両手に最強
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彼と結婚してもう何年になるだろうか。
左手に輝く結婚指輪。
見つめながら目を伏せると、今でもプロポーズの時の事を思い出す。
いつまで経っても変わらないあの性格に手を焼きながらも、私たちは上手くやってきた。
もちろん、彼の実家関係の弊害がなかった訳では無い。
それでも私を選んでくれて、「生涯守り通す」とまで言ってくれた。
私は間違いなく呪術界一、幸せな花嫁だ。
そう、幸せな花嫁のはずなのだ。
「あの男の女とだけあって、なかなか肝が据わってるじゃないか」
上から降りかかる声の主は、両面宿儺。
心臓が止まった感覚、肺が動かない。
何故、私が宿儺の領域に。
なんとか呼吸を整えて、自分の生を確認する。
意識を自分に向けすぎていたせいで、積み上がった骨がなる音に気づかなかった。
「名は……確か、まゆ……と言ったか」
声はさっきよりも近くなり、どうやら私の目の前にいるらしい。
本当に、私がここにいる理由が想像つかない。
確かに私も呪術師だけど、到底宿儺の脅威となるような実力者ではないのに。
ぐるぐると回っているかも分からない思考を回して、どうにか生き残ることだけを考えた。
「そう怯えるな、とって喰いやしない」
俯き続ける顔の顎を掴み、容赦なく目を合わせてくる。
私は知ってる、この瞳を。
最強の瞳。
だけど、彼とは違う。
飲み込まれてしまいそうな目が、ゆっくり、ゆっくりと迫ってくる。
重なるまであと数センチ、一陣の風。
かなりの呪力が込められていたにも関わらず、宿儺は避けはすれど飛び退きはしなかった。
「気はすんだか?」
「まぁまぁ、だかな」
背後の声に人生で一番安堵する。
彼の言葉に嘘はなかった。
悟、私の旦那様。
「おい、」
怒気を隠さない声で宿儺に話しかけるも、領域の消失と共に姿をくらました。
「悟……」
恐る恐る、愛し人の名を呼ぶと返ってきたのは返答ではなく抱擁。
腕が腰に回され、力強く引き寄せられる。
男女の体格差を感じさせる背中、応えるように私も腕を回す。
「何、された?」
「何もされてないよ」
ホント? ホント、と再確認。
「キス……されてるかと思った」
あの距離の近さで勘違いしたのだろう。
冷静になって考えると、傍から見ればアレは確実にキスする距離感だ。
「まゆ」
短く名前だけ呼ばれる。
何事だろうと思って、数分前よりも簡単に顔を上げると重なる唇。
彼の希望でほぼ毎朝している筈なのに、随分久しく感じた。
少しすると、名残惜しそうに彼は唇を離す。
ちょっとだけ紅に染まってしまっていた。
まるで……いや、言うのはよそう。
その代わりに。
「ねぇ悟、目を見せて……もう一回」
普段はしないおねだりをして、最強の瞳を上書きした。
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