夢主達の設定です。
ハーツラビュル篇
夢主の設定
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リドルの姿が変わり、後ろには「大きな怪物」がいた。ついにオーバーブロットしてしまったのである。しかしリドルは愉快そうに笑っている。
「ハハハハ!!!」
「リドル………」
アリスは呆然としてしまった。オーバーブロットについては過去に本で読んだことがあるが、こんなに禍々しいものだったなんて、と。そして、自分の「好きな人」がそんな姿に変わってしまったことにショックを受けた。
「ボクに逆らう愚かものども、そんな奴らはボクの世界にいらない」
リドルはその場にいる全員に向けて言う。
「ボクの世界では、ボクこそが法律。ボクこそがこの世界のルールだ!返事は『はい、リドル様』以外許さない!!」
その姿を見て、アリスは、「この人は"リドル"じゃない」と思った。そして、すぐにでもこの状態から正気に戻さないと「リドルの命が危ない」と考えた。
しかし、リドルを正気に戻す方法なんて、アリスにはたった一つしか思いつかなかった。
元々、「リドルには傷一つ付けない」つもりで決闘に挑んでいた。しかし、今までのように防戦一方では「リドルを元に戻すことはできない」。頭では分かっていても、今までの少なくてもキラキラした大切な思い出がフラッシュバックして、身体が動かなかった。
「ボクに逆らう奴らはみんな首をはねてやる!アハハハハ!!!」
そんな様子を見て、リドルがまた愉快そうに笑う。一方、デュース達は初めて見る現象に混乱しており、ケイトに簡潔に説明されていた。
そして――
「だらああああ!!!くらえ!!!」
「エース!!」
エースの風の魔法がリドルを襲う。だが、弾かれてしまった。だが、アリスはエースの声に我に帰った。「やらなきゃ、リドルを取り戻すんだ」と。
「いでよ!大釜!」
「ふな〜〜〜!!!」
エースに続いて、デュースとグリムが召喚魔法と火の魔法でリドルを攻撃する。全て弾かれてしまった。オーバーブロットしたリドルの強さは先程までとは桁違いだった。しかしアリスも"覚悟"を決めたのだ。左手を空に向かって伸ばし、魔法を使う。
「茨の蔓よ、彼のものを囲え!!!」
先程まで出していたただの「草」ではなく、今度は刺のある「茨」でリドルの周りを一気に囲む。
「いでよ!銀の剣!!」
そしてすぐに剣を召喚して構える。
「うらああああ!!!」
アリスは、"自分の覚悟"が怯まないように叫びながら、リドルの周りを囲む茨の蔓達を切り裂いて突っ込む。茨の蔓はリドルに銀の剣を召喚するところを見られないための囮だった。そしてリドルに向かって剣を振りかざすが、キンッとリドルが杖で防ぐ。そしてそのまま、杖でアリスを押し戻した。三人と一匹で突っ込んでも、リドルには傷一つつかない。
「……貴様ら、なんのつもりだ?」
リドルが低く冷たい声でアリス達に問う。ケイトも、「お前ら何やってんの?!」と焦ったように言う。
「アイツ、あのままじゃ大変なことになっちまうんだゾ?!」
「さすがにそこまで行くと寝覚めが悪い。それに……」
「まだ『ボクが間違ってました、ごめんなさい』って言わせてねーし!」
「私は『リドルに負けない』って宣言しましたからね。だから戦います。……例え私がリドルに殺されてしまう可能性があっても、"リドル"を取り戻すためならなんだってします」
三人と一匹が、強い意志を持って「リドルを元に戻す」と決めて、リドルの前に立っている。
「……お前たち。……分かった。少しの間なら俺がリドルの魔法を上書きできる。その間に頼む」
その姿を見て、トレイも『幼馴染で友達』であるリドルを「元に戻す」為に戦う覚悟を決めた。
「トレイ先輩、ありがとうございます。ただの補助にしかなりませんが……私の魔法で、もう一度『私達の魔法が有利に働く世界』を作り出します。これで先輩のユニーク魔法の持続時間が少しは伸びるはずです」
「分かった。……助かる」
そう言うと、アリスは今度は詠唱なしで、私だけの世界 を使う。最初に使った時よりもっと強く、『自分達の魔法がリドルより有利に働く世界』をイメージしながら。すると、学園長とケイトが止めてきた。
「君たち、待ちなさい!危険です!」
「そーだよ!トレイくんまで何言ってんの?リドルくんに勝てるわけないじゃん!」
オーバーブロットした相手と戦うなんて危険すぎる、という意味を込めて。しかし、エース達は違った。
「勝てる奴にしか挑まないなんて、ダサすぎんでしょ」
「そんなの、全然クールじゃないんだゾ!」
「正気に戻すのに手っ取り早い方法はこれしか思いつかないな」
「剣 でリドルを刺し殺すつもりはないですけど……私も『こういうやり方』しか知らないんで。でも、こリドルを絶対に元に戻して見せますよ」
そう言うと、ケイトも「分かりましたよ!本当、キャラじゃないんですけどね!」と言いながら、全員で「リドルを元に戻す為」に立ち上がった。
しかし、アリスは既にボロボロで正直立っているだけでやっとであった。至る所に大きなものから小さなものまで傷があり、そこから血が出て止まらない。先ほど止血したところからも、もう血が滲み出てる。アリスは自分もついに『キャロル家の呪い』が発動してることに気づいた。だが、今はオーバーブロットしているリドルの命の方が危ない。その為、「リドルを元に戻すことを優先」にした。本来であれば、すぐに止血剤などを投与されるべき状態で、このままだと、リドルより先にアリスが失血死してしまうかもしれない。それでもアリスは「自分の命」より「リドルの命」を優先にした。
「(絶対にリドルを死なせない……!だってアリスはリドルのことを――)」
*
――Back to the past.
「八歳のお誕生日おめでとう、リドル」
「ありがとう、ママ。でも、あのね、ボク……。一度でいいから真っ赤な苺がたくさん乗ったタルトを食べてみたいな……」
「まぁなんてことを言うの!あんな砂糖の塊みたいなお菓子、毒みたいなものよ」
「リドル!あのね、アリス、苺のケーキとね、林檎のケーキを持ってきたよ。苺もおいしいけど、アリスのおすすめは林檎。この林檎、すごくおいしいんだ。アリス大好き。一緒に食べようよ」
「……アリス、ボクは」
「アリスちゃん、ケーキは砂糖の塊だから毒なの。だからリドルは食べられないのよ。せっかく持ってきてくれたのに、ごめんなさいね」
「! おば様……。そうなんだ……」
ボクはずっと、真っ赤な苺のタルトが食べてみたかった。たまに呼ばれるパーティーや、たまに通りかかるケーキ屋さんのショーウィンドウに飾ってある宝石みたいなタルト。
「明日までに今日の勉強に登場した魔法倫理学における言語哲学の教本を五十ページ予習しておくこと。では、次の魔法薬学の時間まで一時間予習にします」
「はい、お母様」
「お母様は、アリスちゃんの家に診察に行ってくるから、また一時間後にね」
分刻みで詰め込まれる、ありとあらゆる学問。出来なければ出来るまで延長される学習時間。でもこれがボクの『普通』だった。
「……窓を誰かがノックしてる?」
「わ、出てきた」
「なーなー、一緒にあーそーぼ!」
「キミ達は誰?」
「俺はチェーニャ。こっちはトレイ。一緒にクロッケーしようよ」
「え……無理だよ。今は自習時間なんだ。勉強しなきゃ」
「自習って、何を勉強するか自分で決めていいがね。遊ぶのも勉強ってじーちゃんが言ってたにゃあ」
「少しだけ、降りてこない?」
「……。ちょっとだけなら。」
「君の名前、聞いてもいい?」
「り、リドル。リドル・ローズハート」
そんな時、トレイとチェーニャがボクのいる部屋の窓を叩いて、ボクを外へ連れ出してくれた。トレイとチェーニャと遊ぶのはすごく楽しかった。知らないこと、やったことのない遊び、二人は沢山教えてくれた。それから一日一時間の自習時間は、お母様に内緒で毎日部屋を抜け出した。
「えっ!リドルってイチゴのタルト、食べたことにゃーの?」
「うん。お母様が体に毒だから駄目だって」
「そりゃ食べ過ぎは良くないかもしれないけど……。あのさ、俺んちケーキ屋なんだ。今から食べに来いよ」
「えっ……。でも」
「一切れくらい大丈夫だって」
真っ白なお皿に乗った、真っ赤な苺のタルト。ボクにとってはどんな宝石よりキラキラ輝いて見えた。一口食べたタルトは、すごく甘くて、食べたことがないくらい美味しくて……。ボクは一口ずつ味わいながら夢中になって食べた。
――時間を忘れて。
「なんてことを!自習をサボっただけでなく、外で砂糖の塊を食べてくるなんて!あの二人がリドルを唆したのね。あんな悪い子たちと、二度と一緒に遊ぶことは許しません!」
「ごめんなさい、お母様!もうしないから許して…!」
「お黙り!お前がルールを破るからいけないのよ。ああ、やっぱり自由時間なんて持たせるんじゃなかった。もっともっと完璧に管理しなくては……」
ルールを破れば楽しい時間まで取り上げられてしまう。だからお母様の決めたルールは絶対に守らなきゃ。この街で一番優秀なお母様は、いつも正しいはずだから。でも……ねぇ、ママ。なんでだろう?何故だかとっても胸が苦しいんだ。お誕生日だけでいいから、いっぱいタルトが食べたい。お外でいっぱい遊びたい。もっといっぱい"お友達"が欲しいよ。教えて、ママ。どんなルールに従えばこの苦しさは消えるの?
In the present.――
「リドル!!」
リドルはトレイの声で意識を戻し、目を開けた。すると周りから安堵の声が聞こえてきた。
「……っ!!」
アリスは今にも泣きそうな顔をして、リドルを強く抱きしめた。
「アリス……苦しいよ……」
「ごめん……。でも、生きてて良かった……」
リドルがそういうと、アリスはリドルから離れた。
「ハァ〜……マジ、もう起きなかったらどうしようかって超焦った……」
ケイトが安堵の表情を浮かべて言う。しかし、意識を取り戻したばかりのリドルは自分の状況をいまいち理解できていなかった。
「ボクは……一体……?」
「良かった。正気を取り戻してますね」
「今は何も考えなくていい。寝てろ」
首を動かし周りを見るリドルに対して、優しく声をかける学園長とトレイ。しかしエースはそれを見て、主にトレイに対して文句を言う。
「あーっ、そうやってすぐに甘やかすから、ちょっと怒られただけで暴走とかするんだよ!庭はめちゃくちゃだし、こっちもヤバイとこだったんだからな!」
「確かにヤバかったな」
「全く……ストレスを溜めるとろくなことがないんだゾ」
一年生達は、各々「やれやれ」という感じの態度であった。しかし、ここでリドルがポツリと言った。
「…………。ボク……本当はマロンタルトが食べたかった」
その言葉に驚き、「へ?」と間の抜けた声を出すエース。リドルは両目に涙を溜めて、今まで溜まっていたものを口から吐き出すように言葉を続けていった。
「薔薇は白だっていいし、フラミンゴもピンクでいい。お茶に入れるのは角砂糖より蜂蜜が好きだし、レモンティーよりミルクティーが好きだ。みんなと食後のおしゃべりだってしたい……。もっともっと、トレイたちと、遊びたかった……。う、うう……うううっ……わああああん!」
そして最後に両手で顔を覆い、声を上げて泣き出した。今まで沢山「我慢」していたことを言うように。その様子を見たアリスは、リドルの左肩に手を乗せて「リドル……」とだけ呟いた。アリスはリドルにかける言葉を探したが、見つからなかった。
その様子を見て、ケイトが「うっそ……。あのリドルくんがギャン泣きしてる……」と驚く。そしてエースは「おいこら!泣けば許されると思うなよ!」と言い、デュースに「お前も大概空気読まないよな……」と言われていた。トレイは、意を決して「リドルに伝えないといけないこと」を話し出した。
「俺も悪かった。お前が苦しんでるのを知っていたのに、ずっと見ないふりをしていた」
リドルは嗚咽しながら、地面から上半身だけをゆっくり起き上がらせる。アリスはその背中を支えた。そしてリドルはトレイの言葉に耳を傾ける。
「だから、今日は言うよ。リドル、お前のやり方は間違ってた。だからみんなにちゃんと謝るんだ」
アリスはその言葉に頷いて「やっぱりトレイ先輩も私と同じことを考えていたんだ」と思った。リドルはそれを聞いて、泣きながら皆に謝る。
「……うっ、ぐす……ごめんなさい……ごめんなさいっ……!」
アリス達はその様子を静かに見守った。そして、エースが口を開く。
「俺、寮長が今までの行動を誤ってくれたら言おうと思ってたことがあんスけど……」
ここで一度言葉を切って、スゥと息を吸ってためてから、大きな声でこう言った。
「ゴメンの一言で済むわけねーだろ!絶ッッ対許してやらねーーー!!!」
その言葉に、その場にいた全員が驚いた。
「え〜?!この空気でそれ言う?!」
「エースのバカ……空気読みなさいよ」
ケイトとアリスが、エースにツッコミを入れるが、エースはお構いなし、と言う様子で次々と「エースの言いたかったこと」を言い出す。
「ったりめーだ。こっちは散々コケにされたわけだし?せっかく苦労して作ったマロンタルトを捨てられたわけだし?涙ながらに謝られたくらいじゃ許せねーなあ」
それを聞いて、リドルは「そんな……じゃあ、どうすれば……」と戸惑っていた。
「……俺、しばらく誕生日じゃないんだよね」
そう言うエースに「は?お前何言って……」とデュースが言いかけると、エースがこう言い始めた。
「だから、『なんでもない日』のパーティーのリベンジを要求する。オレたち、結局パーティーに参加できてねーし。そんで、今度はお前がタルトを作って持ってこいよ。あっトレイ先輩に手伝ってもらうのはナシだから!自分で苦労しろ!……そしたら、許してやらないことも、ない」
「『なんでもない日』のパーティーのリベンジ」をリドルに要求したエース。
「……素直じゃないのね、エース」
「自分は手伝ってもらったくせに……」
アリスとユウは、息がぴったりあったかのようにエースにつっこむ。アリスは、表情が緩んでいて、一緒にマロンタルトを作ったユウは「自分の事は棚に上げちゃって……」と、ジト目でエースを見ていた。
「うるせーアリス!あと監督生は黙ってろっつの。いい?分かった?」
アリスとユウに文句を言ってから、エースはリドルに、まるで兄が弟に言うように声をかけた。それに対してリドルは「……うん。分かった」と頷いた。
そしてケイトが、背伸びをしながら、庭の片付けをしようと言い出した。
「せっかくのフォトジェニックなお庭がボロボロだよぉ……トホホ」
そう言って肩を落とすケイトに、トレイとアリスが協力を申し出た。
「俺も手伝う」
「よし、私も頑張ります」
アリスはやる気十分です、という風に言うが、誰よりも傷だらけで、左腹部を中心に、あちこちが白い寮服が真っ赤に染まっている。
「いやいや、アリスちゃんは今すぐ医務室に行ってよ。怪我してるんだし」
そう言うケイトに、アリスはどうってことないです、と言う風に返事をする。
「え?……別にこれくらい、リドル寮長に比べたら……。まぁ唾でもつけておけば、勝手に治りますよ」
「唾をつけて治るレベルの怪我じゃないよ?!トレイ、アリスちゃんとリドルくんを医務室に運んできて。……リドルくんはオーバーブロットしちゃったわけだし、一度先生に診せた方がいい」
そうやって冷静にトレイに指示するケイト。
「ダイヤモンドくんの言う通りです。私も付き添いましょう」
学園長もその通り、と言う風にケイトに賛同した。トレイはそれを聞いて「ありがとうございます」と言って、学園長と共にリドルとアリスを医務室に運んだ。
*
リドルは医務室に運ばれたあと、しばらく意識を失うように寝ていた。そして、起きて横を見ると、パーテーション越しに誰かが寝ていることが分かった。パーテーションに映る影には、点滴と思われるボトルがぶら下がっているのも確認できた。そしてそれで、誰が寝ているかが分かった。
「アリス……」
リドルがそう呟いても返事は返ってこなかった。アリスは怪我を負っていた為、その処置を施されてからリドルの隣のベッドに運ばれたのである。あの薔薇の木の枝で、左腹部から出血はしていたものの、すぐに傷口を焼いて止血した為、輸血するほどの出血はしなかった。だが、止血した後もすぐに出血し出した事や、身体中の至る所に小さな傷があって、そこからもじわじわと出血が止まらなかった。なので点滴は失った血液を補う為に、そして一緒にこれ以上出血しないように止血剤も投与されていた。
「ごめん……」
リドルは返事はないことを分かっていたが、そう言わずには居られなかった。
リドルはアリスの家に伝わる「短命の呪い」のことを、「遺伝病」として教えられていたので知っていた。傷の治りが遅くて血が止まらなくなる、という遺伝病。それで早死にする家系だと幼い頃に聞いていた。
ほぼ毎日、母親はキャロル家に診察しに行っていた。極たまに、ついていったときは、母親が診察する部屋ではなく、別の部屋で待たされていたので、診察の時にアリスに会うことはなかった。そして、帰り道にアリスがいつのまにが作っていた傷に母親がよく怒っていたことを思い出す。
「アリスちゃんのお転婆ぶりには本当困ったものね。小さな傷でも、アリスちゃんには致命傷になるかもしれないんだから」
と、いつも言っていた。なのに、今までそのことを忘れていた。
アリスには、リドルと同い年の兄がいた。学校もクラスもずっと一緒で、一緒にナイトレイブンカレッジに入学することが決まっていた。だが、その兄とは仲良くも不仲でもなく、ただ挨拶をするだけの仲だった。しかしその兄も、その「遺伝病」でナイトレイブンカレッジ入学前に亡くなったことを思い出した。母親が言うには、原因は不明だが、内臓からの出血が止まらなかったということだった。
決闘の時のアリスの戦い方からして、恐らくその兄に実践魔法や防衛魔法を仕込まれたんだろう、と推察した。リドルと同い年だったアリスの兄は、周りに敵を作りやすい性格をしていて、よく喧嘩を売られていた。そしてその喧嘩を毎回、律儀に買っていた。場所を問わずに喧嘩を始めるので、リドルはたまに喧嘩しているところを目撃していた。その戦い方は、決闘の時のアリスと重なるところがあった。そう考えると、アリスがいつも傷だらけだったことにも納得がいく。母親曰く、傷ができた原因をいつもアリスは「遊んでた」で済ませていたそうだが。
アリスは、最後のギリギリまで絶対にリドルを傷つけない戦い方をしていた。あんな芸当、相当場数を踏まないとできない、と思った。
リドルはアリスのことを「歳下だから」「泣き虫だから」「能天気なお嬢様だから」とを舐めていた、と申し訳なく思った。パーティーで見せていた明るくいつも楽しい話をしている姿の裏には、恐らくその倍の辛い思いをしていたんだろうと考えた。リドルは自分のことばかりで、アリスのことを見ていなかったし、幼馴染のトレイ達の言葉にも耳をかさなかった自分の行動を悔やんだ。そして、また静かに涙を流した。涙で海ができて、溺れそうなくらいに。アリスは、リドルがそうやって涙を流していることに気がつかず、眠っていた。
「ハハハハ!!!」
「リドル………」
アリスは呆然としてしまった。オーバーブロットについては過去に本で読んだことがあるが、こんなに禍々しいものだったなんて、と。そして、自分の「好きな人」がそんな姿に変わってしまったことにショックを受けた。
「ボクに逆らう愚かものども、そんな奴らはボクの世界にいらない」
リドルはその場にいる全員に向けて言う。
「ボクの世界では、ボクこそが法律。ボクこそがこの世界のルールだ!返事は『はい、リドル様』以外許さない!!」
その姿を見て、アリスは、「この人は"リドル"じゃない」と思った。そして、すぐにでもこの状態から正気に戻さないと「リドルの命が危ない」と考えた。
しかし、リドルを正気に戻す方法なんて、アリスにはたった一つしか思いつかなかった。
元々、「リドルには傷一つ付けない」つもりで決闘に挑んでいた。しかし、今までのように防戦一方では「リドルを元に戻すことはできない」。頭では分かっていても、今までの少なくてもキラキラした大切な思い出がフラッシュバックして、身体が動かなかった。
「ボクに逆らう奴らはみんな首をはねてやる!アハハハハ!!!」
そんな様子を見て、リドルがまた愉快そうに笑う。一方、デュース達は初めて見る現象に混乱しており、ケイトに簡潔に説明されていた。
そして――
「だらああああ!!!くらえ!!!」
「エース!!」
エースの風の魔法がリドルを襲う。だが、弾かれてしまった。だが、アリスはエースの声に我に帰った。「やらなきゃ、リドルを取り戻すんだ」と。
「いでよ!大釜!」
「ふな〜〜〜!!!」
エースに続いて、デュースとグリムが召喚魔法と火の魔法でリドルを攻撃する。全て弾かれてしまった。オーバーブロットしたリドルの強さは先程までとは桁違いだった。しかしアリスも"覚悟"を決めたのだ。左手を空に向かって伸ばし、魔法を使う。
「茨の蔓よ、彼のものを囲え!!!」
先程まで出していたただの「草」ではなく、今度は刺のある「茨」でリドルの周りを一気に囲む。
「いでよ!銀の剣!!」
そしてすぐに剣を召喚して構える。
「うらああああ!!!」
アリスは、"自分の覚悟"が怯まないように叫びながら、リドルの周りを囲む茨の蔓達を切り裂いて突っ込む。茨の蔓はリドルに銀の剣を召喚するところを見られないための囮だった。そしてリドルに向かって剣を振りかざすが、キンッとリドルが杖で防ぐ。そしてそのまま、杖でアリスを押し戻した。三人と一匹で突っ込んでも、リドルには傷一つつかない。
「……貴様ら、なんのつもりだ?」
リドルが低く冷たい声でアリス達に問う。ケイトも、「お前ら何やってんの?!」と焦ったように言う。
「アイツ、あのままじゃ大変なことになっちまうんだゾ?!」
「さすがにそこまで行くと寝覚めが悪い。それに……」
「まだ『ボクが間違ってました、ごめんなさい』って言わせてねーし!」
「私は『リドルに負けない』って宣言しましたからね。だから戦います。……例え私がリドルに殺されてしまう可能性があっても、"リドル"を取り戻すためならなんだってします」
三人と一匹が、強い意志を持って「リドルを元に戻す」と決めて、リドルの前に立っている。
「……お前たち。……分かった。少しの間なら俺がリドルの魔法を上書きできる。その間に頼む」
その姿を見て、トレイも『幼馴染で友達』であるリドルを「元に戻す」為に戦う覚悟を決めた。
「トレイ先輩、ありがとうございます。ただの補助にしかなりませんが……私の魔法で、もう一度『私達の魔法が有利に働く世界』を作り出します。これで先輩のユニーク魔法の持続時間が少しは伸びるはずです」
「分かった。……助かる」
そう言うと、アリスは今度は詠唱なしで、
「君たち、待ちなさい!危険です!」
「そーだよ!トレイくんまで何言ってんの?リドルくんに勝てるわけないじゃん!」
オーバーブロットした相手と戦うなんて危険すぎる、という意味を込めて。しかし、エース達は違った。
「勝てる奴にしか挑まないなんて、ダサすぎんでしょ」
「そんなの、全然クールじゃないんだゾ!」
「正気に戻すのに手っ取り早い方法はこれしか思いつかないな」
「
そう言うと、ケイトも「分かりましたよ!本当、キャラじゃないんですけどね!」と言いながら、全員で「リドルを元に戻す為」に立ち上がった。
しかし、アリスは既にボロボロで正直立っているだけでやっとであった。至る所に大きなものから小さなものまで傷があり、そこから血が出て止まらない。先ほど止血したところからも、もう血が滲み出てる。アリスは自分もついに『キャロル家の呪い』が発動してることに気づいた。だが、今はオーバーブロットしているリドルの命の方が危ない。その為、「リドルを元に戻すことを優先」にした。本来であれば、すぐに止血剤などを投与されるべき状態で、このままだと、リドルより先にアリスが失血死してしまうかもしれない。それでもアリスは「自分の命」より「リドルの命」を優先にした。
「(絶対にリドルを死なせない……!だってアリスはリドルのことを――)」
*
――Back to the past.
「八歳のお誕生日おめでとう、リドル」
「ありがとう、ママ。でも、あのね、ボク……。一度でいいから真っ赤な苺がたくさん乗ったタルトを食べてみたいな……」
「まぁなんてことを言うの!あんな砂糖の塊みたいなお菓子、毒みたいなものよ」
「リドル!あのね、アリス、苺のケーキとね、林檎のケーキを持ってきたよ。苺もおいしいけど、アリスのおすすめは林檎。この林檎、すごくおいしいんだ。アリス大好き。一緒に食べようよ」
「……アリス、ボクは」
「アリスちゃん、ケーキは砂糖の塊だから毒なの。だからリドルは食べられないのよ。せっかく持ってきてくれたのに、ごめんなさいね」
「! おば様……。そうなんだ……」
ボクはずっと、真っ赤な苺のタルトが食べてみたかった。たまに呼ばれるパーティーや、たまに通りかかるケーキ屋さんのショーウィンドウに飾ってある宝石みたいなタルト。
「明日までに今日の勉強に登場した魔法倫理学における言語哲学の教本を五十ページ予習しておくこと。では、次の魔法薬学の時間まで一時間予習にします」
「はい、お母様」
「お母様は、アリスちゃんの家に診察に行ってくるから、また一時間後にね」
分刻みで詰め込まれる、ありとあらゆる学問。出来なければ出来るまで延長される学習時間。でもこれがボクの『普通』だった。
「……窓を誰かがノックしてる?」
「わ、出てきた」
「なーなー、一緒にあーそーぼ!」
「キミ達は誰?」
「俺はチェーニャ。こっちはトレイ。一緒にクロッケーしようよ」
「え……無理だよ。今は自習時間なんだ。勉強しなきゃ」
「自習って、何を勉強するか自分で決めていいがね。遊ぶのも勉強ってじーちゃんが言ってたにゃあ」
「少しだけ、降りてこない?」
「……。ちょっとだけなら。」
「君の名前、聞いてもいい?」
「り、リドル。リドル・ローズハート」
そんな時、トレイとチェーニャがボクのいる部屋の窓を叩いて、ボクを外へ連れ出してくれた。トレイとチェーニャと遊ぶのはすごく楽しかった。知らないこと、やったことのない遊び、二人は沢山教えてくれた。それから一日一時間の自習時間は、お母様に内緒で毎日部屋を抜け出した。
「えっ!リドルってイチゴのタルト、食べたことにゃーの?」
「うん。お母様が体に毒だから駄目だって」
「そりゃ食べ過ぎは良くないかもしれないけど……。あのさ、俺んちケーキ屋なんだ。今から食べに来いよ」
「えっ……。でも」
「一切れくらい大丈夫だって」
真っ白なお皿に乗った、真っ赤な苺のタルト。ボクにとってはどんな宝石よりキラキラ輝いて見えた。一口食べたタルトは、すごく甘くて、食べたことがないくらい美味しくて……。ボクは一口ずつ味わいながら夢中になって食べた。
――時間を忘れて。
「なんてことを!自習をサボっただけでなく、外で砂糖の塊を食べてくるなんて!あの二人がリドルを唆したのね。あんな悪い子たちと、二度と一緒に遊ぶことは許しません!」
「ごめんなさい、お母様!もうしないから許して…!」
「お黙り!お前がルールを破るからいけないのよ。ああ、やっぱり自由時間なんて持たせるんじゃなかった。もっともっと完璧に管理しなくては……」
ルールを破れば楽しい時間まで取り上げられてしまう。だからお母様の決めたルールは絶対に守らなきゃ。この街で一番優秀なお母様は、いつも正しいはずだから。でも……ねぇ、ママ。なんでだろう?何故だかとっても胸が苦しいんだ。お誕生日だけでいいから、いっぱいタルトが食べたい。お外でいっぱい遊びたい。もっといっぱい"お友達"が欲しいよ。教えて、ママ。どんなルールに従えばこの苦しさは消えるの?
In the present.――
「リドル!!」
リドルはトレイの声で意識を戻し、目を開けた。すると周りから安堵の声が聞こえてきた。
「……っ!!」
アリスは今にも泣きそうな顔をして、リドルを強く抱きしめた。
「アリス……苦しいよ……」
「ごめん……。でも、生きてて良かった……」
リドルがそういうと、アリスはリドルから離れた。
「ハァ〜……マジ、もう起きなかったらどうしようかって超焦った……」
ケイトが安堵の表情を浮かべて言う。しかし、意識を取り戻したばかりのリドルは自分の状況をいまいち理解できていなかった。
「ボクは……一体……?」
「良かった。正気を取り戻してますね」
「今は何も考えなくていい。寝てろ」
首を動かし周りを見るリドルに対して、優しく声をかける学園長とトレイ。しかしエースはそれを見て、主にトレイに対して文句を言う。
「あーっ、そうやってすぐに甘やかすから、ちょっと怒られただけで暴走とかするんだよ!庭はめちゃくちゃだし、こっちもヤバイとこだったんだからな!」
「確かにヤバかったな」
「全く……ストレスを溜めるとろくなことがないんだゾ」
一年生達は、各々「やれやれ」という感じの態度であった。しかし、ここでリドルがポツリと言った。
「…………。ボク……本当はマロンタルトが食べたかった」
その言葉に驚き、「へ?」と間の抜けた声を出すエース。リドルは両目に涙を溜めて、今まで溜まっていたものを口から吐き出すように言葉を続けていった。
「薔薇は白だっていいし、フラミンゴもピンクでいい。お茶に入れるのは角砂糖より蜂蜜が好きだし、レモンティーよりミルクティーが好きだ。みんなと食後のおしゃべりだってしたい……。もっともっと、トレイたちと、遊びたかった……。う、うう……うううっ……わああああん!」
そして最後に両手で顔を覆い、声を上げて泣き出した。今まで沢山「我慢」していたことを言うように。その様子を見たアリスは、リドルの左肩に手を乗せて「リドル……」とだけ呟いた。アリスはリドルにかける言葉を探したが、見つからなかった。
その様子を見て、ケイトが「うっそ……。あのリドルくんがギャン泣きしてる……」と驚く。そしてエースは「おいこら!泣けば許されると思うなよ!」と言い、デュースに「お前も大概空気読まないよな……」と言われていた。トレイは、意を決して「リドルに伝えないといけないこと」を話し出した。
「俺も悪かった。お前が苦しんでるのを知っていたのに、ずっと見ないふりをしていた」
リドルは嗚咽しながら、地面から上半身だけをゆっくり起き上がらせる。アリスはその背中を支えた。そしてリドルはトレイの言葉に耳を傾ける。
「だから、今日は言うよ。リドル、お前のやり方は間違ってた。だからみんなにちゃんと謝るんだ」
アリスはその言葉に頷いて「やっぱりトレイ先輩も私と同じことを考えていたんだ」と思った。リドルはそれを聞いて、泣きながら皆に謝る。
「……うっ、ぐす……ごめんなさい……ごめんなさいっ……!」
アリス達はその様子を静かに見守った。そして、エースが口を開く。
「俺、寮長が今までの行動を誤ってくれたら言おうと思ってたことがあんスけど……」
ここで一度言葉を切って、スゥと息を吸ってためてから、大きな声でこう言った。
「ゴメンの一言で済むわけねーだろ!絶ッッ対許してやらねーーー!!!」
その言葉に、その場にいた全員が驚いた。
「え〜?!この空気でそれ言う?!」
「エースのバカ……空気読みなさいよ」
ケイトとアリスが、エースにツッコミを入れるが、エースはお構いなし、と言う様子で次々と「エースの言いたかったこと」を言い出す。
「ったりめーだ。こっちは散々コケにされたわけだし?せっかく苦労して作ったマロンタルトを捨てられたわけだし?涙ながらに謝られたくらいじゃ許せねーなあ」
それを聞いて、リドルは「そんな……じゃあ、どうすれば……」と戸惑っていた。
「……俺、しばらく誕生日じゃないんだよね」
そう言うエースに「は?お前何言って……」とデュースが言いかけると、エースがこう言い始めた。
「だから、『なんでもない日』のパーティーのリベンジを要求する。オレたち、結局パーティーに参加できてねーし。そんで、今度はお前がタルトを作って持ってこいよ。あっトレイ先輩に手伝ってもらうのはナシだから!自分で苦労しろ!……そしたら、許してやらないことも、ない」
「『なんでもない日』のパーティーのリベンジ」をリドルに要求したエース。
「……素直じゃないのね、エース」
「自分は手伝ってもらったくせに……」
アリスとユウは、息がぴったりあったかのようにエースにつっこむ。アリスは、表情が緩んでいて、一緒にマロンタルトを作ったユウは「自分の事は棚に上げちゃって……」と、ジト目でエースを見ていた。
「うるせーアリス!あと監督生は黙ってろっつの。いい?分かった?」
アリスとユウに文句を言ってから、エースはリドルに、まるで兄が弟に言うように声をかけた。それに対してリドルは「……うん。分かった」と頷いた。
そしてケイトが、背伸びをしながら、庭の片付けをしようと言い出した。
「せっかくのフォトジェニックなお庭がボロボロだよぉ……トホホ」
そう言って肩を落とすケイトに、トレイとアリスが協力を申し出た。
「俺も手伝う」
「よし、私も頑張ります」
アリスはやる気十分です、という風に言うが、誰よりも傷だらけで、左腹部を中心に、あちこちが白い寮服が真っ赤に染まっている。
「いやいや、アリスちゃんは今すぐ医務室に行ってよ。怪我してるんだし」
そう言うケイトに、アリスはどうってことないです、と言う風に返事をする。
「え?……別にこれくらい、リドル寮長に比べたら……。まぁ唾でもつけておけば、勝手に治りますよ」
「唾をつけて治るレベルの怪我じゃないよ?!トレイ、アリスちゃんとリドルくんを医務室に運んできて。……リドルくんはオーバーブロットしちゃったわけだし、一度先生に診せた方がいい」
そうやって冷静にトレイに指示するケイト。
「ダイヤモンドくんの言う通りです。私も付き添いましょう」
学園長もその通り、と言う風にケイトに賛同した。トレイはそれを聞いて「ありがとうございます」と言って、学園長と共にリドルとアリスを医務室に運んだ。
*
リドルは医務室に運ばれたあと、しばらく意識を失うように寝ていた。そして、起きて横を見ると、パーテーション越しに誰かが寝ていることが分かった。パーテーションに映る影には、点滴と思われるボトルがぶら下がっているのも確認できた。そしてそれで、誰が寝ているかが分かった。
「アリス……」
リドルがそう呟いても返事は返ってこなかった。アリスは怪我を負っていた為、その処置を施されてからリドルの隣のベッドに運ばれたのである。あの薔薇の木の枝で、左腹部から出血はしていたものの、すぐに傷口を焼いて止血した為、輸血するほどの出血はしなかった。だが、止血した後もすぐに出血し出した事や、身体中の至る所に小さな傷があって、そこからもじわじわと出血が止まらなかった。なので点滴は失った血液を補う為に、そして一緒にこれ以上出血しないように止血剤も投与されていた。
「ごめん……」
リドルは返事はないことを分かっていたが、そう言わずには居られなかった。
リドルはアリスの家に伝わる「短命の呪い」のことを、「遺伝病」として教えられていたので知っていた。傷の治りが遅くて血が止まらなくなる、という遺伝病。それで早死にする家系だと幼い頃に聞いていた。
ほぼ毎日、母親はキャロル家に診察しに行っていた。極たまに、ついていったときは、母親が診察する部屋ではなく、別の部屋で待たされていたので、診察の時にアリスに会うことはなかった。そして、帰り道にアリスがいつのまにが作っていた傷に母親がよく怒っていたことを思い出す。
「アリスちゃんのお転婆ぶりには本当困ったものね。小さな傷でも、アリスちゃんには致命傷になるかもしれないんだから」
と、いつも言っていた。なのに、今までそのことを忘れていた。
アリスには、リドルと同い年の兄がいた。学校もクラスもずっと一緒で、一緒にナイトレイブンカレッジに入学することが決まっていた。だが、その兄とは仲良くも不仲でもなく、ただ挨拶をするだけの仲だった。しかしその兄も、その「遺伝病」でナイトレイブンカレッジ入学前に亡くなったことを思い出した。母親が言うには、原因は不明だが、内臓からの出血が止まらなかったということだった。
決闘の時のアリスの戦い方からして、恐らくその兄に実践魔法や防衛魔法を仕込まれたんだろう、と推察した。リドルと同い年だったアリスの兄は、周りに敵を作りやすい性格をしていて、よく喧嘩を売られていた。そしてその喧嘩を毎回、律儀に買っていた。場所を問わずに喧嘩を始めるので、リドルはたまに喧嘩しているところを目撃していた。その戦い方は、決闘の時のアリスと重なるところがあった。そう考えると、アリスがいつも傷だらけだったことにも納得がいく。母親曰く、傷ができた原因をいつもアリスは「遊んでた」で済ませていたそうだが。
アリスは、最後のギリギリまで絶対にリドルを傷つけない戦い方をしていた。あんな芸当、相当場数を踏まないとできない、と思った。
リドルはアリスのことを「歳下だから」「泣き虫だから」「能天気なお嬢様だから」とを舐めていた、と申し訳なく思った。パーティーで見せていた明るくいつも楽しい話をしている姿の裏には、恐らくその倍の辛い思いをしていたんだろうと考えた。リドルは自分のことばかりで、アリスのことを見ていなかったし、幼馴染のトレイ達の言葉にも耳をかさなかった自分の行動を悔やんだ。そして、また静かに涙を流した。涙で海ができて、溺れそうなくらいに。アリスは、リドルがそうやって涙を流していることに気がつかず、眠っていた。