夢主達の設定です。
ハーツラビュル篇
夢主の設定
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そして"決闘"の時間がやってきた。決闘はハーツラビュル寮の薔薇の迷路で行われることとなった。リドルが寮長に就任してから、決闘を挑む者がいなかったので、ギャラリー が多かった。アリスは「見せ物じゃないんだけど」と不快に思っていた。
学園長が決闘開始の言葉を発する。
「これより、ハーツラビュル寮の寮長の座をかけた決闘を始めます。挑戦者はエース・トラッポラ。デュース・スペード。アリス・イリアステル・キャロル」
皆、名前を呼ばれて気合が入った表情になる。
「挑戦を受けるのは現寮長であるリドル・ローズハート」
対してリドルは、いつもと変わらない顔をしていた。結果は分かり切っている、と言うように。
「では、決闘の掟に従い、挑戦者のハンデである魔法封じの首輪を外してください」
学園長の言葉で、エース、デュース、アリスの首輪が外された。
「あ〜、やっと首輪が外れた!」
エースはもう何日も首輪を付けられっぱなしだったので、気が抜けたようなことを言う。それを聞いたアリスがエースに気を抜くな、と小声で声をかけた。
「どうせすぐにつけられることになるんだ。つかの間の開放感を味わうがいい」
リドルは嘲笑うかのように、アリス達そう言う。
「キミ達がボクに決闘を挑むと聞いて耳を疑ったよ。本気で言ってるのかい?」
特に、とアリスを睨む。アリスはその目線に気付いて、リドルを睨み返す。
「当たり前じゃん」
「冗談で決闘を挑んだりしません」
「私も二人と同じ。本気です」
三人の言葉を聞いても、リドルには何の力もない子供が三人がかりでいたずらを仕掛けてくるような思いを持っていたので、余裕の表情を浮かべていた。
「……フン。まぁいいや。それじゃさっさと始めよう」
ケイトがリドルにお茶の時間について聞くが、リドルは「五秒もかからない」と言って涼しい顔をしていた。そんなリドルを見ながら、アリスはこう思っていた。
「(リドル……。悪いけど、本気で行かせてもらうわ。……貴方の為を思ってるからこそ、だけど)」
お茶の時間が十六時から、ということで、リドルはこう言う。
「そういう訳でボクには時間がない。一人ずつ相手にするのも面倒だ。三人まとめてかかっておいで」
リドルの言葉に、ギャラリー がエース達に次々と野次を飛ばす。
「ずいぶんと言ってくれるな」
「こっちだって作戦くらい立ててきてるっつーの!」
「本当うるさいわね。二人共。……行くわよ」
アリスは、昨日話した作戦の他に、もう一つ作戦を立てていた。というより、決闘の行末を予想した時に、「恐らくこうなるであろう」と考えてからの作戦である。そしてそれは、エース達を"囮"にし、あとは自分一人でリドルに挑む、と言ったような内容である為、エース達には話していない。完全にアリスの独断なので、決闘開始前に心の中で二人に「ごめん」と謝った。
そして、学園長が手鏡を投げ、地面に落ちて粉々に砕けた。それを合図にエース、デュース、アリスとリドルの決闘が始まった。
「首をはねろ !」
リドルがユニーク魔法を出す。アリスは「予想通りだ」と防衛魔法を使った。
「うわっ!!……ってあれ?」
「首輪が……ついてない?」
「……何?まさか」
アリスが自分含め三人まとめてリドルのユニーク魔法を弾いたので、一発目はユニーク魔法を防ぐことが出来た。エース達は「本当に三人分弾いた!」と驚いていた。そしてアリスはリドルの一瞬の隙をついて、アリスのとっておきの魔法の詠唱を始める。
「『私の夢の国、それは不思議の国』」
「アリス……まさかユニーク魔法を……?!」
本来は詠唱なしでも使えるが、アリスは敢えてリドルの前で詠唱した。「アリスがユニーク魔法を持っている」とリドルに思わさせる為だ。
「『私だけの世界 !』」
そうアリスが叫ぶと、周りの景色が変わってチェス盤の上になる。これで完全に『アリスの世界』になった。これからはアリスの思い浮かべるままの世界になる。リドルにどこまで通用するかは分からないが、今のアリスにはこれに賭けるしかなかった。そして、この魔法には、ギャラリーも驚いていた。エースやデュースまで初めて見る魔法に驚いていた。
「二人共、気を抜かないでって言ったじゃない!早く魔法を!!」
貴方達まで吃驚してどうするのよ!という意味も込めて、二人に声を掛ける。
「いでよ!大釜!」
「風の魔法!」
二人が得意の魔法を出す。しかし、最も簡単にリドルに弾かれてしまった。
「フン、ただの景色が変わるだけの魔法か。首をはねろ !!」
「うわあああ!!!」
三人の首に魔法封じの首輪がつき、景色がチェス盤から元に戻る。エース達は悔しそうにしている。
「クソ、アリスの魔法でも結局こうなったか……」
アリスの予想通り、一度しか三人分のユニーク魔法を弾けなかった。多人数での実践経験がないことを痛感させられた。そしてその事に対し、二人には「ごめん」と思うしかなかった。しかし、アリスにはまだ作戦が残っていた。例の『二人には話していない作戦』である。
「……ごめん、二人共。これを使っても一回しか防げなかった。二人共。私の後ろに下がって。ここからは私が一人でする」
「でも、お前だって首輪が」
「いいから、早く下がって!」
リドルには聞こえないように、二人に早く自分の後ろに下がるように言う。二人はよく分からないまま、ジリジリと後ろに下がる。アリス達がそんな会話をしている時に、学園長がリドルを褒めている。
「魔法の強さはイマジネーションの強さ。魔法の効果を正確に思い描く力が強いほど、正確性も増す。ローズハートくんはますます魔法に磨きがかかってますね」
「フン、五秒もかからなかったね。三人共、その程度の実力でよくボクに挑もうと……は?!」
それに対して、「当然だ」と言う風に言うリドル。しかし、アリスの首輪が外れている事に気が付いて驚きを隠せない様子だった。
「景色は戻っているのに、魔法封じの首輪がついていない……?!」
「ごめんなさいね。私は貴方の魔法を防衛魔法で弾いたの」
アリスは一度防衛魔法で弾いたからと言って、リドルが次の手でユニーク魔法を使わないわけがないと思っていた。なので、リドルが二回目のユニーク魔法を使った時に、防衛魔法と私だけの世界 で、敢えて景色を元の姿に変え、さらに自分に魔法封じの首輪がついている世界に作り替えたのだ。こんなに同時に沢山の事をすることは初めてだったので、最初のようにエース達の分まで、リドルのユニーク魔法を防ぐことができなかったが。
アリスはマジカルペンをリドルに向け、今度はアリスの番だ、と言うように草の魔法を使う。
「そして、ここはまだ『私の世界』なのよ!!さぁ草の蔓よ、彼の者を捉えよ!」
「フン、これくらいの魔法は幼稚園児でも弾ける。さぁ行くよ!」
リドルはユニーク魔法を使わず、火の魔法、水の魔法、木の魔法……色んな魔法を使い、躊躇なくアリスを攻撃する。対してアリスはその魔法を弾くだけ。アリスはリドルを傷つけたくない為、草の魔法を使い、リドルを拘束するだけに留めようとする。が、リドルはその草の蔓を「本当に幼稚園児レベルだね」と言い、バッサリと切り払う。そんなことを言われてもアリスは、リドルに反撃せず、草の蔓でリドルを拘束しようとするのをやめなかった。
「アリス、なんで防ぐことしかしないんだ?!」
「何を考えてるんだアイツ!」
「……」
エースとデュースを揃えて「アリスの考えが分からない」という風に言うが、アリスの様子を見てトレイはアリスの考えが分かってしまった。「リドルを傷つけたくない」と言う思いは同じだからだ。しかし、アリスは身を挺してでも「今のリドル」を止めようとするのに対し、トレイは「過去の出来事」から罪悪感を感じており、リドルに何も言えないままだった。
「ぐっ!!」
リドルの風の魔法が、腹部に直撃して地面に転がるアリス。その時に口の端を切ってしまい、口腔内に血の味が広がる。地面に転がったアリスを見下すようにリドルが言う。
「もう限界かい?まぁいい。ボクには時間がないんだ。首をはねろ !」
アリスはまたリドルのユニーク魔法を弾く。そして、先ほど魔法が直撃した腹部を押さえながら立ち上がる。
「……しつこいな。ボクに直接攻撃できない臆病者の癖に」
リドルは、アリスのことを軽蔑するかのように言うが、アリスはリドルをまっすぐ見た。
「……攻撃できるわけ、ないじゃない。私は、貴方にどうしても言わないといけないことがあるの」
そう言って、マジカルペンをリドルに向ける。そして、アリスの言葉にハッと驚くトレイ。立場ややり方は違えど、アリスと考えている事は同じなんだ、と思った。
「だから、何があっても"アリス"は絶対にリドルに負けない!!!」
アリスはこの時、「学園での自分」の仮面を捨てて、素の自分でリドルに向かって叫んだ。アリスがマジカルペンに魔力を大量に込めるとアリスの魔力量に魔法石が耐えられず、魔法石が砕けちる。アリスはそれを見て、軽く舌打ちをしてマジカルペンを地面に叩きつけた。その様子を見た学園長は「貴重なものなのに、なんてことを」と嘆いていた。
「さぁ草の蔓よ、彼の者を拘束せよ!!」
アリスがまた草の魔法を使う。すると最初のものより太い蔓がリドルの足元から伸びてきた。リドルは薙ぎ払うが、左足だけ完全に捕らえられて動けなくなってしまった。
「くっ!!こんな歳下に、ボクが負けるわけがないだろう!!」
「"あの"泣き虫のアリスに拘束された」と屈辱に感じたリドル。そして、すぐにアリスの拘束を解いてみせた。
「また弾かれたっ……!!」
アリスはリドルの強さに驚く。寮長クラスは格が違う、と感じた。そしてさらに奥の手を使おうとすると、リドルがアリスにこう言った。
「ほら、ボクの方が強い。……小さい時から、兄達に虐められても仕返しができない程臆病で、泣き虫のアリスがボクに敵うわけないだろう?」
嘲笑するような表情でアリスを煽るリドル。そして、アリスは昔のことを言われて動揺してしまう。その隙に、アリスはまた風の魔法で攻撃されて、また地面を転がる。
「ぐはっ……!」
先程より強い攻撃で、アリスの気が緩み、アリスの私だけの世界 が解ける。このことは術者のアリスしかし気がついていないが、アリスは焦りを覚えた。しかしアリスは地面に転がったまま、リドルに向かって叫ぶ。
「アリスは……"アリスは絶対に負けない"んだから!!!」
アリスのその言葉に、その執念深さにある意味恐怖を覚えるリドル。今のリドルには、どんなにボロボロになっても食らいついてくる理由が分からなかった。年に何回かしか会えない「親が決めた婚約者」であるリドルに、アリスがこうやって食らいついてくる理由が。アリスが立ちあがることに時間がかかっている隙に、アリスにユニーク魔法をかけた。
「首をはねろ !!」
「!!……ぐ……!!」
また不意打ちをされて、今度こそ本当に首輪を付けられるアリス。その首輪は、アリスの首をきつく締めている。呼吸もままならないまま、アリスは首輪を手で掴んで、リドルを睨む。
「そんなことをしたって無駄だよ、アリス。……やっぱりルールを破る奴は、何をやってもダメ。お母様のいう通りだ」
「それは違う」と言いたかったが、首輪がきつくて言葉がうまく出ないアリス。そして、頭の中で「ねぇ"アリス"、この首輪を早く壊してしまわないと本当に首が飛ぶわ」と自分に言葉をかけ、首輪を掴んでいる手に力を入れて無理矢理にでも、破壊しようとする。すると、首輪に少しヒビが入った。
「確かに、ルールは守るべきだ。でもこんなめちゃくちゃなルールを押し付けるのはただの横暴だ」
デュースがリドルに反論をする。しかし、リドルはその言葉に耳を貸さない。
「ハァ?ルールを破れば罰がある。そしてこの寮ではボクがルールだ。だからボクが決めたことに従えない奴は首をはねられたって文句は言えないんだ!」
アリスはどんどんヒビを入れていく。アリスの握力が強いわけではなく、リドルの魔法封じの首輪がアリスの魔力を抑え切れていないのだ。首輪にヒビが入っていることリドルは気が付いてない。そして、アリスにつけている首輪をさらにキツくする。
「ルールだからって何をしてもいいわけじゃない!」
デュースの言葉に賛同するように、ユウがリドルに向かって言う。その言葉に強く反応するリドル。
「罰則のないルールなんて誰も従わない!!」
そう言うと、また首輪の拘束力が強くなる。手の力が抜け、息ができなくて意識が飛びそうな中、アリスは本能で「ねぇ"アリス"、早くこの首輪を破壊しないとリドルが壊れちゃう。"アリス"、しっかりして!」と脳内で何度もも繰り返す。そして首輪を掴んでいる手にもう一度力を込める。そして首輪にヒビがどんどん入っていき、ついに首輪が粉々に弾けた。
「?!お前……ボクのユニーク魔法を……!!!」
その姿に驚きと屈辱を覚えるリドル。こんな"小さな女の子"にボクの魔法が破れるなんて、と。アリスは魔力をより体力の限界が近かったが、ふらふらと立ち上がり、こう言い放つ。
「…っはぁ、はぁ……そうよ。みんなの言う通り。今のリドルはただの暴君よ!アリスはもうそんなリドルの姿を見たくない!!リドル、貴方は、本当は」
アリスは「リドルに伝えたいこと」を言おうとするが、リドルによって遮られた。
「うるさい!黙れ!!」
「リドル!!落ち着いて!!」
リドルの脳内は完全に怒りで支配されていた。もうアリスが何を言おうと、リドルにはアリスの言葉は届かなかった。
「……罰則のないルールなんて誰も従わない。そんな簡単なこともわからないなんてキミ達は一体どんな教育を受けてきたの?どうせ大した魔法も使えない親から生まれて、この学園に入るまでろくな教育も受けられなかったんだろう。実に不憫だ。特にアリス!!お前はね!」
そう言って嘲笑うリドル。確かに、分刻みで学習プログラムが組まれていて、食べるもの、友達、将来結婚する人まで決められたリドルからすれば、アリスは「ろくな教育を受けられなかった子供」だろう。アリスはリドルとは違い、家族から疎まれ、学校にも行かせてもらえなかった子供だからだ。リドルの言葉に何も言えなくなるアリス。そこにエースがやってきて、リドルの右頬を思いっきり殴った。
「ふざっっっっけんなよ!!!」
その行動に全員が驚いた。アリスでさえも。まさかエースがリドルを殴るとは思ってはいなかったのだ。
「あー、もういい。寮長とか、決闘とか、どうでもいいわ」
そう言うエースの言葉には怒りが篭っている。自分や、自分の親、友達のことを侮辱されたことに。リドルは、自分が殴られたことに「意味が分からない」と困惑している。
「子供は親のトロフィーじゃねーし、子供のデキが親の価値を決めるわけでもないでしょ。お前がそんなクソ野郎なのは親のせいでもなんでもねーって、たった今よ〜く分かったわ。この学園に来てから一年、お前の横暴さを注意してくれるダチ一人も作れなかった、てめーのせいだ!!」
と、エースが激怒する。リドルは「何を言ってるんだ……」とまだ困惑している様子。そして、エースは怒りのままに言葉を続ける。
「そりゃお前はガッチガチの教育ママにエグい育てられ方されたかもしんないけどさ、ママ、ママってそればっかかよ!自分では何にも考えてねーじゃん!何が赤き支配者だ!お前は魔法が強いだけの、ただの赤ちゃんだ!!」
それを聞いて、リドルが「このボクが……赤ちゃん?」と震える声でいう。アリスは直感的に「やばい」と感じて、「二人共もうやめて、一回落ち着いて」と言うが、二人には聞こえてないようだった。
「何も知らないくせに……ボクのこと何も知らないくせに!」
リドルが今までにないほどに怒りに満ちた表情で言う。それをエースが、売り言葉に買い言葉のように返す。
「あ〜知らないね。知るわけねぇだろ!あんな態度で分かると思うか?甘えてんじゃねぇよ!」
すると、リドルは「うるさいうるさいうるさい、黙れ、お母様は正しいんだ、だからボクも正しいんだ」と錯乱した様子で言う。そこにトレイと学園長が「もう決闘は終わったんだ、落ち着け」と止めに入る。
「新入生の言う通りだ!もううんざりなんだ!」
決闘を見ていた寮生のうちの一人が、リドルに卵を投げつける。それに対し、リドル困惑は困惑した様子を見せた。アリスも唐突な出来事に困惑する。
「卵……?寮生が投げた、のか?」
リドルの側にいたトレイも困惑している。そして、リドルが「誰だ!ボクに卵を投げた奴は!」と寮生全員に問いかけるが、誰も何も言わない。その様子に、突然「アハハ!!」とリドルが笑い出す。
「うんざりだって?うんざりなのはボクの方だ!」
リドルが怒鳴るように叫ぶ。
「何度首をはねても、どれだけ厳しくしても、お前達はルール違反を侵す!」
顔を歪めて、つらそうに怒るリドル。そして――
「どいつもこいつも自分勝手な馬鹿ばっかり!いいだろう、名乗りでないなら全員連帯責任だ!首をはねろ!」
寮生全員にユニーク魔法をかける。「アハハハハ!!!」とリドルが笑ってる。その様子を見て、ケイトとトレイが焦りを覚える。
「トレイ、これヤバイよ。あんなに魔法を連発したら……」
「リドル、もうやめろ!」
トレイがリドルを止めるが、そこにエースがまたリドルに対して怒る。
「おい、お前!なんでも自分の思い通りになるわけないだろ?!そうやってすぐ癇癪起こすとこが赤ん坊だっつってんの!」
エースの言葉に強く反応したリドルは、エースに対して『最終忠告』をする。
「今すぐ撤回しろ!串刺しにされたいのか!」
「やだね。絶っ対にしねぇ」
その言葉を聞いたリドルは顔を真っ赤にして怒る。そして、庭中の薔薇の木が浮き上がらせる。
「薔薇の木よ、あいつの身体をバラバラにしてしまえ!!!!」
怒りのままにエースへ薔薇の木を突き刺そうとする。ユウが「早く逃げて!!」と叫ぶが、この至近距離ではもう逃げきれない、と覚悟したエースに、咄嗟の判断でアリスがエースに覆い被さる。そしてその時、薔薇の木がトランプに変わった。
「……あ、れ?アリス……?」
エースの上に覆いかぶさったアリスの左腹部に、薔薇の木の枝が一本だけ突き刺さっている。しかしアリスは自分の怪我より、周りにトランプが舞っていることが気になった。
「エース……無事……?と、いうか、何、これ……トランプ……?」
「……少し間に合わなかったか」
トレイはアリスの腹部に刺さった薔薇の木の枝を見て言う。ケイトが驚いたように言う。
「トレイの薔薇を塗ろう ?!えっ……どういうこと?」
「言っただろ。俺の薔薇を塗ろう は少しの間だけならどんな要素でも上書きできる。だから……"リドルの魔法"を俺の魔法で上書きした」
ケイトにそう説明するトレイ。ケイトは「チートじゃん!」と言っている。しかしトレイはアリスを見て、間に合わなかったことを謝った。
「でもほんの少し間に合わなかったか……アリス、すまない」
「いいえ……ありがとう、ございます……トレイ先輩。これくらい、どうってこと、ないです……」
アリスはトレイに礼を述べ、エースから離れて立ち上がる。左腹部に薔薇の木の枝を突き刺したまま、リドルに諭すように優しく言う。
「リドル……トレイ先輩の、言う通り、よ。落ち着いて……トレイ先輩の、話、聞いて……」
「アリス……」
アリスは、自分よりトレイの話の方がリドルも聞くだろうと判断して言った。しかし痛みで言葉が途切れ途切れになっている。一方リドルは、トレイに自分の魔法を上書きされたことと、普通なら立ち上がることも困難であろう怪我を負ってもまだ立ちがってくるアリスに動揺していた。そして、アリスにリドルは棄権を促す。
「アリス、もうそんな怪我を負っているのなら、もうやめた方が」
「……リドル。私を、誰だと思ってるの……?」
リドルに棄権を促されてもアリスは諦めない。そして、一気に左腹部に刺さった薔薇の木の枝を引き抜いた。アリスの左腹部から血が溢れ出る。そしてその血が、アリスの白い寮服を真っ赤に染めていく。まるで白い薔薇を赤いペンキで塗るかのように。
「……さっきから何回も言っているでしょう。"負けない"って。だからこれくらいの怪我、どうってことないのよ」
今度は言葉を途切れさせずに、"まだ戦える"ということをリドルに証明するかの言う。そして、右手に小さな火の玉を出した。
「アリス。そんな小さな火の玉がボクに当たるとお思いで?」
リドルはようやくアリスが"本気"を出してきた、と感じた。しかし、アリスはリドルを強く睨みつけながら、こう言った。
「……違うわよ。これは、こうやって使うの!!」
右手の火の玉で左腹部の腹部の傷を焼き、止血を行った。アリスは痛みに耐えられず、唸り声を出す。
「ぐっ……!!うっ……!!」
「なっ?!」
この行動にはリドルも、周りも驚きを隠せなかった。そしてトレイが「アリス!!もうやめろ!早く医務室へ行くんだ」と止めるが、アリスは拒否した。
「いいえ。行きません。私は『負けない』ので」
アリスはもはや意固地になっている。正直、何とか立っている状態であるが、アリスは両足を地面につけ踏ん張っている。「絶対に負けない」という強い意志を持って。
「くっ……!!首をはねろ!!首をはねろったら!!」
そんなアリスを見て、リドルはまた首をはねようと、ユニーク魔法を使うがトレイの薔薇を塗ろう で魔法を上書きされているため、どんなに魔法を使ってもトランプしか出てこない。
「リドル……落ち着いて」
アリスはリドルに落ち着くよう、優しく声をかけるが、リドルにはアリスの声は届かない。
「トレイに魔法を上書きされた……?それにアリスなんか自力でボクの魔法を……ボクの魔法よりキミ達の魔法の方が優れているってこと?」
リドルは怒っているような、絶望しているような複雑な表情で言う。
「そんなことあるわけないだろ。リドル、一旦落ち着いて話を聞け」
「そうよ。だからリドル、お願い。トレイ先輩の話を聞いて」
トレイとアリスが「そんなことはない、落ち着け」と何度言っても今のリドルには届いていない。
「キミ達もボクが間違ってるって言いたいの?」
トレイを見てそう言う。「昔からボクが頑張っていたことを知っているのに?」と言いたげな顔をして。次にアリス。「ボクの婚約者なのに?」と。
「ずっと厳しいルールを守って頑張ってきたのに!」
リドルは過去を思い出し浮かべて、辛そうな、そんな顔をして言う。「辛くても頑張ってきた過去」を否定されたことを信じたくないリドルは悲痛な表情を浮かべて、「否定された過去」をさらに否定して、自分が一番正しいんだ、と証明しようとする。
「ボクは……ボクは……信じないぞ!!!!」
「リドル!!!」
リドルから負のエネルギーが出ていて、今にもオーバーブロットしそうだと直感で感じたアリスはリドルの名前を呼ぶけれど、その声はやっぱり届かない。アリスの声がもう届かないところにリドルはいた。そしてリドルは叫ぶ。
「ボクこそが、絶対、絶対正しいんだーーーー!!!!」
一気にリドルが深い黒色の何かに飲み込まれていく。その様子を見て、トレイはリドルの名を呼ぶ。
「リドルーーーー!!!」
学園長が決闘開始の言葉を発する。
「これより、ハーツラビュル寮の寮長の座をかけた決闘を始めます。挑戦者はエース・トラッポラ。デュース・スペード。アリス・イリアステル・キャロル」
皆、名前を呼ばれて気合が入った表情になる。
「挑戦を受けるのは現寮長であるリドル・ローズハート」
対してリドルは、いつもと変わらない顔をしていた。結果は分かり切っている、と言うように。
「では、決闘の掟に従い、挑戦者のハンデである魔法封じの首輪を外してください」
学園長の言葉で、エース、デュース、アリスの首輪が外された。
「あ〜、やっと首輪が外れた!」
エースはもう何日も首輪を付けられっぱなしだったので、気が抜けたようなことを言う。それを聞いたアリスがエースに気を抜くな、と小声で声をかけた。
「どうせすぐにつけられることになるんだ。つかの間の開放感を味わうがいい」
リドルは嘲笑うかのように、アリス達そう言う。
「キミ達がボクに決闘を挑むと聞いて耳を疑ったよ。本気で言ってるのかい?」
特に、とアリスを睨む。アリスはその目線に気付いて、リドルを睨み返す。
「当たり前じゃん」
「冗談で決闘を挑んだりしません」
「私も二人と同じ。本気です」
三人の言葉を聞いても、リドルには何の力もない子供が三人がかりでいたずらを仕掛けてくるような思いを持っていたので、余裕の表情を浮かべていた。
「……フン。まぁいいや。それじゃさっさと始めよう」
ケイトがリドルにお茶の時間について聞くが、リドルは「五秒もかからない」と言って涼しい顔をしていた。そんなリドルを見ながら、アリスはこう思っていた。
「(リドル……。悪いけど、本気で行かせてもらうわ。……貴方の為を思ってるからこそ、だけど)」
お茶の時間が十六時から、ということで、リドルはこう言う。
「そういう訳でボクには時間がない。一人ずつ相手にするのも面倒だ。三人まとめてかかっておいで」
リドルの言葉に、
「ずいぶんと言ってくれるな」
「こっちだって作戦くらい立ててきてるっつーの!」
「本当うるさいわね。二人共。……行くわよ」
アリスは、昨日話した作戦の他に、もう一つ作戦を立てていた。というより、決闘の行末を予想した時に、「恐らくこうなるであろう」と考えてからの作戦である。そしてそれは、エース達を"囮"にし、あとは自分一人でリドルに挑む、と言ったような内容である為、エース達には話していない。完全にアリスの独断なので、決闘開始前に心の中で二人に「ごめん」と謝った。
そして、学園長が手鏡を投げ、地面に落ちて粉々に砕けた。それを合図にエース、デュース、アリスとリドルの決闘が始まった。
「
リドルがユニーク魔法を出す。アリスは「予想通りだ」と防衛魔法を使った。
「うわっ!!……ってあれ?」
「首輪が……ついてない?」
「……何?まさか」
アリスが自分含め三人まとめてリドルのユニーク魔法を弾いたので、一発目はユニーク魔法を防ぐことが出来た。エース達は「本当に三人分弾いた!」と驚いていた。そしてアリスはリドルの一瞬の隙をついて、アリスのとっておきの魔法の詠唱を始める。
「『私の夢の国、それは不思議の国』」
「アリス……まさかユニーク魔法を……?!」
本来は詠唱なしでも使えるが、アリスは敢えてリドルの前で詠唱した。「アリスがユニーク魔法を持っている」とリドルに思わさせる為だ。
「『
そうアリスが叫ぶと、周りの景色が変わってチェス盤の上になる。これで完全に『アリスの世界』になった。これからはアリスの思い浮かべるままの世界になる。リドルにどこまで通用するかは分からないが、今のアリスにはこれに賭けるしかなかった。そして、この魔法には、ギャラリーも驚いていた。エースやデュースまで初めて見る魔法に驚いていた。
「二人共、気を抜かないでって言ったじゃない!早く魔法を!!」
貴方達まで吃驚してどうするのよ!という意味も込めて、二人に声を掛ける。
「いでよ!大釜!」
「風の魔法!」
二人が得意の魔法を出す。しかし、最も簡単にリドルに弾かれてしまった。
「フン、ただの景色が変わるだけの魔法か。
「うわあああ!!!」
三人の首に魔法封じの首輪がつき、景色がチェス盤から元に戻る。エース達は悔しそうにしている。
「クソ、アリスの魔法でも結局こうなったか……」
アリスの予想通り、一度しか三人分のユニーク魔法を弾けなかった。多人数での実践経験がないことを痛感させられた。そしてその事に対し、二人には「ごめん」と思うしかなかった。しかし、アリスにはまだ作戦が残っていた。例の『二人には話していない作戦』である。
「……ごめん、二人共。これを使っても一回しか防げなかった。二人共。私の後ろに下がって。ここからは私が一人でする」
「でも、お前だって首輪が」
「いいから、早く下がって!」
リドルには聞こえないように、二人に早く自分の後ろに下がるように言う。二人はよく分からないまま、ジリジリと後ろに下がる。アリス達がそんな会話をしている時に、学園長がリドルを褒めている。
「魔法の強さはイマジネーションの強さ。魔法の効果を正確に思い描く力が強いほど、正確性も増す。ローズハートくんはますます魔法に磨きがかかってますね」
「フン、五秒もかからなかったね。三人共、その程度の実力でよくボクに挑もうと……は?!」
それに対して、「当然だ」と言う風に言うリドル。しかし、アリスの首輪が外れている事に気が付いて驚きを隠せない様子だった。
「景色は戻っているのに、魔法封じの首輪がついていない……?!」
「ごめんなさいね。私は貴方の魔法を防衛魔法で弾いたの」
アリスは一度防衛魔法で弾いたからと言って、リドルが次の手でユニーク魔法を使わないわけがないと思っていた。なので、リドルが二回目のユニーク魔法を使った時に、防衛魔法と
アリスはマジカルペンをリドルに向け、今度はアリスの番だ、と言うように草の魔法を使う。
「そして、ここはまだ『私の世界』なのよ!!さぁ草の蔓よ、彼の者を捉えよ!」
「フン、これくらいの魔法は幼稚園児でも弾ける。さぁ行くよ!」
リドルはユニーク魔法を使わず、火の魔法、水の魔法、木の魔法……色んな魔法を使い、躊躇なくアリスを攻撃する。対してアリスはその魔法を弾くだけ。アリスはリドルを傷つけたくない為、草の魔法を使い、リドルを拘束するだけに留めようとする。が、リドルはその草の蔓を「本当に幼稚園児レベルだね」と言い、バッサリと切り払う。そんなことを言われてもアリスは、リドルに反撃せず、草の蔓でリドルを拘束しようとするのをやめなかった。
「アリス、なんで防ぐことしかしないんだ?!」
「何を考えてるんだアイツ!」
「……」
エースとデュースを揃えて「アリスの考えが分からない」という風に言うが、アリスの様子を見てトレイはアリスの考えが分かってしまった。「リドルを傷つけたくない」と言う思いは同じだからだ。しかし、アリスは身を挺してでも「今のリドル」を止めようとするのに対し、トレイは「過去の出来事」から罪悪感を感じており、リドルに何も言えないままだった。
「ぐっ!!」
リドルの風の魔法が、腹部に直撃して地面に転がるアリス。その時に口の端を切ってしまい、口腔内に血の味が広がる。地面に転がったアリスを見下すようにリドルが言う。
「もう限界かい?まぁいい。ボクには時間がないんだ。
アリスはまたリドルのユニーク魔法を弾く。そして、先ほど魔法が直撃した腹部を押さえながら立ち上がる。
「……しつこいな。ボクに直接攻撃できない臆病者の癖に」
リドルは、アリスのことを軽蔑するかのように言うが、アリスはリドルをまっすぐ見た。
「……攻撃できるわけ、ないじゃない。私は、貴方にどうしても言わないといけないことがあるの」
そう言って、マジカルペンをリドルに向ける。そして、アリスの言葉にハッと驚くトレイ。立場ややり方は違えど、アリスと考えている事は同じなんだ、と思った。
「だから、何があっても"アリス"は絶対にリドルに負けない!!!」
アリスはこの時、「学園での自分」の仮面を捨てて、素の自分でリドルに向かって叫んだ。アリスがマジカルペンに魔力を大量に込めるとアリスの魔力量に魔法石が耐えられず、魔法石が砕けちる。アリスはそれを見て、軽く舌打ちをしてマジカルペンを地面に叩きつけた。その様子を見た学園長は「貴重なものなのに、なんてことを」と嘆いていた。
「さぁ草の蔓よ、彼の者を拘束せよ!!」
アリスがまた草の魔法を使う。すると最初のものより太い蔓がリドルの足元から伸びてきた。リドルは薙ぎ払うが、左足だけ完全に捕らえられて動けなくなってしまった。
「くっ!!こんな歳下に、ボクが負けるわけがないだろう!!」
「"あの"泣き虫のアリスに拘束された」と屈辱に感じたリドル。そして、すぐにアリスの拘束を解いてみせた。
「また弾かれたっ……!!」
アリスはリドルの強さに驚く。寮長クラスは格が違う、と感じた。そしてさらに奥の手を使おうとすると、リドルがアリスにこう言った。
「ほら、ボクの方が強い。……小さい時から、兄達に虐められても仕返しができない程臆病で、泣き虫のアリスがボクに敵うわけないだろう?」
嘲笑するような表情でアリスを煽るリドル。そして、アリスは昔のことを言われて動揺してしまう。その隙に、アリスはまた風の魔法で攻撃されて、また地面を転がる。
「ぐはっ……!」
先程より強い攻撃で、アリスの気が緩み、アリスの
「アリスは……"アリスは絶対に負けない"んだから!!!」
アリスのその言葉に、その執念深さにある意味恐怖を覚えるリドル。今のリドルには、どんなにボロボロになっても食らいついてくる理由が分からなかった。年に何回かしか会えない「親が決めた婚約者」であるリドルに、アリスがこうやって食らいついてくる理由が。アリスが立ちあがることに時間がかかっている隙に、アリスにユニーク魔法をかけた。
「
「!!……ぐ……!!」
また不意打ちをされて、今度こそ本当に首輪を付けられるアリス。その首輪は、アリスの首をきつく締めている。呼吸もままならないまま、アリスは首輪を手で掴んで、リドルを睨む。
「そんなことをしたって無駄だよ、アリス。……やっぱりルールを破る奴は、何をやってもダメ。お母様のいう通りだ」
「それは違う」と言いたかったが、首輪がきつくて言葉がうまく出ないアリス。そして、頭の中で「ねぇ"アリス"、この首輪を早く壊してしまわないと本当に首が飛ぶわ」と自分に言葉をかけ、首輪を掴んでいる手に力を入れて無理矢理にでも、破壊しようとする。すると、首輪に少しヒビが入った。
「確かに、ルールは守るべきだ。でもこんなめちゃくちゃなルールを押し付けるのはただの横暴だ」
デュースがリドルに反論をする。しかし、リドルはその言葉に耳を貸さない。
「ハァ?ルールを破れば罰がある。そしてこの寮ではボクがルールだ。だからボクが決めたことに従えない奴は首をはねられたって文句は言えないんだ!」
アリスはどんどんヒビを入れていく。アリスの握力が強いわけではなく、リドルの魔法封じの首輪がアリスの魔力を抑え切れていないのだ。首輪にヒビが入っていることリドルは気が付いてない。そして、アリスにつけている首輪をさらにキツくする。
「ルールだからって何をしてもいいわけじゃない!」
デュースの言葉に賛同するように、ユウがリドルに向かって言う。その言葉に強く反応するリドル。
「罰則のないルールなんて誰も従わない!!」
そう言うと、また首輪の拘束力が強くなる。手の力が抜け、息ができなくて意識が飛びそうな中、アリスは本能で「ねぇ"アリス"、早くこの首輪を破壊しないとリドルが壊れちゃう。"アリス"、しっかりして!」と脳内で何度もも繰り返す。そして首輪を掴んでいる手にもう一度力を込める。そして首輪にヒビがどんどん入っていき、ついに首輪が粉々に弾けた。
「?!お前……ボクのユニーク魔法を……!!!」
その姿に驚きと屈辱を覚えるリドル。こんな"小さな女の子"にボクの魔法が破れるなんて、と。アリスは魔力をより体力の限界が近かったが、ふらふらと立ち上がり、こう言い放つ。
「…っはぁ、はぁ……そうよ。みんなの言う通り。今のリドルはただの暴君よ!アリスはもうそんなリドルの姿を見たくない!!リドル、貴方は、本当は」
アリスは「リドルに伝えたいこと」を言おうとするが、リドルによって遮られた。
「うるさい!黙れ!!」
「リドル!!落ち着いて!!」
リドルの脳内は完全に怒りで支配されていた。もうアリスが何を言おうと、リドルにはアリスの言葉は届かなかった。
「……罰則のないルールなんて誰も従わない。そんな簡単なこともわからないなんてキミ達は一体どんな教育を受けてきたの?どうせ大した魔法も使えない親から生まれて、この学園に入るまでろくな教育も受けられなかったんだろう。実に不憫だ。特にアリス!!お前はね!」
そう言って嘲笑うリドル。確かに、分刻みで学習プログラムが組まれていて、食べるもの、友達、将来結婚する人まで決められたリドルからすれば、アリスは「ろくな教育を受けられなかった子供」だろう。アリスはリドルとは違い、家族から疎まれ、学校にも行かせてもらえなかった子供だからだ。リドルの言葉に何も言えなくなるアリス。そこにエースがやってきて、リドルの右頬を思いっきり殴った。
「ふざっっっっけんなよ!!!」
その行動に全員が驚いた。アリスでさえも。まさかエースがリドルを殴るとは思ってはいなかったのだ。
「あー、もういい。寮長とか、決闘とか、どうでもいいわ」
そう言うエースの言葉には怒りが篭っている。自分や、自分の親、友達のことを侮辱されたことに。リドルは、自分が殴られたことに「意味が分からない」と困惑している。
「子供は親のトロフィーじゃねーし、子供のデキが親の価値を決めるわけでもないでしょ。お前がそんなクソ野郎なのは親のせいでもなんでもねーって、たった今よ〜く分かったわ。この学園に来てから一年、お前の横暴さを注意してくれるダチ一人も作れなかった、てめーのせいだ!!」
と、エースが激怒する。リドルは「何を言ってるんだ……」とまだ困惑している様子。そして、エースは怒りのままに言葉を続ける。
「そりゃお前はガッチガチの教育ママにエグい育てられ方されたかもしんないけどさ、ママ、ママってそればっかかよ!自分では何にも考えてねーじゃん!何が赤き支配者だ!お前は魔法が強いだけの、ただの赤ちゃんだ!!」
それを聞いて、リドルが「このボクが……赤ちゃん?」と震える声でいう。アリスは直感的に「やばい」と感じて、「二人共もうやめて、一回落ち着いて」と言うが、二人には聞こえてないようだった。
「何も知らないくせに……ボクのこと何も知らないくせに!」
リドルが今までにないほどに怒りに満ちた表情で言う。それをエースが、売り言葉に買い言葉のように返す。
「あ〜知らないね。知るわけねぇだろ!あんな態度で分かると思うか?甘えてんじゃねぇよ!」
すると、リドルは「うるさいうるさいうるさい、黙れ、お母様は正しいんだ、だからボクも正しいんだ」と錯乱した様子で言う。そこにトレイと学園長が「もう決闘は終わったんだ、落ち着け」と止めに入る。
「新入生の言う通りだ!もううんざりなんだ!」
決闘を見ていた寮生のうちの一人が、リドルに卵を投げつける。それに対し、リドル困惑は困惑した様子を見せた。アリスも唐突な出来事に困惑する。
「卵……?寮生が投げた、のか?」
リドルの側にいたトレイも困惑している。そして、リドルが「誰だ!ボクに卵を投げた奴は!」と寮生全員に問いかけるが、誰も何も言わない。その様子に、突然「アハハ!!」とリドルが笑い出す。
「うんざりだって?うんざりなのはボクの方だ!」
リドルが怒鳴るように叫ぶ。
「何度首をはねても、どれだけ厳しくしても、お前達はルール違反を侵す!」
顔を歪めて、つらそうに怒るリドル。そして――
「どいつもこいつも自分勝手な馬鹿ばっかり!いいだろう、名乗りでないなら全員連帯責任だ!首をはねろ!」
寮生全員にユニーク魔法をかける。「アハハハハ!!!」とリドルが笑ってる。その様子を見て、ケイトとトレイが焦りを覚える。
「トレイ、これヤバイよ。あんなに魔法を連発したら……」
「リドル、もうやめろ!」
トレイがリドルを止めるが、そこにエースがまたリドルに対して怒る。
「おい、お前!なんでも自分の思い通りになるわけないだろ?!そうやってすぐ癇癪起こすとこが赤ん坊だっつってんの!」
エースの言葉に強く反応したリドルは、エースに対して『最終忠告』をする。
「今すぐ撤回しろ!串刺しにされたいのか!」
「やだね。絶っ対にしねぇ」
その言葉を聞いたリドルは顔を真っ赤にして怒る。そして、庭中の薔薇の木が浮き上がらせる。
「薔薇の木よ、あいつの身体をバラバラにしてしまえ!!!!」
怒りのままにエースへ薔薇の木を突き刺そうとする。ユウが「早く逃げて!!」と叫ぶが、この至近距離ではもう逃げきれない、と覚悟したエースに、咄嗟の判断でアリスがエースに覆い被さる。そしてその時、薔薇の木がトランプに変わった。
「……あ、れ?アリス……?」
エースの上に覆いかぶさったアリスの左腹部に、薔薇の木の枝が一本だけ突き刺さっている。しかしアリスは自分の怪我より、周りにトランプが舞っていることが気になった。
「エース……無事……?と、いうか、何、これ……トランプ……?」
「……少し間に合わなかったか」
トレイはアリスの腹部に刺さった薔薇の木の枝を見て言う。ケイトが驚いたように言う。
「トレイの
「言っただろ。俺の
ケイトにそう説明するトレイ。ケイトは「チートじゃん!」と言っている。しかしトレイはアリスを見て、間に合わなかったことを謝った。
「でもほんの少し間に合わなかったか……アリス、すまない」
「いいえ……ありがとう、ございます……トレイ先輩。これくらい、どうってこと、ないです……」
アリスはトレイに礼を述べ、エースから離れて立ち上がる。左腹部に薔薇の木の枝を突き刺したまま、リドルに諭すように優しく言う。
「リドル……トレイ先輩の、言う通り、よ。落ち着いて……トレイ先輩の、話、聞いて……」
「アリス……」
アリスは、自分よりトレイの話の方がリドルも聞くだろうと判断して言った。しかし痛みで言葉が途切れ途切れになっている。一方リドルは、トレイに自分の魔法を上書きされたことと、普通なら立ち上がることも困難であろう怪我を負ってもまだ立ちがってくるアリスに動揺していた。そして、アリスにリドルは棄権を促す。
「アリス、もうそんな怪我を負っているのなら、もうやめた方が」
「……リドル。私を、誰だと思ってるの……?」
リドルに棄権を促されてもアリスは諦めない。そして、一気に左腹部に刺さった薔薇の木の枝を引き抜いた。アリスの左腹部から血が溢れ出る。そしてその血が、アリスの白い寮服を真っ赤に染めていく。まるで白い薔薇を赤いペンキで塗るかのように。
「……さっきから何回も言っているでしょう。"負けない"って。だからこれくらいの怪我、どうってことないのよ」
今度は言葉を途切れさせずに、"まだ戦える"ということをリドルに証明するかの言う。そして、右手に小さな火の玉を出した。
「アリス。そんな小さな火の玉がボクに当たるとお思いで?」
リドルはようやくアリスが"本気"を出してきた、と感じた。しかし、アリスはリドルを強く睨みつけながら、こう言った。
「……違うわよ。これは、こうやって使うの!!」
右手の火の玉で左腹部の腹部の傷を焼き、止血を行った。アリスは痛みに耐えられず、唸り声を出す。
「ぐっ……!!うっ……!!」
「なっ?!」
この行動にはリドルも、周りも驚きを隠せなかった。そしてトレイが「アリス!!もうやめろ!早く医務室へ行くんだ」と止めるが、アリスは拒否した。
「いいえ。行きません。私は『負けない』ので」
アリスはもはや意固地になっている。正直、何とか立っている状態であるが、アリスは両足を地面につけ踏ん張っている。「絶対に負けない」という強い意志を持って。
「くっ……!!首をはねろ!!首をはねろったら!!」
そんなアリスを見て、リドルはまた首をはねようと、ユニーク魔法を使うがトレイの
「リドル……落ち着いて」
アリスはリドルに落ち着くよう、優しく声をかけるが、リドルにはアリスの声は届かない。
「トレイに魔法を上書きされた……?それにアリスなんか自力でボクの魔法を……ボクの魔法よりキミ達の魔法の方が優れているってこと?」
リドルは怒っているような、絶望しているような複雑な表情で言う。
「そんなことあるわけないだろ。リドル、一旦落ち着いて話を聞け」
「そうよ。だからリドル、お願い。トレイ先輩の話を聞いて」
トレイとアリスが「そんなことはない、落ち着け」と何度言っても今のリドルには届いていない。
「キミ達もボクが間違ってるって言いたいの?」
トレイを見てそう言う。「昔からボクが頑張っていたことを知っているのに?」と言いたげな顔をして。次にアリス。「ボクの婚約者なのに?」と。
「ずっと厳しいルールを守って頑張ってきたのに!」
リドルは過去を思い出し浮かべて、辛そうな、そんな顔をして言う。「辛くても頑張ってきた過去」を否定されたことを信じたくないリドルは悲痛な表情を浮かべて、「否定された過去」をさらに否定して、自分が一番正しいんだ、と証明しようとする。
「ボクは……ボクは……信じないぞ!!!!」
「リドル!!!」
リドルから負のエネルギーが出ていて、今にもオーバーブロットしそうだと直感で感じたアリスはリドルの名前を呼ぶけれど、その声はやっぱり届かない。アリスの声がもう届かないところにリドルはいた。そしてリドルは叫ぶ。
「ボクこそが、絶対、絶対正しいんだーーーー!!!!」
一気にリドルが深い黒色の何かに飲み込まれていく。その様子を見て、トレイはリドルの名を呼ぶ。
「リドルーーーー!!!」