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山崎退視点 「もう寝るだけの夜に、君の文字が見たくなった」

深夜、時計の針は1時を回っていた。

明日も早い。
だから早く寝るべきなのに、
どうにも寝つけなかった。

疲れてないわけじゃない。
むしろ、身体は限界に近かった。

だけど――
ベッドに横たわっても、頭の中が妙に静かでうるさい。

そんな夜だった。

(……何してんだ、オレ)

気づけば、部屋の隅にある引き出しの前にいた。

寝巻きのまま、スリッパも履かず、
冷えたフローリングに足を置いて。

ゆっくり、引き出しを開ける。

そこには、あの日もらった紙袋の中にあった
たった一枚の手紙が、そのまま大事に置かれていた。

正確に言えば、“メモ”という方が近い。

白い便せんに、シンプルな文字。
見慣れた彼女の筆跡。

「あの日の傘、ありがとうございました。
すごく助かりました。
甘いもので、すこしでもお疲れ癒せますように」

声に出して読むわけじゃないのに、
彼女の声が聞こえた気がした。

(……どうして、こんなに響くんだろう)

人間って、こんなに簡単に心を動かされるんだろうか。
たったこれだけの言葉に。

甘いものと一緒に渡されたこの紙を、
何度読んだだろう。

本棚にしまい込んでおけばよかったのに、
手元に置いておきたくて、
この引き出しに入れてしまった。

そして今夜も、
こうしてまた――読み返している。

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