出会い編(前)
「では、四月からよろしくお願いしますね」
そう言って席を外した先生方。理事長室には私一人。肩の荷がさらに重くなったような。アイドルのサポートって何すればいいの。おかしいなぁ。一年前の今日なら私は家族で遊園地に行ったなぁ。何が父の歯車を狂わせたのだろうか。学園に責任があるのならば私はこんなところなんか死んでも居たくない。……なんて暗いことを考えている場合では無かった。もう私が理事長代理として過ごすことは確定事項。後戻りなど出来ないと分かっているのにこう思ってしまう理由は何なのだろう。
ドアをノックする音がした。あぁ、地獄の始まりか……。
「こんにちは、失礼します」
見た目に先生では無かった。生徒会長……?
純白さん、という生徒会長さんと少しお茶をした。誠実さが多分私のこれまで出会った方の中で断トツ。素晴らしい方だなぁと思った。今日私が出会った赤髪の彼の話をすると、彼は微笑んだ。
「いい出会いをしたね、理事長チャン」
「そうですね、四月からよろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」
純白さんが去った理事長室は音が無くてただただその前に考えていたことを思い出させるような気分にしかならなかった。まだ昼に出会った彼のことが微かに記憶にあった。憂鬱な記憶で彼のことを忘れたくはない。荷物をまとめて足早に私は理事長室を出た。
父が失踪するまでの私の人生が虹色、それから昨日までが火山灰に塗れた灰色だったならば、今日出会った彼のお陰でまた虹色に戻りつつあるのだ。一週間後に控える入学式や始業式を考えるとやっぱり暗く沈んだ青になるのだが、彼のことを考えると明るくなる。不思議な気分だ。もし名前を知ってクラスメイトになったら私はどれだけ嬉しいだろう。彼がどうかなんかこの際どうでもいい。今だけでも私が幸せならそれでいい、と思いたかった。
私が理事長代理に任命されてからの日々でここまで嬉しかった日は多分無い。足早に帰った甲斐があったのか、布団に入ってからますます鮮明に彼のことを思い出した。彼にどう思われようがこれは私にとっての幸せ。入学式に会えることが楽しみで仕方なくなった。
2/2ページ