第一章.
夢小説設定
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「記憶をなくす前の事で、何か覚えていることはあるかい?」
「いいえ」
「それじゃあ、君自身の事は?名前、年齢、住所⎯⎯。その他何でもいい、思い出せる事は?」
「......名前は、夢だった気がします。それ以外は全く⎯⎯」
聞き取りやすいようにと、相手がゆっくりと喋ってくれている事は分かるけど、投げかけられた質問を幾ら脳に刷り込んでもいい答えを見つける事ができない。
申し訳なさに喉の奥が詰まるのを感じる。
「まいったな...」
「(ですよね。)」
視線を合わせるようにガタイの良い身体を小さく丸め屈み込む青年は、溜め息混じりに独特に垂れた前髪を中指で掻いた。
「うーん...、記憶喪失かな」
「え...、流石に冗談ですよね?」
「じゃあ君は、今の状況をなんと説明する事ができるんだい?」
そう言われて私は口を噤んだ。ない。思い当たらない。
肩に掛けられた黒い上着、今にも半壊しそうな古びた建物。視界に映るどれも名称は分かるのに、なぜだろう。
私自身の事はまるで最初から"何もなかった"かのように、何も思い出す事ができない。
「任務も終わって帰ろうと思った時にさ、急に君が空から降って来たんだ」
突拍子もない事を言い出す青年に怪訝な視線を送ると、慌てたように付け足される言葉たち。
「まさか、何か辛いことがあって投げやりになってしまったのかと思ったけど、不思議な事に君が降ってきた周囲には高層の建物なんてなくてね」
タチの悪い奴等に巻き込まれただけかと思ったんだけど⎯⎯。
淡々と紡がれる言葉のどれも、失われた記憶の中に思い当たる節など一切なく。
「頭に怪我を負ってるようだったから、もしかしたらその衝撃で一時的に記憶を失ってるだけかもしれないし」
「怪我って...」
言葉を辿って自身の頭に手を伸ばしてみると、確かにどんよりと重い気がする。
記憶喪失なんてどう治療すればいいんだろう...。
考えようとしたくても、頭に靄がかかったようにぼんやりと垂れ込んで上手く思い浮かばない。
目を覚ましてからはずっと、海を漂うクラゲのようにふわふわと身体中が弛緩しているようだった。
「とりあえず、もう一度寝るといい」
肩からずり落ちた上着をそっと掛け直してくれた彼は、手元の携帯を一瞥するとそう告げた。
あまりにも優しいその声に、緊張の糸がぷつりと切れたのか。ふと意識が沈んでいく中、身体が宙に浮くような不思議な感覚を私は憶えている。
「いいえ」
「それじゃあ、君自身の事は?名前、年齢、住所⎯⎯。その他何でもいい、思い出せる事は?」
「......名前は、夢だった気がします。それ以外は全く⎯⎯」
聞き取りやすいようにと、相手がゆっくりと喋ってくれている事は分かるけど、投げかけられた質問を幾ら脳に刷り込んでもいい答えを見つける事ができない。
申し訳なさに喉の奥が詰まるのを感じる。
「まいったな...」
「(ですよね。)」
視線を合わせるようにガタイの良い身体を小さく丸め屈み込む青年は、溜め息混じりに独特に垂れた前髪を中指で掻いた。
「うーん...、記憶喪失かな」
「え...、流石に冗談ですよね?」
「じゃあ君は、今の状況をなんと説明する事ができるんだい?」
そう言われて私は口を噤んだ。ない。思い当たらない。
肩に掛けられた黒い上着、今にも半壊しそうな古びた建物。視界に映るどれも名称は分かるのに、なぜだろう。
私自身の事はまるで最初から"何もなかった"かのように、何も思い出す事ができない。
「任務も終わって帰ろうと思った時にさ、急に君が空から降って来たんだ」
突拍子もない事を言い出す青年に怪訝な視線を送ると、慌てたように付け足される言葉たち。
「まさか、何か辛いことがあって投げやりになってしまったのかと思ったけど、不思議な事に君が降ってきた周囲には高層の建物なんてなくてね」
タチの悪い奴等に巻き込まれただけかと思ったんだけど⎯⎯。
淡々と紡がれる言葉のどれも、失われた記憶の中に思い当たる節など一切なく。
「頭に怪我を負ってるようだったから、もしかしたらその衝撃で一時的に記憶を失ってるだけかもしれないし」
「怪我って...」
言葉を辿って自身の頭に手を伸ばしてみると、確かにどんよりと重い気がする。
記憶喪失なんてどう治療すればいいんだろう...。
考えようとしたくても、頭に靄がかかったようにぼんやりと垂れ込んで上手く思い浮かばない。
目を覚ましてからはずっと、海を漂うクラゲのようにふわふわと身体中が弛緩しているようだった。
「とりあえず、もう一度寝るといい」
肩からずり落ちた上着をそっと掛け直してくれた彼は、手元の携帯を一瞥するとそう告げた。
あまりにも優しいその声に、緊張の糸がぷつりと切れたのか。ふと意識が沈んでいく中、身体が宙に浮くような不思議な感覚を私は憶えている。