夢主達の設定です。
ハーツラビュル篇
夢主の設定
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その日の夜、アリスの言葉通り、オンボロ寮の談話室にて「作戦会議」が行われた。
「それでは、マロンタルトの方達。作戦会議を……」
アリスがそう言うと、エースがまず手を挙げてこう言っていた。
「あのー、飛び級生。俺達のこと『マロンタルト』って呼ぶのやめてくれない?」
アリスはエース達の名前を知らないので、ずっと「マロンタルトの生徒達」と呼んでいたのだが、当たり前であるが、エースはそれが気に入らなかった。しかしエースは、アリスのことを「飛び級生」と呼んでいるのでお互い様ではあるのだが。
アリスはこれは失礼、と言って、作戦会議の前に自己紹介をしましょうかと話を変えた。そして、アリスから自己紹介を始めた。
「では、私から。私はアリス・イリアステル・キャロル。貴方達の言う飛び級生です。学年とクラスは一年B組。ハーツラビュル寮です。貴方達は?」
アリスは名前から学年、寮まできっちり「自己紹介」をした。対して、エースはゆるく自己紹介を始めた。
「マロンタルトタルトのこと知ってるなら、同じ寮だって分かるよ。それに、着けている腕章も同じだし。俺はエース・トラッポラ。同じ一年で、クラスはA組。それに同じ学年なんだし敬語じゃなくていいよ」
「ぼ、僕はデュース・スペード。クラスは同じくA組……」
デュースは目の前に「女の子」がいるせいか、緊張して名前とクラスしか言えなかった。しかし、この二人はまだユウが「女の子」であることをまだ知らない。ユウが「女の子」であるのを知るのはもう少し先の事である。閑話休題。
アリスは話を「作戦会議」について戻す。
「分かったわ。じゃあ、エース、デュース。作戦会議の前に、お互いがリドル寮長について持ってる情報を出して共有しましょう。何か役立つかもしれないから」
アリスはリドルのことを物心がついた時から知っていたが、今までパーティーでしか会ったことがなかったので何も知らないに等しい。図書室で、トレイから何か聞いたであろう、と踏んでこの質問を問いかけた。
「俺らは図書室でトレイ先輩にアイツの過去について聞いたよ」
エースから「リドルの過去」について聞いた後、アリスは言葉も出なかった。今まで、パーティーで会っていたリドルは、そんな風には見えたなかったのだ。リドルの母親にも同じようについても同じであった。ここでもまた「私は今までリドルのことを見ていなかった」と痛感させられた。そして、こうも思った。
「(でも確かにパーティーであまり食事、特にデザートに手をつけなかったり、思い出せば不審な点はあったわ。おば様は私の命を救ってくれた人で、兄達の病気も最期まで診てくれていた……。今まで『リドルのお母様』くらいの認識だったけど、今のリドルを造ったのは、おば様が原因……)」
アリスは出産時、重度の仮死状態で産まれてきた。母親は大量失血死し、誰もがアリスも助からない、と感じた。だが、そのアリスを救ったのがリドルの母親なのではある。リドルの母は「街で一番」と言われるほどの名医である。アリスを救った功績から、キャロル家の実権を握っていた曽祖母がリドルの母親を「キャロル家のお抱え医師」と指名し、またリドルとアリスの婚約が決まった。短命であるキャロル家の将来のために。アリスが考え込んでいると、エースの口からアリスの考えを変えるような言葉が出てきた。
「でもさ、俺思うんだよね。アイツが親を選べなかったのはしょうがないけど、ああなったのは友達のトレイ先輩がちゃんと注意してあげなかったせいだって。ダチなら、親と同じ間違いをしてるってちゃんと注意しろよな」
オンボロ寮の少し埃っぽいクッションを抱きながら、エースは眉間にしわを寄せて言う。その言葉にアリスはハッとしたのだ。
「(そっか、そうだよね……親も、家も選べない。それは私も同じだった……。でも、エースの言う通り。今のリドルに必要なのは、もしかして間違ったことをしたら殴ってでも止めてくれる『友達』。つまり、トレイ先輩……?)」
アリスは、リドルの過去に自分の境遇と少し重ねながら、昼間に考えていた問いの答えを見つけた。親に決められた婚約者である自分より、『友達』であるトレイの方の言葉の方が、リドルに効くのではないかと。なので、トレイは今傍観しているだけだが、トレイが動かないことには状況は変わらないのではないかと思った。
「で、アリスは?何か寮長について知ってんの?」
エースが次はアリスの持つ「リドルの情報」を求めてきた。しかし、アリスには情報が一つしかなかった。なので、「これはあまり周りには言いふらしてほしくないんだけど」と前置きしてから話を始めた。
「……私とリドル寮長は、私が産まれた時から婚約関係。これも親同士が決めたもので、私達の意思はそこにはない。リドル寮長は、私より四歳上だから、それこそ私が赤ちゃんの時から知ってると思う。婚約者と言っても、パーティーの時にしか会えなかったし、さっきまでリドル寮長のこと何にも知らなかったわ……。私が話せるのはこれくらい」
そう言うと、エース達が驚いた顔をしていた。まさか昼間トレイの言っていた「婚約者」って目の前にいる小さな女の子だったとは、と。
「え?!婚約者?!つーかお前歳いくつなんだよ……」
エースがやや引きながら、アリスに歳を聞く。アリスは淡々と答える。この手の質問は入学してから何回もされたのだ、いい加減飽きた、と言う意味も込めて。
「十二歳よ。それが何か?」
「まだミドルスクールに入りたてくらいの年齢じゃん。これ本当に大丈夫なの……」
エースが肩を落としながら言う。この三人で本当に勝てるのか、と。しかしアリスは「大丈夫」と思っていた。なので肩を落とすエースの尻を叩くように、本題の「作戦」について話し始めた。
「何言ってるのよ。相手はリドル寮長。寮長なんだから、確実に強いわ。でも私達はリドル寮長のユニーク魔法も知っている。私の予想では、リドル寮長は初手でユニーク魔法を使ってくるはずだから、まずはそれを防衛魔法で防げばいいのよ」
アリスは薄い胸を張ってそういうが、エースははぁ、とため息をつきながらツッコミを入れる。
「それが出来てたら、俺達今お揃いの首輪なんてつけてねぇよ。あと、そういう本格的な魔法はまだ習ってねぇし」
アリスは、自分が実践魔法、防衛魔法は兄によって叩き込まれたので当たり前のように扱えるので、兄が生きていたらほぼ同い年であったであろうエース達も当たり前のように使えると思っていた。しかし、普通に学校に通っていた人はそうなんだ、と知る。まさに井の中の蛙大海を知らず、という感じである。自分の「世間知らず」ぷりを痛感しつつ、こう言う。
「そうだけど、魔法を使うには、魔力量だけじゃなくて、想像力が一番大事なの」
現時点でアリスが確実にリドルに勝っている、と言える点は「想像力」である。この「想像力」で、幼い時から今まで沢山の魔法を作り、操ってきたのだ。想像力だけは実践、防衛魔法の使い方を叩き込んできた、アリスにとって鬼のような兄よりも勝っていた、と思って自信を持っている。
「私、想像力だけはリドル寮長に負けてない自信があるわ。そしてリドル寮長は確実に私達のこと雑魚って思ってるし、私達のユニーク魔法 も知らない……。つまりこっちのカードはリドル寮長は知らないってこと。リドル の初手を防衛魔法で防いで、動揺したその一瞬の内に、一斉に攻撃を仕掛ける」
アリスは、鬼のような兄と過ごした日々を思い出しながら言う。
「いい?絶対に気を抜いたら駄目よ。その隙をつけ込まれてまた首輪をつけられるわ」
「あのさ、当たり前に言うけど、俺達まだユニーク魔法とか持ってないし、俺もデュースもまだ上手く魔法が使えるわけじゃないんだけど……」
エースがアリスの作戦に冷静に意見をする。
「大丈夫。そこは私がフォローするわ」
アリスは、今までの話を聞いて「おそらくエース達はリドルの魔法を防ぎ切れない」と踏んだ。そしてやったことはないが、リドルが打つ初手の魔法を自分を含めて三人分弾き返してみせる、決めていた。
「なんで自信満々でそんなこと言えるの?」
「私の事、誰だと思ってるの?名門ナイトレイブンカレッジの、十二歳の飛び級入学生よ。そこらの人間とは違うんだから」
ふん、と言いながらアリスは言う。
「首輪つけられたまま言われても説得力ねぇよ」
それを聞いたエースは心の中で「コイツ、偉そうだなぁ」と思いながらツッこんだ。
「まぁ、今はそうかも知れないわね。でも私には"とびっきりの魔法"があるわ。リドル寮長のユニーク魔法を弾いたらその後すぐに私が作った魔法を使うわ。その魔法のことは、二人には先に話しておくわね」
アリスはエースの言葉を流して、自分の現時点で扱える"とっておきの魔法"を話し始めた。
「これはね、私が想像した世界をその場に映し出す魔法、『私だけの世界 』。これはユニーク魔法じゃないわ。術式を理解すれば誰でも使えるのよ。実際、兄は使えてたから。……それでもこれは、私の"とっておき"だから、絶対に他の人に喋ったらだめよ」
アリスは、ユニーク魔法ではないが私だけの世界 を多用する。これは幻覚魔法に似ているようでそうでない。アリスが想像したものをそのまま現実に投影できるのだ。そして、汎用性も高い。私だけの世界 を自分の身体にかければ、例えば本当は身体の調子が悪いのに、とても元気なように振る舞うことができるのだ。本当に想像した通りの自分になれる。そしてアリスしか使えないユニーク魔法は"別にある"。そのユニーク魔法はアリスが生まれ持っているもので、アリスが作ったユニーク魔法ではないし、アリス自身ユニーク魔法の存在に気付いていない。使う時は無意識なのだ。なのでアリスは自分自身「ユニーク魔法を持っていない」と思っていて、私だけの世界 は汎用性が高いので、現在"ユニーク魔法 として使っている。
「私は小さい頃にこの魔法を作って、今まで改造に改造を重ねてるの。少し話話逸れたけど、リドル寮長の一瞬の隙をついて私がこの魔法で『私達の魔法がリドル寮長より有利になる世界』を映し出すから、その世界で魔法を使えばリドル寮長に勝てる……はず」
「はず、ってなんだよ」
アリスが語尾を弱めて自信なさげに言うと、またエースがツッコミをいれる。アリスは自分の過去を少し話すことにした。
「……私は兄との一対一の対決の時以外に、この魔法を使って戦ったことがないのよ。誰にどれくらい効くかとか検討もつかない。ましてや相手は寮長クラス。兄も強かったけど、それはもう二年前の話だから……」
「? どういうことなんだ……?」
そう言うと、今までアリスの存在に緊張して会話に参加できなかったデュースが質問してきた。アリスは、さっき話した以上のことは話すつもりはなかったが、デュースに質問されたことでもう少し自分について話すことにした。が、アリス自身の過去話は長く、複雑なので、簡単に説明する程度であるが。
「簡単に説明すると、私は色々と事情があって、今まで学校に通わせてもらえなかったの。つまりエレメンタリースクールも卒業していない。……ずっと外の世界から切り離されて、家に閉じ込められて生きてきたの。勉強は独学で、実践魔法や防衛魔法は魔法が使える兄直伝で習ったわ。キャロル家は短命だから、家族はもういないの。だからこの学園に来るまで、家族以外の他人に私の作った魔法を使ったことがないし、兄以外と戦ったことがない。それにこの魔法は、まだまだ改造できる未完成。だから『どこまで魔法が効くか検討がつかない』ってこと」
そう言うと、皆驚いたような顔をしていた。NRCに飛び級入学するくらいだから、何か特別な才能があるんだろう、というくらいには思っていたが、まさかアリスにもそんな過去があったなんて、と。「……アリスも寮長とは別方向で」と、エースが口を開くが、アリスはそれを遮るように言葉を発した。アリスの過去についての哀れみの言葉は不必要だからだ。アリスは近いうちに過去と決別する覚悟を決めているからである。
「まぁ簡単に言うとそういうことなのよ。……正直、賭けみたいな作戦になってしまうけど、それでもいいかしら」
そう言うと、エース達は分かった、と言った。もし兄がこんな賭けに出るような作戦を聞いたら絶対に殴られるな、と思い出し、エース達は優しいな、と思った。
「ありがとう。私も全力で行くわ。……この決闘、絶対に負けられないんだから」
リドルの為に。アリスはそう言って両手をぐっと握り、拳に力を込めた。
*
――翌朝
「アリス、起きて」
ユウに揺さぶられて薄らと目蓋を開くも、昨晩夜遅くまで"考え事"をしていたせいで、まだ眠たくて目を閉じた。
「うーん……あともう少し……」
そう言っていると、グリムが顔の上に乗ってきた。
「アリス、起きるんだゾ!」
「うー……分かった……」
グリムにそう言われ、仕方なく起きると、もう皆が起きていた。
「おはよう……ってみんなもう起きてるんだ……」
アリスが眠たそうに言うと、エースが当然、と言うようにこう言う。
「当たり前だろ。今日は決戦日だ」
「……うん、そうだね。頑張ろう」
それを聞いて、リドルと戦う決意を改めて固めた。
「それでは、マロンタルトの方達。作戦会議を……」
アリスがそう言うと、エースがまず手を挙げてこう言っていた。
「あのー、飛び級生。俺達のこと『マロンタルト』って呼ぶのやめてくれない?」
アリスはエース達の名前を知らないので、ずっと「マロンタルトの生徒達」と呼んでいたのだが、当たり前であるが、エースはそれが気に入らなかった。しかしエースは、アリスのことを「飛び級生」と呼んでいるのでお互い様ではあるのだが。
アリスはこれは失礼、と言って、作戦会議の前に自己紹介をしましょうかと話を変えた。そして、アリスから自己紹介を始めた。
「では、私から。私はアリス・イリアステル・キャロル。貴方達の言う飛び級生です。学年とクラスは一年B組。ハーツラビュル寮です。貴方達は?」
アリスは名前から学年、寮まできっちり「自己紹介」をした。対して、エースはゆるく自己紹介を始めた。
「マロンタルトタルトのこと知ってるなら、同じ寮だって分かるよ。それに、着けている腕章も同じだし。俺はエース・トラッポラ。同じ一年で、クラスはA組。それに同じ学年なんだし敬語じゃなくていいよ」
「ぼ、僕はデュース・スペード。クラスは同じくA組……」
デュースは目の前に「女の子」がいるせいか、緊張して名前とクラスしか言えなかった。しかし、この二人はまだユウが「女の子」であることをまだ知らない。ユウが「女の子」であるのを知るのはもう少し先の事である。閑話休題。
アリスは話を「作戦会議」について戻す。
「分かったわ。じゃあ、エース、デュース。作戦会議の前に、お互いがリドル寮長について持ってる情報を出して共有しましょう。何か役立つかもしれないから」
アリスはリドルのことを物心がついた時から知っていたが、今までパーティーでしか会ったことがなかったので何も知らないに等しい。図書室で、トレイから何か聞いたであろう、と踏んでこの質問を問いかけた。
「俺らは図書室でトレイ先輩にアイツの過去について聞いたよ」
エースから「リドルの過去」について聞いた後、アリスは言葉も出なかった。今まで、パーティーで会っていたリドルは、そんな風には見えたなかったのだ。リドルの母親にも同じようについても同じであった。ここでもまた「私は今までリドルのことを見ていなかった」と痛感させられた。そして、こうも思った。
「(でも確かにパーティーであまり食事、特にデザートに手をつけなかったり、思い出せば不審な点はあったわ。おば様は私の命を救ってくれた人で、兄達の病気も最期まで診てくれていた……。今まで『リドルのお母様』くらいの認識だったけど、今のリドルを造ったのは、おば様が原因……)」
アリスは出産時、重度の仮死状態で産まれてきた。母親は大量失血死し、誰もがアリスも助からない、と感じた。だが、そのアリスを救ったのがリドルの母親なのではある。リドルの母は「街で一番」と言われるほどの名医である。アリスを救った功績から、キャロル家の実権を握っていた曽祖母がリドルの母親を「キャロル家のお抱え医師」と指名し、またリドルとアリスの婚約が決まった。短命であるキャロル家の将来のために。アリスが考え込んでいると、エースの口からアリスの考えを変えるような言葉が出てきた。
「でもさ、俺思うんだよね。アイツが親を選べなかったのはしょうがないけど、ああなったのは友達のトレイ先輩がちゃんと注意してあげなかったせいだって。ダチなら、親と同じ間違いをしてるってちゃんと注意しろよな」
オンボロ寮の少し埃っぽいクッションを抱きながら、エースは眉間にしわを寄せて言う。その言葉にアリスはハッとしたのだ。
「(そっか、そうだよね……親も、家も選べない。それは私も同じだった……。でも、エースの言う通り。今のリドルに必要なのは、もしかして間違ったことをしたら殴ってでも止めてくれる『友達』。つまり、トレイ先輩……?)」
アリスは、リドルの過去に自分の境遇と少し重ねながら、昼間に考えていた問いの答えを見つけた。親に決められた婚約者である自分より、『友達』であるトレイの方の言葉の方が、リドルに効くのではないかと。なので、トレイは今傍観しているだけだが、トレイが動かないことには状況は変わらないのではないかと思った。
「で、アリスは?何か寮長について知ってんの?」
エースが次はアリスの持つ「リドルの情報」を求めてきた。しかし、アリスには情報が一つしかなかった。なので、「これはあまり周りには言いふらしてほしくないんだけど」と前置きしてから話を始めた。
「……私とリドル寮長は、私が産まれた時から婚約関係。これも親同士が決めたもので、私達の意思はそこにはない。リドル寮長は、私より四歳上だから、それこそ私が赤ちゃんの時から知ってると思う。婚約者と言っても、パーティーの時にしか会えなかったし、さっきまでリドル寮長のこと何にも知らなかったわ……。私が話せるのはこれくらい」
そう言うと、エース達が驚いた顔をしていた。まさか昼間トレイの言っていた「婚約者」って目の前にいる小さな女の子だったとは、と。
「え?!婚約者?!つーかお前歳いくつなんだよ……」
エースがやや引きながら、アリスに歳を聞く。アリスは淡々と答える。この手の質問は入学してから何回もされたのだ、いい加減飽きた、と言う意味も込めて。
「十二歳よ。それが何か?」
「まだミドルスクールに入りたてくらいの年齢じゃん。これ本当に大丈夫なの……」
エースが肩を落としながら言う。この三人で本当に勝てるのか、と。しかしアリスは「大丈夫」と思っていた。なので肩を落とすエースの尻を叩くように、本題の「作戦」について話し始めた。
「何言ってるのよ。相手はリドル寮長。寮長なんだから、確実に強いわ。でも私達はリドル寮長のユニーク魔法も知っている。私の予想では、リドル寮長は初手でユニーク魔法を使ってくるはずだから、まずはそれを防衛魔法で防げばいいのよ」
アリスは薄い胸を張ってそういうが、エースははぁ、とため息をつきながらツッコミを入れる。
「それが出来てたら、俺達今お揃いの首輪なんてつけてねぇよ。あと、そういう本格的な魔法はまだ習ってねぇし」
アリスは、自分が実践魔法、防衛魔法は兄によって叩き込まれたので当たり前のように扱えるので、兄が生きていたらほぼ同い年であったであろうエース達も当たり前のように使えると思っていた。しかし、普通に学校に通っていた人はそうなんだ、と知る。まさに井の中の蛙大海を知らず、という感じである。自分の「世間知らず」ぷりを痛感しつつ、こう言う。
「そうだけど、魔法を使うには、魔力量だけじゃなくて、想像力が一番大事なの」
現時点でアリスが確実にリドルに勝っている、と言える点は「想像力」である。この「想像力」で、幼い時から今まで沢山の魔法を作り、操ってきたのだ。想像力だけは実践、防衛魔法の使い方を叩き込んできた、アリスにとって鬼のような兄よりも勝っていた、と思って自信を持っている。
「私、想像力だけはリドル寮長に負けてない自信があるわ。そしてリドル寮長は確実に私達のこと雑魚って思ってるし、私達の
アリスは、鬼のような兄と過ごした日々を思い出しながら言う。
「いい?絶対に気を抜いたら駄目よ。その隙をつけ込まれてまた首輪をつけられるわ」
「あのさ、当たり前に言うけど、俺達まだユニーク魔法とか持ってないし、俺もデュースもまだ上手く魔法が使えるわけじゃないんだけど……」
エースがアリスの作戦に冷静に意見をする。
「大丈夫。そこは私がフォローするわ」
アリスは、今までの話を聞いて「おそらくエース達はリドルの魔法を防ぎ切れない」と踏んだ。そしてやったことはないが、リドルが打つ初手の魔法を自分を含めて三人分弾き返してみせる、決めていた。
「なんで自信満々でそんなこと言えるの?」
「私の事、誰だと思ってるの?名門ナイトレイブンカレッジの、十二歳の飛び級入学生よ。そこらの人間とは違うんだから」
ふん、と言いながらアリスは言う。
「首輪つけられたまま言われても説得力ねぇよ」
それを聞いたエースは心の中で「コイツ、偉そうだなぁ」と思いながらツッこんだ。
「まぁ、今はそうかも知れないわね。でも私には"とびっきりの魔法"があるわ。リドル寮長のユニーク魔法を弾いたらその後すぐに私が作った魔法を使うわ。その魔法のことは、二人には先に話しておくわね」
アリスはエースの言葉を流して、自分の現時点で扱える"とっておきの魔法"を話し始めた。
「これはね、私が想像した世界をその場に映し出す魔法、『
アリスは、ユニーク魔法ではないが
「私は小さい頃にこの魔法を作って、今まで改造に改造を重ねてるの。少し話話逸れたけど、リドル寮長の一瞬の隙をついて私がこの魔法で『私達の魔法がリドル寮長より有利になる世界』を映し出すから、その世界で魔法を使えばリドル寮長に勝てる……はず」
「はず、ってなんだよ」
アリスが語尾を弱めて自信なさげに言うと、またエースがツッコミをいれる。アリスは自分の過去を少し話すことにした。
「……私は兄との一対一の対決の時以外に、この魔法を使って戦ったことがないのよ。誰にどれくらい効くかとか検討もつかない。ましてや相手は寮長クラス。兄も強かったけど、それはもう二年前の話だから……」
「? どういうことなんだ……?」
そう言うと、今までアリスの存在に緊張して会話に参加できなかったデュースが質問してきた。アリスは、さっき話した以上のことは話すつもりはなかったが、デュースに質問されたことでもう少し自分について話すことにした。が、アリス自身の過去話は長く、複雑なので、簡単に説明する程度であるが。
「簡単に説明すると、私は色々と事情があって、今まで学校に通わせてもらえなかったの。つまりエレメンタリースクールも卒業していない。……ずっと外の世界から切り離されて、家に閉じ込められて生きてきたの。勉強は独学で、実践魔法や防衛魔法は魔法が使える兄直伝で習ったわ。キャロル家は短命だから、家族はもういないの。だからこの学園に来るまで、家族以外の他人に私の作った魔法を使ったことがないし、兄以外と戦ったことがない。それにこの魔法は、まだまだ改造できる未完成。だから『どこまで魔法が効くか検討がつかない』ってこと」
そう言うと、皆驚いたような顔をしていた。NRCに飛び級入学するくらいだから、何か特別な才能があるんだろう、というくらいには思っていたが、まさかアリスにもそんな過去があったなんて、と。「……アリスも寮長とは別方向で」と、エースが口を開くが、アリスはそれを遮るように言葉を発した。アリスの過去についての哀れみの言葉は不必要だからだ。アリスは近いうちに過去と決別する覚悟を決めているからである。
「まぁ簡単に言うとそういうことなのよ。……正直、賭けみたいな作戦になってしまうけど、それでもいいかしら」
そう言うと、エース達は分かった、と言った。もし兄がこんな賭けに出るような作戦を聞いたら絶対に殴られるな、と思い出し、エース達は優しいな、と思った。
「ありがとう。私も全力で行くわ。……この決闘、絶対に負けられないんだから」
リドルの為に。アリスはそう言って両手をぐっと握り、拳に力を込めた。
*
――翌朝
「アリス、起きて」
ユウに揺さぶられて薄らと目蓋を開くも、昨晩夜遅くまで"考え事"をしていたせいで、まだ眠たくて目を閉じた。
「うーん……あともう少し……」
そう言っていると、グリムが顔の上に乗ってきた。
「アリス、起きるんだゾ!」
「うー……分かった……」
グリムにそう言われ、仕方なく起きると、もう皆が起きていた。
「おはよう……ってみんなもう起きてるんだ……」
アリスが眠たそうに言うと、エースが当然、と言うようにこう言う。
「当たり前だろ。今日は決戦日だ」
「……うん、そうだね。頑張ろう」
それを聞いて、リドルと戦う決意を改めて固めた。