オリジナル①
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映画館を出たあとも、彼女は私の手を離そうとしなかった。
そのまま自然な流れで、ファッションフロアへ。
ポップな音楽が流れる明るい店内。
ショーウィンドウに並ぶ服を眺めながら、
私は、もう自分の心臓の音にしか意識がいかなかった。
……こんなにずっと、手、繋いでて大丈夫なの?
そのとき、視界の端に見覚えのある後ろ姿が映った。
「あっ……」 思わず立ち止まってしまう。
彼女が不思議そうに私を見る。
「どうしたの?」
「い、今の……あの子……うちのクラスの……」
「あ、本当だ」
手を引こうとした。反射的に。
だけど――彼女の手は、全然、離れる気配を見せなかった。
「大丈夫。見られてない。……それに、僕が繋ぎたいだけだし」
さらっと言われて、ますます顔が熱くなる。
声も出せないまま、私はそのまま引かれるように彼女の隣を歩いた。
***
服を見るだけ見て、何も買わずにビルを出た頃には、すっかり日が傾いていた。
どこかで時間を忘れていたような気がする。
帰り道も、手は繋いだまま。
沈黙が続いていたけど、嫌な空気じゃなかった。
ただ、胸の中がくすぐったくて、何も言えなかった。
そして、マンションの前まで帰ってきた。
エントランスを抜けて、エレベーターを上がって、私たちの部屋の前。
同じフロア、隣同士の家。
いつもなら何でもないこの場所が、今は特別に思えた。
「……じゃあ、また、ね」
そう言いかけたときも、手は繋がれたまま。澪は微笑んでいた。
私は、もう自分の気持ちをごまかせなかった。
「澪ちゃん、私……」
でも、“好き”って言う前に、彼女の指が、そっと私の唇に触れた。
「ここから先は、僕に言わせて」
そして、彼女の声が、まっすぐ私に届いた。
「宮坂のことが、好きなんだ。初めて会ったときから、ずっと気になってた」
「……うそ……私も、ずっと……」
嬉しくて、どうしようもなくて、頬がゆるんでしまう。
その瞬間、彼女の手が、私の頬から顎にふれて――
(これ、キス、される……!)
目を閉じた。 胸が、息が、全部止まりそうだった。
――が、突然。
《着信音》
スマホがぶるぶると震えた。
画面には「お母さん」の文字。
「っわっ! ま、まま……!」慌てて電話に出る。
「もしもし!? う、うん、もう家の前……! うん、すぐ帰る!」
電話を切ったあと、思わず顔を上げると、彼女がすこしだけ残念そうに笑っていた。
「……お預け、だね」
私も笑ってしまった。
「……ご、ごめんね……」
「いいよ。また明日。」
そう言って、名残惜しそうに手を離す彼女。
私も、心の中で「またね」を繰り返しながら、玄関の鍵を開けた。
ドアを閉める直前、もう一度だけ彼女と目が合った。
その笑顔は、どこまでも優しくて――
私はその夜、もちろん、また眠れなかった。
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