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「名前を知っただけなのに、少しだけ近づけた気がした」

街灯に照らされたその横顔は、
仕事終わりの少し疲れた顔をしていて、
それなのに、妙にきれいで。

胸の奥が、すっと熱くなる。

躊躇った末に、一歩踏み出して声をかけた。

「こんばんは。……また、お疲れさまです」

彼女は驚いたように振り向いて、
すぐに「あ」と小さく声を漏らした。

「この前の……お巡りさん」

「はい。……山崎です。真選組、三番隊の。あ、たぶんどうでもいい情報でしたね」

思わず口がすべって、苦笑する。

けれど彼女は、そんな自分を見てくすっと笑った。

「どうでもよくないですよ。ちゃんと、お名前、知れてよかったです」

その笑顔に、胸が跳ねた。

(……ああ、ずるい)

“ちゃんと名前、知れてよかったです”って――
そんなふうに言われたら、もう、忘れられないじゃないか。

「……オレ、実は、またお会いできたら名前を聞こうって、ちょっと思ってたんです」

「そうなんですか?」

「はい。……失礼じゃなければ、お名前、教えていただけますか」

彼女はほんの少しだけ驚いたあと、
やわらかく頷いた。

「○○っていいます。……本名じゃないけど、店でもそう呼ばれてるので」

(○○)

名前を聞いた瞬間、
なんだか、世界の彩度が変わった気がした。

やっと、“ただの通りすがり”じゃなくなった気がした。

「○○さん……」

自分で呼んでみて、
喉の奥に残るその響きが、妙に心地よかった。

「また会えたら、また話しかけてもいいですか」

「ふふ。もちろん。……山崎さんって、真面目ですね」

「真面目しか取り柄がないんです」

そう言って笑うと、
彼女も、少し照れたように笑った。

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