴の音に、帰城を知らせる鈴の音を聞くとその眉を顰めさせた。
「初めての出陣にしてはなかなかだったじゃないか!さぁ本丸に戻ろうか!」
「………まだだ……まだ、大将首を取ってねぇだろぉ?」
そう言って刀を収めた燭台切に、そんな燭台切を一瞥しこのまま帰れるかよ、と小さく声を漏らした同田貫は何言ってるんだい?!!とひどく慌てたように自分へと駆け寄ってきた燭台切を横目に手にしていた賽をコロン、と転がしていた。
ビービービー!!と辺りに鳴り響く緊急アラートに、自分の指示には従わず勝手に進軍をした第二部隊をモニターで見ていた夢子は『第二部隊隊長 同田貫正国 重傷』の文字を見やるときつく眉を寄せ開門…!!と聞こえてきた声に審神者部屋を飛び出した。
「主っ、同田貫さんが……!!」
「見てたわっ、早く彼を手入れ部屋に運んで!!」
本丸へと帰ってきた第二部隊に、そう焦燥の声を上げた燭台切を見やり同田貫へと視線を落とした夢子は血だらけでぐったりとする同田貫に、きつく眉を寄せるとそんな彼を支える燭台切へとそう声を掛け手入れ部屋へと駆けだした。
「…………っン゛、クソッ……生きてんのかよ……」
カチ、コチ、と時計の秒針の音が響く静かな手入れ部屋に、目を覚ました同田貫はつい最近見たばかりのその手入れ部屋の風景に、綺麗になっている自分の体を見やるとそう小さく声を漏らし舌打ちを零した。
「同田貫……」
「………あぁ、居たのかアンタ」
そう不意に掛けられた声に視線を床へと落とした同田貫はその眉を顰めさせる審神者を見やるとそう声を漏らし痛む体を起き上がらせた。
「なんで……指示に従わなかったの……」
「俺がどうなろうがアンタにゃ関係ねぇだろ……」
そう言ってその眉根を寄せる審神者に、ハッ、とそんな審神者を見やり鼻息を漏らした同田貫はパンッ!!と小気味いい音を立てた左頬に、ハタと目を瞬かせるとジンジンと痛む頬を押さえ、自分へと平手打ちをした審神者を睨みつけた。
「っ、テンメェ……!!なにしやが、
「なんで勝手に進軍したのっ?!!!もう少しで折れる所だったのよっ!!!?」
叩かれた頬に、その声に怒気の色を滲ませた同田貫はそんな自分の言葉を遮り声を荒げた審神者に、掴まれた襟首に息を詰めるとボロボロと涙を流す審神者を見やりハタと目を瞬かせた。
「…………俺が折れようがアンタにゃ関係ねぇだろ……。何泣いてんだ……」
「関係あるわよっ……!!貴方はもうこの本丸の一員なのよ?!!」
止めどなく溢れる涙に、バツが悪そうにそんな審神者から視線を逸らしそう小さく声を漏らした同田貫は、そう言って自分の体を叩く審神者を見やると呆れたように溜息を吐き出した。
「別に………俺が折れてもまた別の同田貫 を顕現させりゃ良いだろぉがよ……。それに………戦場で折れてこそ俺達だ……」
そう言って本望だよ、と小さく零しふい、とそんな審神者から顔を背けた同田貫は、自分の言葉にソレは違うわ、と首を振った審神者を怪訝そうに見やった。
「例え此処にまた“同田貫正国”が顕現したとしても……ソレは今目の前に居る“貴方”ではないもの……。私は、今此処にいる“貴方”に生きていて欲しいの」
そう言ってきつく握り締められた手に、小さく目を見張った同田貫は涙を流す審神者を見やると、そっとそんな審神者から視線を逸らした。
「…………俺ぁ……戦場 で死にてぇんだ……」
そうポツリと零された言葉に、どこかその眉を顰める同田貫を見やった夢子はいつだったか大倶利伽羅が言っていた戦場で散ってこそ刀だろ、と言う言葉を思い出すと、目の前の刀剣男士へと視線を向け、そっとその両手を包み込んだ。
「それは……今すぐの話……?」
「あ゛……?…………さぁ、どうだろうな……。あの腐った本丸に居た頃はずっと死に場所を探してたがな………」
結局死ねずじまいだけどよ、と自嘲の笑みを浮かべた同田貫に、暗い影を落とす同田貫の横顔を見やった夢子はあのね…、と声を漏らすと、自分へと視線を落とした同田貫にその瞳を真っすぐに見つめた。
「戦場で折れることはきっと刀にとっては最上の誉なんだと思うよ……。でも……自分の望まない形で折れて、それでも貴方は良い人生だったって、言える……?今の貴方は……まるで生き急いでるみたい」
「っ……アンタに、なにが分かるっつーんだよ?!!戦場にも出れねぇ小娘が随分と偉そうな口聞くじゃねぇか!!あ゛ぁ゛」
そう言ってその眉を下げた審神者に、ピクリ、と肩を震わせた同田貫はその襟首を掴み上げるとそう声を荒げ目の前の審神者を睨みつけた。
「そうだよ、私は戦場には出れない非力な人間だよ……。だからこうして貴方達の力を借りてるの。九十九の神様に力を貸してもらってるから、私は何があろうと貴方達を破壊させるわけには行かないの。どうしても死にたいというのなら……貴方が納得できる死に方で死んで。最期の時には笑っていられるよう、今はこの本丸で少しでも良いから穏やかに過ごして欲しい」
「っ………もう……ほっといてくれよ……」
そう言ってギュッと握り締められた手に、真摯な眼差しで自分を見つめる審神者を見やった同田貫はそっと掴んでいた服を離すと、此処は俺にゃ眩しすぎんだよ…、と小さく声を漏らした。
小さく俯けられた顔に、きつくその眉根を寄せる同田貫を見やった夢子は困ったようにその眉を下げるとお休みなさい、とそんな同田貫へと声を掛け静かに手入れ部屋を後にした。
―――――
ワイワイキャッキャ、と楽しそうな声が響く中庭に、暖かな日差しが差し込む空を仰ぎ見た同田貫は、ほら手を動かせ手を、と掛けられた声に自分と共に畑当番をする歌仙を横目に見やった。
「…………これで畑番三週間目だぞ………」
「主を怒らせた君が悪いんだろ?君が謝るまで君の事を部隊には入れないそうだよ」
そう言ってはぁあ、と大きな溜息を吐き出した同田貫に、僕だってやりたくないさ、と小さく零した歌仙は泥で汚れる内番服を見やると嫌そうにその眉を顰め、自分の言葉にはぁ?!!と声を上げた同田貫を振り返った。
「冗談じゃねぇぞ!!!俺が何したってんだよ?!」
「主を悲しませただろ」
そう言ってふざけんな!!と声を荒げる同田貫に、ひどく呆れたように溜息を吐き出した歌仙はやってられるかっ、と声を漏らし鍬を投げ捨てた同田貫を見やると三度溜息を吐き出し投げ捨てられた鍬を拾い上げた。
「物である君が物に当たるな。別に畑仕事をしたくなければしなくていいさ、けれどサボればサボった分だけ内番が追加されるからな」
「どいつもこいつもっ……!!どうして俺なんかに構うんだよ?!ほっとけよ俺の事なんかよぉ……!!」
そう言ってそんな同田貫を視界から外し作業の手を再開させた歌仙は、そんな自分を見やりひどく苛立たしげに声を上げた同田貫に、チラリ、と同田貫を見やると先刻の出来事を思い出し深々と溜息を吐き出した。
「君は床 に伏せていて知らないだろうけどね、君をあの本丸から回収してすぐ時の政府が主の所にやってきたんだよ」
「…………っは?」
そう言葉にしその顔を上げた歌仙は、自分の言葉にその目を丸くさせる同田貫を見やると一通り耕し終わった土に、着物に付いていた土をポンポン、と手で払った。
「君の刀解令を言い渡した政府に、主は決して首を縦に振ろうとはしなかったよ。その身に不浄の気を纏っている君が、何時暴走するかも分からないのにあの娘 政府になんて言ったと思う?『いつかはきっと、彼の心も晴れる時が来ます。だから、これ以上私の刀剣に手出しすることは許しません』と、そう言ったんだよ」
「――――っ………」
そう言って本当に困った主だ、と苦笑を洩らした歌仙は、自分の言葉にグッとその口を引き結んだ同田貫に、今にも泣き出しそうな顔をする同田貫の顔を見やるとだから、と言葉を続け掛けていた襷を紐解いた。
「主君にそこまで言わせておいて君はいつまで人間の子供のようにふてっているつもりだい?君の境遇には確かに同情するが、ソレと僕の主を泣かせる事とはお角が違うだろう。今度僕の主を泣かせてみろ、その時は僕が直々に君へ仕置きをしてやるからな」
そう言って自分を一瞥し休憩してくる、とだけ言うとさっさとその場から立ち去ってしまった歌仙に、ふてってねぇよっ!!とその背へと声を投げた同田貫はヒラリ、と振られた後ろ手にくそっ、と小さく声を漏らすとヒリつく喉に深く息を吐き出しその顔を手で覆ったのだった。
「オイ、アンタ……」
そう小さくその背に声を掛けた同田貫は、チラリ、と自分を一瞥しただけで再び歩き出してしまった審神者に、グッと言葉を詰まらせるともう一度オイッ…、とその背へと声を声を掛けた。
「オイつってんだろ………~~~~っ、止まれよ主ッ!!」
何度声を掛けても知らぬふりをする審神者に、苛立たしげに頭を搔きむしった同田貫はそう声を上げると思わずその腕を掴んでいた。
呼ばれた名と、掴まれた腕に小さく驚きの声を漏らした夢子は、そんな自分からバツが悪そうに視線を逸らす同田貫を見やるとひっそりと苦笑を洩らしどうしたの?とそんな同田貫へと向き直った。
「…………アンタの命令に背いて、悪かったと思ってる……」
「もうしない?」
「し……ねぇ……と、思う……」
「じゃぁ許しません」
そう言ってグッと言葉を詰まらせた同田貫に、あっそ、と言ってまたそんな同田貫へと背を向けた夢子はしねぇよ!!と声を荒げた同田貫を横目に見やると、その眉を顰めさせる同田貫に苦笑を洩らした。
「ねぇ同田貫、此処の生活はきっと貴方には息苦しいかもしれないけど、せめて落ち着くまでは此処に居て……?」
貴方の身体が心配なのよ、と掛けられた言葉にグッと口を引き結んだ同田貫は、清らかな空気で満たされる本丸に、元主とは正反対の存在である目の前の審神者を見やると小さく息を吐き出しソッとそんな審神者の前へと腰を折った。
「歌仙から聞いた……アンタ、俺の刀解令を蹴ったんだってな……」
「だって同田貫は何も悪い事してないじゃない」
悪いのは貴方の元主よ、と言ってその眉を顰めさせた審神者にははっ…、と苦笑いを浮かべた同田貫は不思議そうに自分を見下ろす審神者を見やるとソッとその手を取った。
「色々迷惑かけちまって悪かったな……。これからはアンタの刀としてアンタの代わりに敵をぶった切ってやるよ。………俺の死に場所は此処にすることにした」
そう言ってよろしくな、主。と苦い笑みを浮かべた同田貫にパチリ、と目を瞬かせた夢子は同田貫の手の甲に浮かび上がった他本丸の審神者番号に、契約を交わしてくれよ、と自分を見やった同田貫にふふっ、と嬉しそうにその顔を綻ばせた。
「『我が名においてこの者を我が刀剣とする』!これからよろしくね、同田貫!」
「………あぁ、よろしくな……主」
そう言の葉に力を込めた主に、その手の甲に新しく浮かび上がった『2020』の数字を見やった同田貫はふと、その顔に小さく笑みを浮かべたのだった。
質実剛健 同田貫正国
SSオマケ→
新しく書き換えられた審神者番号に、よっしゃ、と気合を入れるよう立ち上がった同田貫はブワリ、と自分の体を取り巻いた風にハタと目を瞬かせると淡い光を放ち始めた自分の体に呆けたように自分の手の平へと視線を落とした。
キラキラと淡い輝きを放ちながら体内から抜けていく“何か”に、天へと昇っていくソレを見やった同田貫は不意に耳に届いた御幸せに、と言う声を聞くとグッとその眉根を引き寄せた。
前の本丸で共に戦場を駆けていた前田藤四郎のその声に、あぁ…、と小さく声を漏らした同田貫は軽くなった体にゆっくりと消えていく光を見やると目を瞬かせる主君へと視線を落とした。
「負の念が……消えた……?」
「主が変わって体に溜まってたもんが全部抜けてったんだろうよ……」
今まで同田貫の身体を取り巻いていた不浄の念が消え去ったことに、そう呆けたように声を漏らした夢子はそう言ってカラリ、と笑った同田貫に、どこか寂しげな笑みを浮かべる同田貫を見やるとふと、その口元に笑みを浮かべそんな同田貫の背を押しその場を歩き出した。
「さ!お昼からは出陣だよ!隊長に任命するから頑張ってね!」
「おっしゃ!じゃんじゃん敵をぶった切ってくるぜ!」
審神者部屋で編成部隊を組んでいた夢子は久方ぶりに本丸へとやってきたこんのすけに、お願いしたいことがありまして、と自分へと声を掛けたこんのすけを見やるとパチクリと目を瞬かせた。
「えぇ。とある本丸に居る刀剣男士なのですが、どうやら審神者が御手杵と駆け落ちをしたそうで」
一振りだけその場に残されているのですよ、とその眉を下げたこんのすけに、駆け落ち…、と小さく声を漏らした夢子は審神者の世界ではよくあることです、と肩を竦めて見せたこんのすけを見やるとはぁ…、と呆けたように息を吐き出した。
「けど、何で私が……?」
「その本丸に取り残されているのは『同田貫正国』と言う刀でして、ほら貴女様はまだ同田貫正国殿をお持ちでないでしょう?」
これを機に彼を仲間にするのも良いかと、とニッコリと笑みを浮かべたこんのすけに、確かに家族が増えるのは嬉しいけど…、と声を漏らした夢子は、そんな自分達の会話を聞いていたんだろう、ちょっと待て、と声を掛け審神者部屋へとやってきた歌仙に、茶盆を手に自分達の元へとやってきた歌仙を仰ぎ見た。
「随分と虫が良すぎる話だな。何か裏があるんじゃないか?」
「こらこら歌仙……」
「ハハハ、そんなことはございませんよぉ」
そう言って主の前にちょこんと座る政府の管狐を見下ろした歌仙は、そんな自分を窘める主君を一瞥すると、自分の視線から逃れるようソッと視線を逸らしたこんのすけを見やり徐にそんなこんのすけへと手を伸ばした。
「変に隠し立てをしないことだ、信頼関係があってこその我々だろう……?」
「わ、わかりましたよぅ!!お話いたしますからこの手を離してくださいませ……!!」
そう言ってキュッと絞められた首にあたふたと手足をばたつかせたこんのすけはようやく解放された体に、小さく安堵の息を吐き出すとソッとそんな歌仙から身を引きその場へと座り直した。
「そ、それが今までにも何度か他の審神者様にも同田貫殿の回収をお願いしたのですが……とても手に負える相手ではない、と皆回収を断念してしまって……」
「オイ君……その武骨者を僕の主に回収させようとしてたのか……?」
そう言ってほとほと困ったようにその眉を下げたこんのすけに、ピクリと肩を震わせそんなこんのすけを睨みつけた歌仙は他に頼る手立てがないのですよぉ!と声を上げたこんのすけに、まぁまぁ、と苦笑を洩らした主君を見やると小さく鼻息を漏らした。
「良いじゃない歌仙、刀が増えれば皆も喜ぶし政府にも借りを作れるし!」
「まったく……君と言う
そう言ってカラリ、と笑った主君に呆れたようにそう溜息を吐き出した歌仙はありがとう、と笑みを浮かべた主を見やると準備をすべく審神者部屋を後にしたのだった。
~~~~
「うわぁ……ボロボロだね……」
「審神者が失踪してから随分と経っているそうだからね」
こんのすけの指示された地点へとやってきた夢子は目の前に佇む廃屋を見やると思わずそう声を漏らしていて、それに同じように古びた本丸を見ていた歌仙はお邪魔しまーす、と一声かけ中へと入った主君を見やるとその後に続くよう錆びて落ちる正門の扉を一瞥し中へと足を踏み入れた。
「ん~……なんだかちょっと……空気が悪いね」
どこか淀んでいる本丸の空気に、審神者が居ないからかな…?と小さく声を漏らす主を見やった歌仙は、負の念が漂うその場にぐるり、と中庭を見渡すと隣を歩く主君へと視線を落とした。
「先ほど渡された報告書を見ていたんだが、この本丸は謂わば『ぶらっく本丸』というものだったらしい」
「ブラック本丸……?」
そう言って小さくその眉を顰めさせた歌仙に、そんな歌仙を見上げキョトリ、と目を瞬かせた夢子はあぁ、と頷き障子が破け襖が外れる室内へと視線を向けた歌仙に、同じように室内を見やった。
「ろくに手入れもされず、食事も与えられず、寝る暇でさえ与えられない……。此処の刀剣達は本当にただの“道具”としてだけ審神者に使役されていたんだよ。不当に扱われ挙句刀解された者達の無念が此処一体には渦巻いている……」
空気が淀んでいるのはそのせいだろう、と言ってその眉を顰めさせた歌仙に一つ瞬きを零した夢子は空気が淀む中庭を見渡すと、きっと
「同田貫を回収し終えたら、石切丸を連れてこようか。この本丸の子達もいつまでもこんな所に縛られていたくはないだろうし」
そう言うとニコ、とその顔に笑みを浮かべた主に、そうと決まれば同田貫を早く見つけなきゃね!と声を弾ませる主君を見やった歌仙も、ふと、その口元に弧を描くとあぁ、と頷き荒れる屋内を歩き出したのだった。
一通り敷地内を見て回った夢子と歌仙は、何処を探しても見当たらない同田貫に、せめて場所ぐらい言っておけ…、と本丸の地点だけを述べ姿を消したこんのすけに、そう小さく悪態をついた歌仙はねぇ、と引かれた袖に一点を見つめる主君へと視線を落とした。
「なんだい?」
「あそこ、あの雑木林の中に蔵みたいなのがある」
そう言ってほらアレ、と一処を指さした主にそちらを見やった歌仙は木々に隠されるようにして建てられる蔵に、そこから感じる同胞の気配に小さく眉根を寄せると主君へと視線を落とした。
「同田貫はきっとあそこだね。行こうか」
「うん!」
そう言って自分の前を歩き出した歌仙に、そんな歌仙の後を追うよう蔵へと向かった夢子は錠の外れている蔵を見やると、薄暗い室内を覗き込み微かに捉えた人影にあ、と声を漏らしていた。
「居た!どうだぬ……っ!!?」
――――キィィィンッ!!!!
「何だ、テメェ……?」
「貴殿こそ、随分な挨拶じゃないか……」
蔵の隅に蹲るようにして座り込んでいた同田貫に、そんな彼へと声を掛けようとしていた夢子は、目が合った瞬間自分へと間合いを詰めた同田貫に、攻撃を仕掛けてきた同田貫の刀をその刃で受け止めた歌仙を見やると小さく安堵の息を吐き出した。
「何処の誰だか知らねぇが、何度来ても答えは同じだ。俺ぁ素直に刀解されるつもりはねぇぞ……!!」
「何を言っている、僕達は君を迎えに来たんだっ……話を……っ、聞けっ!!!」
そう声を上げると再び自分達へと襲い掛かってきた同田貫に、自分を庇うようそんな同田貫と刃を交える歌仙を見やりあたふたとしていた夢子は、片腕を欠損し、あまつ血だらけの状態で歌仙とやり合う同田貫を見やるとグッと口を引き結びパンッ!!と手を打ち鳴らした。
「『審神者の名においてこの者の姿を解かんっ!!!』」
「っ?!!!く、そ……」
そう言の葉を放った夢子に、ブワリ、と自分の足元に浮かび上がった桜文様に小さく目を見張った同田貫は次の瞬間その姿を元の刀の姿へと変えていて、カンッカラカン…、と地面に転がった『同田貫正国』を見やった夢子は小さく息を吐き出すと刀をしまった歌仙を見やった。
「君が審神者権限を行使するなんて珍しいな」
「だってあのままやり合ってたら同田貫が折れてたわ」
そう言ってどこか苦笑を洩らし自分を振り返った歌仙に折角見つけたのに、と零し床に転がる『同田貫正国』を拾い上げた夢子は所々錆びているその刀身を見やると小さく眉を顰め、帰ろうか、と歌仙へと声を掛け蔵を出た。
「重いだろう?僕が持つよ」
「良いよ、自分の物は自分で持つから」
抱えるようにして同田貫正国を持つ主に、そう声を掛けた歌仙はそんな自分を見やり苦笑を洩らした主君に、その手にある刀を見やるとまだ君の物と決まったわけじゃないだろ…と小さく零し呆れたように溜息を吐き出した。
「別に良いのよ、同田貫が私の所が嫌って言うならそれはそれで。ただこんなに傷だらけなのを放っておけないじゃない」
「再顕した途端また襲ってくるかもしれない相手だぞ」
そう言ってカラリ、と笑った主に三度溜息を吐き出した歌仙は、そう言った自分にその時はまた歌仙が守ってくれるんでしょ?と笑みを浮かべ自分を仰ぎ見た主君にグッと言葉を詰まらせると当たり前だろう、と言葉を返し主の腕の中にある刀を一瞥するとふと、その口元に弧を描いたのだった。
――――――
カチコチと静かに進む時計の針に、錆びついていた刀身を綺麗にし柄へと刀身をはめ込んだ夢子は一通り綺麗になった『同田貫正国』に、うん!と満足げに頷くとカシャン、と鞘へと刀身を収めた。
刀台へと手入れのし終わった刀をそっと置いた夢子はさて、と声を漏らすとその姿を顕現させるべく再びパンッ!と手を打ち鳴らした。
「『審神者の名においてこの者の姿を示さん』」
そう静かに言の葉に力を込めた夢子は、次いでその場に舞った桜吹雪に、床に敷いていた布団の上へと胡坐をかいた状態で顕現した同田貫を見やると、ふと、その口元に弧を描いた。
「気分はどう?」
「……………悪かねぇ」
綺麗に治っている左腕に、きっと元来あるものなのだろう顔の斬り傷を見やりそう同田貫へと声を掛けた夢子は、そんな自分を一瞥し、どこか不貞腐れるよう頬杖を付き自分から顔を背けてしまった同田貫を見やると苦笑を洩らした。
先程とは打って変わって落ち着いている様子の同田貫に、それならよかった。と言葉を返した夢子はまだ少しかかるであろう手入れに同田貫の頭上に表示される手入時間を見やるとヨイショ、とその場から立ち上がった。
「色々話したいことはあるけど、今はゆっくり体を休めてね」
「……………刀解する
そう同田貫へと声を掛け部屋を後にしようとしていた夢子は、そう声を漏らした同田貫に、ひどく怪訝そうに自分へと視線を向ける同田貫を振り返った夢子はキョトリ、と目を瞬かせるとそんな同田貫の側へと再び腰を下ろした。
「刀解なんてしないよ?あぁ、私に手を挙げた事気にしてるの?」
「………っ、ちっげぇよっ!!!アンタだって知ってんだろ?!!あの本丸は異常だった……!!あの本丸に留まってた俺ン中には不浄のモンが蓄積されてんだよ!!!」
だから政府の奴らは俺を刀解したがってた!!と声を荒げた同田貫に、手入れをしてもなかなか消えなかったその不浄の気に、一つ瞬きを零した夢子はそう言うとまた自分から顔を背けてしまった同田貫に、ふと、その口元に弧を描いた。
「“ソレ”は、私が貴方を刀解して良い理由にはならないよ。その不浄の事については石切丸とも相談してみるし、今はゆっくり休んでよ。ひどい怪我だったのよ、貴方」
「――――っ」
そう言ってじゃぁまた後でね、と声を掛け手入れ部屋を出て行った審神者に、グッと奥歯を噛み締めた同田貫は久方ぶりに感じる左手の感触に、綺麗に手入れをされた自分の本体を見やると、先ほどの審神者の言葉を思い出していた。
突然襲い掛かってきた自分の事をもう既に“自分の物”だと言っていた彼女に、自分の所が嫌ならばそれはそれでいい、と笑っていた審神者にきつく手を握り締めた同田貫は体内を取り巻く不浄に、小さく息を吐き出すと布団へと寝転がったのだった。
―――――
「と、言うわけで!今日から第二部隊に編入する同田貫正国さんです!」
「……………」
皆よろしくね!と声を弾ませる主君とは対照的にひどく嫌そうにその眉を顰め自分達から顔を背ける同田貫に、そんな同田貫を見やった燭台切は苦笑いを浮かべるとじゃぁ、と言って隊長バッジを同田貫に手渡す主を見やった。
「同田貫さん、隊長よろしくね!他の子達は強いから大丈夫だと思うけど貴方はまだそこまで練度が高くないから危なくなったらすぐ帰還すること!」
そう言ってはいこれ御守り!これは刀装ね!と次から次へと自分へと装備品を押し付けてくる目の前の審神者に、特上の刀装兵と真新しい御守りを見やった同田貫はアノ本丸とは雲泥の差だな…、と小さく眉を顰めると行こうか!と掛けられた声に歩き出した燭台切達を見やると行ってらっしゃーい!と手を振る審神者を一瞥し本丸を後にしたのだった。
「同田貫さん無理は良くないよ……!!」
「うるっせぇな……!!俺に指図すんじゃねぇ、よっ!!」
そう掛けられた声に目の前の敵を薙ぎ払った同田貫は中傷を負う自分に小さく舌打ちを零すと、頭上に表示された『勝利C』の文字を見やり三度舌打ちを零した。
練度の低い自分が足を引っ張っているであろう部隊に、傷ひとつ負っていない燭台切や一期一振を見やった同田貫はチリンチリン、とその場に鳴り響いた鈴の音に、帰城を知らせる鈴の音を聞くとその眉を顰めさせた。
「初めての出陣にしてはなかなかだったじゃないか!さぁ本丸に戻ろうか!」
「………まだだ……まだ、大将首を取ってねぇだろぉ?」
そう言って刀を収めた燭台切に、そんな燭台切を一瞥しこのまま帰れるかよ、と小さく声を漏らした同田貫は何言ってるんだい?!!とひどく慌てたように自分へと駆け寄ってきた燭台切を横目に手にしていた賽をコロン、と転がしていた。
ビービービー!!と辺りに鳴り響く緊急アラートに、自分の指示には従わず勝手に進軍をした第二部隊をモニターで見ていた夢子は『第二部隊隊長 同田貫正国 重傷』の文字を見やるときつく眉を寄せ開門…!!と聞こえてきた声に審神者部屋を飛び出した。
「主っ、同田貫さんが……!!」
「見てたわっ、早く彼を手入れ部屋に運んで!!」
本丸へと帰ってきた第二部隊に、そう焦燥の声を上げた燭台切を見やり同田貫へと視線を落とした夢子は血だらけでぐったりとする同田貫に、きつく眉を寄せるとそんな彼を支える燭台切へとそう声を掛け手入れ部屋へと駆けだした。
「…………っン゛、クソッ……生きてんのかよ……」
カチ、コチ、と時計の秒針の音が響く静かな手入れ部屋に、目を覚ました同田貫はつい最近見たばかりのその手入れ部屋の風景に、綺麗になっている自分の体を見やるとそう小さく声を漏らし舌打ちを零した。
「同田貫……」
「………あぁ、居たのかアンタ」
そう不意に掛けられた声に視線を床へと落とした同田貫はその眉を顰めさせる審神者を見やるとそう声を漏らし痛む体を起き上がらせた。
「なんで……指示に従わなかったの……」
「俺がどうなろうがアンタにゃ関係ねぇだろ……」
そう言ってその眉根を寄せる審神者に、ハッ、とそんな審神者を見やり鼻息を漏らした同田貫はパンッ!!と小気味いい音を立てた左頬に、ハタと目を瞬かせるとジンジンと痛む頬を押さえ、自分へと平手打ちをした審神者を睨みつけた。
「っ、テンメェ……!!なにしやが、
「なんで勝手に進軍したのっ?!!!もう少しで折れる所だったのよっ!!!?」
叩かれた頬に、その声に怒気の色を滲ませた同田貫はそんな自分の言葉を遮り声を荒げた審神者に、掴まれた襟首に息を詰めるとボロボロと涙を流す審神者を見やりハタと目を瞬かせた。
「…………俺が折れようがアンタにゃ関係ねぇだろ……。何泣いてんだ……」
「関係あるわよっ……!!貴方はもうこの本丸の一員なのよ?!!」
止めどなく溢れる涙に、バツが悪そうにそんな審神者から視線を逸らしそう小さく声を漏らした同田貫は、そう言って自分の体を叩く審神者を見やると呆れたように溜息を吐き出した。
「別に………俺が折れてもまた別の
そう言って本望だよ、と小さく零しふい、とそんな審神者から顔を背けた同田貫は、自分の言葉にソレは違うわ、と首を振った審神者を怪訝そうに見やった。
「例え此処にまた“同田貫正国”が顕現したとしても……ソレは今目の前に居る“貴方”ではないもの……。私は、今此処にいる“貴方”に生きていて欲しいの」
そう言ってきつく握り締められた手に、小さく目を見張った同田貫は涙を流す審神者を見やると、そっとそんな審神者から視線を逸らした。
「…………俺ぁ……
そうポツリと零された言葉に、どこかその眉を顰める同田貫を見やった夢子はいつだったか大倶利伽羅が言っていた戦場で散ってこそ刀だろ、と言う言葉を思い出すと、目の前の刀剣男士へと視線を向け、そっとその両手を包み込んだ。
「それは……今すぐの話……?」
「あ゛……?…………さぁ、どうだろうな……。あの腐った本丸に居た頃はずっと死に場所を探してたがな………」
結局死ねずじまいだけどよ、と自嘲の笑みを浮かべた同田貫に、暗い影を落とす同田貫の横顔を見やった夢子はあのね…、と声を漏らすと、自分へと視線を落とした同田貫にその瞳を真っすぐに見つめた。
「戦場で折れることはきっと刀にとっては最上の誉なんだと思うよ……。でも……自分の望まない形で折れて、それでも貴方は良い人生だったって、言える……?今の貴方は……まるで生き急いでるみたい」
「っ……アンタに、なにが分かるっつーんだよ?!!戦場にも出れねぇ小娘が随分と偉そうな口聞くじゃねぇか!!あ゛ぁ゛」
そう言ってその眉を下げた審神者に、ピクリ、と肩を震わせた同田貫はその襟首を掴み上げるとそう声を荒げ目の前の審神者を睨みつけた。
「そうだよ、私は戦場には出れない非力な人間だよ……。だからこうして貴方達の力を借りてるの。九十九の神様に力を貸してもらってるから、私は何があろうと貴方達を破壊させるわけには行かないの。どうしても死にたいというのなら……貴方が納得できる死に方で死んで。最期の時には笑っていられるよう、今はこの本丸で少しでも良いから穏やかに過ごして欲しい」
「っ………もう……ほっといてくれよ……」
そう言ってギュッと握り締められた手に、真摯な眼差しで自分を見つめる審神者を見やった同田貫はそっと掴んでいた服を離すと、此処は俺にゃ眩しすぎんだよ…、と小さく声を漏らした。
小さく俯けられた顔に、きつくその眉根を寄せる同田貫を見やった夢子は困ったようにその眉を下げるとお休みなさい、とそんな同田貫へと声を掛け静かに手入れ部屋を後にした。
―――――
ワイワイキャッキャ、と楽しそうな声が響く中庭に、暖かな日差しが差し込む空を仰ぎ見た同田貫は、ほら手を動かせ手を、と掛けられた声に自分と共に畑当番をする歌仙を横目に見やった。
「…………これで畑番三週間目だぞ………」
「主を怒らせた君が悪いんだろ?君が謝るまで君の事を部隊には入れないそうだよ」
そう言ってはぁあ、と大きな溜息を吐き出した同田貫に、僕だってやりたくないさ、と小さく零した歌仙は泥で汚れる内番服を見やると嫌そうにその眉を顰め、自分の言葉にはぁ?!!と声を上げた同田貫を振り返った。
「冗談じゃねぇぞ!!!俺が何したってんだよ?!」
「主を悲しませただろ」
そう言ってふざけんな!!と声を荒げる同田貫に、ひどく呆れたように溜息を吐き出した歌仙はやってられるかっ、と声を漏らし鍬を投げ捨てた同田貫を見やると三度溜息を吐き出し投げ捨てられた鍬を拾い上げた。
「物である君が物に当たるな。別に畑仕事をしたくなければしなくていいさ、けれどサボればサボった分だけ内番が追加されるからな」
「どいつもこいつもっ……!!どうして俺なんかに構うんだよ?!ほっとけよ俺の事なんかよぉ……!!」
そう言ってそんな同田貫を視界から外し作業の手を再開させた歌仙は、そんな自分を見やりひどく苛立たしげに声を上げた同田貫に、チラリ、と同田貫を見やると先刻の出来事を思い出し深々と溜息を吐き出した。
「君は
「…………っは?」
そう言葉にしその顔を上げた歌仙は、自分の言葉にその目を丸くさせる同田貫を見やると一通り耕し終わった土に、着物に付いていた土をポンポン、と手で払った。
「君の刀解令を言い渡した政府に、主は決して首を縦に振ろうとはしなかったよ。その身に不浄の気を纏っている君が、何時暴走するかも分からないのにあの
「――――っ………」
そう言って本当に困った主だ、と苦笑を洩らした歌仙は、自分の言葉にグッとその口を引き結んだ同田貫に、今にも泣き出しそうな顔をする同田貫の顔を見やるとだから、と言葉を続け掛けていた襷を紐解いた。
「主君にそこまで言わせておいて君はいつまで人間の子供のようにふてっているつもりだい?君の境遇には確かに同情するが、ソレと僕の主を泣かせる事とはお角が違うだろう。今度僕の主を泣かせてみろ、その時は僕が直々に君へ仕置きをしてやるからな」
そう言って自分を一瞥し休憩してくる、とだけ言うとさっさとその場から立ち去ってしまった歌仙に、ふてってねぇよっ!!とその背へと声を投げた同田貫はヒラリ、と振られた後ろ手にくそっ、と小さく声を漏らすとヒリつく喉に深く息を吐き出しその顔を手で覆ったのだった。
「オイ、アンタ……」
そう小さくその背に声を掛けた同田貫は、チラリ、と自分を一瞥しただけで再び歩き出してしまった審神者に、グッと言葉を詰まらせるともう一度オイッ…、とその背へと声を声を掛けた。
「オイつってんだろ………~~~~っ、止まれよ主ッ!!」
何度声を掛けても知らぬふりをする審神者に、苛立たしげに頭を搔きむしった同田貫はそう声を上げると思わずその腕を掴んでいた。
呼ばれた名と、掴まれた腕に小さく驚きの声を漏らした夢子は、そんな自分からバツが悪そうに視線を逸らす同田貫を見やるとひっそりと苦笑を洩らしどうしたの?とそんな同田貫へと向き直った。
「…………アンタの命令に背いて、悪かったと思ってる……」
「もうしない?」
「し……ねぇ……と、思う……」
「じゃぁ許しません」
そう言ってグッと言葉を詰まらせた同田貫に、あっそ、と言ってまたそんな同田貫へと背を向けた夢子はしねぇよ!!と声を荒げた同田貫を横目に見やると、その眉を顰めさせる同田貫に苦笑を洩らした。
「ねぇ同田貫、此処の生活はきっと貴方には息苦しいかもしれないけど、せめて落ち着くまでは此処に居て……?」
貴方の身体が心配なのよ、と掛けられた言葉にグッと口を引き結んだ同田貫は、清らかな空気で満たされる本丸に、元主とは正反対の存在である目の前の審神者を見やると小さく息を吐き出しソッとそんな審神者の前へと腰を折った。
「歌仙から聞いた……アンタ、俺の刀解令を蹴ったんだってな……」
「だって同田貫は何も悪い事してないじゃない」
悪いのは貴方の元主よ、と言ってその眉を顰めさせた審神者にははっ…、と苦笑いを浮かべた同田貫は不思議そうに自分を見下ろす審神者を見やるとソッとその手を取った。
「色々迷惑かけちまって悪かったな……。これからはアンタの刀としてアンタの代わりに敵をぶった切ってやるよ。………俺の死に場所は此処にすることにした」
そう言ってよろしくな、主。と苦い笑みを浮かべた同田貫にパチリ、と目を瞬かせた夢子は同田貫の手の甲に浮かび上がった他本丸の審神者番号に、契約を交わしてくれよ、と自分を見やった同田貫にふふっ、と嬉しそうにその顔を綻ばせた。
「『我が名においてこの者を我が刀剣とする』!これからよろしくね、同田貫!」
「………あぁ、よろしくな……主」
そう言の葉に力を込めた主に、その手の甲に新しく浮かび上がった『2020』の数字を見やった同田貫はふと、その顔に小さく笑みを浮かべたのだった。
質実剛健 同田貫正国
SSオマケ→
新しく書き換えられた審神者番号に、よっしゃ、と気合を入れるよう立ち上がった同田貫はブワリ、と自分の体を取り巻いた風にハタと目を瞬かせると淡い光を放ち始めた自分の体に呆けたように自分の手の平へと視線を落とした。
キラキラと淡い輝きを放ちながら体内から抜けていく“何か”に、天へと昇っていくソレを見やった同田貫は不意に耳に届いた御幸せに、と言う声を聞くとグッとその眉根を引き寄せた。
前の本丸で共に戦場を駆けていた前田藤四郎のその声に、あぁ…、と小さく声を漏らした同田貫は軽くなった体にゆっくりと消えていく光を見やると目を瞬かせる主君へと視線を落とした。
「負の念が……消えた……?」
「主が変わって体に溜まってたもんが全部抜けてったんだろうよ……」
今まで同田貫の身体を取り巻いていた不浄の念が消え去ったことに、そう呆けたように声を漏らした夢子はそう言ってカラリ、と笑った同田貫に、どこか寂しげな笑みを浮かべる同田貫を見やるとふと、その口元に笑みを浮かべそんな同田貫の背を押しその場を歩き出した。
「さ!お昼からは出陣だよ!隊長に任命するから頑張ってね!」
「おっしゃ!じゃんじゃん敵をぶった切ってくるぜ!」