夢主達の設定です。
ハーツラビュル篇
夢主の設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――後日、薔薇の迷路にて
「我らがリーダー!赤き支配者!リドル寮長のおなーりー!」
「リドル寮長、バンザーイ!」
エースが要求した通り、『なんでもない日』のパーティーのリベンジが行われた。リドルの体調は回復していたが、アリスは傷の治りが遅く、まだ医務室で療養させられていた。
「うん。庭の薔薇は赤く、テーブルクロスは白。完璧な『なんでもない日』だね。ティーポットの中に眠りネズミは……って、いや、いなくていいか」
「そんなに急に変えなくたっていいさ。ジャムはネズミの鼻に塗らなくたってスコーンに塗ればいい。絶対ないとダメ、じゃなくてあったっていい、にしていけばいいだろう?」
「うん。そうだね」
トレイの言葉に頷くリドル。そこに、オンボロ寮組とエース達がやってきた。
「はーぁ。結局部屋の片付けとか今回の準備とか全部オレらがやらされたんだけど?」
「お庭にフォトジェニックな飾り付けも出来たし、俺的には大満足!」
「まぁまぁ。寮長の体調も何事もなく回復したわけだし。……アリスは傷の治りが悪いからまだ安静だと言われてここにはいないけど」
エースは文句を言うが、デュースとケイトがそれを宥める。そして話題はアリスの事になった。
「そーだな。アイツ、見た目に反してめちゃくちゃな戦い方してたしな。傷口を火で焼いて止血したのを見たときは正直びびったよ」
「あの戦い方を見たとき、なんだか既視感を覚えた……どこかで見たことがあるような気がする……」
「そう?普通だと思うけど」
「普通の女の子はそんなことしねぇよ……ってうわ!アリス?!お前、まだ医務室じゃ」
いつの間にか寮服に着替えて、エース達の側にいたアリスに驚く一同。アリスは片目を閉じて、得意げにこういう。
「今日は『なんでもない日』のパーティーなのよ?医務室を抜け出すなんて、私にとっては簡単なんだから」
幼い頃から屋敷の裏の塔に一人閉じ込められて、それを何度も何度も抜け出していたアリスにとっては、医務室から抜け出すなんて「簡単」なのだ。そしてアリスはこの『なんでもない日』のパーティーを心待ちにしていたのだ。アリスの得意気な表情を見て、リドルは「昔」を思い出した。
「アリスちゃん、傷が開いても俺ら知らないよ〜?」
「承知の上です〜」
ケイトがそう言うと、「分かってますよ」と言う風に言い、ふいと顔を逸らした。
「うーっ!早く料理が食べたいんだゾ!」
「オッケー!では早速……」
グリムが「もう待ちきれない」と言う風に、並べられた料理達を見ている。だが、そこにリドルが「待った」をかけた。
「ちょっと待って!」
厳しい目をして言うリドル。そして、その目線の先には白い薔薇の木があった。
「その白い薔薇……」
いつもの厳しい声で言うリドルに、薔薇塗りを担当した者達が焦る。
「げっ!塗り残し?!」
「あわわわわ……エースちゃん、デュースちゃん、ちゃんと塗ってって言ったじゃん〜!」
「僕達のせいですか?!」
「り、リドル、これは……」
慌てふためく皆をみて、リドルはクスリと笑う。
「……なんてね。もう薔薇の木の一本や二本で罰したりしないさ」
「ほんとー?!リドルくん寛大!」
その言葉にケイトは「助かった!」という風な態度を出す。
「みんなで塗れば早いだろうしね」
だが、リドルは「みんなで薔薇を塗ればいい」と言ったのだ。その言葉にエースは萎えたような声を出す。
「って塗るのは変わんねーのかよ」
「まあまあ。それでも本当に……うん。変わったな、リドル」
「そうですね。……良かったです」
トレイの言葉に頷くアリス。リドルがきちんと「元に戻った」と安心したのだ。
「もう一秒も我慢できねえんだゾ!さっさとバラでもなんでも塗ってパーティーだ!」
グリムが早く料理を食べたい!と周りを急かす。リドルは明るい声で皆に声をかける。
「それじゃあ、みんな、準備はいい?」
その声に、一番大きく返事をしたのはアリスだった。
「はい!」
*
そして、皆で薔薇を塗り終わった後、エースがリドルの「詫びタルト」のことを言い出した。
「で、寮長の詫びタルトは結局どうなったの?」
リドルは少し不格好な苺タルトを出しながら、「ち、ちゃんと作ってきてるよ!これ。この苺のタルトはボクが作った」と言った。リドルの作った苺タルトを、トレイとアリスが褒める。
「うんうん。形は少し不格好だけど、苺の艶を出すナパージュを塗る一手間もかけてるし、初めてにしては上出来じゃないか」
「私、今まで見てきたケーキの中でリドル寮長のこの苺タルトが一番美味しそうに見えます!早く食べたいです」
二人が褒めるので、エースはやや口を尖らせながら文句を言ってから、さっそく食べようとする。
「はい、すかさず二人の甘やかし入りました〜。ほっといて早速実食といきますか」
「あ、レアなタルトの写メ撮るから切るの待って!」
ケイトがレアだから、とタルトにナイフを入れる前に写真を撮り始めた。
「……はい、オッケー!」
「先輩もまじブレないよね……。んじゃ、いただきまーす。」
エースがケイトにツッコミを入れたあと、「いただきます」と言ったので、リドル以外の全員で一斉に一口目を口に入れたそして――
「こ、これは……!!」
トレイとケイトが驚いたような顔で言う。
「しょっぱい!!!」
最後はアリス以外の全員が同じ感想を述べた。その感想に驚くリドル。
「えぇっ?!」
アリスは皆の感想を否定するように、咳き込みながらリドルに感想を言う。
「ゲホッ、お、美味しいですよ、リドル、ゲホッ、寮長」
「アリス、その顔で言っても説得力がないんだゾ……」
ゲホゲホと咳き込みながら言うアリスに冷静にツッコミを入れるグリム。
「なんだこりゃ?!めちゃくちゃしょっぱい!なに入れたらこうなるワケ?!」
エースが「意味が分からない!」と言う風にリドルに言う。リドルはそれに対して、反論するが――
「厳密に材料を量って、ルール通りに作ったんだ。そんな間違いはないはず……あっ!もしかして……オイスターソースを入れたから?」
そう、リドルの作った苺のタルトには「セイウチ印のオイスターソース」が入っていたのだ。
「ゲホッ……もしかしてクローバー先輩が言っていたセイウチ印の?」
デュースがそう言うと、リドルは言い訳をするように「昔トレイに言われたこと」を話し出した。
「だってトレイが昔、レシピには載ってないけど美味しいタルトには、必ず隠し味でオイスターソースが入ってるって……」
「オエッ、んなわけねーだろ!ちょっと考えれば嘘だって分かるでしょーが!」
「自分も騙されていたくせに……」
エースがまたすかさずツッコむが、マロンタルトを作る際にエースもトレイに騙されたことを知っているユウがエースに言うと、エースは「うっ」と痛いところを突かれたような顔をした。
「しかもこれ、隠し味って寮のしょっぱさじゃないよね?!どんだけ入れたの?」
あまりにもしょっぱいので、ケイトがリドルに言うと、またリドルは慌てたように反論し出す。
「だって適量とか言われても分からないだろう?!何cc使うか正確に教えてくれないと……」
その様子を見て、トレイが笑い出した。
「……プッ。あはは!まさかあの冗談を真に受けて本当に入れる奴がいたなんて……あははは!」
騙される奴がいたなんて、と愉快そうに笑う。それにつられて、リドルも笑い出した。
「……あは、あはは、そうだね。馬鹿だな、ボク……あははは!」
リドルの後に、エース達も笑い出す。
「はは、不味過ぎて笑えてきた」
「つーか、これもう笑うしかなくね?」
そういうエース達に、アリスは「折角、リドルが初めて作ってくれたタルトなんだから」という思いで文句を言う。
「こら貴方達!リドル寮長が折角作ってくれたタルトをまずいって言わないの!私は美味しいと思いますよ!ゲホッ、いらないなら私が全部食べるから!ゴホッ」
「アリス、顔と言葉がさっきから一致してないぞ……」
だが、アリスの顔はあまりのしょっぱさで赤くなっており、それに加えて咳き込んでいることから、言葉に説得力がない。
「うう……しょっぱすぎて、傷が開きそう……じゃなくて!アリスはリドル寮長が一生懸命作ってくれたこのタルト大好きです!」
アリスはリドルにそう言うが、リドルはアリスの嘘を見抜いていた。
「アリス、キミは辛いものやしょっぱいものが嫌いだろう?それに、さっきの言葉、聞こえてたからね。……ふっ……あはははっ!」
そして、また笑った。リドルは先程から笑いが止まらないようであった。
「うっ、知られていましたか……でもアリスが誰よりも多く食べますから!リドル寮長お手製のレアなタルトですし!」
アリスは嘘を見抜かれていたが、それとはお構いなしに、本当に誰よりも沢山食べようと思っていた。アリスにとつてはこのしょっぱい苺タルトが、まだ家にいた頃、パーティーに出席した時のどんな完璧なデザートより、「おいしい」と思ったのだ。アリスにとって、リドルが作ってくれた苺タルトだから味なんて関係がなかった。
「でも、これはこれで美味い気がしてきたんだゾ」
グリムがそう言うと、ケイトがそれに賛同した。
「あ、それ分かるかも。案外悪くないよね」
「ダイヤモンド先輩もグリム並にゲテモノ食いじゃないですか!」
「デュース、これはゲテモノじゃないわよ!」
「いやいや、そんなことはないって〜」
ケイトがはぐらかしていると、トレイが「ケイトが誰にも言っていなかったこと」を言い出した。
「このタルトは甘くないから悪くない、だろ?」
「えっ」
「お前、甘いもの嫌いだもんな。薔薇を塗ろう を話の話のネタにするフリでよくケーキの味を変えさせるだろう?全然顔には出さないけど、甘い物が嫌いなのかとずっと思ってた」
そう言われて、ケイトは目を伏せる。そして、トレイに一言言い返した。
「あ〜………バレてたんだ?うわ、はっず……。トレイくん、リドルくんの件もそうだけど、その『思ってたけど言わない』って良くないと思うな〜、オレ」
「次の『なんでもない日』はキッシュも焼いてやるからな」
「そりゃどーも。……ケーキ並にフォトジェニックなやつにしてね」
二人がそんな会話をしていると、突然紫色の髪をした少年が鼻歌を歌いながら現れた。
「ふふふふ〜ん♪トレイのお菓子はいつ食べても絶品だにゃ〜」
「チェーニャ?!なんでここに?!」
その姿を見て、リドルは「チェーニャ」ともう一人の幼馴染みの名を呼んだ。
「ん?『なんでもない日』だからお祝いに来ただけさ。おめでとう、リドル」
そう言いながら、テーブルに並べられたお菓子達を食べるチェーニャ。
「『なんでもない日』はハーツラビュル寮の伝統行事だ。キミには関係ないだろう?」
リドルがそう言うと、チェーニャはユウとグリムを指してこう言った。
「それはそっちの人達も同じじゃにゃーの」
「あっ、オマエ!こないだ会ったにゃあにゃあしゃべる変なヤツ!」
グリムが「変なヤツ!」と言っている間に、アリスは突然の来訪者に混乱していた。
「な、何、猫?人間?!どっちなの?!もしかしてグリムの仲間?!」
「オレ様とこの変なヤツを同じにするんじゃねー!そういえば、結局オマエはどこの寮なんだゾ?」
グリムは以前会った時から思っていたことを口に出す。すると、代わりにリドルとトレイがチェーニャのことを説明してくれた。
「そもそもチェーニャはうちの学園の生徒じゃない」
「ナイトレイブンカレッジの長年のライバル学校、ロイヤルソードアカデミーの生徒だよ」
チェーニャはロイヤルソードアカデミー、という違う魔法学校の生徒なのだ。その事に驚く一年生達。
「えっ?!じゃあ、違う学校の生徒?!」
「しかもロイヤルソードアカデミー?!」
「他にも魔法学校があるんだ……」
「私もユウと同じこと思ったよ……」
ロイヤルソードアカデミーの生徒が来ていることに気が付いた他のハーツラビュル寮生が次々と殺気立たせる。
「今、ロイヤルソードアカデミーって聞こえたぞ!」
「あの気取った奴らの仲間が来てるって?!」
「なんだと?!どいつだ!すぐに追い返してやる!」
「おっと、それじゃタルトも食べたし俺は帰るとするかにゃ。フッフフーン♪」
気付かれたチェーニャは、鼻歌を歌いながらスゥと消えていった。それに対し、他の寮生達は「あっ逃げたぞー!」「追え追えー!」と消えたチェーニャを探し出す。
「なんだかみんなが急に殺気だったんだゾ」
「どうしたんだろう……」
グリムとアリスが疑問に思っていると、リドルがその理由を説明してくれた。
「ナイトレイブンカレッジの生徒は、高確率でロイヤルソードアカデミーの生徒を敵視しているからね……」
「百年も負け続けていたらそうなると言うか……」
リドルの説明に、トレイが少し困ったような声で補足をした。アリスが「"何に"だろう」と思っていたら、ケイトが場の空気を変えてくれた。
「まーまー!お祝いの日にそんな暗い話はナシナシ!今日は『なんでもない日』のパーティーを楽しもうよ!」
「……そうですね!」
そう言って、今度こそ皆で『なんでもない日』のパーティーを楽しんだ。
「我らがリーダー!赤き支配者!リドル寮長のおなーりー!」
「リドル寮長、バンザーイ!」
エースが要求した通り、『なんでもない日』のパーティーのリベンジが行われた。リドルの体調は回復していたが、アリスは傷の治りが遅く、まだ医務室で療養させられていた。
「うん。庭の薔薇は赤く、テーブルクロスは白。完璧な『なんでもない日』だね。ティーポットの中に眠りネズミは……って、いや、いなくていいか」
「そんなに急に変えなくたっていいさ。ジャムはネズミの鼻に塗らなくたってスコーンに塗ればいい。絶対ないとダメ、じゃなくてあったっていい、にしていけばいいだろう?」
「うん。そうだね」
トレイの言葉に頷くリドル。そこに、オンボロ寮組とエース達がやってきた。
「はーぁ。結局部屋の片付けとか今回の準備とか全部オレらがやらされたんだけど?」
「お庭にフォトジェニックな飾り付けも出来たし、俺的には大満足!」
「まぁまぁ。寮長の体調も何事もなく回復したわけだし。……アリスは傷の治りが悪いからまだ安静だと言われてここにはいないけど」
エースは文句を言うが、デュースとケイトがそれを宥める。そして話題はアリスの事になった。
「そーだな。アイツ、見た目に反してめちゃくちゃな戦い方してたしな。傷口を火で焼いて止血したのを見たときは正直びびったよ」
「あの戦い方を見たとき、なんだか既視感を覚えた……どこかで見たことがあるような気がする……」
「そう?普通だと思うけど」
「普通の女の子はそんなことしねぇよ……ってうわ!アリス?!お前、まだ医務室じゃ」
いつの間にか寮服に着替えて、エース達の側にいたアリスに驚く一同。アリスは片目を閉じて、得意げにこういう。
「今日は『なんでもない日』のパーティーなのよ?医務室を抜け出すなんて、私にとっては簡単なんだから」
幼い頃から屋敷の裏の塔に一人閉じ込められて、それを何度も何度も抜け出していたアリスにとっては、医務室から抜け出すなんて「簡単」なのだ。そしてアリスはこの『なんでもない日』のパーティーを心待ちにしていたのだ。アリスの得意気な表情を見て、リドルは「昔」を思い出した。
「アリスちゃん、傷が開いても俺ら知らないよ〜?」
「承知の上です〜」
ケイトがそう言うと、「分かってますよ」と言う風に言い、ふいと顔を逸らした。
「うーっ!早く料理が食べたいんだゾ!」
「オッケー!では早速……」
グリムが「もう待ちきれない」と言う風に、並べられた料理達を見ている。だが、そこにリドルが「待った」をかけた。
「ちょっと待って!」
厳しい目をして言うリドル。そして、その目線の先には白い薔薇の木があった。
「その白い薔薇……」
いつもの厳しい声で言うリドルに、薔薇塗りを担当した者達が焦る。
「げっ!塗り残し?!」
「あわわわわ……エースちゃん、デュースちゃん、ちゃんと塗ってって言ったじゃん〜!」
「僕達のせいですか?!」
「り、リドル、これは……」
慌てふためく皆をみて、リドルはクスリと笑う。
「……なんてね。もう薔薇の木の一本や二本で罰したりしないさ」
「ほんとー?!リドルくん寛大!」
その言葉にケイトは「助かった!」という風な態度を出す。
「みんなで塗れば早いだろうしね」
だが、リドルは「みんなで薔薇を塗ればいい」と言ったのだ。その言葉にエースは萎えたような声を出す。
「って塗るのは変わんねーのかよ」
「まあまあ。それでも本当に……うん。変わったな、リドル」
「そうですね。……良かったです」
トレイの言葉に頷くアリス。リドルがきちんと「元に戻った」と安心したのだ。
「もう一秒も我慢できねえんだゾ!さっさとバラでもなんでも塗ってパーティーだ!」
グリムが早く料理を食べたい!と周りを急かす。リドルは明るい声で皆に声をかける。
「それじゃあ、みんな、準備はいい?」
その声に、一番大きく返事をしたのはアリスだった。
「はい!」
*
そして、皆で薔薇を塗り終わった後、エースがリドルの「詫びタルト」のことを言い出した。
「で、寮長の詫びタルトは結局どうなったの?」
リドルは少し不格好な苺タルトを出しながら、「ち、ちゃんと作ってきてるよ!これ。この苺のタルトはボクが作った」と言った。リドルの作った苺タルトを、トレイとアリスが褒める。
「うんうん。形は少し不格好だけど、苺の艶を出すナパージュを塗る一手間もかけてるし、初めてにしては上出来じゃないか」
「私、今まで見てきたケーキの中でリドル寮長のこの苺タルトが一番美味しそうに見えます!早く食べたいです」
二人が褒めるので、エースはやや口を尖らせながら文句を言ってから、さっそく食べようとする。
「はい、すかさず二人の甘やかし入りました〜。ほっといて早速実食といきますか」
「あ、レアなタルトの写メ撮るから切るの待って!」
ケイトがレアだから、とタルトにナイフを入れる前に写真を撮り始めた。
「……はい、オッケー!」
「先輩もまじブレないよね……。んじゃ、いただきまーす。」
エースがケイトにツッコミを入れたあと、「いただきます」と言ったので、リドル以外の全員で一斉に一口目を口に入れたそして――
「こ、これは……!!」
トレイとケイトが驚いたような顔で言う。
「しょっぱい!!!」
最後はアリス以外の全員が同じ感想を述べた。その感想に驚くリドル。
「えぇっ?!」
アリスは皆の感想を否定するように、咳き込みながらリドルに感想を言う。
「ゲホッ、お、美味しいですよ、リドル、ゲホッ、寮長」
「アリス、その顔で言っても説得力がないんだゾ……」
ゲホゲホと咳き込みながら言うアリスに冷静にツッコミを入れるグリム。
「なんだこりゃ?!めちゃくちゃしょっぱい!なに入れたらこうなるワケ?!」
エースが「意味が分からない!」と言う風にリドルに言う。リドルはそれに対して、反論するが――
「厳密に材料を量って、ルール通りに作ったんだ。そんな間違いはないはず……あっ!もしかして……オイスターソースを入れたから?」
そう、リドルの作った苺のタルトには「セイウチ印のオイスターソース」が入っていたのだ。
「ゲホッ……もしかしてクローバー先輩が言っていたセイウチ印の?」
デュースがそう言うと、リドルは言い訳をするように「昔トレイに言われたこと」を話し出した。
「だってトレイが昔、レシピには載ってないけど美味しいタルトには、必ず隠し味でオイスターソースが入ってるって……」
「オエッ、んなわけねーだろ!ちょっと考えれば嘘だって分かるでしょーが!」
「自分も騙されていたくせに……」
エースがまたすかさずツッコむが、マロンタルトを作る際にエースもトレイに騙されたことを知っているユウがエースに言うと、エースは「うっ」と痛いところを突かれたような顔をした。
「しかもこれ、隠し味って寮のしょっぱさじゃないよね?!どんだけ入れたの?」
あまりにもしょっぱいので、ケイトがリドルに言うと、またリドルは慌てたように反論し出す。
「だって適量とか言われても分からないだろう?!何cc使うか正確に教えてくれないと……」
その様子を見て、トレイが笑い出した。
「……プッ。あはは!まさかあの冗談を真に受けて本当に入れる奴がいたなんて……あははは!」
騙される奴がいたなんて、と愉快そうに笑う。それにつられて、リドルも笑い出した。
「……あは、あはは、そうだね。馬鹿だな、ボク……あははは!」
リドルの後に、エース達も笑い出す。
「はは、不味過ぎて笑えてきた」
「つーか、これもう笑うしかなくね?」
そういうエース達に、アリスは「折角、リドルが初めて作ってくれたタルトなんだから」という思いで文句を言う。
「こら貴方達!リドル寮長が折角作ってくれたタルトをまずいって言わないの!私は美味しいと思いますよ!ゲホッ、いらないなら私が全部食べるから!ゴホッ」
「アリス、顔と言葉がさっきから一致してないぞ……」
だが、アリスの顔はあまりのしょっぱさで赤くなっており、それに加えて咳き込んでいることから、言葉に説得力がない。
「うう……しょっぱすぎて、傷が開きそう……じゃなくて!アリスはリドル寮長が一生懸命作ってくれたこのタルト大好きです!」
アリスはリドルにそう言うが、リドルはアリスの嘘を見抜いていた。
「アリス、キミは辛いものやしょっぱいものが嫌いだろう?それに、さっきの言葉、聞こえてたからね。……ふっ……あはははっ!」
そして、また笑った。リドルは先程から笑いが止まらないようであった。
「うっ、知られていましたか……でもアリスが誰よりも多く食べますから!リドル寮長お手製のレアなタルトですし!」
アリスは嘘を見抜かれていたが、それとはお構いなしに、本当に誰よりも沢山食べようと思っていた。アリスにとつてはこのしょっぱい苺タルトが、まだ家にいた頃、パーティーに出席した時のどんな完璧なデザートより、「おいしい」と思ったのだ。アリスにとって、リドルが作ってくれた苺タルトだから味なんて関係がなかった。
「でも、これはこれで美味い気がしてきたんだゾ」
グリムがそう言うと、ケイトがそれに賛同した。
「あ、それ分かるかも。案外悪くないよね」
「ダイヤモンド先輩もグリム並にゲテモノ食いじゃないですか!」
「デュース、これはゲテモノじゃないわよ!」
「いやいや、そんなことはないって〜」
ケイトがはぐらかしていると、トレイが「ケイトが誰にも言っていなかったこと」を言い出した。
「このタルトは甘くないから悪くない、だろ?」
「えっ」
「お前、甘いもの嫌いだもんな。
そう言われて、ケイトは目を伏せる。そして、トレイに一言言い返した。
「あ〜………バレてたんだ?うわ、はっず……。トレイくん、リドルくんの件もそうだけど、その『思ってたけど言わない』って良くないと思うな〜、オレ」
「次の『なんでもない日』はキッシュも焼いてやるからな」
「そりゃどーも。……ケーキ並にフォトジェニックなやつにしてね」
二人がそんな会話をしていると、突然紫色の髪をした少年が鼻歌を歌いながら現れた。
「ふふふふ〜ん♪トレイのお菓子はいつ食べても絶品だにゃ〜」
「チェーニャ?!なんでここに?!」
その姿を見て、リドルは「チェーニャ」ともう一人の幼馴染みの名を呼んだ。
「ん?『なんでもない日』だからお祝いに来ただけさ。おめでとう、リドル」
そう言いながら、テーブルに並べられたお菓子達を食べるチェーニャ。
「『なんでもない日』はハーツラビュル寮の伝統行事だ。キミには関係ないだろう?」
リドルがそう言うと、チェーニャはユウとグリムを指してこう言った。
「それはそっちの人達も同じじゃにゃーの」
「あっ、オマエ!こないだ会ったにゃあにゃあしゃべる変なヤツ!」
グリムが「変なヤツ!」と言っている間に、アリスは突然の来訪者に混乱していた。
「な、何、猫?人間?!どっちなの?!もしかしてグリムの仲間?!」
「オレ様とこの変なヤツを同じにするんじゃねー!そういえば、結局オマエはどこの寮なんだゾ?」
グリムは以前会った時から思っていたことを口に出す。すると、代わりにリドルとトレイがチェーニャのことを説明してくれた。
「そもそもチェーニャはうちの学園の生徒じゃない」
「ナイトレイブンカレッジの長年のライバル学校、ロイヤルソードアカデミーの生徒だよ」
チェーニャはロイヤルソードアカデミー、という違う魔法学校の生徒なのだ。その事に驚く一年生達。
「えっ?!じゃあ、違う学校の生徒?!」
「しかもロイヤルソードアカデミー?!」
「他にも魔法学校があるんだ……」
「私もユウと同じこと思ったよ……」
ロイヤルソードアカデミーの生徒が来ていることに気が付いた他のハーツラビュル寮生が次々と殺気立たせる。
「今、ロイヤルソードアカデミーって聞こえたぞ!」
「あの気取った奴らの仲間が来てるって?!」
「なんだと?!どいつだ!すぐに追い返してやる!」
「おっと、それじゃタルトも食べたし俺は帰るとするかにゃ。フッフフーン♪」
気付かれたチェーニャは、鼻歌を歌いながらスゥと消えていった。それに対し、他の寮生達は「あっ逃げたぞー!」「追え追えー!」と消えたチェーニャを探し出す。
「なんだかみんなが急に殺気だったんだゾ」
「どうしたんだろう……」
グリムとアリスが疑問に思っていると、リドルがその理由を説明してくれた。
「ナイトレイブンカレッジの生徒は、高確率でロイヤルソードアカデミーの生徒を敵視しているからね……」
「百年も負け続けていたらそうなると言うか……」
リドルの説明に、トレイが少し困ったような声で補足をした。アリスが「"何に"だろう」と思っていたら、ケイトが場の空気を変えてくれた。
「まーまー!お祝いの日にそんな暗い話はナシナシ!今日は『なんでもない日』のパーティーを楽しもうよ!」
「……そうですね!」
そう言って、今度こそ皆で『なんでもない日』のパーティーを楽しんだ。