サマー・サマー・イリュージョン
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ぐう。
6時間目終了間近、カリカリと鉛筆を動かす音に混じって小さな音が聞こえた。
「忍野、腹減ったの?」
「う、やっぱ聞こえてたか」
授業が終わり騒めきを取り戻した教室で忍野に問うと、恥ずかしそうに項垂れた。
だって5時間目体育だったからお腹空いたんだよー、と言う忍野。
気持ちはよく分かる。俺も音こそ鳴らなかったが、かなり腹がすいている。学生は全国共通で昼食を食べても直ぐに腹が減るものだと思う。
そして唐突に頭の中に1つの案がピコンと思い浮かんだ。
「なー忍野、この後暇?」
「この後?…まぁ、特に予定は無いかな」
「じゃあさ、お好み焼き行かね?」
*
「カゲー、今から皆でカゲん家でお好み焼き食おーぜ」
所変わって3-Cの教室前。
入口からでかい声で目的の人物を呼ぶと、不機嫌そうな顔をして近付いてきた。
「でけー声で呼ぶんじゃねぇよ。…家来んのはいいがよ、皆って誰のこと言ってんだ?」
「鋼とポカリとゾエ」
「鋼と穂刈は任務、ゾエはヒカリとスウィーツバイキング行くとかで居ねぇぞ」
「じゃあ3人で行くか」
「3人?……あ、」
「やほ、影浦くん。」
俺の影に隠れてしまっていた忍野がぴょこりと姿を現す。
そしてそんなこんなで謎メンツ3人で帰路につくのであった。
カゲと忍野は今回話すのが2回目だったようだが、思ったよりスムーズに会話が続いていた。
俺も会話に入っていたこともあるかもしれないが、それでも全く気まずい空気とかはなく、むしろそれぞれ楽しんでいるようだった。
前の体育の時も思ったが、カゲが面識の少ない人間にここまで心を開いてる(一般的に見たらそう見えないかもしれないが)のは珍しいし、人相や態度がキツめのカゲに全く動じない忍野もやはり変わっている…というか肝が座っているというか。
話しながら歩いていると時間が過ぎるのは早く、あっという間にカゲの家─お好み焼きかげうらに到着した。
暖簾を潜るとふわっとソースの匂いが香る。「先に座ってろ」とカゲに奥の席へ通され、カゲは従業員専用の扉の奥へと消えていった。
「やばい…すごく美味しそう」
「だろ?実際めちゃくちゃ美味いぜ」
斜め向かい側の席の鉄板で焼かれているお好み焼きを眺めて目を輝かせている忍野。
お前のそんな嬉しそうな顔初めて見たわ。
「おいお前ら、何にする?」
「俺豚玉〜」
「じゃあ私は明太チーズで!」
厨房から顔を覗かせたカゲにそれぞれ注文を言い渡す。
殆ど待つことなく直ぐにボウルを片手に1つずつ抱えたカゲが姿を現した。
お待ちどうさん、と机の上にボウルが置かれる。
「忍野、お前焼いたことあるか?」
「うーん…ないかな」
「…俺がやろうか」
「ほんと?お願いします」
「カゲ〜俺のもやって〜」と言うと「お前は自分でやれ」と突っ返された。贔屓だ。
明太チーズを焼き始めたカゲを後目に俺も自分の分を焼き始める。
ここにはボーダーの同級生共としょっちゅう来ているため、初めはド下手だったお好み焼きの焼き方も今ではお手の物だ。
だがやはりカゲが焼いたお好み焼きは段違いにふわふわして美味い(運がいいとたまに焼いてくれる)。
「わっすごい!」
カゲが慣れた手つきでお好み焼きを裏返すと忍野がカゲを覗き込んで「影浦くん天才じゃん」「うるせぇ、てか近ぇ」「いや、これは天才…」というやり取りをしている。
2人にバレないようにスマホを取り出し、インカメで3人映るようにシャッターを切った。
焼きあがったお好み焼きはいつも通り大変美味しく、余すことなく完食した腹ぺこ高校生達の腹は満たされたのだ。
その後、こっそり撮影した写真は18歳組のグループチャットに送信しておいた。
それを見た仲間たちにカゲが散々揶揄われたのはまた別の話。
(空腹は学生の天敵)