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—キレイに笑う兄は私の自慢で、写し鏡だった。
Snow Man それが、兄が所属するグループの名前。もともと、運動神経を鍛える為にはじめたダンススクールに通っていた。勿論、幼い頃から一緒にいるのが当たり前な私も同じ様に通っていた。だけど、あの日運命が変わった。
「youたち、ダンスうまいね。」
「おじさん、誰?」
兄はスクールの先生でも無ければ、まったく知らないその人にそう一言告げると、その人は破顔した途端に名刺を兄に渡すと、「youの負けん気ここで、発揮してみない?」とだけ言ってその日は帰った。
『お兄ちゃん、どうするの?』
「莉緒の傍にいるから。行かないよ」
「だから大丈夫。」とキレイに笑う兄は、その日はじめて私に対して“ウソ”をついた。
次の日、いつものように兄と学校終わりにスクールに行こうと思って別クラスの兄といつも待ち合わせの場所で待っていたが、姿を現す事がなくて、少しだけ違和感があったがダンスをすることが私の中でも好きな事だったから家で顔を合わせたら一言言ってやろうと思ったのに。
「お兄ちゃんね、この事務所に行くことになったから。―東京に行ったの。パパと。」
家に帰って母から聞かされた言葉は予想の遥か上を行く事だった。それから、あれよ、あれよと父の定期連絡を母は私が、兄が居ないことで寂しいと言うのを感じていたのか、兄が父に報告する内容のそのままを教えてくれて私は私なりに事実として受け入れた。あの日会った人はその事務所の社長さんで、兄は自分の才能に気付いたその人の誘いに乗って、自分の可能性を伸ばすために頑張っていること、自分と歳の近い人たちと一緒にグループを組んで頑張っていること。年数を重ねる毎に兄の顔をテレビで見る機会が増えて、兄の所属するグループ名も、兄と一緒に活動する人たちの顔や名前も覚えたこと。兄と会わなくなって、数十年と言う年数になろうとしていること。
「莉緒、本当にお兄ちゃんにこのまま会わないつもりなの?」
兄と私が別れたのは、15歳の時。中学校以来会わずに私は兄がアイドルになったことで自分の周りの環境が大きく変わったのもあって、心底嫌になった経験から、兄のことをとことん避けた。連絡手段として携帯を両親から早くに貰っていた私たちは離ればなれになってから連絡する手段はそれだけだったのだが、兄の連絡先を教えてくれ、直接会わせてくれ、と言った兄と繋がる為に色々な人たちからの言葉に嫌気が差した私は母と父に強く頼んで兄に教えない約束で携帯自体すべての情報も含めて新しくした。もちろん、本当に親しい友人にも兄に言わないようにお願いした。2009年に兄はグループを組んでそのグループから紆余曲折を経て活動する事は母が教えてくれた情報とネットの情報で知り得ていた。それから今は気づけば、2024年。兄は着々とグループとしても個人としても活躍し、デビューして5年目を迎えていた。そんな忙しい生活をしている兄から最近になって、母いわく「メンバーにいい加減妹を紹介したい。」と連絡が頻繁に来ているらしい。勿論私の答えは決まっている。『会わないよ。』と返すと母は悲しそうな顔をするのは見慣れたし、兄に内緒で父からの電話でも同じ様な事を言われるが同じ様に答えると「…伊緒のこと許せないのか」とまで言われる始末だから、それ以降父の電話も出ていない。
『お母さんたちも分かっているでしょ。私がお兄ちゃんに会わない理由。』
それだけ伝えて、私はおでこを指さすと母は目を反らす。おでこにある傷は兄のファンと言う名で自分を実家に帰ってきた兄と思い込んだ女の人に傷つけられた痕である。もちろん、兄には言わないように強く言うべきだと言う両親を説得して、治療もほぼ完全にとまでは行かないが化粧を施せばわからないほどにはなった。だけど、その事件をきっかけにただでさえ、芸能人の兄を持つ妹、顔もそっくりな私は学生生活を何とか終わらせたと同時に就職先にも苦労した。街中を歩いていると、「伊緒くん?」と女子の恰好をしているのに間違われる回数は増え、外に出る仕事や人と接触する仕事はできないと判断し、兄と離れてからダンスも趣味で通う以外は趣味であった読書を生かし、言葉を紡ぐ仕事“顔出しNGの小説家”として、実家からも出て、一人暮らしの為都内に引っ越した。勿論、実家から近い位置にあたる場所ではあるけれど。才能があったのか、処女作で出させてもらった本がよかったのか、担当の編集さんと母のみに鍵を渡しているセキュリティーのいいマンションに住んでいる。
「伊緒はずっと、莉緒のこと大好きな事だけは忘れないであげて。」
それだけ言って母は家を出た。と言うか、私が追い出したという方が正しいのかも知れない。
『…それなら、どうして私にウソついたの。お兄ちゃん』
答えの無い呟きを零しつつも、編集さんのメールを知らせる通知音に気付き、手元にあるタブレットを操作するとそこに書かれた内容に思わず舌打ちが零れた。
「人気作家の素顔をSnow Man が暴いちゃいます!」と言った私からすれば地獄の案内のような見出しに内容を読み進めると彼等の冠番組に初出演と言う形で出版社が私の了解を得ずにテレビ局側にゴーサインを出したものだった。つまりは、断れない仕事に“されたのだ”。素性を明かさないことを条件に地道に活動していた私の仕事すらも兄に奪われると言う事である。それと同時にしきりに兄が私に会いたかった理由もわかった。
『所詮、お兄ちゃんにとって私は円滑に仕事をするための道具なのね。』
メールの返信する気力も起きない私はそのまま、数日間放置していると焦った編集が家に駆けこむようにやってきたのは母が訪れてから3日が経った日のことだった。
「Rin さん。すみません…上層部がどうしても、って聞かなくて力及ばす。」
『四季さんは悪くないですよ。事情知っているのは編集長さんと担当のあなただけですし。…もう、どうでもよくなりました。』
『お仕事受けます。』と心底冷めた声で言葉を告げた私に四季さんは肩を揺らしつつも、彼女が手渡してくれた本人の了承を取ってないと知らないテレビ局から渡されたスケジュール表と台本を見ると。厚かましい事に私の聖域と言えるこの自宅にSnow Manのメンバー全員でサプライズ訪問と言う体で突撃訪問するらしい。しかも、日付は1週間後。
『この部屋結構好きだったのに、な。』
身の回りのことをするのが苦ではないので部屋自体は綺麗に保っているが、兄に仕事だけでもなく住まいも取り上げられるのは尺に触る。と言っても今更部屋を探すのにも時間がかかるので、頭に思い浮かんだ条件を提示することにした。
『四季さん。私、この仕事受けたら出版業界から引退して、海外に放浪するのを許してくれますか?』
「R…莉緒が望むなら私は全力でサポートするよ。ごめんね、守れなくて。」
『ううん、鈴は悪くないよ。あと、放送は生放送で編集NGって条件なら受けますって鈴も嫌いな上層部に言ってくれる?』
「もちろんだよ。」
四季さんこと担当編集である鈴は私の十数年来の友人であり、よき理解者である。そんな彼女のサポートを確約として得た私は兄を含むそのグループとの対談の仕事を受けたのである。
「莉緒!だいすきだよ」
『わたしも!お兄ちゃん。』
『大嫌いだよ。伊緒』
テレビを付けるとたまたま兄が個人の仕事として請け負っているCMが流れて、その笑顔がひどく憎らしくて溜まらなかった。
そして、この日を境に私の環境がまた変化するのはこの時はわからなかったのは、兄に対するさまざまな感情のせいで冷静になれなかったのかも知れない。
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