白夜は少女にメモ用紙を渡し、少女もそれをまじまじと見つめる。
少しだけ考えるように眉をひそめたあと、直ぐに「あぁ！」と声を上げた。


「たしか、これ、ゲームだよね？
弟が学校で流行ってるって言ってたよ！それの円盤付きの初回限定盤…………なるほど。」



流石は現代の人間の少女……と言うべきか。
白夜が随分と悩んで、解決の糸口すらも見つけられなかったものを一瞬で理解してしまった。

まぁ、でもこれは、白夜が人間の娯楽に疎かったりするのもあるかもしれないが……というか、兄はこんな物をおつかいとして私に頼んだか、いつも『視察』とか適当な理由をつけて人間界に遊びに来ているというのに……。白夜は溜息を吐いた。


「じゃあ、そろそろ行こうか。」


隣の少女が、もう一口スポーツドリンクを飲むと、勢いよくベンチから立ち上がる。
行くとは……どこにだろう？そんな白夜の表情を読み取ったらしく、「これ！買いに行かなきゃでしょ？」とメモ用紙を渡しながら微笑む。


「普通のパッケージ版なら商店街のおもちゃ屋でも売ってそうだけど、初回限定盤はな……中央シティの電気屋さんとかまで行かなきゃ厳しいかもなんだけど……そこまで行ってもいいかな？」

「そ、それはもちろん……だけど良いの？着いてきて貰っちゃって……。」

「勿論だよ！美少女を助けられるなら本も…………いや、困った時はお互い様でしょ？」

「もう……はいはい、分かったわよ……でも、ありがとう。」

「どういたしまして！あっ……そういえば。」


何かを思い出したかのように、声を上げると、「遅くなっちゃったけど……。」と苦笑いをしながら、胸に手を当てた。


「私は、天野景奈。
妖怪とかが見えるけどただの女子高生だよ！よろしくね。」

「私は……白夜よ、好きに呼んでくれて構わないわ。」

「白夜ちゃん……綺麗なお名前だね。
よろしくね、白夜ちゃん！」

「綺麗な名前って…………うん、よろしく、景奈。」

「へへへ……じゃあさっそく、中央シティへしゅっぱーつ！」

「えっ、あっ、ちょっと待って！」


綺麗な名前、と褒められ、気恥しさに俯いている間に、景奈は白夜の手を握り公園の出口へと向かっていた。
白夜は咄嗟に、「あの、これ……」と、先程借りた青いハンカチを返そうとしたが、そんな合間も、声を掛ける隙もなく、歩き出してしまった。


……まぁ、あとからいくらでも返す時間があるでしょう。


白夜は、景奈に手を引かれながら、青いハンカチをそっと鞄に仕舞った。