怪人からのおもてなし
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「ほれ。熱いから気をつけて食いな」
「あ、ありがとう、ございます…」
霧の中からぬっと、目の前に差し出された皿には、ほかほかのおでんが盛り付けられている。なぜこうなっているのか。それは少し前に遡る。
ーーー
放課後、みっちゃんやです代からこんな話を聞いていた。
「霧の出る公園?」
「そう! しかも、その霧のなかに、怪人が出たって噂よ! ラッキー様を拝めるチャンスだわ!」
「うっかり怪人につかまったりしないでしょうね?」
「し、しないわよ! そんなこと!」
です代のからかいにみっちゃんが憤慨する傍ら、鈴音はうーん、と考え込んだ。
「霧の出る公園に、怪人かぁ。…でもそんなすぐに見つかるはずがないよねぇ」
そう言って、鈴音は窓の外を見やる。しかし遠くの公園で、何やら黙々と煙が立っているのが見えた。鈴音はまさか、と思い、さっと走り出す。
「鈴音ちゃん? どうしたの?」
「ごめん! 用事思い出しちゃった! 先に帰るねっ!」
ぽかんとする友達二人にそう言い残して、鈴音は煙の立つ公園へと向かう。
公園に着くと既に野次馬たちが集まっており、何事かと見物していた。鈴音はラッキーちゃんに変身して、人混みに向かう。
「すみません、通してくださーい!」
「おぉ! ラッキーちゃんだ!」
「いよっ! 我らがヒーロー! いや、ヒロインか?」
「今日も可愛いね! 頑張れー!」
人々の声援を背負い、ラッキーちゃんは意気揚々として、霧の立ちこむ公園に入っていく。
ーーー
公園に入ったとたん、人々の声が一切聞こえなくなった。そしてさらに、ラッキー星も霧に紛れて光が届かなくなったためか、身体の調子が重くなる。
「あ、あれ? 何だか、身体が重い…」
へろへろと膝をつくラッキーちゃん。顔色が悪くなるなかで、誰かが近づいてくる気配。顔を上げてみると、不思議な明かりと大きな影がが近づいてきた。ゆらゆらと揺れる明かりから、野太い声が発せられる。
「ん? お前、大丈夫か?」
「あ…え、う」
もしかして、噂の怪人。ラッキーちゃんがガタガタと青ざめている中で、男は言った。
「少し待っててな。そっちに車持ってくからよ。それまで辛抱してくれや」
そう言って、明かりが遠ざかり、大きな背中の影が霧のなかに消えていく。しばらくして、ギィ、ギィ、と車を引く音が近づいてきた。鈴音のそばに止まると、カタン、と椅子をおろして、再び声をかける。
「大丈夫かい? ひとりで立てるか?」
「は、はい。なん、とか……」
へにゃへにゃとしながらも立ち上がり、ようやく席につくラッキーちゃん。それを見て、霧の中の男はうなった。
「お前さん、よっぽど腹が減ってるんだなぁ」
「そ、そんなこと! わたし、怪人を倒しに……」
ぐぅううう~~…。
盛大な音に、ラッキーちゃんは思わず顔を赤くする。男は大声で笑った。
「ははは! そうかそうか! なら、腹ごしらえはしないとだな! 腹が減っては、何も出来ねぇって言うしな!」
そう言って男は屋台にある鍋のふたを開ける。ふわっと温かい空気とおでんならではの美味しそうな匂いが広がった。
そして今に至る。ラッキーちゃんがむむむ…とおでんを睨み付けていれば、男は笑って言った。
「大丈夫だ。さ、熱いうちに食ってしまえ」
しばらく戸惑っていたラッキーちゃんだが、腹が減ってしょうがない。えいや、とやけくそ気味に口に含んだ。口に含んだとたん、目が点になる。
「…あれ、普通のおでんだ…?」
「おう。普通のおでんだ。他のも食ってみな」
そう言って、お皿にまた盛り付けると、ラッキーちゃんに差し出す。ラッキーちゃんはぱぁっと表情を明るくし、パクパクと食べ始めた。
具材はそれぞれ味が染み込んでおり、食べるとジュワっと味が口一杯に広がる。心なしか、身体もじんわり芯から温まっていく気がした。
「はあ…美味しい…」
「そりゃあよかった! 口にあって何よりだ!」
男が嬉しそうに言う。ラッキーちゃんはふと、男にたずねた。
「あの、この辺りに怪人を見かけませんでしたか? そもそも、なんでこんな霧の中でお店を?」
「あぁ、ちょっとした出張ってやつさ。んでもって、怪人はたぶん俺のことだ」
「まさか! こんな美味しいおでんを作ってくれてるのに!」
そう言ったラッキーちゃんに、男は肩を震わせて笑いをこらえる。
「あんた、良い奴なんだなぁ。…果たして、これ見ても、そう言えるのかねぇ?」
そう言って、ごそごそと腕から長い手袋を外す仕草をする。そして、霧の中から、ゆらゆら揺れる明かりのもとへ、ぬっと現れたのは。ラッキーちゃんは悲鳴を上げた。
「ひっ!!?」
「ははは! な? 怪物って言われてもしょうがないだろ? 顔まで見せちまったら、大抵は腰抜かすか、嫌そうに顔をしかめるかだからなぁ」
そう言って男は、腕を引っ込め、手袋をはめる。そして驚きのあまり固まるラッキーちゃんから空のお皿と箸を取ると、こう言った。
「さて。そろそろ行くとするかな。お前さんの話を聞きたかったが、これ以上は迷惑になっちまうしな。…あ、そうそうこれ、土産に持っていってくれ。サービスってやつだ」
そう言って渡されたのは、タッパーに詰め込まれたおでん。丁寧にも袋にいれてある。ラッキーちゃんは素直に受け取った。
「あ、ありがとうございます…じゃなくて! え!? 怪人なのに、何にもしないの!?」
「俺は争いは嫌いでよ。それでお前さんの手柄にしてくれや」
そう言って、男はガラガラと屋台車を引き、深い霧の中へと帰っていく。
「ま、待って! せめて、名前を」
「カッ!」
すると、霧を裂く一筋の光が、男とラッキーちゃんの間にかかる。この光は、ラッキーちゃんの恋人、天才マンだ。
「ラッキーちゃん! 怪我はないか!」
「天才!」
天才マンはラッキーちゃんに駆け寄ると、抱きしめる。ラッキーちゃんもぎゅう、と抱きしめ返していれば、今まで聞こえてこなかった周りの声が聞こえてきた。先ほどの霧で晴れたらしい。
「あらまー! お熱いねぇー!」
「ひゅーひゅー! 幸せ見せつけやがって、このこのー!」
ラッキーちゃんは顔を真っ赤にさせるが、天才マンは見せつけるようにぎゅうっと離さない。ふと、天才マンがおでんに気づいた。
「ラッキーちゃん、それは?」
「あ、これはえっと…お土産!」
ラッキーちゃんはにこっと笑ってみせる。その笑顔を見て天才マンは疑念をするわけもなく、そうか、と優しい笑みを返したのだった。
「あ、ありがとう、ございます…」
霧の中からぬっと、目の前に差し出された皿には、ほかほかのおでんが盛り付けられている。なぜこうなっているのか。それは少し前に遡る。
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放課後、みっちゃんやです代からこんな話を聞いていた。
「霧の出る公園?」
「そう! しかも、その霧のなかに、怪人が出たって噂よ! ラッキー様を拝めるチャンスだわ!」
「うっかり怪人につかまったりしないでしょうね?」
「し、しないわよ! そんなこと!」
です代のからかいにみっちゃんが憤慨する傍ら、鈴音はうーん、と考え込んだ。
「霧の出る公園に、怪人かぁ。…でもそんなすぐに見つかるはずがないよねぇ」
そう言って、鈴音は窓の外を見やる。しかし遠くの公園で、何やら黙々と煙が立っているのが見えた。鈴音はまさか、と思い、さっと走り出す。
「鈴音ちゃん? どうしたの?」
「ごめん! 用事思い出しちゃった! 先に帰るねっ!」
ぽかんとする友達二人にそう言い残して、鈴音は煙の立つ公園へと向かう。
公園に着くと既に野次馬たちが集まっており、何事かと見物していた。鈴音はラッキーちゃんに変身して、人混みに向かう。
「すみません、通してくださーい!」
「おぉ! ラッキーちゃんだ!」
「いよっ! 我らがヒーロー! いや、ヒロインか?」
「今日も可愛いね! 頑張れー!」
人々の声援を背負い、ラッキーちゃんは意気揚々として、霧の立ちこむ公園に入っていく。
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公園に入ったとたん、人々の声が一切聞こえなくなった。そしてさらに、ラッキー星も霧に紛れて光が届かなくなったためか、身体の調子が重くなる。
「あ、あれ? 何だか、身体が重い…」
へろへろと膝をつくラッキーちゃん。顔色が悪くなるなかで、誰かが近づいてくる気配。顔を上げてみると、不思議な明かりと大きな影がが近づいてきた。ゆらゆらと揺れる明かりから、野太い声が発せられる。
「ん? お前、大丈夫か?」
「あ…え、う」
もしかして、噂の怪人。ラッキーちゃんがガタガタと青ざめている中で、男は言った。
「少し待っててな。そっちに車持ってくからよ。それまで辛抱してくれや」
そう言って、明かりが遠ざかり、大きな背中の影が霧のなかに消えていく。しばらくして、ギィ、ギィ、と車を引く音が近づいてきた。鈴音のそばに止まると、カタン、と椅子をおろして、再び声をかける。
「大丈夫かい? ひとりで立てるか?」
「は、はい。なん、とか……」
へにゃへにゃとしながらも立ち上がり、ようやく席につくラッキーちゃん。それを見て、霧の中の男はうなった。
「お前さん、よっぽど腹が減ってるんだなぁ」
「そ、そんなこと! わたし、怪人を倒しに……」
ぐぅううう~~…。
盛大な音に、ラッキーちゃんは思わず顔を赤くする。男は大声で笑った。
「ははは! そうかそうか! なら、腹ごしらえはしないとだな! 腹が減っては、何も出来ねぇって言うしな!」
そう言って男は屋台にある鍋のふたを開ける。ふわっと温かい空気とおでんならではの美味しそうな匂いが広がった。
そして今に至る。ラッキーちゃんがむむむ…とおでんを睨み付けていれば、男は笑って言った。
「大丈夫だ。さ、熱いうちに食ってしまえ」
しばらく戸惑っていたラッキーちゃんだが、腹が減ってしょうがない。えいや、とやけくそ気味に口に含んだ。口に含んだとたん、目が点になる。
「…あれ、普通のおでんだ…?」
「おう。普通のおでんだ。他のも食ってみな」
そう言って、お皿にまた盛り付けると、ラッキーちゃんに差し出す。ラッキーちゃんはぱぁっと表情を明るくし、パクパクと食べ始めた。
具材はそれぞれ味が染み込んでおり、食べるとジュワっと味が口一杯に広がる。心なしか、身体もじんわり芯から温まっていく気がした。
「はあ…美味しい…」
「そりゃあよかった! 口にあって何よりだ!」
男が嬉しそうに言う。ラッキーちゃんはふと、男にたずねた。
「あの、この辺りに怪人を見かけませんでしたか? そもそも、なんでこんな霧の中でお店を?」
「あぁ、ちょっとした出張ってやつさ。んでもって、怪人はたぶん俺のことだ」
「まさか! こんな美味しいおでんを作ってくれてるのに!」
そう言ったラッキーちゃんに、男は肩を震わせて笑いをこらえる。
「あんた、良い奴なんだなぁ。…果たして、これ見ても、そう言えるのかねぇ?」
そう言って、ごそごそと腕から長い手袋を外す仕草をする。そして、霧の中から、ゆらゆら揺れる明かりのもとへ、ぬっと現れたのは。ラッキーちゃんは悲鳴を上げた。
「ひっ!!?」
「ははは! な? 怪物って言われてもしょうがないだろ? 顔まで見せちまったら、大抵は腰抜かすか、嫌そうに顔をしかめるかだからなぁ」
そう言って男は、腕を引っ込め、手袋をはめる。そして驚きのあまり固まるラッキーちゃんから空のお皿と箸を取ると、こう言った。
「さて。そろそろ行くとするかな。お前さんの話を聞きたかったが、これ以上は迷惑になっちまうしな。…あ、そうそうこれ、土産に持っていってくれ。サービスってやつだ」
そう言って渡されたのは、タッパーに詰め込まれたおでん。丁寧にも袋にいれてある。ラッキーちゃんは素直に受け取った。
「あ、ありがとうございます…じゃなくて! え!? 怪人なのに、何にもしないの!?」
「俺は争いは嫌いでよ。それでお前さんの手柄にしてくれや」
そう言って、男はガラガラと屋台車を引き、深い霧の中へと帰っていく。
「ま、待って! せめて、名前を」
「カッ!」
すると、霧を裂く一筋の光が、男とラッキーちゃんの間にかかる。この光は、ラッキーちゃんの恋人、天才マンだ。
「ラッキーちゃん! 怪我はないか!」
「天才!」
天才マンはラッキーちゃんに駆け寄ると、抱きしめる。ラッキーちゃんもぎゅう、と抱きしめ返していれば、今まで聞こえてこなかった周りの声が聞こえてきた。先ほどの霧で晴れたらしい。
「あらまー! お熱いねぇー!」
「ひゅーひゅー! 幸せ見せつけやがって、このこのー!」
ラッキーちゃんは顔を真っ赤にさせるが、天才マンは見せつけるようにぎゅうっと離さない。ふと、天才マンがおでんに気づいた。
「ラッキーちゃん、それは?」
「あ、これはえっと…お土産!」
ラッキーちゃんはにこっと笑ってみせる。その笑顔を見て天才マンは疑念をするわけもなく、そうか、と優しい笑みを返したのだった。
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