Ⅰ
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#狂愛ちっくかも、苦手な方は回れ右。長編ネタバレありかも
出会ったころからこの人の視線から逃れる事はできないと本能的に察知していた私は、この状況も含めてわかっていたのかも知れない。この人は私を捕まえるのが兄以上に狡くて逃す気がさらさら無いのだと。
「伊緒ならいないよ?」
冷静に考えれば、あの連絡するのがマメではない兄からの連絡がメールだった段階で疑うべきだった。長年に渡って捻じれに捻じれた私と兄の関係に目の前のこの人も含めたメンバーの皆さんのおかげで少しずつ解れて結び直すきっかけになったのに。
『・・・じゃあ、帰ります。』
「待って。」
パタリと扉をこの人、深澤さんの手で押さえられて私自身は彼と扉に挟まれて逃げ道がない。これはまずい。それでなくてもほかのメンバーさんに対してもそうだが、長年ひとりでいる環境にいる仕事に就いてから異性とここまで距離の近いシチュエーションはほぼゼロに等しい私はキャパオーバーをしている。
『なんで、嘘ついたんですか。深澤さん。』
「深澤さんなんて、他人行儀やだな~、莉緒」
『名前、呼ばないでください。』
兄のことを傷つけたあの日。私の言葉に素直に応じてメンバーさんを引き連れて私の自宅から出て行く為に一番に行動したこの人が次の日、家の前にいたときは驚いた。驚く私を他所に、飄々とした表情で引き止める私の制止を振り切って、「ふたりでお話しましょ?妹ちゃん。」と強い目に射抜かれた私は初対面に等しいこの人と話をする羽目になって・・・。
「俺とふたりきりなのになーに考えてるの?」
ふわり、と香る香水は、感情的になる私を強引に抱きしめた時にあの時と同じ甘いバニラの中にあるタバコの臭い。両極端な香りに鼻をすん、と軽く鳴らしながらも、気づけば深澤さんの顔が私の目の前に迫っていて。
『・・・あの日、のこと思い出してました。』
「あの日?ふふ、あー、俺が莉緒ちゃんのはじめて奪った日?」
『言い方に気をつけて、くださいっ!いたっ、っ!!』
「態度に気を付けないといけないのは、莉緒のほうだよ」
「伊緒にバレたら、だめでしょ?ね?」とあの日と同じ笑顔で私の唇を奪うこの人の考えてることがわからない。でも、あの日はじめて家族以外の前で泣いた私を優しくあやすように抱きしめたこの人の手の温もりを思い出し、受け入れる術のない私はされるがままだった。
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