サマー・サマー・イリュージョン
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時が流れるのは早いものだ。
文化祭の役割を決めた日から約1週間が経った。
あの日久々に素の反応を見せた忍野は、その次の日から元気な風に接してきたけれど、合間合間に神妙そうな顔をすることが何度もあった(本人が気付いているかは分からないが)。
何故忍野はここまで何かをひた隠しにしようとしているのだろう。
一学期最終日、校長の長ったらい話を聞いただけの終業式(俺は寝ていたので聞いていない)を終えると、体育館をぞろぞろと出ていく生徒の中に噂の忍野を見つけた。
「忍野ー」
ぽん、と肩を叩くと忍野は徐ろにびくりと肩を揺らした。
「…ああ、当真くんか。何?」
「…お前、クマすげぇぞ。なんかあったの?」
「いや、別に…寝不足なだけだよ」
冷たい声色に、あからさまな嘘。
最近は常にぎこちなさを感じていだが、今日は一際それが顕著だった。
ああ、そういえば、この女が弱りだしたのは夏休みの話題を持ちかけてからだ。
──明日から、夏休みが始まる。
早足で歩いていく忍野を追いかける。
今まで機会があってもずっと伸ばしてこなかった手を今回は伸ばす。
かけるべき言葉はまだ分かっていないけれど、今回はどうしても引き止めなくてはいけない気がした。
「おい、嘘つくなよ。いい加減本当のこと言えって。」
忍野の腕を掴んで言うと、忍野は俺が今日の事だけを言っている訳では無いということを悟ったのか「…分かったよ」とため息をついた。
「来て」
忍野は俺の腕を引いて生徒の群れからスっと抜けて、教室とは反対側へと歩き出した。
2人とも無言で暫く歩き続けて到着したのは特別教室の奥にある空き教室だった。
生徒は皆教室に戻った頃だし、そうでなくてもほぼ生徒が寄り付かない場所だ。
そんなに言いづらい事があるのだろうか。
「…で?結局お前はずっと何に悩んでんの?」
「……」
忍野は後ろ手に扉を閉めると、セーラー服の襟からリボンをしゅるりと抜いて床にそのまま落とした。
「おい、忍野…?」
するとバッとセーラー服を捲りあげて脱ぎ捨てる。
「!?ちょっ、待っ…忍野おまっ、何いきなり脱いで、」
「当真くん」
慌てて顔を背けた俺を忍野が静かに呼んだ。
何が何だか分からないままゆっくり忍野の方を向くと、キャミソールまで床に落ちていてぎょっとした。
床から視線を上げていくと白い腹が目に入りドキッとする。そのままの流れで胸に目を向けてしまったのは許して欲しい。
「…お前、着痩せするタイプなのな」
「ばか、どこ見てんの」
忍野は軽く笑みを浮かべて、俺に背を向けた。
「──なんだ、それは…」
白い背中の中心辺りに、不自然に拳大の「1」という数字が刻まれていた。
「…私の、カウントダウン。最初は800以上あったんだよ。」
そう言うと床に落ちているキャミソールとセーラー服を拾い上げて、それに腕を通しながら独り言ちる。
「あーあ、私、当真くんと喫茶店やるの結構楽しみにしてたのになぁ…。」
襟に通したリボンを指で弄りながら、忍野は泣きそうな顔で笑った。
やめろよ、そんな顔で笑うな。
「雨の日に当真くんと話してちょっと期待しちゃってたんだよね、もしかしたら終わりは来ないのかも、って。私がこの世界にいることは無駄じゃないのかも、って……でも、やっぱり最初から終わりはあった」
「おい、待ってくれ…意味わかんねぇ、どういうことかちゃんと説明しろよ」
話の文脈が見えない。
1人で違う世界を見ているかのような忍野に苛立ちが募る。
「…うん、全部話すよ、最後だし。でも、先に言っておくけど、今から話すことは全部本当のことだから」
そう前置きをして、忍野は言った。
私は、この世界の人間じゃない。
(本当の君を知る時がきた)