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空蝉の春
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鍛刀部屋に鳴り響く金槌の音に、隣りに腰かける五虎退は何故か目を瞑り祈るように手を握りしめていて、2度目の近侍が回ってきた五虎退に、プルプルと小さく震えるその肩を見やった夢子はひっそりと苦笑を漏らした。
前回五虎退と共に長谷部を顕現したことが随分と粟田口では話題になったんだろう、薬研や乱から半ば強引に、鍛刀してくるよう言いつけられたのだと半泣きだった五虎退を思い出していた夢子は無事上部に表示された鍛刀時間を見やるとハタと目を瞬かせた。
「…………二連続で二時間半」
「え、ぇえ~………?!」
再び見ることとなった『2:29:59』の表示に閉じていた目を開けた五虎退はひどく驚いていて、ゆ、夢じゃないですよね…?と自分と時間を交互に見やる五虎退に、夢じゃない夢じゃない、と笑った夢子は前回よりは落ち着いている様子の五虎退を見やるとさて、と声を漏らしゴザから立ち上がった。
「この後五虎退は出陣だったよね?時間もないし、手伝い札使うよー」
「は、はいっ……!」
準備はいい?と掛けられた声に、慌てた様に立ち上がった五虎退はコクコクと頷くと手伝い札を刀鍛冶の精へと渡す主を見やると抱えていた仔虎をギュッと抱きしめた。
「石切丸という、病気治癒がお望みかな?……おや、参拝者ではないのか」
これはまた随分と若い主だね、と自分を見下ろし優しげな笑みを浮かべた刀剣に、大きい…と呆けた様に声を漏らした夢子は私の顔に何か付いているかな?と掛けられた声に慌てた様に姿勢を正した。
「い、いらっしゃいませ石切丸さん!私がここの審神者です!」
この子は近侍の五虎退です!と同じように自分を見上げ呆ける短刀を見やった石切丸はは、初めまして……!と頭を下げた五虎退にあぁ、よろしく頼むよ。と柔和な笑みを浮かべた。
ひどく優しい雰囲気を持つその刀剣に、優しそうな人で良かった、と安堵していた夢子はあの…、と掛けられた声に隣に立つ五虎退を不思議そうに振り返った。
「す、すみません、主さま……ぼ、ぼくもう出陣しなきゃ……」
「ホ、ホントだ!!出陣前にごめんね!気を付けていってらっしゃい!」
皆が待ってると思うので…、とひどく申し訳なさそうに掛けられた声に、時計を見やった夢子も出陣予定時刻を少し過ぎている時間に慌てた様に五虎退の背を押しやった。
怪我しないでね!と掛た声にはい!と返しい、行ってきます…!と自分へと手を振る五虎退へと手を振り返した夢子は見送りもままならなかった出陣部隊に、帰ってきたら沢山褒めてあげよう、と遠ざかる五虎退の背を見やり申し訳なさそうに眉を下げると石切丸を振り返った。
「ごめんね石切丸さん、ホントなら近侍の子が本丸を案内するんだけどちょっとバタバタしてて……」
そう言って今日は私が本丸を案内するね、と歩き出した主に、その小さな背を見やった石切丸はそのあとに続くように鍛刀部屋を出ると綺麗に手入れされた中庭を見やりほぉ、と小さく感嘆の声を漏らした。
審神者の神気が安定しているからなのだろう清らかな空気が漂う本丸に、幼い身ながら凄いな、と各部屋を説明して歩く主にそう言えば、と声を漏らした石切丸はそんな主を見下ろした。
「私は此処で何をしたらいいのかな?なにせ神社暮らしが長かったものでね」
祭事は得意なんだけれど、それ以外はちょっとね。と言いははは、と笑った石切丸にキョトリと目を瞬かせた夢子は此処へと顕現した刀剣達は皆自ずと自分達が何をするべきか理解していたことに、なんと説明しよう…とんー、と声を漏らしていた。
「石切丸さんは、その……刀を使って戦ったりとかは……?」
「随分昔は私も戦場に出ていたんだけど、今ではもっぱら腫物や病魔を霊的に斬ることのほうが多くてね」
戦事より神事のほうが得意かな、と朗らかに笑う石切丸に、そうなんだ…、と呆けた様に言葉を返した夢子はそう言う人も珍しくないのかな…?と現世の事にはあまり興味のない太郎太刀を思い浮かべると、一つの部屋で足を止めた。
「ここは滅多に使うことないんだけど、石切丸さん神社暮らしが長いみたいだしココが役に立つと思うから、好きな時に使って良いよー」
そう言って襖を開いた主に、なにかな?と中を見やった石切丸は、神棚と神具が置かれるそこを見やるとハタと目を瞬かせた。
少し広めの一室には神事に使う神具が揃っており、まるで拝殿を思わせるような作りのその部屋に中へと入った石切丸は、飾ってまだそう日も経っていないであろう新しい榊を見やると自分の後を付いてきた主へと視線を落とした。
「この本丸では誰か祈祷をする人がいるのかい?」
「キトー……?」
そう言って自分を見下ろす石切丸に、聞き慣れないその言葉に小首を傾げた夢子は安全祈願のようなものだよ、と答えた石切丸を見やるとンー…?とますますその首を傾げさせた。
正月や盆、年の暮れぐらいにしか顔を覗かせることのない部屋に、お払いしてる人なんていたかな…、と思考を巡らせていた夢子はほら、と掛けられた声に石切丸を見上げた。
「神棚に飾られている榊がまだ新しいだろう?それに空気もよく澄んでいる。誰かが定期的にこの部屋の厄を払っている証拠さ」
「あ、あの葉っぱは太郎さんがたまに替えてるんだ。ケガレ?がたまるといけないからって」
そう言って指された神棚に、そこに飾られる榊を見やった夢子はたまにこの部屋を出入りしている太郎太刀を思い出すと、そう言った自分に太郎さん?と小首を傾げた石切丸へと視線を戻した。
「そう!太郎太刀!石切丸さんぐらい背が高くてあまり喋らないけどすごく良い人だよ!」
後で皆のことも紹介するね!と声を弾ませる君主に、『太郎太刀』という名を聞いた石切丸はあぁ、と思い出したように声を漏らすと笑みを浮かべる主を見下ろした。
「熱田神宮に奉納されている大太刀さんだね。確か彼には兄弟刀の次郎太刀とういう大太刀もいたはずだけれど、彼はまだ来てはいないのかな?」
「次郎太刀さんはまだ………太郎さんも『こればかりは御縁ですからね』って……」
一応鍛刀はしてるんだけど…、と困ったように眉を下げてしまった主に、あぁ、不躾だったかな…。と肩を落とす主を困ったように見ていた石切丸はおや?と聞こえた声に部屋へと顔を覗かせた刀剣を振り返った。
「これはこれは、石切丸殿。ご無沙汰いたしております」
「やぁ、太郎太刀さん。久しぶりだね」
そう言って榊を手に部屋へとやって来た大太刀に、相変わらず礼儀の正しい太郎太刀へと同じように頭を下げた石切丸は自分を一瞥し、主へと視線を落とした太郎太刀に習うよう、主へと視線を落とした。
「良かったですね、主。新たな刀は大太刀でしたか」
「うん!太郎さんと同じだね!石切丸さんと太郎さんは昔からの知り合いなの?」
そう言って微笑を浮かべた太郎太刀に、久しぶり、と言葉を交わしていた二人を不思議そうに見やった夢子はあぁ、と声を漏らし石切丸を見やった太郎太刀に同じように石切丸を仰ぎ見た。
「彼も私も同じ御神刀ですから。神有月の際にはよく出雲大社で顔を合わせていたのですよ」
「ふーん……?」
旧暦に行われるその神々の集まりに、良くは分っていないだろう主を見やり小さく苦笑を漏らした太郎太刀はそんな主の頭をポンと撫でやった。
「後の案内は私が致しますので、主は学び舎へ行く時間でしょう?歌仙殿が探していましたよ」
「え?!もうそんな時間なんだ……!!ごめんね、太郎さん後よろしく!石切丸さん、また帰ってきたらお話しようね!」
そう言って行ってきます!!と慌てた様に部屋を出て行った主に、御気を付けて、とその背に声を掛けた太郎太刀は、慌ただしいね、と朗らかに笑う石切丸を見やると案外現世の生活も良いものですよ。と返し手にしていた榊を古いものと取り換えた。
「また戦事に呼び出されるとは思いませんでしたが、此処での生活はなかなかに良いものです」
次郎太刀ならばもっと馴染めたでしょうね、と零した太郎太刀に先程の主とのやり取りを思い出した石切丸は目の前の同胞の兄弟刀の顔を思い浮かべると小さく眉尻を下げた。
「顕現したのが私ですまなかったね……。同じ大太刀ならば此処へは次郎太刀さんが来るべきだったんだろうね」
そう言ってどこか申し訳なさそうにその眉を下げる石切丸に、神棚の手入れをしていた太郎太刀はそんな石切丸を振り返ると不思議そうに目を瞬かせふと、その口元に弧を描いた。
「いえ、そんなことはありませんよ。今はまだ刀剣数もさほど多くない本丸ですから、二振り目の大太刀、皆大いに喜ぶことでしょう。それに、私達の主は良い神気と運を持っている。いつかはきっと次郎太刀も此処へと顕現するでしょう」
この本丸が始まりまだ2年、ですから。と言葉にする太郎太刀はひどく穏やかな笑みを浮かべていて、彼はこんな顔もできたのか、と少し驚いたように目を瞬かせた石切丸は、中を案内致しましょう。と歩き出した太郎太刀の背を見やると、そうだね。と言葉を返しそんな太郎太刀の後を追うよう部屋を後にした。
――――――
「あぁ、ほら主見てごらん。こんなに太く大きくなって、立派だねぇ」
「うんうん、凄い凄い」
「………勿論大根の事だよ」
そう言ってだから真面目に収穫しようねー。と大根を掲げる自分を一瞥し雑草を抜く主に、フフフ、冷たいね。と零したにっかりは本丸を歩く石切丸の姿を目に留めるとおや、と声を漏らした。
作業の手を止めて本丸を振り返ったにっかりに、一通り草取りを終えた夢子もそんなにっかりを見やると其方へと視線を向けた。
「あ、石切丸さんだ」
「何処へ行くんだろうねぇ、こんな時間に」
もうすぐお昼だというのに、と真上へと昇った太陽に手にしていた大根を籠へと入れたにっかりは一つの部屋へと入って行った石切丸を見やると納得したようにあぁ、と声を漏らした。
「毎日毎日熱心だよねぇ、彼」
「石切丸さん、あの部屋で何してるの?」
「ふふふ、僕からはちょっと言えないことだねぇ」
「加持祈祷をしてるんだよ、石切丸は」
「「歌仙・くん」」
神棚が祀られている部屋に、そこへと入って行った石切丸にそう言ったにっかりを仰ぎ見た夢子は、そんな自分を見やり意味深な笑みを浮かべたにっかりを見やるとまたそうやってはぐらかす、と眉を顰め、不意に後ろから加わった声ににっかりと共に後ろを振り返った。
「にっかり、あまり主に変なことを吹き込まないでくれないか?」
「おやおや、歌仙くんは過保護だねぇ」
この子の教育に悪いことは口にするな。と洗濯籠を手にどこか眉を顰め自分を見やる歌仙に、悪びれた風なく笑ったにっかりはカジキトウって何?と掛けられた声に主を見下ろした。
「加持祈祷というのはね、神様にお祈りをして皆の健康を祈ることだよ」
「まぁ祈祷にも色々あるけれどねぇ。無病息災に家内安全、恋愛成就とか……きっと彼の得意分野は病気関連なんだろうけれどねぇ」
彼あれだろう?石切神社の御神体様。と石切丸が入って行った部屋を見やり小さく目を細めさせたにっかりに、そんなにっかりを見やり怪訝そうに眉を顰めさせた歌仙はへぇ!とどこか感心したように声を上げた主に、主へと視線を落とした。
「石切丸さん、毎日皆の健康を神様にお祈りしてくれてるの?」
「まぁ彼は神社暮らしが長かったそうだからね、あぁいう神事ごとをしていると落ち着くんだろう」
そう言って顔を綻ばせる主に、自分達も神の端くれなんだがな、と神が神に祈りを捧げる、というはたから見ればなんとも不思議な光景にそう返した歌仙は刀剣にもいろんな人がいるんだね!と声を弾ませた主に苦笑を漏らした。
「私、ちょっと石切丸さんの所に行ってくる!あ!青江くんも行く?」
「僕は遠慮しておくよ。僕みたいなのがあまりあぁ言う神聖な場に行くのもちょっとねぇ」
そう笑ってどこか含みのある言い方をするにっかりに、小さく眉を顰めさせた歌仙はそんなにっかりに、分かった!と返し本丸へと駆けて行ってしまった主の背を見やると、ふふふ、と笑うにっかりへと向き直った。
「君な、あれで主はよく人を見ているんだ。あんな言い方をして、君だって主に変な気を使われたくはないだろう?」
「おやおや、歌仙君は僕のことを気にかけてくれているのかい?」
ソレは光栄だなぁ、と口元に手を当てクスクスと笑ったにっかりは、茶化すな。と言葉を返した歌仙を見やると、ふと主が入って行った部屋へと視線を向けた。
「僕が此処に顕現したのは太郎太刀さんのあとだっただろう?だからなんとなく、太郎太刀さんのことはすんなりと受け入れることが出来たんだけどねぇ……」
そう言ってふふふ、と笑ったにっかりは口元に笑みは浮かべているが目元が笑っておらず、それに怪訝そうに眉を顰めていた歌仙はチラリ、と自分を見やったにっかりに目を瞬かせた。
「歌仙君はもう石切丸さんとは出陣したかい?彼、凄いよねぇ……一人で3振りとヤりあっちゃうんだもん」
僕なんてこの前助けられてしまったよ。と練度で言えば自分の方が上にも関わらず自分に向かってきた敵を一掃してしまった石切丸にそう言ってふふ、と笑ったにっかりはどこか物々しい空気を漂わせていて、それに太郎太刀並の打撃を誇る石切丸にあぁ、と納得したように声を漏らした歌仙はそんなにっかりを見やると呆れた様に溜息を吐き出した。
「大太刀と脇差では打撃に差があるのは当たり前だろう。それに、打撃では彼らに勝てないがその分僕らは大太刀より遥かに機動が高いだろう」
だから隊の編成も各刀種が振り分けられるんだ。と至極当然のことを言う歌仙に、ふふふ、と笑ったにっかりはそうだね。と返すとその場にしゃがみ込んだ。
ブチブチと小さな雑草を引っこ抜くにっかりに、いまいち何を考えているのか分からない脇差を見やった歌仙は小さく溜息を吐き出すと洗濯籠を持ち直した。
「とにかく、あまり石切丸に突っかかるんじゃないよ。本丸内での私闘はご法度だからな」
飯を抜かれても僕は知らないぞ、と言ってその場から立ち去っていく歌仙にはいはい。とそんな歌仙へと後ろ手を振ったにっかりは、本丸から聞こえてくる石切丸の祝詞 に手を止めると本丸へと消えていく歌仙の背を振り返った。
「君だって知ってるだろう?僕は元“大太刀”の大脇差なんだよ……。磨り上げさえされなければ僕だって今でも大太刀だったんだよ?………なんて、無い物ねだりだよねぇ。……まぁ、御神刀様と幽霊斬りの刀じゃ張り合いにもならないんだろうけれどねぇ」
そう言ってあーぁ、と声を漏らしたにっかりはいつの間にか終わっていた祝詞に、主と共に部屋から出てくる石切丸を見やると小さくその眉を顰めさせ、自分へと手を振った主に気を落ち着かせるよう息を吐き出すといつものように笑みを浮かべヒラリ、とそんな主へと手を振り返したのだった。
――――――
パタパタと聞こえてきた足音に、日課の加持祈祷を行っていた石切丸はスパン!と開いた襖を振り返るとそこに立つ主を振り返り目を瞬かせた。
「そんなに慌ててどうしたんだい?主」
「ご、ごめん石切丸さん!今から出陣できる?!」
今日の編成決めるの忘れてて…!とひどく慌てた様子で部屋へとやって来た主は自分の戦装束をその腕に抱えていて、ハタと目を瞬かせた石切丸は着替えて~!!と押し付けられた戦装束を見やるとあぁ、もうっ……!と思わず声を上げていた。
「まだ加持祈祷の途中なんだけどなっ……?!」
「ごめんー!!兼さんとか太郎さんは遠征に行ってもらってるから今手が空いてるの石切丸さんだけなんだよー!!」
歌仙にも怒られた―!!と声を上げ着替えを手伝う主に、まったく仕方がないな…、と呆れた様に声を漏らし着物に袖を通した石切丸は烏帽子を手にする主にソッと身を屈めた。
ポスリと頭の上に乗せられた烏帽子に、これからは気をつけるんだよ、と首元で紐を結びつつそんな主を見下ろした石切丸は、その首元からぶら下がる御守を見やるとハタと目を瞬かせた。
「それは御守りかい?随分と古いようだけど」
「え?あぁ、そうなんだ。政府の人に『大事なものだから肌身離さず持ってなさい』って言われて」
歌仙に紐を付けてもらったの、といつも持ち歩いているのだろう少しほつれのあるその御守に、魔除けの咒が掛けられているソレをソッと手に取った石切丸は怪訝そうに小さく眉を顰めると、石切丸さん?と掛けられた声に自分を不思議そうに見上げる主へと視線を落とした。
「いや、なんでもないよ。君は神気も多いし、とてもいい審神者になるだろうね」
これは大切に持っておくといい、ときっと災厄から彼女の身を護るために作られたのであろうソレに、そう言って無くさないようにね、と着物の中へと御守を戻した石切丸はうん!と笑みを浮かべた主を見やると傍らに置いていた刀を手に取った。
「それじゃぁ行ってくるよ」
「行ってらっしゃい!あ!青江くんのことよろしくお願いします!」
今日の部隊長だから!と自分へと大手を振った主に、普通は逆なのではないだろうか?と自分より練度の高いにっかりに、小首を傾げあぁ、分かったよ。と手を振り返した石切丸は第二部隊が待つ正門へと向かったのだった。
月の浮かぶ夜空に、どこか物々しい雰囲気を放つ池田屋を見やったにっかりは、暗いね、と零した石切丸をチラリ、と見やるとひっそりと溜息を吐き出した。
(これは………主の采配ミスだよねぇ……)
部隊の編成をしていなかった、と慌てた様に自分の所へとやってきた主に、慌ただしいまま指定された時代へと出陣をしたにっかりは、今朝の出来事を思い返すと再び溜息を吐きだし、隣りに立つ石切丸を振り返った。
「…………石切丸さん。僕から離れないでね」
参ったな、と小さく零したにっかりにどうやら私は夜戦は不得手のようだね、と笑う石切丸は今の状況をあまり理解していないらしく、それにもう一度参ったねぇ…、と零したにっかりは偵察を終えてこちらへと戻ってきた秋田達へと視線を向けた。
「先方に遡行軍を発見いたしました!数はおそよ6体、陣形から見て逆行陣でしょう」
そう言って合流した前田にご苦労様、と返したにっかりはチラチラと見える影になるほどねぇ、と声を漏らすとチラリ、と石切丸を横目に見やり腰に下げていた刀を抜き取った。
「だったらこちらは雁行陣で行こうか。みんな準備は良いかい?さぁ、斬ったり斬られたりしよう……」
そう言って敵方へと向かっていくにっかりに続いて駆け出した前田や秋田に、同じように抜刀した石切丸も自分へと飛び掛かってくる敵へと刀を振りぬいた。
「我が刃は、岩をも断つっ……!!」
一体、二体、と順調に敵を切り捨てていたにっかりは一通り討伐した遡行軍に、一つ息を吐き出すと戦況を確認するよう後方を見やり、苦戦を強いられる石切丸にあぁ…、と小さく声を漏らしていた。
(夜戦で、しかも室内だからねぇ………大太刀にはかなり不利な戦場だね)
小回りの効かない大太刀に、なんとか短刀一振を倒した石切丸を見やったにっかりは、再び自分へと向かってきた敵を薙ぎ払うと、自分の脇をすり抜け石切丸に攻撃を仕掛けた脇差を見やり慌てたように後方を振り返った。
「石切丸っ!!!」
「………っ!!」
小回りの利く短刀に苦戦をしているのか、脇差の接近に気づいていない石切丸に、そう声を上げたにっかりは咄嗟に石切丸の体を突き飛ばすと眼前に迫る脇差を切り捨て、背中に走った痛みに小さく眉根を顰めさせた。
「っ……、後ろからなんて、フェアじゃないねぇ……。石灯籠みたいに斬ってやろうかなぁっ……!!」
そう声を上げ一気に神気を解放させたにっかりは背後に忍んでいた短刀を切り捨てるとその場に片膝を付いた。
「にっかりさんっ、大丈夫かい?!」
「あぁ、問題ないさ……戦ってるんだ、これくらいは普通さ。ただ……これは少し……まずいねぇ……」
隊を引き上げないと……と、血の流れる脇腹を抑えたにっかりは、自分達が手傷を負って帰ってきたときの主のあの悲痛な表情を思い出すと参ったな…、と小さく声を漏らした。
彼女の采配ミスではあるが、まさか一戦目で自分が中傷を負うなんて、と苦笑を漏らしていたにっかりはその場に静かに鳴り響いた鈴の音に、ハタと目を瞬かせると小さく失笑を漏らした。
きっと主も采配を間違えた事に気付いたのだろうタイミングよく鳴った強制帰還を命じる鈴の音に、彼女の泣き顔、みたくないんだけれどねぇ…と小さく零し手にしていた刀を鞘へと戻したにっかりは自分の前に立った石切丸を不思議そうに仰ぎ見た。
「にっかりさん、その状態で歩くのは辛いだろう?良ければ、私が運ぼう」
そう言ってその身を屈め自分へと背を向けた石切丸に、呆けた様に目を瞬かせたにっかりはほら、乗って、と促した石切丸を見やるとひどく嫌そうに眉を潜めさせた。
「大丈夫さ、これくらい。自分で歩けるよ……」
「元はと言えば私を庇って負った怪我だろう。意地を張っていないで乗りなさい」
そう言って歩き出そうとしたにっかりは、そんな自分を見上げ少しだけきつく言葉を返した石切丸に、眉を寄せる石切丸を見やると言葉を詰まらせ、小さく溜息を吐き出しそんな石切丸の背へと渋々身を持たれ掛けさせた。
「…………ふふ、流石大太刀………とても立派だねぇ」
「屋内や夜戦は不向きだけれどね」
背中の事だよ?と落ちた沈黙に、気まずさを紛らわせるためそうポツリと零したにっかりは、そんな自分にそう言葉を返した石切丸を見やるとすまなかったね、と零された言葉にキョトリと目を瞬かせた。
「今回の出陣、私は足でまといになってしまったね」
君が助けてくれなければ軽傷ではすまなかったよ、と苦笑を漏らす石切丸に、仲間なんだ当り前さ。と返したにっかりはありがとう。と安堵したように笑った石切丸を見やるとひっそりと溜息を吐き出した。
自分の得手不得手をちゃんと心得ている目の前の刀に、みっともないなぁ、と小さく零したにっかりは、御神刀の力なのか少しだけ痛みの和らいだ体に小さく息を吐き出すとそんな石切丸の背に体を預けた。
「…………なんで僕は神刀になれないんだろうねぇ」
「どうしたんだい、急に………?」
「………君が羨ましいよ」
大太刀で御神刀な君が、とそう言って自嘲するように笑ったにっかりに、何か言いたげにこちらに向けられていたにっかりの視線を思い出した石切丸は言葉を悩ませるとソッと口を閉ざした。
「ねぇ……石切丸、教えてくれないかい?なんで、僕は御神刀になれないんだろうね……」
「…………霊といえど、子供を斬ったから、かな……」
「あぁ…………やっぱり、そうなのかなぁ………」
そう問いかけられた言葉に、『にっかり青江』という刀が持つ有名な逸話を思い出しそう言葉にした石切丸は、そんな自分にそう零し望んで斬ったわけじゃないのにねぇ、と自嘲したように笑ったにっかりを見やると、出陣前の主の言葉を思い出してひっそりと苦笑を漏らした。
子供だとばかり思っていた幼い君主は、ちゃんと刀剣男士達の些細な変化に気が付いていて、あぁ、だから私に彼を任せたのか、と納得するとにっかりを背負いなおした。
「まぁ、百年後、二百年後にはどうなっているか分からないし、気長に待ってみたらどうだろう?」
その頃には神格も上がっているかもしれないよ、と笑う石切丸に小さく揺れた振動に眉を顰めたにっかりもキョトリと目を瞬かせると、穏やかな空気を放つ石切丸を見やりふとその口元に笑みを浮かべるとそうだね。と言葉を返した。
~~~~~
「はははっ、随分と男前になったじゃないかにっかり」
「青江くんっ、石切丸さんっ、ごめんねっ!!」
帰城の鐘が鳴り響き押し開かれた正門に、自分を出迎えたのはやはり今にも泣き出しそうな主で、そう言って自分達へと駆け寄ってきた主に石切丸の背から降りたにっかりは心配性だねぇ、とそんな主の頭を撫でやると、主と共に自分を出迎えた歌仙を嫌そうに見やった。
「おやおや、そんなことを言っても良いのかい?歌仙君。もう君とは二刀開眼してあげないからね……」
「ははは、それだけ減らず口が叩けるのなら問題はなさそうだね」
僕は数少ない脇差の一振りなのにねぇ、と肩を竦めて見せたにっかりは、そう笑って自分の背を叩いた歌仙に、無事で良かった。と小さく声を掛けた歌仙を見やると、参った、とでもいうように眉を下げ主へと視線を落とした。
「さぁ、主。隅から隅まで綺麗にしてくれるかい?」
「うんっ、石切丸さんも手入れ部屋に行こう……!」
「あぁ、私は後で構わないよ。大した怪我ではないからね。にっかりさんを宜しくね」
そう言って歌仙たちと共に中へと入って行く石切丸に、大太刀の方が時間がかかるのにねぇ、と零したにっかりは引かれた手に行こう。と歩き出した主を見やるとその背に続くよう歩き出した。
「僕に足りないのはきっと心の広さなんだろうねぇ」
ポン、ポン、と一定のリズムで打たれる打ち粉に、手当も終わり自分の刀身を手入れする主を床に座りながら眺めていたにっかりは、そうポツリと声を漏らすと不思議そうに自分を見やった主にふふ、とその口元に弧を描いた。
「石切丸さんの大らかさを見習わなきゃねぇ」
少し、焦っていたのかもしれないねぇ、と主語のないにっかりの話に、けれどもどこかスッキリとした顔をするにっかりを見やった夢子は終わりよければなんとやらさ、と采配ミスをしてしまった自分にたいしそう言っていた歌仙の言葉を思い出すと、あぁ、わだかまりがとれたのかな、とふとその口元に笑みを浮かべた。
「私は青江くんの周りの空気も好きだよ。青江くんの側は落ち着くし。まぁ、内番とかちゃんとやってくれたらもっといいんだけど。それに、結構石切丸さんって短気だよ」
そう言ってクスクス笑う主に、あの石切丸が短気?と小首を傾げていたにっかりは、静かに刀台に置かれた刀を見やると立ち上がった主を不思議そうに仰ぎ見た。
「今回は私のせいで怪我させちゃってごめんね、ゆっくり休んでね」
「僕達は刀だからね、怪我をするのは当り前さ」
気にしないでおくれ、と笑ったにっかりはそんな自分を見やりありがとう、と笑って手入れ部屋を出て行った主を見送ると、百年後二百年後、ねぇ…、と先ほど石切丸と交わした言葉を思い出し、そう小さく零すとひっそりと苦笑を漏らし床へと就いたのだった。
大太刀石切丸と大脇差にっかり青江
SSオマケ→
「石切丸さーん!そろそろ出陣の時間だよー!」
「ああっ、まだ加持祈祷の途中なんだけどなっ……!!」
中庭を挟んで向かい側の部屋から聞こえてきた主と石切丸のその声に、厨へと向かおうとしていたにっかりはハタと目を瞬かせると祈祷部屋から出てきた主と石切丸を不思議そうに見やった。
どこか慌ただしそうに正門へと向かう石切丸と主に、もう少しで祈祷も終わったんだけどなっ?!と声を上げる石切丸に帰ってきてから続きしてー、と苦笑を漏らす主を見やったにっかりはへぇ、と声を漏らすとどこか楽しげにその口元に弧を描いた。
「彼、あんな一面もあるんだねぇ……」
「彼が出陣するときはたいてい主が呼びに行っているからね」
全くたまには自主的に行動してほしいものだね、とポツリと零した言葉に返事が返ってきたことに、いつの間にか自分の隣に立つ歌仙を見やったにっかりは、どこか不機嫌そうに眉を顰める歌仙を見やると口元にソッと手を添えふふふ、と楽しげに笑みを零した。
「おやおや、歌仙君は大好きな主が取られてご機嫌斜めなようだねぇ」
「君はどうやらその首、よほどいらないみたいだな」
「フフフ、ヤダな歌仙君。ちょっとその立派なものをしまいなよ」
そう言ってクスクスと笑えばチャキリ、と首元に添えられた刃先に、とてもにこやかに自分を見やる歌仙からソッと身を引いたにっかりは額に青筋を浮かべた歌仙を見やるとあ、ヤバい…、と零し踵を返すとその場から駆け出した。
「にっかりっ……!!貴様というやつはっ、その言葉、万死に値するぞ!!」
「ちょっと待ちなよ歌仙君っ………!!僕は“ナニが”とは言っていないだろう?!!」
「~~~~っ!!ほんっとうに君ってやつは雅じゃないなっ!!!」
「歌仙君!にっかりさん!本丸での私闘は御法度だよ!!っていうか歌仙君なに抜刀してるんだい?!!さすがに真剣で喧嘩は駄目だよーーっ!!」
首を差し出せ―!!という歌仙の怒声と燭台切の制止の声が響く本丸に、そんな二人の声を聞いた薬研は今日も平和だな、と零すと書物へと視線を落としたのだった。
本当は石切丸メインのお話にしたかったんですけどいつの間にかにっかりさんメインになってたり……
いやぁ、『大脇差』って響き、とても良きですね(*´艸`)
あとなにげに五虎退君はミラクルを引き起こしてますよね
前回五虎退と共に長谷部を顕現したことが随分と粟田口では話題になったんだろう、薬研や乱から半ば強引に、鍛刀してくるよう言いつけられたのだと半泣きだった五虎退を思い出していた夢子は無事上部に表示された鍛刀時間を見やるとハタと目を瞬かせた。
「…………二連続で二時間半」
「え、ぇえ~………?!」
再び見ることとなった『2:29:59』の表示に閉じていた目を開けた五虎退はひどく驚いていて、ゆ、夢じゃないですよね…?と自分と時間を交互に見やる五虎退に、夢じゃない夢じゃない、と笑った夢子は前回よりは落ち着いている様子の五虎退を見やるとさて、と声を漏らしゴザから立ち上がった。
「この後五虎退は出陣だったよね?時間もないし、手伝い札使うよー」
「は、はいっ……!」
準備はいい?と掛けられた声に、慌てた様に立ち上がった五虎退はコクコクと頷くと手伝い札を刀鍛冶の精へと渡す主を見やると抱えていた仔虎をギュッと抱きしめた。
「石切丸という、病気治癒がお望みかな?……おや、参拝者ではないのか」
これはまた随分と若い主だね、と自分を見下ろし優しげな笑みを浮かべた刀剣に、大きい…と呆けた様に声を漏らした夢子は私の顔に何か付いているかな?と掛けられた声に慌てた様に姿勢を正した。
「い、いらっしゃいませ石切丸さん!私がここの審神者です!」
この子は近侍の五虎退です!と同じように自分を見上げ呆ける短刀を見やった石切丸はは、初めまして……!と頭を下げた五虎退にあぁ、よろしく頼むよ。と柔和な笑みを浮かべた。
ひどく優しい雰囲気を持つその刀剣に、優しそうな人で良かった、と安堵していた夢子はあの…、と掛けられた声に隣に立つ五虎退を不思議そうに振り返った。
「す、すみません、主さま……ぼ、ぼくもう出陣しなきゃ……」
「ホ、ホントだ!!出陣前にごめんね!気を付けていってらっしゃい!」
皆が待ってると思うので…、とひどく申し訳なさそうに掛けられた声に、時計を見やった夢子も出陣予定時刻を少し過ぎている時間に慌てた様に五虎退の背を押しやった。
怪我しないでね!と掛た声にはい!と返しい、行ってきます…!と自分へと手を振る五虎退へと手を振り返した夢子は見送りもままならなかった出陣部隊に、帰ってきたら沢山褒めてあげよう、と遠ざかる五虎退の背を見やり申し訳なさそうに眉を下げると石切丸を振り返った。
「ごめんね石切丸さん、ホントなら近侍の子が本丸を案内するんだけどちょっとバタバタしてて……」
そう言って今日は私が本丸を案内するね、と歩き出した主に、その小さな背を見やった石切丸はそのあとに続くように鍛刀部屋を出ると綺麗に手入れされた中庭を見やりほぉ、と小さく感嘆の声を漏らした。
審神者の神気が安定しているからなのだろう清らかな空気が漂う本丸に、幼い身ながら凄いな、と各部屋を説明して歩く主にそう言えば、と声を漏らした石切丸はそんな主を見下ろした。
「私は此処で何をしたらいいのかな?なにせ神社暮らしが長かったものでね」
祭事は得意なんだけれど、それ以外はちょっとね。と言いははは、と笑った石切丸にキョトリと目を瞬かせた夢子は此処へと顕現した刀剣達は皆自ずと自分達が何をするべきか理解していたことに、なんと説明しよう…とんー、と声を漏らしていた。
「石切丸さんは、その……刀を使って戦ったりとかは……?」
「随分昔は私も戦場に出ていたんだけど、今ではもっぱら腫物や病魔を霊的に斬ることのほうが多くてね」
戦事より神事のほうが得意かな、と朗らかに笑う石切丸に、そうなんだ…、と呆けた様に言葉を返した夢子はそう言う人も珍しくないのかな…?と現世の事にはあまり興味のない太郎太刀を思い浮かべると、一つの部屋で足を止めた。
「ここは滅多に使うことないんだけど、石切丸さん神社暮らしが長いみたいだしココが役に立つと思うから、好きな時に使って良いよー」
そう言って襖を開いた主に、なにかな?と中を見やった石切丸は、神棚と神具が置かれるそこを見やるとハタと目を瞬かせた。
少し広めの一室には神事に使う神具が揃っており、まるで拝殿を思わせるような作りのその部屋に中へと入った石切丸は、飾ってまだそう日も経っていないであろう新しい榊を見やると自分の後を付いてきた主へと視線を落とした。
「この本丸では誰か祈祷をする人がいるのかい?」
「キトー……?」
そう言って自分を見下ろす石切丸に、聞き慣れないその言葉に小首を傾げた夢子は安全祈願のようなものだよ、と答えた石切丸を見やるとンー…?とますますその首を傾げさせた。
正月や盆、年の暮れぐらいにしか顔を覗かせることのない部屋に、お払いしてる人なんていたかな…、と思考を巡らせていた夢子はほら、と掛けられた声に石切丸を見上げた。
「神棚に飾られている榊がまだ新しいだろう?それに空気もよく澄んでいる。誰かが定期的にこの部屋の厄を払っている証拠さ」
「あ、あの葉っぱは太郎さんがたまに替えてるんだ。ケガレ?がたまるといけないからって」
そう言って指された神棚に、そこに飾られる榊を見やった夢子はたまにこの部屋を出入りしている太郎太刀を思い出すと、そう言った自分に太郎さん?と小首を傾げた石切丸へと視線を戻した。
「そう!太郎太刀!石切丸さんぐらい背が高くてあまり喋らないけどすごく良い人だよ!」
後で皆のことも紹介するね!と声を弾ませる君主に、『太郎太刀』という名を聞いた石切丸はあぁ、と思い出したように声を漏らすと笑みを浮かべる主を見下ろした。
「熱田神宮に奉納されている大太刀さんだね。確か彼には兄弟刀の次郎太刀とういう大太刀もいたはずだけれど、彼はまだ来てはいないのかな?」
「次郎太刀さんはまだ………太郎さんも『こればかりは御縁ですからね』って……」
一応鍛刀はしてるんだけど…、と困ったように眉を下げてしまった主に、あぁ、不躾だったかな…。と肩を落とす主を困ったように見ていた石切丸はおや?と聞こえた声に部屋へと顔を覗かせた刀剣を振り返った。
「これはこれは、石切丸殿。ご無沙汰いたしております」
「やぁ、太郎太刀さん。久しぶりだね」
そう言って榊を手に部屋へとやって来た大太刀に、相変わらず礼儀の正しい太郎太刀へと同じように頭を下げた石切丸は自分を一瞥し、主へと視線を落とした太郎太刀に習うよう、主へと視線を落とした。
「良かったですね、主。新たな刀は大太刀でしたか」
「うん!太郎さんと同じだね!石切丸さんと太郎さんは昔からの知り合いなの?」
そう言って微笑を浮かべた太郎太刀に、久しぶり、と言葉を交わしていた二人を不思議そうに見やった夢子はあぁ、と声を漏らし石切丸を見やった太郎太刀に同じように石切丸を仰ぎ見た。
「彼も私も同じ御神刀ですから。神有月の際にはよく出雲大社で顔を合わせていたのですよ」
「ふーん……?」
旧暦に行われるその神々の集まりに、良くは分っていないだろう主を見やり小さく苦笑を漏らした太郎太刀はそんな主の頭をポンと撫でやった。
「後の案内は私が致しますので、主は学び舎へ行く時間でしょう?歌仙殿が探していましたよ」
「え?!もうそんな時間なんだ……!!ごめんね、太郎さん後よろしく!石切丸さん、また帰ってきたらお話しようね!」
そう言って行ってきます!!と慌てた様に部屋を出て行った主に、御気を付けて、とその背に声を掛けた太郎太刀は、慌ただしいね、と朗らかに笑う石切丸を見やると案外現世の生活も良いものですよ。と返し手にしていた榊を古いものと取り換えた。
「また戦事に呼び出されるとは思いませんでしたが、此処での生活はなかなかに良いものです」
次郎太刀ならばもっと馴染めたでしょうね、と零した太郎太刀に先程の主とのやり取りを思い出した石切丸は目の前の同胞の兄弟刀の顔を思い浮かべると小さく眉尻を下げた。
「顕現したのが私ですまなかったね……。同じ大太刀ならば此処へは次郎太刀さんが来るべきだったんだろうね」
そう言ってどこか申し訳なさそうにその眉を下げる石切丸に、神棚の手入れをしていた太郎太刀はそんな石切丸を振り返ると不思議そうに目を瞬かせふと、その口元に弧を描いた。
「いえ、そんなことはありませんよ。今はまだ刀剣数もさほど多くない本丸ですから、二振り目の大太刀、皆大いに喜ぶことでしょう。それに、私達の主は良い神気と運を持っている。いつかはきっと次郎太刀も此処へと顕現するでしょう」
この本丸が始まりまだ2年、ですから。と言葉にする太郎太刀はひどく穏やかな笑みを浮かべていて、彼はこんな顔もできたのか、と少し驚いたように目を瞬かせた石切丸は、中を案内致しましょう。と歩き出した太郎太刀の背を見やると、そうだね。と言葉を返しそんな太郎太刀の後を追うよう部屋を後にした。
――――――
「あぁ、ほら主見てごらん。こんなに太く大きくなって、立派だねぇ」
「うんうん、凄い凄い」
「………勿論大根の事だよ」
そう言ってだから真面目に収穫しようねー。と大根を掲げる自分を一瞥し雑草を抜く主に、フフフ、冷たいね。と零したにっかりは本丸を歩く石切丸の姿を目に留めるとおや、と声を漏らした。
作業の手を止めて本丸を振り返ったにっかりに、一通り草取りを終えた夢子もそんなにっかりを見やると其方へと視線を向けた。
「あ、石切丸さんだ」
「何処へ行くんだろうねぇ、こんな時間に」
もうすぐお昼だというのに、と真上へと昇った太陽に手にしていた大根を籠へと入れたにっかりは一つの部屋へと入って行った石切丸を見やると納得したようにあぁ、と声を漏らした。
「毎日毎日熱心だよねぇ、彼」
「石切丸さん、あの部屋で何してるの?」
「ふふふ、僕からはちょっと言えないことだねぇ」
「加持祈祷をしてるんだよ、石切丸は」
「「歌仙・くん」」
神棚が祀られている部屋に、そこへと入って行った石切丸にそう言ったにっかりを仰ぎ見た夢子は、そんな自分を見やり意味深な笑みを浮かべたにっかりを見やるとまたそうやってはぐらかす、と眉を顰め、不意に後ろから加わった声ににっかりと共に後ろを振り返った。
「にっかり、あまり主に変なことを吹き込まないでくれないか?」
「おやおや、歌仙くんは過保護だねぇ」
この子の教育に悪いことは口にするな。と洗濯籠を手にどこか眉を顰め自分を見やる歌仙に、悪びれた風なく笑ったにっかりはカジキトウって何?と掛けられた声に主を見下ろした。
「加持祈祷というのはね、神様にお祈りをして皆の健康を祈ることだよ」
「まぁ祈祷にも色々あるけれどねぇ。無病息災に家内安全、恋愛成就とか……きっと彼の得意分野は病気関連なんだろうけれどねぇ」
彼あれだろう?石切神社の御神体様。と石切丸が入って行った部屋を見やり小さく目を細めさせたにっかりに、そんなにっかりを見やり怪訝そうに眉を顰めさせた歌仙はへぇ!とどこか感心したように声を上げた主に、主へと視線を落とした。
「石切丸さん、毎日皆の健康を神様にお祈りしてくれてるの?」
「まぁ彼は神社暮らしが長かったそうだからね、あぁいう神事ごとをしていると落ち着くんだろう」
そう言って顔を綻ばせる主に、自分達も神の端くれなんだがな、と神が神に祈りを捧げる、というはたから見ればなんとも不思議な光景にそう返した歌仙は刀剣にもいろんな人がいるんだね!と声を弾ませた主に苦笑を漏らした。
「私、ちょっと石切丸さんの所に行ってくる!あ!青江くんも行く?」
「僕は遠慮しておくよ。僕みたいなのがあまりあぁ言う神聖な場に行くのもちょっとねぇ」
そう笑ってどこか含みのある言い方をするにっかりに、小さく眉を顰めさせた歌仙はそんなにっかりに、分かった!と返し本丸へと駆けて行ってしまった主の背を見やると、ふふふ、と笑うにっかりへと向き直った。
「君な、あれで主はよく人を見ているんだ。あんな言い方をして、君だって主に変な気を使われたくはないだろう?」
「おやおや、歌仙君は僕のことを気にかけてくれているのかい?」
ソレは光栄だなぁ、と口元に手を当てクスクスと笑ったにっかりは、茶化すな。と言葉を返した歌仙を見やると、ふと主が入って行った部屋へと視線を向けた。
「僕が此処に顕現したのは太郎太刀さんのあとだっただろう?だからなんとなく、太郎太刀さんのことはすんなりと受け入れることが出来たんだけどねぇ……」
そう言ってふふふ、と笑ったにっかりは口元に笑みは浮かべているが目元が笑っておらず、それに怪訝そうに眉を顰めていた歌仙はチラリ、と自分を見やったにっかりに目を瞬かせた。
「歌仙君はもう石切丸さんとは出陣したかい?彼、凄いよねぇ……一人で3振りとヤりあっちゃうんだもん」
僕なんてこの前助けられてしまったよ。と練度で言えば自分の方が上にも関わらず自分に向かってきた敵を一掃してしまった石切丸にそう言ってふふ、と笑ったにっかりはどこか物々しい空気を漂わせていて、それに太郎太刀並の打撃を誇る石切丸にあぁ、と納得したように声を漏らした歌仙はそんなにっかりを見やると呆れた様に溜息を吐き出した。
「大太刀と脇差では打撃に差があるのは当たり前だろう。それに、打撃では彼らに勝てないがその分僕らは大太刀より遥かに機動が高いだろう」
だから隊の編成も各刀種が振り分けられるんだ。と至極当然のことを言う歌仙に、ふふふ、と笑ったにっかりはそうだね。と返すとその場にしゃがみ込んだ。
ブチブチと小さな雑草を引っこ抜くにっかりに、いまいち何を考えているのか分からない脇差を見やった歌仙は小さく溜息を吐き出すと洗濯籠を持ち直した。
「とにかく、あまり石切丸に突っかかるんじゃないよ。本丸内での私闘はご法度だからな」
飯を抜かれても僕は知らないぞ、と言ってその場から立ち去っていく歌仙にはいはい。とそんな歌仙へと後ろ手を振ったにっかりは、本丸から聞こえてくる石切丸の
「君だって知ってるだろう?僕は元“大太刀”の大脇差なんだよ……。磨り上げさえされなければ僕だって今でも大太刀だったんだよ?………なんて、無い物ねだりだよねぇ。……まぁ、御神刀様と幽霊斬りの刀じゃ張り合いにもならないんだろうけれどねぇ」
そう言ってあーぁ、と声を漏らしたにっかりはいつの間にか終わっていた祝詞に、主と共に部屋から出てくる石切丸を見やると小さくその眉を顰めさせ、自分へと手を振った主に気を落ち着かせるよう息を吐き出すといつものように笑みを浮かべヒラリ、とそんな主へと手を振り返したのだった。
――――――
パタパタと聞こえてきた足音に、日課の加持祈祷を行っていた石切丸はスパン!と開いた襖を振り返るとそこに立つ主を振り返り目を瞬かせた。
「そんなに慌ててどうしたんだい?主」
「ご、ごめん石切丸さん!今から出陣できる?!」
今日の編成決めるの忘れてて…!とひどく慌てた様子で部屋へとやって来た主は自分の戦装束をその腕に抱えていて、ハタと目を瞬かせた石切丸は着替えて~!!と押し付けられた戦装束を見やるとあぁ、もうっ……!と思わず声を上げていた。
「まだ加持祈祷の途中なんだけどなっ……?!」
「ごめんー!!兼さんとか太郎さんは遠征に行ってもらってるから今手が空いてるの石切丸さんだけなんだよー!!」
歌仙にも怒られた―!!と声を上げ着替えを手伝う主に、まったく仕方がないな…、と呆れた様に声を漏らし着物に袖を通した石切丸は烏帽子を手にする主にソッと身を屈めた。
ポスリと頭の上に乗せられた烏帽子に、これからは気をつけるんだよ、と首元で紐を結びつつそんな主を見下ろした石切丸は、その首元からぶら下がる御守を見やるとハタと目を瞬かせた。
「それは御守りかい?随分と古いようだけど」
「え?あぁ、そうなんだ。政府の人に『大事なものだから肌身離さず持ってなさい』って言われて」
歌仙に紐を付けてもらったの、といつも持ち歩いているのだろう少しほつれのあるその御守に、魔除けの咒が掛けられているソレをソッと手に取った石切丸は怪訝そうに小さく眉を顰めると、石切丸さん?と掛けられた声に自分を不思議そうに見上げる主へと視線を落とした。
「いや、なんでもないよ。君は神気も多いし、とてもいい審神者になるだろうね」
これは大切に持っておくといい、ときっと災厄から彼女の身を護るために作られたのであろうソレに、そう言って無くさないようにね、と着物の中へと御守を戻した石切丸はうん!と笑みを浮かべた主を見やると傍らに置いていた刀を手に取った。
「それじゃぁ行ってくるよ」
「行ってらっしゃい!あ!青江くんのことよろしくお願いします!」
今日の部隊長だから!と自分へと大手を振った主に、普通は逆なのではないだろうか?と自分より練度の高いにっかりに、小首を傾げあぁ、分かったよ。と手を振り返した石切丸は第二部隊が待つ正門へと向かったのだった。
月の浮かぶ夜空に、どこか物々しい雰囲気を放つ池田屋を見やったにっかりは、暗いね、と零した石切丸をチラリ、と見やるとひっそりと溜息を吐き出した。
(これは………主の采配ミスだよねぇ……)
部隊の編成をしていなかった、と慌てた様に自分の所へとやってきた主に、慌ただしいまま指定された時代へと出陣をしたにっかりは、今朝の出来事を思い返すと再び溜息を吐きだし、隣りに立つ石切丸を振り返った。
「…………石切丸さん。僕から離れないでね」
参ったな、と小さく零したにっかりにどうやら私は夜戦は不得手のようだね、と笑う石切丸は今の状況をあまり理解していないらしく、それにもう一度参ったねぇ…、と零したにっかりは偵察を終えてこちらへと戻ってきた秋田達へと視線を向けた。
「先方に遡行軍を発見いたしました!数はおそよ6体、陣形から見て逆行陣でしょう」
そう言って合流した前田にご苦労様、と返したにっかりはチラチラと見える影になるほどねぇ、と声を漏らすとチラリ、と石切丸を横目に見やり腰に下げていた刀を抜き取った。
「だったらこちらは雁行陣で行こうか。みんな準備は良いかい?さぁ、斬ったり斬られたりしよう……」
そう言って敵方へと向かっていくにっかりに続いて駆け出した前田や秋田に、同じように抜刀した石切丸も自分へと飛び掛かってくる敵へと刀を振りぬいた。
「我が刃は、岩をも断つっ……!!」
一体、二体、と順調に敵を切り捨てていたにっかりは一通り討伐した遡行軍に、一つ息を吐き出すと戦況を確認するよう後方を見やり、苦戦を強いられる石切丸にあぁ…、と小さく声を漏らしていた。
(夜戦で、しかも室内だからねぇ………大太刀にはかなり不利な戦場だね)
小回りの効かない大太刀に、なんとか短刀一振を倒した石切丸を見やったにっかりは、再び自分へと向かってきた敵を薙ぎ払うと、自分の脇をすり抜け石切丸に攻撃を仕掛けた脇差を見やり慌てたように後方を振り返った。
「石切丸っ!!!」
「………っ!!」
小回りの利く短刀に苦戦をしているのか、脇差の接近に気づいていない石切丸に、そう声を上げたにっかりは咄嗟に石切丸の体を突き飛ばすと眼前に迫る脇差を切り捨て、背中に走った痛みに小さく眉根を顰めさせた。
「っ……、後ろからなんて、フェアじゃないねぇ……。石灯籠みたいに斬ってやろうかなぁっ……!!」
そう声を上げ一気に神気を解放させたにっかりは背後に忍んでいた短刀を切り捨てるとその場に片膝を付いた。
「にっかりさんっ、大丈夫かい?!」
「あぁ、問題ないさ……戦ってるんだ、これくらいは普通さ。ただ……これは少し……まずいねぇ……」
隊を引き上げないと……と、血の流れる脇腹を抑えたにっかりは、自分達が手傷を負って帰ってきたときの主のあの悲痛な表情を思い出すと参ったな…、と小さく声を漏らした。
彼女の采配ミスではあるが、まさか一戦目で自分が中傷を負うなんて、と苦笑を漏らしていたにっかりはその場に静かに鳴り響いた鈴の音に、ハタと目を瞬かせると小さく失笑を漏らした。
きっと主も采配を間違えた事に気付いたのだろうタイミングよく鳴った強制帰還を命じる鈴の音に、彼女の泣き顔、みたくないんだけれどねぇ…と小さく零し手にしていた刀を鞘へと戻したにっかりは自分の前に立った石切丸を不思議そうに仰ぎ見た。
「にっかりさん、その状態で歩くのは辛いだろう?良ければ、私が運ぼう」
そう言ってその身を屈め自分へと背を向けた石切丸に、呆けた様に目を瞬かせたにっかりはほら、乗って、と促した石切丸を見やるとひどく嫌そうに眉を潜めさせた。
「大丈夫さ、これくらい。自分で歩けるよ……」
「元はと言えば私を庇って負った怪我だろう。意地を張っていないで乗りなさい」
そう言って歩き出そうとしたにっかりは、そんな自分を見上げ少しだけきつく言葉を返した石切丸に、眉を寄せる石切丸を見やると言葉を詰まらせ、小さく溜息を吐き出しそんな石切丸の背へと渋々身を持たれ掛けさせた。
「…………ふふ、流石大太刀………とても立派だねぇ」
「屋内や夜戦は不向きだけれどね」
背中の事だよ?と落ちた沈黙に、気まずさを紛らわせるためそうポツリと零したにっかりは、そんな自分にそう言葉を返した石切丸を見やるとすまなかったね、と零された言葉にキョトリと目を瞬かせた。
「今回の出陣、私は足でまといになってしまったね」
君が助けてくれなければ軽傷ではすまなかったよ、と苦笑を漏らす石切丸に、仲間なんだ当り前さ。と返したにっかりはありがとう。と安堵したように笑った石切丸を見やるとひっそりと溜息を吐き出した。
自分の得手不得手をちゃんと心得ている目の前の刀に、みっともないなぁ、と小さく零したにっかりは、御神刀の力なのか少しだけ痛みの和らいだ体に小さく息を吐き出すとそんな石切丸の背に体を預けた。
「…………なんで僕は神刀になれないんだろうねぇ」
「どうしたんだい、急に………?」
「………君が羨ましいよ」
大太刀で御神刀な君が、とそう言って自嘲するように笑ったにっかりに、何か言いたげにこちらに向けられていたにっかりの視線を思い出した石切丸は言葉を悩ませるとソッと口を閉ざした。
「ねぇ……石切丸、教えてくれないかい?なんで、僕は御神刀になれないんだろうね……」
「…………霊といえど、子供を斬ったから、かな……」
「あぁ…………やっぱり、そうなのかなぁ………」
そう問いかけられた言葉に、『にっかり青江』という刀が持つ有名な逸話を思い出しそう言葉にした石切丸は、そんな自分にそう零し望んで斬ったわけじゃないのにねぇ、と自嘲したように笑ったにっかりを見やると、出陣前の主の言葉を思い出してひっそりと苦笑を漏らした。
子供だとばかり思っていた幼い君主は、ちゃんと刀剣男士達の些細な変化に気が付いていて、あぁ、だから私に彼を任せたのか、と納得するとにっかりを背負いなおした。
「まぁ、百年後、二百年後にはどうなっているか分からないし、気長に待ってみたらどうだろう?」
その頃には神格も上がっているかもしれないよ、と笑う石切丸に小さく揺れた振動に眉を顰めたにっかりもキョトリと目を瞬かせると、穏やかな空気を放つ石切丸を見やりふとその口元に笑みを浮かべるとそうだね。と言葉を返した。
~~~~~
「はははっ、随分と男前になったじゃないかにっかり」
「青江くんっ、石切丸さんっ、ごめんねっ!!」
帰城の鐘が鳴り響き押し開かれた正門に、自分を出迎えたのはやはり今にも泣き出しそうな主で、そう言って自分達へと駆け寄ってきた主に石切丸の背から降りたにっかりは心配性だねぇ、とそんな主の頭を撫でやると、主と共に自分を出迎えた歌仙を嫌そうに見やった。
「おやおや、そんなことを言っても良いのかい?歌仙君。もう君とは二刀開眼してあげないからね……」
「ははは、それだけ減らず口が叩けるのなら問題はなさそうだね」
僕は数少ない脇差の一振りなのにねぇ、と肩を竦めて見せたにっかりは、そう笑って自分の背を叩いた歌仙に、無事で良かった。と小さく声を掛けた歌仙を見やると、参った、とでもいうように眉を下げ主へと視線を落とした。
「さぁ、主。隅から隅まで綺麗にしてくれるかい?」
「うんっ、石切丸さんも手入れ部屋に行こう……!」
「あぁ、私は後で構わないよ。大した怪我ではないからね。にっかりさんを宜しくね」
そう言って歌仙たちと共に中へと入って行く石切丸に、大太刀の方が時間がかかるのにねぇ、と零したにっかりは引かれた手に行こう。と歩き出した主を見やるとその背に続くよう歩き出した。
「僕に足りないのはきっと心の広さなんだろうねぇ」
ポン、ポン、と一定のリズムで打たれる打ち粉に、手当も終わり自分の刀身を手入れする主を床に座りながら眺めていたにっかりは、そうポツリと声を漏らすと不思議そうに自分を見やった主にふふ、とその口元に弧を描いた。
「石切丸さんの大らかさを見習わなきゃねぇ」
少し、焦っていたのかもしれないねぇ、と主語のないにっかりの話に、けれどもどこかスッキリとした顔をするにっかりを見やった夢子は終わりよければなんとやらさ、と采配ミスをしてしまった自分にたいしそう言っていた歌仙の言葉を思い出すと、あぁ、わだかまりがとれたのかな、とふとその口元に笑みを浮かべた。
「私は青江くんの周りの空気も好きだよ。青江くんの側は落ち着くし。まぁ、内番とかちゃんとやってくれたらもっといいんだけど。それに、結構石切丸さんって短気だよ」
そう言ってクスクス笑う主に、あの石切丸が短気?と小首を傾げていたにっかりは、静かに刀台に置かれた刀を見やると立ち上がった主を不思議そうに仰ぎ見た。
「今回は私のせいで怪我させちゃってごめんね、ゆっくり休んでね」
「僕達は刀だからね、怪我をするのは当り前さ」
気にしないでおくれ、と笑ったにっかりはそんな自分を見やりありがとう、と笑って手入れ部屋を出て行った主を見送ると、百年後二百年後、ねぇ…、と先ほど石切丸と交わした言葉を思い出し、そう小さく零すとひっそりと苦笑を漏らし床へと就いたのだった。
大太刀石切丸と大脇差にっかり青江
SSオマケ→
「石切丸さーん!そろそろ出陣の時間だよー!」
「ああっ、まだ加持祈祷の途中なんだけどなっ……!!」
中庭を挟んで向かい側の部屋から聞こえてきた主と石切丸のその声に、厨へと向かおうとしていたにっかりはハタと目を瞬かせると祈祷部屋から出てきた主と石切丸を不思議そうに見やった。
どこか慌ただしそうに正門へと向かう石切丸と主に、もう少しで祈祷も終わったんだけどなっ?!と声を上げる石切丸に帰ってきてから続きしてー、と苦笑を漏らす主を見やったにっかりはへぇ、と声を漏らすとどこか楽しげにその口元に弧を描いた。
「彼、あんな一面もあるんだねぇ……」
「彼が出陣するときはたいてい主が呼びに行っているからね」
全くたまには自主的に行動してほしいものだね、とポツリと零した言葉に返事が返ってきたことに、いつの間にか自分の隣に立つ歌仙を見やったにっかりは、どこか不機嫌そうに眉を顰める歌仙を見やると口元にソッと手を添えふふふ、と楽しげに笑みを零した。
「おやおや、歌仙君は大好きな主が取られてご機嫌斜めなようだねぇ」
「君はどうやらその首、よほどいらないみたいだな」
「フフフ、ヤダな歌仙君。ちょっとその立派なものをしまいなよ」
そう言ってクスクスと笑えばチャキリ、と首元に添えられた刃先に、とてもにこやかに自分を見やる歌仙からソッと身を引いたにっかりは額に青筋を浮かべた歌仙を見やるとあ、ヤバい…、と零し踵を返すとその場から駆け出した。
「にっかりっ……!!貴様というやつはっ、その言葉、万死に値するぞ!!」
「ちょっと待ちなよ歌仙君っ………!!僕は“ナニが”とは言っていないだろう?!!」
「~~~~っ!!ほんっとうに君ってやつは雅じゃないなっ!!!」
「歌仙君!にっかりさん!本丸での私闘は御法度だよ!!っていうか歌仙君なに抜刀してるんだい?!!さすがに真剣で喧嘩は駄目だよーーっ!!」
首を差し出せ―!!という歌仙の怒声と燭台切の制止の声が響く本丸に、そんな二人の声を聞いた薬研は今日も平和だな、と零すと書物へと視線を落としたのだった。
本当は石切丸メインのお話にしたかったんですけどいつの間にかにっかりさんメインになってたり……
いやぁ、『大脇差』って響き、とても良きですね(*´艸`)
あとなにげに五虎退君はミラクルを引き起こしてますよね