夢小説内でのお名前の変更設定
空蝉の春
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教科書を机に広げなんとわなしに先生の話に耳を傾けていた夢子は明日の遠征部隊どうしようかな、とノートの上に帳簿を広げるとうーん、と小さく声を漏らしていた。
随分と増えた刀剣達に、いち兄と大倶利伽羅には今日行ってもらってるし、鶯丸やみっちゃん達は今日第一部隊で出陣してもらってるし…、と今日遠征や出陣に出向いている刀剣達の名前を上げていた夢子は『歌仙兼定/和泉守兼定 お休み』と帳簿に書くとこちらへとやって来た教師を見やり慌てた様に帳簿を引き出しへとしまった。
「………えー、またこれは先生の趣味の話になるが豊前小倉藩初代藩主だった細川忠興が所有していた刀に『歌仙兼定』というものがあってな。この『歌仙兼定』は二代目和泉守兼定が打ったことで有名な打刀で、その名前の由来は三十六歌仙からとられたともされている。二代目兼定はとても有名な人物でその人気から『歌仙兼定』は江戸時代では『千両兼定』とも呼ばれていたんだ。
ま!興味がある人は熊本の美術館に行くと良い、運が良ければ本物の『歌仙兼定』が展示されているときもあるからな!」
そう言って歴史の授業へと話を戻す教師に、ひどく聞き慣れた名前が挙がったことにハタと目を瞬かせた夢子は、昔の武将の絵が載る教科書へと視線を落とすと、その隅に小さく書かれる愛刀『歌仙兼定』の文字を見やり小さくえ……?と声を漏らしたのだった。
~~~~
「っ、か、歌仙!!かせーんっ!!」
「なんだい、騒々しい。帰ってきたらまず言うことがあるだろう?」
正門の開く音に、あぁ、主が帰って来たのか。と燭台切と共に厨で夕餉の支度をしていた歌仙はドタドタと聞こえてきた足音とその声に、どこか慌てた様に厨へとやってきた主を見やると小さく眉を顰めさせた。
「たっ、ただいま!」
「はい、お帰り主」
「お帰り!主」
そう小さく息せき切りながら挨拶をした主に、まったく、と呆れた様に溜息を吐き出した歌仙は何処か慌てた様子の主を見やると小首を傾げさせた。
「そんなに急いで何かあったのかい?」
「か、歌仙って刀だったの?!今日学校で先生が『「歌仙兼定は和泉守兼定が作った刀だ』って………!!」
あれ?でも兼さんが歌仙作ったって変だよね?!と自分へと詰め寄ってきた主に、え?え?とひどく困惑したように自分を見上げる主を見やった歌仙はあぁ、と声を漏らすと濡れた手をタオルで拭くとそんな主を振り返った。
「彼は『十二代目和泉守兼定』作の刀剣だよ。和泉守はそのまま刀匠の名を継いでるのさ」
「じゅ、十二代目……?名前を継ぐって……?え?っていうか、歌仙たちって本当に刀なの?」
そう言って何を今更、と呆れた様に溜息を吐き出した歌仙にひどく困惑した様子の主を見やった燭台切はハハハ、と苦笑を漏らすとそんな主を見下ろした。
「っていうか君、今まで僕達をなんだと思ってたんだい?」
「え………?刀に取り付いた戦国の武将の霊だと………」
今更自分達が刀の付喪神である事に驚く主に、付喪神よりは信憑性がありそうなその発想にそれはそれで今頃皆石切丸さんに祓われてるだろうな、と苦笑いを浮かべた燭台切はあー…なるほどねぇ…。と声を漏らすと頬をかいた。
「就任4年目にして衝撃の事実だね……」
「私……てっきり鍛刀した刀に武将の霊を降ろしてるんだとばっかり……」
そう言って苦笑いを浮かべる燭台切に、みっちゃんも刀なんだよね?とそんな燭台切を見やった夢子は勿論。と笑みを浮かべた燭台切を見やるとはぁ、と感嘆の声を漏らし、ポン。と肩に手を置いた歌仙を不思議そうに振り返った。
「…………主、ちょっと来なさい。燭台切、後は頼んだよ」
「え……?え?」
「オーケー!いってらっしゃい!」
そう言って有無を言わさず自分の手を引き歩き出した歌仙に、そんな自分達へとにこやかに手を振る燭台切を見やった夢子は歌仙に連れられ厨を後にしたのだった。
「いいかい、主。まず薬研や秋田、一期一振は粟田口吉光作の刀剣だ。その中でも一期一振は吉光が打った唯一の太刀だとも言われている。だから、一期一振にとって薬研や秋田、他の粟田口の短刀は弟に当たるんだよ」
歌仙に連れられ中庭へとやって来た夢子は、そう言って一期一振や秋田達を見やった歌仙に、弟達の遊び相手になっている一期一振を見やるとはぁ、と感嘆の声を漏らし、お帰りと声を掛けてきた薬研へと視線を落とした。
「で?どうしたんだ?歌仙の旦那は。改まって俺達の説明なんかして」
そう言って一人縁側で茶を啜る薬研に、主の帰宅に縁側へと集まる粟田口を見やった歌仙はどうされたのですか?と掛けられた声に一期一振を見やると君主へと視線を落とした。
「どうしたもこうしたも……主がね……今までずっと僕らのことを“刀に取り憑いた戦国武将の霊”だと思っていたんだよっ………!!」
「それはまた…………面白い発想ですな」
そう言って雅に欠ける!と声を荒らげた歌仙はキョトリと目を瞬かせた後ハハハ、と笑った一期一振に笑い事じゃないだろ?!と地団太を踏んでいた。
「まぁそんなに怒りなさんなや歌仙の旦那。まず6歳児に俺達は刀の付喪神だ。なんて言っても分かるわけないだろ?」
「仮にも僕らの主だろ?!だからと言って戦国武将の霊はないだろう………」
そう言ってひどく呆れた様に溜息を吐き出した歌仙は、カラカラと笑う薬研や苦笑を漏らす前田達を見やるとクイ、と引かれた袖に傍らの主を見下ろした。
「ねぇ歌仙。じゃぁここの本丸に居る短刀の子達は皆いち兄の弟なの?」
「いや、皆が皆粟田口派というわけではないさ。粟田口は基本銘に『藤四郎』が付いてるんだ。だから小夜左文字は左文字派、愛染国俊は来派で別の刀派の刀になるのさ」
五虎退は少し特殊だけれどね、と一期一振の側に立つ五虎退を見やった歌仙になるほど…、と小さく声を漏らした夢子は君、刀帳をちゃんと読んでないだろう…、と非難の視線を向けてきた歌仙からソッと視線を逸らした。
「刀派とか……刀種とか、なかなか覚えられなくて……」
「まぁこれからゆっくりと覚えていって下さればよろしいですよ」
そう言って読んではいるよ…、と小さく零した主にそう言ってそんな主の頭を撫でる一期一振を見やった歌仙はじゃぁ次だね、とまたそんな主の手を引き本丸を歩き出した。
「はい、次!太郎太刀、次郎太刀。彼らは愛知県の熱田神宮に奉納されている御神刀だよ。刀匠は違うが彼らを振るった人物に血縁関係があったからこの二振りは兄弟に近い関係性なんだろうね。
そして石切丸は三条小鍛冶宗近が打った刀で今は石切剣箭神社に御神刀として奉納されてる。彼らはみな大太刀だけど、それぐらい…………知っているよね?主?」
「え?あぁ、知ってる知ってるっ!!前に石切丸が教えてくれたから!」
稽古場で手合いをする太郎太刀と次郎太刀に、それを見学する石切丸を指差し自分へそう説明する歌仙に、自分を見下ろしにっこり、と笑みを浮かべバックに黒いオーラを漂わせる歌仙を見やった夢子は慌てた様に頷いた。
「急にどうしたんだい?歌仙さん」
「あぁ、稽古中にすまないね。ちょっと主に僕らの説明をして回ってるんだ」
不意に稽古場へと顔を覗かせた主とその初期刀に、稽古の手を休めこちらへとやって来た太郎太刀や石切丸を見やった夢子はちょっとね、と苦い笑みを浮かべるとソッとそんな三振りから視線を逸らした。
「また、何故急に我々の説明を……?」
「兄貴や石切丸なんて主ちゃんの刀になってもう随分経つだろー?」
今さら説明なんて必要ないんじゃない?と不思議がる次郎太刀と小首を傾げる太郎太刀を見やった歌仙はそれはもう深い溜息を吐き出すと顔を背ける主の頭へとポン、と手を置いた。
「あぁ、そうさ。もう4年も審神者をやってるというのにこの子は今まで僕らの事戦国武将の霊だと思ってたんだよっ……」
そう言って信じられるかいっ?!と声を荒げた歌仙はよほど自分達が幽霊だと思われていたことがショックだったのだろう眉間に皺を寄せていて、それにキョトリと目を瞬かせた三振りは居心地が悪そうに顔を背ける主へと視線を落とした。
「それは、また…………憑き物落としはよくやるけれど、自分自身が憑き物だと思われていたなんてねぇ」
「あっはっはっは!!まぁ付喪神も霊も主ちゃんにとったらそう大差ないだろうけどねぇ!」
そう言ってカラカラと笑う次郎太刀と苦笑いを浮かべる石切丸にブスッとした表情を浮かべた夢子。
「次郎ちゃんも石切丸も何もそんなに笑わなくたっていいじゃん………」
「次郎太刀、主に失礼ですよ」
そう言ってフイ、と顔を背けた主に、膨れるその頬を見やった太郎太刀は未だケラケラと笑う次郎太刀を見やると呆れた様に溜息を吐き出した。
「いや、ほらだってさ!兄貴だって御神刀から幽霊に格が下がったんだからちょっとは親しみわくんじゃないの?」
「我々が何になろうと、彼女が主であることには変わりはないでしょう」
まずは笑うのを止めなさい。と未だ楽しげにその頬を緩ませる弟の頬を抓った太郎太刀は、ねぇ太郎さん、と掛けられた声に自分を見上げる主を見やると膝を折りその身を低くさせた。
「はい、なんでしょう?」
「よく石切丸も言ってるけどその『ゴシントー』ってなに?」
「そうですね……、平たく言ってしまうならば『守刀』という事です。厄や病気から主を御守りするのが我ら御神刀の役目。神事の際に用いられたりもしますよ」
そう言ってもっぱらその役目は石切丸殿ですが。と傍らに立つ大太刀を見上げた太郎太刀に、同じように石切丸を仰ぎ見た夢子はあー!と声を漏らすと納得したようにポン、と手を叩いた。
「石切丸がいつもやってる『はらいたまえ~きよえたまえ~』のやつね!」
「本当にザックリだね、君って子は………」
せめて厄払いと言ってくれないかな。と呆れたように溜息を吐き出した石切丸はそんな自分達を見遣りニコッと笑った主を見やるとキョトリと目を瞬かせた。
「じゃぁここに居る皆ゴシントーだね!いつも私の事守ってくれるもん!」
ゴシントーが沢山!と顔を綻ばせた主にそんな主を見やりキョトリと目を瞬かせた歌仙も、同じように目を瞬かせる太郎太刀や石切丸を見やると、ふとその口元に弧をかいた。
「それは、恐悦至極だね」
これからも御守りするよ、我が主。とそんな君主の頭を撫でやった歌仙は同じように優しい笑みを浮かべ主を見やる三振りを一瞥すると邪魔して悪かったね、と主と共にその場を後にした。
「刀剣って刀派とか沢山あるんだねぇ。私歌仙と小夜ちゃんは昔からの知り合いみたいだったから同じ刀派だと思ってた」
「あぁ、お小夜は昔同じ御家に居たことがあってね。まぁ……色々あって、直ぐに別々になってしまったけれど……。お小夜の兄弟は宗三と、あともう一振りまだこの本丸には来ていないけれど江雪左文字という刀が彼の兄弟刀なんだ」
厨へと戻る道すがらそう言った主に、同じ武家に身を置いていた小夜左文字のことを思い出していた歌仙は、じゃぁ歌仙と兼さんも兄弟刀なの?と自分を見上げた主を見やると小さく苦笑を漏らした。
「いや、和泉守とは随分と刀匠が離れているから、まぁ差し詰め彼と僕は遠い親戚、と言ったところだろうね」
「へぇ、刀にも色々あるんだねぇ……。じゃぁさ、みっちゃんと大倶利伽羅は同じ人が作ったの?仲良いでしょ?あの二人」
そう言って小首を傾げる主に、何かと大倶利伽羅に構う燭台切を思い出していた歌仙は仲が良いというかあれは燭台切が大倶利伽羅を構いたくて仕方ないだけなんだろう、と苦笑を漏らすといや、と首を振りそんな主を見下ろした。
「燭台切と大倶利伽羅は伊達政宗公の所持刀だったのさ。だから、燭台切は大倶利伽羅の事を気にかけているし、大倶利伽羅も燭台切には気を許しているんじゃないかな」
「俺は馴れ合っているつもりは無い」
「「大倶利伽羅」!!」
伊達刀と呼ばれている二振りに、あと二振り伊達の刀がいるのだと説明しようとしていた歌仙は、そう不意に後ろから聞こえてきた声に、いつの間にか自分達の後ろに立っていた大倶利伽羅を振り返った。
「そら、受け取れよ」
「ウブッ……!お、お帰りなさい大倶利伽羅。遠征お疲れ様」
そう言って大袋に入った資材を押し付けた大倶利伽羅に、木炭が沢山入ったソレを見やった夢子はその中に紛れる桜の枝を見やるとハタと目を瞬かせ、ありがとう…、と自分を見下ろす大倶利伽羅を仰ぎ見た。
「これぐらい、俺一人で十分だっただろ。それで、何をコソコソと人の事を話していた」
「コソコソだと………?別に疚しい事は何も話してないさ、ただお前と燭台切が旧知の仲だと話していただけだ」
どこか不思議そうに大倶利伽羅を見上げる主に、そんな主から視線を逸らすよう自分を見やった大倶利伽羅に、どこか棘のある言い方をする大倶利伽羅のその言葉に小さく眉を顰めさせた歌仙。
「フン、どうだかな。だいたいアンタは俺達の主なんだろう、そんな事も知らないでよく審神者が勤まっているもんだな」
「っ、大倶利伽羅、貴様いい加減にしろっ!!」
そう言ってひどく呆れた様に鼻息をつき主を一瞥した大倶利伽羅に、そんな大倶利伽羅へと抗議の声を上げようとした歌仙はケンカは駄目だよ!とそんな自分を制した主を不満げに見下ろした。
「いいよ歌仙、ホントの事だもん。だからね、今こうやって歌仙に皆のこと教えてもらってるの。大倶利伽羅やみんなの事もっと沢山知ってれば私だってこれからの戦に役に立てれるでしょ?」
「…………勝手にしろ、俺は群れるつもりもない」
そう言ってふふ、と笑った主にそんな主君を見下ろした大倶利伽羅はそう素っ気なく言葉を返すとさっさと歩き出してしまい、そんな大倶利伽羅の背を見送り苦笑を漏らした夢子は何なんだアイツはっ!!と声を荒げた歌仙へと視線を向けた。
「これだから田舎刀は好きになれないんだっ………!!主、あんな奴の言うことは気にしなくて良いからね!!」
「歌仙、ホント大倶利伽羅と仲が悪いね……。でも大倶利伽羅は冷たく見えるけどいい人だよ。だってほら、ホントに私に興味無いならこんなお土産持ってきてくれないでしょ?」
まぁ言葉足らずではあるけどね、とどこか少し困ったように笑った主に、資材に紛れるよう入っているその桜の枝を見やった歌仙は、桜の花が2.3輪咲くソレに、主がよく好んで景趣として取り入れているその花に意外そうに目を瞬かせるとあの大倶利伽羅が…と声を漏らしたのだった。
それぞれの刀剣男士
SSオマケ→
「……江雪左文字と申します。戦いが、この世から消える日はあるのでしょうか……?」
久方振りに行った鍛刀でやってきた新刀剣男士に、ハタと目を瞬かせた夢子は江雪“左文字”と名乗ったその刀剣を見やるとパッと顔を輝かせた。
「小夜ちゃんと宗三さんのお兄さんだ!!」
「良かったね!主!」
いらっしゃいませ!とそんな自分の手を取り喜ぶ主君であろう幼き少女と笑みを浮かべる伊達の刀を見やった江雪は、もう一度幼い審神者へと視線を落とすと小さくその眉を顰めさせた。
「………この世は、悲しみに満ちている……」
「「え……?」」
救いはないのでしょうか…。と本来ならば戦とは無縁の世界で暮らしているであろう少女の手をソッと握りしめた江雪に、何故か自分を憂いの眼差しで見下ろす刀剣男士を見やった夢子はハタと目を瞬かせると同じように呆ける燭台切を仰ぎ見た。
「戦いは……嫌いです。ですが……せめて貴女の為に尽くしましょう……」
それが私の使命なのならば…、と今度は祈るように目を閉じた江雪に、“江雪左文字”という刀の来歴を思い出していた燭台切はあー…、と声を漏らすと苦笑いを浮かべた。
「江雪さんは、僧侶が所持していた刀だからね。戦事は不得手なのかもしれないね……」
そう言ってハハハ、と苦笑いを浮かべた燭台切に、兄弟でこうも違うのか、と戦事には前傾姿勢の小夜を思い出していた夢子は目の前の戦嫌いな左文字兄弟の長兄を見やるとまた癖の強い刀がきたな、とよろしくお願いします、と苦い笑みを浮かべたのだった。
随分と増えた刀剣達に、いち兄と大倶利伽羅には今日行ってもらってるし、鶯丸やみっちゃん達は今日第一部隊で出陣してもらってるし…、と今日遠征や出陣に出向いている刀剣達の名前を上げていた夢子は『歌仙兼定/和泉守兼定 お休み』と帳簿に書くとこちらへとやって来た教師を見やり慌てた様に帳簿を引き出しへとしまった。
「………えー、またこれは先生の趣味の話になるが豊前小倉藩初代藩主だった細川忠興が所有していた刀に『歌仙兼定』というものがあってな。この『歌仙兼定』は二代目和泉守兼定が打ったことで有名な打刀で、その名前の由来は三十六歌仙からとられたともされている。二代目兼定はとても有名な人物でその人気から『歌仙兼定』は江戸時代では『千両兼定』とも呼ばれていたんだ。
ま!興味がある人は熊本の美術館に行くと良い、運が良ければ本物の『歌仙兼定』が展示されているときもあるからな!」
そう言って歴史の授業へと話を戻す教師に、ひどく聞き慣れた名前が挙がったことにハタと目を瞬かせた夢子は、昔の武将の絵が載る教科書へと視線を落とすと、その隅に小さく書かれる愛刀『歌仙兼定』の文字を見やり小さくえ……?と声を漏らしたのだった。
~~~~
「っ、か、歌仙!!かせーんっ!!」
「なんだい、騒々しい。帰ってきたらまず言うことがあるだろう?」
正門の開く音に、あぁ、主が帰って来たのか。と燭台切と共に厨で夕餉の支度をしていた歌仙はドタドタと聞こえてきた足音とその声に、どこか慌てた様に厨へとやってきた主を見やると小さく眉を顰めさせた。
「たっ、ただいま!」
「はい、お帰り主」
「お帰り!主」
そう小さく息せき切りながら挨拶をした主に、まったく、と呆れた様に溜息を吐き出した歌仙は何処か慌てた様子の主を見やると小首を傾げさせた。
「そんなに急いで何かあったのかい?」
「か、歌仙って刀だったの?!今日学校で先生が『「歌仙兼定は和泉守兼定が作った刀だ』って………!!」
あれ?でも兼さんが歌仙作ったって変だよね?!と自分へと詰め寄ってきた主に、え?え?とひどく困惑したように自分を見上げる主を見やった歌仙はあぁ、と声を漏らすと濡れた手をタオルで拭くとそんな主を振り返った。
「彼は『十二代目和泉守兼定』作の刀剣だよ。和泉守はそのまま刀匠の名を継いでるのさ」
「じゅ、十二代目……?名前を継ぐって……?え?っていうか、歌仙たちって本当に刀なの?」
そう言って何を今更、と呆れた様に溜息を吐き出した歌仙にひどく困惑した様子の主を見やった燭台切はハハハ、と苦笑を漏らすとそんな主を見下ろした。
「っていうか君、今まで僕達をなんだと思ってたんだい?」
「え………?刀に取り付いた戦国の武将の霊だと………」
今更自分達が刀の付喪神である事に驚く主に、付喪神よりは信憑性がありそうなその発想にそれはそれで今頃皆石切丸さんに祓われてるだろうな、と苦笑いを浮かべた燭台切はあー…なるほどねぇ…。と声を漏らすと頬をかいた。
「就任4年目にして衝撃の事実だね……」
「私……てっきり鍛刀した刀に武将の霊を降ろしてるんだとばっかり……」
そう言って苦笑いを浮かべる燭台切に、みっちゃんも刀なんだよね?とそんな燭台切を見やった夢子は勿論。と笑みを浮かべた燭台切を見やるとはぁ、と感嘆の声を漏らし、ポン。と肩に手を置いた歌仙を不思議そうに振り返った。
「…………主、ちょっと来なさい。燭台切、後は頼んだよ」
「え……?え?」
「オーケー!いってらっしゃい!」
そう言って有無を言わさず自分の手を引き歩き出した歌仙に、そんな自分達へとにこやかに手を振る燭台切を見やった夢子は歌仙に連れられ厨を後にしたのだった。
「いいかい、主。まず薬研や秋田、一期一振は粟田口吉光作の刀剣だ。その中でも一期一振は吉光が打った唯一の太刀だとも言われている。だから、一期一振にとって薬研や秋田、他の粟田口の短刀は弟に当たるんだよ」
歌仙に連れられ中庭へとやって来た夢子は、そう言って一期一振や秋田達を見やった歌仙に、弟達の遊び相手になっている一期一振を見やるとはぁ、と感嘆の声を漏らし、お帰りと声を掛けてきた薬研へと視線を落とした。
「で?どうしたんだ?歌仙の旦那は。改まって俺達の説明なんかして」
そう言って一人縁側で茶を啜る薬研に、主の帰宅に縁側へと集まる粟田口を見やった歌仙はどうされたのですか?と掛けられた声に一期一振を見やると君主へと視線を落とした。
「どうしたもこうしたも……主がね……今までずっと僕らのことを“刀に取り憑いた戦国武将の霊”だと思っていたんだよっ………!!」
「それはまた…………面白い発想ですな」
そう言って雅に欠ける!と声を荒らげた歌仙はキョトリと目を瞬かせた後ハハハ、と笑った一期一振に笑い事じゃないだろ?!と地団太を踏んでいた。
「まぁそんなに怒りなさんなや歌仙の旦那。まず6歳児に俺達は刀の付喪神だ。なんて言っても分かるわけないだろ?」
「仮にも僕らの主だろ?!だからと言って戦国武将の霊はないだろう………」
そう言ってひどく呆れた様に溜息を吐き出した歌仙は、カラカラと笑う薬研や苦笑を漏らす前田達を見やるとクイ、と引かれた袖に傍らの主を見下ろした。
「ねぇ歌仙。じゃぁここの本丸に居る短刀の子達は皆いち兄の弟なの?」
「いや、皆が皆粟田口派というわけではないさ。粟田口は基本銘に『藤四郎』が付いてるんだ。だから小夜左文字は左文字派、愛染国俊は来派で別の刀派の刀になるのさ」
五虎退は少し特殊だけれどね、と一期一振の側に立つ五虎退を見やった歌仙になるほど…、と小さく声を漏らした夢子は君、刀帳をちゃんと読んでないだろう…、と非難の視線を向けてきた歌仙からソッと視線を逸らした。
「刀派とか……刀種とか、なかなか覚えられなくて……」
「まぁこれからゆっくりと覚えていって下さればよろしいですよ」
そう言って読んではいるよ…、と小さく零した主にそう言ってそんな主の頭を撫でる一期一振を見やった歌仙はじゃぁ次だね、とまたそんな主の手を引き本丸を歩き出した。
「はい、次!太郎太刀、次郎太刀。彼らは愛知県の熱田神宮に奉納されている御神刀だよ。刀匠は違うが彼らを振るった人物に血縁関係があったからこの二振りは兄弟に近い関係性なんだろうね。
そして石切丸は三条小鍛冶宗近が打った刀で今は石切剣箭神社に御神刀として奉納されてる。彼らはみな大太刀だけど、それぐらい…………知っているよね?主?」
「え?あぁ、知ってる知ってるっ!!前に石切丸が教えてくれたから!」
稽古場で手合いをする太郎太刀と次郎太刀に、それを見学する石切丸を指差し自分へそう説明する歌仙に、自分を見下ろしにっこり、と笑みを浮かべバックに黒いオーラを漂わせる歌仙を見やった夢子は慌てた様に頷いた。
「急にどうしたんだい?歌仙さん」
「あぁ、稽古中にすまないね。ちょっと主に僕らの説明をして回ってるんだ」
不意に稽古場へと顔を覗かせた主とその初期刀に、稽古の手を休めこちらへとやって来た太郎太刀や石切丸を見やった夢子はちょっとね、と苦い笑みを浮かべるとソッとそんな三振りから視線を逸らした。
「また、何故急に我々の説明を……?」
「兄貴や石切丸なんて主ちゃんの刀になってもう随分経つだろー?」
今さら説明なんて必要ないんじゃない?と不思議がる次郎太刀と小首を傾げる太郎太刀を見やった歌仙はそれはもう深い溜息を吐き出すと顔を背ける主の頭へとポン、と手を置いた。
「あぁ、そうさ。もう4年も審神者をやってるというのにこの子は今まで僕らの事戦国武将の霊だと思ってたんだよっ……」
そう言って信じられるかいっ?!と声を荒げた歌仙はよほど自分達が幽霊だと思われていたことがショックだったのだろう眉間に皺を寄せていて、それにキョトリと目を瞬かせた三振りは居心地が悪そうに顔を背ける主へと視線を落とした。
「それは、また…………憑き物落としはよくやるけれど、自分自身が憑き物だと思われていたなんてねぇ」
「あっはっはっは!!まぁ付喪神も霊も主ちゃんにとったらそう大差ないだろうけどねぇ!」
そう言ってカラカラと笑う次郎太刀と苦笑いを浮かべる石切丸にブスッとした表情を浮かべた夢子。
「次郎ちゃんも石切丸も何もそんなに笑わなくたっていいじゃん………」
「次郎太刀、主に失礼ですよ」
そう言ってフイ、と顔を背けた主に、膨れるその頬を見やった太郎太刀は未だケラケラと笑う次郎太刀を見やると呆れた様に溜息を吐き出した。
「いや、ほらだってさ!兄貴だって御神刀から幽霊に格が下がったんだからちょっとは親しみわくんじゃないの?」
「我々が何になろうと、彼女が主であることには変わりはないでしょう」
まずは笑うのを止めなさい。と未だ楽しげにその頬を緩ませる弟の頬を抓った太郎太刀は、ねぇ太郎さん、と掛けられた声に自分を見上げる主を見やると膝を折りその身を低くさせた。
「はい、なんでしょう?」
「よく石切丸も言ってるけどその『ゴシントー』ってなに?」
「そうですね……、平たく言ってしまうならば『守刀』という事です。厄や病気から主を御守りするのが我ら御神刀の役目。神事の際に用いられたりもしますよ」
そう言ってもっぱらその役目は石切丸殿ですが。と傍らに立つ大太刀を見上げた太郎太刀に、同じように石切丸を仰ぎ見た夢子はあー!と声を漏らすと納得したようにポン、と手を叩いた。
「石切丸がいつもやってる『はらいたまえ~きよえたまえ~』のやつね!」
「本当にザックリだね、君って子は………」
せめて厄払いと言ってくれないかな。と呆れたように溜息を吐き出した石切丸はそんな自分達を見遣りニコッと笑った主を見やるとキョトリと目を瞬かせた。
「じゃぁここに居る皆ゴシントーだね!いつも私の事守ってくれるもん!」
ゴシントーが沢山!と顔を綻ばせた主にそんな主を見やりキョトリと目を瞬かせた歌仙も、同じように目を瞬かせる太郎太刀や石切丸を見やると、ふとその口元に弧をかいた。
「それは、恐悦至極だね」
これからも御守りするよ、我が主。とそんな君主の頭を撫でやった歌仙は同じように優しい笑みを浮かべ主を見やる三振りを一瞥すると邪魔して悪かったね、と主と共にその場を後にした。
「刀剣って刀派とか沢山あるんだねぇ。私歌仙と小夜ちゃんは昔からの知り合いみたいだったから同じ刀派だと思ってた」
「あぁ、お小夜は昔同じ御家に居たことがあってね。まぁ……色々あって、直ぐに別々になってしまったけれど……。お小夜の兄弟は宗三と、あともう一振りまだこの本丸には来ていないけれど江雪左文字という刀が彼の兄弟刀なんだ」
厨へと戻る道すがらそう言った主に、同じ武家に身を置いていた小夜左文字のことを思い出していた歌仙は、じゃぁ歌仙と兼さんも兄弟刀なの?と自分を見上げた主を見やると小さく苦笑を漏らした。
「いや、和泉守とは随分と刀匠が離れているから、まぁ差し詰め彼と僕は遠い親戚、と言ったところだろうね」
「へぇ、刀にも色々あるんだねぇ……。じゃぁさ、みっちゃんと大倶利伽羅は同じ人が作ったの?仲良いでしょ?あの二人」
そう言って小首を傾げる主に、何かと大倶利伽羅に構う燭台切を思い出していた歌仙は仲が良いというかあれは燭台切が大倶利伽羅を構いたくて仕方ないだけなんだろう、と苦笑を漏らすといや、と首を振りそんな主を見下ろした。
「燭台切と大倶利伽羅は伊達政宗公の所持刀だったのさ。だから、燭台切は大倶利伽羅の事を気にかけているし、大倶利伽羅も燭台切には気を許しているんじゃないかな」
「俺は馴れ合っているつもりは無い」
「「大倶利伽羅」!!」
伊達刀と呼ばれている二振りに、あと二振り伊達の刀がいるのだと説明しようとしていた歌仙は、そう不意に後ろから聞こえてきた声に、いつの間にか自分達の後ろに立っていた大倶利伽羅を振り返った。
「そら、受け取れよ」
「ウブッ……!お、お帰りなさい大倶利伽羅。遠征お疲れ様」
そう言って大袋に入った資材を押し付けた大倶利伽羅に、木炭が沢山入ったソレを見やった夢子はその中に紛れる桜の枝を見やるとハタと目を瞬かせ、ありがとう…、と自分を見下ろす大倶利伽羅を仰ぎ見た。
「これぐらい、俺一人で十分だっただろ。それで、何をコソコソと人の事を話していた」
「コソコソだと………?別に疚しい事は何も話してないさ、ただお前と燭台切が旧知の仲だと話していただけだ」
どこか不思議そうに大倶利伽羅を見上げる主に、そんな主から視線を逸らすよう自分を見やった大倶利伽羅に、どこか棘のある言い方をする大倶利伽羅のその言葉に小さく眉を顰めさせた歌仙。
「フン、どうだかな。だいたいアンタは俺達の主なんだろう、そんな事も知らないでよく審神者が勤まっているもんだな」
「っ、大倶利伽羅、貴様いい加減にしろっ!!」
そう言ってひどく呆れた様に鼻息をつき主を一瞥した大倶利伽羅に、そんな大倶利伽羅へと抗議の声を上げようとした歌仙はケンカは駄目だよ!とそんな自分を制した主を不満げに見下ろした。
「いいよ歌仙、ホントの事だもん。だからね、今こうやって歌仙に皆のこと教えてもらってるの。大倶利伽羅やみんなの事もっと沢山知ってれば私だってこれからの戦に役に立てれるでしょ?」
「…………勝手にしろ、俺は群れるつもりもない」
そう言ってふふ、と笑った主にそんな主君を見下ろした大倶利伽羅はそう素っ気なく言葉を返すとさっさと歩き出してしまい、そんな大倶利伽羅の背を見送り苦笑を漏らした夢子は何なんだアイツはっ!!と声を荒げた歌仙へと視線を向けた。
「これだから田舎刀は好きになれないんだっ………!!主、あんな奴の言うことは気にしなくて良いからね!!」
「歌仙、ホント大倶利伽羅と仲が悪いね……。でも大倶利伽羅は冷たく見えるけどいい人だよ。だってほら、ホントに私に興味無いならこんなお土産持ってきてくれないでしょ?」
まぁ言葉足らずではあるけどね、とどこか少し困ったように笑った主に、資材に紛れるよう入っているその桜の枝を見やった歌仙は、桜の花が2.3輪咲くソレに、主がよく好んで景趣として取り入れているその花に意外そうに目を瞬かせるとあの大倶利伽羅が…と声を漏らしたのだった。
それぞれの刀剣男士
SSオマケ→
「……江雪左文字と申します。戦いが、この世から消える日はあるのでしょうか……?」
久方振りに行った鍛刀でやってきた新刀剣男士に、ハタと目を瞬かせた夢子は江雪“左文字”と名乗ったその刀剣を見やるとパッと顔を輝かせた。
「小夜ちゃんと宗三さんのお兄さんだ!!」
「良かったね!主!」
いらっしゃいませ!とそんな自分の手を取り喜ぶ主君であろう幼き少女と笑みを浮かべる伊達の刀を見やった江雪は、もう一度幼い審神者へと視線を落とすと小さくその眉を顰めさせた。
「………この世は、悲しみに満ちている……」
「「え……?」」
救いはないのでしょうか…。と本来ならば戦とは無縁の世界で暮らしているであろう少女の手をソッと握りしめた江雪に、何故か自分を憂いの眼差しで見下ろす刀剣男士を見やった夢子はハタと目を瞬かせると同じように呆ける燭台切を仰ぎ見た。
「戦いは……嫌いです。ですが……せめて貴女の為に尽くしましょう……」
それが私の使命なのならば…、と今度は祈るように目を閉じた江雪に、“江雪左文字”という刀の来歴を思い出していた燭台切はあー…、と声を漏らすと苦笑いを浮かべた。
「江雪さんは、僧侶が所持していた刀だからね。戦事は不得手なのかもしれないね……」
そう言ってハハハ、と苦笑いを浮かべた燭台切に、兄弟でこうも違うのか、と戦事には前傾姿勢の小夜を思い出していた夢子は目の前の戦嫌いな左文字兄弟の長兄を見やるとまた癖の強い刀がきたな、とよろしくお願いします、と苦い笑みを浮かべたのだった。