サマー・サマー・イリュージョン
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夏休み明け直ぐに控えた文化祭の準備が始まりつつある。
俺たちのクラスは執事メイド喫茶をやることに決まったらしい。なんの捻りもない定番だが、女の子の可愛いコスプレをタダでみれるのだから何の文句もない。
この時間を使って各々の役割やメニューなどを決めていくようだ。
文化祭実行委員の女子生徒が前に出て「ホールやりたい人ー」と呼びかけている。
だが挙がる手は多くない。一部の派手な女子生徒と運動部の男子生徒数人。
その理由は単純明確、ホールはもれなくコスプレ要員だからだ。
見てくれに自信がある奴や身内のノリで盛り上がれる奴以外は中々抵抗感が強い。
というかなら何故執事メイド喫茶にしたんだ。皆他の奴が着てくれると思ってたのか、そうか。
「他にいない?少なくてもあと2人は欲しいな…」と実行委員ちゃんが困っているものの、クラスの大半が自分は関係ありませんとばかりにそっぽを向いている。
そして俺の前の席の女もその内の一人だ。
「おい、忍野。お前いけよ」
ちょいちょいと指で背中をつつくと勢いよく振り返った忍野にじろりと睨まれた。
忍野はあの雨の次の日、なんでもないような顔で登校してきた。
空元気に見えないでもなかったが、こいつが何も言うつもりがないならあえて突っ込むこともないので何も聞けないままである。
「やだよ。当真くんこそやればいいじゃん、その長い脚生かすのはここしかないよ」
「脚なげーのはここじゃなくても生かされてるわ」
「ちょっとは否定しなよ…でも実際当真くん燕尾服似合いそうだしやったら?ほら、もう他にやれそうな人いないし皆を助けると思って」
ここぞとばかしに押し付けてくる忍野。
まぁ俺は別に燕尾服を着ることに大して抵抗はないので(実際似合うだろうし)やってもいいのだが、折角だから最近元気がないこの女を巻き込んでやろう。
「はーい」と手を挙げると、「うわ、本当にいくとは」と若干引いた様子の忍野がにやにやしている。
おう、笑ってろ笑ってろ。
「当真と忍野ホールやりまーす」
「!?…は!!?えっ、ちょ」
クラス全員がこちらに注目しているため大声が出せない忍野が「どういうことだ取り消せ!」と目線で訴えてくる。
だが勿論そんなことしてやらない。
珍しく焦っている忍野ににやりと笑い返してやるだけだ。
そうこうしている内に、「ありがとう、当真くん忍野さん!じゃあこれでホールは決定ね.次は──」と流れるように決定されてしまい、忍野にグーで肩を殴られた。いてぇ。
「ッ当真くん…!あんたね…!!」
小声で威嚇してくる忍野は、どこか陰のある不思議な女ではなく年相応のどこにでもいる女子高生に見えた。
思わずフッと笑うと「何笑ってんの、おいこのリーゼント」と更に睨んできたけれど、久々の忍野の素の反応に和やかな気分になるだけで、俺は更に笑みを深めたのだった。
(たまには一緒に馬鹿をやろうじゃないか)