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12の式神が紡ぐ物語



『蝶は愛する花を探す』


「そう言えば…姉御って、左耳だけ蝶のピアスを付けてるよね。なんでなの?」
 神流お嬢に聞かれ、妾(アタシ)は目を丸くする。ちなみにその話は先日、大地にも聞かれた。仕事が始まる数分前に。

「神流お嬢は、この蝶のピアスは蒼空お嬢のお手製である事は知ッてたかい?」

「うん、知ってるよ。そうお姉ちゃんに話を聞いた事あるから。でもペアなのに、なんで片方だけなんだろうって……右耳には牡丹のピアスで」
 神流お嬢は、このピアスが蒼空お嬢のお手製である事までは知ッている。なるほどね。

「一つだけつけたのは意味あるの?願掛けとかあるでしょ?」

「そうだねぇ…。願掛け、というよりもお守りかね」

「お守り?」
 神流お嬢は首を傾げる。

「じゃあ、右耳のルビーの牡丹のピアスは?」

「これは単なるアクセサリー」
 「うぅ…ん」とお嬢は唸り始めた。徐々話した方がいいだろうねぇ…。

「じゃあ、話すよ。いいかい?」
 お嬢が頷くと、妾は話し始めた。



 5年前――――
 あれは、蒼空お嬢が13歳の時の夏の出来事。その時妾は、バーの準備を終えたばかりで休憩していた最中だ。

「お疲れ様、千津」
 蒼空お嬢に呼ばれた時は、かなり驚いたよ。だって気配を消してたからね。

「おや、お嬢。どうしたんだい?」

「ちょっと千津に渡したいものがあって」

「渡したいもの?」

「そう、これなんだ」
 妾が尋ねると、お嬢は小さな紙袋を掌に置いた。

「あたしの感謝の気持ち。中身は仕事が始まる前に見てね。あたし、夕飯の準備しないといけないから」
 そう言って、お嬢は家に戻ってしまった。バーが開店するのは、7時。それまで時間があるから、カウンター席に座って開けてみる事にした。

「一体お嬢は、何をくれたんだろうね」
 呟きながら、小さな紙袋を開ける。その中に入っていたのは、蝶のピアスだ。中には小さな手紙も入っている。

「お嬢らしいねぇ」
 お嬢がくれたプレゼントは何でも嬉しいけれどね。流石にこれは言わないけれど。今付けている牡丹のピアスを外して、蝶のピアスを付けた。

 花は「幸せ」「愛情」「美」を象徴し、女性らしさをアップさせる。いかし花の種類によって違うらしいが。

「ピアス、変えたのかい?」

「宗雲さん。えぇ、そうですよ。お嬢がくれたんです」
 バーテンダー姿の宗雲さんが奥の部屋から現れた。

「蒼空が作ったのだね。そう言えば千津嬢は、蝶がどんな意味を持っているか知っているかい?」

「えぇ、勿論知っていますよ。風水では「美」や「喜び」の象徴で、世界各国では幸運を運ぶ象徴にもなっています。古くから家紋に使用されたり、婚礼の際の衣装にもその柄があしらわれていたりしたようです」

「そうそう。蝶は彼岸と此岸を行き交う不思議な力があって、ギリシャでは魂や不死の象徴とされているらしい。魂が昆虫に姿を変えて、メッセージを送ってくる事もありえるって言うし」
 そう言えば、何度か死者の魂を蝶に変えて彼岸に飛ばした記憶があるねぇ…。

「もしかしたら蒼空は、こういう意味で送ったんじゃないかな?お守りとして」

「お守りとして?」
 妾が首を傾げて尋ねると、宗雲さんは「そ」と答える。

「”過去の自分から生まれ変わりたい”って意味で」

「!」
 それを聞いて、妾は目を丸くした。

 妾は凶将という烙印を押され、朱鷺と一緒にいる事が多かった。でも母さんに諭されて、自分がどうなればいいのかわかった。
お嬢と出会って、この人の為に生きようと思った。

「そうかも知れないですね」
 どうやら、お嬢にはお見通しだったらしい。


「と…いう話。あと片方しか付けてないのは、花と蝶をワンセットにしているからね」

「姉御、ずるーい!私も作って欲しいな」

「頼めば、お嬢は作ってくれると思うけどねぇ?」

「うーん…そうだと思うんだけどさぁ…。なんで姉御って…蝶のアクセサリーが多いの?」

「さぁ…なんででしょうね?」
 妾がそう答えると、神流お嬢は「ひっどーい!」と叫んだ。

「あれ?どうかした」
 その時、お嬢の声がした。

「あ、そうお姉ちゃん。なんで姉御って、蝶のアクセサリーが多いの?」

「なんでかって?そうだなぁ…」
 楽しげにお嬢は、話をする。滅茶苦茶弄ってるねぇ…お嬢。

「十二天将達を動物とかに当てはめて遊んでた事があってね。朱鷺は蜥蜴、珠洲はセキセイインコ、葵は犬、玄武は亀、弥一は虎、琴梨は鷹、昴は鹿、一華はうさぎ、それで千津は蝶ってなったんだ」
 
「おぉ…なるほど」
 神流お嬢、それ妾も初めて聞くよ。

「それに千津の周り、いつも蝶が飛んでるからさ。オーラって…言えばいいかな?」

「オーラかぁ…、なんかそんな気がしてきたかも」
 神流お嬢は、うんうんと頷く。そうなのだろうかね?妾は全然、わからないから。



 バーでの仕事が終わり、妾はシャワーを浴びる。今日は本当に疲れた。

「ん?」
 目の前を何かが、横切って行く。

「蝶…?」
 星空を翅に纏った蝶が妾の周りを悠々と飛び回る。

「お嬢が言っていたのは、この事かもしれないねぇ…」
 一人苦笑する。
 妾に幸運を運んでくれてありがとう。
 そしてここにいる事を許してくれてありがとう。
 妾は、とても幸せだよ。

END



お題「千津のピアス」
 
 十二天将の愛用品シリーズ第二弾。
 千津は左耳に蝶のピアスをして、右耳に花(牡丹)のピアスをしてます。
文ストの晶子先生をモデルにしているからという事もあり、蝶のアイテムを何か持たせたいなと理由でピアスにしました。
十二天将、朱鷺と陸の三番目ぐらいに暗い過去の持ち主でした。
これはのちのち書いていきたいと思います。
因みにオーラの蝶は、文ストのゲームの闇のSRの晶子先生のエフェクトを元にしてます。
絶対綺麗な蝶が周りに飛んでそうな気がしたので。

 のちのち他の人達の愛用品の話を書いてみたいと思います。

2018‐1‐19
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