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—はじめまして、小説家のRin です。と言って笑う数十年ぶりに見る妹の笑顔は仮面のようだった。
顔出しNGの小説家として読書好きの俺がRin の作品に触れたのは、同じグループに所属する亮平の薦めだった。
「伊緒!この作家さんの作品読んだ?」
「どれ?」
そう言われて渡された小説を読んで気づいた。Rin があの日ウソをついて置いていった双子の妹の莉緒だと。それからは、頑なに莉緒の連絡先を教えてくれない両親に莉緒に会わせてくれと懇願する日々が続いているが叶う事がなかった中、転機が訪れたのだ。それは俺たちのグループ冠番組でもある番組の企画でRin の自宅に突撃訪問をして素顔を暴くというものだった。俺に薦めた亮平はもちろん、その亮平の布教もあってかメンバー全員、Rin の名前は知っているし亮平とシンメと言える大介に至って、莉緒の書いた原作を元にアニメ化したそのアニメが大好きであべさくは言わば“Rin ヲタク”だった。その二人はほかのメンバーを置いて盛り上がるものだから企画を報告しに来たマネージャも番組スタッフもその熱量に「早く会えるといいですね」と言うのを聞きながら俺はスマホをひっそりと開く。
「伊緒。顔色悪いけど大丈夫?」
「…辰哉。平気、昨日ちょっと遅くに寝たから寝不足なだけ。」
隣に座る辰哉の声に、スマホを閉じ愛想笑いを浮かべるが、長年一緒に過ごしてきた中で特に辰哉は俺の表情の変化に敏感で今も少しだけ疑うような眼差しを向けるが、スタッフに呼ばれて俺から視線が外れ、そのスタッフに俺は感謝しつつ、迫りくる妹との望まぬ再会にどうしようかと思いを巡らせていた。妹の存在はメンバーには周知しているが、オリメンだった6人にはもちろん、後から加入してくれた3人にも莉緒を会わせたことがない。と言うのも、会わせたくても俺自身が会えてないので不可能なのも原因である。妹が多いこのグループのメンバーたちはそんな俺と莉緒の関係に半分心配もあるが、概ね見守るスタンスを取っていてくれるのが助かっていたりもする。そんな俺を見つめる視線いるなんて、考え込む俺は気づかなかった。
Abe 視点
伊緒はこのグループの最年長で芸歴も俺らの中では長い。そんな伊緒にはひとつだけ謎がある。それは本人の話ではあるが、自分の双子の妹に俺を含め、誰も会わせてもらえないのだ。と言うのも、デビューした年もほかのメンバーや俺も含めて、大なり小なり家族とのエピソードを雑誌やTV で話すことはあっても、伊緒の場合は両親とのエピソードしかない。末っ子であるラウールがそのエピソードを聞いて「妹さんからは何かなかったの?」と楽屋で伊緒に尋ねると伊緒は少し目を大きくしながらも、「仕事忙しいみたいでまだ。」と言うものだから質問したラウールは慌てて伊緒の傍により謝ったのもあってほかのメンバーもそれ以降「伊緒の妹については聞かない」と暗黙のルールが出来上がったのだ。その時と同じ顔でふっかの言葉に答えた後にしたのだから、今回のこの仕事何かあるのかと考えた俺の予感は的中するとは思わなかった。
「亮平?」
「んー?」
打ち合わせを終えて、各々仕事があるメンバーは楽屋を後にしたあとこの打ち合わせで終わりだとメンバー全員で共有しているスケジュールアプリを見てから伊緒の予定を再度確認してから声をかける前に、俺の雰囲気で察したのか、俺の名前を呼ぶ伊緒の傍に寄る。
「何か用事?」
「いや、俺も伊緒の顔色悪いなって思ったから心配で寄っただけ。」
お互いに目を見ただけで色々分かり合える関係である俺たちの間に腹の探り合いなんて今更だけど。何かを隠している伊緒の動向が気になった俺は少しだけ伊緒のタブーである“双子の妹さん”について聞こうとその時はなぜか思ったけど、口を開く前に伊緒の携帯が鳴ってしまったので、言葉を投げかけることができずに俺は少しの不安を抱えつつも、これ幸いと楽屋を後にする伊緒の背中を見送ることしかできなかったのである。
Fukazawa 視点
『はじめまして、小説家のRinです。』
そう言いながら笑った話題の小説家の女性の顔は、長年一緒に苦楽をともにしたグループの最年長と同じ顔だった。勿論、一緒にその彼女の家にお邪魔したメンバー全員が伊緒とその女性を見比べて、伊緒に視線を送るのは自然な流れで、誰もが息を吐くのも忘れるぐらいの衝撃を受けた中、ただ一人。声をかけたのは…。
『驚くのも無理はないと思いますけど、皆さんのリアクション取れたならある意味、番組的にはオイシイですかね?』
伊緒と似たキレイな笑顔。アイドルとして活動して色々な方の笑顔を見た中でも特に印象深い笑顔で。その笑顔を見た途端、隣にいた伊緒の呼吸が乱れるのは予想外だった。
「…なんで、そんな顔で笑うの。莉緒!!」
悲痛なまでの叫び、はじめて聞く苦しそうな伊緒の声に俺含めてメンバー各々、視線で会話をするが誰も口を挟めない。なぜなら、目の前で優雅に紅茶を飲む彼女の表情は、テレビで映すにはあまりにも冷たいものだったからだ。そして、その表情を向けられているのは、俺らではなく、血を分けた者同士であるはずの伊緒だった。
『カメラさん、そのまま回していてくださいね。』
そう淡々と告げた彼女は、自分の傍で控えていた女性を呼び寄せ耳打ちすると、その女性は伊緒を除く俺らメンバーにリビングにあるソファーで座るように促され、書斎として案内された部屋の床で座り込む伊緒を置いて俺らは部屋をある意味追い出されたのである。
「作家である彼女の意向でこの先の出来事は、みなさんにも見る権利があると言われたので、この画面を見て今後のことを考えてあげてくださいね。“大事なメンバー”である彼の為にも。」
伊緒の妹に負けず劣らずの顔で俺らを冷めた目で見るものだから、康二やラウはその目に耐え切れず傍に座る舘さんや目黒に抱き着くし、照と翔太はメンバーに対しての態度にムッと来つつもカメラが回っているのもあって黙り、伊緒の妹の作品が大好きな阿部ちゃんと佐久間は驚きからまだ抜け出せていないのか呆然としているので、俺もこれ以上何かを言っても部屋の前に立つ女性を動かすことはできないと判断し、画面を見つめることにしたのだ。
『大事なメンバーの前であんな声出すなんて、伊緒は情けないね。』
そう私が告げると床に座り込んだまま動かない伊緒は肩を跳ねさせながらも顔を上げた。そして、逃げた。
『四季さん。この仕事ボツになるの?』
わざと伊緒が出ていく隙間を空けて扉の前に立つ彼女に声をかけると「こうなること予想していたでしょ?」と呆れた声での返事に頬を緩ませつつ、書斎からリビングに出ると、伊緒と一緒にやってきた伊緒の大事なメンバーさん方は私に様々な視線を送ってくるものだから、言葉を送ることにした。
『今回の件、ギャラは要りませんのでお引き取り願いますか?伊緒が大事にするあなたたちなんて、大嫌いなので。』
と先も見せた完璧な笑顔でそう告げると、伊緒の次に誕生日的なもので2番目にあたる深澤さんが私の前に立った。
「伊緒はあなたに何をしたか、教えてください。」
『答える義理はありません。それに、私はあなたたちの大切なメンバーをテレビの前で傷つけた張本人ですよ?追いかけた方がいいのでは?』
聡い深澤さんにそう返すと番組のスタッフさんたちに声を掛けてメンバーをひとりひとり呼び、私に一礼してからバタバタと足音を残して伊緒を追いかけに言った。
『…これ放送事故っていうのかな。私、あの人たちファンのひとたちに叩かれるのかな。』
「カメラ自体撮らせておいて、実は放送されないって分かっていて言うの、それ。」
鈴の言葉に1週間前に頼んだ事が実現したのに私は笑いながら、今後のことをも含めて彼女を引き連れて不動産屋に行く私の足取りは軽かった。あれだけ憎い伊緒のあの絶望しきった顔が見れたから。
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